残酷で凶暴で――冷酷な男だったが、それでも――奴の親への愛情だけは、誰に責められる事無き、想いだと――俺は思う。
最もゲヴェルを敬愛した男――ルーチェ。
黒装束のフードを被った男が、腰に刀を差して立っている。
ラージン砦という場所から東にあり、その南には深い樹海が広がる迷いの森。そこにある開けた平野で彼は――カーマイン達とまったく同じ顔をした青年は現れた。
ス……ッ とフードを外し――邪悪に妖艶に笑う――。
正直、気味の悪い男だった――。
陸士107部隊を襲った男――奴に一番近い――。そんな印象がある――。――コイツが、アウグ?
しかし、私の疑問は男の次の言葉で否定されてしまった――。
「俺の名は、ルーチェ。あの方に逆らう欠陥品には――消えてもらうよ」
ガキィッ 男――ルーチェの鋭い斬戟にカーマインも腰の刀を抜き、切り返す。鍔迫り合いの姿勢になった時、自身の刃が腐食し始めている事に、カーマインは気付いた。
「毒……。お前が母さんを斬った奴か!!」
カーマインが目つきを鋭くし、つばぜり合いの状態から一閃――。ルーチェを後方へ弾き飛ばす。と、ルーチェは自分の持つ刀を怪しい紫の煙と共に消してしまい――、同時にその指先に無数のナイフをはさむ。
――何? 奴は――武器を精製するのか?
ガキィッ カーマインも目の前に迫るナイフをレギンレイヴを具現させ一閃。粉々に砕いた瞬間、爆発が起こり――後方に縮地法で避けたカーマインの体を痺れさせた。
「……チッ!」
ガクゥッ 地面に片膝を付き、険しい表情でルーチェを見上げる。
「ふふふふっ、最高だよ。カーマイン。君は俺の想像をはるかに上回っていた。因子の力なしにここまでやるとは。――だが、これで終わりだ」
カーマインの前に来た男は静かに、刀をカーマインの頭上に構える。
「させるか! ティピちゃ~ん、キィーック!!」
ティピがキックを放つが、無情にもアッサリと弾き落とされてしまった。
「邪魔だよ。そこで見てなよ。君の仲間だと思っていた化物の最期を」
悠然と笑むルーチェ。地面に叩きつけられたティピを見るカーマインがその瞳を闇に彩らせ、全身を白銀の炎が纏う。
「やったな……!」
低く言い放たれた言葉と共に、背に現れし、異形の影。青年の口からは、およそ人とは思えない声が発せられた。
――ウォオオオオオオ!!――
その圧倒的な力は、記憶だというのに、まるで私を食い殺そうとしているかのように凶悪だった。――だが、正気に戻った彼は
「俺は、……殺しを、殺戮を……望んだ……?」
表情は、冷静で――無表情だと言うのに、今にも泣き出しそうな気がした――
「教えてくれ、ティピ……。お前の目から見て、俺は人間か……? それとも――」
「アンタはアンタだよ!!」
ティピの力強い声が、彼を元の冷静なカーマインに戻した。
この時に――カーマインはゲヴェルの真の力に目覚めたのだと、私は知った――。この後、彼は自身が目覚めた力を使いこなすために、保養地ラシェルにいるシュワルゼを訪ね――修行し、デュランに出会うのだ。
場面が変わり――ゲヴェルとの戦いを明日に控え、隣国の城でカーマイン達は宴を行っていた。
この宴は、ゲヴェルの野望を食い止めた祝いと、新しく王となったカーマインの仲間の少年を祝っての宴――。そして――、騎士として生きる為に性別を偽っていた女性が、皆の前で正体を明かし、新王の歓待を受けて、初の女騎士が誕生した祝いの席だ。
カーマインは月夜の下――先に述べた銀髪の女性騎士に誘われて城のテラスにいた。月明かりに照らされ、一種幻想的な雰囲気の中で言葉を交わす二人――。
そんな二人の元へ――黒装束の男――ルーチェが現れた。
「カーマイン。今日こそ、お前を――殺す!!」
