連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

129 / 156
11.狂人。

「――言い訳を聞こうか?」

 

「1P! ナイス!」

 

 アルフの拳は震えていた。いつも通りの無表情だが、紅瞳は本音を語っている。鋭い刃の様な殺気が2Pフェイトの背中に向けられているが、2Pフェイトはやはり気にしなかった。彼は1Pフェイトに向けて、グッと親指を突き立てる。

 アルフは深い溜息を吐き、首を横に振った。

 

(最早会話すら不可能だったとは――)

 

 半分察しがついていたが、残念でならない。

 

「さて、どうするか」

 

 つぶやくものの、やる事自体は決まっていた。何故ならアルフの前には騒ぎを起こした張本人――召喚師ルーテシア・アルピーノが居たからだ。

 

「貴方達が、ドクターの言ってた異端者?」

 

 ルーテシアは薄紫色の髪をなびかせて、小首を傾げる。年齢は十歳前後。小柄な彼女を目に留めた瞬間、アルフと2Pフェイトの表情が凍りつく。

 

また(・・)幼女か……!」

 

 二人はウンザリとした表情(カオ)で、額に手を添え首を横に振る。見事なまでに息が揃った。ルーテシアの周りには、ガジェットが十数体。肩に、烈火の剣精と呼ばれる融合騎――体長三十センチの蝙蝠の羽を持つ赤髪の少女、アギト。傍らには、四十絡みの巨躯の男がいる。

 

「……へぇ」

 

 アルフは口端をつり上げ、男を見据えた。静かな男だ。野暮ったい印象を受ける焦茶色の髪はぼさぼさで、精悍な顔に浮かぶ唇を真一文字に引き結んでいる。瞳の色は青。切れ長で、男らしい太い眉をしている。肩幅の広い彼は黒と茶色の飾り気の無い服の上に、焦げ茶色のコートを着ていた。裾は擦り切れてボロボロだが、左手に嵌めた鉄の籠手と、両足の金属靴(グリーブ)にはきちんと手入れが施されている。

 

「ルーテシア、下がっていろ」

 

 男はルーテシアに言うと、槍を構えた。エリオが持っているデバイス、ストラーダとは違い、穂先が刃になった薙刀に近い槍だ。

 槍斧、ハルバード。

 それを手に男はアルフと相対する。両者の間合いは、三メートル。距離的に、男に利がある。アルフは刀の鍔に手をかけた。

 

「旦那、私も手伝うよ!」

 

 蝙蝠の羽を背中に生やした三十センチの剣精、アギトが赤い髪を揺らしながら主張した。男は視線すらアギトとルーテシアに向けない。

 それは、アルフも同じだった。

 空気が張り詰める。

 

「フェイト、雑魚は任せた」

 

 互いに間合いを、踏み込むタイミングを測りながら、じり、じりと摺足で睨み合う。男は無表情。アルフは微笑。

 両者に共通するのは――壮絶に研ぎ澄ませた、青瞳と紅瞳の輝き。

 

「ええ!? 僕も、あのいぶし銀なオッサンと戦いたいぞ! こう、ボスって感じじゃないか」

 

「だから――俺が、やる」

 

 2Pフェイトの主張を軽くあしらって、アルフは一層笑みを深くする。妖艶な色香が漂い、それを見咎めた青年(フェイト)は口を台形にして、押し黙った。

 

「旦那……!」

 

 アギトは息を呑んだ。喉が急速に渇く。空気が肌に突き刺さり、背中がぞくぞくと震えた。体の芯から凍えるような強烈な悪寒。ルーテシアもまた、固まっている自分に気付いた。

 

(……なに?)

 

 震える手を見下ろす。

 銀髪の青年から放たれる、強烈な圧迫感(プレッシャー)に、彼女は恐怖している。茫洋とした仮面を脱ぎ捨てた彼は、まるで抜き身の刃だ。

 

「さあ、始めようぜ」

 

「――押し通る」

 

 巨躯の男、ゼストは動じない。動じている場合ではない、と言った方が正しかった。対峙する二人の男を見据え、剣精アギトは意を決してゼストに飛び込んだ。

 

(旦那は、やらせねぇ……!)

 

 、、、カッ!!

