連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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 俺の前に初めて現れた――仮面騎士として生きながらも、自分の生き方に疑問を抱いた兄弟。
 その刃は余りにも殺意に彩られていて――だからこそ、俺はいつも――お前から教わるんだ。
 ――命の重みを。
 その男は――俺の右腕で、俺が唯一この背中を預ける相手――デュラン。



③デュラン -シグナム視点-

 私が次に見たのは、一人の仮面騎士についてだった。

 名を――デュラン。

 

 白銀の異形を象った鎧を纏う男は、ある街道でカーマインを呼び止めた。

 

 

「何故、一人になった?」

 

「その方がいいだろ? ――お互いに」

 

 問いかける仮面騎士(デュラン)に対し、カーマインが平然と答える。

 自分と同じ声、黒髪、体格――。彼等が何者なのか、カーマインは全く分かっていないらしい。それでもまるで――カーマインは、迷わなかった。自分の行動にまるで、淀みがない――。

 

「フン、なかなかの相手のようだな」

 

 気がつけば、カーマインと仮面騎士――デュランと――の一騎打ちを、同族から「最強(ロード)」の称号で呼ばれる――異形の男シュワルゼと、看護師のカレン、ティピが見ている。

 正確には、仲間に被害が出ないようカーマインが一人になった後で、シュワルゼが――ティピとカレンを連れて来た――と言ったところか。

 最強と謳われる異形は、どこか物見遊山気分でカーマインとデュランを見ている。

 

 ――強い。

 

 私は今更ながらに――思った。

 ただ悠然と立っているだけだが、このシュワルゼと言う男――最強と言うだけあって強さに厚みを感じる。

 隙が無いわけではない。いや、むしろ隙だらけだ。

 だがその黄金と蒼銀の瞳が言葉以上に物語る。――触れねば斬られん、と。

 カーマインが、いくら腕を上げてもこの男にはまるで――通じなかったことを――私は改めて思い起こしていた――。

 そんな男の前で、二人の異形――カーマインとデュランは剣を交えた。

 

「行くぞっ!」

 

「本気になったとて……お前に勝ち目はない」

 

 カーマインの凄まじい攻撃。デュランは静かにそれらを(さば)いて行く。だが、返しの一閃をデュランが放った時、彼の背後に超スピードで回り込んだ。――見事。交わされる剣戟は、たった数合でしかなかったが、両者の腕が分かる。

 アトロシャスと戦った時に比べれば――いや、ラルフと二度目に戦った時に比べれば、洗練さが無い。

 この時のカーマインは、これほどまでに勘に頼った野性的な戦い方をしていたのか――。同時に――時系列的に見せてくれているわけではない事も、確信した。

 それにしても――眩いほどの才能を感じさせるカーマインに私は、同じ剣士として息を飲み、今、敵として剣を交えている仮面の男――デュランに視線を移した。

 デュランの剣は才能に恵まれた剣とはまた違っていた――。確実に相手の息の根を止める為に――洗練され、研鑽された修練の剣――。才気あふれ、己の思うがままに剣を振るうカーマインのモノとは対極に位置する剣だと、私は――この剣士を見た――。

 デュランは静かに振り返ると、攻撃を仕掛けてこないカーマインを睨み据えて質問した。

 

「何故だ……? 先程もだ。背後を取っておきながら――お前は、何故急所を狙ってこない!?」

 

「不殺の信念を貫いているんでな」

 

 それに対するカーマインの言葉は、聞いているこちらが驚くほど端的だった。

 

「命のやり取りをしているのに、不殺だと? その信念の為に自分が死んでは意味が無い。生き残る為に殺す。勝つ為に殺す。食う為に殺す――それが、この世界の真理だ」

 

「お前の物差しで世界を測るな。殺す事が、勝つ事じゃない」

 

 ……まるで、逆だと思った。

 アトロシャスがティアナに模擬戦をした時と、逆の状況。

 ――模擬戦の中で、充実した生の為、鮮烈な死闘を演じようとするアトロシャス。

 ――殺し合いの中で、守るべき命の為、不殺の信念を貫かんとするカーマイン。

 