ルーチェは初めて出会った時とは比べ物にならないほどの憎悪をカーマインに向け、その体術も剣術も、より一層磨きあげられているのが分かった――。
人の剣ではなく――異形の剣。自身の才能と、切り捨てた命の積み重ねによって作り上げた――歪んだ才能の剣――。生まれながらにして――人を殺す術を知る殺人剣を――更に、彼は進化させている――。
「貴様、こんな時を狙ってくるとは……!」
銀髪のドレス姿の女騎士が鋭く睨みつける。対照的に、静かに――カーマインは腰の刀を抜いた。
「折角のドレスだ、下がっていろ。ティピ、彼女を」
「ぃよっし!」
冷静に告げるカーマインに、ティピはいつも通りの活気のある返事を返す。
ルーチェは、カーマインと同じ――レギンレイヴと呼ばれる武器を手に入れていた――。黒い手袋をした十本の指にソレゾレ指の太さ程度の長い刀が現れる――。――ソレは、刀と言うよりは――爪だった。
互いに刃を交え、凄まじいスピードで狭いテラスを駆けまわる。
ギィンッ 後方に退いたのは、片手を抑えたルーチェだった――。
「指一本で――俺の剣を止められると思ったのか? 安易だぞ、ルーチェ」
「――フン、さすがにやるね。だが――こういうのは、どうだ?」
ルーチェの指先の刃に――紫の煙が纏わり、黄金の光と共に姿を変える――。一振りの刀へと。
「妖刀クロムレア――。ガリアンクロウの本来の姿、俺の魔方剣で再現出来るんだよ。そして――」
走るルーチェ。手にした刀は、レギンレイヴに匹敵する切れ味と頑丈さを併せ持つ。だが、ルーチェの剣はそれだけではない――。
「魔方剣とレギンレイヴ、この二つを合わせると――こんな事が出来る!!」
槍、ナイフ、弓、刀、爪――その全ての武器の切れ味が、カーマインの刀に匹敵している――。おまけに状況に合わせて、それらの武器が巧みに使い分けられ、毒が刃に仕込まれていない分、体術や剣術が磨きあげられている――。
凄まじい剣と剣のぶつかり合いは――長い打ち合いの後、カーマインが打ち勝った。
「――おのれ……!!」
袈裟がけに切り捨てられたルーチェは、片膝を付いた姿勢でカーマインを見上げる。カーマインは因子を使うことなく、己の剣術だけで――腕を格段に上げたルーチェに打ち勝った。
「帰って、親父に伝えろ。――すぐに行くってな」
冷めた口調で――カーマインは告げる。その言葉に睨みあげながら――ルーチェは憎悪の瞳でカーマインを見据える。
「何故、勝てない……!! 人間等と共に生きるお前なんかに……、ゲヴェルとして生きる俺が――何故!?」
ルーチェの叫びが満月の夜の下、響き渡る。
――この男の憎悪は深い。だが、人を傷つけるだけの異形に――何故、カーマインはとどめを刺さないんだ? 命は平等だと言っても――この男、野放しにするには、あまりに危険だ。
私がそんな疑問を抱いていると――場面が変わった。
そこは――薄気味の悪い――生物の内臓を思わせる大きな部屋だった――。コレは――ゲヴェルと戦った時の――まさに、カーマインがゲヴェルを打ち負かした直後の場面――。
私がそう理解した時、強力な魔力弾が――戦いの終わったゲヴェルの間で放たれ、ゲヴェルの頑強な巨体を貫いた。
「グハァッ」
「!? ゲヴェル様!!」
シーティア達に重傷を負わされながらも、ゲヴェルに助太刀に現れたルーチェ。しかし、彼が見た時には――ゲヴェルは、魔力の光に心臓を貫かれていた――。
「――フフフ、実に、下らない存在となったモノよな――ゲヴェル!!」
「――貴様、ヴェンツェル……!! 何故、貴様にグローシアンの力が……!!」
血を吐きながら、ゲヴェルは突如部屋に現れた老人を睨みつける。
コレが――この老人が、ヴェンツェル……!!
