「――へぇ、敵も対応早いね」
アルフは静かに口端をつり上げた。彼と「2Pフェイト」を囲むように、周りにはガジェットと召喚獣がいる。『召喚獣』と分類されているものの、それは虫だった。甲虫類の中でもテントウムシに似ている。羽は赤と黒の水玉模様では無く、くすんだ黒。触角は金色で、全長五メートルを超えている。召喚師、ルーテシア・アルビーノによって『地雷王』と名付けられた大型の召喚獣だ。
2Pフェイトは大仰に両手を広げ、肩をすくめた。
「お前が遊んでたからじゃないのか?」
「お前のせいでしょ」
「あんな
力の限り叫ぶ2Pフェイトを置いて、アルフは静かに刀の鍔に指をかける。2Pフェイトは反応を返してくれない相棒にチェッとつぶやくと、首を巡らせて召喚獣とガジェットの位置を確認した。
召喚獣――地雷王は、全部で二体。ガジェットの数は、数えるだけで億劫だ。
2Pフェイトは地雷王を見上げ、首を捻る。
「――なあ、アルフ。コイツ等って昆虫評論家に見せたら、いくらなんだろうね? 言うじゃないか、黒いダイヤとか」
「召喚獣がいつまでもおとなしく実在してりゃいいけどな」
「それもそうか。まあ、とにかく――始めようか。僕のレヴァンティンの錆にしてやる!」
言って、2Pフェイトは赤い装飾の付いた魔剣、レヴァンテインを構えた。
ぞくりとアルフの背に悪寒が走る。
「何か……、嫌な予感……?」
アルフは首を捻る。――そう、嫌な予感がする。2Pフェイトの握る魔剣レヴァンテインを見た時から。
ここでアルフは両腕を組み、うんうんと唸りながら考えを巡らせた。魔剣レヴァンティン。名前だけでも嫌な記憶だ。昔の同僚は魔剣の事を、『ど根性バーニィ』よりも酷い代物――と話していた記憶がある。
「あ……」
ぽん、と手を叩いたアルフは、いくらかすっきりした顔で「2Pフェイト」を見た。
魔剣レヴァンテインの効果。
それは――、
敵の防御力を5倍に強化し、
敵の攻撃力を1.3倍に増加させ、
戦闘で得られる経験のほとんどを記憶から消し飛ばし、
味方全員の移動速度を30パーセントほど低下させ、
こちらの戦闘意欲を秒単位で遺憾なく削り取ってくれる――
『最凶の呪われし魔剣』だった。
「!」
カッと目を見開く。思い返した時には手遅れだった。2Pフェイトは魔剣を抜き放ち、その魔剣から、禍々しい
「……やっちゃった」
「いくぞぉおおおおお!!」
やる気に満ちた2Pフェイトの活躍もあって、ここに、生死を分けるバトルが開幕した。
「奥義! ブレードリアクター!」
同じ
「凄い、フェイトさん!」
「……うん!」
満面の笑顔の
曰く、――褒められると伸びるタイプなんだよね、僕! とのことである。
「後はお兄さんに任せろ!」
「ガラクタ共、この子達には指一本触れさせないぞ!」
ビシリとガジェットを指差しながら、自称光の勇者たる3Pフェイトと、自称風紀委員(平)の4Pフェイトが、互いの得物が最も輝く位置に剣を掲げながら、ポージングを取る。六分身をした彼等は、手数こそ増えるものの一挙動毎に、二人以上の
と。
エリオとキャロを守るように布陣した3Pフェイトと4Pフェイトの合間から、エリオが
「待って下さい、フェイトさん」
「エリオ!?」
驚いた表情で振り返る
「僕も頑張ります! お二人にだけ戦わせるわけには、行きません! だって――僕達は仲間なんですから!」
「一緒に戦います! フェイトさん!」
そのエリオに続いて、キャロもグローブ型デバイス、ケリュケイオンを掲げる。二人に共通しているのは、純粋で真っ直ぐな眼差しだ。
「キャロ……。君達」
じぃ~んと体の奥で心が震えるのを感じながら、「3Pフェイト」は目頭を揉んだ。その「3Pフェイト」の肩を優しく叩き、「4Pフェイト」は言う。
「……この世界に来て、僕らは初めて学んだね」
「ああ、『仲間』って共に闘うモノなんだって、ね」
