連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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 俺の前に現れた二人目の異形は――俺には、計り知れないほどの絶望を胸に抱き――、異形の力を放ちながらも、人としての心を捨てられない――そんな人間だった――。
 奴と俺は――良く似ていた。
 だからこそ、俺は――アイツのズレを許せなかった――。
 人としての心を捨てようとする、アイツを――。

 その男の名は――ラルフ・ハウエル。


②ラルフ -フェイト・テスタロッサ視点-

 実は、カーマインのお母さんを助けるには、凄く長い道のりがあったんだ。

 

 まず、空に浮かんでる人工島――フェザーランドに行く為に、カーマイン達は飛行装置を開発してるアリオストに会わなくちゃいけない。

 次に、彼と一緒に飛行装置でフェザーランドに行きはしたけど、フェザリアンの女王に「人間がフェザリアンより優れた点を証明しろ」って言われて、フェザリアンについて調べる事にした。

 それで、

 その時にフェザリアンについて書かれた本を見つけたカーマイン達は、その本の著者――ダニー・グレイズって言う学者に会いに行く事を決めたんだ。

 

 だけど……

 

 その学者さんは隣の国の、コムスプリングスという観光地に居る。

 通行証を持ってないカーマイン達は観光地に行く為に、闘技大会にシーティアと参加した。その優勝賞品が、コムスプリングスの旅行券だったんだから――。 

 

 闘技大会での決勝の相手は、またもカーマインと同じ顔の青年で、名前をラルフと名乗ってた。凄まじい闘いの後、土煙の向こうにラルフが立ってる。

 

「えぇ!? アイツ、アンタ達と同じ顔?」

 

「どうなってんのよ、まったく……!」

 

 ティピが驚愕の表情で、シーティアがウンザリとして述べる。私も――もし、自分と同じ顔の別の人に、こうも立て続けにあったらと思うと……!

 そんな私の考えを余所に、ラルフはカーマインに穏やかに笑って言った。

 

「私とお前が戦う意味は、お前が決めろ。お前が何者なのか理解した上で、な」

 

「何を……言っている!?」

 

 意味深なラルフの言葉に、カーマインは戸惑ったように問い返す。でも――明確な答えを、彼はくれなかった――。

 シュワルゼと違って、穏やかそうな青年だ。

 

 ラルフ……。

 

 優しく笑ってたけど、どこか悲しそうな顔をする人だなって思ったんだ……。 

 

 

 

 そして、再びラルフと出合ったのは、ゲヴェルの肉の城だった。

 

 そこは――カーマイン達を生みだした創造主『ゲヴェル』――“白銀の鬼”が創り出した悪趣味な城。

 

 まるで人の体内を城に閉じ込められたようなその場所は、壁一面が真っ赤で、通路以外全部、何の肉か分からない妙な“モノ”で覆われてた。

 もしかしたら――これは、この城は“白銀の鬼(ゲヴェル)”の体内で出来ているのかも知れない。

 そう思わせる程に不気味で、壁には奇妙な、牙が鋭く生えそろった異形の口が、並んでて、それらは不気味にカチカチと音を鳴らしながら、カーマイン達を威嚇するように話しかける。

 

 鍵、鍵、鍵……足りない……。

 部屋、部屋、部屋……多い。

 鍵、鍵、鍵……開かない。

 

 壁に生えた異形の口は、謎かけのような言葉を紡いだ。それは肉の城を進む上で、必要となる情報の欠片だったんだ。

 カーマイン達は迷路のような城の中を進んで行く。

 この道を突き進めば、自分の創造主である白銀の鬼(ゲヴェル)と出会う。それを知っているからこそ、カーマインはこの道を選んだ。

 

 そして思った通り、開けた肉の部屋には、自分と同じ顔の男が待っていた――。

 

「お前を止めに来たぞ、ラルフ」

 

「私に追いつくとはな……」

 

 互いに見合う二人。ラルフが静かに口を開いた。

 

「お前に私は止められない。お前の言葉は軽い。正しいか、間違っているかは人の主観によって――立場によって、変わる」

 

「……」

 

 対するカーマインもまた、静かに見返す。ただ静かに、瞳に炎を燃やしながら――。

 

「奪われたことのない者が語る綺麗事に、私は止められない」

 

 その瞳を真っ向から見据え、ラルフは宣言する。

 私は何か――嫌な予感がした。

 

 奪われた……?

 ――何を?