人々の――平和を揺るがし、カーマイン達を苦しめる張本人――。なんと言う――邪悪な目をした男だ。
「――何て事を!! せっかく、憎しみの感情以外に目覚めたのに……!!」
「どうして、こんな事が平然と出来るのよ!? アンタ達は!!」
ティピが――そして、ティピの妹である灰色の髪をした妖精が――同時に叫ぶ。シーティアが静かに剣を構えた。
「――ヴェンツェル。貴様――よくも私の前に姿を見せられたな?」
「フン……。まだ、本当の記憶が戻らぬか、シーティアよ!」
その場にいた小型のゲヴェル――ユング達が一斉に、ヴェンツェルへ攻撃を仕掛ける。だが――あっさりとその魔力の光の前に飲み込まれ、消えてしまった。
「バカな……! ユング達を、こうもアッサリと……!!」
盲目の剣士ウォレスが、その事実に驚愕する。
「アレだけの大魔法を――、一瞬で練られるなんて……!!」
同じグローシアンであるルイセには、ソレがどれだけ恐ろしい事であるか、理解できた。ソレはつまり――一瞬でこの場に居る全員を消し済みに出来ると言う事だ。
信じられないほどの強大な魔力――。間違いなく――オーバーSクラスの魔導師だ。しかも、一瞬でアレだけの魔力を放出し、対象を消し飛ばす――。
――まるで、悪魔だ。
「しっかりしろ、ゲヴェル!!」
茫然と立ち尽くす、私を正気に戻したのは――カーマインの悲痛な叫びだった。
「――フン、なるほど。コレが……絆、か。最後に良いモノを拝めたものだ」
「寝言を言うな!! アンタは……この程度でくたばるようなヤワな奴じゃないだろう!!」
カーマインは必死でゲヴェルに波動を送ろうと意識を集中し、手をかざす。ソレを――ドグゥ 鋭い衝撃が邪魔した。手刀がカーマインの首筋に入り、意識がもうろうとする中――振り返る。
「アステア……、何を……!?」
ドサァッ 前のめりに倒れるカーマイン。ソレを冷徹に見下ろし、アステアはゲヴェルを見る。
「コイツの命はもう少ない……。悪いが、これ以上――削らせるわけにはいかん」
非情とも言えるアステアの言葉。その表情は――冷徹だった――。
「――フン、安心しろ。我が――奴を食い止めてやる」
ゲヴェルは鼻で笑うと静かに身を起こし、ヴェンツェルを睨みつける。
「貴様のテレポートで、コヤツ等を助けられるな?」
「造作もない。――さらばだ、我が親よ」
アステアは、怜悧冷徹に告げると静かに魔方陣を描き始める。
「!? アステア――貴様、グローシアンの王であり、貴様の創造主である私に歯向かうか!!」
「ジジィ――俺は、俺だ。貴様の道具になる気は毛頭ない」
顔を醜悪な悪鬼のように歪めるヴェンツェルに――アステアは冷淡な光を称える金と銀の瞳で――淡々と応える。
アステアの創造主? アステア達を作り出したのは――ゲヴェルの筈ではないのか?
そんな私の疑問に――情報が送られてくる。かつて、ヴェンツェルはゲヴェルの手先であり――その私兵を作る際に――尽力したこと。
そこで作られた仮面騎士の中に――自分の息の根が掛った騎士を何名か作っていたのだ――。つまり、自分の手足となる兵士を創り出していた。アステアは、その一人だった――。
そして、普通の仮面騎士やカーマインにはないグローシアンの力を、アステアを始めとしたヴェンツェル個人の私兵達に与えた――。
それが、同じ仮面騎士の顔でありながら、グローシアンの力をも使う融合体。
“光の翼”は――グローシアンの王族の証なのだという。
氷のような無表情のアステアに、ヴェンツェルは不快気に吐き捨てた。
「フン――逃がすか!!」
アステアの魔方陣を妨害しようと己の持つ杖に魔力を練るヴェンツェル。しかし、ソレを横から食い止めるモノがいた――満身創痍の青年、ルーチェだ。
強烈な体当たり気味の袈裟がけ――。ガキィツ ヴェンツェルは咄嗟に魔力の杖で受け止める。
「!? キサマ……!!」
「ゲヴェル様を、俺の目の前で……!! よくも!!」
――ウオオオオオオッ!!――
この時、ルーチェはカーマイン達と同等の力に目覚めた。白銀の炎を纏い、自身の敬愛する異形の影を背負う。その圧倒的な力は――カーマイン達に優るとも劣らない。
「――親を傷つけられた事により、目覚めるか……!!」
「感傷に浸っている場合か。いくぞ」
力を全開にするルーチェを感慨深げにデュランは見据え、アステアはテレポートを展開した。この場に居た人間が――ヴェンツェルを残して、消えた。
「おのれ……!!」
忌々しげにうめくヴェンツェルの前に、ゲヴェルが立ちはだかる。その主の姿に――ルーチェは魔方剣と自身のレギンレイヴを素材にして作り上げた妖刀――クロムレアを握りしめる。
「ゲヴェル様……!!」
「貴様も行け……! 我が子よ、我の限りを越え――強く在れ!!」
ゲヴェルの言葉は温かく――子を思う愛情に包まれていた。しかし――ルーチェは首を横に振る。
「俺の意志は――貴方と共に……!! ゲヴェル様!!」
ただ――殺戮を望むだけの男だと思っていた。冷酷に――人の命を奪う、殺人鬼だと――。だが、それらはすべて――自分の主に認めてもらう為だったのだ――。
この男と――かつての私達――、どう違うのだろう?