 

 次の瞬間。

 光が閃光弾のように広がり、ゼストの全身から、赤い煙が揺らめいた。焦茶色の髪は金色と化し、静かな青瞳は赤瞳へと色を変える。

 アルフはそれをジッと見据え、薄笑った。ゼストの内にある魔力量が、爆発的に跳ね上がる。全身から湧き出る煙のような炎は、古代ベルカの融合騎――アギトの炎だ。剣精と(うた)われるアギトは、魔法使いと融合(ユニゾン)する事で、融合した相手の身体能力と魔力を底上げする。

 

 ――すまん、アギト。

 

 念話で、ゼストは剣精に礼を言った。短く、無愛想な礼だ。だが、その言葉に偽りはない。ルーテシアとアギトに視線を向けなかったのは、気を抜けば斬られる(・・・・)からだ。その上、ゼストは大きなハンデを抱えている。

 

 身体が一定時間以上動かないと言う、この上ないハンデを。

 

 ゼストの体調で、この男(アルフ)を仕留めるのは極めて難しい。融合して初めて、アギトにもゼストが感じている恐怖が伝わって来た。目の前の殺気は、尋常ではない。ゼストは背中に感じる悪寒を、胆力で抑えつけている。

 

〈な、なんのなんの……! 旦那は私が守るんだ!〉

 

 アギトは声が震えるのを感じながら、虚勢を張った。

 と。

 無造作にアルフは無名(カタナ)を抜き放ち、ゼストに駆けだす。

 体にぴったりと腕を付けた突き――疾風突き。風を巻き、強烈な気を纏って走る突きを、ゼストは長柄で横に流し、捌いた。ゼストの槍にアギトの炎が宿り、間髪入れず、アルフの足許を払うように穂先を薙ぐ。

 アルフが飛びあがると同時、兜割と呼ばれる上段からの一撃を見舞う。黄金の刃は青空で煌き、ゼストは、ぐ、と息を呑んで、バックステップした。金の斬閃が眼前を通り過ぎるのを静かに見る。

 アルフの着地際を狙って、ゼストはすかさず突きを放つ。アルフが脇に避けると、ゼストの槍の穂先が、無数に分身して見える程の速さで放たれた。アルフは突きの弾幕を前に、にやりと嗤う。

 飛び込んだ。

 まるで針に糸を通すように、槍を逃れるわずかな安全地帯を見つけ、彼はゼストに急接近する。

 

〈旦那! コイツ!〉

 

(ああ、普通の神経じゃないな――)

 

 槍の穂先がかすり、炎で服は燃えているのに、アルフはまるで気にしない。

 躊躇が、無い。

 その戦い方は、自らの破滅を望むようで――

 

〈だ、旦那!!〉

 

「――この男」

 

 アルフは刀の届く間合いに入ると、無名(カタナ)を両手で握る。紅瞳が狂気で光る。

 

「夢幻」

 

 神速の四連斬。ゼストはその全ての斬戟を、槍の柄の部分で捌き切った。横薙ぎを槍の穂先を下段から引き上げて弾き、2撃目の上段からの振り下ろしは、柄先で刀の腹を払って、自身の体の脇の空間にズラす。水月を狙った3撃目の突きは槍を横に寝かせ、柄の中央でしっかりと止める。同時、アルフの4撃目、両手での右袈裟がけが放たれる。

 対して、ゼストは槍の穂先を横に薙ぎながらの突進。両者交差後方気味にすれ違う。

 

「……ゼスト……!」

 

 ルーテシアは息を呑んだ。近接戦闘は素人である彼女は、彼等の動きのほとんどが見えていない。敵に背を向けて立っているゼストの肩から、血が流れた。見ればその全身に、先ほどの攻防による傷跡が無数にある。ゼストは静かに向き直る。アルフもまた、肩から血を流して笑っていた。

 

「――いいね、アンタ」

 

 容赦ない斬撃、躊躇ない前進。この二つを実行する彼に、多くの者が敵対し、独特の緊張に身をすくませて死んでいった。アルフは傷を気にしない。怯まない。それ故、相手に一撃必殺を常に強いる。コンマ数秒気を抜けば、人生が終わる。様子見の中に、必殺一撃が隠れている。そんな恐怖を――ゼストは、まさに精神力だけで耐える。戦いの中で破滅を望む、狂人と戦う恐怖を。

