「アルフです」
「皆! 聞いてくれ!! ありのまま、起こった事を説明するよ!?」
「エリオがさらわれました。女湯に」
「僕達は立ちあがる――。かけがえのない、エリオと言う少年を救い出すために!!」
「……え?」
「皆、用意はいいかぁ~~!?」
「サー! イエッサー!!」
「まずは状況を簡単に確認する! ヴァイス陸曹!」
「了解! 今より五分ほど前に、キャロ・ル・ルシエ三等陸士が男湯に現れ『エリオ君、一緒にお風呂入ろ♪』と申し立て、エリオ・モンディアル三等陸士の右腕を両腕で把持し目的の女風呂の方へ連れ去って行ったのでありますっ!」
「わずか三分ほどの出来事でした」
グリフィスは几帳面な性格に相応しく、もっともな経過時間を述べる。
「その通りだ。そして、恐ろしい事にキャロは、エリオが断ろうとすると、自分も男風呂に入りたいと言い出した! これによりエリオは、否が応にも女風呂に行かざるを得なくなってしまったのだっ!!」
――注意書きには、十一歳以下の児童に限り、男女どちらの風呂にも行き来できるよう書かれていた。
「恐ろしい……! なんという恐ろしい子だったんだ……! キャロ・ル・ルシエ!!」
「と、言うか……。あんな純真な笑顔で一緒に入りたいと言われたら、断れませんよね」
あくまで
「入れてやればよかったのに」
軽く言うアルフは、ラガーの空き缶三つ目を並べた。
「それがね~! エリオの気持ちを考えると、ね……!」
まだ羞恥心が育まれていないキャロを守る意味で、女湯に向かったエリオの背を思い出し、
「――と言うわけで! 我々はこれより、エリオ救出作戦を開始するっ!!」
「大変だね」
アルフは一つ頷いて、四つ目の缶を開けた。グリフィスがその様子に呆れながら、
「ぇっと……それでフェイトさん。具体的には何をするんですか?」
グリフィスが問う。と、
「馬鹿ものぉっ!! 隊長と呼ばんかっ!!」
「えぇっと……」
「了解しましたっ、フェイト隊長!」
「ヴァイスさん……?」
隣で敬礼するヴァイスを、何か言いたげに見るグリフィス。ヴァイスはニッと笑って答えた。
「ここはノっとかないと、面白そうじゃないですか」
「いや。……でも何か、嫌な予感が……」
そう言いながら眼鏡をかけ直すグリフィスの弱い主張など、
「では簡単に作戦を説明するっ! 部隊名はアルフェイトだ! 作戦名は『プロジェクトE! エリオ君を助け隊』で行くっ!!」
「アルフェイト……?」
アルフはどこかで聞いた名だと首をかしげながら、ぐびりとビールを傾けた。
「それで、内容はどんな作戦なんですか?」
「まず、エリオがどの位置にいるかを確認する。ヴァイス陸曹!」
「はっ!」
「君はかつて、狙撃手として名を馳せていたそうだね? その目なら大丈夫だ! エリオがどの位置にいるか、確認してくれたまえっ! かつ! 救出ルートの算出を!」
「え? 肉眼……で?」
アルフの疑問をよそに、フェイトの作戦は続く。
「そして僕とアルフが救出ポイントに飛び込むっ! エリオを見事に救い出すっ!! ――地獄までの片道切符は、僕らの命で払う事にしよう!」
「え? ……俺?」
「オス! 了解でありますっ! フェイト隊長!!」
「頼んだよ、ヴァイス陸曹!!」
「だから肉眼……」
「それ以前に、犯罪じゃないでしょうか?」
アルフの主張に、グリフィスが正論をかぶせてみる。が。やはり話を微妙に聞かないのが――フェイト・ラインゴッドなのである。
彼は固く拳を握り、大きく首を横に振った。
「これは緊急事態だ!! 一刻も早く助け出さなければ、エリオが茹であがってしまうっ!! 干からびたエリオが見たいかぁあああ!? 僕は可哀想で見てられないっ!!」
それが、部隊名アルフェイトが結成された唯一無二の理由であった。
「どうしたの? エリオ君」
