「首尾はどうだ?
「ふふ」
見通しの悪い森の中。
切り株の一つに腰かけ、
「ガジェットの動きは概ねドクターの予測通りですわ、トーレ姉様♪ それと
「そうか」
トーレは一つ頷いて、両腕を組んだまま視線を彼方にやる。――強力な気と魔力がぶつかり合う、アルフとゼストが刃を交える戦場へ。
対してクワットロは入念にモニタに目を通す。今回の捕獲目標は、フェイト・ラインゴッドだ。ドクター・スカリエッティによれば、この青年がいるだけで計画を二月ほど早められると言う。
故に、
クワットロは笑顔に反して冷めた瞳を細め、モニタを凝視する。フェイト・ラインゴッドを捕獲するのに必要なタイミングを、状況を――創り出す為に。
「とりあえず、敵は全部片付けたみたいだし。僕等は2Pの所に行って来るよ」
3~6Pのフェイトはそれぞれ持ち場の仲間にそう言うなり、バーニィシューズを履いて2Pの元へ急行した。魔剣レヴァンテインの恐怖は、同じフェイトたる彼等が誰よりも知っていたからだ。
アルフの集中力が切れれば、恐らくそこで試合終了する。
全フェイトはその事を危惧しながら、彼等の元に向かっていた。
「やられてないといいけどね、あいつら」
バーニィシューズで森を駆け抜けながら、制服姿の4Pフェイトが世間話のような調子でそう言った。自称光の勇者3Pフェイトが両手を広げて肩をすくめる。
「どうせなら、2Pがさっさとやられてくれた方が助かるんだけどね。僕等としては」
「魔剣レヴァンテインのファクターはマジで鬼畜だからね」
「と言うか、2対1の方が不利って……ホントどうにかならないのか? アイツ」
6人中最高の安定感を持つ甲冑の5Pフェイトと、ビーチサンダルの上にバーニィシューズを履く猛者、6Pフェイトがケタケタと笑いながら言い合う。
「だって2Pだよ?
「いつまでも観光気分の
「んだとぉっ!!
「いいだろ! 別に!! ソフィアと六分身した時、お揃いが良かったんだぃっ!!」
「……そう言えばさ。ソフィアのひ弱な鉄パイプ、いつになったら僕等のパイプくらい強くなるのかな……」
「悲観するな、5Pィイイイイイイ!!!!」
バーニィシューズを履いた彼等の足が、次第に会話メインなり失速して行ったのは――言うまでもない。
……………………
………………
「っ! まだ敵が残ってたんだ!」
スバルは拳を握り、腰を落とした態勢で周囲を見渡した。紫色の魔力光を放つ四角い魔法陣――それが三つ地面に現れ、小型ガジェットが十体、大型ガジェットが一体、魔法陣の中からのっそりと顔を出す。
(フェイトさんが居ない今の状態じゃ、撃墜は難しいかも……!)
スバルは先程までの戦闘を思い出し、不安に唇を噛んだ。だが、自分達がやられるとまでは思わない。出来るだけ敵を攪乱して時間を稼ぎ、狙えるようなら撃墜する。
結論付けた彼女に同調するように、ティアナがクロスミラージュのシリンダーに弾を詰めながら、言った。
「なんでもいいわ。迎撃、行くわよ!」
敵機との目算距離、十二メートル。
「おう!」
スバルは拳を握りこんだ。黒籠手の手首部分についたローラー二本が、フルスロットルで回転する。スバルの魔力光――空色の魔法陣が足許に現れ、白いはちまきが風に吹かれて、後ろに流れた。
「マッハキャリバー!」
〈Wing road.〉
スバルの両足を包むローラーブーツに嵌まった宝石が、音声を発して明滅する。足許の魔法陣が一層の煌きを放ち、魔法陣から空色の光が、まるで絨毯のように伸びて『道』を作った。本来は存在しない、空中を自在に駆ける為の魔法陣で作った『道』だ。
スバルはマッハキャリバーと共に、自分が作った『道』を走る。現れた敵機は、Ⅰ型とⅢ型。いずれも陸戦型だ。スバルの動きを追って、ガジェットはレーザー光の照準を忙しなく動かす。
ティアナは一つ頷き、両手に握ったクロスミラージュ二丁に魔力を込めた。
(今までと同じだ。証明すればいい……。自分の能力と勇気を証明して、私はそれで――いつだってやって来た!)
