連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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17.騎士の正体

 医務室に向かう途中、アルフの後ろをティアナと令嬢(フェイト)――それから何故か、エリオとキャロが続いていた。アルフはなのはを横抱きにし、令嬢(フェイト)がヴィータを抱いて黙々と歩いている。

 医務室の前まで来た。

 足を止めると丁度、シャマルが、訓練場とは逆の方角から駆けて来る所だった。

 息を切らす和やかな女性に、アルフは几帳面に一礼する。

 

「どうも。……お久しぶりです、シャマル先生」

 

「シャス君!?」

 

 シャマルは大ぶりな臙脂色の瞳を丸くして、口許を手で覆った。

 令嬢(フェイト)が首を傾げる。

 

「そんなに慌ててどうしたの? シャマル」

 

「え、ええ……! 実は、少し前まで眠っていたカーマイン君がどこかに消えちゃって、はやてちゃんと一緒に探していたところなの。――けど、さっきはやてちゃんから連絡があってね。カーマイン君が見つかったって言うから、ともかく医務室に戻って来たんだけど……」

 

 言葉を切ったシャマルは、アルフと令嬢(フェイト)の腕の中にいる、なのはとヴィータに視線を落とした。

 

「どうしたの!? 二人とも!」

 

「その話は後で。――ベッドお借りできますか?」

 

「う、うん! こっちに運んで」

 

 シャマルに誘導されながら、アルフ達は医務室に入る。広めに創られた医務室は、部屋の東側に大きな窓を配しており、そこから機動六課近くの湾岸――その先に広がる海原を、一望できる。

 令嬢(フェイト)はヴィータをベッドに寝かせると、言った。

 

「シャス。二人が起きるまで、後を頼んでもいいかな?」

 

「……ええ。多分、カーマインって奴等から詳しい事情説明があると思いますし。適当に聞いてきてください」

 

「うん」

 

 令嬢(フェイト)は穏やかに微笑して、医務室を去る。

 その背を見送って、シャマルは首を傾げた。

 

「カーマイン君、何かあったの?」

 

 事情を呑みこめていないシャマルに、アルフと――そして、スバルの欠けた新人部隊(フォワード)の三人が、簡単に模擬戦での様子を説明した。

 

 なのはとヴィータが傷を負った経緯。

 カーマインが現れて、アルフと戦った経緯。

 

 シャマルは全てを聞き終えるや、細い眉をきゅっと引き締めた。

 

「また無茶したわね、シャス君!」

 

「無茶なら、あのカーマインっての方が無茶でしょう。なにせ、相手は寝起きですよ」

 

 アルフは平然と肩をすくめた。シャマルは左手を腰に据えて、メッと右の人差指をアルフに向ける。

 

「なのはちゃんにも無理させないでって、前に話したでしょ? 昔の事で忘れちゃった?」

 

「覚えてますよ、ちゃんと」

 

 苦笑するアルフに、シャマルは両腕を組んで、どうかなぁ~? と可愛らしく睨んでくる。

 

「?」

 

 その微妙なニュアンスを含んだ二人の会話に、ティアナ達は首を傾げた。

 アルフはなのはを寝かせたベッド脇の椅子(スツール)に腰掛け、言う。

 

「アンタ等、俺の事はどこまで聞いてる?」

 

 突拍子もない事を聞いて来るアルフに、ティアナは首を傾げながらも答えた。

 

「管理局の管理世界――その中の、辺境次元担当員の方だと……。今回、六課に協力して下さる事になったのは、地上本部から特殊任務を受けたからだって聞きました」

 

 その答えを聞いて、アルフは口端を緩め、そうかい、とつぶやいた。

 エリオが問う。

 

「でも、シャスは――、僕の知ってるシャスなんでしょ?」

 

「ああ。そこに居る二人にも分かりやすく説明すると、俺は九年後の世界から時空漂流して来た、いわゆる“未来人”だ。エリオと俺が知り合ったのは、九年前。――俺が十二歳の時に、六課で世話になったから。こっちの時の流れで言うと、ちょうど今から二カ月前にね」