女湯でキャロは、不思議そうに首を傾げた。キャロの申し出を断るに断り切れなかったエリオは、他の誰の身体も見ずに済むよう、風呂場の端で小さく体育座りして俯いている。耳まで真っ赤にした少年の背に、
「エリオ、そんなとこにうずくまってないで、体洗お?」
「もぉ向こうで洗いました! 洗いましたよっ!! 大丈夫ですっ! 放っておいてくださいっ!!」
「エリオ?」
悲鳴に近い声で叫ぶエリオを心配して、
途端、
「うわぁっ! 近づかないでフェイトさぁあんっっ!!」
「どうしたの? エリオ」
「大丈夫? エリオ君」
右から
エリオは声を限りに、男湯に向かって叫んだ。
「フェイトさぁああああんっっ!! シャスぅうううう!!!! 皆ぁあああ~~~!!」
「げ、あいつ俺まで呼んでやがる……」
風情ある垣根の向こうから、エリオの声が響いて来る。思わず眉をひそめるアルフに、部隊長フェイトはきっぱりと言った。
「兄貴分なんだからしょうがないだろ。――って!? やはり恐れていたことがっ!!? しかもキャロだけじゃなく、フェイトさんまで!!?」
「まあ、その辺の思考回路、死滅してそうだからね。あっちは」
目を白黒させる
「なんて羨ましいんだ……! テスタロッサさんの、テスタロッサさんのお背中流しだと……!?」
「陸曹っ!! やや脱線しているぞっ!!」
「はっ! すみません、フェイト隊長っっ!!」
「いや、いいんだ。今回の任務は誘惑が多すぎる。だが、だがそれ故に僕たちは――! 僕たちは成し遂げなければならないっ!! エリオを救うと言うこの作戦をっ!!」
「サー、イエッサー!!」
「ヴァイス陸曹……、そのノリについて行くんですか……」
疲れたような声を上げるグリフィスの肩を、アルフは、ぽん、と叩いた。振り返るグリフィスに何も言わず、ただゆっくりと首を横に振る。
――もう、手遅れだと。
「ではまず! 偵察から始めるぞっ!! 僕に続け!!」
こうして
「ヴァイス陸曹! この位置からならばどうだっ!?」
「あぁ~……。普通に柵があって見えませんね……。つぅか、寒っ!!」
まずは遠目から彼女達の現在地を把握する為に、雑草生い茂る山道を突き進んでいるのだ。
――そう、タオル一枚で。
「な、何故満天の星空の下をタオル一枚で、それも山の中をランニングしなきゃならないんですかっ!!」
「馬鹿野郎っ!!」
不満の声を上げたグリフィスの頬を、
ヴァイスが目を瞠る。グリフィスを助け起こしてやりながら、彼は
「グリフィスさんっ!? フェイト隊長!! 何をっ!?」
「僕達はこれから、かけがえのない仲間を助けようと言うんだ。それなのに、そんな腑抜けたことを言っていられると思うのかっ!? こうしている間にも、エリオの、エリオのライフポイントはゼロを目指してまっしぐらだ!! 僕らがやらなきゃどうするんだ!?」
「フェイトさん……!!」
「いや、だからどうして裸足でタオル一丁なんですかって、話なんですけど……」
感動して拳を握るヴァイスの隣で、ずれた眼鏡をかけ直すグリフィスが首を傾げる。
だが、そんな常識は
「Gutsだ!! そんなものはGutsで補えっ!!」
「えぇっと、それで――……この柵、どうするんです?」
女風呂の覗き対策として、竹の柵が
「うん。簡単だ。僕の特殊能力で、この指先一本分だけの穴をあける。そこから君が覗くんだ! ヴァイス陸曹!!」
「覗いて……いいんですか?」
ヴァイスがごくりと喉を鳴らす。真剣な彼の顔――これで“覗き”という前提条件さえなければ、六課の女性局員達が黄色い声を上げそうなくらいに精悍な顔だ。
青年《フェイト》は拳を握り、深く頷いた。
「君にしかできないんだ! 頼んだぞ、エリオを……!」
ヴァイスは黙って敬礼する。
(シグナム姐さん……!)