足許にオレンジ色の魔法陣が出来上がる。精神統一を終えた事を告げるように、彼女は決意に満ちた眼差しを敵に向けた。
クロスミラージュが、主人の思いに応えるように弾丸を選択する。
〈Vallet F.〉
「ティアさん!?」
キャロが、戦おうとする意志を露にしたティアナに目を丸くし、心配げに声をかける。――しかし、今のティアナにその声は届かない。
[防衛ライン、もう少し持ちこたえててね! ヴィータ副隊長がすぐに戻って来るから]
シャマルの言葉は、新人達に心からの安堵をもたらした。ガジェットの動きは素早く、こちらから奇襲をかけてもあっさりとかわされてしまう。
撃墜が難しい。
「はい!」
スバルは力強く頷いた。時間稼ぎなら、十一体相手でもどうにかなる。皆、そう確信していたからだ。
――しかし、一人だけ。ティアナだけは違った。
「守ってばっかじゃ行き詰まります! ちゃんと全機落とします!」
[ティアナ、大丈夫? 無茶しないで!]
思わず、モニタリングしていた
ティアナはクロスミラージュを鋭く構え、言い切った。
「大丈夫です! 毎日朝晩、練習して来てんですから」
そう――彼女は力を示す。
自身の生き方が正しいと、周りに認めさせるために。
「エリオ。センターに下がって!」
守られてばかりでは居られない。ガジェットドローンのAMFは強力だが、フェイトと一緒に戦った先の闘いで、タイミングを合わせれば落とせることが分かっていた。ならば、なんとかなる。
敵は、攻撃と防御を同時に果たせないのだから。
「私とスバルのツートップで行く!」
「は、はい!」
一番タイミングが掴みやすいスバルとのコンビネーションを選択したティアナは、スバルによって撹乱されたガジェットが、甘い狙いを定めたその一瞬に、クロスミラージュの弾丸を放り込む作戦に出た。恐らく、それで落とせる。
「スバル! クロスシフトA! 行くわよ!」
ティアナの言葉に、スバルは力強く頷いた。強くなりたいと願うのは、彼女も同じだ。
「おう!」
――だから。
ティアナは瞳を閉じ、祈るようにクロスミラージュを構える。
証明するんだ。
特別な才能や、凄い魔力がなくたって――
一流の隊長達の部隊でだって、
どんな危険な戦いだって……
「私は……ランスターの弾丸は、ちゃんと敵を撃ち抜けるんだって」
瞳を開けたその時には、銃口の狙いがしっかりと定まっている。ティアナは自分自身の限界に挑戦するかのように二回連続で両手指にかけたトリガーを引く。クロスミラージュに装填された魔力弾は、全部で四発。これは実弾と違い、四発撃てば弾切れではなく、弾に四発分の『魔力』が込められているのだ。
すなわち、ティアナは四段階まで自分の魔力を一切使わず、クロスミラージュの魔力弾だけで魔法を放つ事が出来る。その四発分の魔力全てを、自分の魔力に上乗せし放つことも可能だ。
ただし、自分の魔力を上回る力を振るうとなれば、それ相応の負荷がかかる。術者が未熟であれば、魔力制御が落ちるのだ。
ティアナの決意に気付いたシャリオが、慌てて止めに入った。
[ティアナ! 四発ロードなんて無茶だよ! それじゃティアナもクロスミラージュも!]
ティアナは内心で、シャリオの言葉を肯定した。練習でも確実にできるとは限らない、四発ロード。無茶は自分で分かっている。しかし――
「撃てます!」
〈Yes.〉
彼女とそのデバイスは断言した。――やって見せる、と。
「クロスファイヤぁああ……!」
一気に狙うガジェットは八体。中空に浮かんだオレンジ色の魔力光が、高密度の魔力球となって集約されていく。ティアナの周りに浮かんだ魔法弾は、全部で八つ。
「シュート!」
彼女は限界まで魔法弾の威力を高めると、右手を鋭く横に振った。同時。光の弾丸と化した魔法弾が八発同時に放たれる。ガジェット達は攻撃モーションに移っていた為、為す術もなく砕け散って行った。
(――いける!)