 

「私達が入隊した時期と、入れ違いだったってことですか?」

 

「そ。俺は六課の戦力として期待されたわけじゃなく、高町教導官の戦技教導を受ける為だけに、ここに居たんだ。――滞在したのは、ちょうど一カ月」

 

「僕は本局コロニーからフェイトさんに会いに来ていて、その時にシャスと知り合ったんです」

 

「知り合うってほどでもないけどな」

 

 苦笑するアルフに、エリオは、む、と唇を引き結んだ。

 ティアナが問う。

 

「そう言えば、エリオもキャロも、後見人はフェイトさんだったわね?」

 

「はい。僕はキャロと違って他の次元世界で育ったわけじゃなく、本局(うみ)育ちですから」

 

 ティアナの表情が、ハッと歪んだ。

 後見人――通常は、親の名が入る所を、エリオもキャロも、フェイト・テスタロッサに代行してもらっている。そして時空管理局本局では――“特別保護施設”と呼ばれる場所に、身寄りのない孤児を預ける事が少なくなかった。

 特に、エリオのように『魔導師』となりそうな子どもは。

 

「ご、ごめん! 今のは忘れて!」

 

 空気が微妙になる前にティアナは、首を振って愛想笑った。

 エリオも遠慮がちに笑い返す。

 

「いえ……気にしないでください。優しくしてもらってましたし、全然普通に、幸せに暮らしてましたから」

 

「そう言えば、本局に預けられた頃から、フェイトちゃんがエリオ君の保護責任者だものね」

 

「はい! 物心ついた頃からいろいろ良くしてもらって。――魔法も、僕が勉強を始めてからは時々教えてもらってて、……本当に、いつも優しくしてくれて。僕は今も、フェイトさんに育ててもらってるって思ってます」

 

 穏やかに笑うシャマルに、エリオは得意げに、嬉しそうに頷いた。思い出を掘り起こすように、エリオは遠い目をする。柔らかな表情だった。

 

「フェイトさん、昔――子どもの時に、家庭の事でちょっとだけ寂しい想いをした事があるって。だから寂しい子どもや、悲しい子どもの事はほっとけないんだそうです。自分も優しくしてくれる――あったかい手に救ってもらったから、って」

 

「いい話だね」

 

「もう! 茶化すのやめてよ、シャス!」

 

 うんうんと頷くアルフに、エリオは苦笑しながら抗議した。

 アルフは肩をすくめて、首を傾げる。

 

「で。――何の話だっけ?」

 

「だから、なのはちゃんに無理させないでって話でしょ? シャス君」

 

 逆サイドからシャマルにも怒られて、アルフは手を叩くと――押し黙った。

 視線をなのはに向ける。すやすやと眠る彼女は――その隣に眠るヴィータもそうだが、穏やかなものだ。

 アルフは眠るなのはの額にかかった髪を払い落すと、エリオ達に尋ねた。

 

「――なぁ、アンタ等。高町教官の指導を受けて、変だと思ったこと、ないか?」

 

「変……ですか?」

 

 首を傾げるキャロに、アルフは静かに頷く。視線で――アルフは未だ座らないフォワード陣に、椅子(スツール)を持ってくるよう促した。

 慌てて皆、スツールを片手に輪を作り、座る。

 アルフはなのはに背を向け、輪に向かって言った。

 

「仕事熱心と言えばそれまでだ。――けど、教官の場合は熱の入れ具合がちょっとおかしい。今日は誰がどんな動きをして、昨日、一昨日に比べて、どの点が良くなって、どの点が未熟なのか、それを朝から晩まで事細かにチェックしてる。……一挙手一投足、全部だ」

 

「そう――なんですか?」

 

 目を丸くして瞬くティアナに、アルフは頷いた。

 シャマルが両腕を組んで、苦笑する。

 

「ティアナが気付かないのも無理ないわ。――だって、なのはちゃんの教え子でそんなこと言って来たの。シャス君だけだもの」

 

