連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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4.『鉄パイプの騎士、フェイト・ラインゴッド』が相手になろう!

 機動六課の訓練場は、主に二つのエリアに分かれている。

 一つは市街地戦闘を想定した廃棄都市での演習。もう一つは、魔導師の基礎戦闘術を高めるための森での特訓だ。

 

 アルフが首都(クラナガン)にいる間、フェイトは新人四人の個別訓練の様子をモニター越しに眺めていた。四人はポジションごとに内容が異なり、接近戦・撹乱戦・中距離指揮・遠距離後方支援と得意とする魔法杖(デバイス)の戦闘特性を重視している。

 特に近接戦闘に特化した拳型の魔法杖(デバイス)を持つ新人、スバル・ナカジマの訓練内容はフェイトの興味をひいていた。

 

「オラッ! 行っくぞぉおおお!」

 

 どう見ても小学生くらいにしか見えない女の子が、見た目を裏切るぞんざいな言葉遣いで叫んだ。手にしているのは細長い(ハンマー)だ。柄が長く、ハンマー部が小さいためほとんど鉄杖に見える。

 

「マッハキャリバー!」

〈Protection〉

 

 スバルの()に緊張が走った。拳だけでなく、彼女の魔法杖(デバイス)は両足にもある。ローラーブレード型のAI搭載型魔法杖(デバイス)、マッハキャリバーがスバルの意思に合わせて足の甲にある空色の宝石を明滅させ、機械音声で答えた。

 スバルの拳に空色のバリアが展開する。

 

 ギィイイ……ン、、っっ!

 

 女の子(ヴィータ)のハンマーを止めたのは一瞬。地面を掻いてスバルが顔を歪めながら踏ん張る。彼女の額にしめたはちまきが衝撃の強さを物語るようにたなびく。だが五秒と経たぬ間に後方へ弾き飛ばされていた。小さなハンマーの威力は凄まじく、スバルの痩身が容易に宙を舞う。ドッと鈍い音を立てて背中から木に激突し、スバルは涙目になってヴィータを見上げた。

 

「いったたぁ~」

 

 言いながら、拳の先――デバイスのマッハキャリバーと一緒に作った魔法壁(バリア)を見る。

 スバルの拳先から盾状に広がった空色の魔法壁は、蓮の花に似た陣を描く。この円陣の密度によって魔法壁(バリア)の硬度が変わるのだ。惑星ミッドチルダの魔術体系の一つで、『ベルカ式』と呼ばれる近接戦闘に特化した防御魔法である。

 ヴィータは自分の攻撃を受け切ったスバルを満足そうに見やり、ハンマーの柄で肩を叩いた。

 

「なるほど。やっぱバリアーの強度自体はそんなに悪くねえな」

 

「ア、ハハ。ありがとうございます」

 

 頭を掻きながら、スバルが乾いた笑みを浮かべた。強かに背を打ちつけたが、大した怪我は無い。体捌きもある程度心得ているようだ。

 ヴィータは小学生にしか見えない女の子であるが、これでも高町なのは率いるスターズ分隊の副隊長を務める猛者である。彼女が腕を組んだ。

 

「私やお前のポジション。フロントアタッカーはな。敵陣に単身で斬り込んだり、最前線で防衛ラインを守ったりが主な仕事なんだ。防御スキルと生存能力が高いほど、攻撃時間を長く取れるし、後方支援(サポート)陣にも頼らねえで済む――って、これはなのはに教わったな?」

 

「はいっ! ヴィータ副隊長」

 

 スバルの素直な返事を受けてヴィータは満足げにうなずいた。右手に赤い魔法壁(バリア)を張る。スバルとは色違いの、蓮の花が掌大になった魔法壁(バリア)だ。

 

「受け止めるバリア系」

 

 魔法壁はは球状に広げる事も可能な広域防御魔法で、スバルの魔法壁(バリア)よりヴィータの魔法壁は更にギザギザの密度が高い円形魔法陣になっていた。スバルがごくりと固唾を呑む。何気なく張った魔法壁(バリア)ひとつ取っても、副隊長の実力はスバルを遙かに上回るのだ。

 ヴィータは左手を掲げると、次に円形魔法陣の中に三角の魔法陣がクルクルと回るベルカ式防御魔法――魔法盾(シールド)を発生させた。

 

「弾いて()らすシールド系」

 

