連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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13.渦巻く悪意。

 森の中にある湖のほとり、そこにある岩にアタシ達は背を持たれ掛けさせていた。

 間一髪のルールーのテレポートで、あの狂気そのものを宿した銀髪の男から――アタシ達は逃げ切れた。でも……

 

「ゴホッゴホッ」

 

 ゼストの旦那はフルドライヴの反動とアイツから受けた胸の傷で、血を吐き、命を削っていた。

 

「旦那、しっかりしてくれよ~!」

 

 アタシの所為だ。アタシがもっとしっかり旦那をサポートできれば――こんな事にはならなかった。それにしても――あのアルフって男。傷だけなら、旦那より明らかに重傷だった。後数分もすれば、失血死するくらいに――。

 なのに、

 アタシは、あの時のアイツの表情に再び体が震えはじめていた。

 

 もし――旦那が、アイツと再び戦うことになったら――

 

「……ゼスト」

 

 そんなアタシを現実に戻らせたのは、ルール―の旦那を気遣う声が耳に届いたからだ。その小さな手は、旦那のゴツイ手を握っている。旦那は血を吐いて咳く発作が治まり、岩にもたれかかった。

 

「安心しろ、私はまだ死なん。為すべき事を果たすまでは」

 

 いつもどおりのセリフ。でも、このままじゃ旦那は――!! アタシもルール―も、同じ思いだった。旦那を死なせたくねえ……!! 

 その時だった。

 旦那の足元にあった影が、動いたんだ。

 

「――!?」

 

「――魔法の気配はしない。なに――?」

 

 アタシとルールーが警戒した時、そこに男が立っていた。黒い髪、白い肌、この世のモノとは思えないほど――美しく、艶めかしい顔の男。細身の体には、黒一色のシャツとズボンの上にマントを羽織り、ただ無表情に、こちらを見ている。ガラス玉の様な金と銀の瞳で。

 ソイツは何も言わず、ただ、そこに立ってこちらを見ていた。いや――アタシの感覚では、顔を向けているだけ。コイツはこの世界のモノを何一つ、見ていない。そんな気がする。

 まるで人形や死人みたいだ――!!

 

「……死神か?」

 

 旦那の言葉は、正に――だった。その言葉で、アタシもルール―も我に返り、男に構える。ルール―はガリューを召喚する用意。アタシも、咄嗟に魔力を練る。

 

「旦那は、やらせねぇ!!」

 

「……!!」

 

 アタシとルール―は動けない旦那の前に立って、構える。コイツ――明らかに、時空管理局の連中じゃねえ! いや、人ですらない……!!

 その時、声がアタシ達に届く。

 

――そのままでは、長くはあるまい。どうだ? 目的を為すための力、欲しくはないか?――

 

 それは、アタシの耳に声が聞こえたのではない。感覚としては、直接頭に響いたという感じだ。その声は静かだった。

 でも、ひどく威圧感があって――およそ、生物が発する声とは違う。

 

「……念話じゃ、ない……!」

 

 ルールーは顔色を真っ白にして、歯の根がカチカチと音を鳴らしていた。アタシも同じだろう。この声は――生物を恐怖や絶望に叩きつける。聞こえただけで、震えあがってしまう。

 だけど、旦那はアタシ達と同じように冷や汗を掻いているのに――それでも

 

「断る」

 

 ハッキリと拒絶した。その悪魔のような、死神の様な男の声を前に、拒絶したんだ。誰よりも自分が死に近いのに、それでも――旦那は……!!

 

「俺は俺の力でかつての友のもとへ……たど、り……ついて―――!」

 

  だけど、旦那の体はもう限界で――。旦那が最後のセリフを言い終わる前に、旦那は意識を手放した。

 

「旦那!!」

 

「ゼスト……!!」

 

 急いで旦那の下に駆け寄る。脈を測ると、ひどく弱く――呼吸も弱々しい。

 これじゃいつ、止まっても――!

