連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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14.模擬戦。

「シャスが模擬戦を?」

 

 なのははアルフによる突然の申し出に、目を丸くした。データルームで今日分の教導成果を整理していた時の事だ。今日はティアナが体調不良で、欠席した。

 モニタから顔を上げたなのはの脇で、アルフが静かに頷く。

 

「どうも一つ、気になる事がありましてね。ノリでつい言っちまったもんで」

 

 整然と並ぶコンピュータの仕切りにもたれながら、彼は言った。なのははそれまで浮かべていた微笑をわずかに暗くして、視線を落とす。手許にあるホットコーヒーが白い湯気を立てていた。アルフからの差し入れだ。なのはは猫舌なため、少し冷ましてから飲むことにしている。

 なのはの傍らに座るヴィータが、ホットレモンを飲む手を止めて、神妙な面持ちで頷いた。

 

「それなら、アタシもちょっと気になってたんだよ」

 

「ティアナのこと?」

 

 なのはが問うと、ヴィータは小さく頷いた。

 

「“強くなりたい”なんてのは若い魔導師なら皆そうだし、無茶も多少はするもんだけど……ティアナの場合、時々ちょっと度を超えてる。アイツ、ここに来る前――なんかあったのか?」

 

 ヴィータの問いに、なのははすぐには答えなかった。沈黙がしばらく続く。

 アルフは悠然と、無糖コーヒーを呷った。なのはが顔を俯けながら、答える。

 

「ティアナのお兄さんがね……。執務官志望の魔導師だったんだけど、ご両親を事故で亡くされて――そのお兄さんも任務中に」

 

「亡くなったのか」

 

「ティアナがまだ十歳の時にね」

 

 なのはは神妙に頷いた。視線を、コンピュータの端末画面にやる。パネルを操作すると、空中に一人の青年が浮かび上がった。ティアナと同じ、明るいオレンジ色の髪をした、清潔感溢れる青年だ。澄んだ青瞳をしており、喋らずとも人柄の良さが現れている。

 なのははモニタに映った青年を見据えて、言った。

 

「ティアナのお兄さん――ティーダ・ランスター。当時の階級は一等空尉。所属は首都航空隊。享年二十一歳」

 

「結構なエリートだな」

 

 ヴィータはホットレモンを机に置くや、眉を寄せた。両腕を組む。目の前に居るなのはの顔が、哀しげに沈んだ。なのはは少し、間を置いて、言った。

 

「そう、エリートだったから――。ティーダ一等空尉が亡くなった時の任務――逃走中の違法魔導師に手傷は負わせたんだけど、取り逃がしちゃって……。地上の陸士部隊に協力を仰いだおかげで、犯人はその日の内に取り押さえられたそうなんだけど――その件についてね。心無い上司が酷いコメントをして、一時期問題になったの」

 

 ヴィータは首を傾げた。

 

「コメントって……、なんて?」

 

「犯人を追いつめながらも取り逃がすなんて、首都航空隊の魔導師としてあるまじき失態で、例え死んでも取り押さえるべきだった――とか、もっと直球に、任務を失敗するような役立たずは……とか。ティアナはその時、まだ十歳。たった一人の肉親を亡くして、しかもその最後の仕事が、無意味で役に立たなかった、って言われて――きっと物凄く傷ついて、哀しんで……」

 

 膝の上に乗せた紙コップをなのはは弱く握る。コーヒーの水面が揺れ、映ったなのはの顔も小さく歪んだ。

 

「多分、ティアナがあんなに一生懸命なのは、お兄さんの為だと思うの。お兄さんが教えてくれた魔法は役立たずじゃない、どんな場所でもどんな任務でもこなせるって。それを証明する為に、ティアナは必死なんだよ。きっと」

 

「アイツが執務官になりたいってのも、もしかしたら兄貴の夢を代わりに叶える為――かもな」

 

 なのはにつられて、ヴィータも視線を落として黙る。アルフは空になった紙コップを握りつぶすと、踵を返した。

 

「シャス?」

 

 その背を、なのはが呼び止める。アルフは近場のゴミ箱に紙コップを投げ入れると、ポケットに手を突っ込んで、わずかばかり、なのはを振り返った。

 

「有難うございます、教官。その話のおかげで遠慮なく (・・・・)、明日の模擬戦、やれそうですよ」

 

 小さく薄笑う彼は、それきり振り返らずに部屋を出て行った。

 

 

 ……………………

 …………

 

 