 アルフは流血すればするほど、紅瞳の凄みを増した。ゼストの頬に、冷や汗が伝う。驚くべき事にこの男は、生死の懸かった緊張を楽しん(・・・)()いる。

 並の神経では無い。

 

「お前を倒すには、出し惜しみをしている場合ではないようだな」

 

「そう言う事だ。そろそろ、他の奴らもこっちに近づいてくるだろうしな」

 

 ホテル・アグスタに待機している機動六課を指し、アルフは警告するような口ぶりで言った。この男は、あくまで『勝負』を望んでいる。鮮烈で、際どい勝負を。

 ゼストは槍を構え直した。

 

「アギト、融合を解除しろ。俺がフルドライブで、一撃で落とす」

 

 これ以上の緊張は、融合しているアギトの精神力に関わって来る。ゼストはゆっくりと肩幅に足を開き、狂人を見据える。己の内で、剣精アギトが声を張り上げた。

 

〈冗談!? フルドライブなんか使ったら、旦那の身体は――!〉

 

「終わらんさ」

 

 アギトを制して、ゼストは言う。

 前進する為に、命を張るのだと。

 

「為すべき事を終えるまではな!」

 

 神経を最大限に尖らせ、ゼストは突きの構えを取った。アルフもまた、構える。

 間合い、二メートル弱。

 

〈ふっざけんなぁ! 旦那の事は、私が守るって言ったろ!?〉

 

 アギトは力の限り吠えると、己の魔力を限界まで高めた。アギトと融合した状態で、ゼストが全力を出せない理由は、二人の相性があまり良くない所為だ。攻撃のタイミングがわずかにズレる(・・・)。肝心の衝撃(インパクト)が分散しては、満足な一撃とは言えない。例え身体能力は強化されたとしても、だ。

 アギトは首を振ると、両手を広げた。

 

〈旦那の命は削らせねえ! アタシが必ず、その分を補って見せる!〉

 

 彼女の掌に炎が宿る。それは彼女自身よりも大きい炎で、パンッと手を叩き合わせると同時に、さらに膨れ上がった。

 

〈猛れ炎熱! 烈火刃!〉

 

 ゴゥッと音を立てて、灼熱の炎がゼストの穂先に宿る。それをジッと見据えて、アルフは言った。

 

「どちらでもいい。殺ろうぜ……、真剣勝負を」

 

 彼は楽しそうに言う。紅瞳が妖しく揺らめき、匂い立つような色香が漂う。ゼストは目を細めた。

 

「お前も、他者には理解できぬ渇きを持つ者か」

 

「世間で言えば、はみ出し者」

 

「正しく――異端者」

 

 チャキ、と金属音を立てて、両者得物を構え、視線をそらさない。

 

(全力で行く)

 

 アギトには悪いが、ゼストにはこの男に勝つ方法はそれしかない、と確信していた。

 だから、

 

「――すまんな、アギト」

 

〈旦那!?〉

 

 アギトが驚いている間に、融合(ユニゾン)が解ける。野外に放り出されたアギトは、覚悟を決めた騎士、ゼストに向けて手を伸べた。

 

「旦那……――!」

 

 悲鳴に近い叫び声。

 アルフは静かに刀を正眼から、地面に寝かせるように構える。互いに踏み込み、一閃。

 

「なっ……!? 剣速が上がった!?」

 

 2Pフェイトはゼストの動きに目を見開いた。見た目上、ゼストは通常時となんら変わらない。焦茶色の髪、青い瞳だ。アギトとの融合(ユニゾン)が解けた事で、全身を覆っていた炎も無い。

 なのに、

 

(――威力も段違い? これが、奴のデバイス――)

 

 同じタイミングで振り切られた槍の、その重み(・・)が変わっていた。

 刃を交えたアルフが目を見開く。彼の胸が、袈裟がけに斬り捨てられていた。黒いスーツに、赤黒い血の線が滲む。水音を立てて、血が地面に零れ落ちた。

 アルフはにやりと嗤った。

 

「急所をあのタイミングで外すとは、な」

 

 背中で、ゼストが息を呑みながら言う。すぐさまアギトが飛びついた。

 

「旦那……!」

 