 

――……フン、ならば用はない――

 

 声が、そう告げると同時に男が踵を返す。その男の背に――ルールーが立ち上がり声をかけた。

 

「待って――」

 

 男は、足を止める。アタシはぎょっとしてルールーの傍らに飛んで行った。

 

「ルールー!! アイツは、駄目だ!! 分かるだろ!?」

 

 アタシは必死の思いでルールーを止めようとする。だけど――

 

「アギトはいいの? このままじゃ――ゼストは、死ぬ」

 

「でも。……だけど!!」

 

 言葉が続かない。例え、この悪魔の様な男の言葉を聞いてはいけないって分かっていても、アタシは――旦那に……!!

 

「……力を貸して。ゼストを――助けて!!」

 

 言葉に詰まったアタシの横でルールーが、絶叫する。その悲痛な叫び声を聞いて――。男は静かに振り返った。

 

――よかろう……! 我が波動を与えることで、其奴の体、作り替えてやろう…!! 人を遥かに凌駕する種族――。「ゲヴェル」へと!!――

 

 男の掌から蒼い光が生まれ、その光の球が、旦那の胸に吸い込まれていった。

 旦那は、大きく目を見開いた。

 その顔色が一気に良くなり、呼吸も心拍音も正常になる。以前との違いは、その瞳の色が黄金に変わってしまった事くらいだ。

 旦那は見開いた目を静かに閉じると、そのまま眠りに落ちた。

 

「――旦那……!!」

 

 嬉しさのあまり、アタシは涙を流した。旦那は、生きている。それが――その想いが、アタシに涙を流させる。

 

「……ありがとう」

 

 ルールーが男に言うと、男は静かに口の端を歪ませて嗤った。全てを喰らおうとする魔物のように獰猛で邪悪な笑みで。

 

――……気にするな。私も、この世界の事を知らなければならんのでね……――

 

 それだけを告げ、男は静かにアタシ達の目の前から消えた。

 

「……何なんだ、あの化け物……!!」

 

 ◇◆◇◆

 

「ドクター、ルーテシアお嬢様と騎士ゼストが、”彼”と接触したようです」

 

 ナンバー1ウーノは冷静に、モニターに映った情報を主、スカリエッティに告げる。

 

「――フフ、レリックでも騎士ゼストの命は短命でしかなかった……! 彼等ゲヴェルの波動は、ロストロギアをも上回る、ということか……!! フフフッハハハハッハハッハハァ!!」

 

 スカリエッティは笑いながらも思い返す。あの異形の男との出会いを。

 

 ◇◆◇◆

 

 私の研究所に突然落雷が降ると同時に黒装束に黒のマントを着けた青年が現れた。雷の騒ぎを聞いて、ウーノ達三人と走り着けた。

 次の子達が眠るカプセルが並べられた部屋に。考えられるだろうか? 何の魔力もなく、空間の歪みすらなく、ただ影が現れるように彼は私達の前に現れたのだまるで、神か悪魔のように。

 

「素晴らしい」

 

 現れた青年の美しさ、逞しさを含め、その正体不明の力を称賛し喜びにうち震えた。どのようにして現れたのか、この私にすら理解できない技術。この世界のものではない。いきなり敵の中枢にアッサリと入り込んでくる等反則かつ、論外だ。だから、こちらに向き直った青年に私は問いかけた

 

「君は何者かね?」

 

 私の問いに彼は何の感情も表さない金と銀の瞳を静かにこちらに向けてきた。

 

――人に名を尋ねるならば、自身から名乗るべきだな――

 

 声が天から降ってきた。現れた青年は口すら動かさずしかし、声は確かに我々の耳に届いた。

 

「失礼。ここは我が家でね。できるならば先に名乗って欲しかったのだが」

 

 内心の動揺を悟られないために口の端をつり上げながら先に名乗った。

 

「私の名はジェイル・スカリエッティ。この世界では広域犯罪者として認知されている」

 

 この名乗りにも、青年は全く表情を変えない。しかし、天から降る声が私に興味を示した。

 

――ほぅ? 犯罪者、か。私の目にはキサマが犯罪者(ニンゲン)には見えないのだがな。ソレで?――

 

 声の主の問いかけに、私は本当に笑った。

 

――突如自分の庭に現れた不審者を捕らえようともしないのは何故だ?――

 

「君が何を望むかにもよるが、私達は協力しあえると思うよ?」

 

――……面白い。我が名はヴェンツェル。望みは全ての支配。スカリエッティよ、キサマは私に世界を差し出すというのか?――

 

「世界征服か? 興味もない。ただ、この世界に復讐をしたいのだよ」

 