 これは魔法壁(バリア)系魔法に比べれば、広域防御はできない魔法であるものの、硬度が魔法壁(バリア)よりも数段高い。一点集中型の『盾』の防御魔法だ。

 スバルが小さくうなずくのを待って、ヴィータは両手に浮かべた異なる魔法陣をそれぞれ打ち消した。そして全身に巡らせた魔力を、均等に発散させる。すると陽炎のようにヴィータの全身から、赤い煙のような魔力が湧き上がった。

 

「身に纏って自分を守るフィールド系」

 

 フィールド系魔法は常時魔導師が纏っている、言わば『耐久力』に由来する魔法だ。実戦時に必ず纏う魔導師の戦闘服(バリアジャケット)の強度が、この魔法で決まる。

 ヴィータは目を伏せてフィールド系魔法を解くと、全身から湧き上がる煙に似た魔力光が消えた。

 

「この三種を使いこなしつつ、ぽんぽんフッ飛ばされねえように下半身の踏ん張りとマッハキャリバーの使いこなしを身につけろ」

 

「がんばりますっ!」

〈I learn.〉

 

 スバルとスバルの魔法の杖(デバイス)・マッハキャリバーが返事する。ヴィータはにやりと底意地の悪い笑みを浮かべたあと、握り締めた鈍色のハンマー――デバイスのグラーフアイゼンをくるりと回して柄頭を正面に構えた。

 

「防御ごと潰す打撃は私の専門分野だからな。グラーフアイゼンにぶっ叩かれたく無かったら、しっかり守れよ」

 

「はいっ!」

 

 スバルは拳を握り、左手に嵌めた籠手に右手を添えた。

 訓練を始めて数刻が過ぎたころ。汗みどろになってヴィータの攻撃をひたすら受け続けるスバルは全身泥だらけだった。また弾き飛ばされ、地面にはいつくばったが肩で息をしながら立ち上がり、左の黒籠手(マッハキャリバー)をかまえる。

 スバルの青いショートヘアから、汗がしたたるほどの練習量だった。

 ヴィータがにやりと笑って、グラーフアイゼンをふりかぶる。

 ――そのとき。

 

「ちょっと待て、スバル」

 

「へ?」

 

 不意に後ろから声をかけられ、スバルが翡翠の瞳を丸めながら振り返った。癖の無い青髪の青年。彼は薄い胸をたたいてずずいと前に出てきた。

 

「――フェイトさん?」

 

 彼の趣旨が読めず、首を傾げるスバルを除けて、青年(フェイト)がずずいとヴィータのまえで止まる。ヴィータが目を細めた。眉間に寄ったしわを隠そうともせず、尋ねてくる。

 

「あ? なんのつもりだ、テメエ」

 

 ヴィータが鉄槌(グラーフアイゼン)の柄で、肩を叩く。小柄な副隊長の前で、青年(フェイト)は気さくに頭を掻いた。

 

「いやあ。僕もちょっと身体を動かそうかな、って思ってさ」

 

 言いながらウキウキと両腕を振り回す彼に、ヴィータは押し黙った。深刻に顔を歪める。

 彼女の脳裏を過ったのは、昨夜のはやての一言だった。

 

 

 ――どうも、Sランク以上みたいなんよ。

 

 先日のリニアレールで〈測定不能〉なエネルギーを放出した青年(フェイト)は、現在、機動六課で物議を醸している。

 管理局地上本部に登録されている魔導師は、全員Sランク未満だ。

 これはミッドチルダで活動するにあたって一部隊における魔導師ランクの総計規模が規制されており、この規定をクリアする為になのはやヴィータと言ったSランク以上の実力者が、魔力を封印している為である。

 その封印が解けるのは、管理局でも直属の上司たるはやてだけ。本来ならば機動六課最高のSSランク魔導師であるはやても、規定に従って4ランクダウンのAランクにまで力を制限している。彼女の封印が解けるのは「本局」と呼ばれる次元航行部隊――要は宇宙艦隊の提督二名と、この惑星ミッドチルダで絶大な権力をもつ『聖協会』の長を加えた三名である。彼等は機動六課の後見人でもあり、はやて達が活動する惑星内部隊――通称『地上本部』――の上層部と、意見が対立する立場にあった。

 故に、はやては思い悩む。

 

機動六課(ウチ)は後見人からして地上本部に嫌われる部隊や。本局(うみ)地上本部(りく)の溝になるような事は極力避けたい所やけど……」

 