そんな異形の親子を、ヴェンツェルは不快気に睨みつけ吐き捨てる。
「死に損ないどもが!!」
その全身に――これ以上ないほどの圧倒的な魔力と波動を漲らせて――。
場面がまた変わる。
ヴェンツェルがカーマイン達の隣国に攻めて来たのだ。石畳の段々重ねで作られた街を魔物の集団が跋扈し、ルーチェがその尖兵として現れた。
「どういう事よ!? ゲヴェルを殺されたのに、どうして……!!」
「簡単な事よ。いきり立って私に歯向かってきたのでな、波動で洗脳したのだ。おかげで、今はおとなしいものだろう?」
ティピの言葉に、ヴェンツェルがにやりと笑う。ゲヴェルが――殺された? その挙句に――ルーチェを洗脳し、自身の手駒としたというのか――。
およそ、人の心では考えられん行為だ――。この男――、許せん。
「――フン、単独で攻めてやられてりゃ世話ねえな」
「……! 気持ちは分かるぜ、ルーチェよ」
アステアが冷淡に嘲笑し、デュランが重くその言葉を口にする。そんな二人を左右にやり、カーマインはルーチェを睨み据える。
人々を平然と殺して回った異形の男――、だが――ルーチェ……! そして、カーマイン!!
私は――祈りにも似た想いでカーマインを見た。
対するカーマインは、いつも通りの、揺らがない瞳でルーチェを見る。
「よかろう、ルーチェ。貴様の怒りと悲しみを、全て俺にぶつけてこい! 俺は――この刀でこたえるだけだ……!!」
「グオオオオオ!!」
ズバァッ 交差後方気味に斬り合い、倒れ伏すルーチェ。彼をゆっくりと地面に寝かせ――カーマインは怒りの表情で、ヴェンツェルを睨みつける。
対するヴェンツェルは冷酷にして――酷薄な笑みを浮かべる。
「――さすがは、ゲヴェルを倒した兵士だな。素晴らしい腕だ」
「貴様は――許さねえ……!!」
カーマインの瞳に怒りが生じ――白銀の炎をその身に纏う。――同時に異形の影が一瞬背に現れた。
「ほう? 自分の命を狙うモノにまで、同情とは恐れ入る」
ヴェンツェルは鬼気を纏うカーマインに嘲笑を返す。
そのもの言いに――私は目の前が白くなるほどの怒りを覚えた――。この男には、分からない――。大切な者を奪われる事――傷つけられたものの――痛みが。
嘲り笑うヴェンツェルに対し――凄まじい怒気を身にまとうカーマイン。
「――ふざけるな。コイツのゲヴェルへの想いを踏みにじりやがって……! 構えろ、叩き潰してやる!!」
デュラン、アステアの手を借りて、間一髪のところまで追い詰めるも、またしてもヴェンツェルに逃げられてしまう。
ギリィ…… カーマインの歯痒さがよく分かる――。あんな男に、目の前で大切なモノを奪われていくなんて――耐えられない。
「――何故、俺を助けた?」
気を取り戻したルーチェは、カーマインを見据えると静かに問いかけた。
「言ったはずだ。俺は――自分がゲヴェルである事を否定しない」
対峙するカーマインははっきりとルーチェの目を見て言う。揺るがない意志を称えた瞳で――。
「否定するだけが――全てではない。貴様の怒りは――正しいさ」
「自分の罪は理解しているようだね? なら――構えろ、殺してやる!!」
妖刀――クロムレアを構えるルーチェに、すばやくデュランとアステアが構える。――だが、ルーチェは刀を下げ、言い放った。
「――だが、ソレは――ヴェンツェルを殺してからだ。あのグローシアンだけは、必ず俺が殺す。お前は――その次だ」
「おいおい、また洗脳されるんじゃあるまいな?」
アステアが嘲りの表情で――その冷めた金と銀の瞳を向けて――問いかける。
「――ほざけ。俺は、あの方の意志を継ぐ、ゲヴェルだ。二度と同じ轍は、踏まん」