ティアナの口許に笑みが浮かぶ。
だが、一発だけ。最後に放たれた弾丸だけは、一体のガジェットの脇を通り過ぎるその弾は、おとり役でガジェットの間をすり抜けていたスバルの背に、向かっていた。
ティアナが目を見張り、スバルが振り向いた驚愕した瞬間。一つの影がスバルと弾丸の間に割り込んだ。スバルが目を見張る。
「ヴィータ副隊長!?」
ヴィータはグラーフアイゼンで、弾丸を弾き飛ばす。その弾丸は寸分違わずガジェットに直撃した。
「ティアナ! この馬鹿!」
呆然とするスバル達の中、ティアナを見下ろして怒鳴りつける。その目は今までのヴィータと違い鬼気迫るモノだった。
「無茶やった上に、味方を撃ってどうすんだ!?」
余りの迫力と、自身のやった行動に何も言い返せず顔を蒼くするティアナ。そんな彼女を庇おうとスバルが口を挟む。
「あの、ヴィータ副隊長……! 今のも、そのっ、コンビネーションの内で――」
「ふざけろ、タコ!! 直撃コースだよ、今のは!」
しかし、最後まで言う事は出来ず、ヴィータの怒りをまともに受けただけだった。
「違うんです! 今のは私がいけないんです!」
凄まじい怒気にスバルも一瞬怯むが、何とか言い返す。それは更にヴィータを怒らせることになった。
「うるせぇ! バカ共!! もういい……あとは私がやる!!」
相棒のグラーフアイゼンを握りしめ――
「二人まとめて、すっ込んでろ!!」
鋭く言い放つと同時、ガジェットの部隊に飛び込んで行った。
……………………
………………
「ティア。向こう、終わったみたいだよ」
少し前まで聞こえていた戦闘の音が、嘘のように静まり返った。スバルは人より優れた聴覚でそれを認識し、気遣わしげな視線をティアナに向ける。ホテル・アグスタの裏口にあたるこの場所は、昼間なのに陽射しが無く、陰鬱な暗闇の溜り場のようだとスバルは思った。
「私はここを警備してる。アンタはあっちに行きなさいよ」
ティアナの声に、覇気は無い。裏口のコンクリートと対峙するように立った彼女は、先程からスバルに背を向けたまま、微動だにしなかった。明るいオレンジ色のツインテールは重力に従って垂れていて、暗がりの中にティアナの白い
ティアナはクロスミラージュを離さなかったが、握っているのではなく指に引っ掛けている――とでも言った方が適切な、投げやりな背中を晒していた。
「あのね、ティア……」
スバルは頭の中でいろいろな言葉を思い浮かべる。どう言えば、彼女はこちらを振り返ってくれるのか。それを一心に探しまわる。
ティアは凄い。ホントにすっごく、すっっごく! 凄いんだよ!!
でも責任感が強過ぎて、自分が凄いってコト、多分見えてないんだ……
だから、――だから早く、元気づけなきゃ。
スバルは拳を握る。難しいことは、いつもティアナに任せて来た。だから、その代わり――自分はいつも通り、どんな事があってもティアナが自信を持てるよう、元気づけなくてはならない。
前向きになったティアナは――ひたむきにがんばるティアナは、いつも正しく、カッコ良いのだから。
「いいから行って」
投げやりに返されたティアナの言葉を、スバルは聞き流した。ここでちゃんとティアナに言っておかなければ、
いつもの彼女に戻れるように。
「ティア、全然悪くないよ。私がもっとちゃんと――」
「行けっつってんでしょ!」
だがスバルの期待はばっさりと切り捨てられ、スバルは思わず、ぐっと息を呑んだ。握った拳に一瞬だけ力が入り、それをゆっくりと
今はまだ、声をかける時ではなかったようだ。
スバルは心中で反省する。ティアナは、強い一面も持った少女なのだ。この強い面に無理に割り入ると、彼女の心に別の妙な傷を付けてしまう。――まさかそんなことにも気付かなかったのか、とスバルは小さく、自嘲気味に肩を揺らした。