 彼女を脇にやって、ゼストはゆっくりとアルフを振り返った。胸を深く斬られたのに、この男は傷を庇いもしない。

 

「――いや、ソレだけではない、な」

 

 ゼストは自分自身を見下した。足許に、血溜まりが出来ている。胸を斬られたのは、ゼストも同じだ。彼の胴には一線、刀傷が刻まれていた。

 アルフは嗤う。美しいが、狂った笑みだった。

 

「やるじゃん、殺ったと思ったんだが」

 

「紙一重、か。際どい勝負だったな」

 

「?」

 

 ゼストの静かな言葉に、アルフは心底不思議そうに首を傾げて――ふ、と鼻を鳴らした。

 

「何言ってやがる」

 

 アルフは静かに、血が噴き出る胸を隠そうともせず、刀を構える。紅瞳の狂気は、死に近づけば近づくほど鋭く光る。

 

「貴様……!」

 

 ゼストは息を呑んだ。どちらも致命傷。ここで両者退けば助かる可能性があるが、退かねば両者とも、確実に死ぬ。

 だと言うのに、

 

「ここからだろ? ――ここからが、『勝負』だろ?」

 

 彼は楽しそうに嗤っている。死ぬ(・・)と言う状況を楽しんでいる。

 アギトの顔から血の気が失せた。

 

「な、何言い出すんだよっ! てめえのその傷だって、ほっといたら致命傷じゃねえか!!」

 

「だから、出来るんじゃねえか」

 

 彼はそう言い、ゼストに槍を構えろと言う。命を惜しいとも思わない、殺人鬼の瞳で。

 

「本当の、勝負ってやつが」

 

「!?」

 

 低く落ちたアルフの声に、アギトとルーテシアは戦慄し、言葉を失った。カタカタと耳の奥で音が聞こえた。それが歯の根が擦れ合う音だと二人が理解するには、眼の前にある恐怖は強烈過ぎた。

 真っ青な顔で、それでもどうにかゼストを庇おうとするアギトを制して、ゼストは槍を構える。

 

「……アギト、退がっていろ」

 

「だ、旦那……!」

 

「お前まで付き合う事は無い」

 

「――駄目だ、旦那だって……!」

 

 アギトの瞳には涙が浮かんでいた。彼女の言う通り、全力で魔力を使った反動で、ゼストの身体はもはやガタが来ている。槍を持つのがやっとの状態――それでも、ゼストはアルフに応える。

 血を吐く寸前の、自分の身体に鞭打って。

 

「アルフ・アトロシャス」

 

「――ゼスト」

 

 互いに、名乗る。次の瞬間、アルフとゼストの前に人影が現れ、右拳をアルフに放つ者が居た。その威力と速度はアルフをして後方へ退がらざるを得ない一撃。

 

 ゴッ――……!

 

 鈍い音を立てて、アルフの身体が後ろに退がった。ずざざ、と着地とともに彼は地面を掻く。

 

「ガリュー!」

 

 アギトの表情が明るくなる。全身黒ずくめの人型の召喚獣は、小さな目が四つある赤いマフラーを巻いた猛者だ。主に近接戦闘を得意とし、体の一部を変化させる事でいかな武器をも作り出す――ルーテシアが最も信頼する召喚獣。

 ルーテシアはガリューを一瞥すると、ゼストの裾を引いた。

 

「……ゼスト、ここまで」

 

「この男が、ここで俺達を見逃せばの話だな」

 

 ゼストは警戒を緩めない。そしてそれは、加勢に来た人型召喚獣――ガリューもそうだった。

 強制的に後方へ退がらされた狂人は、喉を鳴らして紅瞳を上げる。

 

「良い所で邪魔しやがって……。まあいい。二人まとめて――潰す」

 

 刀を構え直すアルフの耳に、叫び声が届いた。

 

「シャアアアアアス!! 1Pが、1Pがああああああ!!」

 

 この場の緊張感を一瞬でぶち壊す、2Pフェイトの叫び声だった。鬱陶しげに眉間にしわを刻み、アルフは不機嫌そうに2Pフェイトを振り返る。

 

「あ? お前の本体がどうしたって?」

 