心の中でつぶやいた彼の声を、
不思議そうに首を傾げる。
「いま不穏当な発言が聞こえた気がしたが、気のせいか? シャス?」
「問題ありません。隊長」
「そうか」
にべもなく頷くアルフに、フェイトはそう言うと、人差し指を柵に向かって立てた。
「ぬぉおおおお……、行くぞ、ディストラク――」
カチン、カチンカチン……
「ん? なんだ、このカチンカチンって?」
軽快な駆動音と共に、ただの竹柵だと思われていたそれが、節目で分かれ――、その奥から黒い砲身が覗いた。
「――フェ、フェイトさん!!」
「何っ!?」
グリフィスの制止も間に合わず。
正体不明の爆発が、
「レーザー、……でしたね」
アルフ・アトロシャスは後に、起きた事件をそう解釈したという。
竹柵から何故か砲身が現れて、レーザーを発射した。
――そんな奇妙なことも起きたのである、と。
「ん? なんだ、今の音?」
「どうやら大っきいネズミが現れたみたいやね」
「ネズミだぁ?」
不思議そうなヴィータを置いて、はやては物音がした柵の向こうに視線をやった。実はこの旅館は、はやてやなのは、
アリサは海鳴市でも有名な実業家の両親を持っており、はやて達が管理外世界への任務に向かう際には、アリサから別荘を間借りして、機動六課の特別本部として使うこともあった。
はやてはようやく湯に慣れて、肩まで浸かりながら、ふぅ、と小さく溜息を吐く。
(アリサちゃんが作ってくれた防衛システムが働いたみたいやな……。犯人は、)
「テメエか! フェイト!!」
レーザーにやられた時の声を聞いて、ヴィータが激しい剣幕で柵に向かって吼えた。
柵越しに、フェイトは人差し指を立てたまま固まっている。ちなみに、まだ穴はあけていない。
Guts100%を習得した
ただ――
「って、バレてるよ!? フェイトさんっ! バレてますよっ!?」
「だからあれほどやめておけって言ったのに……!」
慌てるヴァイスと、呆れ気味なグリフィス。
そのとき、柵の向こうから少女達の声が聞こえた。
「今の声ってヴァイス先輩……?」
ボーイッシュな通信士の少女、アルトがつぶやく。機動六課の平時では機器整備員として活躍している彼女は、ヘリの整備先輩でもあるヴァイスの声を聞いて、息を飲んでいた。
シグナムが低く、唸る。
「……アイツめ、どういうつもりだ?」
「グリフィス君……」
「ぇと……あの……」
シャリオの落胆の声、そしてルキノの緊張した声まで柵越しに伝わってくる。
グリフィスは慌てて首を横に振った。
「ち、違っ!!」
「バレちゃぁしょうがねえ! さすがだな、ヴィータちゃん!! よくぞ見抜いたっ!!」
それに反し、
「テメエ! 何居直ってやがる!! この覗き野郎が!!」
柵越しに浴びせられる罵声に、
「覗きだと? 僕らは覗き隊なんかじゃないっ!! 崇高なる同志を救うために立ち上がった『救い隊!!』 部隊名、アルフェイトだ!!」
拳を握って、真剣に叫ぶ。
すると、柵の向こうから、スバルの暢気な声が聞こえて来た。
「フェイトさん。相変わらず、わけのわからないこと言うなぁ~」
「て言うか……、覗こうとしてたんですね」
スバルとは対称的に、ティアナの声は低い。
怒気を孕んだティアナと――他、柵越しにも伝わってくる女性陣の殺気に、
「だから違うって!! 似てるけど違うってそこ!! ――僕は、正々堂々交渉に応じたいと思う! 直ちにエリオを解放しろ! 僕達の要求は、エリオ・モンディアルの受け渡しだ!! これ以上、エリオを虐めるのはやめろっ!! その子は僕の癒しなんだぞ!!」
「ほろり」
両手を背中で組んで声を張り上げる
「なぁに、訳のわかんねえことを言ってやがんだ。あいつは」
要を得ないヴィータは、心底首を捻っていた。