 慈しむような視線をシャマルに向けられて、アルフは一瞬だけ頬を震わせた。そして視線を、フォワードの三人に戻す。

 

「前線で教え子に死んで欲しくないってのは勿論、教官にあると思う。けど“死んでほしくない”ってだけなら、さっき俺がやったみたいに恐怖心を植え付けりゃ、教えられる側もそれなりに考えて行動するようになるもんだ。――なのに、教官はそれをやらない。教え子を徹底的に叩きのめす覚悟があるなら、難しくねぇ筈だろ?」

 

 アルフは悠然と足を組みかえた。キャロとティアナが戸惑ったように顔を見合わせる。

 エリオが問う。

 

「それは――シャスと違って、なのはさんが優しいからじゃないの?」

 

「違うね。教導なんて大層な言葉を使っちゃいるが、要は戦闘で死ぬか生きるかだ。実戦での戦闘術は、センスの問題。ある程度基礎を叩きこまれれば、後はそれぞれが勝手に腕を磨いて育ってく。教え子の一挙手一投足まで見る必要なんざねえんだよ、本来はな」

 

「それじゃあ、……どうしてなんですか?」

 

 キャロが首を傾げた。

 アルフは視線をキャロに向ける。

 

「簡単な事だ。教官は優秀な管理局員を育てるだけじゃなく、いかに最短距離(・・・・)()、教え子のレベル上げしてやれるか考えてるんだ。教え子が負うべき苦労の分まで自分が背負ってね。――そこがどうも怪しい。そう言うのって、本当に優しさだけから来るものか?」

 

「シャスは、違うと思ってるんだよね……?」

 

「ああ。優しいだけなら、教え子に無理をさせたくないだけなら――、教導をゆっくりやりゃいいんだ。適度なペースでやっていけば、一日根詰める必要なんてない。まして今年の新人は、全員悪くない才能(モン)を持ってんだから」

 

 それがティアナにも向けられた言葉であると気付いて、彼女は思わず眼を丸くした。視線の合った紅瞳が、ゆっくりとティアナから一同に移る。

 

「なのに、この人は急いでる。――まるで、自分には“時間が無い”って言うみたいに」

 

「それって……」

 

「ああ」

 

 ティアナの言葉に頷き、アルフは肩越しになのはを振り返って、一瞬だけ――ほんの少しだけ、悲哀の色を紅に乗せた。

 

「生き急いでんだ。この人は」

 

「っ!」

 

 ぽつりとつぶやかれたアルフの言葉に、シャマルがびくりと顔を跳ね上がらせた。エリオ達が神妙な面持ちで顔を見合わせる。

 しん、と静まった医務室の中で、エリオ達の視線が、自然となのはを向いた。

 すやすやと寝息を立てる彼女は、まだ目覚める気配がない。

 アルフは驚いているシャマルを見据え、問いかけた。

 九年ぶりに、――もう一度。

 

「なぁ、シャマル先生。教官の身体……ホントにどこも(・・・)異常は(・・・)無い(・・)のかい?」

 

 シャマルは大ぶりな臙脂色の瞳を見開いて、息を詰めている。

 ――なのはに無茶をさせてはならない。

 それは彼女が、なんでも背負ってしまう性格だから。

 優しすぎるから。

 そう二か月前の――十二歳のアルフに説明した。彼はその時、納得したように頷き、医務室を後にしたのだ。

 だから――、もう終わった話だと思っていた。

 なのに、シャマルを見据える紅瞳は、十二歳の頃には無い凄みが混じっている。

 研ぎ澄まされた刃、とでも言うべきか――。

 茫洋とした仮面を脱いだ狂人は、更に瞳の光を増している。

 言い知れぬ緊張感。

 まるで黙っている事が“悪”のような、刑事ドラマのラストで崖淵に立たされた犯人のような気持ちで、シャマルは唇が震えるのを感じた。

 言ってしまいたい。

 言って、楽に――……

 

(ダメよ……。私が、勝手になのはちゃんのことを話すわけになんか、いかないっ!)