「でも。測定不能な魔力なんて今まで計測された事がありませんから、出来れば上に報告すべきですよね。やっぱり……」

 

 メカニック兼オペレータのシャリオが、深刻な面持ちで皆を窺っていた。なのは達も押し黙る。

 一同の沈黙を受けたはやては、一つ頷いた。

 

「とりあえず。フェイト君についてちょっとシャスに相談してみるわ。報告の件は私に任せて」

 

「八神隊長……」

 

 なのはが心配そうな眼差しを向ける。が。はやては笑顔で答えると、部隊長と後方部隊(ロングアーチ)による臨時会議を解散した。

 

 

「ほぉ。身体を動かす、なぁ……」

 

 昨日の会議を思い出しながら、ヴィータは相棒の鉄槌を肩に担ぎ、口元に笑みを浮かべる。半眼でジロリと、下から順に青年(フェイト)を観察するように見ると、青年(フェイト)がなにを勘違いしたのか、「フフン」と鼻で笑って、大仰に薄い胸を叩いた。

 

「なに。君の武器が、僕のハートに火を付けたんだよ。同じ打撃系武器として、『鉄パイプの騎士、フェイト・ラインゴッド』が相手になろう!」

 

 張り切って言い放つや、青年(フェイト)が自慢の鉄パイプを掲げる。陽光を浴びて、鉄パイプはキラリと輝いた。興奮しきった青年(フェイト)の様子に何となく気後れしながら、スバルは思わず右手を伸ばしていた。

 

「あの……やめておいた方がいいですよ、フェイトさん。民間人のスポーツ感覚で行くと、やられちゃい――」

 

「ほぉ~? スバルのやられっぷりを見て喧嘩を売って来るってことは、相当腕に自信があるようだな」

 

 スバルの忠告を途中で遮り、ヴィータがにやりと笑う。目だけは笑っていない、冷静な眼差しで。

 

「おまけにリニアレールの一件もある。私も、お前の実力を把握しておくにはちょうどいいかもしれねえな。ま、なのははお前を『民間人だ』ってことで扱うみたいだが」

 

 長年の相棒(ハンマー型デバイス)――アイゼンを静かに構えた。

 

「何であれ、一緒に戦う仲間の実力を測っておく事は悪い事じゃあねぇ」

 

 真剣味を増して言うヴィータに、スバルが思わずゴクリと唾を飲みこんだ。しかし、その視線を向けられている当の青年(フェイト)は――

 

「ヴィータちゃん! そんなチビっこいのに、僕の知ってるどのチビッ子よりも聡明だ! まさか、十九歳(ソフィア)以上!? いや、もしや三十八(クリフ)――ぬぁああああ!!!?」

 

 気にする点が人と違う青年(フェイト)は、頭を抱えて動揺していた。一方、『チビッ子』と思いもかけぬ言葉をもらったヴィータの頬が、ぴくりと震える。

 スバルはそっと一歩、後ずさったが、『鉄槌の騎士』として知られる副隊長の冷たい怒気は、空気を通してピリピリと伝わってきた。

 両腕を組んだ青年(フェイト)が、首を傾げてぶつぶつと言う。

 

「いや、でも確実にクリフは超えてるな。しょうがないか。あいつはロジャーと同レベルだからな」

 

 怒気を向けられている張本人であるというのに、青年(フェイト)はこの調子だ。顎に手をやって眉根を寄せている呑気な青年に、スバルは肝が冷える想いで頭を抱える。

 ピシッ、と空気が張り詰める音がした。

 

「アタシを子供扱いしてると、どういう目に遭うか……教えてやろうか?」

 

 最終通告と言わんばかりのヴィータの低い声。これに対し、青年(フェイト)は居住まいを正して、年下の小さな女の子にきちんと一礼した。

 

「これは失礼しました。ヴィータちゃんは今時の女の子なんだな。つまり、背伸びをしたいお年頃なんだろ?」

 

 この青年は空気と言うモノを読むのが苦手なのだ。何故か? この青年にとって、空気は読むモンじゃない、吸うモノだからだ。

 青年(フェイト)の言葉を聞いて、ヴィータが押さえていた怒りが膨れ上がった。

 

「面白ぇ。本気でぶっ殺してやろうぜ、アイゼン」

 

 口元に笑みすら浮かべるヴィータにアイゼンが輝いて応える。相棒もやる気満々である。

 

「すっごい()る気な顔してる!? フェイトさん、謝ったほうが……」

 