 ……妙だ。

 私はあの模擬戦とも呼べないアトロシャスとカーマインの戦いを見て、両者が似ていると感じた。だが、殺傷にこだわるアトロシャスに反して、カーマインは不殺の信念を掲げている。

 あれほど純粋な殺気と――凄まじいばかりの純粋な――圧倒的な死闘を繰り広げたと言うのに、カーマインの掲げる信念は――不殺。

 

 ――なるほど。これが“不殺の斬撃”か……。

 

 ふとアトロシャスが言っていた言葉を思い出して、私は瞬いた。――なるほど。カーマインの不殺の斬撃とは、私達の魔法ダメージ――つまりは非殺傷系攻撃に似ているのだ。術者がどれだけ本気になっても、相手を殺す心配はない、非殺傷設定。

 それを操る者だからこそ、純粋に死闘を楽しみながら“不殺”を貫けるのだと知った。

 

 ……つまりは、そういうことか。

 

 私は思わずつぶやいた。つまりは、高町の想いを通す為には、カーマインほどの力を持ってしなければあのアトロシャスを止められん、そう言うことか――と。

 

 

 

 自分の気持ちを相手に伝え――。考えていることを振るう刀に込めて――彼等は、剣を振るっていた。剣をぶつけ合いながら、お互いの“生き方”を語り合う為に――。

 コレが、ゲヴェル……。身体能力や反応速度もだが――、彼らは純粋に生きているように、私には見えた。

「昨日よりは今日、今日よりは明日……といった強さ……だな」

 シュワルゼが邪悪に口を歪めながら、二人の剣撃を見ている。その言葉に、彼の肩に座るティピが首を傾げた。

 

「どういう意味なの?」

 

「奴は俺と同等の力に目覚め、それを使いこなす為にここに来た。――だが、奴と俺では決定的な違いがある。人間の情、強さ……それが、あれの力の源か」

 

 シュワルゼの言葉に私も耳を傾ける。

 やはり――と私は、我が意を得たりとばかりに頷いた。――やはり、高町と似ている――、人の情を誰よりも大切にする姿は――主はやてや、高町の様な人間を私に思い起こさせる――。

 

 ズバァッ 互いの刀がなぎ払われ――決着が着いた。アレほど苦戦していたのに、正面から、カーマインはデュランに打ち勝って見せた。

 アトロシャスとの死闘でも――カーマインは最後の方で剣速が上がっていた――。アレは――私の見間違いではなかったのだ。彼は――戦いの中で、急激に成長していく――。まるで――真綿に水をしみこませるように

 

 カーマインは膝を付いたデュランを静かに、その金と銀の瞳で見下ろした。

 

「お前はここ一番――とどめを刺すとき、必ず両手で振り下ろす唐竹を使ってくる。だが、必殺の一撃はそう何度も見せるモノではない。何故、同じ手を何度も見せた?」

 

 その言葉に、デュランは――淡々と、しかし――どこか、聞いているこちらが悲しくなるような声で言う。

 

「……生きるのに、飽いたからだ。俺達は創造主であるゲヴェル様の為に闘い、そして死ぬ。その事に、俺は今まで何の疑問も抱かなかった。だが――そんな俺達の中に自我を持ち、ゲヴェル様に逆らう者が現れた。――それからだ、俺達の様な消去者(イレイザー)が生まれたのは。ほんの少しでも、裏切る素養のある者は殺せ、と。そして――俺は兄弟を殺めて来た。自分の分身である存在さえ殺め、お互いを信じる事さえ出来ぬ仲間……それに何の意味がある? だから――俺は、自我を持ったアンタが羨ましかった」

  

 その言葉に――私は、思わず自分の胸を抑えた――。

 彼は――なんと言った? ゲヴェルに苦しまされていたのは、カーマインやラルフ達だけでは無い――のか?

