「はぁ~い! それじゃ、夜の訓練おしま~い!」
「ありがとうございましたぁ!」
なのはがこぼれんばかりの笑顔で告げると、新人四人は体中を煤だらけにして力ない笑みを返した。体力的に劣る
それは鉄パイプを握る
――しばらくの休憩を挟んで、ようやくティアナ達に立ちあがる気力が湧いた所で、スバル達はなのはとヴィータに一礼した。
「お疲れ様でした~」
「ちゃんと寝ろよ!」
へとへとになりながらも、はい、と返事をして去っていく新人達を尻目に、ヴィータが溜息を吐いた。ぐったりとした新人達とは対称的に、
「良かろう! 決着はまた明日だ! ヴィータちゃん!」
「上等だ!」
拳を握って、ヴィータも即座に言い返した。走り去っていく
「しかし……お前、ホントに朝から晩までずっと連中に付きっきりだよなぁ……。疲れるだろ?」
今日初めて前線メンバーの新人教育に参加したヴィータは、両手を腰に据えながら、問いかけた。なのはは慣れた手つきで、今日の訓練成果を入念に打ち込んでいる。
「私は機動六課の戦技教官だもん。当然だよ」
『当然』と豪語するだけあって、なのはの声には余裕すら感じさせる覇気があった。ヴィータは眉間にしわを寄せる。疲れた時に『疲れた』と言わないのが、高町なのはだ。その性格を知っているからこそ、ヴィータは困ったように頬を掻いた。
「まあ、何にしても大変だよな。『教官』ってのも」
「ヴィータちゃんもちゃんと出来てるよ」
穏やかに微笑んだなのはがヴィータに向き直るや、彼女の小さな頭を優しく撫でた。
「立派立派」
「撫でるなぁ~!」
「アハハッ」
「なんだよぉ~!」
唇を尖らせるヴィータに、なのはがクスクスと声を立てる。
二人は訓練場の片付けを終えるや、連れだって帰路に着く。
「今日の戦闘データ、また分類して、データルームに送っといてくれるかな?」
〈All right.〉
ペンダント状になったなのはのデバイス――レイジングハートが音声で答え、明滅する。なのはは嬉しそうに微笑った。
「ありがとね、レイジングハート」
自分よりも二歩ほど先を行くなのはの背を見つめて、ヴィータは神妙な面持ちだった。
(
なのは自身は、自分のしている事を苦労とも思っていないだろう。保護する事が当然で、感謝される事など端から期待してはいない。
だから――。
(私はスターズの副隊長だからな。お前の事は、私が守ってやる……!)
ヴィータが拳を握りしめるのと、なのはがこちらを振り返るのは同時だった。
「おぉい! 誰か~! 手を貸してくれませんかぁ!?」
聞き慣れた声に二人は顔を見合わせた。
「いまの、フェイト君の声……?」
「アイツ、アレだけ痛めつけられて、まだあんな声出せる元気が残ってるのか……。もっとしごいてやりゃよかったかな」
呆れ混じりのヴィータのつぶやきで、なのはは
なのはが乾いた笑みを浮かべると、ヴィータに言った。
「とにかく、行ってみよう!」
「あ! なのはさん、ヴィータちゃん!」
弱り切った表情で、
「人が倒れてるの!?」
現状を理解し、なのはが急いで
と、
「よかったぁ! 援軍が来てくれたよ!」
その時、なのはでもヴィータでもない、見知らぬ女性の声が聞こえた。
「何?」
ヴィータが周りを見回し、なのはが不意に気付く。声がする方――
「リィンと同じ……、ユニゾン式?」
ヴィータがつぶやくのも無理はなかった。かつてリニアレールで密輸された
ヴィータたちがあつかう魔術系統と目の前にいるピンク髪の妖精は似ているようで、どうも自分達の知る術式とは根本的に違っている。
首を傾げるヴィータ達を置いて、