自分を責めるように唇を噛み、ティアナの背を見る。少しだけ、視界が滲んだ。
「ごめんね……。また、……あとでね。ティア」
スバルは無言で頭を下げた。深く踏み込まれるのを、ティアナはいつも嫌がっていたからだ。顔を上げてティアナの小さな背を見据え、合流する時にはまたいつもの、彼女の強い眼差しが返って来るのを信じて、スバルは踵を返す。
ローラーが地面を滑る音が響き、やがて遠退いた。
ティアナはようやく、喉に溜まった熱を吐きだす。ひくひくと痙攣する喉、掠れる声、熱い目頭をそのままに、彼女は眼の前のコンクリート壁にもたれかかった。
「私……、わたし……っ!」
脳裡を過るヴィータの怒った声と、弾丸がスバルに迫った時の肝の冷え。背筋は血の気が引いているのに、顔だけは涙で熱かった。両腕で自分の身体を抱きしめて、ティアナはなるべく声を殺す。震える自分が、どうにも情けない。どうして後一発――最後の最後で失敗してしまったのだろう。
自分は、ランスターの弾丸を証明せねばならないのに。
悔しさで唇を噛んだ。すんすんと息を吸う。嗚咽でなかなか息が吐けない。思い通りにならない自分の歯痒さが、不甲斐なさが、頭に重石を押し付けるようにずっしりとのしかかってくる。指に引っ掛けたクロスミラージュを、今は見るのが辛かった。それでも、この『道』を行くと決めた彼女は、デバイスを待機状態に戻したりはしない。
彼女は静かな暗がりで、一人
「うふふ~! いいところ、みぃ~つけた♪」
クワットロは口端を緩めると、モニタから顔を上げた。宙空に浮かんだ二つの画面には、ディエチが狙撃に成功したシーンが映っている。それを満足そうに見据え、彼女は肩に伸びる外巻きの髪をピンと指先で払った。丸眼鏡を押し上げ、自らが『姉』と呼ぶ姉妹機を見上げる。
「それじゃトーレ姉様♪ いい機会ですから、この際タイプ・ゼロの捕獲もお願いします♪」
「あの少女か……。造作もない」
切れ長の瞳でモニタを見据える姉――トーレは一つ頷いた。映っているのは、藍色の髪の少女。同時、トーレの両手首と両足首にトンボの翅の様な紫色のエネルギー物質が宿る。それはユリの花弁のように細長く、鋭い光を放った。
インパルスブレード。
そう名付けられたトーレの両手足にあるブレードは、空を自由に、高速に駆け、敵を切り裂く能力を持っている。
そして、何よりの特徴は――
クワットロは口端をつり上げて、空に飛び立つトーレを見送る。右手をひらひらと振っていると、トーレは見る間に森の彼方に吸い込まれて行った。
……………………
………………
アルフ・アトロシャスがアグスタに戻って来ると、現場は騒然としていた。聞けばフェイト・ラインゴッドだけでなく、管理局の二等陸士、スバル・ナカジマまでもが行方不明なのだと言う。
[現在、
機動六課で通信主任を務めるシャリオ・フィニーノは、上ずった声でアルフに説明した。腰まで流れる彼女の髪が、肩から胸に向かって滑り落ちる。
アルフは顎に手を据えると、頷いた。
「連絡が途絶えたのが、今から二十分ほど前なんだな?」
[はい]
シャリオは間髪置かずに頷く。今、空戦魔導師のなのはとフェイト、そしてヴィータとシャマルが、周辺地域を洗っているが、敵影を発見したとの報告はない。
恐らく、手遅れだろう。
「その上、広域サーチにも目立った反応無しとなると――……なるほどね」
顎に据えた手を下ろす。
機動六課にいる通信兵はシャリオを含めて三人。いずれも若いが、才能と技術を持った将来のエリートだ。その彼女達が見落としたのであれば、向こうが一枚上手だったと言う他ない。そして恐らく並の欺き方では無いだろう。