 私の頭に記憶が流れ込んでくる――。

 人間の社会に送り込まれ、人として生きるカーマイン達は赤子の状態で生み出される。彼らは、人として育ったが故に、人としての自我が強くあった――。その為、イレギュラーと呼ばれる存在として創造主(ゲヴェル)に忌み嫌われ、ソレを抹殺する掃除屋として、カーマイン達と同じ――創造主(ゲヴェル)の手足となる為に――初めから成人した体格で作られた仮面騎士達に白羽の矢が立ったのだ――。

 自分と同じくして、同じ細胞から――同じ目的で作り出された兄弟――。彼ら――仮面騎士にとっては血を分けた兄弟よりも深い――いわば、もう一人の自分――。ソレを、殺していく行為に、デュランは疑問を感じ――自我が芽生えたという。

 

 意識を二人に戻した時――デュランは、仮面の奥から澄んだ瞳でカーマインを見ていた。

 

「今度は、俺からの質問だ。何故、アンタは俺を殺さなかった? あと一歩踏み込めば、俺を殺せたものを」

 

 その問いに、やはり揺るがぬ瞳で――カーマインは静かに返した。

 

「あと一歩踏み込んでいたら、俺は負けていたさ」

 

「俺の負け……いや、アンタの勝ちだ」

 

 そんなカーマインの答えに――諦めたような、疲れきったようなデュランの声。カーマインは静かに語りかけた。

 

「生きている理由――生きる意志、生きる意味は、これからお前自身の目で世界を見、答えを出せ」

 

「ならば、アンタの剣に俺はなろう。その答えとやらを見出すまで」

 

 その言葉に――王に忠誠を誓う騎士のように片膝を付く一礼をして、デュランは述べた。

 

―― なるほど、デュランは――こうして出会ったのか。自分の真の主に ――

 

 ソレは―― 決して一時的な思い付きの行為ではない筈だ。デュランほどの剣士ならば――カーマインに何かを見たのだろう――。私が、主はやてを思い起こしたモノを。

 

 

 場面が変わり――迷いの森と呼ばれる深い樹海の街道でカーマイン達は歩いていた。デュランは、自分達の先頭を歩くカーマインの背中に問いかけた。

 

「何故だ? 何故あんたは迷うことなく仮面騎士と同じ奴らを助けた?」

 

 私の記憶に――この森にある遺跡の情報が流れてくる。

 遺跡の入り口にて、強力な魔力保持者グローシアンの王族とゲヴェルの融合体――と名乗る青年との戦闘。

 その際に――そこに、三人の青年が居た。カーマインと同じ顔の青年達が。

 彼らを、カーマインは迷うことなく助けたのだ……。人に害をなすかもしれない相手〈仮面騎士〉だというのに……。

 それが、この時のデュランには――理解できなかったのだろう。

 

「そんな事、決まってんじゃない! あの人達と仮面騎士達って全然違うわよ! アタシ、一目で分かっちゃった!!」

 

 その疑問に応えたのは、カーマインではなく彼の肩に座る妖精――ティピだった。

 

「……何?」

 

 首を傾げるデュランに、カーマインは静かに話し始めた。私も思わず注目してしまう――。

 ゲヴェルの手先である筈の、異形の青年達が――カーマイン達のように人としての自我を持っている者達であると見抜いた理由とは?

 

「俺の知る仮面達とあいつ等が違う理由、か? 簡単だ。彼らの瞳に宿る強い意志。共に闘う仲間達を想い、自分も強くあろうとする絆。俺はこれまでの旅で幾度となくあの眼をした者達に合ってきた」

 

 やけに自信ありげなそのセリフに、デュランは力が抜けた。

 私は――不思議な気分だった――。どんな理路整然とした答えかと期待していたから、デュランが拍子抜けした気持ちは分かる――。

 しかし、カーマインから出た言葉は、不思議と説得力があるような気が――私には感じたのだ。

 

「……それだけ? たったそれだけの理由で、助けたと言うのか?」

 

 困惑した様子で疑問を口にするデュラン。

 