 

 シャマルは首を横に振る。

 雑念を振り捨てたつもり――だった。無言の圧力が、シャマルに向けられる。

 

(い、いかないもんっ!)

 

 シャマルはキッと眉を引き締め、拳を握りしめる。アルフはそれを、無表情に見据えている。

 数秒の、睨み合い。

 ――その後で、

 根負けしたシャマルが、声を張り上げた。

 

「ふぇえ~~ん! シャマル先生、悪くないも~~ん!!」

 

 シャマルはそう言って、流れる涙を両手ですくう。おいおいと泣きだした彼女は、その場に座り込んだ。

 

「へ?」

 

 それを見下し、ぽかんとしたのは――アルフだ。柄にもなくきょとんとした表情で、彼はシャマルを見下ろしている。呆然とする狂人を、シャマルはポカポカと叩いた。

 

「シャス君のばかぁ~~! 説明なら昔した通りだも~~ん!」

 

「え……、ぁ……、えと……」

 

 アルフは二、三、後ずさった。それでもシャマルの射程圏からは逃れられず、ぽかぽかと脛を叩かれている。固まった彼は、ぱちぱちと瞬いた。

 

「なのはちゃんはがんばり屋さんなのぉ~~っ! だから、無理させちゃダメなのぉ~~!!」

 

「シャ、シャマル先生……! 落ち着いて」

 

 ティアナが控え目に、ぽかぽかとアルフを叩くシャマルを止める。それでどうにか顔を上げたシャマルは、ぐすっ、と鼻を鳴らしながらアルフを見上げた。

 大ぶりな臙脂色の瞳が、涙でゆらゆらと揺れる。

 

「………………」

 

(ほら、シャス! 早くシャマル先生に謝って)

 

 固まったまま動かないアルフを、エリオが肘で突いた。ハッと瞬いたアルフは、エリオに助けを求めるように視線を右に向けて――

 何故か、力強い眼差しを向けて来るキャロと目が合った。

 

「……」

 

 キャロはまるで、がんばれ、とでも言うように両手を握って、アルフを見上げている。彼女はアルフと目が合った途端、力強く、こくりと一つ頷いた。

 

「???」

 

 アルフは要を得ず、視線をシャマルに戻す。――相変わらず、潤んだ瞳。必死なシャマルの表情を、アルフは後ずさりながら見据えて、頷いた。

 

「………………はい……」

 

 いつも通りの無表情だが、心なしか怯えているようにも見える動きだった。頬には冷汗が一筋。そのあまりのうろたえぶりに、ティアナが思わず声を殺して笑うと、隣でエリオもクスクスと肩を揺らしていた。

 キャロが安心したように、ふんわりと笑う。

 

「うん! うん!! 分かってくれてありがと、シャス君!」

 

 涙を指先で拭って、シャマルも嬉しそうに笑った。アルフはさらに一歩、シャマルから退き、硬い表情のままこくりと頷いた。

 とりあえず、なのはの件については、これでお開きだ。

 

 アルフ・アトロシャスが苦手な人物、パート2誕生の瞬間である。

 

 

 

 ………………

 …………

 

 

 カーマインは、アルフとの闘いを終えた後、シグナムの案内ではやての隊長室に呼ばれた。彼の肩にはティピ、隣にはアステアが立っている。

 

「……貴女達が、俺を?」

 

「君を見つけて私達の所へ運んだんは、フェイト君って言う青い髪の青年や。その君を面倒見たんは私らやけどな」

 

 カーマインの質問に六課を代表して、はやてが応える。

 

「なるほど。しかし貴女方が、俺の命の恩人である事に変わりは無いようだな。――有難う、助かりました」

 

 ペコリと丁寧に一礼するカーマイン。その光景に一同、唖然とした表情をした。ソレを怪訝そうに見、カーマインはアステアを示す。

 

「? 何か? もしかして、アステアが何か失礼な事でも?」

 

「――フン」

 