どこか悲哀を込めて、二人の「やる気と感動に満ち溢れたフェイト」は迫り来るガジェットを見据えた。
「ティア、後ろの茂みだ!」
「――はい!」
〈Variable Barret.〉
「シュート!」
5Pフェイトの鋭い合図とともに、ティアナは後ろ二メートル先の影に向かってクロスミラージュを発砲した。
レーザーを放つ寸前のガジェットが、発射口を穿たれて爆発する。ティアナは周囲に神経を張り巡らせながら、前線のスバルと5Pフェイトを横目見た。
(――やっぱり、副隊長と互角に前線で打ち合えるフロントアタッカーとしてだけじゃない。フェイトさんは、
「マッハキャリバー!」
スバルの掛け声と同時、彼女の右腕に嵌まった籠手――マッハキャリバーの二本の分厚いローラーが回転し始めた。5Pフェイトが油断なくロングソードを構えながら、問う。
「僕のカリスマについてこれるかい!? スバル!」
「行きますよ! ウイングロード!」
「よし、上等!」
スバルが地面に拳を打ちつけると、空色の魔法陣が地面に描かれ、彼女の魔力によって『道』が生成された。この『道』はスバルの意志一つでどこまでも長く、高度を気にせず伸び、空中戦が出来ない陸戦魔導師の貴重な足場として重宝される。
「バニ神の加護を得たシューズ」を履いた5Pフェイトは、このスバルの創りだした『ウイングロード』と地面をスバルと共にとことんまで駆けずり回り、戦場を撹乱して、敵に狙いを定めさせず、立ち往生しているガジェットをティアナに撃ち落とさせたり、スバルや自分の攻撃で粉砕していく。
「数が多いからって、こっちには有り余る才能がある! 怯む事は無いさ!」
「はい!」
スバルは頼りがいのある
「フェイト君!」
シャマルの指輪型デバイス、クラールヴィントが敵接近を告げる。蒼い甲冑に身を包んだ6Pフェイトは口許を緩めた。
「――ふふ、他の僕と違って、召喚獣メインの部隊が来るとはな」
6Pフェイトが持つ聖剣ファーウェル。これは全てのフェイトが持つ剣の中では最強クラスの剣だ。切れ味だけなら2Pフェイトの「魔剣レヴァンテイン」の方が上であるが、あれはマイナスの要素が強過ぎて使い物にならない。
それに、この6Pフェイトは、六人の中で最も防御力の高い鎧ヴァルキリーガーブを装着している。つまり、六人の中で「最も安定感のあるフェイト」である。
「分かってるじゃないか」
つぶやく彼の前には、テントウムシに似た甲虫の召喚獣『地雷王』が三体。正面と右斜め前、左斜め前に布陣している。五メートルを超える巨大な昆虫を前に、
「我が手にあるは天帝の剣戟……裁きをもたらす神器なり! ――ディバイン・ウェポン!」
聖剣の刃が白い光に包まれる。突如、空から白い光の羽根が、雪のように舞い落ち、聖剣の刃に吸い込まれて行く。キュィイイイイ、と不思議な甲高い音を立てて、光が光と重なって、更に強い光を発していく。
地雷王の黄金の触角に溜まった雷が、
ただそれだけで、雷は跡形も無く
白い光を放つ聖剣ファーウェルを構えながら、
「ついてなかったね。僕の力は君達の装甲をモノともしない。破壊の力が司ってるのさ」
口の端を僅かに歪め、
文字通りの『消滅』である。
シャマルは目を見開いた。
「この力……! これが、はやてちゃんが言っていた――」
彼女の言葉の途中で、次々と増援が現れた。6Pフェイトをこの先に行かせないように、大型ガジェットのⅢ型が十機以上。残る二体の地雷王を含め、視界を覆うように現れた敵を見据え、6Pフェイトは口端をつり上げた。
「一気に決めさせてもらうよ」
言うと、彼はいきなり地面にうずくまり、左手を地につける。目の前には五メートル強の昆虫型召喚獣、地雷王と二メートル大の大型ガジェット――ガジェットⅢ型。
「フェイト君!」
シャマルは息を呑んだ。
(何、この魔力……!? フェイト君の影を中心に闇が広がって……!)