「彼等が悪党ではないと言い切れる理由など、それで十分だ」

 

 そんな彼に――カーマインは、足を止めて静かに向き直った。強い輝きを灯した金と銀の瞳で。

 

「いくら姿が同じでも、いくら剣の腕がすごくても、所詮仮面騎士は傀儡にすぎない。人として成し遂げなければならない目的、その為に戦う覚悟は、半端な意思じゃ乗り越えられやしない。あの瞳の輝きを……」

 

「……アンタは」

 

 カーマインの言葉は淡々としていた。だが、その奥にある熱いモノはデュランの心を震わせる。

 私の口元には――知らぬ内に笑みが浮かんでいた――。

 ああ――、そうだデュラン。人の心を持つ事――、人の情けや温かさを知ることは――自分自身に、心を与えてくれる。誰かを信じる強き、輝きを――

 

「俺は、あの輝きを持つ人の為に闘いたい。力は無くとも今を懸命に生き、平和に生きている人々の為に。そして力を持って己の利益の為だけに、それらを壊す者から――彼等を守る為に、俺は剣を振るう。ソレが俺の意志。俺が剣を振るう理由だ」

 

 カーマインの真っ直ぐな瞳を、デュランは眩しげに見ていた。

 よくわかる――。私も――与えられた輝きだから。命の輝きを――我が主から。

 

「お前なら――必ず見つけられる。剣を振るう意味を…!」

 

「……剣を振るう理由」

 

 チラリとデュランはカーマインの指輪を――レギンレイヴを見やる。その指輪に込められた覚悟を見る。ソレに、カーマインは力強くうなずいた。

 

「俺は――お前を信じている」

 

 その言葉に、デュランは静かに自分が握った拳を見る。

 貴方が握りしめるモノ――ソレは、何か。似たような立場にある剣士として――見せてもらうぞデュラン。

 

 

 

 保養地ラシェル。

 再びの場面転換――。そこは緑に覆われた静かな保養地――。そこにある大きな病院の入り口の前にある広間で、デュランは静かに――カーマインを待っていた。

 その瞳に――何かを決意したような――強い輝きを宿して。

 

「……俺は今一度、アンタと剣を交えたい。“自分自身”を見つける為に…!」

 

 カーマインは静かに、いつもの強い意志を宿した瞳で――デュランの双眸を見据える。

 

「――それでお前の迷いは晴れるのか?」

 

「分からん。だが――その前にどうしても、アンタに聞きたい。何故アンタは、人を殺し抜いた俺達を――ゲヴェルを――許せる?」

 

 真摯な光を瞳にたたえて――問いかけるデュラン。

 

 デュランの疑問は尤もだ。人の命を大切に思っているカーマインが、何故――人々を殺してきたデュランを信じ――許すのだろう? 自分が最も忌み嫌う――必殺の刃を振るう――剣士を。

 何と応えるのか――、私は知らぬうちに――カーマインの答えを楽しみにしている感覚に気付いた。

 カーマインはその瞳をしっかりと見据え、言う。

 

「俺は――人間だ。だが、自分がゲヴェルでもあることを否定はしない。そう言う事だ」

 

 まただ――。また、こちらの想像の上を行く――。その言葉は、しかし――主はやてならば言うかもしれない。そんな不思議な――楽しみ。

 

「……何?」

 

 こちらの思惑等、分からず――怪訝そうな顔をするデュランの瞳を真っ直ぐに見据え、カーマインは続ける。

 

「人間を尊重し、ゲヴェルを否定する気はない。――どちらも等しく、命なのだから」

 

「……どちらも等しき命」

 

 カーマインは静かに自分の覚悟を投影する刀を――レギンレイヴを具現化。左手に一本で持ち、腰を落として斜に構える。その構えに隙は無く――、私が見たアトロシャスとの戦いでのカーマインのイメージと合致した。

 どうやら、ここらである程度の剣術を完成させているようだ――。

 

「ここから先は、言葉で交わすもんじゃない。…そうだろ?」

 