「歩いてたら、いきなり目の前に光が現れて、中から人が出て来たんだけどそのまま倒れちゃってね。どうしようもなかったとこなんだよ」
何か言いたそうなヴィータには取り合わず、なのはが真剣な面持ちで二人に言った。
「とりあえず、局内の医療施設に向かおう。
「助かったよ。僕、そこ知らないんだよね!」
キランと歯が光らせて
「ありがとう、助けてくれて」
なのはやヴィータ、
妖精が腰に手を据えて、言った。
「アタシ、ティピ。こことは違う世界で生み出された魔導生命体――ホムンクルスなの」
小さな妖精を模した少女は、言葉尻とともにしゅんと小さくなっていった。自己紹介としてはナンセンスな、『異世界からきた魔導生命体』。
なのはとヴィータが数秒、ティピをジッと見やった後に互いの顔を見合わせ、こくりと頷いた。事情はまだ把握できないところが多いが、何らかの事件事故に関わる事案と判断したのだ。先程まで見せていた親しみやすい穏やかさは鳴りを潜め、二人はスターズ分隊の隊長と副隊長を務める管理局員の顔になった。
「――時空管理局の高町なのはです。よろしくね、ティピちゃん」
「アタシはヴィータ。次元漂流者みてえだな。安心しろ、きちんと保護してやるぜ」
ティピに応えるように、なのはとヴィータが返す。
「ちなみに僕は、」
「フェイト・ラインゴットでしょ? さっき聞いたわよ」
「……」
名乗ろうとした所を冷たく流されてしまって、
「で。この人は?」
クスンと鼻を鳴らしながら尋ねる。ティピが心配そうに黒髪の青年を見やり、答えた。
「コイツは、カーマインだよ」
「――タダモノじゃなさそうだ」
「えっ!?」
思わぬ
「恐ろしい事だが。そう遠くない未来において、僕の――主人公としての地位を脅かす存在になる! 間違いなく確実に! なんだかめちゃくちゃ美形だし!」
「マジな顔して下らねえコト言ってんじゃねぇええええっ!」
力強く宣言した
その隠れた
そんな三人のやりとりを見ていて、三十センチ大の
(悪い人じゃなさそうなんだけど、果てしなくバカね……。我ながら、助けてくれた恩人にこんなこと思うのはどうかと思うんだけど……!)
こうして、青年達は出会った。
元の世界で、それぞれ英雄とされる二人の青年が――。
機動六課課長、八神はやてを始めとして、なのはと
なのはとヴィータの案内で医務室に青年を運んだ
「だからさ、いきなり目の前に現れたんだよ! 光と共にさ! ――こう、ハッ! ん? え……っ!? 見たいな感じでさ!」
「要領を得ねえ説明だな、おい」
熱を込めて言う
「そんなこと言っても見た通りなんだからしょうがないだろ! ヴィータちゃん! だから、こう――ハッ!? ん? ……えっ!? な状況だったんだよ!」
「まあまあフェイト君。ともかく落ち着いて」
なのはが愛想笑いを浮かべながら、
「でも、ここまで真剣に言うなら本当かもしれないよ? ね、フェイト君?」
「そう! そうなんですよ! なのはさん! 分かってくれますっ!?」
「う、うん……!」
妖精の姿を模した少女は、小さな手を腹の前で重ねて居心地悪そうに笑った。
「え~と、説明はした方がいいよね? アタシ、ティピ。こことは違う世界――その中にあるローランディアって国の出身なんだけど……、分かんないよね……」
自己紹介をするや否や、ティピは諦めたように溜息を吐いた。相手の反応を想像できるぐらいには、ティピも自分の自己紹介が突飛であると知っていたのだ。だが彼女の予想に反して、向けられたのははやての穏やかな笑みだった。はやては妖精の傍らに歩み寄り、屈んだ。はやての栗色のセミショートが揺れる。はやては、大きな青色の瞳をティピに向けて、おっとりと笑った。