 約束した模擬戦の日に、アルフは初めて機動六課の訓練場に来た。

 ホテル・アグスタ以来、彼は黒いスーツを愛用している。一着目はゼストとの戦いで使い物にならなくなって捨てた。が、その事実を知る者はヘリパイロットのヴァイス以外、いない。

 ティアナはこの日を迎えるまで、生きた心地がしなかった。ここで、アルフに認められなければ機動六課に去る事になるかも知れない。思考が負の方面に走りだすと、彼女の不安はもう止まらなくなっていた。

 二日。

 アルフに言われてからこちら、自分の欠点を徹底的に考え抜いた。食事に手が付かず、練習にも雑念が入って満足とは言えない。

 それでも――負けられない。

 意気込むティアナに対し、アルフは――予想もしない事を言った。

 

「どういうことですか、アルフさん!」

 

「だから、俺の武器はこれだって」

 

 そう言って、彼が取り出したのは、一振りのアーミィナイフだ。ティアナは息を飲む。

 

「なっ!?」

 

「やるまえに言っとくぜ。俺はこの模擬戦で、魔法をまったく使わない。強化も使わない。好きなように攻めて来い。――ただし、隙を見せたら」

 

 アルフは嫣然と笑い、一瞬だけ、紅瞳を底光らせた。  

 

「お前は終わると思えよ」

 

 低く放たれた言葉に、カッとティアナの表情が歪む。やはり一進一退がかかったこの勝負――それを、デバイスも用意せず、魔法すら使わないと宣言されるとは思わなかった。

 ティアナは唇を噛み、アルフを睨む。

 

(馬鹿にして――!)

 

「じゃ、始めようか」

 

 アルフは悠然と、訓練場に配置された廃棄都市の――車道中央に立った。

 

 

 

「アルフの奴、刀を使わねえのか」

 

 上空のモニタを見上げながら、ヴィータは意外そうにつぶやいた。ここには、スターズ・ライトニング両分隊の隊長と副隊長、そしてエリオとキャロがいる。ティアナ達がいる位置から数百メートル離れたビルの屋上、そこになのは達は陣取っているのだ。

 なのはは、ナイフを握るアルフを見、口端を緩めた。

 

「思い出すね。シャスが機動六課に来たあの時を」

 

 キャロが首を傾げる。

 

「え? アルフさんって昔、機動六課にいたんですか? でも、六課は最近新設された部隊のハズじゃ……」

 

 彼女の言う通り、機動六課が『部隊』として実働し始めたのは、新暦七五年、四月に入ってからだ。アルフが居た時期は、ただの仮部隊に過ぎなかった。

 エリオが弾かれたように顔を上げ、令嬢(フェイト)を見る。

 

「フェイトさん、もしかしてあの人――!」

 

「説明は後でするから、エリオ。とりあえず今は、ティアナ達を見てよっか」

 

 声を上ずらせるエリオに、令嬢(フェイト)は優しく微笑んだ。エリオは出鼻を挫かれ、ぅ、と息を飲むと、上空のモニタを一瞥して、頷いた。

 

「……分かりました」

 

 ライトニング分隊、副隊長のシグナムが両腕を組み、訝しげに首を捻る。

 

「だが、いくらアトロシャスが戦い慣れしているとは言え、ランスターは射撃の天才だ。それを相手にあの軽武装、かつ、魔法を使わないと言い出すとは。それで勝てると言うのか? ――無謀だな」

 

 シグナムは眉間にしわを寄せる。桜色の髪をポニーテールにした女騎士は正々堂々、真っ向勝負が信条だ。シグナムにしてみれば、アルフの出した条件はあまり気持ちの良いものではない。その指摘に、ヴィータも頷く。

 

「確かに無謀っちゃ無謀だ。要するに、魔導師相手に普通の人間がケンカを売るようなもんだからな。――けど、あいつが六課に配属された時の映像を見る限りじゃ」

 

「確かに出来ない事ではないだろう。あの記録が確かならば、な。だが、わざわざ危険を冒してまで、何故こんなことをする?」

 

 首を傾げるシグナムに答えたのは、なのはだった。

 

「何か考えがあってのことだと思います。シャスは……無意味な事はしませんから」

 

「!」

 

 エリオはグッと息を飲む。彼の脳裏に、銀髪紅瞳の少年の顔が過ぎる。

 

(もしかして――僕の知ってる、シャス……?)

 

 言葉を交わしたのは一度きりだ。それでもエリオにとっては印象的な出合いだった。歳の近い少年と会うのも珍しければ、あれほど印象深い人間と会ったのも初めてだった。――“彼”はエリオには無い、不思議な魅力を持っている気がした。

 

「エリオ君? どうしたの?」

 

 キャロが問いかけて来るが、エリオは動かなかった。脳裡を過った少年を思い出し、エリオは顔を強張らせる。

 

(もしそうなら……ティアさん!!)