 私の眼に浮かんだ狂気と怒りを、青年はやはり冷めた眼で見てくる。

 

――面白い。自身の存在価値を賭けて世界に挑むか。よかろう――

 

 声は静かに言ってきた。

 

――コレの名はアウグ。私の意思を反映する端末だ。コレをキサマに貸してやる。好きに使うがいい――

 

 と同時に青年は口を開いた。

 

「アウグ・ストライフ」

 

 そう名乗ると彼は口を三日月の形にして笑った。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「本当に――本当に、次元世界というのは素晴らしい!! ラインゴット博士の研究、そして時空を操る異形……!! 興味は尽きないよ、ウーノ!!」

 

「――全ては、ドクターの想いのままに」

 

 心の底から狂笑するジェイル・スカリエッティに、ウーノは静かに穏やかに微笑みかけた。これから妹が連れて来る青い髪の青年が、自分達の望みを――計画を早めることを期待して。

 

 

 ………………

 …………

 

 

 機動六課に帰還したアルフ・アトロシャスは情報収集に明け暮れていた。これまでもフェイト・ラインゴッドに関するデータの破棄、囮情報を使っての敵の解析を進めていたが、フェイトがさらわれてからこちら、向こうの動きもかなり慎重になっている。

 

(さっさと機動六課(ここ)を抜けて六深の連中(ヴィスコム提督)に会わねえとな)

 

 現在アルフが侵入しているのは街の監視カメラの映像だ。惑星ミッドチルダ中のカメラにアクセスし、オートスキャンで青年(フェイト)やスバルを割り出そうとしている。だが結果は該当なし。フェイトたちは生身で運ばれたわけではないようである。

 

通信機(コミュニケーター)にもいまのところ反応なし。フェイトの意識が戻ってねえか、通信機を奪われたか、もしくは忘れてるか、だな)

 

 最後の選択肢は考えたくはなかったが、フェイト・ラインゴッドの呑気さならばありえなくはない。ふと、アルフ・アトロシャスは紅瞳を見開いた。オートスキャンにフェイトやスバルはかからない――が、見知った男の顔が映し出されてきたのである。

 首都クラナガン。裏路地にさしかかる暗がりの細道を、赤い髪を無造作にはねさせた三十がらみの男が歩いていた。

 

「…………ラグナ……!」

 

 映像を拡大する。粗悪な解像度だが間違いなかった。アルフの口端がつりあがっていく。旧連邦軍では『特務殺しの悪魔』と恐れられた男が、アルフの見知った九年後の世界の顔で映っていたのだ。

 

「こいつも次元漂流してやがったのか」

 

 だがどうやって漂流したのかがわからない。FD事変で宙図が大幅に変化したとはいえ、ラグナはタイムゲートに近づける身分の人間ではない。ましてアレンのようにモーゼル古代遺跡という線もないだろう。

 

(俺たちがこの惑星に流れついてきた原因と関係があるのか)

 

 アステアと名乗る異形の生命体は、『ゲヴェル』という種族なら次元を超える能力があると説明していた。次元を渡ったゲヴェルは、アステアや医務室で眠るカーマインを除いて二体。

 その二体がアルフ(正確にはフェイト・ラインゴッドだろう)や、このラグナ・ハートレットまでもをこの場所に引き寄せてしまったのか――?

 仮説を立てるには、まったく資料が足りない。時刻は深夜にさしかかろうとしていた。隊舎から訓練場の間にあるこの森はまだ騒がしい。騒音の主は、まさかこの森にこもってデータ解析を行っている人間がいるとはつゆほど思わないようだ。

 アルフはため息を吐くと端末をたたんで隊舎に向かって歩き始めた。

 

 

 

 機動六課に帰還してからのティアナは、まるで憑かれたように訓練に明け暮れていた。朝四時から精密射撃、なのはの教導を夜までこなして――そこから更に深夜の早撃ち練習を始める。

 この一週間で彼女が摂った睡眠時間は、実質、両手で数えられるほどだ。

 

「はっ……はっ……!」

 

 険しく引きつった表情をそのままに、ティアナは一心にクロスミラージュを振る。途中、ヘリの整備をしていたヴァイス陸曹に声をかけられたが、ティアナは右から左と聞き流した。