 スバルが額に手を当てながら、怯えつつも青年(フェイト)に早く――早く謝れと必死に訴えかける。

 しかし。青年(フェイト)は空気どころか、この時のスバルの表情すら読めなかった。

 

「謝る? 何故に?」

 

 キョトンと無邪気に首を傾げてこちらを見る青年(フェイト)。後ろでヴィータが吼えた。

 

「おら、構えろ! いくぜぇええええ!」

 

 ヴィータが告げながら、青年(フェイト)がこっちを向いた瞬間にハンマーを思い切り振りかぶる。

 

「よっしゃぁああ、来いやぁあああああ!」

 

 青年(フェイト)もスイッチが入ったのか、鉄パイプを振りかぶった。互いの武器が激突する。

 

 ズドォッ!

 

 中央で凄まじい炸裂音が響く。鉄槌と鉄パイプの間に火花が散った。

 

「ほぅ? あたしのアイゼンを止めるとは、口だけの野郎じゃねえようだな」

 

 ヴィータが少し怒りの晴れた表情で、青年(フェイト)を見やる。当の青年(フェイト)は大きく目を見開き、鉄パイプを握る両手を見据えていた。

 

(手がしびれた……!? この僕の手が……、悪魔の化物刀をも止めるマイ・ハンズが!?)

 

「凄い、フェイトさん!」

 

 青年(フェイト)の動揺には気付かず、傍らのスバルは素直に賛辞の声を上げた。彼女の同様に、ヴィータもニヤリと不敵に笑う。

 

「だがよぉ~!」

 

 握りしめるアイゼンに力を込め、ヴィータは鍔迫り合いをしている青年(フェイト)に告げる。

 

「力なら、こっちの方が上だぜ!」

 

 思いきり、ヴィータは横薙ぎで後方へ吹き飛ばした。先ほどスバルに放った一撃と同じ、ヴィータの得意技だ。

 

「ぐふぉぁあああ!!?」

 

 天高く後方へ吹き上げられながら、青年(フェイト)は奇声を発し、珍妙な姿勢で地面に腰から叩きつけられた。

 

 ドベシャッ……、

 

 激しく打ち付けた腰を手で撫でながら、青年(フェイト)は立ち上がる。表情は――軽く、暗い。

 

「なんて、パワーだ……。そして今の衝撃……間違いない。悪魔(アレン)――いや、兼定を持つ悪魔(アレン)をわずかに上回っている。つまり、破壊神☆レナスちゃんレベ――……!!?」

 

 いかにも重大な事に気付いたとばかりに、青年(フェイト)が裏声を上げて目を見開くや、スバルを振り返って笑った。爽やかに。

 

「ハハッ! スバル凄いな! こんな攻撃を、まともに喰らってるなんて」

 

 ソレは心からの称賛だった。掛け値なしの本気の称賛だった。

 何故なら青年(フェイト)も、この手の理不尽を絵に描いたような一撃をくらった事があるからだ。『訓練』と称して毎日続いた『地獄』の日々が――。

 

「何してるんですか!? フェイトさん! バリア系とかシールド系も使わずに、副隊長の攻撃を止めるなんて無理ですよ!」

 

「ばりあ系? しーるど系?? 何だか良く分からないが。そんな便利アイテムがあるなら僕にプリーズ!」

 

 スバルの助言を全く理解していない彼は、ひょいひょいと左手を振った。この反応はひょっとして――とスバルが息を呑んだのも束の間、ハッと目を見開いた。

 

「そ、そう言えばフェイトさんて……鉄パイプでガジェット殴り倒してるトコしか見た事無いぞ……!?」

 

 言う間に、スバルの顔色が青ざめて行く。そんな彼女の表情の変化に、青年(フェイト)もようやく首を傾げ始めた。

 

(……もしや……アイテムじゃない、だと……!?)

 

 最後は確信めいたモノを得て、青年(フェイト)が濃い顔を作りながら目を瞠る。眼前にいるヴィータから、威勢のいい声がかけられた。

 

「おい、どうした? まさかもう怖気づいたのか? はやてが深刻な顔で言うからどんな野郎かと思ったが……」

 

 期待はずれと言わんばかりの、ヴィータの失笑。その態度と『期待外れ』という言葉に、青年(フェイト)の瞳が燃え上がった。

 

「フ……ッ! このフェイト・ラインゴッドにそんな小細工はいらん!」

 

 きりりと表情を引き締めて鉄パイプを構える青年に、ヴィータが嘲りの表情で問う。

 

「面白ぇこと言うじゃねえか! そんな棒っ切れで。このアイゼンを止められるってのか?」

 

 カッ!

