「念話?」
リニアレール車内を駆けながら、
声の主――リィンフォース
――魔導師同士が互いの魔力を通じて、離れた相手に言葉を伝える魔法です。
私はこの魔法を使って、フェイトさんに今、話しかけているんですよ!
「通信器なしにっ!?」
レーザーを撃ってくる楕円球型機械兵――ガジェットを鉄パイプで叩き潰しながら、
(これで監視惑星だって!? 声紋認証も無しに手をかざすだけで空中に
オロオロしながらも、敵だけはきっちり潰していく。貨物列車に溢れている機械兵――なのは達が『ガジェット』と称する連中は、装甲は堅いが戦闘力は大したことがない。監視カメラのようにのっぺりとした光沢のある楕円球状の機械兵で、カメラレンズに似た窪みからレーザーを撃ってくる。行動は単調だ。灰色のボディの脇から赤いコードがうねうねと伸び、先端の金属プラグを列車の床や壁に差しこむことで、列車の制御系機器に影響を与えている。
なのは達の話によると、これが三十体いるとのこと。
「ま! いくら堅い装甲だろうが、僕の鉄パイプからは逃げられんっ!」
神速の振り下ろしで、ガジェットが粉々に砕け散る。新人達には厄介なガジェットのスピードも、場数を踏んでいる
――AMFをモノともしないなんて……っ! 凄いです! フェイトさん!
「AMF……?
[そりゃない]
「うぉっ!?」
通信機からアルフの肉声が聞こえ、
リィンが説明する。
――AMFとは、アンチ・マギリング・フィールドのことです!
効果範囲内の魔力結合を解いて魔法を無効化する高位防御魔法で、
このAMFが働いている所では、魔法が満足に使えなくなってしまうんです!
「……なるほど、魔法を阻害する魔法かぁ~。こっちもいろいろと大変なんだね」
[曹長。新人はモニター出来てるのか?]
アルフの語調が低くなる。リィンの解答は速かった。
――はい! スターズF四両目で合流、ライトニングF十両目で交戦中です!
――スターズ
ガジェット
リィンとの念話中に、新たな声が割り入って来た。機動六課前線部隊を後方援護する、八神はやて率いる司令部のオペーレータだ。
「あの、スターズとかライトニングって言われても、全然ピンとこないんですけど……」
[……こいつは、面白い状況だな]
くく、と喉を鳴らすアルフの声。
「おい、一人楽しんでないで説明しろよ!」
その時だった。司令部のオペレータが、緊張した声で『念話』してくる。
――ライトニングF、八両目突入! ……エンカウント! 新型です!!
「だからライトニングって誰なのさっ!?」
[チビ二人か、ガキ二人のどっちか]
「分かりやすいなぁっ! もうっ!」
「で? 僕はどっちに行けばいい?」
さっぱり分からないアルフの説明を流し、
リィンが答えた。
――フェイトさんは今、六両目にいます! だからそのままシャスさんと合流して――
[アトロシャスで結構、曹長]
「はいはい、ツンデレ乙!」
そう言って、アルフを黙らせようとした時だった。
「……っ、っっ!」
間違える筈もない、銀色の髪を、肩から太腿にかけて柔らかい三つ編みにして。
『幼女』と言う点では、妖精のリィンフォースと同じだが、彼女とは比べ物にならないほど
こちらを見つめる青の瞳は不機嫌そうで、可憐な幼女の眉間には、深い皺が刻まれていた。
その、銀髪の幼女の名は――
「破壊神☆レナスちゃんっ!!!!??」
叫ぶと同時、通信を寄越していたアルフが音信不通になった。「あっ! こらテメっ!」と叫んでコールし返したが、最早アルフには繋がらない。
「な、なななななな……っ! 何故に……君が、こちらにっっ!?」
ガタタタタタッと震え始める身体をなだめながら、
銀猫の耳を持つ幼女――レナス? は、
「ルシオいない。……お前、隠した」
「いやっ! いやいやいやいやっ! そりゃ確かに! 確かにデスヨっ!? 僕は、世界を壊さないならって約束で、ネコ少年を君に差し上げたけどもっ! あいつはロジャーの担当でっ、僕が所在をつかんでるわけじゃ……!」
「隠した」
