連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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back phase 幼きアレンとカーマインの出会い

 銀河の三分の一を掌握する一大勢力――『銀河連邦』。

 

 比類なき科学と資金を用いて、巨大勢力へとのし上がったこの組織は、銀河連邦軍と言う、絶大な武力を持っている。

 宇宙空間を航行する戦闘艦技術は向上に向上を重ね、もはや戦争と言えば、惑星を消滅させるエネルギーを有する『クリエイション砲』を積んだ艦隊同士の争いを指すまでになった。

 

 とはいえ、たとえ戦う場所が宇宙に移ろうと、争いを起こすのはやはり人類である。

 スパイ活動は高度な電子化によって過熱を極め、数百億もの星々が一つの組織として成り立つ銀河連邦では、様々な人種による犯罪やテロ工作が後を絶たない。

 地球人を始めとした人間(ヒューマン)(タイプ)を遥かに超越する存在が、宇宙には跋扈している。

 

 そんな時代にあっても、『地球人』の地位は銀河連邦内で盤石だった。

 理由は、一つ。

 

 地球人のみで結成した銀河連邦軍最強の部隊――特殊任務施行部隊。

 通称、『特務』と呼ばれる者たちが、常に地球人の強さを他の人種に証明してきたためだ。

 

 彼らは四百億人以上いる同胞の中から、二百人だけを抽出して結成した最強の特殊部隊。戦闘、諜報、後方支援――あらゆる面において、彼らは優れた技能を持つ。

 特務は第一小隊から第四小隊まで成り、数字が若いほど、より優秀で制圧力の高い部隊として認知されていた。

 

 

 幼いアレンが目指すのは、そんな気も遠くなるような倍率の一人。

 八億分の一。

 

 特殊任務施行部隊の、第一小隊に所属することだ。

 

 それが、父との約束である。

 

 

 ◇

 

 

 今時珍しい板間が、二十畳ほどある。

 有体に言えば道場だ。

 アレンが一日の大半を過ごす場所だった。

 

 宇宙暦七五二年。

 アレン・ガード、十一歳。

 

 百四十センチほどの身長の彼は、真剣を握りしめていた。

 凛とした蒼瞳は鋭く前を睨み、光る。

 

 じり……、

 

 アレンは刀を下段に構えたまま、左に一歩、摺足で動いた。

 

 ……じり、

 

 父も半歩、動く。

 互いに真剣を持って、二人は間合いを――飛び込むタイミングを、気配を読み合う。

 

 じり、じり……

 

 円弧を描いて移動したアレンは、刀を下段から正眼に構える。父は下段のまま、微動だにしない。

 道場に射し込む光は少なく、早朝の爽やかな風が、二人の素足を撫でる。冬に差しかかろうとしているこの時期の風は、――冷たい。

 

 父は泰然と立っている。

 アレンと同じ――濃い蒼の瞳だ。男らしく引き締まった顔立ちで、母親似のアレンとは少し、毛色の違う顔。

 だが、

 この父――リード・ガードとアレンは、目がよく似ていた。

 色白だったリードの肌は、紫外線の影響で黒ずんでいる。年齢は三十三歳。いかにも軍人らしい厳格な男で、長身で筋肉質な体を黒ずくめのトレーニングウェアで覆っている。

 

 父から発せられる鋭い気迫を、アレンも気迫で押し返しながら止まる。

 ぴたりと、間合い二メートル。

 瞬間。

 父が駆った。

 

 ドンッ(・・・)

 

 活人剣で強化された身体能力で――父は、重い踏み込み音を立てる。

 アレンはカッと目を見開き、刀をふり上げた。父の初動は――

 

(疾風突き!)

 

 アレンの予測通り、父の真剣がアレンの顔、真横を過ぎる。風を巻いた鋭い突き。アレンは軽く首を傾げて躱しながら、父の首目掛けて刀をふり下ろす。

 

 父は素早く反転し、アレンの切っ先に己が真剣を叩きつけた。下段からのふり上げ。両者、剣戟音を立てて正面からぶつかり合う。

 鍔迫り合い。

 力は――父が上。

 

「ぉおっ!!」

 

 鋭く吼えたアレンは、刃の向きを変え、半ば体当たりするようにして、鍔迫り合いを解く。

 瞬間。

 両者の刀に、蒼白の気が宿った。

 

「吼竜破!」

 

 同時、親子は刀をふり下ろす。

 薄暗い道場が光に包まれ、アレンと父の気龍が中央でぶつかり合った。

 風が巻き起こる。

 二メートル近い龍の顔は鋭く牙を剥き、互いに吼え合いながら激突する。

 

 練気は――五分。

 それを確認する前に、親子は同時に駆けていた。気龍が散り、光が晴れると共に互いの剣を薙ぐ。

 ――剣舞『鏡面刹』。

 横薙ぎから始まる五連斬を、両者、真っ向から打ち合う。――剣速も、五分。

 

「っ!」

 

 腕力に劣るアレンが、後ろに退けられる。

 同時。 

 踏み込んでくる父に向け、アレンは抜刀術で応えた。

 父は上段からのふり下ろし。アレンは抜刀術。

 

 ……ィンッ!

 

 緊張が場を満たし、剣戟の音が止む。静寂は痛いほどピリピリと肌に突き刺さり、両者、相手の首許に刀の切っ先を突きつけていた。

 

「………………」

 

 どちらも互いを睨み、怯まない。

 そして――

 ゆっくりと刃を退けた二人は、刀を納める。眼光は立ち合いが終わったと言うのにまだ鋭く、敵の動向を探っている。

 

 

 そんな息子を見据え、リードは満足げに鼻を鳴らした。

 稽古後、アレンが几帳面に一礼をして、踵を返す。リードは若輩ながらも銀河連邦の一翼を担う軍人だ。ガード家はまだ小さな家系に過ぎないが、リードは頭の切れる男として政治家からの覚えがいい。それゆえ、父がガード本家にいる時間は少なく、アレンもそのことを承知している。

 リードはふと、道場を去ろうとする我が子を呼び止めた。

 

「アレンよ、お前に話がある」

 

 そう言うと、アレンは足を止め、ふり返った。

 妻によく似た顔の息子は、その蒼瞳だけが生意気にこちらを見据えている。この反骨心の強さが、息子の才能をのし上げる一番の理由だった。

 アレンには五歳のときから、成人用の真剣を持って戦うよう――徹底して教育している。

 

 銀河連邦最強は、『地球人』でなければならない。

 

 そのために結成された特殊部隊に、いつか“ガード流”を使わせる。

 それが、リードの最終的な野望だった。ガード流は、地球人の身体機能を極限まで高め、相手を確実に殺傷せしめる武術だ。

 

 だが、まだ家が小さいために連邦軍の正式な格闘術には認定されていない。

 軍人の地位を押し上げるためにも、リード率いるガード流は、銀河最強でなければならない。それを証明するために、彼は息子に、ありとあらゆる努力をさせているのだ。

 

 アレンが初めて真剣を握ったとき、母と離別させたのもその一環。

 

 強い眼差しを向けてくる息子に、リードは口端をつり上げて、言った。

 

「――ついて参れ」

 

 

 ……………………

 ………………

 

 

 惑星ストリーム。

 朝の稽古を終えて、初めて父に与えられた任務は、謎多き無人惑星――その調査団の護衛だった。

 アレンの他に、銀河連邦軍人――見た所、一般士官のようだ――が二人、派遣されている。どちらも人の良さそうな青年だった。

 調査団のリーダーは、ロキシ・ラインゴッド。

 