 曰く、

 精密射撃は過度な詰め込みで巧くなるものでもない。体を壊して、変な癖を付ける事もある為、ほどほどが一番である――と、なのはが(・・・・)昔、ヴァイスに忠告したのだと言う。

 ティアナはその言葉を拒んだ。

 理由は二つ。

 一つは、なのはの教導で、ティアナの腕が上がっていると言う実感が持てずにいる為。

 もう一つは、アグスタでの失態だ。

 あの時、無茶でもクロスミラージュを四発ロードしなければ、ティアナはガジェットを一人で落とす事すらできなかった。――毎日朝から晩まで、練習して来たにも関わらず。

 

(なのはさんの持論だけじゃダメなんだ。私はなのはさんが思ってるより――ずっと、凡人だから。無茶でもなんでもやって、実績を上げなきゃ……! この間の時みたいに、魔法弾が貫通しない時に備えて、色んな戦略が組めるよう――戦いのバリエーションを増やすのよ!)

 

 スバルを掠めそうになったあのミスショットについて、ティアナはなのはに怒られなかった。

 ただ――周りに仲間がいる。失敗の原因を良く考えて、改善しろとアドバイスを貰った。

 まだ、見離されていない。

 それがティアナにとって重要な事だ。

 

(かじ)りつかなきゃ……! スバルの分まで、私が……!)

 

 ティアナは唇を噛み、クロスミラージュを振る。自分の周りに白い光球――魔法で作った射的を二十個ほど浮かべ、ランダムに動かしてクロスミラージュで撃ち取る。一発も外さない事が目標だ。その練習を黙々と、一心不乱に続ける。

 腕が重い。

 眠気で視界が霞んだが――ティアナは気力で自分の弱さを振り払う。頭の中は、ただ真っ白に。身体に動きを馴染ませる事だけを目的に、練習を続ける。

 今まで通り、寡黙に、延々と。

 一時間、二時間、三時間、四時間……。

 夜が深まるに従い、周囲の音がゆっくりと消えていく。

 ティアナの息を切る音だけが、辺りに響き始めた。

 

「っ、!」

 

 ランダムショットの一区切り――百発目を命中させようとして、ティアナの腕がガクンと落ちた。体力の限界――集中力の切れ目だ。ティアナは倒れるように上半身を落とすと、膝に手を付いて呼吸を整える。

 十秒ほど休憩して、彼女はまたクロスミラージュを持ち上げようとした。

 

「――それ、後どれくらい続くんだ?」

 

「!」

 

 ただの暗闇に過ぎなかった森から声がして、ティアナは息を飲んだ。緩慢に視線を声の方に向ける。銀髪の青年がいた。彼は足音も、気配すら感じさせずにこちらに歩み寄る。

 

「どうしてここが……」

 

 ティアナは小さく呻いた。この一週間、誰の目にも付かないよう、機動六課近くの森で練習していたのだ。ヴァイスはヘリの整備中にティアナに気付いたと言っていたが、他の六課メンバーには誰一人として、秘密特訓の事はバレていなかった。

 スバルがさらわれた事もあり、精神的に疲れているのだろうと、皆、遠巻きにティアナを見守っている為だ。

 ティアナのすぐ傍で足を止めたアルフは、彼女の手を取り、ポン、と重い何かを彼女に掴ませた。

 

「え?」

 

 目を丸めて見下す。――缶ジュースだった。オーソドックスに、スポーツドリンク。

 アルフはティアナが受け取ったのを見ると、ポケットに手を突っ込んで自分用の缶を取り出す。そして、(おもむろ)に開けた。こちらは梅酒だ。それをあおり――一息吐く。

 

「甘っ!?」

 

 アルフは予想外の甘さに、缶を遠のけて口を歪める。彼は訝しげに梅酒缶を見るとがっくりと肩を落とす。自販機に唯一置いてあった酒が、これだったのだ。

 アルフは哀しげに、首を横に振った。

 

「あ、あの――」

 

「差し入れ」

 

 彼女の問いに、アルフは素気なく答える。

 

「あ、酒の方が良かった? ――甘いけど」

 

 アルフは思い出したようにつぶやき、梅酒を掲げる。ティアナは首を横に振った。貰った缶ジュースを両手で包んで、それに視線を落とす。

 