「つまり、ティピちゃんは別の世界から来たんやね?」
「信じてくれるの!?」
まず疑われると思っていたので、ティピが目を丸めた。うん、と頷くはやてをまじまじと見る。『異世界』というのは、場所によっては言葉自体が存在しない。それを、ここにいる人達はあっさりと認識し、ティピの話を信じてくれた。思いがけぬ受け入れ態勢にティピが瞬いていると、金色の長い髪を持つ執務官フェイト・テスタロッサが、はやての傍らに立って説明した。
「この世界では、稀にある現象だからね。――つまり君達は次元漂流者か」
「私達は、ティピちゃんのような人達を保護したりするために居るんだよ」
なのはも
「次元漂流者、ねえ……」
その光景を、アルフが静かに見据えていた。茫洋とした紅瞳はそのままに、うっすらと目だけ細める。取り立てて怪しい所ばかりの闖入者のようだが、
「つまり、僕らと一緒ってコトか」
したり顔で頷く
アルフは、この世界についての認識を改める。
ティピは緊張が解けたのか、表情を明るくしてこれまでの不安や苦労を吐露し始めた。それに相槌を打つなのはや
(せやけど、この顔……間違いない。陸士107部隊を壊滅に追い込んだ犯人と同じ顔……! 普通やったらここで報告するんやけど……、ティピちゃんの話によると、この子らが来たんはつい
神妙な面持ちで、はやてが視線を青年からティピに移す。陸士107部隊を壊滅させた男の情報は、あのカメラ映像だけだと聞いている。ただでさえ、機動六課にはその手の情報が封鎖されている状況だ。今後の対応をどうすべきか、はやては考え込まざるを得なかった。
そのとき。
不意にアルフが口を開いた。人差し指で、いきなりフェイト・ラインゴットの傍らを指す。
「なあ、フェイト。お前が見たのって、こういう光?」
「へ?」
その場にいる皆が首を傾げながら視線をやると、アルフの指差す空間に、圧倒的な白い光球が現れていた。
「な―――っ!?」
全員が驚愕に目を瞠る中、横に現れた光から距離も取らずに、
「ああ、そうそう。こんな感じ……って!?」
て!?、で事態を把握したのか、
「な……ん、だと……!?」
思わずつぶやく。
光の中から、青年はコツコツと靴を鳴らして現れた。黒髪に金と銀の瞳を持つ青年は、白いコートを羽織り、濃紺色のマフラーを首に巻いている。現れた光が完全に霧散すると、青年が不機嫌そうに周りを見回した。
「同じ、顔……!」
はやてが思わず息を呑む。光の中から現れた青年は、ベッドで眠っている青年とまったく同じ顔をしていた。顔立ちは勿論、髪の長さや形まで完全一致。振り返った妖精の少女、ティピが驚きと共に名を呼んだ。
「アステア!?」
「……フン。ゲヴェルの波動が最も強い並列世界を探していたが……ビンゴか。流石はアルスィ・オーブ。剣術だけが取り柄の右腕とは訳が違う……!」
アステアと呼ばれた青年は、ベッドに寝かされている青年――カーマインを見据えると、くく、と口端を歪ませて拳を握りしめた。
「アンタ、どうして……!」
アステアは静かにティピに向き直ると、不機嫌そうな
「どうして、だと? いきなり目の前から消えた主を見つける為に決まっているだろうが! 今まで何をしていた!? 貴様ら!」
「お、怒んないでよ……! パワーストーンの反動なんだから仕方ないじゃない……!」
怒鳴るアステアに、ティピは不満そうに返す。パワーストーンとは、ティピとカーマインが異世界を渡る原因となった石だ。しかし、この時のティピの反応は、アステアを納得させるには至らない。彼は更に強い口調で詰問した。
「時空干渉能力はどうした!? そいつの因子なら世界を渡って戻るくらいできるだろうが!」