 まだ三十前後の若い学者だが、将来必ず紋章遺伝学の権威になると言われており、彼の出す論文は、その時々において、衆目を集める発見や、画期的な発明ばかりだ。

 しかし、ロキシは、同じ筋の権威学者にも毅然とした態度を貫くことから、古い学者たちには忌み嫌われている。その勢力の嫌がらせとして、“変人”の名を欲しいままにしているが、本人は気にしていないようだった。

 

 衆目を集める論文を書くゆえ、彼はテレビに出る機会も多く、端正な顔立ちと独特の言い回しが受けて、一般人からは歓迎されている。

 ロキシの妻、リョウコ・ラインゴッドも優秀な学者だ。

 

 この調査団の副リーダーに当たるリョウコは、ロキシとは違い、周りと調和して、うまく溶け込めるタイプの女性である。才色兼備と名高い彼女は、結婚を機に公の場を退いた。

 今は完全に夫をサポートする存在だ。

 

 アレンの父、リード・ガードは人を褒めることを知らない男であったが、このラインゴッド夫妻については、“連邦になくてはならない存在”として、アレンになにがあっても二人を守るよう言いつけた。

 アレンは父に与えられた無銘の刀を手に、砂塵多きこの無人惑星――ストリームに降り立つ。

 

「話には聞いていたが、本当にまだ幼いものだね」

 

 調査団リーダー、ロキシ・ラインゴッドに声をかけられ、アレンは几帳面に一礼した。

 

「この度はよろしくお願い致します、ロキシ・ラインゴッド博士」

 

 丁寧に答えると、ロキシは目を丸めて、穏やかに笑った。

 いつも通り、アレンの周りは大人ばかりだ。浮いているとまでは行かずとも、十人ばかりの調査団に混じる彼を、ロキシなりに気遣ってくれたようだ。その気配りに感謝しながら、アレンは調査団の後に続く。

 

 荒野ばかりが広がるこの惑星は、それでも大気組成が地球と同じで、ガスマスクなどの特殊装備を要しない。

 ただ、風が強い。

 赤茶色の砂塵が舞い、二メートル先も見渡せないほどだ。

 アレンは調査団が持ってきたテントと研究機材の塊を背負い、黙々と歩く。

 

 時間にして、小一時間ほど。

 

 この惑星内で一番の調査対象たる『タイムゲート』が、目にとまった。

 

 タイムゲートは十五メートルほどの、白い石の様なもので出来た、縦長い長方形の門だ。

 門――と言うより、鏡枠のようにシンプルで不思議な造形物。

 それにアレンたちが近づくと、不意に地響きが起きた。

 

 ゴゴゴゴゴ……!!

 

「な、なんだっ!?」

 

 アレンは刀に手をかけ、構える。調査団の最前線に位置した彼を止め、ロキシがにやりと口端を緩めた。

 

「心配することはない。これは通常動作だよ」

 

「通常動作……?」

 

 首を傾げながら、アレンはタイムゲートを見る。ただの鏡枠に過ぎなかったタイムゲートの石が、動いた。二重枠になっていた門が回り、上辺の石を中心に交差する。

 上空から見ると、『一』だったタイムゲートが、『X』状に開いた形だ。

 交差した石が、蒼い透明なスクリーンとなって像を映し出す。細かな字が流れ、いくつもの小さな映像が、早送りするようにくるくると変わっていく。

 

「???」

 

 アレンはタイムゲートを見上げて、ぉぉ、と声を上げた。

 

 ――良く分からないが、凄い。

 

 それが素直な感想だ。

 タイムゲートの調査は三カ月を予定しており、一同はタイムゲートの作動を確認するや、先に寝床の確保――テントを張る作業に取り掛かった。

 テントを張り終わったあとは、博士たちの調査を遠目から見守るばかりの作業が続いた。

 

 

 

 十日間。

 特に目立った発見もなく、淡々と時間だけが過ぎて行く。それでもロキシたちにしてみれば、未知との対面は心躍るものがあるらしい。

 

「ごめんなさい。ちょっとこの機材、持っててもらえるかしら?」

 

 体が鈍らないように、アレンがトレーニングをしていると、リョウコに呼び止められた。

 アレンはテキパキと動き、彼女に言われた通り、機材を持って立ち止る。アレン以外の護衛役――連邦軍人も、別の場所で同じように機材持ちとして使われているようだ。

 

 護衛任務と言う大層な名目を付けられたが、その実、雑用がメインだった。

 アレンは小さく息を吐く。

 緊張が、徐々に解れた。

 

「……?」

 

 と。

 そこで彼は、タイムゲートの巨大スクリーンが明滅しているのを見た。いつもなんの変化もなく――蒼い透明なスクリーンを映し出すに過ぎなかった額縁が。

 

「リョウコ博士、あれは――」

 

 なんの変化ですか?

 と、アレンが問おうとしたそのとき。

 

 タイムゲートは眩い光を放ち、

 そして――

 

 ………………

 …………

 

 最初に飛び込んできたのは、パシャンッという水音と、青空に浮かぶ太陽。そして自分の服と手を濡らす――流水の感触だ。

 

「っ!」

 

 頭に降りかかる水飛沫を、アレンは頭をふって払い落す。

 

 と。

 目の前に少年がいた。右目が金、左目が蒼銀の不揃いな瞳を持つ少年。彼の艶やかな黒髪は陽光を浴びて美しく輝き、蒼銀の瞳を隠すように、長い前髪が左にかかっている。

 彼は、“人”と称するにはあまりに美しく――精緻な彫刻のように無表情な少年だった。

 年齢は自分と同じ、十一歳くらい。

 

 彼の後ろに、彼と同じ顔の少女が立っていた。

 ――双子だ。

 少女の方は、肩にかかる黒髪の長さだった。

 

「あ、あの……!」

 

 アレンが口を開くと、少女は後ろをふり仰いだ。

 

「人が落ちてきたぞー!!」

 

「え……?」

 

 建物に向かって、大声で叫ぶ少女。

 ものの数秒で、わらわらと同世代の少年が現れた。どうやら“かくれんぼ”の最中だったようだ。

 

「え?」

 

「なになに?」

 

「どーした? シーティアちゃん」

 

 好奇に目を丸めながら少年たちが寄ってくる。アレンが視線を横にふると、自分が噴水に座り込んでいるのだと分かった。

 

(ああ、それで――)

 

 ずぶ濡れになった自分自身を見下ろして、アレンは納得する。 

 視線を――双子に向けた。

 

「あの、ここは……――」

 

「ここはローランディア王都、ローザリア。広場の噴水だ。……それで、アンタはどこから落ちてきた?」

 

「……ロー、ザリア……?」

 

 要領を得ず、瞬く。

 ここが町であることは、景色を見ればわかる。だが、聞いたことのない町の名前に、アレンは戸惑った。

 美貌の少年は相変わらずの無表情で、淡々と続ける。

 

「三国大陸の北西に位置する国だ。名前くらい、聞いたことあるだろ?」

 

 少年の口ぶりから、この“ローランディア”という国はそれなりに知名度の高い場所なのだろう。アレンは首を傾げながらも噴水の縁に手をかけ、水場から外に出た。

 

「ぁ……、」

 

 その際、少年が手を差し伸べていたことに気付く。行き違いになった行為と厚意に、アレンは思わず固まった。

 

「気にするな」

 

 少年はアレンの機微を感じ取ったのか、手を引っ込めてそう言った。アレンは頭を下げる。

 