 

 鋭く引きつったラルフの顔を見つめながら、私は手を握った。

 

「言いたい事はそれだけか?」

 

 カーマインが静かに、聞き返す。

 

「……何?」

 

 ラルフは不快気に、訝しげに眉をしかめる。カーマインは淡々と続けた。

 

「奪われた者が、奪っていいという道理にはならん」

 

「正論だな。だが、それだけだ。操られたことで、私は自分の手で、自分を育ててくれた両親を殺した。殺させたのはゲヴェル。私を生み出したバケモノだ」

 

 私は息を飲んだ。

 ――操られた?

 首を傾げると同時に、解答となる情報が流れて来る。

 

 カーマイン達――俗にこの世界で『仮面の騎士』と呼ばれてる、カーマインと同じ顔の人達は、白銀の鬼によって創り出された存在。

 そして、『仮面騎士』と『白銀の鬼』は強く結び付いていて、白銀の鬼の命令を、仮面の騎士達は絶対に逆らう事が出来ない。

 それは――多分、一緒にしちゃいけないんだろうけど、使い魔と魔導師の関係に似ていた。

 ――ううん、違う……。

 多分……闇の書と守護騎士システムの方が近いんだ。守護騎士(シグナムやヴィータ)の生命力となる魔力は全部、はやてに依存してる――。

 それと同じで、カーマイン達の命は、この白銀の鬼が握ってるんだ。

 と言っても、影響力はずっと、白銀の鬼の方がはやてより上のようだった――……。

 

 ラルフは、ゲヴェルに命じられ――あらがえない殺戮衝動に狂わされて、両親を殺してしまった……。

 誰よりも尊敬していて、誰よりも好きだった――自分の両親を。

 

 私の脳裏に、プレシア母さんが浮かんだ。

 私を生みだした――プレシア母さん。もし私がなのはと出会ってなくて、プレシア母さんにリンディ母さんを殺せと命じられたら――?

 ううん、違う。

 ラルフは物心つく前から、リンディ母さんのような人に育てられたんだ。

 それを――殺させられた……。

 自分の意志に、関係なく――。

 

 ラルフの視界が、黒い闇に塗り潰されて行く感覚に――私は思わず、口許を手で覆った。

 

 ……酷い……。

 

 せっかく、……せっかくの温かい居場所だったのに、

 ラルフの家だったのに、

 こんなの――。

 

 ラルフは静かに頷き、言葉を告げて行く。カーマインも静かに聞いている。お互いに決して揺らがない信念を瞳に宿し、見合う。

 

「その時の絶望は、お前には分からない」

 

「……ああ」

 

 絞り出すようなラルフの声に対して、カーマインは揺るがず、静かに相槌を返した。そんなカーマインにラルフは、ついに自分の中に溜まっているどす黒い感情の炎を吐きだした。

 

「あまつさえ私は自分こそが両親をその手にかけたという記憶を忘れ、殺した罪を他者に擦り付けた。これだけの罪深きバケモノ、生かしておくことは出来ぬ!! ゲヴェルに関わった事で、これ以上、優しい人々が犠牲になるなど、私には許せぬ!!」

 

 !!

 私は息を飲んだ。

 だって――こんなにも、胸が苦しい……。

 ラルフはこんなにも、悲しい目に遭ってるのに――それでもまだ、人の為に剣を振るおうとしているから。

 

 私には、出来なかった……。

 ――私は、ずっとプレシア母さんに振り向いてもらう為に、母さんに笑ってもらう為だけに、人を――なのは達を、傷付けて来たから。

 間違ってると思っても、笑って欲しいと思う感情を私は止められなかった。

 だから――

 

 私にとって、ラルフのその顔は、その瞳は――とても強くて、哀しくて――尊く、儚い。

 

 

 白銀の炎を身に纏い、右手に灼炎を吹きあがらせる妖刀を握って、異形の影を背負う自分と同じ顔の青年に、カーマインは静かに言った。

 

「成る程な。……結局、お前が一番許せないのはお前自身ってワケか」

 

「……」

 

 ラルフはそれに相槌を打つこと無く、異形の瞳で睨み返す。カーマインは気にすることなく、続けた。

 

「お前は、ゲヴェルが許せないんじゃない。罪を犯しながらソレから逃げた自分を、お前は許せないんだ」

 

「ソレで? だからどうした」

 

 ラルフは、冷淡とも言える声音と瞳で返す。異形の――闇を顕現するかのような低く、暗い声で。

 カーマインは静かに腰の絶刀レギンレイヴを抜き放ちながら、言う。

 