「体を創り変えたばかりだから、そう上手くコントロールできないのよ!」
一方的にまくし立ててくるアステアに、ティピも怒鳴り返した。そこでようやく、アステアの勢いが治まる。
「……何だと?」
アステアはティピの答えに訝しげに眉を寄せながら、眠っている青年を見やる。
「大方、別の世界を渡りながら人助けでもしていたかと思ったが……。そんな事情か……」
ふむ、と頷くアステアに、ティピが気を取り直して、申し訳なさそうに言った。
「ごめん……。皆、心配してるよね」
「ああ。俺が駆り出される位にはな……!」
忌々しげに舌打つアステアに、せっかく殊勝になっていたティピの眉がつり上がった。
「あのね……! 人が頭下げて謝ってるって言うのにアンタ…!」
「頭くらい下げろ! 貴様らの所為で俺がどんな苦労をしたか……!」
パンパンッと、ここで手を打ち鳴らす音に、ティピとアステアが言い合いを止められた。視線を左に振ると、はやてがいる。彼女が満面の笑みで二人に告げた。
「ちょっと、静かにしよか? 寝てる人も
アステアとティピの二人は、とりあえず押し黙った。
…………
「つまり、アステア君は自分の主であるカーマイン君を追いかけて、異世界に来たっていうわけか」
「……ああ」
そっけなく返し、こちらに視線すら寄越さないアステアに、はやてが苦笑する。
アステアはティピと睨み合いを続行していた。とりあえず、問えば彼から返事がもらえる。そんな状況だ。
はやてが気を取り直して話を続けた。――聞きたかった話の核心を
「そやったら、この世界に来たんは今が初めてってことやな?」
「……ああ」
微かに片眉を上げ、アステアが怪訝そうな顔をする。ようやく視線を寄越して来た彼に、はやてがホッと胸を撫で下ろした。彼の言葉を鵜呑みにするわけではないが、スバルの父――陸士108部隊隊長、ゲンヤ・ナカジマ三佐の話によれば、107部隊が襲われたのは今から一週間ほど前だ。ティピやアステアの反応があまりに淡白な事からも、部隊隊舎を強襲した人物とは異なる可能性がある。
その意味で安堵したはやての様を見て、アステアという青年が、納得したような顔になった。
「ほぅ。俺達と同じ顔の奴が、この世界に来ているのか」
「!」
はやてが目を瞠る。安堵したのは一瞬だけ。事の経緯を知らないなのは達は、不思議そうに首を傾げるばかりだ。
アステアの察しのよさにうすら寒いものを感じながら、はやては続けた。
「……その話は、後で詳しくするから。とりあえずアステア君とティピちゃんには、協力してほしい事があるんよ」
「協力だと?」
あからさまに顔を歪めるアステアを、ティピの説得で連れ出してもらって、一行は会議室に向かった。
陸士107部隊の壊滅――それを起こした張本人が映った映像を見る為に。
会議室に着いたはやては、ここにきて迷っていた。映像を見せる事で犯人の手掛かりは掴めるかも知れないが、下手をすればこのアステアという青年が敵に回るかも知れない。
「……どうしたもんかな?」
思わず零れたひとり言を、隣にいたなのはとヴィータが、首を傾げて視線で訊いて来た。はやては、なんでもないんよ、と笑顔で手を振りながら、内心ではどう判断したものか頭を悩ませる。
そんなはやてに、声をかける者がいた。
「八神隊長、例の映像を」
「!?」
はやてが顔を上げる。アルフだった。
「せやけどシャス……」
どう誤魔化したものか考えるはやてを置いて、アルフがいつものように冷静に、底の知れない紅瞳をアステアとティピに向けた。
「それで、コイツ等の反応を見れば大体分かる」
(――え?)