「すまない」

 

「なぜ謝る? ……変わってるな、アンタ」

 

 自分と同じ年嵩の少年に言われ、アレンはそうなのか? と首を傾げた。

 

「おい! そこのお前。いつまで私の弟と話しているつもりだ。弟から離れろ。それは私の所有物だ」

 

 服の水気を切っていると、双子の少女に怒られた。

 途端。

 表情を見せなかった少年が、ムッと明らかに不機嫌になる。少年は姉を睨んだ。

 

「いつ、俺がお前の持ち物になった?」

 

 アレンに話しかけるときとは違う。低い声だ。

 少女はふふん、と鼻を鳴らして腕を組んだ。

 双子が睨み合う。

 アレンはその間に、町を観察した。

 

 町は白い石畳を敷いており、木や石を使った家屋がほとんどだった。町の雰囲気はおっとりとしていて、家々の色調には繊細な美しさがある。一番彼が不思議に思ったのは、地面から浮かぶようにして――まるでシャボン玉が空に吸い込まれて行くように飛んで行く、光の塊だ。ちょうど人の拳一つ分の大きさ。

 

 光の球に触れてみると、“紋章力”を感じた。まだどの属性にもなっていない、紋章力の原石――とでも言うべきなのか。

 ともかく見知らぬ場所であることに変わりない。アレンはそう結論付けて、踵を返した。

 長居無用だ。

 

「すまない。俺はこの辺で失礼する」

 

 言うと、じろりと少女が腕を組んだまま、アレンを睨んできた。

 

「怪しい奴だな。この辺の服も着ていないし」

 

「ということは、アンタはこの国の外からやってきた旅人か? その年で? 家族はどうしてるんだ?」

 

 美貌の少年は、わずかに目を丸めて尋ねてくる。表情はないが、心配しているようだ。彼の問いは的確で、アレンの事情を要点で捉えようとしているのが窺えた。

 

「……すまない。突然のことで、俺もよくわからないんだ……」

 

「家族とはぐれたのか?」

 

「かも知れない」

 

「特徴は? ローザリア王都内なら、数刻もあればアンタみたいな服装の奴を見つけられるが」

 

 問う少年に、アレンは首を横にふった。

 出来るだけ、町の住人と関わらない。この信条は、彼が銀河連邦軍に属する人間であったからだ。

 

 未開惑星保護条約――一定の文明水準(レベル)に達していない惑星住人と接触するのは、銀河連邦法で堅く禁止されている。この条約を破れば、たとえどんな身分の者でも罰せられることになっている。

 

 つまり、罰せられれば、『一人前の軍人――特務第一小隊の隊員になる』という父との約束が遠退くのだ。

 母に会うためにも、アレンは妙な所でつまずくわけにいかない。

 

「ありがとう。――しかし、自分で探すから心配いらない」

 

 少年の親切に感謝して一礼すると、反対側から少女が、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「ほぅ? お前、本当に家族とはぐれたのか? 怪しい奴だ……、お前ら! とっちめてやれ!!」

 

「「「うぃ~!!」」」

 

 少女を取り巻く少年たちが、嬉しそうに声を揃えた。

 美貌の少年が、あからさまに眉間にしわを寄せる。

 

「いくらなんでも一人相手に数人がかりってのは、卑怯だろ」

 

「うるせぇ! シーティアちゃんに逆らうなっ!!」

 

 取り巻きの一人が美貌の少年に殴りかかる。

 少女は目を丸くした。

 

「コラッ! 私が殴れと言ったのは、そいつじゃない!!」

 

 叫ぶ。が、彼女が心配するまでもなく、美貌の少年はあっさりと取り巻き少年の拳を止めていた。拳をふるった少年を見つめ、彼は声を落とす。

 

「人に向かってあっさりと拳をふり回す奴は、感心しないぞ」

 

 彼はそう言って、取り巻き少年の手を離すと、アレンに向き直った。

 

「行こう。アンタの人探し、付き合うぜ。――シーティアの子分といるよりマシだ」

 

 噴水広場には多くの子供がいたが、彼とウマの合う者はいないらしい。

 一片の未練も感じさせずに言う少年に、アレンはふるふると首を横にふった。彼の事情は分かったが、アレンとて引き下がるわけにはいかない。

 

「君の親切はありがたいが、しばらく一人で探してみるよ」

 

「生憎だがこの街は入り組んでいて、初めての人間ではすぐに迷ってしまう。――と言うか、アンタ本当に家族とはぐれたのか? そこまで(かたく)なに拒絶するとは」

 

 わずかに目を細めて、様子を窺ってくる彼に、アレンは思わず苦笑した。

 双子の姉――シーティアも、疑わしげにアレンを見る。

 

「本当に怪しい奴だな。剣を持っていることだし」

 

 言われて、アレンはハッと腰に差している刀に触れた。――確かに。町中で、子供が持つものではない。

 アレンほどの、特殊な家の事情でもない限り。

 表情を凍らせたアレンの反応を見て気を良くしたシーティアは、整った朱唇をニッとつり上げた。

 

「……面白い」

 

「今度はなにを考えた?」

 

 姉を睨んで、少年――カーマイン・フォルスマイヤーは眉をひそめる。

 シーティアはにんまりと笑った。

 

「おい、そこの怪しい奴」

 

「……随分な言い草だな」

 

 キョトンとするアレンに代わり、カーマインが横から言う。

 

「気にしないでくれ。口と性格が悪いんだ」

 

「……」

 

 姉をそう断言するカーマインを、アレンは首を傾げながら見て、瞬いた。そんな二人の様子が仲良さそうに見えて、シーティアの眦がつりあがる。

 

「そいつは、私のだ。勝手に近づくなと言ったぞ」

 

「だから、いつ、俺がアンタのモノになった?」

 

 一つ一つ、区切って聞くカーマインだが、シーティアは聞いていない。静かに、自分の右手に嵌められた黄金の指輪を握りしめる。

 黄金の粒子となり、シーティアの指輪は一振りの刀へと変化した。

 

「……!!」

 

 アレンの表情に緊張が走る。

 

(物質変化だと?)

 

 子どもが持つにしては、高価そうな金色の指輪。それが光と成って刀に変化した。普通の刀よりも柄が長いそれを、シーティアは慣れた動きで腰の剣帯に通す。

 と、

 刃を鞘から抜き放った。

 

「どういうつもりだ?」

 

 刀の切っ先を見据えながら、アレンは冷静に問う。

 シーティアの動きに無駄はない。

 

(――どこかで、訓練を受けている)

 

 警戒の色が、アレンの瞳に宿った。

 シーティアはニヤリと強気に笑う。顎でアレンが腰に差した刀――業物でもなんでもない無銘の刀を示す。

 

「そんなおかしな作りの刀を持っているんだ。結構やれるんだろう?」

 

「悪いが、俺の剣は見世物じゃない」

 

「聞こえないな。構えろ」

 

 強引なシーティアに、アレンはわずかに目を細めた。風の流れ、気の流れが、彼女の臨戦態勢を物語っている。

 白昼の街中で、剣を抜いてはならない。

 

 そう厳しく教えられているアレンだが、この洗練された動きをする少女を相手に、果たして素手で生き残れるかと問われれば、答えられない。

 アレンはまだ、シーティアの実力の底を計れずにいる

 アレンはゆっくりと息を吐き、刀を構えた。

 

(……少なくとも、ガード流は秘密にしておいた方がいいな。未開惑星のようだし。彼女の気が済むようにしよう)

 

 剣を抜けば、アレンもそれなりに腕に自信がある。それゆえ、そんなことを考えていたアレンにシーティアが、肉食獣のような目で言い放った。

 

「加減は――しない! いくぞ!!」

 

「!!」

 

 アレンの瞳に映ったのは、とんでもない斬戟の網だった。

 

(結構、速い……っ!)