「お前が戦う理由……。確かに、ゲヴェルの犠牲者を減らそうという考えは、理解できる。自分や犠牲になった両親と同じ存在を増やさないという考えは、一見まともだ」

 

「――なら、何故止める。貴様も私の考えを――」

 

 ――理解できるはず。そう続けようとしたラルフの言葉は、カーマインの強い口調で止められた。

 

「――だが!」

 

 カーマインは、静かに言葉を続ける。

 

「本当に、それだけか? ラルフ」

 

「どういう事だ?」

 

「自覚していないのか?」

 

 静かに問い返してきたカーマインの次の言葉は、ラルフの心をえぐるように鋭かった。

 

「お前は、自分が両親を手にかけた罪から逃げた事が許せないだけだ。尤もらしい理由で、周りや自分を納得させているに過ぎない。貴様がやろうとしている事は、ゲヴェルを殺すことで、自分の罪(責任)の全てを誰か(ゲヴェル)に押しつけようとしているだけだ!!」

 

「――!!」

 

 瞳を見開き、その鬼眼を容赦なくカーマインに叩きつけるラルフ。カーマインはソレを静かに見据え、更に続けた。

 

「ソレは、先に貴様が語った罪から逃げることとどこが違う? 自分が不幸だからという言葉を逃げ口上にして、責任逃れのために他者の命を奪うこと。俺には、そっちの方が罪深いように思うぜ」

 

 責任――逃れ……?

 ラルフのこの選択も、間違いなの?

 

 カーマイン……、

 ゲヴェルの殺戮衝動から解き放たれる為に――他の騎士達が、自分と同じ存在にならない為に、こんな状態でも前を向いてるラルフでも、間違いなの?

 

 

 なら、

 『正解』って、何?

 答えって――?

 

 お願い、教えて……!

 でないと、私――……何も、変わってない事になるよっ!!

 

 思わず頭を抱えて、私はその場にうずくまった。

 

 容赦と躊躇の無い、袈裟がけ。それをカーマインは動ずる事もなく、自身の刀で止める。赤い炎を纏う刀を持つ――自分と同じ顔の異形を見据えて。

 

「……貴様に、何がわかる!?」

 

 余りの怒りに、ラルフはそれだけしか言葉を成さなかった。怒りに震えるラルフを静かに見据え、カーマインは容赦なく言葉を続ける。

 

「自分の弱さを否定する為に、誰かに責任をなすりつけている。俺にはそう見える」

 

「……黙れ!!」

 

 凄まじいラルフの攻めは、苛烈で――瞬く間にカーマインはその身を炎と刃に蝕まれていく――。全ての斬戟を返して尚、ラルフの炎と斬戟はカーマインの全身を切り刻み、焼いていた。ラルフは、全力でカーマインを殺そうとしている。カーマインは静かに自分の体の状態を見下ろして、確認すると表情を変えること無く、ラルフを見据える。

 そんな彼に、ラルフは刀を静かに下ろし、告げる。

 

「――命が惜しければ、ここで去れ。そうすれば、顔見知りのよしみだ。逃がしてやろう」

 

 それが、最後の忠告だった。これ以上邪魔をするなら、殺すという通告。――だが

 

「貴様に、人を見る目は無いな。そんな事を言われて、俺が立ち去ると思うのか?」

 

 カーマインは静かに刀を左手に持ち、腰を落とす。退く気等、毛頭ない――。それを態度と言葉で示していた。

 

「――ならば、死ね!!」

 

 更に力を高め、己の力を全開にするラルフ。――これまで以上の圧倒的な殺意が、純粋な憎悪が、カーマインに叩きつけられる。

 

「できるものなら、やってみろ!!」

 

 そんなラルフの姿を見て、ついにカーマインも自分の異形を開放した。その全身に白銀の炎を纏い、金と銀の瞳は闇に彩られ、圧倒的な鬼気を放っている。

 

 闘技大会の時とは、明らかに違う状況。

 

 あのときは、片方が相手に合わせ、片方が未熟だった――。けど、今は違う。二人の青年は己の剣に信念を込めて、この先に居る自身の創造主に会う為に――勝つ(斃す)ために――刃を交える。

 気の遠くなるほど、実に長く苛烈で、激しい剣の応酬。両者ともに――まるで退く事をしない、完全な潰し合い――。

 

 ガオオオォンッ!!