 言葉を受け、デュランも静かに自分の背中の腰部分に――水平に差した黒柄の長刀――リーヴェイグを抜き放つ。

 以前は持っていなかった――カーマインの絶刀によく似た白と黒の二振りの長刀。デュランはその内の黒い柄の刀を選んだ。

 カーマインが不敵に笑い――どこか、気軽に話しかける。その表情は――アトロシャスとの戦いで見せた時と同じ表情だった――。

 

「今度は、お互い全く同じ条件でやれるな」

 

「ああ。だからこそ――アンタに真剣勝負、申し込む!!」

 

 デュランの全身を白銀の炎が覆う。宣言の後に――カーマインにも匹敵する圧倒的な鬼気がデュランから放たれる。

 

「――上等!!」

 

 カーマインも不敵に笑って、全身に白銀の炎を纏う。互いの背に一瞬現れた異形の影が――睨みあう。

 ―――抜き身の刃。私が受けた今のデュランの印象は、正しくソレだった。

 相手を殺す――その事だけを優先し、研鑽を重ねて洗練され、完成された殺人剣。

 

「――これが、俺の真の刃。テメエに破れるか!? カーマイン!!」

 

「貴様らしくないな。御託も遠慮もいらん……。本気で()くぞ!!」

 

 互いに咆哮し、剣を交え会う光の異形、二匹。

 その斬激は――空間をスパッと切り裂く――。その脚力は、土を掘り起こし――舞いあげる。そのスピードは――木々を揺らし――そのパワーは大地を起こす。

 伝説の――異形、ゲヴェル同士の真剣勝負――。ラルフとの戦いで分かってはいたが――改めてみても凄まじいモノだ――。

 もし、オーバーSの魔導師が、全力でぶつかり合えば――こんな光景が見られるのだろうか――?

 どれくらいの時が経ったのだろう。青い空は今、夕焼けに紅く染まっている。それなのに、まるで二匹の異形は疲れを知らず、いや最初に剣を交えた時より更に力が、剣術が、スピードが上がっている。

 瞳に鬼気を、口元に笑みを浮かべて、二匹の異形は実に楽しそうに激しい剣をぶつけあう。一つでも喰らえば致命傷確実の一閃が目の前で交差し、眼前を通り過ぎていると言うのに、カーマインもデュランも笑っていた。

 

「――楽しそうだな、デュラン」

 

「アンタの剣は、俺にいつも新しい事を教えてくれる……! 死を眼前に見ながら笑みすら浮かべ、迷うことなく斬りつける意志。そして、異形の波動に影響されながらも決して揺るがぬ不殺の信念……。初めて会った時から分かっちゃいたが……大した野郎だ、アンタ」

 

 剣を繰り出しながらのカーマインの呼びかけに、デュランは剣を返しながら自分の感情を素直に返した。その言葉に、カーマインもまた、自分が感じる命の煌めきを――称賛する。

 

「貴様こそ、相手を殺す為に己の命すら捨て、死地へと踏み込むその一歩。振り切られる迷いなき斬閃。そして何より――向かい合うだけでビリビリ来るこの気迫……見事としか言いようがない……!! 常に死を感じながら、生きて来たその剣は、俺に命の大切さを教えてくれる。――だから、俺は貴様に勝つ!!」

 

 ギィンッ 刀と刀が弾きあう。互いに後方へバックステップし構え会う。

 

「――なら、そろそろ決めようぜ!!」

 

 互いに同時に踏み込み、剣を振りかぶる。カーマインは両手持ちの唐竹割り。デュランは右袈裟がけ。共に自分の全てを込めた強打撃。放たれた斬戟は――。

 カーマインの刀はデュランの頭頂部に――。

 デュランの刀は、カーマインの首の付け根に――。

 それぞれ、触れる寸前で止まっていた――。互いに見合い、どちらからともなく刃をゆっくりと退いて向かい合う――。

 