 

 息を飲みながら、アレンは刀をふるう。鋭い斬戟音に散る火花。

 

(――なに!? 今のを防いだ!?)

 

 シーティアも瞳を見開いて驚愕した。城の正規兵とてシーティアの剣を止められる者はいない。それをアレンは止める。一撃でなく連撃。合間にカウンターのような斬撃まで挟んでくる。

 この事実に、シーティアを初め、取り巻きの少年たちが歓声を上げた。

 

「すげぇ……!」

 

「シーティアちゃんの剣を……!!」

 

 だがそんな遠巻きの声など、アレンの耳には入らない。静かに、彼は意識を集中する。

 シーティアがにやりと笑った。

 

「――面白い。父様以外に、私の剣を防げる奴がいるとはな」

 

「少しは、本気を出さないとダメってことか……!」

 

 互いに相手を認め合い、刀を正面に据える。両者、同時に駆ける。中央で激突。互いの攻撃を紙一重のところで捌き、見切りながら一撃を繰り出し合う。

 一際甲高い金属音が成り、広場の中央で二人の動きが止まった。

 鍔迫り合い。

 腕力で、男のアレンが押し勝てない。

 

 はらり……、

 

 シーティアの肩まで流れる美しい髪が、二、三、散った。

 シーティアが朱唇を割る。

 

「――やるじゃないか、お前」

 

「君も、な」

 

「だが、次で決める!!」

 

 シーティアは刀を寝かせ、下段に構える。対するアレンは刀を正面に据えたままだ。

 次の瞬間、

 刀を繰り出そうとするシーティアに――

 

「いい加減にしなさい! シーティア!!」

 

「――ゲッ」

 

 鋭い女性の声が広間に響き渡った。びくりと肩を震わせたシーティアが、罰が悪そうに顔を歪めて、ゆっくりと後ろをふり返る。

 

 アレンも刀の構えを解かぬままに声主を見ると、藍色の髪をポニーテールにした、三十前後の落ち着いた女性が立っていた。女性は、まだ八歳くらいの小さな女の子の手を握っている。

 

「……母さん」

 

 シーティアは、ぐぅ、と唸りながら女性をそう呼んだ。

 

「まったく。街中で、堂々と大立ち周りをするなんて! それも真剣で!!」

 

「あ、あの――これは……」

 

 なんとか言い訳を試みるシーティアだが、彼女の取り巻きの少年たちは

 

「それじゃ! さよなら、シーティアちゃん!!」

 

「またね~!!」

 

 さっさとその場から居なくなってしまった。

 

「お、おい……! ちょっと」

 

「――自業自得だな」

 

 寂しそうな姉に、冷静な弟の言葉が突き刺さった。

 くっそ~と唸りながらしょぼくれるシーティアを、彼女の母――サンドラは一喝し、それからアレンをふり返る。切れ長のサンドラの目は温かみがあり、アレンが見慣れている父の蒼とは、まったく雰囲気が違っていた。

 

「ごめんなさいね。お詫びと言ってはなんだけれど、服を直させてちょうだい」

 

「…………」

 

「大丈夫? もしかして、怪我でも?」

 

 心配そうに覗きこんでくるサンドラと目が合い、アレンはハッと我に返った。なんでもない、と首をふる一方で、自分の袖を見る。

 

(気付かなかった……)

 

 一センチほどの切れ口を握りながら、アレンはうすら寒いものを覚える。サンドラを見上げた。

 

「お気持ちはありがたいのですが――」

 

「子どもが遠慮することはありません。――さあ」

 

「――え? あの、……!」

 

 笑顔のサンドラに手を引かれながら、アレンは戸惑いながらも王都ローランディアの広間から去っていく。

 それを尻目に、シーティアは自分一人だけ怒られたことに頬を膨らませながら、刀を指輪に戻す。

 と。

 

「あいつ……」

 

「ん? どうした、カーマイン」

 

 普段はあまり口を開かない弟が、珍しく力のこもった声でつぶやいた。

 

「あいつ、凄いな……!」

 

「んなっ!?」

 

 そう言ってカーマインは柄にもなく拳を握る。

 瞳をキラキラと輝かせている弟に、シーティアはこれ以上ないほど目を見開き、口を台形に歪めた。

 

 

 ………………

 …………

 

 広場から、アレンはサンドラに連れられて大きなお屋敷に入った。

 洋館とは少し違う、楕円をいくつも重ねたような独特の造形をした屋敷だ。のっぺりとした薄桜色の壁に、鋭角の黄色みの強い赤褐色の屋根。

 壁と屋根の色は、街全体で統一しているのか、どの家も同じである。

 

 ただ、アレンが連れてこられた屋敷――フォルスマイヤー邸は、他の家々よりも一回り大きかった。

 

 王城のすぐ目の前、という立地も印象的だ。

 

「君の家は、貴族かなにかなのか……?」

 

 リビングに通され、シーティアに袖口を切られた上着をサンドラに預けたあと、アレンは思わずカーマインに問いかけた。

 カーマインはアレンをふり返り、答える。

 

「違う。母さんが宮廷魔術師をやってるだけだ」

 

「宮廷魔術師……!」

 

 アレンは上着を持って部屋に引っ込んで行ったサンドラの方を見据え、思わず息を飲んだ。

 

 

 夕食。

 いつもはレプリケーターで簡素な食事を摂っている。だが、このときばかりは違った。

 この場所には、レプリケーターもなにもない。

 袖口を修繕してくれたサンドラに礼を言ったあと、アレンは彼女の計らいで食事を一緒に摂ることとなった。

 

 パンと具だくさんシチュー、それとローストビーフに似た大ぶりの肉料理、色彩豊かなサラダ……。

 食卓に所狭しと並んだ料理を見て驚いているのはアレンだけだ。カーマインとシーティアはこれが普通とばかりに慣れた様子で、小皿にローストビーフやらサラダを取り分けている。

 

 ――といっても、シーティアが8割、カーマインが2割といったところか。

 大喰らいのシーティアに比べ、カーマインの食は普通だった。

 アレンは自分の前に置かれたシチューに目を落とし、それを一つ掬って、口に運ぶ。

 じわりと、体の奥に温もりが沈み込む様な感覚がした。

 

「…………」

 

 アレンは思わず口端を緩める。少しだけ、寂しそうに。

 

「――とても、温かい。懐かしい味がします。シチューが懐かしいというわけではないのですが」

 

「お前の家は、どれだけ貧乏なんだ?」

 

 料理の感想を言うと、シーティアに呆れたように返され、アレンは思わず苦笑した。

 

「そういう意味で言ったんじゃねぇと思うけどな」

 

 カーマインは澄まし顔でシチューを口に運びながらぽつりと言う。シーティアは首を傾げ、眉をひそめた。

 

「ん? どういう意味だ?」

 

 大きな瞳を瞬く少女に、アレンは首を横にふる。

 

「大したことじゃない。気にしないでくれ」

 

「…………そうだな。人の秘密を詮索するほど、下衆な趣味はない」

 

 カーマインは一瞬だけシチューを飲む手を止め、そう言ってまた、スプーンに口を付ける。

 その達観したようなカーマインの所作に、アレンは思わず苦笑した。

 