何故なら、敵が召喚魔法を使って逃げただけなら、魔力反応で分かる。アルフが取り逃がしたルーテシアの魔法探知をロングアーチはきちんと観測し、更にその後の追尾まで別動部隊に委託している。
だが、
つまり、ロングアーチはスバルが居ないという報告を受けねば、その事実すら掴めなかったのだ。機動六課の計器類が、一切感知しなかったと言うのである。
(ここで考えられる可能性は、二つ。一つは、質量兵器を使って来るスカリエッティ側は、管理局では見抜けないステルス機能を搭載した『何か』を投入してフェイトとナカジマを攫った。二つ目は、ロングアーチのコンピュータに奴等が直接侵入し、計器類自体に
アルフは視線を左に流した。明るいオレンジ色のツインテールが、しょんぼりと項垂れている。数分前まで誰よりも血相を変えて、スバルの安否を確かめていたのに、望み薄の報告を聞いてからは、打って変って、静まり返ってしまった少女。
ティアナの左右には、エリオとキャロがいた。
「――以上で、報告洩れは無いな?」
「はい!」
歯切れよく、返事するエリオとキャロに頷き、アルフは胸中で溜息を吐いた。今、彼はなのは達に変わって新人メンバーの引率を任されている。エリオとキャロの報告によれば、ガジェットと『黒騎士』とやらが現れ
そして攫われた時を同じくして、新たなガジェット隊がエリオ達の前に現れた。スバルが攫われたのは、さらにそのガジェット達を始末した後だ。
アルフは時系列を追った説明を感心しながら聞き、視線を――破損したガジェットの鑑識を行っている管理局支部の調査隊に向ける。
「それじゃ。隊長陣が戻って来るまで、当面俺達のやる事は現場検証の手伝いだ。隊長陣が戻ってきたら引き上げ。了解?」
「分かりました」
「はい!」
素直に頷くエリオとキャロに頷き返し、アルフはようやく視線をティアナに向けた。
この中で最もスバルに関する情報を持っている人物で、攫われる直前まで一緒にいたのがティアナだ。彼女の話によると裏口で別れた直後に、スバルが何者かに攫われたのだと言う。
(この落ち込みようからすると、今は何を聞いても右から左だな)
アルフは見切りを付けながら、ティアナに言った。
「ちょいと、話でもしようか」
ティアナが少しだけ顔を上げる。前髪に隠れた青瞳に力は無く、いつもの気の強そうな視線は返ってこなかった。彼女はすぐにまた俯く。
アルフは気にせず、ティアナ達が居たと言う、裏手口に向かって歩き出した。のろのろとティアナが後に続く。エリオとキャロが猫背気味になったティアナを心配そうに見ていたので、アルフは視線だけを彼等にやり、調査班を手伝うよう促した。キャロは心配そうに口許に手を添えたまま、動かない。何か言いたそうに青紫色の円らな瞳を揺らしている。
アルフの催促に毅然と頷いたのは、エリオだ。彼はきゅっと口許を引き締めるとアルフを見返し、小さく頷いてキャロの手を取って裏口とは反対方向――ヴィータ達が主戦場にしていた森に向かって歩き出した。その背を見送り、アルフは小さく笑むと、横目にティアナを窺った。俯いた少女は、貝のように口を閉じたまま一言も発さない。
そして、
太陽から疎外されたような陰鬱とした暗闇にやって来ると、彼女は凍ったように身を固くした。
「ここが、お前が最後にナカジマを見た場所か……」
アルフはぼんやりとつぶやいた。闇は音を拾って反響する。彼は一つ頷き、わざと靴音を響かせながら、裏口周辺をうろうろと歩いた。反響は建物に近づけば近づくほど大きくなり、森に行けば行くほど小さくなった。つまり、スバルが攫われたのは音が響かない森だ。
足を止めると、静寂が帳のように滑りこんで来る。
アルフは足許を中心に視線を配りながら森に向かい、スバルの穿いていたローラーブーツの跡を探してみるが、乾いた地面では視認できなかった。
