「へっ、結構頑張るじゃねえか。見直したぜ、フェイト!!」
ガジェットをグラーフアイゼンで払いながら、ヴィータは口端をつり上げた。既に三十八機撃墜に成功している。後は数えていない。
「当然! 少し動きが良くなったからって、こんな量産機に主人公たる僕が負けるわけにはいかないからね!!」
「相変わらず、言ってる事は意味不明だが――」
ヴィータは左下から右上に向けてグラーフアイゼンを一閃する。不意を突いて来ようとしたガジェットを粉砕し、その奥にいる大型ガジェットに向けて叫声を発しながら一足で近づき、アイゼンを振り下ろす。
ドゴォォッ、、!
鉄と魔力の衝撃で、大型ガジェットが真っ二つに割れる。ヴィータが飛びのくと、大型ガジェットは派手に爆発して砕け散った。
その大型ガジェットの後ろから、またしても小型ガジェットがわらわらと現れて来る。ヴィータはグラーフアイゼンを構えながら舌打った。
「クソッ。ここは良いが新入り達が気になる」
「数も増えてきてるし、一か所からじゃないみたいだからね、この増援。ならば――」
「ん? てめえ、なにするつもり……――!?」
ヴィータは思わず息を呑んだ。はっきり言って、ちょっと彼女が目を離した隙に何が起こったのか分からなかった。
冷静に振り返る。
すると、
驚くべき事に
「な、っ……、っ、っっ!!?」
絶句するヴィータを置いて、「六人のフェイト達」はヴィータに向けてポーズを決めながら名乗った。
「明るく爽やかな皆の
「クールでニヒルな二枚目役者、2P!」
「輝く知的な光の勇者、3P!」
「学園の風紀は……僕が守る! 4P!」
「ビーチで逆ナン、ヒャッハー! 浜辺のカリスマ、5P!」
「そして! 防御に懸けてはナンバーワン! 甲冑の貴公子、6P!」
「六人合わせて……」
「「「「「「フェイト・六分身!」」」」」」
戦隊ヒーローショーよろしく六人の息は見事なまでにぴったりと一致していた。ヴィータはぽかんと口を開けている。正直、何が起きているのか分からない。
「……、………………」
どうにか理解しようとするが、頭が空転する。常識じゃない。――否、この男。理屈じゃない。
[六人に増えたなら、フェイト。そこに固まってねえで、俺の指示に従って六課のフォワードの所へ行け]
不意にアルフから通信が入り、六人に分身した
「分かった。1P、ヴィータちゃんを任せたぞ!」
何故か茶髪になった「2Pフェイト」は、「1Pフェイト」に向けてそう言った。2Pフェイトは目も黒い。顔立ちはフェイトそのままで、黒い長袖を着ており、膝上まである茶の
その隣で、先程「4P」と名乗ったフェイトが、バーニィシューズを掲げていた。こちらは高校生の制服姿で、白のブレザーにチェック柄のスラックス。髪も目も、1Pフェイトと同じ色である。服装以外、何も変わり無い。
「偉大なるバニ神よ、その加護を我らに与えたまえ!」
そう言いながら、「4Pフェイト」はペタンと地面に腰を落ち着けて、バーニィシューズをダイバーのフィンよろしく装着する。もこもこの白いシューズに制服姿、奇妙な格好だ。ヴィータは何の冗談だと思った。
「さあ、光の勇者に続けぇ!」
「いいや、浜辺のカリスマさ!」
何故か金髪の「3Pフェイト」と、本当にビーチで見かけそうなノースリーブシャツにオレンジの短パン、ビーチサンダル姿の「5Pフェイト」が自己主張を繰り出し合った。
彼等は制服姿の4Pフェイトにならってバーニィシューズを装着すると、時速二〇〇キロで爆走して去って行った。土煙とドキュゥンッと言う音を上げながら、彼等の笑い声が森の彼方に吸い込まれて行く。
「――あいつ等、楽しそうだな」
先程まで濃紺のスーツ姿だったフェイト――1Pフェイトはやれやれと首を横に振った。初めて機動六課に来た時と同じ、彼は白のノースリーブに膝上まである青の
「もう――どうツッコんだらいいのか、分かんねえ……!」
ヴィータは激しく脱力し、地面に伏せる寸前だった。1Pフェイトが言う。
「何て言ってる場合じゃないよ、ヴィータちゃん!」
意外にも正論である。彼の言う通り、ガジェットが目の前に迫っている。ヴィータはハッと我に返るとグラーフアイゼンを構えた。
「お、おう!」
俄然動きの良くなったガジェット達を1Pフェイトとヴィータはコンビネーションで次々と潰していく。さすがに『魂の会話を繰り広げた仲』と豪語するだけあって、
――素直に認めたくはないのだが。
「!?」
そのとき、
「ヴィータちゃん。また別口みたいだ」
「何!?」
あきらかに
「……チッ、次から次へと! これじゃ、キリがねえ!」
ヴィータの前方――十メートルほど先に金色の魔法陣が浮かんでいる。だが陣の紋様が妙だった。
(何だ、ミッド式でもベルカ式でもない。コレは……!)