 自分の顔と同じ青年な為、性格まで似ていると思われているのかと聞いてみる。それに答えたのは、カーマインの肩に座るティピだった。

 

「――ああ、アンタ警戒されてんのよ」

 

「何?」

 

 更に首をかしげるカーマインにはやてが助け舟を出そうと口を開いた。

 

「実はな――」

 

 しかし、はやてが説明しようとしたところを遮り、アステアがカーマインの前に出る。

 

「俺の記憶を送ってやる」

 

 にべもなく宣言するアステアに、カーマインもコクリとうなずいた。

 

「――ああ、頼む」

 

 アステアは青い宝石の指輪を嵌めた右手をカーマインにかざす。蒼い宝石――アルスィオーブが輝き、カーマインの脳裏に、アステアが見た映像と記憶を送り込まれた。

 

「――なるほど。アウグ、か」

 

 瞳を開け、カーマインが一つうなずく。それにはやてが驚愕した。

 

「――!? そんなコトできるん!?」

 

「魔法が、貴様らだけの専売特許だと思ったか?」

 

 アステアはどこか勝ち誇ったかのように口の端を吊り上げる。

 

「異世界の魔法――か。便利なモノだな」

 

「カーマイン、なのはを助けてくれて有難う。――でも、そろそろ聞かせて。君達は、一体どうしてミッドチルダに来たの?」

 

 シグナムが関心したように頷く横で、深刻そうな顔をしたフェイトが、カーマインに問いかけて来た。カーマインは真剣な声で返す。

 

「すまないが――それより、先に気になる事がある」

 

 どこか深刻そうな表情で、カーマインは肩に座るティピを見た。

 

「何よ、アタシの方を見て! あ、惚れ直した?」

 

「違う。――何故、体が大きくなっている?」

 

 にんまりと問いかけるティピに首を横に振り、カーマインは気になっていた事を問いかけた。彼女の身長が倍近く大きくなっている――。

 

「ああ、アタシも良く分かんないんだけど、このミッドチルダはアタシ達の世界よりマナが大きいらしいのよ。ソレで、体も大きくなったんだって! シャーリーが教えてくれたよ!」

 

 あっけらかんと説明するティピに反し、カーマインは影の濃くなった表情でつぶやいた。

 

「――大きくなったと言う事は……!」

 

「フフン、ティピちゃんキックの威力も段違い――かもね! 試してみる?」

 

 にんまりと笑うティピ。

 アステアがこころなしか、蒼くなった顔でつぶやく。

 

「――ゾッとするな」

 

「あまり刺激するなよ」

 

 そこにカーマインが小さい声で加わり、コソコソと相談している。ティピはにんまり顔の額に四角い血管を浮き上がらせた。

 

「――アンタ達、いい度胸じゃない……! そんなことより、はやてさん達の話を聞きなさいよ!」

 

「ああ――」

 

 いそいそとはやて達に向き直るカーマインとアステア。一方のはやて達もポカンとしてカーマイン達の対応を見ていた。

 

「シグナム、本当にあのシャスさんを正面から破ったんですか? こんな穏やかそうな人が」

 

「――ああ。どうやら、私の心配は無用なモノかも知れないな。彼は、あの強大な力を完全に使いこなしている」

 

 リィンフォース(ツヴァイ)が、烈火の騎士シグナムに問いかけると、彼女も幾分か緊張を和らげた表情で述べる。

 だが、同じく傍でカーマインの姿を見たフェイトにはすぐに安心できるようなモノではないと表情を深刻にしている。

 

「でも、彼が管理局の107部隊を襲った犯人と同じ顔をしているのは事実だし、力を解放した時のあの姿は――!!」

 

「……ふむ、フェイトちゃんがそこまで言うってことは、相当に危険と感じたんやね?」

 

 はやてがそんなフェイトの反応に、一つ頷き、問いかける。

 

「うん」

 

「――話を続けても?」

 

 フェイトが頷いた時、カーマインが口を開いた。慌てて、はやてが対応する。

 

「ああ、ごめんごめん」

 

