連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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13.兼定

「どうやら妖精(ソイツ)の言うとおり、ホントにモンスター共が道を遮ってたみたいだな」

 

 クリフはガントレットを打ち鳴らしながら、背後に広がる森を見渡した。

 鬱蒼と茂るペターニ近くの森。ここにフェイト達が急遽足を向けることになったのは、出立の朝、アレンが一度も宿に顔を見せていないことが発覚して騒いでいたときに、宿に駆け込んできたおばさんから急報を受けたためだ。

 

 ――花を摘みに行った山の中で、アミーナが倒れた。

 

 フェイトは衝撃にあまり目の色を変えたが、動転しているのはおばさんも同じだった。彼女は『神の山』で気絶したアミーナを負ぶって帰ることができず、フェイト達に助けを求めてきたのだ。

 倒れたアミーナが助けるためには、今しがた通ってきたこの森を抜けねばならない。しかし散策当初は、どの森道を行けども途中で木々が生い茂り、とても奥まで進むことは適わなかったのだ。

 事態が好転したのは、アミーナを捜す傍らで出会った、森の妖精を助けてからだった。妖精は原因不明の瘴気にあてられて元気を失くしていたが神聖な水を与えられることで回復し、そのお礼にと普通の木々と、森道を敢えて塞ぐ木のモンスターを見分けるナビゲーション役を買って出てきた。

 

 そうしてようやくだ。

 

 同じ景色しか見えなかったはずの森を抜けて、一同は岩山らしきエリアに到達した。

 おそらく地元の住人(あのおばさん)ならもっと安全な道を知っているのかもしれないが、フェイトたちが通った一番大きな道の障害物の多さには、一同、辟易としていた。

 特にアミーナをすぐにでも見つけたいフェイトと、そんなことより王都に向かいたいネルの機嫌は急降下の一途をたどっている。

 

 クリフはともかく事態が動いたことに安堵して、しみじみとつぶやいたのが冒頭の台詞である。皆より半歩ほど先行する妖精はクリフの物言いに不満そうに顔をゆがめて、クリフの目の高さまで降りてきた。

 

「嘘なんかつかないわよ! 失礼ねぇ!」

 

「俺は別に、嘘をつかれたとは言ってねぇぜ?」

 

「なによぉっ!」

 

 妖精は小さな羽をぱたぱたと動かして、全身で憤怒を表現する。その様をからかうように観察して、クリフはふと足を止めた。

 

「どうしたんだ?」

 

 つられてフェイトも止まる。

 と。

 

「危ないッ!」

 

 ネルとフェイトが、同時に叫んだ。妖精は事態を理解できずに首を傾げる。彼女の目の前には大きな――人の大きさほどの石球が岩山の奥から転がり落ちてきている。

 妖精は恐怖のあまりに目を見開き、その場を動くことも出来ない。

 否。

 たとえ出来ていたとしても、その小さな躰が岩の軌道外に逃れるには完全に手遅れだった。

 

「――……あ、っっ!」

 

「カーレントナックル!」

 

 妖精の視界が完全に石球の影で黒く染まったとき、傍らから黄金の光を纏った拳が、岩に向かって迸った。拳は一撃目で岩の速度を止め、二撃目でやや岩を押し戻して、三撃目で完全に岩を叩き砕いた。

 

 がこぉおおおおんっっ!

 

 打撃音とともに真っ二つに割れた岩が、騒音を撒き散らしながら左右の脇道へと落ちていく。その様を見送って、クリフは得意げにガントレットを弾いた。

 

「ま、ざっとこんなもんだな」

 

 妖精が、ぽかん、と口を開けてクリフを見ている。

 

「よぉ。怪我はねぇか?」

 

 いつもの減らず口で問いかけると、妖精は瞬きを二、三回落としてから、はっと目を見開いた。

 

「い、岩を壊すなら壊すって、ちゃんと言ってよねっ! 寿命が縮んじゃったじゃない!」

 

「おいおい。助けてもらっといて言うことはそれだけかよ?」

 

「……うっ!」

 

 居心地悪そうに妖精が顔をしかめる。フェイトには素直に礼を言ってきたのに、なぜか妖精はクリフとは反りが合わないらしい。フェイトは二人の様子をやれやれと流し聞きながら、石球が転がってきた山道の奥を見据えて、ふと、動きを止めた。