 そのとき、ゼストの足許に紫色の魔法陣が広がり、目を離した一瞬の隙に、ルーテシアの転移魔法が発動した。

 

「あ……!」

 

 消えて行くルーテシア達に向け、アルフがきょとんと瞬いた時には全てが遅い。完全に取り逃がしていた。

 

「………………」

 

 アルフはがっくりと肩を落とした。

 右手で顔を覆うと、深い溜息を吐く。改めて、2Pフェイトに向き直った。

 

「何のつもりだよ、フェイト」

 

 言いながら、紅瞳を茫洋としたものに変える。

 ふと(アルフ)は目を見開いた。驚くべき事に、2Pフェイトの身体が半透明になり、消えて行こうとしている。

 

「は?」

 

 アルフは自分の目をこすった。もう一度2Pフェイトを見る。胸の辺りまで透けている2Pフェイトは、やれやれと頭を振りながら答えた。

 

「どうやら、1Pの奴、敵に捕まったみたいなんだよね」

 

「――さらわれた、と?」

 

 問うと、2Pフェイトは、ご名答! と叫んで右手を掲げた。その手に、バーニィシューズが握られている。

 

「とりあえず、バニ神の加護を得たシューズはお前に渡しておく。――後は頼んだよ! シャス!! 必ず助けに来いよ!!」

 

 パチパチッと高速ウインクを連続で行って、アイコンタクトを強要する2Pは、バーニィシューズをアルフに押し付けると、完全に姿を消した。

 嵐の後の静けさ、とでも言うべきなのか。静けさを取り戻した森の中に、置き去りにされたアルフは、ぼんやりと“バニ神の加護を得たシューズ”を見下ろした。

 

「――いや、どうしろと?」

 

 そうぽつりとつぶやいた。一体フェイトの身に何が起きたのか、彼はそれさえ把握していないというのに――。

 

 ××××

 

 2Pフェイトが姿を消す数分前。

 青年(フェイト)――1Pたる本体のフェイトは、森を歩いていた。何故歩いているのか? それは負傷したヴィータをシャマルに預け、ヴィータにバーニィシューズを進呈したためだ。赤いゴシックドレスを纏う『鉄槌の騎士』は、膨らんだメロンパンの様な帽子の左右に、白いウサギのアクセサリーを付けている。青年(フェイト)はそれを見てヴィータが『ウサギ好き』と勝手に結論付け、怪我をさせてしまったお詫びの印にバーニィシューズを彼女にあげた。

 

「ともかく、だ。早く僕が駆けつけてやらないと2Pのレヴァンテインはマジ鬼畜だからな。二人ともやられてないといいけど」

 

 ガジェットはともかく、あの黒騎士を相手にレヴァンテインのマイナス効果は絶大な枷だ。青年(フェイト)はやれやれと首を横に振った。

 

「ホント、世話が焼けるなぁ。あの二人、はっ!?」

 

 突如、後頭部に鈍痛が走った。青年(フェイト)は目を見開く。一体何が起きたのか分からない。ただ彼は目を見開いて――スローモーションに顔から地面に激突した。

 

「ふげっ!?」

 

 珍妙な奇声を上げて、くずおれる。体を動かそうとするも、何故か手足がビリビリと痺れて動かない。

 

(い、一体僕の身に何が――!?)

 

 周囲に目を向けたかったが、首もやはり動かない。オロオロとどうしよう、どうしようと早口につぶやく。

 茂みの中から、一人の少女が現れた。栗色の髪を膝まで伸ばした十代後半の少女だ。(うなじ)で髪を一つにまとめ、彼女は手に身長と同じ高さの銃を握っている。――狙撃用のライフルだ。多分、あれで撃たれたのだろう。少女は青いライダースーツを着ており、バランスの良い肢体がスーツ越しに映えた。

 ナンバーⅩ、ディエチ。

 そう名付けられた少女は、青年(フェイト)の許に来て膝を屈めると、麻痺して体が動かない彼にこう言った。

 

「……本当に、四番(クワットロ)の言った通りだ」

 

(なぬ?)