(もっとも、空飛ばれたり、転移魔法を使われたんなら、どこで攫われようが追跡するのは難しいけどな)
地中――と言うのもあるかもしれないと思い、ティアナには見えぬよう
アルフは一つ頷いた。歩いてみると、表からこの裏口まで、歩いて5分とかからない。スバルはこの道中で、何者かに攫われた。それにヴィータも、エリオも、キャロも、気付かなかったと言う。
アルフは感心して口端をつり上げた。要するに、相手は
(ただ一つ分からねえのは、どうやってナカジマのデバイス反応を無効化させた? AMFは考えづらい。管理局は模擬戦でガジェットの再現をするまでには解析を終えてやがる。…………観測機が、少しも
背中の気配は動かない。ただ時折、しゃくり上げるような息遣いがしていたが、アルフは振り返らず、森の地面を見下していた。
調査隊がこの場所を調べに来るまで、後十分少々。
アルフは正面玄関とは反対側の――ガジェットが出現した場所とは全く無関係の森に向かって歩き出した。背中の気配がこちらの動きに気付いて、やや小走りに追って来る。
十分ほど。
まだ踏み荒らされていない森道で、アルフは立ち止った。びくりとティアナが肩を震わせて、アルフを見上げる。アルフは相変わらず、茫洋とした眼差しだった。
「……そういうことか」
ようやくティアナと目が合って、アルフは言った。涙の熱がこもった彼女の皮膚は、赤く腫れて、本来は澄んだ青の瞳が迷い猫のように揺れている。
「ぁ、……の……」
アルフの無表情が、何か話せ、と言っているように見えて、ティアナは必死に、喉の奥から言葉を絞り出した。だが熱が喉を締め付け、込み上げるしゃっくりが彼女から言葉を奪う。
アルフはティアナから視線をそらすと、ぽん、と彼女の頭を叩いた。
「説教は教官の仕事。それと顔上げて戻って来る気があるなら、それなりに覚悟しとけ。相手はまだ死んじゃいねぇんだ」
それだけ言って、来た道を戻る。ティアナに追って来いとは言わず、彼は来た時よりも遥かに速い――自分の歩幅で帰って行く。
ティアナはその後を追おうとして、諦めた。見る間にアルフが遠ざかって行ったからだ。
視界が滲む。彼女は喉を鳴らしながら座り込むと、弱い自分を追い払うように頭を振った。
「……ごめんっ……、ごめんねっ……スバル……っ!」
少しでも気を抜くと、涙が止めどなく溢れ、零れた。
ティアナはガタガタと震える自分を抱きしめる。裏口で一人泣いた時など及びもしない絶望が――胸の奥がすこんと抜けたような虚脱感が、体を襲う。
――行けっつってんでしょ!
八つ当たりしたのは、自分。
ティアナは唇から洩れる嗚咽を隠すように、両手で耳を押さえる。
――ごめんね……。また、……あとでね。ティア。
スバルの声が――元気の無い彼女の言葉が、振り返らずともどんな表情でそう言ったのかをティアナに教えて来る。ティアナは両肘を地面に付き、地面に屈みこむように丸まって、涙を流した。
「ふ、ぁ……ぁ……っ!」
後悔の念だけが押し寄せて来る。自分が不甲斐なさ過ぎて――情けなくて、どうしようもなく許せなくて――涙をいくら流しても頭は晴れそうになかった。地面を掻く。がりがりと。冷たい土が爪の間に入って来たが、ティアナは構わなかった。
「……スバル……スバルっ……っ!」
悲鳴に近い彼女の嗚咽と謝罪は、なのは達が広域捜索を終えて帰って来るまで――続いた。
フェイト(テ)
「フェイトと」
アルフ(魔)
「アルフが」
フェイト(テ)&アルフ(魔)
「行く!!」
ユーノ
「ただしリリカルで」
フェイト(テ)
「って、感じでどうかな? ティピ」
ティピ
「さっすが、主人と使い魔! 息ぴったりね! この調子だと、今後私たち楽できそうだよね♪」
フェイト(ラ)
「やらせはせん! やらせはせんぞぉおおっ!!