ルーチェはそれだけを告げ、去って行った。去り際に一言添えて
「せいぜい首を洗って待っていろ――カーマイン」
「よかろう。いつでも受けて立ってやる――ルーチェ」
カーマインもソレに真剣な表情で返した。
ヴェンツェルが消滅したのを確認したルーチェは、カーマインを憎悪の瞳で睨み据える。
「ゲヴェル様を殺したグローシアンは消えた。次はあの方を裏切り、信念を崩させたカーマイン。お前の番だ」
「相変わらずだな。貴様は一生自分の中の理想をゲヴェルに重ね、現実を見ないつもりか?」
白銀の炎をまとい、同じ顔の両者は睨みあう。赤と黒の衣服を身に纏った青年が互いに自身の信念をぶつけ合う――。
「ふざけろよ、憎しみと殺戮の感情こそ、ゲヴェル様の真実。お前ごとき紛い物の言葉に、我が主が屈するワケがない! お前さえいなければ、世界はゲヴェル様が支配し、ヴェンツェルごとき死にぞこないに斃されるはずがなかったのだ! 全ては貴様の裏切りが原因なんだよ!」
ソレは――違う。ルーチェよ、心があったからこそ、ゲヴェルは救われたのだ。戦い続けることしか存在理由が無い等と言うのは――、余りにも、余りにも――救われぬ。
カーマインは――ゲヴェルの心を救った――。なのに、お前は――。
憎悪をまともにぶつけてくるルーチェに、カーマインも瞳をそらさない。
「そう思いたければ、そうしろよ。――だがな、思いやりや優しさと言った情を認めた、アイツの姿が間違いだというのなら。お門違いもいい加減にしとけ」
「何――?」
「貴様の言うゲヴェルとは、所詮貴様の中の理想が作り出したモノだ。だが、当然この世に生きるすべての命には自分の意志が在る。生き方がある。貴様の思い通りになる命など無い。自分の願望を、ゲヴェルに押しつけるのは、いい加減にやめろ!!」
厳しい戦士の瞳、声。――ルーチェが尊敬するゲヴェルは、ルーチェの想像が生み出した完璧像。だが、完璧な者など、この世にはない、とカーマインは言い捨てる。
「いい加減、親の傘の下に引きこもってないで、自分の力を示したらどうだ? いい年こいて、みっともない事この上ないぜ、ルーチェ」
そんな挑発とも言える言葉に――ルーチェの目つきが変わった。白銀の炎と異形の影を背負い、金と銀の闇に彩られた瞳で――カーマインを睨み据える。
「――カーマイン……!! 殺す!!」
対するカーマインも最後の気力を振り絞って――その身に白銀の炎――ゲヴェル因子を解放する。
「よかろう――。終わりにしてやる!!」
互いに――駆け、刀を両手で持って一閃。
ズバァッ 交差する二人の影――。やがて――ルーチェが前のめりに倒れた。
「カー、ま、いん……!!」
「……終わりだ」
刀を払い、気絶したルーチェを静かに見据え、カーマインは宣言した。
ルーチェ……。この男も、私達――“夜天の書”が歩むもう一つの未来だったのかもしれない――。確かにこの男は危険な男だが――、それでも、主に対する忠誠だけは、本物だった――。
カーマインは、今もルーチェに憎まれて――そして、剣を交えているのだろう――。いつか、ルーチェが憎しみから解き放たれることを信じて――。
そう思うと――私の胸を――何かが締めつけた――。
狂気の牙と呼ばれる男――ルーチェ。
人間もグローシアンも、時には兄弟ですら嬉々としてその手にかけて来た彼は――ただ、ゲヴェルに認めてもらいたかっただけであった――。
その親が――情に目覚め――それ故に斃された事は――ルーチェにとって情を否定する理由となり、憎む対象となった。
カーマインのレギンレイヴでも――未だ切れぬ怨嗟の鎖――ソレが、ルーチェだった――。