はやてがちらり
「まあ……エリオもお年頃っちゅうことやな」
「?」
ヴィータにはやはり、はやての言っている意味が分からなかった。
はやてはにんまりと悪戯に笑って、柵の向こうに声をかける。
「でも、フェイトく~ん! フェイト君に、こっちに入ってくる度胸あんのかな~? 私、フェイト君にそんな度胸があるとは到底思えへんけど♪」
「な、……舐めるなよ! はやてさんっ!! エリオのためなら、たとえ火の中女風呂の中っ!! いいかエリオ!! そのまま良く聞け!! 僕達が突破口を切り開くっ!! その間に君は早く、女風呂から脱出するんだっっ!!」
「フェ、フェイト……さん……」
エリオの掠れるような声が響いた。
「くっそぉおおお!! すでにのぼせあがってるぅ~~!!?? このままじゃ猶予が無いっ!!? ――くっ!! こうなったら一気に突っ走るしかないっ! 行くぞ! アルフぅっ!!」
「――え?」
急に白羽の矢を立てられて、アルフは心底意外そうに目を丸くした。
「僕とお前が組んで、不可能は無いっ! ――偉大なるバニ神よっ! 我にその加護を!!」
そう言って、
「僕が左足を履く! シャス、お前は右足だ!」
「ふぇ、フェイトさん……! 本当に行かれるんですか?」
目を丸くするグリフィスに、
「たとえその先が地獄だと分かっていても……、助けを求めてるんだ。行かないわけにはいかないじゃないか……!」
「フェイトの旦那……!」
フェイトは悟った表情で笑った。
「後は頼んだよ。ヴァイス陸曹、グリフィス准陸尉。――行くぞ、シャスぅううう!!」
「見送り役……とか」
この期に及んで抵抗を試みてみるアルフの足をがっしりと掴み、右足用のシューズを履かせた
「……ですよねー」
その一連の流れるような素早さを見守って、アルフは諦めたようにつぶやく。
と。
「クリフっ! 技借りるぜっ!! ――エリアルレイド!!」
「※頭上注意」
直後、満月を背に、タオル一丁の男が二人、跳び上がった。
「そこかエリオぉおおおお!!!!」
上空二十メートル。
そこに向けて急降下するフェイト・ラインゴッド。そしてそれに引っ張られるアルフ・アトロシャス。
抵抗は――
「――いや、無理。だって、クラウストロ人の技ですよ?」
誰に語りかけているのか分からない独り言を、アルフはつぶいた。
「キャロ、離れて離れて~~! 危ないぞぉおお!! 言っとくけど僕、空中浮遊とか出来ないからなあああ!!」
地面が近づいてくるや
「アイゼン、セットアップ」
低くつぶやいたヴィータが、紅い光を放ってゴシックドレス――
と。
彼女は手の平サイズの鉄球を空間に四つ、出現させると相棒のハンマーを思い切り振り被った。
「まとめて、ぶちぬけぇええ!!」
グラーフアイゼンによって剛速で走る鉄球。
「何っ!?」
上空に跳んだ
カカッと口を台形に開ける
手刀を放った。
「弧月閃!!」
紺碧の闇に青白の孤が走る。気功で硬質化された手刀が、ヴィータの鉄球を切り裂き、
「ナイス! カバー!!」
「レヴァンティン!!」
「何っ!? レヴァンティンっ!!? それが、噂の――」
シグナムの声まで聞こえて
白い騎士甲冑に身を包んだシグナムが、炎の剣を上段から振り下ろした。
「紫電一閃!!」
「偉大なるバニ神よぉおおおお!! ――マジ加護」
「無策かよ!」
アルフは思わず目を見開いた。
剣――だと思われたシグナムの“レヴァンティン”が鞭のようにしなる。――その上を、
蛇腹のように伸びた、レヴァンティンの刃の上を。
スバルがぽかんと口を開けてつぶやいた。
「……凄い……!」
「凄いん、ですけど……ね」
ティアナはなんと言えばいいのか、わからなかった。
ドポーンッ!!