(ずいぶん、難しい言葉を使う子だな)

 

 “詮索”や“下衆”など、アレンにはまだ耳慣れていない言葉だ。

 カーマインを見てアレンが瞬いていると、スプーンを置いたシーティアが、ふん、とあからさまに鼻を鳴らした。

 彼女は不機嫌な顔でカーマインを見据え、半眼になって言う。

 

「そんなんだから、お前は友達が居ないんだ」

 

「…………」

 

 どうやらカーマインが難しい言葉を使うのは、一度や二度ではないらしい。

 双子のやり取りを見ながら、アレンは心の中で頷いた。

 

「それぐらいにしておきなさい」

 

 サンドラの声がぴしゃりと響き、カーマインとシーティアの動きが止まる。――しかし、ふん、と同時にそっぽを向いた双子は、鬱憤を晴らすように食事を再開し始めた。

 宮廷魔術師の子どもにしては、ずいぶん伸び伸びとした双子である。二人は作法を気にせず、自分が食べたいように夕食を食べている。

 

 それは座る姿勢からスプーンの角度まで、念入りに教育されているアレンからすれば、少し珍しい光景だ。

 

「――アレン君、だったわね。ちゃんと帰る宛はあるの?」

 

 サンドラに問われ、アレンは顔を上げる。少しだけ、視線を下げた。

 

「今はまだ……。しかし、必ず探し出します。お気遣いありがとうございます」

 

 カーマインたちからどれくらい事情を聞いたのか知らないが、アレンに言えることは、この街の中には、父や調査団の学者たちがいないだろうことだった。

 もしかしたら、ロキシたちならば居るかもしれないが。

 

(……だが、ここは俺だけの被害じゃないとガード家に響く……)

 

 アレンはスプーンを握る手に力を込めた。

 失敗は、目標を着実に遠ざけてしまうだけだ。それが――一番怖い。

 考え込んでいると、カーマインが言った。

 

「母さん、こいつが帰る手段を見つけるまで、俺の部屋に泊めてはいけないか?」

 

「……え?」

 

 アレンは瞬く。夕飯を呼ばれたのはサンドラに強く勧められたからだ。

 伝手のないアレンは思わずその言葉に甘えてしまったが、これ以上の負担は出来ればかけたくない。

 そう思ってサンドラを見ると、サンドラは穏やかな笑みを浮かべて、アレンを見つめ返した。

 

「いいでしょう」

 

「ぁの……」

 

 アレンはおろおろと視線を揺らす。なにをどう言えばいいのか分からない。

 帰る方法が分からないのも不安だが、それ以上に未開惑星保護条約が怖くて、街に居たくない。

 けれど――

 

 このシチューが温かいのも、アレンにとっては事実だった。

 

「…………」

 

 俯いて、拳を握る。

 アレンの沈黙を肯定と取ったのだろう。

 サンドラは穏やかに笑って、頷いた。

 

「アレン君、よければカーマインに外の世界のことを教えてくれないかしら? ワケあって、シーティアとカーマインはこの王都から出られないの」

 

「……王都から?」

 

 葛藤を一度脇に置いて、アレンは顔を上げる。

 シーティアがもぐもぐとパンを咀嚼しながら答えた。

 

「ま、事情があってな。お前の事情を聞かない代わりに、こっちも事情を説明してやる義理はないな」

 

「別に大したことじゃないけどな」

 

 カーマインが肩をすくめて続ける。その双子を見てサンドラが苦笑したのと、サンドラの隣に座っている八歳くらいの女の子――カーマインたちの妹が、不安そうに母の袖を引っ張ったのを見て、アレンは視線を下げた。

 

「……そうか。すまない」

 

「なぜ謝る? むしろ、無礼な言い方をしたのはこっちだぞ?」

 

 カーマインは不思議そうに首を傾げた。

 アレンは答えない。

 

「…………」

 

 沈黙していると、カーマインの隣にいるシーティアが、半眼で弟を睨んだ。

 

「なんだか知らんが、ずいぶんと気に入ったようだな?」

 

「ああ」

 

 カーマインはアレンを見て頷き、ふと瞳をキラキラと輝かせた。

 

「カッコ良かったからな!」

 

「!」

 

 アレンは思わず瞬いた。そんな風に自分の剣術を褒められたことは一度もない。どう反応すればいいのか分からず、言葉を探していると、カーマインは更に嬉しそうに言った。

 

「シーティア相手に勝つなんて!!」

 

 無表情だったカーマインの顔が、嬉しそうに輝いている。大きな瞳を瞬く彼に、アレンは苦笑しながら首を横にふった。

 

「いや、あの勝負は引き分けだった」

 

 鍔迫り合いの段階で、シーティアの髪を二、三本さらったのはアレンだ。

 だがシーティアは、いつの間にかアレンの袖口を切っていた。一センチほど。

 シーティアが胸を張る。

 

「違うな。私が勝ったんだ!」

 

「おい、ちょっと待て。それは言い過ぎじゃないか?」

 

 いくら袖口を切られたとはいえ、一応こちらは髪を切っている――というよりは、有効打をどちらも決められていないのだ。

 アレンは眉を寄せた。シーティアが首をふり、言う。

 

「なにを言う! 私が勝ったんだ!」

 

「違う、引き分けだ」

 

「違う、アレンの勝ちだ」

 

 向かいに座るカーマインとシーティアの妹が、きょとんと瞬いている。末の妹はサンドラを見上げる。すると、いつもは穏やかな笑みを浮かべている母も、このときばかりは困った顔をしていた。

 三人の年相応な主張合戦は、これより数刻、続くことになる――……。

 

 

 結局、カーマインの部屋に泊めてもらったアレンは、帰る方法を探すにもなにをすべきか考えあぐねていた。

 自分が最初にいた、噴水広場に行ってみる。

 規則的に揺れる水面を、じっと覗いた。

 当然のことながら、変化はない。

 

「なぁ、アレン」

 

「ん?」

 

 背中から声をかけられ、アレンがふり返ると、そこにカーマインが居た。この国では木刀の代わりに青銅で出来た剣が練習用として使われている。カーマインはそれを、左手に握っていた。

 

「俺も、剣ならちょっとだけ使えるんだ。ちょっと見てくれ」

 

 そう言われて、アレンはこの場で腕前を見せてもらうのかと思いきや、カーマインに連れられて別の場所に移動した。

 母の言いつけをきちんと守っているらしく、カーマインは街の外には出ない。

 

 代わりに、街の南西にある巨大なマンホールに彼は潜り込むと、そこから下水道を通って、しばらく歩いたあとに地上に出た。

 

「どうしてこんな所、通ろうと思ったんだ」

 

 苦笑するアレンをそのままに、カーマインが地上に出るためのマンホールを開けると、太陽の光が目蓋を焼いた。

 アレンは数秒目を細めて、改めて周りを見る。

 

 空き地が広がっていた。

 

 フェンスで柵をした、小さな空き地だ。この下水道を通って、マンホールから出てこない限り、絶対に子どもは近づけない、そんな隠れた小さな場所。

 カーマインはアレンをふり返り、微笑った。

 

「俺の秘密の場所なんだ」

 

 誇らしげに言う彼に、アレンも思わず笑った。大人びた静かな子だと思っていたが、こういう行動的な面もあるらしい。

 カーマインは改めて青銅剣を握ると、言った。

 

「それじゃあ、ちょっと見てくれ」

 

「ああ」

 