 余りにも――鮮やかな一閃だった――。両者の斬激は――余りにも美しい一撃だった。互いの万感の想いを――不殺の覚悟と必殺の信念を――ぶつけ合った斬戟だった――。

 これぞ、正しく――真剣勝負。

 

 互いに剣を構え合いながら制止して――しばらく、デュランが静かに刀を納めた。

 

「流石は――我が主、カーマイン・フォルスマイヤー様。参りました」

 

 静かに頭を下げるデュランを、カーマインはキョトンと見た後、呆れたと言う溜息を付いて――

 

「全く――敵わないな。お前には」

 

 苦笑と共に返しながら、自分の刀を納める。この時、デュランはカーマインを正式に主と認め、カーマインはデュランが自分に仕える事を承諾したのだった。

 

「俺は剣士。骨の髄まで、剣士である俺には、刃を振るう以外に出来る事は無い。ならばこそ我が刃――カーマイン様の為だけに振るいましょうぞ」

 

「……俺の為ではなく、助けを求める命の為に剣を振ってほしいが、ソレは無理か?」

 

 カーマインの言葉に静かに叩頭するにとどめるデュラン。やれやれとカーマインは溜息を吐いて、しかし穏やかに微笑して見せた。

 

 

 なるほど、ここでようやくデュランは――カーマインに仕える事を決めたのか。己自身の気持ちに整理を付ける為に――全力で、挑んだ――。

 その気持ち――同じ剣士として、羨ましくあるぞ――。

 

 

 次の場面転換は――、余りにも唐突だった――。王都ローザリア東側の街道で――カーマインが何者かと口論している――。彼の顔色は真っ青で――今にも倒れ込みそうだというのに――。

 私の頭に――情報が流れてくる。

 カーマインは命を削り、不殺の斬戟を駆使して戦ってきた――そのツケが、彼自身の生命力だった――。もはや、彼の体は――いつ崩壊してもおかしくは無い――。絶対に安静にしなければならない状態だと分かった。――なのに。

 

 保養地ラシェルで――自分達の基となった人物が療養していた。世界を支配しようとする男――ヴェンツェルは、ラシェルに現れ、その人物を捕えようとしていた。

 その動きを察したカーマインは、消耗しきった命と体を持って、ヴェンツェルとの戦いに臨もうと仲間の制止を振り切り、王都ローザリアから駆けだしていたのだ――。

 

 だが、そんな彼の前に立ちはだかったのは――デュランだった。

 カーマインは蒼ざめた顔であるにも関わらず――凄まじい気迫で言い放つ。

 

「そこを――どけ、デュラン!!」

 

「今は耐えるときです。あなたの命を――散らすわけにはいかねえ」

 

 カーマインの恫喝にも冷静に淡々と答えるデュラン。静かに白い柄の長刀を抜き放つ。

 

「剣を交えてでも、お止めさせていただく。あなたは――まだ、死ぬべき時ではない」

 

 カーマインも静かに刀を抜き放つ。

 

 片方は仲間の危機を救うため――、片方は主の身を守るため――、互いに刀を構え合う――。カーマインは死にかけているというのが信じられないほど――圧倒的な身体能力でデュランと切り結ぶ。

 

 お互いに剣をぶつけ合い、互いの影を追うように所せましと駆けまわる。ソレほどのスピードで、斬戟の中で、二人は語り合う。

 

「貴方が守りたい仲間の為にも――、ここは耐えるべき時です」

 

「――今、俺の大切な仲間が――危機に陥っている。俺が命を賭ける理由は――それで十分だ!!」

 

 猛るカーマインに、デュランも睨みを利かせる。

 

「まだ、分からねえのか!? アンタが死んだら、誰がヴェンツェルを倒す!! アンタしかいねえんだぞ、人間の為に命を張ろうってゲヴェルは!!」

 

「……!!」

 

「まさか、俺が――アンタの意志を継ぐなんて思っちゃいねえだろうな? 言っとくが、カーマイン。俺はアンタに忠誠を誓ったが、だからって人間の為に――アンタの仲間の為に戦おうなんて気は、コレぽっちもないんだぜ」