 

 これまでで一番強烈な一撃、袈裟がけが互いにぶつかり合った。両者の力は――互角。そのまま、鍔迫り合いの姿勢になる。

 

「――何故、貴様にこれだけの力が……!!」

 

 自分と全く互角に斬り結ぶカーマインに、ラルフは驚愕の表情で告げた。

 才能だけで、自分とここまで向き合えるはずがない。今の自分の姿は、その全身から溢れる殺気は――同族にすら恐れられる。

 なのに――なぜ、この青年は、自分に怯えず、向かってくる?

 

(何故、詭弁しか言わない男に、この私が止められる……!!)

 

 そんな想いを込めた問いに、カーマインは心のままに吼え返す。

 

「自分の弱さと向き合えない奴に、そんな情けない奴に、俺は負けない!!」

 

 ギィンッ!

 

 刀を弾き、一閃。ラルフはソレを真っ向から切り返し、またしても斬戟が中央で激突する。

 

「この私が、弱いだと!? ふざけるな!! 私は強くなった……!! 二度と大切な人を奪われないために。誰かから、奪わない為に……!! 私は何もかも捨てて強くなったんだ!!」

 

 血を吐くように言いながら、更に斬戟を放つラルフ。切り返すカーマイン。

 

「いい加減にしろ、ラルフ!! 何故弱さを否定する!? 貴様は、罪から逃げようとすることは罪深いと言ったな!? ならば、自分の罪(弱さ)に正面から向き合って見せろ!! ゲヴェルの所為にするのではなく、自分自身を乗り越える為に!! そして止まった時を動かす為に!!」

 

 カーマインの怒りは、ラルフに対する弱さ。罪を認めながら、その重さに耐えきれず、逃げようとするラルフへの――苛立ち。

 

「ソレは、詭弁だ!! 奪われたものが奪ったものを憎むのは当然だろう!? 何故、ソレが間違いなんだ!! ならば、貴様は奪われることになった原因に責任はないとほざくのか!?」

 

 ラルフの怒りは、ゲヴェルへの憎しみ。人々から躊躇なく命を奪う全ての、自分を含むゲヴェルへの――怨念。

 

「その責任の取り方が、相手の命を奪って自分も死ぬことだって言うのか? どの面下げて、ほざきやがる!?」

 

「何ぃ!?」

 

 更に――更に激しさを増していく剣と剣。

 

「ラルフ、貴様は被害者だ。貴様の境遇なら、間違いなく俺もゲヴェルに殺意を抱くだろう。だがな! だからって――特別じゃないんだよ!! 誰かの命を奪う事が正しい(当たり前な)わけないだろうが!! いい加減に目を覚ませ!!」

 

「ならば、そこまで特別な心を持って許す事が正しいというのか!? ソレで、奪われた者が納得すると、本気で思っているのか!? ふざけるな!!」

 

 激昂し、斬りかかるラルフの唐竹を見事に紙一重で躱し

 

「――どんなにやるせなくても、どれだけ憎んでいても、許さなければまた新たな憎しみを呼ぶ。どちらかが相手を許さない限り、永遠に殺し合うことになる」

 

 カーマインは静かにラルフに告げる。だが、ラルフはソレに納得などしない。いや、出来ない。

 

「相手を完全に滅ぼせば、そんな事は起きない!!」

 

「いい加減にしろって言ってんだろうが!! そのやり方――、貴様の忌み嫌うゲヴェルそのモノじゃねえか!! 結局、貴様のやろうとしている事は――両親の仇打ちなんかじゃない……!! ただ浅ましいだけの自己満足なんだよ!! ソレで、誰が救われる!?」

 

「浅ましい、だと……!! 自分の守りたい物を――他人に操られ、自分の手で奪ったんだぞ!! ソレを許せないことの、何が浅ましい!! その原因となった存在を憎む事の――何が、自己満足なんだ!!?」

 

 ギィンッ!