 

 あの少年は印象的だった。姿形だけでなく――その、行動理念においても。

 エリオは鋭く息を飲むと、令嬢(フェイト)を振り仰いだ。

 

「フェイトさん! ティアさんが危ないっ!!」

 

「エリオ、どうしたの?」

 

 振り返った令嬢(フェイト)が、要を得ず首を傾げる。エリオは両手を広げて説明した。

 

「もし――もし僕の考えてる事が当たってたとしたら、シャスは――“アルフさん”は、ティアさんを完膚なきまでに倒すつもりなんです!」

 

「何故そうなる? むしろアトロシャスは、刀も、魔法すら使わずにランスターを倒すと言ったのだぞ? つまり、手を抜くと言っているのだ」

 

 片眉をつり上げるシグナムに対して、エリオは首を大きく横に振った。

 

「違うっ! あれは……、ハンデ(それ)をわざわざ宣言するってことは“だから本気を出すぞ”って意味なんですっ! “だから、遠慮なく撃ってこい”ってことなんです、あれは!! それをもし、ティアさんが勘違いしたら――! シャスは躊躇なく」

 

 そこで言葉を切ったエリオは、顔色を失った。令嬢(フェイト)が鋭く、なのはを振り仰ぐ。

 

「なのは!?」

 

 視線の先にいるなのはは、硬い表情をしていた。

 

「……信じてみる。シャスを。……徹底的に……叩きのめされた方が、学ぶ事も多い……、筈だから」

 

 言いながら、なのはもある種の危険を感じているのか、拳を握る。エリオは首を横に振った。

 

「でも!」

 

「大丈夫。いざとなったら、私が止めるから」

 

 なのはは首にぶら下げたレイジングハートを握りしめて、ぎこちなく微笑った。

 

 

 

 模擬戦『開始』の合図は、空砲のパンッと言う乾いた音だった。

 ティアナは鋭くクロスミラージュを構える。照準は、ナイフを握る青年の眉間。

 ――が。

 

「!?」

 

 銃身を上げた時には、アルフが眼の前に居た。ティアナは息を飲む。直後、ぐるんっと視界が回り、足を地面に打ち付ける。投げ飛ばされたと気付いたティアナは起き上がる寸前、――首筋に、ナイフが添えられているのを感じて、動きを止めた。

 

「……ぁ!」

 

 ティアナは眼を見開く。

 ――その時になって初めて、全てが見えたのだ。

 

 模擬戦を始める前。

 始め、と言った時点で、アルフはティアナの懐に踏み込める位置に居た。

 

(嵌められた……っ!)

 

 ティアナはナイフを持っているだけの相手に、下がりもせず、そのまま銃を向けようとした。立ったままのアルフに照準を合わせた。――距離を取れば必勝だったこの戦いで。それもその筈で、彼は敢えてティアナの頭に血を昇らせるような発言をし、その立ち位置に気付かせないようにしたのだ。そして武器はナイフしか使わないと言って、ティアナを油断させていた。

 最初から作られたシナリオ。わずか数秒――その間に、ティアナが踊らされたのである。

 

「……っ」

 

 ティアナは唇を噛む。

 アルフはゆっくりと拘束を解くと、ナイフを納めた。

 

「今日の模擬戦は終わり。もう帰っていいぜ」

 

 素気なく言った彼は、踵を返した。ティアナはその背に、鋭く声をかける。

 

「納得できませんっ! こんなこと!! もう一度お願いします!!」

 

「もう一度?」

 

 アルフは立ち止まると、不思議そうに首を傾げた。ゆっくりとティアナを振り返る。呆れた顔だ。

 

「何言ってやがる。真剣勝負に『もう一度』なんて言葉、あると思うか? その心構えが、既に間違ってんだよ。今ので大体分かるかと思ったが、どうやら当てが外れたみたいだな」

 

 深々とした溜息。ティアナは顔を歪め、怯まずアルフを睨んだ。アルフが、ふ、と鼻を鳴らし、酷薄な笑みを浮かべる。

 

「――なら、しょうがねえ」

 

 低く、暗い声だった。途端に、彼を取り巻く空気が一変する。ティアナは銃を握りしめる。アルフの迫力に――気圧されたくなかった。

 アルフが薄笑う。紅瞳が、静かに揺れた。

 

「いいぜ。受けてやるよ、その『もう一度』。ただし今度は――、お前の腕を賭けてもらう。あまりに無残な戦いをするようなら、その引き金、二度と引けなくしてやるよ」

 

「!」

 

 ティアナは眼を見開くと同時、バックステップで距離を取った。

 

(魔法を使わないって言うなら、二度とこの人の間合いには入らない――!)