「ありがとう……ございます」

 

「どうも。――って言っても、そいつは自販機で当たった奴だけどな」

 

「えっ? もしかして、食堂前の?」

 

 機動六課に置いてある唯一の酒――梅酒を販売しているのは、あそこだけだ。

 ティアナが問うと、アルフは頷いた。

 

「あの自販機、当たるんですか!?」

 

 思わず声を荒げる。ティアナは眼を丸くした。スバルが毎日、今日こそ当てると意気込んでいた、食堂前の自販機。シャリオや機動六課職員の噂によると、あそこで当たった者は誰一人いないと言う。

 アルフが肩をすくめる。

 

「くじ運はいいんでね、昔から。そう言えばアンタ、食堂の人と仲良かったっけ?」

 

「いえ、仲が良いと言うわけでは……。スバルが大喰らいですから、セットで顔を覚えられちゃっただけです」

 

 ティアナは照れて笑った。一週間ぶりに口にしたスバルの名前。

 アグスタから帰って来て――初めて哀しさではなく、微笑みが零れた。ティアナは不思議に思いながら瞬きを落とす。

 アルフは適当な切株に腰かけると、言った。

 

「じゃ、今度会った時、食堂の誰かに言っといてくれ。この梅酒は――無い」

 

「私がですか?」

 

 困惑気味に眉を下げるティアナに、アルフは真剣な面持ちで頷いた。

 

「甘過ぎ。飲めねえ」

 

 両手で丁寧に梅酒を脇に置き、アルフはゆっくりと首を横に振る。第一印象が怖かっただけに、そのアルフの所作はティアナの笑いを誘った。

 アルフは首を傾げる。

 

「飲まねえの?」

 

 スポーツドリンクを視線で示され、ティアナは、ぁ、とつぶやいた。クロスミラージュをホルスターに入れる。

 

「いただきます」

 

 そう断って、缶を開けた。アルフがわずかに立ち上がって、切株のスペースを空ける。あからさまに一人分。座れ、と言われるより、座るだろ、と無言で促される方が、ティアナを観念させた。アルフがここを去るなり、すぐ練習を再開しようと思ったが、諦めて全身から力を抜き、失礼します、と断ってから隣に座る。

 アルフは気の無い返事をした。

 ティアナは貰ったスポーツドリンクを一口含む。――生き返るような心地がした。

 

「ぷは……!」

 

 思わず、盛大な溜息が出る。慌ててティアナは口をつぐむと、もう一度、ゆっくりとスポーツドリンクに口を付けた。程良い甘さが口の中で広がり、飲むのを止められない。

 自分が思っている以上に、喉が渇いていたようだ。

 ティアナは数分で一本飲み干すと、息を吐いた。

 

「御馳走様でした」

 

「どうも」

 

 立ち上がるティアナを尻目に、アルフが問う。

 

「また練習かい?」

 

「はい。私みたいな凡人は、たくさん練習しないと皆について行けませんから」

 

 ティアナは、立ち去って、とアルフに言う代わりに魔法射的を宙に浮かべて、練習に戻る。再びランダムショット――。百発連続的中するまで、集中する。

 アルフは頬杖を付きながら言った。

 

「なあ、アンタ」

 

「何ですか!」

 

 魔法射的にクロスミラージュを撃ちながら、ティアナが答える。アルフは瞳を揺らさず、問いかけた。

 

「――それ、何の目的で練習してんだ?」

 

 一瞬、ぐっとティアナは息を飲んだ。それでも構わず練習を続け、彼女は言う。

 

「精密射撃です。どんな態勢でも、確実に目標(まと)に当てられるように」

 

「けど、また朝から教導あるんだろ?」

 

「適当な所で切り上げます」

 

「ふぅ~ん……。もう次の教導まで五時間も無いぜ?」

 

「私は丈夫ですから、大丈夫です!」

 

 アルフは薄笑うと、切株から立ち上がった。のそりと緩慢に歩く。訓練中のティアナに向かって。

 魔法射的の間合いに入った瞬間、彼は腕を蛇のようにしならせ、クロスミラージュを鷲掴んだ。ちょうどクロスミラージュがアルフの真横にある射的を狙った瞬間。魔法弾がアルフの髪を攫い、あらぬ方向に飛んで行く。