 

「……二人とも、怪我がなくてよかったとは思うけど……」

 

 言って、彼は軽く肩をすくめる。

 

「あと二、三個、転がってきたみたいだよ」

 

「ん?」

 

 クリフ達が振り返った先で、先ほどの石球と同じくらいのものが、がらがらと物々しい音を立てて坂を下ってきていた。

 それを見据え、クリフは口元に不敵な笑みを刻む。

 

「へっ! 俺一人で十分だ! いくぜ! カーレントナックル!」

 

 金の拳が、再び岩に向かって迸る。

 それは岩の動きを止め、押し返し、叩き壊す。リズムがはっきりとした完璧な三連打だ。続く二球目の岩に対しても同様に、クリフは冷静に拳で対処している。

 

 がこぉおおおおおおっっん!

 

 吹き飛んだ岩の破片が四方に散る。

 そのときクリフはふと、坂の上の――少し高台になっている丘に、誰かが立っているのを見た。そこにいる彼等は、せっせと岩を運びこんできて、またこちらに投げつけようとしている。

 

「なるほどな。そういうことか……!」

 

 つぶやくクリフに、フェイトも坂の上を見やった。そこにいるのが何人か、正確には見て取れない。しかしクリフの口許に浮かんでいるのは余裕の笑みだ。

 

「ったく。どんだけやっても無駄だってわからねぇのか? 奴らは」

 

「お、おい……。次のは、ちょっと……!」

 

 クリフが肩をすくめているのを、フェイトは青白い顔で制した。

 そのフェイトの異変に気付いて、ネルも坂の上を凝視する。

 すると、

 

「バっ!? ……っ逃げるよっ!」

 

 ネルの鋭い叱責が叫ぶ。

 その彼女の視線の先には、坂の上――より、もう少し上の切り立った小高い丘に、先ほど転がってきた岩とまったく同じものを抱えたモンスターが、ぞろりとこちらを向いて整列していたのが見えたのだ。

 数秒先の未来が、彼女には幻視出来た。

 予知と言ってもいい。

 

「あん? あの程度の岩ならこの俺が――」

 

「バカ! さっさと逃げろっ!」

 

 合点のいかないクリフを、フェイトが叱責した。クリフは怪訝な顔をしながらもみなと同じように坂の上を凝視する。そのとき丘に並んだモンスター達が、クリフを嘲笑うように、ぶんっ、と豪快に岩を投げつけてきた。

 

 ――軽く、十を超える岩を。

 

「な、にぃいいいいいっっ!?」

 

 思わず叫んだクリフは、妖精をむんずと掴んでフェイトに投げつける。きゃぁ、と妖精が甲高く悲鳴をあげる。

 寸での所でフェイトはキャッチできた。クリフも咄嗟に逃げようと走りだしたところで――岩の奏でる壮大な足音に、背筋の神経を鷲掴まれたような気がした。

 一気に投下されたことで、互いを前に押し合う岩達が徐々に加速しているのだ。

 

(や、やべぇっっ!)

 

「クリフ!」

 

「くっ! ……凍牙!」

 

 フェイトの切羽詰まった声と、ネルのクナイが同時に放たれる。だがキンっと冷たい音を立てて、クナイは呆気なく弾かれた。

 岩の速度に、変わりは無い。

 

(やはり質量が違いすぎたかっ!)

 

 ネルが胸中で舌打つ。しかし、さすがクラウストロ人の足は速い。このままいけば、全員無事に岩をやり過ごせるはずだ。

 曲がりさえ、すれば――。

 

「行き止まりっ!?」

 

「何だって!?」

 

 妖精が、フェイトの腕の中から悲鳴を上げた。耳を疑うネルも、ば、と背後の岩から先を行くフェイトに視線を向ける。

 退路がなかった。

 

(まずい――!)