直後。
鞭状のレヴァンティンの端まで駆け切った二人は、バランスを取ることもなく女風呂の湯船に落ちて行った。
ざばぁああっと湯を掻きわけて、
「大丈夫か、エリオ!? うぉおおおおっっ!? 肌が熱ぃいいっっ!?」
「マジ?」
二人は当初の予定通り、エリオの傍に着地していたのだ。――最後の方は、残念なほどに不格好な着地であったものの。
エリオの赤くなった額に触れた
「くそぉおっ! やっぱりのぼせあがってやがるぅうう!! くそぉおっ! この女ども、よくもぉおお!! 久々に本気で怒ったぞ……、僕は怒ったぞぉおお!!」
「わ、わわっ! ほんまに降りて来た……! フェイト君にそんな意地あったんやな……っていうか、ほんまに入ってくると思わんかった……。フェイト君、前隠して、前……」
「ん? あ、これは失礼!」
目を背けるはやてに対して、フェイトは素早くタオルを巻き直した。
アルフはエリオを抱えて水風呂に向かう。熱くなった体を冷やすと、少しだけエリオにも余裕が出て来たのか――、薄く瞼を開けた。
「シャ、シャス……、フェイトさん……?」
「大丈夫かエリオ!? 僕達が来たからには、もう大丈夫だ!!」
エリオの声を聞くなり、
と。
すっかりいつもの見慣れたゴシックドレスをまとったヴィータが、背に陽炎を負いながら言った。
「おい、なのは! 何やってんだ! さっさとこいつら、ぼこるぞ!!」
「いや……。フェイト君にも事情があるみたいだし……。ね? ヴィータちゃん」
「きゃぁああああっっ!! フェイト君のばかぁあああっっ!!」
どこか冷静――と言うよりはのんびりとしたなのはと、タオルで前を隠したシャマルの絶叫が女湯に響き渡る。
「ええい、たとえ馬鹿と言われようとなんと言われようと! エリオを助けなきゃいけないんだよっ!! 男にはっ!! シャス、エリオはどうだ!?」
「のぼせただけだ。じっとしてりゃ治るよ」
「そうか、ならば――ヴァイスさん! グリフィスさんっ! 男湯に戻ってるかい!?」
「は~い!」
柵の向こうから、ヴァイスとグリフィスが返事をする。
「今渡すぞぉ~~! 受け取れぇええ!!」
少しは白さを取り戻したエリオの身体が、五メートルほどの柵を越えて男湯へと向かう。子どもとは言え、三十五キロある子どもを投擲する
少しして、ヴァイスが声を上げる。
「エリオは大丈夫です! こっちで無事に受け取りました! フェイトの旦那! アルフの旦那! 急いでこっちへ!!」
「ありがとう、ヴァイスさん。だが……僕らはどうやら、ここまでのようだ」
「旦那ぁあああああ!!!」
「フェイトさんっ! アルフさんっ!!」
何故か悲痛な声が、男風呂から聞こえて来る。
バーニィシューズで跳べばいい。
跳んで男湯に帰れば、きっと無事に居られるさ。
――そう思っていた時期が、
だが。
自慢のシューズは、すでに温泉に浸かってビショビショに濡れている。そして何より――彼等の前には、陽炎を負うヴィータとシグナムが立ち塞がっているのだ。
「何、カッコつけて言ってんだ、てめえらぁああ!!」
「覗きの罪は、それなりに償ってもらおうか! ラインゴッド! アトロシャス!!」
鋭く言い放つ二人を筆頭とした女性陣を前に、
「浮世の月、かかる雲なし、あわれかな」
「――辞世の句。って、どうでもいいけど騒ぐと見えますよ」
アルフの緊張感の無い声を遮るように、女湯はおびただしい轟音に包まれて行った……。
◇◆◇◆
「今回フェイト君達、そんなに悪くなかったと思うんだけど……」
「エリオの事を思ってやったみたいだし……、それぐらいで許してあげたら」
なのはと
「何を言っている! 婦女子の風呂の中に勝手に入ってくるなど、男の風上にもおけん奴らだ! 聞いているか! お前達!!」
「おいこら! タオル一丁で正座させてやってるだけありがたく思えよ!!」
「ずみばぜんでじだ……」
旅館の廊下に二人並んで正座させられている
かれこれ、三時間ほど。
激昂するヴィータ達をどうにかなだめながら、浴衣に着替えたはやてが、二人に言った。
「とにかくやな、旅館の晩御飯も出来てるみたいやし……。そろそろ着替えよか、フェイト君達」
「フェイトちゃん。次からは、エリオを呼ぶ時はちょっと考えないとダメだよ」
「ごめん、なのは。あとでフェイトとシャスにも謝っておくね。……エリオ、気にしてたんだ」
申し訳なさそうに眉を下げる
――正確には、その二人に駆け寄っているエリオに。
「本当に、本当にごめんなさいっ! シャス! フェイトさぁんっ!!」
「いいんだよ……、君が無事なら、それでいいんだ」
「フェイトさん……っ!」
アルフは泣きつくエリオの頭をぽんぽんと叩いている。
そんな彼等の様子を、ヴァイスとグリフィスが見つめている。
「マジで旦那達、エリオ助ける為だけに行ったんだ……」
「ある意味凄いな……。その勇気に、敬意を表すよ」
これは機動六課男性職員にとって――ある種、革命的な出来事であった……。
ティピ「ティピと――!」
カーマイン「……か、カーマインの……」
ティピ&カーマイン「みにみにグローランサー!」
ティピ「――はい、と言うわけで始まりました。ミニコーナー、司会のティピです!」
カーマイン「カーマインだ……。ってティピ」
ティピ「? なによ?」
カーマイン「何故、急にミニコーナー?」
ティピ「決まってるじゃない! はやてさん達がアンタの記憶を覗いてる間の時間潰しよ!! アタシが暇だから!!」
カーマイン「――だからって、俺を巻き込まなくても……!」
ティピ「うるさいわね。イジりがいのあるアステアは、シリアスパートに行ってるから無理なのよ! 観念しなさい」
カーマイン「……だから、そのテンションに付いてくのしんどいって」
ティピ「――うっさい! アタシがルールだ!!」
カーマイン「――――ッ!!」
カーマイン(なんで、俺の周りの女はシーティアと言い、ピティと言い、こんなに傍若無人なんだ……!?)