 アレンはクスクスと湧き出る笑いを抑えると、一つ頷いて、空き地を囲むフェンスの傍に腰かけた。

 カーマインは青銅剣を正面に据え、静かに一閃。途端、アレンの瞳が見開かれる。

 

「……っ!」

 

 空間が、ハッキリと斬られたと分かるほどの斬戟。しっかりと体重移動した一閃。

 カーマインはそのまま、剣を二閃、三閃し、高速で移動。高く跳躍し、剣をふり下ろし――岩の眼前で寸止める。

 見事の一言である。

 息を飲むアレンを置いて、カーマインは剣を納める。

 

「どういう風にすればいいと思う? これじゃ、シーティアに勝てないんだ」

 

「……誰から教わったんだ?」

 

 アレンは驚きをともかく脇に置いて、尋ねた。

 カーマインが不思議そうに首を捻る。

 

「見様見真似なんだ」

 

「…………我流、……だと?」

 

 ずん、と沈み込む様な痛みが、アレンの胸にのしかかった。聞いてはならないことを聞いてしまった――そんな感覚に、アレンは自分の手が震え始めるのを自覚する。

 カーマインの見事な剣捌きは、すべて彼の才能。

 それはアレンにしてみれば、まったく考えられないことだった。

 

 

「あいつ、私が剣術を教えてやると言うのに、全く聞かず! そんな奴から学ぼうと言うのか!!」

 

 シーティアはフェンス内にある空き地の木の上から、カーマインとアレンのやり取りを見下ろしていた。

 弟は唯一人、自分だけが知っている秘密の場所だと思い込んでいるようだが、シーティアの溺愛ぶりからすれば、こんな秘密の場所を特定するなど容易いのである。

 

 いつもここでのんびりしている弟を見る度、一体いつになったら自分を呼ぶのかとイライラしていた。

 

(それをまさか、あんな奴に先を越されるなんて――!)

 

 シーティアは片手でクッキーをぼりぼりと頬張りながら、不機嫌に頬を膨らませた。

 

 

 アレンがカーマインに教えたのは、ガード流ではなく、基本的な体捌きだった。ガードの動きは特殊過ぎて、見る者が見ればすぐに分かる代物だ。

 ゆえに、“自分が未開惑星に居た”という痕跡を残さないためにも、アレンはカーマインの自由な剣を極力生かせるよう体術を教えたのである。

 ――次々と。

 

 カーマインは一度言うだけでアレンの教えを吸収し、更に自分が動きやすいようにアレンジしてみせる。真新しいスポンジのような吸収力――というのが謙遜に聞こえるほど驚くべき早さだ。

 まだ教えて半日も経たないのに、カーマインはアレンが使う体術の基礎を全て習得しつつある。

 

 まさに剣を握るために生まれたような少年だった。恐らく、自分が六年かけて覚えたガード流を、真剣に教えたなら、カーマインは三日ほどで全て習得し切るだろう。

 そう確信させるほどに、カーマインは優れた才能に満ち溢れていた。

 アレンには、眩し過ぎるほどに。

 

「なぁ、アレン。アレンは、なんのために強くなるんだ? そんなに強いのに、まだ強くなろうとするなんてなんでだ?」

 

 一日稽古してフォルスマイヤー邸に帰る道すがら、カーマインはふと、そんなことを尋ねてきた。

 アレンは首を傾げる。カーマインの意図が読めなかったことと、自力でここまで強くなれた少年が、なにを思うのか、アレンには分からなかったからだ。

 

 なぜ、強くなるのか。

 

 改めて自分に問いかけてみて、アレンは視線を下げる。腰に差した刀が、ずしりと重みを主張した。

 

「……父に認めてもらうためだ。そうしないと、母に会えない」

 

 慎重に言葉を選びながらつぶやくと、今の状況が、鋭利な刃物のようにアレンの心を抉った。一日でも早く、母に会う。

 それが、剣を取る道を選んだときに、母とかわした約束だ。

 その約束を果たす自信が、この訳のわからない場所にきて大きく揺らいでいた。

 カーマインはそんなアレンの背を見つめ、感心したように頷いた。

 

「母さんに会うためか……。なるほど。なんでアレンがそんなに強いのか――分かった気がするよ」

 

「…………」

 

 アレンはカーマインをふり返らない。拳を固く握ったまま、沈黙するだけだ。

 カーマインは一つ頷く。

 

(きっと、切実な目標があるからアレンは強いんだな)

 

 彼はそう理解する。大の大人が束になっても、シーティアには敵わない。年端もいかない少女だが、シーティアの強さは異常だった。カーマインがどれだけ真剣に姉に刃向かっても、最後の最後で必ず競り負けてしまう。

 

 そんな、カーマインにとっては“化物”のような姉を相手に、アレンは互角どころかシーティアの身体の一部――と、カーマインはシーティアの髪の二、三本のことをそう思っている――を切り裂いた。

 

 それも大人ではなく、自分と歳の違わない少年が、そこまで剣術を極めている。

 カーマインにとってそのことは、なにを差し置いても尊敬すべき対象だった。

 

(俺にもそういう――ちゃんとした理由が出来るかな……。どんなに小さいことでもいいから、それでも譲れないってことを、俺は見つけたいな)

 

 アレンの背を見据えて、カーマインは思う。顔を上げたアレンは、複雑な表情でこちらをふり返っていた。

 

「俺からすれば、見様見真似でそれだけ強くなれるお前の方が凄いよ」

 

 そんなことをアレンに言われ、カーマインは首を横にふる。

 

「でもダメなんだ。まだ一回も、アイツに勝てない」

 

「……」

 

 アレンは少しだけ蒼の瞳を細めて――微笑った。

 カーマインには気付かれないように、少しだけ苦しそうに、辛そうに。

 

 地球人は最強でなければならない。

 そのためのガード流だ。

 

 そう教え込まれた剣術は、この双子の前には一介の凡庸な剣に過ぎない、のかも知れない。

 この眩いほどの、才能の前には。

 アレンはサンドラに修繕してもらった袖口を掴み、思考に歯止めをかけた。

 カーマインは言った。

 

「俺は、さ。強くなって、自分の大切な人を守りたい。――でもシーティアに負けるようじゃ、まだまだだな」

 

 カーマインの中にある想いは、まだぼんやりとしたものだ。だがそれでも、アレンに出合って目標のようなものは見えたような気がしていた。

 アレンが――つぶやく。

 

「…………世界は、遠いな」

 

 空は、どこまでも高く澄んでいて、東側が黄昏に染まりつつあった。

 

(俺は……本当に、特務になれるんだろうか……)

 

 倍率は、八億分の一。

 この場で出会った双子が、自分の目標の高さを教えてくれる。

 

 宇宙は、広いのだ。

 

 きっとカーマインのような才能を持つ者は、一人や二人ではない。

 そんな彼らを相手に、アレンはどこまで行けるのか。

 

(俺は、母さんを――)

 

 本当に迎えに行けるのか。

 

 途方もない不安と焦りに、アレンは拳を握りしめた。いくら心配した所で、自分の腕を上げる以外に道はないのだと知っている。

 それでもただ、がむしゃらに前を見て進むには――アレンは、色々なものを抱え込み過ぎていた。

 

 銀河最強であるという証を、必ずガードの家名に据えねばらならない。

 門下二十万人の上に立つことを、アレンは生まれたときから決められている。

 いまはまだ小さな家。それが、どこよりも強力な軍人の家系に成長するようにと――。

 

「そうだなぁ……」

 