 

 胸中でつぶやいた彼女は、胸に当てた手を握り締めた。

 

「だったらぁ! カーレントぉおお――!」

 

 足を止めたクリフが、一か八かの間合いで拳を振りかぶる。

 

「わわっ! 無理だよぉ!」

 

「君も、ちょっと下がってて!」

 

 クリフを制止しようとした妖精を脇に除けて、フェイトも緊張した面持ちで剣を握り締める。

 

「行くぞ! ブレードぉおお――!」

 

 岩に向かって走りながら、剣に光を凝縮させる。

 カーレントナックルの三撃すべてを入れて、ようやく岩の一つが砕ける。計算で表せば、三十ヒットさせてようやく全弾逃れることができる。

 無論。クリフ一人でその連撃を行うのは無理だ。

 ――おそらく、自分が加勢したとしても。

 

「でも! やるしかないっ!」

 

「おらぁああああっ!」

 

 二人の気合が、迫り来る岩石に向かって奔る。

 同時。

 放たれた二人の剣撃と拳撃で、一つ、二つ、岩が砕けた。

 

「フェイト! クリフ!」

 

 ネルの叱責が飛ぶ。両者ともに三撃目を打った後だ。予想通り、続く三、四の岩に間に合わない。

 

「――っ!」

 

 今一度、腕を振り上げようとした両者が歯を食いしばる。

 

「イヤァアア……!」

 

 妖精の、耳のつんざくような悲鳴。

 と。

 

「……退がっていろ」

 

 ふいに聞こえた声に、フェイト達は目を剥いた。瞬間。影が彼らの間をすり抜ける。ちょうど、人か獣ぐらいの大きさの影だ。

 

 ひゅっっ!

 

 鋭い風切り音が、耳を打った。

 妖精には、何が起こったのか理解できなかった。それは遠目とはいえ、ネルだからこそ見ることが早業だった。フェイトとクリフの間から、割って出るように現れたアレンが刹那、空中に銀の弧を走らせた。

 同時。

 岩が、静止した。

 十を超える、すべての岩が。

 そして――……。

 

 かしんっ、

 

 小さな鞘鳴り音が、アレンの左手から聞こえた。そこで、はっと瞬いたネルは、彼が気付かぬ間に抜刀していたのだと知る。

 

(あの光は……、刀の斬線……?)

 

 彼女が、胸中でつぶやくと同時。

 

 ごぉ、ぉお、おおおお……ん…………っっっっ!

 

 けたたましい地響きを立てて、十を超える岩が、同時に二手に分かれていった。その割れ目には横に一筋、一様な斬痕が刻まれている。

 

「な……っ!」

 

 フェイトは驚きに目を剥いた。クリフすらも呆然とアレンを見る。冷や汗すらにじんだ強張った表情で。

 

「た、った……、一撃、だと……?」

 

「ようやく会えたな。……まったく、宿で集合じゃなかったのか?」

 

 アレンは困った様に眉を下げていた。その左手に、二メートルを超える剛刀が握られている。刀というには、あまりにも長すぎる太刀だ。

 

「お、おい……。お前、それを……どこで……?」

 

「ああ。これか?」

 

 言われて、アレンは、ちゃり、と太刀を掲げた。長いが、見た目ほど重くないのか、アレンが扱いに困った様子はない。

 

「ペターニで出来た心友(とも)にもらった物だ。……正直、俺には勿体無い気もするが、な」

 

「それじゃあ、アンタの探してた得物ってのが、それかい?」

 

「ああ。シランドでの用が済んだら、アストールさんに改めて礼を言いに行かせてもらおう。彼の情報が無ければ、ガストとも出会えなかった」

 

「アストールさん?」

 

 フェイトが首をかしげると、アレンは、こく、と頷いた。

 

「カルサアでシーハーツの二人を治療している時に頼んでおいたんだ。一日かかるというので、待たせてもらったんだが……」

 

 ああ、それで、と納得するフェイトを尻目に、アレンは少しすまなさそうにクリフを見る。と。案の定、腕を組んだクリフが、静かな怒りを湛えて、じ、とこちらを睨んでいた。

 

「ほぅ? そいつぁ初耳だぜ? アレン……」

 

 楽しそうに、目だけは笑っていない微笑を口元に浮かべながら、クリフが声音を落とす。

 反銀河連邦に所属しているクリフだが、カルサアで見たアレンの傷をそれなりに気遣っていたらしい。

 思わず視線を逸らしたアレンは、気まずそうに手にした太刀に視線を落とした。

 

「すまない……。フェイズガンの残量が切れる前に、対策を練っておきたかったもので……」

 

「…………………」

 

 クリフは押し黙ったまま、静かに目を閉じる。

 だんだんと、声音が尻すぼみになっていったアレンも、下を向いたままアレンは言葉を詰まった。

 