 

 青年(フェイト)の全身に衝撃が走った。目玉が零れんばかりに目を見開くと、ゆっくりとした動きで首を巡らせ、ヴィータを見る。――そして、全身から闘気を漲らせた。

 正に――覚醒、である。

 スバルが驚愕の表情で「やる気に満ち溢れたフェイト」を見る。

 

「フェ、フェイト……さん?」

 

「フッ……!」

 

 「やる気に満ち溢れたフェイト」は静かに鼻で笑うと、こちらを訝しげに見やるヴィータに笑いかけた。

 

「……ヴィータちゃん、謝るなら今のうちだよ?」

 

 その言葉に、ヴィータが緊張感を増した表情で問い返す。

 

「どういう意味だ?」

 

 今までと同じ軽い口調で言いながらも、ヴィータが目線だけを動かして青年(フェイト)を隅々まで観察していく。

 

(雰囲気が変わりやがった)

 

 ソレが素直な感想だ。

 ――つまり、

 

「そっちが本性か」

 

 ようやく本気になった。

 そう判断したヴィータが更に追い打ちをかける。但し、今度は冷静に瞳を輝かせて。

 

「その棒っ切れを『棒っ切れ』って言って、何が悪いってんだよ?」

 

 青年(フェイト)の表情が静かに――明らかに怒りへと変化した。

 

「いいだろうヴィータちゃんっ! 正真正銘の僕の真の実力をお見せしよう!」

 

「面白ぇ! デカイ口叩いたんだから、それなりのモンをアタシに見せてみろぉお!」

 

 互いに熱い思いをぶつけあいながら、ソレゾレの得物を正眼に構える。

 

 

「なのはさん?」

 

 スバルの相棒であり新人最年長の十六歳の少女ティアナが、中遠距離戦の司令塔として指南してくれているなのはを仰ぐ。なのはも気付き、首をスバル達に向けながら頷いている。

 

「あれはフェイト君だね。――ヴィータちゃん、どうして?」

 

 副隊長のヴィータが、民間人の青年(フェイト)を訓練している。その光景に、その場にいた全員が小首を傾げていた。

 

「なんでも、フェイトさんが戦いたいって言ってるんですけど」

 

 答えたのはスバルだ。急にフェイトが訓練に割り込んできたかと思えば、ヴィータの相手をすると豪語したのである。

 

「でも、さすがに無理じゃないかな? ヴィータは副隊長だし」

 

 見事な金髪を靡かせ、心配そうにフェイト・テスタロッサは自身と同じ名の青年を見る。その表情を見たかどうかは分からないが、赤髪の少年――エリオが、青髪の青年を助けんと駆け出した。

 

「ぼ、僕……フェイトさんを止めに行ってきます!」

 

 エリオを静かに制し、なのはが静かに青髪の青年を見て言う。

 

「ちょっと待って。フェイト君、ヴィータちゃんの攻撃を真っ向から受け止めてる」

 

 凄まじい轟音と共に、鉄槌と鉄パイプが激しくぶつかり合う。何度も何度も衝突する両者の打撃力は互角だった。

 

「うそっ!?」

 

 目を丸め、スバルが思わず言ってしまう。

 

(バリア系でもシールド系でもないのに、ヴィータ副隊長の攻撃を完全相殺するなんて――!)

 

 ティアナも目を丸くして、スターズの副隊長と真っ向から渡り合う青年を見ていた。

 

 

「へっ! デカイ口を叩くだけのことはあるようじゃねえか!」

 

 アイゼンを打ちつけながら、挑戦的に言うヴィータ。

 返す青年(フェイト)の言葉はそっけなく、大人げなく、ニヒルだった。

 

「謝るなら今の内だと言ったよ? ちびっ子」

 

「てんめぇええ!」

 

 顔を真っ赤にして怒るヴィータに青年(フェイト)も怒気を露にする。

 

「僕も思いっきり頭に来たんだよ、僕の相棒――鉄パイプを『棒っ切れ』呼ばわりされたことがね! お兄さん、時にそういうトコ厳しいよ!」

 

 宣言しながら、幾度目になるか分からない打ち合いを続ける。

 

「面白ぇ! この期に及んで、アタシをちびっ子呼ばわりするとはいい度胸じゃねえか!」

 