例え視聴者の皆が、『こっちのフェイトとアルフの方がいい』なんて言っても僕は絶対、主人公を降りたりしないっ!!」
アルフ(魔)
「フェイト、なんなんだ? こいつ」
ユーノ
「ハハッ、なんだか随分個性的な子だね。フェイト」
フェイト(テ)
「ああ、二人に紹介するね。彼はフェイト・ラインゴッド。シャスの友達だよ。アルフには、以前話したでしょ?」
アルフ(魔)
「へ~え。じゃ、アンタが噂の、アタシとフェイトと名前が同じ奴か」
ティピ
「タイトルコールで、それ既に言ってるからね。
――と言う訳で! 第九回、ティピと」
フェイト(ラ)
「フェイトが!」
一同
「「「「「行く!!」」」」」
ティピ
「久々のタイトルコール~! 息ぴったりだったわね!」
フェイト(ラ)
「いやぁ~、でも僕、会えて嬉しいよ。ユーノさん、アルフさん!」
ユーノ
「こちらこそよろしくね。フェイト君」
アルフ(魔)
「よろしくな! ……
――って、ややこしいな。フェイトと同じ名前なんだろ? お前」
フェイト(ラ)
「僕の事は『フェイト主人公!』と呼んでくれて構わない」
アルフ(魔)
「よし。青髪だ」
フェイト(ラ)
「It's a simple!?」
フェイト(テ)
「アルフ! フェイトをいじめちゃダメだよ!」
アルフ(魔)
「だって呼びづらいじゃん。アタシにとって、フェイトはフェイトだけだしな」
フェイト(テ)
「――もう」
フェイト(ラ)
「と。話が丸く収まったところで、ユーノさん。
僕は貴方に、聞きたいことがある!」
ユーノ
「改まってどうしたんだい?」
フェイト(ラ)
「ぶっちゃけ、――なのはさんのことどう思ってるんです?」
ユーノ
「えぇっ!? え、っと……!」
フェイト(ラ)
「いいんですか、ユーノさん!? このままで!!!? ――いや、良いわけが無いっ!!」
アルフ(魔)
「おいフェイト。どうしたんだ? アイツ」
フェイト(テ)
「えっと……。ユーノに対して、何か思い入れがあるみたいなんだ」
ティピ
「ぶっちゃけたところ。同類相哀れむみたいなトコロよねぇ……」
フェイト(テ)
「それって?」
ティピ
「あいつもさ。結構スルーされること多いのよ」
フェイト(ラ)
「ユーノさん! 君は――貴方は違うだろ!? 貴方はなのはさんと同じ屋根の下で暮らしていたじゃないか!! 無印(アニメ一期)、A’s(二期)と!! 貴方の活躍がなければ、今のなのはさんは無かった!! 心身ともに彼女を支えたのは、貴方じゃないのか!? ユーノさん!! そんな貴方が、なんで無限図書なんて言う訳の分かんない所で引きこもってんだよぉおおおぉぉおおおおおおおお!!!!」
ユーノ「ちょ、ちょっと待っ!? 待ってよ、フェイト君!?」
フェイト(ラ)
「ちょっとくらいね! ときめくとか恋愛事があってもいいじゃないですか!? なんなんですか、ここは!?
キャロやエリオの教育にも良くないっ!!
ちゃんとね! 年長者が、恋愛とは何たるかを見せるべきじゃないですか!?
何やってんスか、クロノさん!? 見ました!? クロノさんなんか結婚してるんですよ、結婚!! そんな脈絡なんか全然なかったじゃないか!! 唐突過ぎて、こっちがついていけねぇんだよこの野郎!!」
ユーノ
「ちょっと待ってくれ!! どうしてそんなに詳しく僕等のことを知ってるんだ!? て言うか、無印とかA’sとか……一体なんの話だよ!?」
フェイト(ラ)
「オラクルだからね☆」
アルフ(魔)
「確かに、その青髪の言ってる事は一理あるな。お前がはっきりしないのが悪いんだぞ。ユーノ」
ユーノ
「いやっ!? え? えぇ!? 何、この展開!? なんで僕が責められてるんだ!?」
フェイト(ラ)
「言ってやって下さいよ! なのはさんに好きだって貴方の口から!!」
フェイト(テ)
「なのははユーノのこと好きだって、言ってたよ?」
フェイト(ラ)
「外野は黙って! 友人関係が前提なんてね! 僕ぁ認めないよっ!!
ユーノさん! 貴方だっていつまでもそれじゃあ、いけないっ!!」
ティピ
「そう言うアンタはどうなのよ?」
フェイト(ラ)
「………………言ってるじゃないか! 僕はソフィア命だって!!」
ティピ
「ギャグとしか取られて無い所が、痛いわよね」
フェイト(ラ)
「僕はこんなに真剣なのに、どうして分かってくれないんだ! ソフィアぁああああああ!!!!
――だから!