魔法陣から黄金の光球が三つ現れてくる。最初はバスケットボール大だった光の球がどんどん膨らみ、一メートル近くなっていった。その光から、黒い甲冑を着た騎士が三人、ゆっくりと歩いてくる。身長が高く、肩幅も広い。フルフェイスの兜を被った黒づくめの騎士だ。
「これって……!」
「似てるな。アステアが現れた時の光に!」
「――てことは、コイツ等」
ヴィータの同意を得られ、
「分からねえが、可能性の一つとしては考えられそうだな。――陸士107部隊を襲ったのはテメエ等か!?」
ヴィータの恫喝に、黒騎士は答えなかった。騎士が握っているのは、
「――」
黒騎士は、誰一人として言葉を発さない。
ヴィータは鼻の頭に皺を刻んだ。
「チッ、だんまりかよ!」
「ていうか、コイツ等中身は空っぽいよね? 生ける鎧かな?」
「リビング・アーマーだと?」
息を呑む。その魔物の存在を、ヴィータも聞いた事はある。とは言っても、現実に報告があるわけではなく、御伽話としてだ。黒騎士を改めて見ると、
「……!」
ヴィータは己を奮い立たせる。小さな光を放つ虫が、三体の騎士に取り込まれて行った。ガジェットに溶け込んだ時と同様、騎士の兜の奥――目のある部分から紫色の光が生じる。
と、騎士の全身から紅い光が放たれた。
「なにィ!? 量産型のくせに、パワーアップだと!?」
「――来るぞ!」
ヴィータの合図を皮切りに、二人はそれぞれの得物を構えた。
「……え、っと」
シャマルは垂れ目がちな瞳をぱちぱちと瞬かせる。口許に手をやり、彼女は何度も「6Pフェイト」を見た。青髪、翡翠の瞳――ここまでは「1Pフェイト」となんら変わり無い。ただ「甲冑の貴公子」と豪語するだけあり、彼は青い胸当てを、白のノースリーブシャツの上に装着している。ただ、『甲冑』と称せる部分はその胸当てだけだ。
「シャマル先生は僕が守る!」
誰が問いかけた訳でもないのに、6Pフェイトはそう言って蒼い装飾の付いた聖剣、ファーエルを構える。ちなみに、ホテル・アグスタの玄関口前に陣取っているシャマルの所には、まだガジェットは侵入していなかった。
「あ、ありがとうフェイト君……」
それでも「やる気に満ち溢れた6Pフェイト」を見て、シャマルは乾いた笑みを浮かべるのであった。
「えっと、幻覚じゃないんですよね?」
キャロは大きな青紫色の瞳を瞬かせた。肩までかかるピンク色の髪が、彼女の首を傾げる動作に合わせて
「3Pフェイト」はフェイトの髪を金色にして、薄い黄緑色のノースリーブシャツに、黒のインナーとズボン、それに灰色の
「いい質問だね、キャロ!」
3Pフェイトはキャロに向かって、パチンと爽やかにウインクした。傍らの4P――こちらはフェイトがただ高校生の制服を着ただけの姿――が、グッと親指を突き立てる。
「エリオ達を守りたいという一心で僕は分身を手に入れたのさ!」
「ほ、本当にそうなんですか?」
赤髪の少年エリオは、4Pフェイトの言葉に目を丸くした。新人唯一の男の子である彼も、まだ十歳だ。素直に話を聞き入る少年と、不思議そうに瞬いている無垢な少女を見やって、4Pフェイトは悟りきったような顔で、優しく彼等の頭を撫でた。
4Pフェイトが手にしているのは柄が翼のように広がったインフェリアソードだ。元々は切れ味の無い、頑丈なだけの剣だったが、後にフェイトが職人を伴って鍛冶場で鍛えた業物である。
「エリオとキャロは本当に良い子だな」
自らを『光の勇者』と豪語する3Pフェイトは、どこまでも穏やかな眼差しでエリオとキャロを見ていた。
「――だったらいいね」
「って、どういう意味ですか!」
エリオとキャロの会話の後、だったらいいね、を付けたしたのは「5Pフェイト」だった。これからビーチにでも出かけそうな彼は、白のノースリーブシャツにオレンジ色のハーフパンツ。履物はビーチサンダルと言う随分薄着な人物である。