「たとえお子様でも容赦はしないよ」

 

 互いに述べ合い、間髪いれずに共に「カッ!」と目を見開いて、己の意地を宿した武器をぶつけあう。

 

「てんめぇ、このアタシを子ども扱いすんなって聞こえなかったのかよ?」

 

 鍔迫り合い――力比べをしながら言ってくる少女に、青年(フェイト)もこめかみに青筋を立てて唇を尖らせる。

 

「子どもに子どもと言って何が悪いんだよ?」

 

 ヴィータはフッと鼻を鳴らして、自分も思っていた事を言ってやった。

 

「棒っ切れを棒っ切れって言って、何が悪いってんだよ?」

 

 最早言葉は不要――。

 そんな空気が森の中を支配した。

 

「……いいだろう。僕等は語り合わねばならないようだね。互いの(エモノ)で!」

 

「上等だ! その話し合い、乗ってやらぁ!」

 

 青年(フェイト)の言葉に、呼応しついにヴィータが本来の姿へと変わる。

 

「――アイゼン、セットアップ!」

 

 紅い帽子と同色のゴシックドレス――はやてに創られた魔法闘衣〈騎士甲冑〉である。

 

 

 

「ヴィータ、完全に本気だよ? なのは」

 

 フェイト・テスタロッサが横目になのはを見やりながら、そろそろ止めようと言外に告げるのだが――

 

「もう、フェイト君ったらヴィータちゃんが一番気にしてる事言うんだから。そう言うトコ良くないって、後で言っておかないと!」

 

 なのはは全く聞かず、青髪の青年の言動の方を気にしていた。眉をつり上げ、怒ってみせる。

 

「いや! なのはさん、落ち着いてる場合じゃないんじゃあ……」

 

 エリオが、本気のヴィータと、なのはを見比べながら慌てて言う。エリオの服の裾をキャロがギュッとつかんだ。

 傍らからティアナが顔を引きつらせて言う。

 

「副隊長が民間人相手に本気になるなんて、コレは流石にちょっと……」

 

「フェイトさん、殺されちゃうんじゃあ……」

 

 スバルが言っている間に不安と恐怖で顔を蒼くする。その不吉な予感は周りにも伝染し、涙目になる。スバルや他の者達を冷静に見、なのはが力強く微笑って見せた。

 

「フェイト君なら大丈夫だよ。エリオとスバルは良く見ておいた方がいいと思う。フェイト君の戦い方はきっと参考になると思うから」

 

 やけに自信ありげに放たれた言葉に、スバル達はキョトンとしてしまった。

 

 

 凄まじい爆音をたてながら、二つの鋼鉄武器がぶつかり合う。

 

「ぬどりゃぁあああああ!」

 

 完全に相殺した一撃に口の端をつりあげるヴィータ。

 

「ほぉ~? 第一段階のアイゼンを止めたか。じゃ、第二段階だ!」

 

 ハンマー部と柄の間が伸縮し、柄の中からカートリッジが吐き出されてくると、ヴィータがアイゼンを軽く振って第二フォルムへと変化させる。威力が増したことを告げるようにハンマー部が一段階巨大化していた。

 

「おらおら、ゆっくりパワーを上げてやっからよぉ~、今の内に謝ったら許してやんねぇこともねぇぞ?」

 

 目が完全にいじめっ子と化しているヴィータに、フェイト・ラインゴットが力強く言い放った。

 

「舐めんな、ちびっ子。何が鉄槌の騎士だ。『騎士』なんて所詮――、人間じゃないか!」

 

「あぁ?」

 

 またしても意味不明な言葉を発し始める青年(フェイト)に、訝しげにアイゼンを構えるヴィータ。そんなヴィータにはお構いなく、青年(フェイト)は言葉を紡ぎ始める。何故か哀愁を漂わせて。

 

「丘をぶった斬るような化物刀を相手にした事が有るかい? 村一つ消し飛ばすような槍と、戦った事はあるかい? それらを軽々と振り回す悪魔や破壊神と戦ったことは――君には無いだろう」

 

 青年(フェイト)の言葉は荒唐無稽――大げさの類だった。しかし――何故だろう、それを笑い飛ばすには彼が余りにも悲痛な表情を浮かべている。

 ヴィータには伝わらなかったが、それ以外の者には何故か、彼のとてつもない経験が、素直に伝わったようだった。

 