6Pフェイトの陰から生じた赤黒い闇の渦は、全ての召喚獣の足元に到達した。そろそろと、足音も立てず静かに。
そして、
「無影一閃」
「ストレイヤーヴォイド!」
闇の中を、白い光を放つ聖剣の斬撃が一つ、走った。
瞬間。
闇の渦が
キン、と小さな鍔鳴り音を立てて
「凄い――」
シャマルは口許に両手を添えて、息を呑む。6Pフェイトは彼女を振り返ると、ふふんと得意げに背中を逸らした。
「少しは僕の実力、見直しました? シャマル先生」
「うん……うん! 今のセリフと言い、敵の倒し方と言い、シグナムそっくりだったわ!」
「な、ぬ……?」
満面の笑みで放たれたシャマルの言葉に、6Pフェイトが目を見開く。目玉が零れんばかりに、大きく。
シャマルは彼の動揺に気付かず、手を叩いて絶賛していた。
「あのね、シグナムのデバイスもレヴァンティンって言って、そのシュラーケンフォルムに紫電一閃っていうのがあるの! さっきのフェイト君、それに似ていて、とても格好よかったわ」
6Pフェイトはカッと限界の限界まで目を見開くと、顔を濃くして頬を伝う冷汗を右手で拭った。
「シグナムさん。まさか僕と被るとは……! ヴィータちゃんに引き続き、僕は――貴女に挑まねばならないようだね!」
6Pフェイトはここには居ないベルカ騎士の女性を思い出し、静かな闘争心を燃やすのだった。
「どのお前だか知らないが。今、思い切りディストラクション使っただろ?」
アルフ・アトロシャスの目許が、急に暗くなっていた。場の空気が冷える。ぴしぴしと、周りの木々が緊張に呼応して短い悲鳴を上げた。
しかしそんなプレッシャーも、この2Pフェイトにはまったくの無意味である。
「うん、6Pだねっ!」
2Pフェイトは全身の裂傷を気にした様子も無く、さっと髪を掻き上げる。何もボロボロなのは、この2Pフェイトだけでは無い。移動速度を三〇パーセントほど削り取られたアルフも、全身くまなく傷を負っていた。
アルフ・アトロシャスは目許を伏せたまま、そっと問いかける。努めて、平静に。
「秘匿にしなければいけない力だって、説明しましたよね? フェイトさん」
「HAHAHA、そんな話だったね!」
「…………」
カッとアルフの目が見開かれた。片手で2Pフェイトの顔面を握る。
「いででっ! だからアイアンやってる場合じゃないって何で分かんないかな、このバカ! もう――どうしようもねえな、このバカ!」
「……誰の所為だと?」
「いでででででええええ!」
この顔、本気で握り潰してやろうかとアルフは思った。相変わらず、前線モニタが可能と言う事は、敵もこちらを観察しているのだ。AMFの効果範囲を広げる事は可能だが、あまりに広域な結界を張ると、アルフにまで余計な目が向けられてしまう。
それは避けねばならない。そういう駆け引きの上での行動だと言うのに――
「って、一から十まで説明したのにお前……!」
「ぎゃぁああああ!」
みしみしと悲鳴を上げる顔面を握りしめて、2Pフェイトの悲鳴が森にこだまする。二人がジャレ合っている間にガジェットから容赦の無い
ズドオォッ――!