「……………………」

 

 静寂。

 二人の間に、妙な沈黙が生まれる。

 先に折れたのは、アレンだった。

 

「すまない。今後、自重する……」

 

「……よし」

 

 頭を垂れるアレンに、こくりと頷いて、クリフがようやく顔を上げる。その二人のやりとりを不思議そうに見やりながら、フェイトはアレンを見た。

 

「何かあったのか?」

 

「いや。大したことじゃないんだが……」

 

「そうだな。大したことじゃねぇ」

 

「……………………」

 

 続くクリフを、アレンはちらりと見やって口を噤んだ。

 

「まあ、それはそれとして」

 

 その彼等の様子を見かねて、かは知らないが、ネルは、じろり、とアレンを睨んだ。

 

「連絡もなしに朝まで宿に戻ってこないなんて、どういう了見だい?」

 

 否。

 追い討ちだった。

 問われたアレンは、ああ、と苦笑気味に頷いて

 

「実は、宿に向かおうと思ったら、ウェルチ・ビンヤードという人に止められて……。彼女の話を聞いていたら、少し遅くなった」

 

「へぇ。少し、ね?」

 

 ネルの微笑みを見て、アレンが固まった。同時。クリフとネルが互いの顔を見合わせる。

 目だけは笑っていない、凍った瞳で。

 

「どうやら、全然自覚してないようだね」

 

「だな。……しかも悪びれてもねぇようだぜ」

 

「まったく困ったもんだね」

 

「ああ。困ったもんだ」

 

 頷き合う二人を、そぅっと窺ってアレンは弁明を続けようとしたが、フェイトに制された。

 

「アレン、無駄だって。……多分」

 

「…………すまない」

 

 肩をすくめるフェイトを振り返って、かくりと頭を垂れたアレンは、そこでふと、坂の上のモンスターを見上げた。

 また新たな岩を掲げている、モンスター達を。

 

「……懲りてないらしいな」

 

 小さくつぶやくアレンに続いて、妖精も坂の上を見やる。

 

「わわっ! また来たよぉ~!」

 

 彼女の声を皮切りに、一同にまた緊張が走った。フェイトは素早く左右を見渡して、退路を探す。

 

(ちょっと危険だけど、茂みの中に隠れるか――!?)

 

 かすかに顔を強張らせながら、岩の近づく音を聞いていた、そのとき。

 

「おい、どうする気だ!?」

 

 クリフの驚く声に、フェイトは、は、と顔を上げた。

 岩に向かって、ゆっくりと歩いていくアレンの姿がある。

 そして――……

 

 ザ……っ

 

 彼は手にした太刀を地面に突き刺した。

 刃部分を転がってくる岩に向けて突き刺しただけだ。それきり彼は柄から手を離している。

 

「お、オイ!?」

 

 クリフ同様、フェイトも意図を読めずに息を呑んだ。

 こちらを振り返ってきたアレンが、に、と微笑う。

 

 がん、がんっ、がらららら……っっ!

 

 相変わらず、けたたましい騒音が、岩の重量を物語る。

 今度は休まず、丘の上にいるモンスター、コボルト達が岩を投げつけてきている。数にすれば先より上だ。それらがまた押し合い、ヘし合いをして加速しながら転がり落ちてくる。

 

「バカ! 何やってるんだい!?」

 

 ネルの息を呑んだような叱責。

 そのとき。

 岩と、突き刺した刀が、ぶつかった。

 

「――っっっっ!」

 

 一同が、息を呑む。妖精にいたっては、恐怖のあまり、堅く目をつむった。

 同時。

 

 すぅ――……っっっ

 

 岩が、刀を避けるように縦に一筋、亀裂を描いて左右に割れていく。音もなく、まるで水はけでもするように、それらは左右に分かれ、茂みの方へ転がり落ちていく。

 

「な、……っっ!」

 

 ネルは目を剥いた。

 フェイトがゆっくりとアレンを見ると、彼は確信をもった表情で太刀を見据え、こくり、と満足げに頷いていた。

 

「おい、こらぁ一体、どういうことだ?」

 

 クリフの声音が自然低くなる。口調が早くなっているのは、彼も動揺しているためだろう。

 クリフに一瞥を送ったアレンが、静かに答える。

 