 

「!」

 

 ティアナは眼を見開いた。

 

「敵の気配も読めないで、的に当たれば満足かい?」

 

「っ、っっ!! それは突然、貴方が邪魔して来たから――!」

 

 ティアナは一瞬怯んだが、すぐに勝気な顔になるとアルフを睨み上げた。アルフは小さく笑い、ティアナの足を払う。ティアナが息を飲んだのも束の間、ドッと鈍い音を立てて背中から地面に打ちつけ、アルフがのしかかってきた。クロスミラージュを握る両手は、アルフの右手に抑えられ、彼の左手はティアナの細い喉に触れていた。

 

 ……ぞくり、

 

 紅瞳と目が合った瞬間、ティアナは息を飲む。喉元に触れた手先が、冷たい。マウントポジションにあるアルフは、無表情だった。

 

「人を殺すのに、大層な魔法はいらねえ。このまま三分間、喉を圧迫し続ければアンタは死ぬ。魔導師(アンタら)は、ランクが高ければ高いほど優秀と捉えがちだが、魔法が強いから有能な兵士じゃねえ。どんな戦場だろうが生き残る力があるから、有能な兵士なんだ」

 

「……!」

 

 ティアナはしばらく呆然としていたが――、アルフの言葉を理解するや全身をばたつかせた。この固めから脱出しなければ、負けだ。このままでは一方的に敗北する。それは悔しい――こんな不意打ちで、こんな事を言われるなんて――ティアナは必死に両手足に力を込める。だが、アルフの前ではびくともせず、悔しさで涙が滲んだが彼女は諦めなかった。

 数分も経つと暴れ疲れて、ティアナは大人しくなった。彼女は涙が頬を伝うのを感じながら、自棄になってつぶやく。

 

「でも……どんな戦場でも、力のある魔導師の方が、生き残る可能性は高いじゃないですか……」

 

「そいつは違うな」

 

 アルフはそう言って、拘束を解いた。

 ――瞬間、ティアナはクロスミラージュを構え、銃口をアルフに向ける――筈だった。

 

「っ!?」

 

 隊舎の方を向いているにも関わらず、アルフはクロスミラージュの砲身を片手で握っていた。もう片方の手はスーツのポケットに突っこんでいる。ティアナが一丁で(・・・)狙いを付けると分かっていたように。

 

(馬鹿にして――!)

 

 ティアナは握られたクロスミラージュを素早く手放すと、バックステップと共に、もう一方のクロスミラージュをアルフに向ける。今度は捕まらないよう、距離を取った。

 二発、非殺傷弾を撃つ。が、銃口も見ずにアルフにのけぞって躱され、ティアナは眼を見開いた。

 

「くっ!」

 

 更に三発。確実に当たる危険な射撃を、アルフは完全に――避けない(・・・・)。二発頬を掠め、白い肌に線を刻む。代わりに間合いを詰めた彼は、ティアナの顎先に拳を寸止めていた。

 

「……っ、…………参り、ました……」

 

 唇を噛みながら、ティアナがつぶやく。アルフは拳を下ろすと、ティアナの目を見据えた。ティアナはそっぽを向く。ここは素直に、謝っておいた。

 

「すみませんでした。生意気に、反抗して……」

 

「さっきの動き、どう思う?」

 

「…………お見事でした。全部、躱されるなんて思わなかったから。やっぱり……私なんて、まだまだダメですね……」

 

 言っている間に、ティアナの目から涙が零れた。みっともない、と自分を罵るが、涙が溢れて止まらない。喉が熱い。――悔しかった。魔法も使わず制圧されたのが、悔しくて堪らない。

 なのは達が一目置くほどの青年だ。きっと自分よりも強力な魔法を使えるだろうに、それすら使わずにティアナを制圧した。

 それに比べ、自分はなんと小さな人間だろう――とティアナは自己嫌悪に陥る。

 もう消えたい。

 ティアナは思った。

 アルフは無表情のまま、そんなティアナを見据え――踵を返す。切株に置いた梅酒とスポーツドリンクの缶を握り、去って行く。まるで愛想を尽かしたように。

 ティアナは呼び止めたかったが、それ以上にアルフが怖くて声をかけられなかった。愛想を尽かされて当然――そう考えて、落ち込む。

 五メートルほどティアナと距離を開けて、アルフは立ち止り、素気なく言った。

 