だからこそ貴方の気持ちが分かるんですよ! ユーノさん!!」
ユーノ
「ぼ、僕となのはは別にそういう関係じゃ……!」
フェイト(ラ)
「ならこの頬染めはなんだぁああああ!!(アニメ8話参照!)
なんでなのはさん、ただの友達ってノリなんだよぉおお!!
ユーノ
「そ、そんなこと僕に言われても……」
ティピ
「さて。それじゃ、今回はフェイトさんに質問しようと思いま~す!」
アルフ(魔)
「いいのかよ?」
ティピ
「何? じゃあ、アンタ。あそこに入って来る? 進展なさそうだけど」
アルフ(魔)
「…………やめとくよ」
フェイト(テ)
「それで、質問ってなにかな? ティピ」
ティピ
「う~~ん、フェイトさんにはいろいろ訊きたいんだけど……。今、この場で訊くコトは一つ! ――初恋はいつですか?」
フェイト(テ)
「え? 初恋って?」
ティピ
「正直……フェイトさん。男の子に興味持ったこと、あります?」
アルフ(魔)
「無いね。そもそも、フェイトの周りには、なのはとかはやてとか、女の子しかいなかったしな。男と言えば、ユーノとかクロノとか――ザフィーラくらいだし、後はフェイトが保護してる子どもだけど、どいつも両手で数えられる年齢の奴だよ」
ティピ
「ねぇ、フェイトさん……。寂しくない?」
フェイト(ラ)
「そんなこと言ったら、はやてさんも大概だけどね。て言うかさ、機動六課の皆って恋愛感情あるの? ね、あるの!?」
ティピ
「なんでこんなこと聞くのかって言うとね。私の周りの女の子が全員、色ボケだったのよ。全員よ? 全員。いないでしょ、全員とか」
フェイト(ラ)
「ハーレム……でしたね……。あそこは(遠い目)」
ティピ
「ね? あんな子どもっぽいルイセちゃんでも、恋とかしてるのにさ。こんな落ち着いてて、綺麗な美人のフェイトさんが、相手もいないなんてどういうことよっ!? 何考えてるのホント!? あぶれさしときゃいいってもんじゃ、無いでしょうが!」
フェイト(テ)
「ティピ……。それは誰に対して、文句を言ってるの?」
アルフ(魔)
「少なくともフェイトに対してじゃあなさそうだな。これは。でも、分からなくもないね。なんたって、フェイトはどこに出しても恥ずかしくない器量良しだ! アタシもいつか、フェイトが花嫁衣装を着るの、楽しみにしてるよ」
フェイト(テ)
「ア、アルフ……!」
フェイト(ラ)
「まあ、僕等んトコのアルフはスルーして下さい。アイツ、身内情報によるとろくな女性関係築いてませんから。どうせなら、僕とかユーノさんみたいな、誠実な感じの人を見つけて下さいね」
ティピ
「なのはさんのお兄さんなんか、良い感じだと思うんだけど。ああいう人って結構いないんだよね~」
フェイト(ラ)
「フリーでね。
ともかく今回の座談会で、リリカルなのはの女性陣に恋愛感情を芽生えさせるのは、非常に難しいことが分かりました。
…………ユーノさん、がんばってんじゃん……。……一番……。
ごめん! ユーノさん!! スルーとか言ってごめん!!」
ユーノ
「だ、だから何故僕達の事にそんなに詳しいんだ!? フェイト君!! ティピちゃんも!!」
フェイト(テ)
「恋愛か……。まだそんな風に、考えたコトないな……」
アルフ(魔)
「アンタを支えてくれる、良い男が現れる事を期待してるよ」
フェイト(テ)
「ありがとう」
ティピ
「以上! 第九回! ティピと」
フェイト(ラ)
「フェイトが」
一同
「「「「「行く!!」」」」」
フェイト(ラ)
「でした!」
フェイト(ラ)
「――で。ユーノさん。何をぶつぶつ言ってるんです?」
ユーノ
「(ぶつぶつぶつ)……ってことは、あのこともあのこともあのことも、知られてるってことなのか……。どうして!? そんなどうして……っ!?」
ティピ
「そっとしといてあげましょうね」
フェイト(ラ)
「今日はやけに優しいね。ティピちゃん」