レナス? はそう言って、巨槍を持ち上げる。
「くっそぉおおおおお! どうしてこうなるんだぁああああっっ!」
彼の断末魔は、幼女による「その身にきざめっ! しんぎ・にーべるんヴぁれすてぃっ!」の一言で途絶えたという――。
「さらば、フェイト」
つぶやきながら、七両目に居るアルフは、リィンからの連絡を受けて進行方向とは逆の――リニアレール八両目に進んだ。左手には、衝撃防護ケースに入った
スーツケースの形状から、レリックが三十センチ大の物体である事は窺えた。
軍靴を響かせて、アルフは口端を緩める。八両目の空間をほとんど埋める巨大な機械兵――『新型』とオペレータが称したガジェットがいた。アルフが破壊してきた小型と同じで、赤いケーブルが触手のようにうねりながら、列車の床や壁を這っている。
『レリック』の入ったケースを持ってみて気付いたことが、この『ガジェット』とやらは、オーバーテクノロジーの凝集体を狙って動いているようだ。
(つまり、列車制御を奪ったのはこいつ等の手段の一つ。管理局員の注意を列車に分散させるためだ。この赤いコードは、本来オーパーツたる『レリック』を回収する為にあるわけか……)
「エリオ君っ!」
少女の悲痛な声がした。アルフが視線を上げる。列車天井に、大穴が出来ていた。
そこに、少年が一人敵機に捕まっていた。
大型ガジェットは、赤いケーブルを生やしただけではない。ベルトコンベアを思わせる厚手の金属片を腕のように振り回し、少年を列車の壁に叩きつける。
「ガッ!」
叫びながら少年は、ガジェットの金属腕から逃げると、天井から列車外へと飛び出した。
リニアレール天井――車体上に、召喚師の少女、キャロ・ル・ルシエがしがみついている。彼女がガジェットの分厚い腕を睨んで、自身が呼び出した白銀の子竜フリードリヒに命じた。
「フリード! ブラストフレア!」
「きゅ~っ!」
赤い目を持つ白銀のチビ竜は愛らしく鳴くと、サイのような角の生えた口先に、5センチ程の火球を生じさせた。バサバサと懸命に翼をはためかせ、フリードリヒが火力を上げる。
「ぐぅ~!」
「ファイア!」
キャロの合図と同時、フリードリヒが火球を放った。だがガジェットの野太い金属腕が、あっさりと跳ね返してくる。火球は鋭い勢いで山岳斜面の岩肌にぶつかり、派手な爆発を起こして散った。風がキャロの髪を叩きつける。その間に、キャロと同い年の赤髪の少年が、槍を手に駆けた。車外から車内へ。重力を利用して、鎮座する巨大ガジェットに槍を振り下ろす。
「うぉりゃぁあああああ……!」
上段から振り下ろした穂先に、蒼雷が走った。斬撃の威力を増大させる――少年の魔法だ。
が。
ギィンッ!
「硬いっ!?」
柄の長い『剣』としても使える少年の槍は、ガジェットを貫けなかった。
斬撃を受けたガジェットはビクともせず、少年を完全に受け止める。少年――エリオ・モンディアルの青瞳が見開かれた。彼の赤髪が、緊張を表すように、ざわっ、と毛羽立つ。その間に、大型ガジェットの『目』となる黄色い三つのレンズから、白い光が放たれた。
ぎゅぃぎゅぃぎゅぃ……!
奇妙な音を発する光だ。
リィンフォースⅡが言った通り、魔力結合を解く作用のある妨害電波は、
「AMF!?」
「こんな遠くまで……!」
金属腕が、エリオに向かって振り下ろされる。エリオは咄嗟に槍の柄で止め、器用に着地するや、踏ん張る。金属腕が押し込むように、重みを増した。エリオは歯を食いしばり、重みに耐える。
ガジェットとの純粋な力比べ。
「く、ぅ、ぅう……っ!」
少年の頬に脂汗が伝う。かちかちと槍の柄が震えた。
アルフはそれを、しばらく観察して――。
「助けないのか?」
天井からエリオを見下ろす
「……!」
びくりと少女が目を見開く。ガジェットの金属腕を止めながら、エリオが言った。
「だ、大丈夫っ! ……心配、しないで!」
少年は目の前のガジェットの『目』――レーザー射出口が輝くのを認めた。瞬間。槍を大きく払って、上空に跳ねる。
パシュインッ!