はやては思わず瞬いた。アルフとは
情報封鎖されている107部隊の壊滅映像を、アルフが知っているとは言い難い。とすればアルフは、はやての表情の変化を読んで、『何かある』と結論付けたのだ。
逡巡しながら眉を寄せているはやてを置いて、アステアがアルフの紅瞳を見返しながら口を開いた。
「――フン、見なくても大方の予想は付く。どうせ、俺やカーマインと同じ顔の者が、貴様らの組織に攻撃を仕掛けたとか、そういう話だろ?」
「!?」
アステアの発言に、はやてとアルフを除いた全員が、驚愕に
「一体誰が、そんな事……!」
「それをわざわざ見せてもらうんだろ? 今から」
肩に座るティピに答えながら、アステアは冷たく嘲るような表情でアルフを見据える。対するアルフも、口端をつり上げただけで否定はしなかった。静かに見合う二人。お互いに先ほどから、その瞳を逸らさない。
「隊長――」
「う、うん……!」
アルフとアステアの間に流れる冷たい空気を感じながら、はやては小さく頷いた。
――映像は、時間にすれば十分にも満たない短いものだった。黒マントに黒ずくめの男が陸士107部隊隊舎を壊滅に追いやり、宝石型のオーパーツを奪う。炎の中から照らされた男の顔は、黒髪に金と銀の瞳を持つ青年。
アステアやカーマインと同じ顔をした、不気味な男だった。
「――ウソ。ゲヴェル……っ!」
ティピは映像を見ながら、唇まで真っ青になるほど驚愕していた。対するアステアは全く表情を変えずに、悠々と両腕を組んでいる。
「成程。……アウグか」
つぶやいた彼は、静かに目を細めた。アステアにとってかつて戦った敵の名だ。動揺で顔が白くなっているティピと、全く表情を変えないアステアに目をやること無く、
「アステアが来なかったら絶対、
彼の言う通り、アステアやカーマイン、そして映像の中にある『アウグ』という青年は、人間の規格から一線を画すほどの、『超』が付くほどの美人だった。すべて計算して作られた精緻な彫刻をも上回る完全な美。それ故に無表情に黙っていると、造り物のような印象を受ける。
特に、この映像の中で不気味に笑う青年は――。
「何なんだ、コイツ……! 確かに顔は、アステアやカーマインって奴と同じだが」
「うん。まるで意志の無い人形のような眼をしてる」
ヴィータの言葉になのはが頷く。
「……!」
静かに拳を握る。もう一週間も前の映像であるが、どうにも出来ない悔しさがこみ上げてくる。
「この人物は、何者かに操られているの?」
アステアが小馬鹿にしたように片眉を上げて見せた。こちらを軽視していることを態度で表しているのだ。
「中々の洞察力だな。確かにコイツに自我は無い。そのようにして生み出された――ただ闘う為だけに生かされた殺戮兵器だ」
アステアは顎で映像の青年『アウグ』を示す。嘲笑を浮かべている彼だが、その実、瞳は少しも笑っていない。こちらがどのように動くか? どう答えるか――相手に不快感を与える事で、その反応をジッと観察している。
(――油断ならない)
「……へえ。そりゃ面白い。その殺戮兵器ってのは、そこのチビが言ってたゲヴェルってのと関係するのか?」
アルフが質問を投げかけた。アステアは冷めた視線を静かに
「……」
アステアが改めてアルフの双眸に視線を戻した。相変わらず、両者とも一ミリも瞳が揺れない。アステアの表情に浮かんだのは、嘲り。
「面倒事に関わるつもりは無い。貴様らの知りたい情報なら教えてやるが、それ以上の事は期待するな。生憎、知らぬ世界の人間達を助けてやる義理は無いんでな」
冷笑と言っていいレベルの侮蔑を含んだ笑みと、関わる気など毛頭ないと言わんばかりの言い草。――助ける道理はない、彼は言葉だけでなく態度でも示すように美貌を歪める。冷たい笑み――だが、その瞳は決して笑わない。はやてはそんな彼に寒気を覚えた。一体何者だろう――と思ってしまう。その笑みに暖かさは無く、その感情は読み取れず、ただ冷酷だ。人として考えられる、悪の全てを閉じ込めたかのような、深く暗く無関心な、笑み。
「アステア!」
ティピがはやて達の表情を見て、アステアが今どんな顔をしているか気づき、叱責する。が、アステアは笑みを消さなかった。
「人間嫌いの俺にしては随分な譲歩だろ? カーマインを助けてもらった礼に知りたい情報はやると言うのだから。本来は答える義理が無い話だからな」
あまりにもぞんざいな言い草に、間髪入れずに応えたのは、狂気を瞳に浮かべた青年――アルフだった。茫洋とした仮面を脱ぎ捨て、抜き身の刃のような眼光をアステアに向けて、朱唇を割る。