「斬馬刀、名を『兼定』。ガストから貰った、最高の逸品だ」

 

「……………………」

 

 誰もが言葉を失った。

 ただ地面に突き刺すだけでフェイト達の身長を上回る巨岩を切断する、その刀の切れ味に。

 

「…………で、でたらめな……」

 

 思わずフェイトがつぶやくと、アレンも苦笑した。

 

「そうだな。俺も、ここまで波紋の美しい刀は見たことがなかった」

 

「……いや、んな問題じゃねぇだろ……」

 

 クリフを、アレンは少しだけ不思議そうに見返している。すアレン。まるで刀身の美しい刀は、これぐらいの芸当が出来て当然だ、と言わんばかりの迷いない瞳だった。

 

(コイツ……、解ってやがったのか……!)

 

 信じられないが、アレンの言動を検めれば。

 どこでそんな知識を得たのか知らないが、クリフは連邦軍人のあり得ない博識ぶりに、ぅ、と息を呑んだ。

 そのときだ。

 山の奥から、岩の奏でる音が、次第に間隔を広げ始めてきたのである。

 絶え間ない巨岩の投擲に、コボルトが消耗している。

 

「そろそろか……」

 

 アレンが、小さくつぶやく。

 岩の陰でこちらの様子がわからないコボルト達は、まさか刀一本突き刺しているだけで場を凌いでいるとは思ってもいないのだろう。

 岩の下ってくる間隔が、次第に遅くなっていく。

 

「これは……!」

 

 ネルは息を呑んだ。

 

(戦ってさえいないというのに、相手の体力を削ったってのかい!?)

 

 と。

 そこで、フェイトは我に返った。

 アミーナを救わなければ、と。

 

「そうだよ、アレンっ! こんな所で時間を食ってるわけにはいかないんだ!」

 

「……?」

 

 アレンが不思議そうにフェイトを見る。

 

「アミーナが山で倒れて! 急がないと、彼女が危ないんだ!」

 

 瞬間。ぴく、とアレンの瞼がわずかに震えた。ついで深刻な表情を浮かべた彼は、コボルト達を見据えて、つぶやく。

 

「……了解」

 

 彼は、岩と岩の下りてくる間隔に、突き刺した刀を引き抜く。

 そして。

 一瞬で納刀。

 下半身を低く構え、右足を大きく出す。

 

 ――……っ。

 

 瞬間。アレンの放つ空気に、誰もが口を閉ざした。

 転がってくる岩を睨み据え、彼の瞳が冷える。

 と。

 

「弧月閃!」

 

 右手が柄に走った。鞘走る『兼定』の刀身が、青く輝く。右逆袈裟の抜刀で、岩が紙切れのように吹き飛ぶ。

 同時。

 斬撃の先に(・・)、青白い衝撃波が三日月のような弧を描いて走った。坂に向かって――コボルト達の立つ、丘に向かって。

 

 こぉっっっ!

 

 風切り音が、鋭く響く。青白い衝撃波を刻まれた丘は――

 

 ず、ずずずずずず……っ

 

 低い、妙な音を立ててゆっくりと滑り落ちていく。まるで合成写真か何かのように、衝撃波を浴びた斬痕を境に、景色が割れていくのだ。

 

「お、おい……。まさか……!」

 

 思わずつぶやいたクリフは、ふるふると首を横に振りながら、冗談だろ、と笑った。その彼を置いて、納刀したアレンは、静かに腰を上げた。

 

 ずしぃいい……いいいん……っっ

 

 コボルト達の立つ丘が横にズレ、騒音を立てて坂の上に落ちていった。

 残ったのは、綺麗にスライスされた、急な斜面だ。元々、フェイト達が上ろうとしていた坂道とは、おおよそ繋ぎ合わさらない、不自然な坂。

 それを見据えて、フェイトは思わずつぶやく。

 

「丘を……、斬った……?」

 

 アレンはいつも通りだ。平然とした顔で一同をふり返ってくる。

 

「さて。歩きながらでも詳しい話を聞かせてくれ」

 

 そのアレンを呆然と見据えて、我に返った妖精は、思わず目を見開いた。

 そして――……。

 

「こんっっの! 何てことしてくれんのよ! バカぁああああ!」

 

 叫ぶ彼女の、悲鳴にも似た声が森に響いた……。

 

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