水色のレーザーが少年の後を追うように、列車の壁と天井を穿つ。着地したエリオは、しかし三発同時に放たれるレーザーを
「ぐぁっ!」
それでも戦う態勢だけは崩さない。彼は肘から掌へ衝撃を移し受け身を取ると、槍を手に敢然と立ちあがった。彼の羽織る白いコートが、バサリとなびく。
エリオは魔力強化が出来ないこの状況でも、勝負を捨てない。
「…………」
アルフは不意に、フッと口端を緩めた。
ビュォッ!
迫るガジェットの金属腕を前に、少年が冷や汗をかきながら槍を構える。瞬間。『狂人』と呼ばれる男は、刀を一閃した。
――ィンッッ!
神速で走る刃は芸術。振り抜く動作すら目に映らぬ姿は圧巻。
剣先から生じる三日月状の衝撃波【弧月閃】は高さ三メートルにも達し、いともあっさりとガジェットの金属腕を――その先のガジェット
だが。
〈ピピ、ピッ!〉
ガジェットの『目』が明滅する。
「エリオ君っ!?」
キャロが悲鳴を上げる。
アルフは左手に紋章陣を浮かべ――
「…………」
列車外で座り込んでいる少女――キャロ・ル・ルシエを一瞥して、その手を下ろした。浮かんだ紋章陣が消え、車内に暗闇が戻る。
キャロの瞳に、力が籠った。
「エリオくぅううううんっっ!」
涙混じりに叫んだ少女は、落下する少年を追って、列車から飛び降りた。
「ら、ライトニング
モニタリングしていた機動六課の司令部に緊張が走る。
「いや、あれでええ」
その皆の緊張を解いたのが、機動六課課長、八神はやてだった。落ち着いた彼女の声に、オペレータが思わず振り返る。
「え……? ……あっ、そうかっ!」
「そう。発生源から離れれば、AMFも弱くなる! 使えるよ、フルパフォーマンスの魔法が!」
モニターに向かって身を乗り出すはやてに、オペレータは頷いた。
(……護りたい……! 優しい人を……!)
リニアレールは崖沿いを走っている。キャロの目の前で、エリオが谷底に向かって落ちていく。新人部隊揃いのデザインの、白いコートをなびかせて。
(私に笑いかけてくれる人達を……! 自分の力で、)
キャロが唇を噛みしめた。懸命に手を伸ばす。少年――エリオに向かって。
「護りたいっ!」
言い放った少女が、ついにエリオの手を取った。
〈Drive Ignition!〉
キャロのグローブに嵌ったピンク色の宝玉が、輝く。光は球体となって広がると、エリオとキャロを包んで重力から二人を解放した。落下速度が緩まる。心配そうに、主の下に飛んできたチビ竜を一瞥して、キャロは微笑んだ。
「フリード……不自由な想いさせててゴメン。私、ちゃんと制御するから。……だから、行くよっ!」
キッと前を見据えた少女は、濃紺のグローブに嵌った宝玉をピンク色に輝かせ、両手を交差させて印を作る。『魔力場』でしかなかった光球の中に、キャロの足を中心に魔法陣が描かれた。魔法陣は円を描き、その中で正方形の陣がくるくると回転する。
「蒼穹を走る白き閃光! 我が翼と成り、天を駆けよ! 来よ、我が竜フリードリヒ! 竜魂召喚っ!」
足下の魔法陣に向かって、キャロがグローブを当てる。瞬間。手の平サイズのチビ竜が、体長十メートルを超える成竜へと変化した。
ばさっ!
雄大に広げられた翼が、幼い少年と少女を乗せて雄々しく羽ばたく。
成竜の口には
「召喚成功! フリードの意識レベル、ブルー! 完全制御状態です!!」
後方支援を担当する、はやて率いる司令部に歓声が上がった。興奮気味のオペレータに頷いて、はやての副官を務める青年、グリフィス・ロウランは感嘆の息を零す。戦闘には従軍していない彼でも、この竜の力強さ、雄々しさは視覚を通じて伝わってくる。
「これが……」
華奢な白皙に浮かんだ眼鏡をかけ直すと、はやてが満足そうに頷いた。
「そう。キャロの竜召喚。その力の一端や」
「あれが……、チビ竜の本当の姿……!」
オペレータ達の声に喜びが混じる。モニターに浮かぶ竜は、危なげなく空を飛び、完全にキャロの思いのまま翼をはためかせた。
「……なるほど。あれが、あの娘の
成竜となった
リィンフォース
――車両内、および上空のガジェット反応、全て消滅。
車両のコントロールも、取り戻したですよ! 今止めま~すっ!