 

 青年(フェイト)は首を捻る。聞いた事も、多分会った事も無い人物の名前だ。

 

「クワットロって? それに君は一体……?」

 

 問うと、ディエチは驚いたように目を丸くした。

 

「麻酔弾を喰らったのに喋れるの?」

 

「僕だからね!!」

 

 キランと目を輝かせて答える。ディエチはジッと青年(フェイト)を見つめて――一つ、頷いた。

 

「でも、体は動かないみたいだ」

 

 確かめるように、彼女はライフルの銃底で、つんつんと青年(フェイト)をつつく。あ、コラ! やめろ! と騒ぐ青年(フェイト)はディエチが言った通り、四肢の自由が効いていないようだった。

 

「あの黒騎士を相手に凄い動きだったから、本当は当たるかどうか心配だったんだけど……。クワットロの言った通り、戦ってない時は完全に油断してるんだね」

 

「僕はON/OFFを切り換えられる人間だからねっ! 真・フェイトになるのは、そう簡単なことじゃないのさっ!」

 

 十番(ディエチ)は頷き、巨大な黒いトランクケースを取り出した。

 

「そっか。じゃあ悪いけど、私と一緒に来てもらうよ」

 

「へ?」

 

 青年(フェイト)がパチパチと翡翠の瞳を瞬かせる。彼女が持っているのは、八角形のトランクケース。まさかとは思うが、この中に収容しようと言うのか?

 青年(フェイト)はカッと目を見開いた。

 

「ぬぁああああ!? やめろ! ショッカー!! こんな狭い箱に――まさか僕を、箱詰めにするっていうのか!? やめろっ!! ぬぁああああ……!!」

 

 抗議した通り、ディエチは青年(フェイト)の身体をすんなりと抱え上げると、トランクに詰め込んだ。小さく体育座りをして、やっと青年(フェイト)が納まる大きさだ。

 彼はカッと目を見開いた。

 

「鉄パイプ! せめて鉄パイプ! 鉄パイプだけは僕と共に連れてってくれぇえええ!!」

 

 無慈悲にも背中から引き抜かれた鉄パイプを見据えて、青年(フェイト)は心の底から懇願した。箱詰めを終えた少女が、トランクケースを閉める寸前で問いかける。

 

「大事な物なの?」

 

「僕の魂です!!」

 

 即答する青年(フェイト)にディエチは一つ頷くと、分かった、とだけ告げた。

 箱詰めにされた青年(フェイト)はトランクの中で、暗いよぉおおお、と騒いでいる。それをどこ吹く風と無視して、ディエチはⅡ型ガジェット――飛行タイプのガジェットにトランクを乗せると、通信を入れた。

 

「無事、確保出来たよ」

 

 やや間が合って、モニタ画面が中空に現れた。

 

[確認したわ。三番(トーレ)の方もタイプゼロの捕獲に成功したようなの。空で合流して]

 

「了解。一番(ウーノ)姉」

 

 モニタに映る長い紫色の髪の女性、(ウーノ)に頷くと、ディエチはそこで通信を切った。

 ふと彼女は思い出したようにパチリと瞬いて、青年(フェイト)が主張していた鉄パイプをⅡ型ガジェットに乗せる。

 

「それじゃ、トーレ姉の所までお願い」

 

 そうⅡ型ガジェットに話し掛けながら、ディエチもⅡ型ガジェットに搭乗した。ガジェットは言語を理解したように高度を上げ、ホテル・アグスタから遠退いて行く。

 

 

 アグスタから四〇キロ離れた海上。

 

 

 そこで空を走る女性(トーレ)と、ディエチは合流した。

 (トーレ)は、ウーノと同じ色の紫の髪を、短く切った凛々しい女性だ。飛行技を習得しており、ディエチのように飛行(Ⅱ型)ガジェットを利用せずとも、空を自由に飛べる。トーレもまた、ディエチと同じ青いライダースーツに全身を固め、左手に黒いトランクを握っていた。

 

「お疲れ様」

 

 ディエチが声をかけると、先を行っていたトーレが、こちらを振り返って無表情に言った。

 

「ディエチか。……ドクターの所まで戻るぞ」

 

「うん」

 

 厳しい性格の(トーレ)は、愛想と言うものを知らない。

 足許がふわふわするよぉおおお、と叫ぶ青年(フェイト)と違って、トーレの持つ黒いトランクは無音だった。

 