「今日の教導は休みだ。そう教官に、俺から言っとく」

 

「っ!」

 

 ティアナは弾かれたように顔を上げ、言葉を失った。失態した――と気付く。

 アルフはティアナを試していたのだ。この二度目の失敗は、なのは達に許されるかどうか分からない。ティアナの背に冷汗が流れる。

 

 ――これは、戦力外通知の前触れ。

 

 ティアナは、すぐにその考えに行きついた。

 

「あ、あの……っ!」

 

 ティアナが弁解する前に、アルフはこちらを振り返り、言った。

 

「明後日までに体調を万全にしておけ。近々やる予定だった教官との模擬戦、俺が代わる」

 

「どうして……っ」

 

「アンタには、絶対的に(・・・・)足りないものがある。それを今日、明日かけてよく考えるんだな。まだこの場所に、立っていたいなら」

 

 アルフは言い終えると、六課隊舎に戻って行った。

 ティアナは脱力して――座り込む。絶望が押し寄せた。

 

「足りないもの……?」

 

 才能、魔力、射撃力、戦いのバリエーション……。

 取り留めの無い思考が一気に溢れだし、頭が混乱する。考えてみろ、と言った時のアルフの瞳は、茫洋としたものではなかった。

 彼が望む答えを出せなければ、六課をクビになる事もあるかも知れない。

 彼は隊長陣と顔見知りなのだから――。

 

「ぁ、ぁぁ……!」

 

 ティアナはツインテールを引っ掴み、どうしよう、どうしようと早口につぶやいた。考え始めると欠点だらけの自分に吐き気がする。混乱し始めた状態でそれ以上訓練する事も出来ず――、ティアナはその日、呆然と部屋に帰った。




ティピ
「第十回! ティピと」

フェイト
「フェイトが」


ティピ&フェイト
「「行く!!」」


ティピ
「と、言う訳で。ついに十回の大台に乗ったわね! ――長かったような、短かったような」

フェイト
「ティピちゃん。感傷に浸るのは後だ。それより、ゲストを紹介しようよ」

ティピ
「そうだね~。それじゃあゲスト、どうぞ~!」

???
「ルシオ出せ」

フェイト
「どぉぉおおおおおおおいうことだぁあああああああああああっっ!!!!?」

ティピ
「第十回目のゲストは、破壊神☆レナスちゃんです! SO3の裏ボスとして有名だよね。
 って、フェイト! どこまで隠れてんのよ~! こんな狭いスタジオで隠れるトコなんてそんな無いんだから、さっさと戻ってきなさいよ~」

フェイト
「無理っ!! いや、無理だって!! 何言ってんだよ!?
 本編でも言ったけどさ、そこにいるのは破壊神☆レナスちゃんなんだよ!? 命なんか惜しくないって言ってるアルフでさえ、問答無用で戦闘を避ける――そんな幼女なんだぞ!?
 もうダメだ……、おしまいだぁ……! ……殺される、みんな殺される……!!」

ティピ
「ねえ、フェイト。燃え上ってるトコ悪いんだけどさ。この子、アイスクリーム食べてて大人しいよ?」

フェイト
「E☆DSU☆KE!!? ティピちゃんったら、餌付けしちゃってる!!?」

ティピ
「まあ、いざとなったら私がティピちゃんキックで黙らせてあげるから、任しておきなさいな」

フェイト
「さすがティピちゃん。頼りになるね。
 が。
 体が恐怖を覚えてて――正直、そっちに行けません」

ティピ
「しょうがないな~」

レナス?
「お前……ルシオ出せ」

フェイト
「本編でも言ったけどさ、レナスちゃん。あれはアレンの管轄なんだ。僕じゃない。だから、猫少年に会いたいならタヌキを探さないと話にならないんだよ」

 ジャキッ!

フェイト
「ぬぁああああっ!? 槍を振り回すのはやめろぉおおお!!!!」

レナス?
「ルシオ出せ」

フェイト
「話聞けやぁあああああ!? ここには居ないって、何回言えば分かるんだよ君はぁああ!!」

レナス?
「ニーベルン……」

フェイト
「ティピちゃぁあああああああああん!!!!」

ティピ
「キィーーック!!」

 ドゴォッ!!