言っている間に、リニアレールが止まった。
アルフはそこで溜息を吐くと、フェイトがいる六両目へと向かった。
壮絶、とはこの時の為にあるのだと思われる。
「ほげふぅうっっ!!!!?」
もう何度目になるかも分からない、瀕死からの復活。
「だ・か・ら……知らねえっつってんだろうがぁああああ! レナスちゃんっ! いや、ホントにっ!」
「嘘。この間、私をだました」
「い、いやっあれはっ! あれはですねねっ、言葉のあやってやつでしてねっ!? 僕ぁホントにアホネコがいないと思っただけなんですよっ!?」
「だました」
レナス? はつぶやくと、巨槍を構える。
「っしゃ、来いやぁああああ!」
「フェイトさんっ!」
「――ん?」
その時だ。
前両車輌への扉が開き、リニアレールの一両目から後方車両に向かって進軍していたスターズ分隊――新人の少女二人が現れたのは。
彼女達は
「ほら! レナスちゃんっ! 他の人も来たからこの辺で――」
「ルシオ出せ。――にーべるん・ヴぁれすてぃ!」
無垢なまでにあっさりと、亜人の幼女は巨槍を振り下ろす。その威力はたった一撃で、
「洒落になってねぇええええええっっ!」
ぱぁああああ……っ!
発せられる壮絶な
瞬間。
「イセリアル・ブラストっ!」
無拍子で、彼は紋章術を放った。北西を哨戒していた飛行型ガジェットを消滅させた、超火力の光線技である。それが光の槍となった巨槍とぶつかり合う。
正面から、真っ向で。
――ァアア……ッッ!
空間が悲鳴を上げるように風を巻く。第六両に駆け込んできた少女達は、あまりの熱と気と突風に頭を庇った。思わず息を呑む。
と。
「ふ、ぎ、ぎぎぎ、ぎ……っ! つぇぃやぁああああ……!」
光の中で、フェイトの悲鳴。
ニーベルン・ヴァレスティの光の方が、わずかにイセリアル・ブラストを上回っている。
「シャァアアアアスッ! どこ行った! アトロシャァアアアアスッ!!!?」
叫びながら、紋章力を更に高めていく。限界の――限界まで。
ちなみに苦し紛れに求めた救援は、一向に来る気配を見せなかった。
「……生意気」
つい、とレナスが気を高める。
瞬間。
ドォッ!
ニーベルン・ヴァレスティの光が三倍に膨れ上がった。
「破壊神めぇええええ……!」
叫びながら、
ばさっ!
彼の背に光の翼が広がり、額に浮かんだ丸い紋章陣が白く輝き始めた。
と。
瞳孔が完全に収縮した
「これに耐えられるなら、耐えてみろっっ!」
背に浮かんだ女神の紋章陣と
イセリアル・ブラストの光が増幅した。
ォオ……!
すべての視界が、白く染まる。
「ぃょっしゃぁああ……っっ!」
全生命力を鉄パイプに奪われたような心境で、
「にーべるん……」
「イケませぇえええんっっ! メッ!」
もう一発ニーベルン・ヴァレスティを放とうとする破壊神を、
「めっ……?」
レナス? が不思議そうに首を傾げた。
レナス? が不服そうに唇を尖らせたが――、思い直したのか、小さく頷いた。
「なら、次会う時までにルシオ見つけて。でないと、お前消す」
「け、けけけ、消すっ!? ……こ、コココココッ、この子ッ、僕を殺す気ですよっ!!!? アホネコーっ! どこ行きやがった! アホネコォオオオ! つぅかシャスっ! 援護はどぉしたぁあああ!」
片手をメガホン状にして、興奮した鶏のように吠えながら、
「えっと……」
スターズ分隊の少女が、要を得ずに首を傾げる。深い藍色の髪をショートカットにした、近接戦闘用のグローブをはめた少女である。素早い身のこなしを得意とする彼女は、気を引き締めるように、太腿まで流れる白いはちまきを後頭部でリボン結びにしていた。瞳の色は、フェイトと同じ翡翠色。
スバルと言う名の少女は、
「フェイトさん……! しっかりして下さいっ! フェイトさんってば……!」
外見を裏切らない、はつらつとした声だ。
しかし錯乱した
「アホネコォオオオっ! 帰ってこぉおおおいっっ! アホネコォオオッッ! 人類の為にィイイいいいいっっ!!!!」