 

 刀を弾き、ラルフを後方へ下がらせ、カーマインは静かに問いかける。

 

「――ソレで、何が変わる?」

 

「何――?」

 

「ソレで、貴様の大切なモノは帰ってくるのか? 来ない事は、貴様自身がミーシャに話していたな? 貴様がゲヴェルを殺し、ゲヴェルを慕う同族が貴様を殺し、その同族をジキル達が殺す――。永遠に続く泥沼の殺し合い。ソレが、貴様のやろうとしている事の結末だ。ソレでは、自分自身すら救えない。貴様にとって大切な人達を傷つけていくだけだ……」

 

 今、ラルフの目の前にいるわずかな幸せさえ。

 対峙するカーマインは厳しい戦士の顔で続ける。

 

「ラルフ・ハウエル――貴様の怒りは正しい。だが、どれだけその想いが正しくても、憎しみに取り込まれた者に先は無い。復讐を遂げた時、貴様は唯一自分に残った命すら手放す。そんな無意味な事を――俺は認めない。貴様を想う人々の心を、情けを見ようともしない貴様を、俺は許さない」

 

「……」

 

 先ほどまでの憎悪の表情はやがて、苦悩のソレへと変化している。そんなラルフにカーマインは更に告げる。

 

「貴様には友が居る。貴様を待つ人々が居る。その人達を置いて、死に逃げるなんて――俺が、許さない!!」

 

 力強く、腹の底から響く声に静かに瞑目し、強い意志を瞳に宿して瞳を開け、ラルフもまた、強く言い返す。

 

「例え、貴様が言う事が正しくても! 正しいか間違っているかでは割り切れないこともある!! それが、“人の心”だ!!」

 

 レヴァンテインを構え、その瞳に信念と意志を込めて――ラルフは告げる。

 

「どんなにやるせなくても――どれだけ憎んでいても、心の持ち方で許すことができる!! ソレが――“人の情け”だ!!」

 

 レギンレイヴを構え、その瞳に勇気と覚悟を決めて――カーマインは宣言する。

 

「なら、貴様の情けとやらで、私を止めてみろ!! 我が炎の刃が貴様の甘い戯言を、焼き尽くして見せよう!!」

 

「上等!! 自分の弱さを認められない臆病者の炎で、俺が焼けるか――試してみろ!!」

 

 最早、言葉は不要――。最後の一撃を決める為、両者は静かに剣を構える。

 救世の光と伝説の炎は、ついに――どちらが上か、雌雄を決しようとしていた。

 

 

 ……そう、か……。

 私は地面に手をついたまま、不意に理解した。

 なのはは――なのはだから、分かったんだ……。

 あの模擬戦の時、皆が皆、カーマインの力に怯えてた。――そんな中で、なのはだけが言っていた。

 

 ――彼の身に纏っている光は、どんな絶望も――闇も――明るく照らし出せるように――私には見えるよ……!

 

 って。

 なのはだけが、あの時、カーマインの行動の意味を本当に理解してた。あの身も凍るような――ゲヴェルの強大な力を前にして。

 力に惑わされずに、カーマインの意図を読んだんだ。

 カーマインは、どこかとなくなのはに似てるから……。

 

 ラルフに“死んでほしくない”って。

 

 ホントは、それだけの為に必死だったのかもしれない。

 ラルフや、ラルフを囲う人達の幸せのために――その為に、カーマインは傷だらけになっても、省みずに戦うんだ……!

 

 

 視界が暗転する。

 次のゲヴェルへと移る時が近いのだと、感覚が私に教えてくれる。

 けど――、

 

 お願い。

 もう少しだけ、見させて。

 

 ラルフが――彼が、どんな結末を迎えたのかだけ……

 

 

 私が胸元で手を重ね合わせると、再び視界が晴れて行く。

 場所は――変わらずゲヴェルの肉の城。

 その広間の中央で、ラルフは一人の女性に(いだ)かれていた。

 

「私と――生きて、ラルフ」

 

 女性は穏やかな声でそう言った。抱きしめられているラルフは深く俯いて、人としてむせび泣いてる。ソレを見下して、カーマインはどこか勝ち誇ったかのように笑う。

 

「人間は――温かいだろう? ラルフ」

 

「――お前は、イヤな奴だな」

 

 嫌そうなラルフの言葉に――カーマインは心の底から優しく笑って見せた。




 刺客として人の世に送り込まれた仮面騎士(ゲヴェル)――ラルフ。

 異形としての記憶を持たぬ仮面騎士(ゲヴェル)は、豪商の子として育てられ、慕っていた両親をその手にかけた。
 絶望に塗り固められたラルフは、復讐という大義を抱いて、剣を取る。
 黒き炎を燃やす彼の闇を晴らしたのは――彼に恋慕していた一人の女性。
 彼女の告白により、復讐鬼から人へと還ったラルフは、力なく膝をついて涙した。

 人の情は、何よりも強い――。
 そして、人は一人では生きていけない。
 ――ラルフほどの力を持っていたとしても。

 それをカーマインに確信させた相手である。
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