 

〈Variable Barret.〉

(直線的な射撃は多分見切られる)

 

 そう思いながらも、ティアナは牽制弾を撃つ。直線的に走る三発の魔力弾、それが寸分違わず、アルフの眉間に走る。が、アルフは悠然と歩く。ティアナは眼を見開き、更に魔力弾を発砲した。

 また躱される――。

 見れば、アルフはティアナが引き金を引くその瞬間に、首を捻っている。

 

「そんなっ!?」

 

「分かんねえか? ――正直過ぎるんだよ」

 

 ティアナは息を飲み、バックステップする。距離を取り、クロスミラージュの銃口に魔力を集めた。

 

(避けられる! なら、追尾弾で!)

〈Barret-F.〉

 

 クロスミラージュがティアナの要望に答え、魔力弾を生む。オレンジ色の光球となった魔力弾は、尾を引いて走った。ティアナはその追尾弾を隠す為に、通常の直線型魔力弾を三発放つ。

 先程と同じく、直線に走る弾丸はいとも容易く躱され、――その裏で、円を描いてアルフの後頭部を狙った誘導弾は、振り返りもせずにアルフにナイフで叩き落とされた。

 

「なっ!?」

 

 ティアナは眼を瞠る。立ち止った瞬間に、靴音を鳴らして近づいてくるアルフ。彼女は舌打ち、バックステップで距離を取った。

 

(この人……! 魔力弾を、いくら非殺傷弾とは言え魔力弾を、何の躊躇も無く切り捨てるなんて……!)

 

 ナイフで切った反動で、アルフの周りに爆発が起きる。煙が上がる。だが、アルフは怯まず、悠然とティアナに向かって歩いて来る。まるでそう動くよう命じられた、ロボットのように。

 ティアナは背中が凍るのを感じながら、クロスミラージュの引き金を引いた。

 アルフは言う。ティアナの弾丸を躱しながら。

 

「お前の弾丸は安い。だから一撃必殺を目指すなら、急所を狙うしかない。正面からの攻撃が効かないなら、円を描いての後ろからの攻撃――単調なもんだ。そんな生真面目な弾丸じゃ、猫の子一匹捕まえられやしねえよ」

 

「っ!」

 

 何発撃っても、アルフには当たらない。彼はティアナが足を止めて射撃する間に近づいてくる。一歩ずつ、ゆっくり近づいている筈なのに、――怖い。

 ティアナはたまらず、銃の構えを解いて、更にバックステップで距離を取った。発砲する。アルフは止まらない――止められない。

 ティアナは顔が引きつるのを感じながら、それでも憑かれたように銃を乱射した。

 

 

 

「何をやっているんだ? アトロシャスは。一歩ずつ歩いているが、あれではいつまで経っても、距離を詰める事は出来ない」

 

 シグナムは一向に縮まらない距離に、首を傾げた。アルフは敵の不意を突くでもなく、ただ単調に、正面から一歩ずつ歩くだけである。

 ヴィータが両腕を組んで、呻いた。

 

「確かにな。一足飛びで斬りかかるなんてのは、最初にやっちまってるから、アルフが何をやろうとしているのか、ティアナには丸わかりだ。あのままティアナが撃ち続ければ、ティアナの勝ちだぜ。アルフの奴が使ってるのは、そこらで売ってるただのナイフ。管理局のデバイス――それも魔力弾を喰らって、あんな安物がそうそう保つはずがねえ。せいぜい後二発、受けりゃ終わりだ。――冷静になれよ、ティアナ!」

 

 ヴィータの指摘通り、誘導弾一発を弾いただけで、アルフのナイフは刃毀れしていた。

 令嬢(フェイト)がモニタを見据え、つぶやく。

 

「なのは。シャスは一体、何を狙ってるんだろう?」

 

「分からない……。でも」

 

 言い淀んだなのはは、たった一度だけ――一瞬だけ見せた、アルフの殺気を思い出していた。

 死をいとわない狂気――それは、対峙する者にとって、この上ない恐怖を与える。

 

(その恐怖を前に、どれだけ自分の力を発揮できるかが勝負の分かれ目だよ、ティアナ!)