 

 カーマインは目を見開いている。デュランの瞳は――本気だ。本気で――カーマインの仲間の為には戦わないと――言っている。命よりも仲間が大切だと言い切る――主の前で――。

 

「アンタが死ねば、俺は人間もゲヴェルも関係なく、ヴェンツェルに与するものを皆殺しにしてやる」

 

「――デュラン」

 

「甘ったれんな。アンタは仲間を助けるんだろう? なら――最後まで守りぬけよ、ヴェンツェルを倒すまで!!」

 

 デュランの一喝は鋭く、力強い――。カーマインの甘えを断ち切るかのように。

 対するカーマインは―― 静かに見開いた瞳を閉じ――再び開く。開かれた瞳はいつも通り揺れることなく、レギンレイヴを相手に左手一本で突き出して、強く宣言する。

 

「その為に――目の前の仲間を諦めろって? ふざけんなよ……!! ヴェンツェルとの勝負などラシェルで終わらせてやる」

 

 デュランもまた、強く返す。その瞳に――カーマインに優るとも劣らない光を宿して――。

 

「ソレが――不可能であることは、アンタが一番分かってるだろうが」

 

 激しい剣の応酬。因子抜きでも――彼らの剣の腕は、常軌を逸している。交差後方に斬り合う両者。

 ズバァッ 一閃が、カーマインの体を袈裟がけに切り捨てた。ガクゥッ 片膝をつき見上げるカーマイン、仁王立ちで見下ろすデュラン。

 ――初めて会った時と――まったく逆の状況だった。

 

「皮、一枚だ。安静にしてもらう」

 

「舐めるな。この程度で――俺が、倒せると思ったか?」

 

 カーマインはついに白銀の炎を身にまとい、因子を解放した。異形の影を背にして――無理やり傷口を塞ぎ、刀を構えなおす。そのカーマインの姿に、デュランは目を見開いた。

 

「――アンタ、その体で――因子を使えば!!」

 

 ――残り少ない命を削る事になる――。カーマイン、お前と言う男は!!

 

「俺にとって、仲間は――命より大切なんだよ!! 一人でも見捨ててたまるか!! 絶対に守って見せる!! どけ、デュラン!!」

 

「――この、分からず屋が!!」

 

 吠え返すデュランもまた――白銀の炎と異形の影を顕現させ、切り返していく――。

 凄まじいばかりの戦い――。だが、長く続いたこの勝負も――終わりの時がきた――。

 黄金に輝く刀が一閃。斬られたのは――カーマイン。しかし、その体に傷は無く、解放された力だけが切り捨てられていた。パワーストーン、人の強き意志を反映する奇跡の石は――デュランの振るう“極殺の刃”に、“不殺の斬戟”を顕現させて見せたのだ――。

 力を切り捨てられても、カーマインは刀を構えようとする。しかし――

 

「お、れは――ま、け、ねえ……」

 

「――カーマイン様!!」

 

 体中の力が抜け――倒れ伏す寸前で、抱きとめ、デュランは――主カーマインの顔をのぞき見る。

 

「このデュラン――。必ずや、あなたの大切な仲間を守りぬき――あの外道を斬って見せましょうぞ。だから――それまで、どうか――お休みください」

 

 蒼ざめた主の顔にそう告げ、デュランは静かに――拳を強く握り締める――。

 

 これほどまでの忠誠心だったとは――。今回のデュランの判断は、私に考えさせられるモノだった――。しかし――このヴェンツェルと言うのは――何者なのだろう?




 極殺の刃――同族を殺め続けたデュランが周りから呼ばれた二つ名である。
 しかし――彼は、自分の在り方に、疑問を持ち苦しみながら剣を振るい続けていた――。
 そんな彼を救ったカーマインに、彼は忠誠を誓い、時にカーマインの背を守るためだけに刃を振るい、時にカーマインが誤った判断をすればその身を呈して止める剣士となった。
 その彼の姿は――後に人々にこう称されるようになる。
 ――“救世の右腕”と。
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