「自分の力が何一つ及ばないと知りながら、それでも戦わねばならないという絶望を、君は味わった事があるか? その恐怖に比べれば、君などまだまだヒヨっ子だ! ヴィータちゃん!」

 

 力強く言い切る青年(フェイト)に、ヴィータがニヤリと返す。

 

「ヴォルケンリッターたるこの私にそこまで啖呵切れるやつがまだ残ってやがるとはな。面白ぇ、上等だ……! アイゼン、ここまで舐められて黙ってるなんてことはねえよな?」

 

〈Jawohl!!〉

 

 ヴィータの言葉に相棒(ハンマー)がノリノリで答える。

 

「その意気だ」

 

 ヴィータがいよいよ覚悟を決めた。

 とりあえず、この舐め腐った野郎だきゃあ――ブッ潰す! と。

 

 

 それらを少し離れた所で見守る、スターズとライトニング分隊。

 

「なのは。そろそろ止めないと、ヴィータ本気で怒ってるよ!?」

 

 令嬢(フェイト)がいよいよ、あの闘いを止める時が来たと言う。

 

「だから子供扱いしちゃだめだって言ってるのにな、フェイト君。もう……後でちゃんとお話しなきゃ」

 

 水を向けられたなのはは青髪の青年のヒヨッ子発言に眉根を寄せている。

 

「なのは! 今止めないと、『後で』が無くなっちゃうよ!」

 

 余りにも悠長ななのはに、令嬢(フェイト)が慌てて進言した。

 

「普段おちゃらけてるけど、本気になったら多分、凄いと思うんだ。フェイト君」

 

「『多分』ってなんですか……!」

 

「ま、いいから見てよっか」

 

 蒼い顔で抗議してくるエリオになのはがニッコリ笑って答え、ヴィータ達を見やる。

 

 ガォオオンッ!

 

 落雷が降ったかのような音と共に、皆がそちらを向くと巨大な土煙が立ちあがっていた。煙が晴れた時、鉄槌と鉄パイプは鍔迫り合いの姿勢であった。

 

「第二段階のグラーフアイゼンを……!?」

 

 エリオの裾をつかみながら、キャロが驚きの声を上げる。

 

 

(こいつ……っ!)

 

 ヴィータが舌打ちと共に鉄パイプを持つ青年を睨みつける。

 

「僕ぁね……、僕ぁやるよ……!」

 

 鉄パイプを握りしめて、青年(フェイト)が高らかに叫ぶ。

 

「僕の鉄パイプは……僕の鉄パイプ(たましい)は、絶対に折れはしないんだぁああああ!」

 

「面白ぇ……! 口先だけじゃねえようだな。だが! どこまでもつ!」

 

 青年(フェイト)の気迫を受け、ヴィータが一旦、パイプを横に弾いて、後方へ下がる。そして更にアイゼンを構えた。カートリッジが更に一つ外される。

 グラーフアイゼンの〈第三フォルム〉。より巨大化するハンマーに青年(フェイト)がニヤリと笑い、駆け出していく。巨大な鉄の悪魔に、己の勇気の化身パイプを叩きつけるのだ。

 

 

 第三フォルムになっても、打ち合いは全くの互角。変化がないように見える。しかし、なのはが、録画再生のようなこの光景に首を横に振って見せた。

 

「まともに付き合い過ぎだね。フェイト君。あれじゃあ、ヴィータちゃんとグラーフアイゼンのコンビネーションには敵わないよ。」

 

 その言葉に同じ名を持つ令嬢(フェイト)が目を丸くした。

 

「なっ!? ヴィータの攻撃を真っ向から打ち返してる辺りで凄いと思うんだけど……」

 

「でも、攻撃が正直過ぎるんだよ。あれじゃあフェイト君の体の方が、先に限界にきちゃう。――ほら」

 

 指差した先に居る青年(フェイト)に、変化が起こった。

 

 

「ぐぉおおおおおお!!?」

 

 ヴィータの一撃に後方へ体勢を仰け反らされ始めている。徐々に押され始めて来た。

 

「フェイトさぁあああん!」

 

 スバル、エリオ、キャロの三名が悲痛な声をあげている。

 

(ぬぅうくっ! 腕がしびれてきやがったぁあ!)