「それでいい。こっちも下手に関わられちゃ面倒だ」
「話が早くて助かる。――何を聞きたい」
アルフの答えに満足気に頷き、アステアがアルフに問いかけた。アルフも周りに目をくれず、アステアだけを見て問いかける。
「まず、ゲヴェルについてだ」
「ゲヴェルとは、闘うためだけに生み出された生体兵器。人間と変わらぬ姿をしているが、その実は人間を遥かに凌駕する身体能力がある。具体的には――人間では考えられぬ反応速度、瞬発力、持久力、筋力――そして、再生能力だ」
軽くざわめく会議室の空気を無視して、アルフが問いを続ける。
「ゲヴェルってのは全員お前のような顔をしているのか?」
「ほとんどが俺達と同じ顔をしている。元々は異形の化け物だったが、いまや人間タイプの方が主流でね」
肩をすくめながらアステアが返す。彼らは世間話でもしているように軽く流して行く。その言葉の裏に、一体どれほどの意味を隠しているのか。はやては頭の痛くなる思いで二人の会話を聞いていた。
「お前と同じ顔をした奴は、全部で何人居るんだ?」
核心と呼べるその問いにアステアは至極アッサリと答えた。
「約百人」
「――!? その全員が、お前のように次元を渡れるのか?」
さしものアルフも一瞬、表情が固まった。だがそれだけだ。アステアの瞳に嘘が無いと感じたのか、それとも他に興味があるのか、アルフは素知らぬ顔で話を続ける。次元を渡れるのか、と。
「時空干渉能力に関しては、大小がある。そうだな……。大体、渡れるやつは十人にも満たん。また渡れる奴らの中でも、絶対に異世界には行かん者も居る。立場上な」
淡々と返しながら、アステアはこの質問に先ほどまでより慎重に応えている自分に気付いた。つまり、この質問こそが、この男の本命であると指に嵌めた石――世界の真理を見通す
そんな諸事情を知らないアルフは、表情を変えないまま問う。
「その能力は行き先を指定できるのか? つまり、施設を襲った奴は自分の意志でこの世界に現れ、管理局の
「まあな。奴は傀儡だから、厳密に言えば意志などないんだが……」
素知らぬ顔で訊いてくるアルフを見据えながら、アステアは鼻を鳴らした。
「……なるほど。最後の質問だ、この世界に最も大きなゲヴェルの波動を感じたって言ったな? お前らの他に後何人――いや、何体来てる?」
「――そうだな。俺やカーマインを抜いて確実に居ると言えるのは、2体」
アルフの問いに答えながら、アステアは三つの作業を同時に行った。一つアルフの思考の先読み、一つ石を使わなかった場合の自分の素直な回答、そして最後に――この男の本質を探る。
「じゃあ、管理局を襲った犯人の他に――もう一人!?」
なのはが、アステアの答えに声を荒げた。
「――なるほどね」
アルフは素直に、アステアの言葉を受け取ったように見えた。
「話は終わりだ。では、俺はそろそろ医務室へ行かせてもらう。監視対象が一つにまとまっているほうが、貴様らとしても都合がよかろう? 敵かも知れない奴の話を、鵜呑みにはできんだろうからな」
アステアも静かに、殊勝な態度でこの場における最も効率の良い選択を口にする。さも自分は『協力してやっている』と言わんばかりの態度で。
アルフが口端をつり上げた。
「――話が早くて助かるぜ」
この場にいる中で、はやてだけが二人の会話の真実に気づいていた。
(一見、協力してるように見えるけど――アステア君は、この場を一刻も早く去りたいだけ。その為に、必要な回答を選んでるに過ぎへん。それをシャスは知ってて、警戒されてるんを分かった上で訊いたんや。自分の推理に必要な糸口となる『情報』を)
余計な情報を流したがらないアステアと、少ない言葉でより多くの実を取る質問を仕掛けるアルフ。
この二人の間に流れる微妙な緊張感に、はやては胸元で拳を握った。だが、このはやての考察すらも――この二人にとっては演技である可能性が高い。
(一体……どんな頭してるんや、二人とも……)
はやては、ぅぅ、と呻きながら、こっそりと溜め息を吐いていた。
ティピ
「ティピと」
フェイト
「フェイトが――」
ティピ&フェイト
「「行く!」」
ティピ
「というわけで、今回から始まりました。あとがき専用コーナー、皆のアイドル、ティピと」
フェイト
「皆の主人公、フェイトが」
ティピ&フェイト
「「オラクル空間にて各話の解説を
どんどんどんどん、ぱふぱふ~っ!