 カーマインがしみじみと頷いた。

 カーマインにとっては、シーティアと互角に戦えたアレンはスーパーマンのようなものだ。だが、そのスーパーマンはシーティアのように偉ぶることも、力をひけらかすこともなく、じっとなにかに耐えるように剣を握っている。

 

 その姿はまさにカーマインの中の、理想の剣士だった。

 謙虚さと向上心を兼ね備えた、強い剣士。

 

 だが、そんなアレンでも“世界は遠い”と思うほど、世界は遠いんだなとカーマインは思う。

 王都から一歩も出たことのないカーマインにとっては、“世界”とは、本の中の言葉でしかない。

 

(だからいつかは、アレンのように――)

 

 カーマインはアレンがそうしているように、空を見上げる。

 澄んだ空は黄昏が東から南にまで迫っていて、もうすぐ一日の終わりを告げようとしていた。

 

 

 フォルスマイヤー邸に戻る前、アレンはもう一度、噴水広場に近づいて行く。

 規則的に流れる水の中に、昇ったばかりの月が浮かんでいた。その月が、沈みつつある太陽の光を浴びて赤く染まる。

 と、

 

「っ……!」

 

 目が眩むような強い光を受けて、アレンは咄嗟に両手で目を庇った。

 光が晴れる前――、カーマインがなにか言っていた気がしたが、アレンの耳には届かなかった。

 

 

 

「ここ、は……」

 

 ようやく光が止んだのを確認して、アレンは手を下ろす。と、風に巻き上げられた砂埃が顔に迫り、思わず目を瞑った。

 今度はゆっくりと、周りを見渡す。

 

 無人惑星、ストリーム。

 

 荒野ばかりが広がるその場所は、白い巨大な造形物――タイムゲートのある惑星だ。

 アレンは背中をふり返って、タイムゲートを確認する。

 

「帰って、こられたのか……?」

 

 首を傾げた理由は、「X」状に開いていたハズのタイムゲートが、いつの間にか「一」に戻っていたためだ。

 アレンが近づいても、ゲートは反応しない。

 

「一体どういう……」

 

 要を得ずに立ち竦んだ。数日前にはあった、研究員用のテントも見当たらない。

 ともかく少し歩き回らねば、状況を掴めそうにもなかった。

 

(まさか博士たちも、俺と同じようにタイムゲートで別の場所へ?)

 

 冷汗が浮かぶのを感じながら、アレンはざくざくとストリームの土を踏む。

 と、

 しばらくして銀河連邦軍の科学探査艦が目に入った。

 

「おぉ~い!」

 

 反射的に諸手をふって、科学探査艦に駆けて行く。だがその途中で、アレンはふと、首を傾げた。

 

(乗ってきた艦と違う……?)

 

 そのことに違和感を覚えながらも、探査艦の傍まで行くと、連邦軍服を着た軍人が、アレンを見るなり目を丸くした。

 

「こ、これは……! アレン様っ!?」

 

 連邦軍人はアレンを見るなり、几帳面に一礼する。アレンには馴染みのない顔だったが、軍人の男は、腰に刀を差していた。

 科学万能の世界で、こんな旧時代の武器を持つのは、“ガード流”を使う者だけだ。

 アレンは連邦軍人を見上げ、問いかけた。

 

「父からの迎えですか?」

 

「ハッ。貴方様のお帰りを、誰よりも深くお待ちしております」

 

「……」

 

 アレンはわずかに視線を下げ、頷いた。軍人の背を追って、探査艦に乗る。

 

「あの、博士たちは無事ですか?」

 

 促された座席(シート)のベルトをするなり、アレンは尋ねた。四十がらみの連邦軍人はアレンをふり返り、少し複雑そうな表情を浮かべて頷く。

 

「ええ。問題ありませんでしたよ」

 

「あれから、どれくらい経ちました?」

 

 アレンは次にこう問いかけた。

 カーマインたちの居た場所に、彼は二日滞在したのだ。

 ならば今は――

 

 操縦席に座った連邦軍人は、アレンをふり返って、言った。

 

「今は宇宙暦七六四年。あれから、十二年近く経ちました――」

 

「……え?」

 

 瞬いたアレンは、頭の中が白くなるのを感じた。

 

 ……………………

 ………………

 

 惑星ストリームにあった科学探査艦は、どうやらアレンを迎えるためだけに置かれたものだったらしい。四十絡みの連邦軍人はそうアレンに説明し、すぐに家に帰してくれた。

 

 一週間ぶりに会った父は、驚くほど老けていて、アレンは思わず尻ごんだ。父は相変わらず、表立ってなにも言わないものの、それでも遠巻きにアレンの無事を歓待した。

 

 いつもは質素な夕食が、ちょっとした立食パーティになるほどには。

 

 それでもそれが、連邦政府を握る政治家との交渉の場となっては、有難みも半減である。アレンは密談を交わす大人たちを尻目に、深い溜息を吐く。

 テーブルに並んだ食事は豪華だったが、少しも――温かみを感じなかった。

 

 

 十四歳になったアレンはある日、父の執務室に通された。道場と同じく板張りの部屋は、この時代にあって酷く珍しいものである。

 父、リード・ガードはアレンをふり返ると、重厚な執務机から腰を上げて、言った。

 

「お前に、今日から母をくれてやる」

 

 思いがけない言葉に、アレンは呼吸も出来ないほどに息が詰まった。

 心臓が鳴る。

 ドクドクと、これ以上ないほどに。

 アレンは母のために剣の腕を磨き、母に会うために日々を懸命に生きてきた。

 だから――。

 

「母に、会えるのですか!?」

 

 その言葉は、何物にも代え難い褒美だ。

 アレンは胸に熱いモノが込み上げてくるのを感じながら、父を見据えた。

 ――が。

 

「これがお前の新たな母、シャンディアと、弟のセイルだ」

 

「――え?」

 

 父に促されて、部屋に入ってきたのは、会いたかった母ではなく、母に良く似た面影の――見慣れない女性と、自分よりも年下の少年だった。

 共にブラウンの髪が美しい、上品な物腰の二人。

 

 シャンディアと紹介された女性は、アレンの母と同じシルバーグレイの瞳をしていた。髪型まで母に似ていて、アレンはごろりと固唾を飲む。

 女性の傍に付き添う少年は、大人しそうな子どもだ。シルバーグレイに、父のアイスブルーが少しかかった灰色の瞳。

 

 父と――シャンディアという女性の面影が半分ずつ見られる、十歳前後の少年。

 “新たな弟”。

 アレンは言葉を失った。

 

「新しい……って……」

 

 狼狽するアレンに、優しい笑みをかけたのはシャンディアだ。

 

「貴方の母、エレナのことは聞いています。貴方の気持を思えば、こんな形で貴方と会うことになったのは非常に残念ですが、気をしっかりとお持ちなさい」

 

 なにを思って、シャンディアが残念と言ったのか。アレンはこのとき分らなかった。

 まさか母が、死の病に侵されていたなどと。

 剣術に明け暮れるアレンは、知らない。

 

「……母を、どうされたのですか」

 

 拳が震えるのを感じながら、アレンは父に問いかけた。

 氷のように冷徹な、父のアイスブルーの瞳。アレンにとって父は恐怖の対象だが、それと同時に、立ち向かっていくべき壁であり、目標だった。

 

 母に会うために、父を超える。

 声を落とし、怒りに震える息子に、父が返した答えは、至ってシンプルだった。

 

「今の貴様に、問う資格はない」

 