ティピ「GLがシリアス街道まっしぐら何て、そんな退屈――アタシが許さない!! と言うわけで、SOに対抗して行くわよ!!」
カーマイン「だからって何も、無理にコーナーやらなくても――」
ティピ「――では、コーナーに移りたいと思います!」
カーマイン「どうあってもやる気か……!」
ティピ「えと、最初はキャラ名をもじっての『ダジャレでランサー』のコーナーです!」
カーマイン「また勝手なコーナーを……!」
ティピ「と言うわけで、始めは“カーマイン”でお願いします!」
カーマイン「――は?」
ティピ「は? じゃないわよ! 早くやんなさいよ! グズグズしない!!」
カーマイン「――お前、いきなり台本無しでダジャレ――しかも“カーマイン”でか!? 無茶ブリが過ぎやしないか、おい……!!」
ティピ「早くぅ!!」
カーマイン「……!(しばし、思考中)」
カーマイン「――お客さん、お客さん。小銭が足りてないよ!」
ティピ「ああ、ゴメンなさい! 一円玉が足りないよ~!」
カーマイン「性が無い、消費税の分は――“カーマイン”よ」
ティピ「―――わぁ、“カーマイン”……!」
カーマイン「“カーマイン”と“構わん”をかけて見たんだ……」
ティピ「……はい、というわけで」
カーマイン「――ツツッツ!! だから、嫌だったんだ!! こんな寒い空気になるんだって!! だから、台本なしは無理だって――!! いきなりカーマインでダジャレとか、思いつくわけ無いだろう!!」
ティピ「――はい、次は――ティピで、お願いします!!」
カーマイン「――ちょ……、もうマジで勘弁してくれ!!」
ティピ「ティピちゃ~んキィーック!!」
ドゴォッ
カーマイン「ガハァっ!!」
ティピ「うっさい、早く! ティピお願いします!!」
カーマイン「――ティピって……!」
カーマイン「は~い、みんなみんな、集まって――“ティピ~”!!」
ティピ「――笛の音とかけたのね。――って、アタシのネタじゃない!!」
カーマイン「――だから、いきなりは無理だって!!」
ティピ「フェイト(笑)なら、これくらい軽いわよ!!」
カーマイン「人には、得手不得手ってのがあるんだよ!」
ティピ「――使えないわね、GLの主人公のくせに――!!」
カーマイン「……そもそも、“みにみにグローランサー”は確か、相手役ゼノスだろうが」
ティピ「スタジオにお返しします!! と言うわけで――今回の“みにみにグローランサー”はここまで!」
カーマイン「……よかった、ともかくコーナーが終わるなら――何よりだ」
ティピ「カーマインの寒いダジャレに付き合ってくれて――皆さん、ありがとうございました!!」
カーマイン「お前がやらせたんだろうが!!」
ティピ「――首を長くしてアンタが崩れるのを見たい人の為に、アタシが一肌脱いでやったのよ!!」
カーマイン「開口一番、暇つぶしって言わなかったか?」
ティピ「この番組は――ア~トラ~ス神の提供でお送りしました!!」
カーマイン「次回もよろしく――って! 俺は二度と出ないからな!!」