ティピ
「いや、楽器がないからってなんで口で言わなきゃならないのかしらね……」
フェイト
「このスタジオ、しょべえ……!」
ティピ
「スタジオってなによ、スタジオって? ――まあ、座談会なんだから似たようなものだけどね」
フェイト
「とにかく話を始めよう。今回、第五話! ……区切りがいいよね、五話」
ティピ
「話の内容じゃないのかよ!?」
フェイト
「いや、五ってさ……おさまりがいいと思わないかい?」
ティピ
「なにかないのかよ!? 話で!!?」
フェイト
「いやだってさ、内容とか迂闊に話しちゃうとネタばれとかしちゃうじゃん? それは僕としては避けたい所?」
ティピ
「じゃなに話すのよ、ここで?」
フェイト
「まあ感想かな」
ティピ
「感想……?」
フェイト
「僕ってやっぱこうさ、機動六課の皆と打ち解けてるじゃない?
それに比べ、アルフはどうなってんだよ。あいつさ、主人公やる気あんのかね?」
ティピ
「『主人公』って言うよりも、悪役って感じのセリフが多いわよね。基本的に」
フェイト
「まあ、それよりどす黒かったラグナさんのおかげで消えちゃったわけだけどさ。
でもさ。皆、忘れちゃいけない。
――だってそうだろ!? お前、はやてさんに何やってんだぁあああああ!! 許さんっ! 許されんっ! そう思ったのは、僕だけじゃ無い筈だっ!!」
フェイトは拳を震わせた。
フェイト
「だから僕は断言しましょう! アルフに近寄っちゃいけません! 女性限定で!!」
ティピ
「まあ、でも――それもさ。訓練だって言ってるじゃん?」
フェイト
「訓練だからってね。女性の心をもてあそんじゃいけないんですよ。いくらなんでもあれはいかんだろ。あれ舐めてるよ、女心を。アイツ絶対後ろから刺されるよ」
ティピ
「刺されそうにないけどね~」
フェイト
「下手な殺気だと喜ぶ変態だからな、あいつ」
ティピ
「それにしても、結構いかつい男性キャラ増えたよね」
フェイト
「レジアス中将とラグナだけじゃないか!? いかつかったの!!
まあ
ティピ
「いやいや、おっさん率上がってるわよ」
フェイト
「僕はそんなことよりさ、ティピちゃんの身長がでっかくなってることにびっくりなんだけどね」
ティピ
「これはね、リィンに合わせたのよ」
フェイト
「合わせたってサイズを?」
ティピ
「そうそう。パッと見、『
で、こっちの世界に来たときに気付いたんだけど、あたしのサイズとリィンたちのサイズは倍近く違うの。それで急遽、体を大きくしたんだ。
本編で言及されると思うけど、大本の理由はそれなんだよね」
フェイト
「――軽くネタバレしてない?」
ティピ
「大丈夫! 今のは本編には関係ない話だもん!」
フェイト
「な、なるほど?」
ティピ
「とまあこんな感じで、話に関する『裏話』なんかを、このあとがきで明かしていきたいと思いま~す!」
フェイト
「ちなみに、リィンの身長は三十センチ、ティピちゃんの元世界での身長は、十六.四センチだよ!
え~、次回はリリカルなのは主人公、エース・オブ・エースの高町なのはさんをゲストに迎えたいと思いま~す」
ティピ
「うわぁ! 豪華だね~!」
フェイト
「……うん、なんとなく……
なんとなくそんなノリだったよね……。これ
ティピ
「では今回はこれまで! 以上、ティピと!」
フェイト
「フェイトでした」