攻撃力が1.3倍に引き上がったガジェットの光線は『鬼畜』と呼べる程に強力で――
ティピ&フェイト
「「第六回、ティピとフェイトが行く!!」」
ティピ
「と言う訳で、折り返し地点が終了しました!」
フェイト
「この調子で第十回まで突っ走って行こうか!!」
ティピ
「今回のゲストはスバルの相棒、苦労性だとかスバルの嫁さんだとか、色々言われてるよね。機動六課で一番常識のある人だと私は思います。ティアナ・ランスターで~す!」
ティアナ
「えっと……ティアナです。よろしく」
フェイト
「なぁ~んだよ! ティアナ!! もっと派手に行こうぜ!! スバルなんてもっと燃えてたぞ!!」
ティアナ
「いや、フェイトさんとはあんまり絡んで無かったように見えたんですけど……」
フェイト
「ごほんっ! ま、それはそれとして。
どうだい? ティアナ? 本日で第十三話目だけど何か話しとくことあるかい?」
ティアナ
「そうですね……フェイトさん。人間なんですか?」
フェイト
「何、その質問!? 何でそんな心の底から疑問形で見てんの!? 僕のこと!!」
ティピ
「あぁ~……まあ、仕方ないんじゃない?」
フェイト
「ティピちゃんまで、なんで!?」
ティアナ
「では、一つずつ論理的に説明していきたいと思います。
まず第四話目! ヴィータ副隊長とまったく互角に戦いを繰り広げたフェイトさん。ヴィータ副隊長は魔力を使ってとことんまで応じていました。それを真正面から棒っ切れ一つで戦って来たフェイトさんを、私は到底人間には思えませんでした!」
フェイト
「ぼ、ぼぼ……棒っ、棒切っっ!? ティア! それは言っちゃいけな――」
ティアナ
「そして第七話目! 空を飛ぶヴィータ副隊長に、陸戦で追いつけるフェイトさんの足!
バニ神の加護なんていう得体の知れないものを味方にしてるフェイトさん! とても普通の人間とは思えない!」
フェイト
「ちょ、ちょっ!? ちょっ……! バニ神を、バニ神を馬鹿にするなよ!!!?」
ティアナ
「そして最後! 普通の人間は、分身なんかしませんっ!!」
フェイト
「いや! 主人公だからって言ってるじゃないかぁ!!」
ティアナ
「どこの主人公が分身なんてするんですか! 脈絡も無く!!」
フェイト
「なっ……ん、だと……!?」
ティアナ
「以上を踏まえて、私が納得できるように説明して下さい。フェイトさん」
フェイト
「よかろう! では、まずバーニィの愛らしさについて、ティアナに僕の全てを伝授しよう!!」
ティピ
「微妙に論点ずれたわよ!!」
フェイト
「外野の声など聞こえん!!」
ティピ
「ま、いいけどね。――で、他に聞きたい事ある? ティアナ。あの後フェイトに、何か話聞こうとしても無駄だよ」
熱い演説を始めたフェイトを脇に、ティピとティアナはコーナーを続けることにした。
ティアナ
「そうですね。それじゃあ……なんで『ゲヴェル』って呼ばれる人は、皆同じ顔をしてるんですか? 髪型まで丸きり一緒なんて……。正直、それが百人もいるとなると不気味になると思うんですけど」
ティピ
「まあね! とりあえず、普段の連中は仮面と言うかアイマスクみたいなものを付けてもらってんのよ。それでもまあ……全員揃うと、異様な光景ではあるよね。で。質問その二なんだけど、なんでゲヴェルが同じ顔をしてるのかって言うと、全員同じ細胞から生まれてるからなのよ。所謂クローンみたいなものね」
ティアナ
「じゃあ、アステアさんやカーマインさんって……」
ティピ
「『ゲヴェル』って言う化物から生み出されたクローンってことになるわね。本人達は全然気にして無いけど。……まあ、百人も居たら、本人達が特別性を感じないのは仕方ないとは思うけどね」
ティアナ
「な、なんだか……デリケートな話題をサラッと流されたような気がする……!」
ティピ
「まあ、どうしてもその話を知りたいって言うなら、本編であるかもよ?」
ティアナ
「なるほど……。でも、本当に異世界にはいろんな人達がいるんですね」
ティピ
「あったり前じゃない! アンタ達の世界にだって、いろんな人がいるでしょ?」
ティアナ
「そうですね」
ティピ
「早く一人前になって、皆を守って行けるようになってよね。ティアナ! 応援してるから!」
ティアナ
「はいっ!」
ティピ
「以上! 今回のティピとフェイトが行く!! でした~!」
フェイト
「最近僕、仲間外れ多くねぇええええええ!?」
青年の叫びは、涙と共に散って行った。