 

 なのははモニタを見上げて、ぎゅっと拳を握りしめた。

 

「エリオ君」

 

 物思いに沈んでいる少年を見据えて、キャロは心配そうに声をかける。モニタに(かじ)りついているエリオは、真剣な面持ちで、先程から一ミリも瞳を動かさない。エリオは言った。

 

「狂気とか、恐怖とか……そう言うのもあるかもしれません。でも――、シャスはそれだけじゃない。あの行動は全て計算ずくなんです。きっと、ティアさんがあんな風に逃げるのも、あんな風に避けるのも、シャスは既に予測してるんです、全部……!」

 

 エリオは拳を握りしめ、徐々に恐怖で歪んで行くティアナの顔を見据えた。

 シグナムがせせら笑う。

 

「何を馬鹿な事を。そんな事が出来るわけが無い」

 

 それは(もっと)もな意見だった。エリオは頷きたいのをこらえて、顔を歪める。その後を継いだのは、なのはだ。エリオの言を受けたなのはは、更に表情を硬くする。

 モニタを見据えて、なのはは言った。

 

「そんな事が出来たから、シャスは機動六課に入れたんです。何の魔力も無い――魔導師としての知識も、技術も無い少年がここに居たのは、ガジェットの行動を予測出来たから」

 

「でもよ! ガジェットは単純行動しかしねえ。予測なんて出来るじゃねえか! それに比べて、人間の行動を読むなんてこと、出来るわけねえだろ」

 

 合点の行かないヴィータに、エリオが首を横に振った。恐怖にひきつるティアナと対称的に――恐ろしく無表情な、アルフの顔。

 

「むしろシャスは、相手が人間だった時の方が予測して動いてるんです。シャスの狙いは、多分――」

 

「皆! あれを!」

 

 令嬢(フェイト)がモニタを指差すのと同時に、皆の表情が凍りついた。

 

 

 

 ……どさっ、

 

「え?」

 

 ティアナは小さくつぶやく。一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 堅いコンクリートの感触が、肩に押し付けられる。サイドステップしようとした先は――ビルの壁。

 

「?!」

 

 息を飲んだティアナは、鋭く反対側に視線を向けた。三方――全て壁。

 袋小路だ。

 

「!」

 

 悪寒が背筋だけに留まらず、全身を駆け巡った。カチカチと鳴る歯の音が、ティアナの耳を打つ。

 

 

 

「こ、ここまで計算ずくだってのかよ!?」

 

「馬鹿げている! こんなことが――!?」

 

 ヴィータとシグナムは同時に眼を見開いた。ジリジリと、ティアナは自ら(・・)袋小路に向けて移動していた。

 まるで、鳥かごに誘い込まれるように。

 

 

 

「いよいよ、お前の腕を貰う時が来たみたいだな」

 

 アルフは静かに告げ、足を止めた。白い顔に浮かぶ、紅の瞳。彼はどこまでも無表情だった。

 

「っ、っっ……!」

 

 ティアナは息を吸って、銃を連射する。息を吐き出せなくなっていた。

 寄るな、寄るな寄るな――!

 そう、願いにも似た叫びを上げて、ティアナはクロスミラージュを撃ちまくる。

 瞬間。

 アルフは駆った(・・・)

 並み入る弾丸を、アルフは網の目を縫うように躱す。クロスミラージュの弾幕を全て見切り――弾が止んだ所でまた、動きを止める。

 そしてまた一歩ずつ、歩き始めた。

 ティアナに向かって、ゆっくりと。

 

「ぅ……」

 

 ティアナは呻き、クロスミラージュを構える。震えは両腕にまで走り、銃口はもはや定まらなかった。

 紅瞳が、近づいてくる。

 

 ――腕を、もらう。

 

 そう歌うように、ゆっくりと靴音が近づく。

 こつこつと。

 少しずつ、少しずつ音を大きくして。

 

「ぅぅ……!」

 

 ティアナは眼を見開き、涙が零れるのも気付かず銃を乱射した。

 ――怖い、どうしようもなく怖い。

 どれだけ銃弾を撃っても、すべて無意味。アルフは止まらない。止められない。――死神が、来る。腕を奪いに、来る。

 ティアナはガタガタと震えながら、魔法弾を撃ちまくる。

 狙いなど――無い。

 

「うわぁああああ!!」

 

 絶叫。混乱。

 涙するティアナの青瞳は、焦点すら定まっていなかった。

 

 

 

「おい! もうやめろ! やめさせろ!!」

 

 ヴィータはモニタに向かって叫んだ。シグナムも鋭く叫ぶ。

 

「勝負はついた!!」

 

「聞こえてんだろ、アルフ!!」

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