「相談をするのはそちらの勝手だが、せめて俺達が居ない時にそういう話をしてくれないか? 俺も対応に困る」

 

 苦笑というよりは、困ったような表情でカーマインは告げる。その反応にフェイトが身を乗り出した。

 

「なら、教えてくれるんだね? どうして、それだけの力を持っているのか」

 

「――つまらない話だけどね」

 

 肩をすくめて、淡々と答えるカーマインに、早速はやてから質問があった。

 

「ほならまず、どうしてこの世界に来たんかっちゅう所からやな。アステア君が時空干渉能力がどうとか、ティピちゃんが体を作り替えたとか言うてたけど……!」

 

 その言葉に――白けた目でカーマインは、アステアとティピを見る。ティピはいつの間にか、アステアの肩に座っていた。

 

「――お前らな。そこまで話したんなら、説明しとけよ」

 

 そう言われても二人とも、目を合わせず、考え込むように言った。――さも、深刻そうな表情で。

 

「えっと――そうそう! アンタが倒れたからパニックで……!!」

 

「……まさか、アウグが現れていたとはな……!!」

 

 そんなティピとアステアの言葉に、カーマインは冷めた口調で確信した。

 

「……説明が、面倒だったな」

 

「いいから! さっさと説明してあげなさいよ!! 大体、かなりアンタの事を話さなきゃいけないんだから、アタシ達が勝手に説明できないじゃない!!」

 

 突如、ティピが声を張り上げ、カーマインにはやて達に説明するよう促す。カーマインは先の言葉に首をかしげ、言った。

 

「俺は気にしないが」

 

「だから、アタシが気に――!!」

 

 ティピの口をアステアが押さえ、カーマインに告げる。

 

「いいから、さっさと説明しろ」

 

「……自分から話すのは苦手なんだが、仕方ないか」

 

 部屋に集まった全ての人間の視線がカーマインに集まる。本人は少し話しづらそうにしていたが、特段気にする様子もなく、淡々と説明を始めた。

 

「――まずは、俺の居た世界について話そう。俺達の居る世界は、遥か昔に、二つの並列世界を重ね合わせて出来ている。俺達の御先祖様は、元々違う世界に住んでいたんだが、そこで太陽の異常気象があってね。このままでは、生きてはいけない事を悟った人々は共に暮らしていたフェザリアンと言う翼の有る美しい人種の科学力を使って協力し、新たな世界へ移住した。コレを、俺達の世界では時空融合計画と言うんだ」

 

「時空融合――。それは、どんな概念なん?」

 

 はやてが気になる単語を拾い、問いかける。

 

「簡単に言えば、異なる二つの世界をまず、時空的に融合させ、次に物理的な存在を新たな世界に送り込む」

 

 カーマインの説明に、フェイトとシグナムが首をかしげた。

 

「……?」

 

「――何だか、難しい話だな」

 

 アステアがそんな二人に、呆れて肩を上げて見せた。

 

「貴様等、時空を管理する局員が今の説明で理解できなくてどうする」

 

「えっと、ゴメン。アタシも良く分かんない」

 

 しかし、同じ世界の住人であるティピまで分からないと言うのに、アステアは呆れ果て溜息をつく。カーマインは淡々と解説を始めた。

 

「例えば、2つのリンゴがあるとする。コイツを同一時間上の空間に置く事は出来ない。物質は通り過ぎたりしないからな。つまり、同じ机の上の中心にリンゴを置くとしても、二つは置けない。リンゴAの上にもう一つのリンゴBを重ねて置く事は出来るが、全く同じ場所に二つのリンゴを置く事は物理的にムリだ」

 

 このカーマインの説明にアステアが付け足す。

 

「だが――昨日、リンゴAを置いてあった場所にリンゴBを置く事ならできる。そう考えて、世界を置き換え、物質の俺達を新世界に運んだんだ。だから、完全な異世界への移住というわけじゃない」

 

「せやったら、元の世界と新しい世界の時空の揺れが起こって、結局元の世界に戻ってしまうなあ。どないしてるん?」

 