スバルの突っ込みもなんのその、彼は無駄に爽やかに笑うと、手にしたロングソードを掲げて見せた。こちらも基は大した剣では無い。ただ「六分身」を実現させる為に用意されたフェイトの意地と執念の産物である。
「フェイトさん、本当に人間なんですか?」
ティアナが瞬きながら、「5Pフェイト」に問いかけた。彼女はただ唖然としていて、まだ事態を把握出来ていない。5Pフェイトはサッと青い髪を掻き上げ、キランと白い歯を見せて言った。
「主人公たる者、分身くらい出来るもんさ!」
「…………はぁ……」
もはや言葉もない二人に、5Pフェイトの高らかな笑い声がかけられた。
バーニィシューズに魔剣レヴァンテイン、黒の長袖シャツと膝上まである茶の
「――おお、見つけたよ! シャアアス!」
「……フェイト、歯あ食い縛れ」
アルフはぐっと拳を握りしめるや、問答無用で時速二百キロで駆け寄って来るフェイトにラリアットを炸裂させた。
「ぐぇっ!?」
わざわざ喉仏を狙った一撃に、2Pフェイトは目を見開く。蛙が引き潰されたような声を上げて、ドタンと背中から地面に倒れた2Pフェイトは、体を丸めて喉を抱えた。
無言でのたうつ2Pフェイトを見下し、アルフは眉間にしわを寄せる。
「今、俺は敵の召喚師の所へ向かってる。そんなバニ神の加護を得たシューズで爆走してきたらバレるでしょ」
アルフはそう言って、2Pフェイトが爆走して来た森を見据えた。時速二百キロで爆音と共に走って来るだけあり、彼の通った後には焼けたタイヤ痕ならぬ、バニ神の加護を得しシューズの痕が出来ている。――言うなれば、肉球の足跡が。
「……なるほど、わるいね!」
悪びれず、2Pフェイトは爽やかに言って立ち上がった。この男の「わるいね」ほど軽い言葉は無い。一向に空気を読む気の無い2Pフェイトをぎろりと睨んで、アルフは何度目になるか分からない言葉を告げた。
「殺意が芽生えました」
「ちょ――おま、アイアンクローはよせええええ!」
2Pフェイトの絶叫が、どこまでも森に響いたと言う――。
ホテル・アグスタより北に二十キロメートル。
その地点で交戦しているのは、「1Pフェイト」とヴィータだ。彼等の前には今、三体の黒騎士が立ちはだかっている。
ぶつかれば、黒騎士が圧倒的有利だった。――見た目上は。
「なめるな!」
ドォッと鈍い音を立てて後ろに弾き返されたのは、大柄な黒騎士だ。二体目の騎士が、
「やらすかよ!」
ヴィータはグラーフアイゼンを横に薙ぎ、
「――ヤベッ!」
ほんの一拍子。まるで打ち合わせたかのように二体で終わると思われた波状攻撃は、三体目で集結した。
「――コイツ等!」
「上等じゃないか!」
互いの背を庇い合うようにヴィータと
「――来やがれ!」
ティピ
「第五回! ティピと」
フェイト
「フェイトが」
ティピ&フェイト
「行く!!」
ティピ
「と言うわけで今回もがんばって行きましょう!」
フェイト
「例え閑古鳥が鳴いても、僕たちはNo FAN,No SO!!」
ティピ
「――とまあ、そんなわけでゲストを紹介したいと思います!」
フェイト
「可能性の塊、真の格闘家――通り名は多々あれど、僕の名付けた二つ名はたった一つ! 四次元胃袋少女! それが君だぁあああああ! スバァアアアルッ!!」
スバル
「そんなテンションでいきなり呼ばれても何だかな、って感じなんですけど……よろしくお願いします」
スバルはぺこりと頭を下げた。
ティピ
「よろしくねー。なんだかコイツ、妙にテンション高いのよ」
フェイト
「バカ野郎っ! 燃えなくてどうする!? このクソ寒いアクセス件数、もはや寒いを通り越してヌルイ!! こんな時こそ、No FAN,No SOォオオオオ!!!!」
スバル
「な……なんだかシリーズを通して、凄いメタな発言してませんか?」
ティピ
「妙~に他の所であった『あとがき』が気に入ったみたいね。影響受けやすいからさ。アイツ。さて、今回で第八話。ここまで来ると結構進んで来たけど、どう? スバル。なんか聞きたいことある?」