 ……………………

 ………………




ティピ
「第八回! ティピと!」

フェイト
「フェイトがぁ!」


キャロ
「行きます!!」


フェイト
「がぁ~ん……!」



キャロ
「えと……タイトルコールって緊張しますね……」

フェイト
「何言ってるんだい! バッチリだったよ!」

ティピ
「ちょっとトチってくれると思ったのよね?」

フェイト
「まあ……ちゃんと言えたキャロはキャロで嬉しそうだし、かわいいから――いっか!」

ティピ
「しかしま~、フェイトぉ……。今回の本編、ちょっとばっかし不甲斐なさ過ぎじゃない?」

フェイト
「言ってるじゃないか! ON/OFFを使い分けるのは難しいんだよ」

ティピ
「まあ、いいけどさ」

キャロ
「そう言えば、この時フェイトさん。さらわれたんですよね。ごめんなさい……私達がもっとしっかりしてたら」

フェイト
「君が気にする事はない! キャロっ!! あんな森の中で、長距離砲ぶっぱして来るなんて誰が思うんだい!?」

ティピ
「箱に詰められたしね」

フェイト
「暗かったんだよ……。フワフワするんだよ……! グスッ」

キャロ
「フェイトさん、元気出してください」

フェイト
「ありがとう……! キャロ!! 本当にありがとう……!! エリオとキャロは、僕の癒しだ~!!」

ティピ
「さて。グダグダはこれくらいにして、何か話しなさいよ」

フェイト
「それじゃあ、訊いてみようかな。 
 召喚術って言うけど、召喚できる種類って術者によって決まってるのかい? 例えば今回、敵で出て来たルーテシアとか、系統が昆虫だろ?」

キャロ
「はい。生まれ育った環境や、血筋で召喚できる系統は決まるみたいです。
 でも、どのクラスの召喚獣を呼び出せるかは、召喚師の素質に加え、召喚対象の獣とどれだけ心を通わせられるかが、術として成功するかどうかの重要な決め手となります」

フェイト
「でも君とフリードは仲良しなのに、初回の頃はうまく召喚出来てなかったよね?」

キャロ
「あれは……召喚が出来なかったのではなく、フリードの力を私が解放せず、封印したままにしていたんです。召喚獣の能力制御は、召喚師の方で行うものですから」

ティピ
「つまり仲良しでも、その召喚獣の全力を出せるかどうかは、召喚師の腕にかかってくるってこと?」

キャロ
「そうですね。でも、信頼関係が強ければ、多少魔力が足りなくとも、召喚獣自らが協力してくれて、補う事が出来たりします」

フェイト
「なぁ~るほどねぇ~!
 そう言えば、僕等の世界にも召喚獣ってあったよね!」

ティピ
「いたっけ?」

フェイト
「いるよ。イフリートとか、水の精霊とか、悪魔とか……。あと、敵なんかはよく召喚してくるじゃないか。仲間を」

ティピ
「そう言う系統なら、私の所にもあったわね」

フェイト
「ズルイよね! あいつ等!!」

ティピ
「そうそう! こっちは精々、一体か二体しか出せないのにさぁ~! 敵、どんどん出してくるんだもんね~! ……まあ、私の所の召喚獣っていうのは、その辺で動き回ってるモンスターを召喚して来るだけなんだけどね」

キャロ
「フェイトさんやティピさんの所にも、いろいろあるんですね」

ティピ
「私の所では、召喚術使えるのは敵だけなんだけどね。
 と、言う訳で! 今回のティピとフェイトが行く! ここまでにしたいと思います!」

フェイト
「あれ? なんか今回、少なくない?」

ティピ
「他に話す話題あった?」

フェイト
「バーニィって、召喚獣だと思うんだよね。僕っ!!」

ティピ
「以上! ティピとフェイトが行く!! でしたぁああああ!!」

キャロ
「次回もよろしくお願いします!」

フリード
「きゅくるぅ~♪」


フェイト
「待てよ! バーニィの話をさせろよぉおおおおお!!!!」







???
「バーニィの話よりまず先に、お前のレヴァンテインで一番被害を受けた俺に対する謝罪は?」


フェイト
「ま、まさか!? お前は――!!?」

???
「こんな所で、なに遊んでんだ? お前は」

フェイト
「アイアンクローはよせぇえええええ!!!!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。