 はやてが世界の話についてきたのか、質問する。それにアステアが応えた。

 

「時空制御塔というのがあってな。その塔が二つの世界の時間のゆがみを解消している」

 

 そう告げた後、アステアはカーマインを指差し言い放つ。

 

「――さて、貴様等は我が主の事を知りたいと言った。だが、一々言葉で説明するのも面倒だ。この俺が、貴様等にコイツの記憶を見せてやろう。言葉などより、よほど体感できるものだ。記憶ってのはな――」

 

「ヤレヤレ……!」

 

 説明する気になっていたカーマインはその言葉に、軽く苦笑した。驚きの表情で質問したのはリィンフォースだ。

 

「そんな事ができるんですか? 記憶の共有なんて、何か魔力の共有がなければ――!!」

 

「その指輪が、その出鱈目な事を可能にするって事やね?」

 

 リィンを遮り、はやてが問いかけると、アステアは満足そうに応えた。

 

「そう言う事だ。コイツは自分に何があったかなどちゃんと説明せんだろうし、貴様等もその目で見た方が早かろう。その上で決めるがいい、俺達が信用できるか、否か」

 

 簡単かつ、効率の良い選択として、アステアが提案した事。だが、人の記憶を覗くことに、フェイトはためらいを覚えた。

 

「――でも!」

 

「代わりに、貴様等の記憶も見せてもらう。コイツの記憶を見ている奴らの記憶を、な。ソレでも――見るか?」

 

 そんな彼女に対して、アステアが告げたのは、お前達の記憶も見せろと言う交換条件だった。

 

「私に、隠すべきモノ等ない」

 

「私もや、カーマイン君の記憶に見合うモノがソレ何やったら、遠慮なくみせるわ。ソレが、お互いの信頼関係を結べるんやったらな!」

 

 躊躇なく、シグナム、はやてが応え、リィンが力強くうなずく。

 

「――フン。ならば、見たい奴は俺の前に立て」

 

「……」

 

 他のメンバーと違い、思いつめた表情で並ぶフェイトに、カーマインが声をかけた。

 

「何となくだが、貴女は――止めた方がいいんじゃないか?」

 

「――!? 何故、そんな事を……!!」

 

 淡々とした質問と、全てを見透かされそうな瞳に、狼狽するフェイト。カーマインは静かに理由を述べた――。

 

「……貴女は、他の人と違って迷っている風に見えた」

 

 深刻な表情で押し黙るフェイトに、カーマインが頷く。

 

「気にするな。自分の過去を見せたくないっていうのは、普通の感情だ」

 

「こっちが説明するのが面倒なだけだからな。拒否すれば構わんさ」

 

 アステアも特に気にした様子はない。そんな二人の心遣いに、はやては有り難く思いつつ、フェイトに進言した。

 

「フェイトちゃん、こう言うてくれてるし。ここは、私達だけで……!」

 

 しかし、フェイトはカーマインをじっと真っ直ぐに見つめる。

 

「一つだけ、聞きたいの。カーマイン、アステア。君達は――誰かから創り出された存在だって言っていたよね。――自分の過去を見せる事に、抵抗は無いの?」

 

 揺れる瞳に、アステアはそっけなく答えた。

 

「――別に、俺の過去を見せるわけではないし、な」

 

 カーマインも淡々と告げる。

 

「はやてさんが言ってたように、俺も隠すような過去はないよ。誇るべき過去が無い事も認めるけどな」

 

 作られたものの過去――。それを知ることは、恐らく普通の人間よりも、知られたくない事があるだろうに、カーマインは簡単に答えた。

 

「……分かった。見せて欲しい、君の過去」

 

 そんな彼の瞳に、フェイトは何かを決意し、頷く。

 

「――では、目を閉じろ。まず貴様等に、俺達の世界と常識を叩き込む」

 

 アステアの掌が蒼く煌めき、はやて達が目をつむる。光の中に――彼女達の意識は飲み込まれていった。

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