 

 痺れる腕をプラプラと一度振りまくってやりたいが、攻撃が休まないのでソレもままならない。

 

「へっ! 私のグラーフアイゼンとここまで打ち合うとは、大したもんだ」

 

 ヴィータは己の勝利を確信したか笑みを浮かべながら言い放つ。――そして

 

「だが、これで終わりだぁあああ!」

 

 鍔迫り合いの状態から、アイゼンでパイプを横に流し切り、横からの殴打を放つ。

 

「フェイトさぁああん!」

 

 機動六課の新人達が彼の名を叫ぶ。その彼の左の頬に吸い込まれるように、アイゼンが打ち込まれて行った。そのまま上方向へ振り抜くヴィータ。

 

「ぬぐぁあああああ!!?」

 

 エビ反りに体をのけぞらせながら天高く舞い上がる青年(フェイト)

 

「まともに入った!?」

 

 ティアナが驚愕の表情で叫ぶ横でスバルが頬を押さえている。

 

「へっ、他愛もねえ」

 

 ヴィータは勝ち誇ってアイゼンを一薙ぎし、前を見る。そこへ、青年(フェイト)が珍妙な姿勢で堕ちて来た。――頭から。

 

 ドシャっ……

 

 スバルの顔が引きつった。

 

「顔面から地面に激突したよ、今……」

 

「だ、大丈夫かな……フェイトさん」

 

 エリオとキャロが手を取り合いながら震えている。その肩を抱いていた令嬢(フェイト)は立ちあがり、青年(フェイト)の方へと向かおうとしたのだが――。

 

 ガバッ!

 

「まだじゃぁああああ!」

 

 地面に落ちてからたったの3秒で、青年(フェイト)か上体を起こして、うつぶせの状態から立ちあがってきた。

 

 ――なっ!?

 

 ヴィータを含めた全員が、その姿に唖然とする。――否、語弊があった。ただ一人の女性は、むしろ青年(フェイト)の行動を予測していたのだ。

 

「――そう、あの根性!」

 

「――え?」

 

 一同が振り返った時、拳を握りしめ、瞳をキラキラさせながら熱く語る高町なのは教導官の姿が有った。周りの空気も何のその、教官は更に続ける。

 

「どんなに打ちのめされても、決して退がりはしない! 耐え忍ぶ根性! 力の差を見せつけられても、最善の策を尽くす。前に出る勇気! これこそが――これこそが、私達機動六課が示す理念だよ! フェイト君にこれだけの信念があるなんて……!」

 

 もはや、誰もが二の句を告げられない状況の中、青年(フェイト)は叫ぶ。――高らかに、己の信念と存在と、そして――魂の合言葉を!

 

「まだじゃあああああああああ! No FAN,No SO!」

 

 カァアンッ☆

 

 ラウンド2のコングが、全員の頭の中で聞こえた。

 立ちあがった青年(フェイト)を見て、ついにヴィータも魂の咆哮を発した。

 

「しつけぇんだよ、テメェエエエ!」

 

 この場にいた、誰もが思うその一言を、ヴィータが心の底から叫んでいたのだ――。

 

 

 ――夕方。

 

 コマ送りのように同じ事――ハンマーとパイプのぶつけあい――を繰り返しながら、当の2人は未だに可笑しなテンションを続けていた。

 

「まだだぁあああ!」

 

「やんのか、テメエぇえええ!!!?」

 

 後に、新人達は語ったと言う。

 

 フェイトさん曰く、コレがナチュラル・ハイってヤツさ! ――と。

 

「NO FAN!」

 

「NO SO!!」

 

 魂の合言葉は、何故かヴィータにも伝わっていた。青年(フェイト)とヴィータ。二人の間になにか――暑苦しく、どうしようもないものが育まれた瞬間である。

 その様をなのはは満足げに見やって頷いた。

 

「うん。ヴィータちゃんとあそこまで打ち合えるなんて、フェイト君の根性は、凄い……!」

 

 見習わなければと言わんばかりのなのはの言葉に、スバルは笑うしかなかった。

 

「いや、もう凄いなんてレベルじゃあ……!」

 

 二の句が告げないスバルの後を継いで、ティアナが息を呑んでいた。

 

「人間なんですか? あの人……!?」

 

 

 

 

 『フェイト・ラインゴッド』。

 アルフが隠密行動する為には、確実に何とかしなければならない人物である。

 

 いくらディストラクション抜きとはいえ、機動六課を騒然とさせた一連の騒動は、連邦の狂人をして帰って来た瞬間にそう思わせた。

 

「殺意が芽生えました」

 

 自重を知らない相棒に向けて、のちに狂人は相棒の顔面をつかみながら語ったという。

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