レナス?
「……痛い」

ティピ
「ったく、いい加減にしなさいよ。アンタ。暴れたって出てこないもんは出てこないんだからね。
 それにさ、こんな小っちゃいスタジオでそんな大技、ぶっぱしていいと思ってんの? フェイトはともかく、私を巻き込もうなんて許さないからね」

フェイト
「レナスちゃんを止めた……! 破壊神☆レナスちゃんを!?」

レナス?
「……ルシオ……」

 レナス? は俯き、目に涙を溜めてつぶやいた。

フェイト
「参ったなー……。こんな風に素直な反応返されると、リアクションに困るな」

 そう言いながら、フェイトはレナス? の頭を、よしよしと言って撫でた。

ティピ
「まあルシオなら、こっちのシリーズにはいないわよ」

フェイト
「KI・CHI・KU!!」

ティピ
「フェイトも言ってたけど、アレンの管轄なんだよね。ホント」

レナス?
「……じゃあ、どこにいるの?」

フェイト
「えっと……レナスちゃん。レナスちゃんは多分、そっちの世界には行けないんじゃないかな?
 ほら。あっちってシリアス補正(規制)マジでかかってるからさ。もしレナスちゃんが向こうの世界に行っちゃうと、いろいろと混乱が――ねぇ?」

ティピ
「まあ“規制”って言っても、ぶち破れそうっちゃぶち破れそうだけどね」

フェイト
「でもさ。創造神と破壊神が出会っちゃったら、大変だろ? いろいろと。特に向こうの戦乙女さんにすっごい迷惑かかりそうじゃないか。
 僕としては、それは避けたいんだよ。今後とも、付き合いがある人だからね。主にクリフが」

ティピ
「ふ~ん? ってことは、やっぱりアンタが面倒見なきゃいけないんじゃない? この子」

フェイト
「……なんだと? ――何だとっ!!?」

ティピ
「だって。アンタが規制かかってるから行っちゃダメだって事はさ。この子の面倒、アンタ以外に誰が見んのよ?」

フェイト
「よし分かったレナスちゃん。行ってやれ。僕は止めないよ! なぁ~に、アレンがきっとなんとかしてくれるさ☆ きっと! ――ってわけでよろしく、ナツメ」

 フェイトの前には、緑色の肌をしたずんぐりむっくりの一角獣――惑星グローランドに生息する風の精霊シルム――の着ぐるみを被った人物が居た。
 彼女は甲高くキュピ☆と鳴いてレナスを背負うや、スタジオを後にする。

ティピ
「なんか、初めてゲストがログアウトしたわね」

フェイト
「生きてて良かった……!!
 こんな記念すべき回で、死んで終わりなんてそんなバッドエンド認めてたまるかぁああああああああ!!」

ティピ
「ま。最後くらいはハッピーエンドにしたいわよね」

フェイト
「あ、あれ? 最後って……ティピちゃん? もしかして――」

ティピ
「今回で、ティピとフェイトが行くは終了しま~す! 皆さん今まで付き合ってくれて、ありがと!」

フェイト
「ちょ、ちょちょちょっ……ちょっと待てよ! なんだいそれ!? 僕、何も聞いてないぞ!?」

ティピ
「元々十回の予定だったのよ。第六回で折り返し地点に来たって言ったでしょ? だから、十回目で終わりってこと」

フェイト
「なんだよ、それ……僕は全然何も聞いてないじゃないか! 僕とティピちゃんなら、百回だって出来るじゃないかっ!!」

ティピ
「それ無理」

フェイト
「なんで!?」

ティピ
「飽きるから」

フェイト
「さらっとしれっと言うんだもんなぁ~……!!」

 フェイトは、よよよと涙した。

ティピ
「と言う訳で、今回でティピとフェイトが行くは終了です。 あれ? さっきも言ったわね? ――ま、いっか」

フェイト
「はぁ……本当に終わっちゃうのか。でも、話はまだまだ続くから、皆。見てよね~!」

ティピ
「以上! ティピと」

フェイト
「フェイトが」

ティピ&フェイト
「行く!! ありがとうございました~!」





???
「次回からは、私らの出番やで♪」

???
「はいっ! がんばります♪」
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