スバル
「前回のフェイトさんの答えで大体分かってるんですけど……本当に聞きたい事は教えてくれないんですよね」
ティピ
「聞いてみなきゃ分かんないわよ!」
スバル
「じゃあズバッと直球で訊いていいですか?」
ティピ&フェイト
「「ふんふん」」
スバル
「フェイトさんが履いてた――あのモコモコって一体なんなんですか!!!?」
ティピ
「…………どうする? フェイト?」
フェイト
「いいだろう! お教えしよう! スバル!! 良い所に目を付けたね!! あれこそ偉大なるバニ神の加護を得しシューズ! 通称、バーニィシューズさ☆」
スバル
「えっと……履くと、どういう効果があるんですか?」
フェイト
「僕たちの世界には、バーニィと言うとんでもなく足の速い動物が居てね。そいつのスピードやジャンプ力をものの見事に普通の人間でも再現出来る素敵シューズなんだ。――ただし、障害物の多い所では注意が必要だけどね☆」
ティピ
「森林の中で時速二百キロで突っ走れるのは、やっぱりフェイトだからってことだよね」
フェイト
「ちなみに僕は、その筋では名ブリーダーと言われていました。 バーニィは育ててバーニィレースという競馬みたいなお祭りに参加させることも可能なのさっ!」
スバル
「へぇ……! ちなみにそのバーニィって言うのは、今後出て来たりするんですか? 見たいな、バーニィ」
フェイト
「ふっふっふっふっふ。まあ、機会があればね」
フェイトは逆三角形の角が鋭いサングラスを取り出し、目許にかけた。
ティピ
「悪バーニィかよ! 傍迷惑だから止めなさいよね。そういうの」
スバル
「え……? バーニィって怖いんですか?」
フェイト
「これ以上ないほどに愛らしい生物だ! ただしデカイ!(※ジェミティ産)」
ティピ
「五メートル越えてるのを『愛らしい』と言えるのはアンタくらいよ」
フェイト
「なんだよ! マスコットキャラが大きいなんて言うのは、よくある話だろ!? カビゴンに比べれば小っちゃいや!!」
ティピ
「違う話を出すな!! ……って、あれ?
今回は『そんなことより』しないの?」
フェイト
「バカ野郎! バーニィの愛らしさを伝える以外に、主人公として僕が一体何をやるっていうんだ!?」
フェイトのテンションは急激に上がり、それと共にくどくどとバーニィを愛でる話題を展開した。ティピ達がげんなりとした顔をしても、彼は止めない。止まらない。
ティピはぐったりと溜息を吐いた。スバルに向き直る。
ティピ
「なんか変なスイッチ押しちゃったみたいね……」
スバル
「……えっと、どうします? コーナー」
ティピ
「うん。じゃあ、アタシから質問していい? マッハキャリバーって時速何キロまで出るの?」
マッハキャリバーとはスバルの持つ
スバル
「そりゃあ――………………」
ティピ
「それともう一個。それって免許いるんじゃないの? スバル確か十五――」
スバル
「あ、その点は大丈夫です。デバイス持つ為には魔導師認定試験受けないといけませんから。マッハキャリバーを使うに当たっての資格は『魔導師である』と言う事になってます」
ティピ
「へぇ。ちなみにマッハキャリバーって言ってるけど、マッハで出るの?」
スバル
「瞬発力を上げるソニックムーブみたいな魔法を使ったら、出ると思いますよ」
ティピ
「ふぅ~ん。便利よね~魔法って」
スバル
「だからこそ、習得するまでが大変なんですけどね」
ティピ
「なるほどぉ~! 初めてちゃんとしたコーナーになったわね」
スバル
「初めて……ですか」
ティピ
「さて! 次はティアナを招いて、ティピとフェイトが行く!! をやりたいと思います!」
スバル
「えと……ご清聴ありがとうございました。これからも機動六課をよろしくお願いします!」
フェイト
「待て! まだ! まだバーニィの愛らしさを語りつくしていなぁあああああいっっっ!!」
青年の叫びは、今日も響いたと言う。