「……っ!」

 

 アレンは唇を噛んだ。自分が今、どういう心理状態なのか、詳しくは分からない。

 ただ――、

 父の返答が、悔しい。

 

 彼に認められるほどの軍人でなければ、父はまともに、アレンと話もしない。だからアレンは、父に言い渡される任務を忠実にこなしてきた。――ずっと、一人で。

 ガード家の跡取りとして彼を補助してくれる者はいても、作戦実行を手伝う者は、一人もいない。

 ――人を、斬ることさえも。

 

「……、っ……!」

 

 アレンは拳を握りしめ、自室に戻った。

 見上げた天井が、ただ白い。

 

 かならずや、むかえにいきます。

 

 そうアレンが告げたときの、母の笑顔が脳裡を過る。視界が滲んだ。

 十二年――。

 アレンが失ったときの流れは、母を遠い場所にやるには、十分過ぎた。

 陽の落ちた、暗い部屋の中で――アレンは一人、声を殺して泣いた。

 

 倍率は、八億分の一。

 特務候補生の通知がアレンの下に届いたのは、これより数時間後のことであった。




 のちのアレン氏、軍属を離れた途端好き放題する。




ティピ
「第二回!」

フェイト
「あ、ホントに始まりました」

ティピ
「ティピと――」

フェイト
「フェイトが」


ティピ&フェイト「「行く!」」


ティピ
「え~っと。今回はゲストを迎えております! 前回、ラストで言った通りね!」

フェイト
「時空管理局の白い悪魔ことエース・オブ・エース、高町なのはさんです。ハハンッ!
 ――って、『言え』って書いてんだもん!」

 フェイトは『台本』と書かれた冊子を地面に投げ捨てた。

ティピ
「誰も聞いてないわよ?」

フェイト
「……いや、なんか……非難とかありそうじゃん?」

ティピ
「じゃ、言わなきゃいいじゃん」

なのは
「紹介に預かりました。高町なのはです」

ティピ
「こんにちは~! なのはさん! 今日はよろしくね!」

なのは
「こんにちは。こちらこそよろしくね、ティピちゃん。フェイト君」

フェイト
「ハハハッ! なのはさんは大人だなぁ!」

 フェイトは感心したように両腕を組んだ。なのはがきょとんとした表情でティピに問う。

なのは
「それで、今回なんだけど。どういう話をするの? ティピちゃん」

ティピ
「それじゃあ最初に聞くことはやっぱり――なのはさんて、1期の相棒(ユーノ)さんの事どう思ってるの?」

フェイト
「よねぇ!? やっぱりそこよね!!!? 突っ込むべきなの!!!!」

なのは
「あ、あれ? 感想……じゃないの?」

フェイト
「いやいやいや! 感想って言うか、なんていうか……そんなもん後回しにして、絶対最初に訊かなきゃゃいけないことってありますよね? ティピさん」

ティピ
「アンタにしては良いこと言ったわ。フェイト。
 ――ってわけで、どうなの? なのはさん」

なのは
「えっと……ユーノ君とは友達だけど……」

フェイト
「な、んだ……とっっ!!!?」

 フェイトはカカッと目を見開いた。二、三歩、なのはから後ずさる。

フェイト
「そんな馬鹿なっ!?
 ユーノ君と言えば1期(無印)から2期(A’s)までなのはさんの相棒だった人じゃないか!? なんで3期(StrikerS)で消えてるんだ!? って、思った人いるだろ絶対!! 
 その上、その彼をただのお友達扱いとは……これは、キツイ(・・・)
 主人公取っちゃった僕が言うのもなんだけど、キツイ……!」

ティピ
「なんだかユーノさんって、報われないね……」

フェイト
「もうちょっと報われてもいいんじゃいかな……?」
 
なのは
「えっと。それじゃ今回の解説だね」

フェイト
「っ! 軽く流されたよ……!」

ティピ
「この分じゃ、フェイト・テスタロッサ嬢の義兄(クロノ)さんなんて……。しょっぱい世の中ねぇ……」

 ティピとフェイトは感慨深げに空を見上げた。

フェイト
「僕はしょっぱい通り越して、世知辛かったよ」

ティピ
「とまあ、暗い気分はこのくらいにして! 今回のあとがきね!
 ――って、言ってもね……。なんか話題出すような話ある? ここ」

フェイト
「そうだなぁ……。特に、ないかなっ!」

なのは
「いや! なにかあるから! フェイト君!」

フェイト
「あれ? なにかありましたっけ? なのはさん」

なのは
「例えば――そうだな。
 えっと、シャスはどこであのアウグの事を知ったのかな、とか。
 そう言う所って結構、皆知らないと思うんだけど……。どうかな?」

フェイト
「まあ、シャスだからね」

ティピ
「早っ!? 話題切るの、早っ!!!?」

フェイト
「え? これ以上解説必要? そんなことよりさ――」

ティピ
「来たわよ、第一回に続いて『そんなことよりさ』。なによ?」

フェイト
「ゲンヤさんそば食ってたけど、あのそばって手打ちなのかな……」

なのは
「え!? そこ!!? そばなの!? フェイト君!!」

フェイト
「いや。
 描写されていなかったからこそ、伝えたいものがあるんですよ。なのはさん」

ティピ
「きっと手打ちよぉ! だって、管理局のお偉いさんが行くようなトコだもん!
 二佐って言ったら、かなり偉いんでしょ? きっと普通の庶民が汗水垂らして食べるような『かけそば』とは、レベルが違うのよ!」

フェイト
「あんな庶民的な外観でか!? あの店、結構庶民的だったよな!!?
 許せねえ……! なんて嫌味な奴ら何だ……!!!!」

ティピ
「それが金持ちの道楽ってやつよ……」

フェイト
「許すまじ! 金持ち!!」

なのは
「あの……はやてちゃん達、そんな凄いトコ行ってないと思うよ?」

ティピ
「庶民の『かけそば』よりは、絶対高級亭よ!!」

フェイト
「うん。確かに、かけそばよりは高そうだ。でもかけそば食べる人って、お金が無い人と時間が無い人、二通りいるよね」

ティピ
「要するに時間とお金、両方あるのよ。むかつかない?」

なのは
「そういう穿った考えは、良くないと思うけどな。フェイト君、ティピちゃん」

フェイト
「管理局って儲かるんですね……」

ティピ
「ねぇ~! この場にアルフが居たら、きっと『月給いくらですか?』って聞いてそうだよね」

フェイト
「まあ、確実『特務』よりはハードじゃなさそうだよね……」

ティピ
「管理局の方が労働条件良さそうよね。給料下がるかもしんないけど」

フェイト
「ああ、あいつ鞍替えしそうだなぁ!」

なのは
「ふふ、シャスが中央(こっち)に来るんだったら、私達はいつでも歓迎する用意があるよ?」

フェイト
「たぶん無理だな……」

 フェイトはニヒルな笑いを浮かべた。ティピも遠くを見つめて言う。

ティピ
「もしそうなったとしたら、アルフ辞表出すんじゃないかしらね……」


ティピ
「以上! 今回のティピと」

フェイト
「フェイトが行く! でした!!」


なのは
「あの……、私が来る意味あったのかな……?」

フェイト
「なんて言うか、訊きたい事を教えてくれなかったんです」

ティピ
「じゃ、もっかい訊く? ユーノさんとどうなのか?」

なのは
「ティピちゃん達が何を訊きたいのか分からないなぁ……」

 なのはは不思議そうに首を傾げていた。
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