連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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20.いっちょ逃亡するか! スバル!

[シャァアアアアスッ!! 僕、僕はつい今っ、管理局襲った奴を見たぞぉおおお!!!!]

 

 

 突然のフェイトからの報告に、アルフは目を見開いた。ちょうど六課隊舎の自室で荷造りする傍ら、ゲヴェルについて解析していたところだ。

 コンピュータが出した結論によれば、ゲヴェル因子とやらを全開にしたカーマインのエネルギーが、クラス4にも達するらしく「目の錯覚か……」とつぶやいて最近の心労を労りつつ目頭を揉んでいたのだ。

 だが。 

 信じられないことというのは重なるものである。

 

「フェイト、お前――」

 

 アルフは意外そうに目を丸め、通信機の存在を忘れていなかったフェイトを見た。彼の傍らには、驚いているスバルもいる。

 どちらも元気そうだった。

 アルフがわずかに口許を緩め、言葉を発しようとした時――

 

 扉がスライドし、部屋になのはがやって来た。 

 

「シャス、この間の海上に現れたガジェットの話なんだけど――」

 

 とっさに跳び上がった。机とセットになった椅子からベッドへと滑り込むように豪快にダイヴする。

 なのはが驚いて目を丸めているのにも構わない。布団の下に通信機を隠し、彼はキリリと表情を引き締め言い放った。

 

「後から伺います」

 

 いつも通りの平坦な声。ただし、今の紅瞳には鬼気迫るモノがある。

 なのはが要を得ない表情で首を傾げながら、部屋に入って来た。

 

「ダメだよ、シャス。この間の一件は、六課を勝手に動かしたものだったんだから! はやてちゃんの許可もなくヘリで出撃するなんて、命令違反どころじゃないんだよ――」

 

 アルフの頬に、冷汗が伝う。

 そう言えば――と彼は心の中でつぶやいた。

 あの騒がしいフェイトが、この間に一言も次の言葉を発していないのが気になる。

 

(……まさか、アイツ)

 

 嫌な予感を覚えて閉口したアルフは、なのはがなにごとか言って部屋から出ていくのを尻目に通信機を改めた。

 通信はやはり――切れている。

 

 

 

 

「オイタはそこまでよ♪」

 

「??っ!?」

 

 ナンバー4クワットロ。

 電子を自在に操る術を持つ彼女は、大きな丸眼鏡を押し上げてニコリと微笑んだ。甘ったるい特徴的な喋り方が印象的だ。

 4番目に生み出された彼女は、電子を操作する特殊能力を持っている。

 スバルやフェイトをホテル・アグスタからさらう上で、機動六課側に何も探知させなかったのは、彼女の特殊能力〈シルバーカーテン〉にて偽情報を管理局側に流していたためであった。

 彼女の幻影は管理局のレーダーだけでなく、ティアナの使う幻術のように人間の視覚すらも狂わせる。

 また、その細い体に引っ掛けたケープは、白銀の外套(シルバーケープ)と呼ばれ、フェイトとアウグの戦いを近くで見ていたにもかかわらず、その両者が、クワットロに気付かない要因を作っていた。

 すなわちシルバーケープは、完全にクワットロの姿を透明化させるのだ。

 クワットロは少女のように蠱惑的な笑みを浮かべ、フェイトの通信を断ち切って、上空からふわりと降りてくる。戦闘力こそ他の姉妹より劣るものの、知略に富んだ彼女は、戦場を一瞬で見渡せるようモニター系魔法と飛行魔法、その両方を習得している。

 肩まで流れたセミロングの髪を、彼女は左右で雀のシッポのように短く結ぶ。髪の色はディエチと同じ栗色で、瞳の色はディエチよりも薄い山吹色だ。顔の半分を覆ってしまう大きな丸眼鏡をかけていて、体はとても少女のそれとは言えない妖艶な肉付きをしているのに、彼女の雰囲気を幼く見せている。

 クワットロの視界の端で、ウーノが声を張り上げた。

 

[ディエチ!]

 

「はい」

 

 通信越しに、ウーノがディエチを呼ぶ。ディエチは監視役として、フェイト達を追って来たのか、この闘技場に優雅に歩いて現れ、目の前に現れた四角い魔法モニタを見て首を傾げていた。

 画面に映ったウーノがピクリと頬を震わせる。

 

[はい、ではないわ! まだタイプ・ゼロにレリックを入れられていないのに、何故デバイスを返しているの! それに、フェイト・ラインゴッドの武器まで!]

 

「あれ? ――まだ済んでなかったの、ドクター?」

 

 ディエチが問うと、左手側にスカリエッティを映した四角いモニタが現れた。その中で、スカリエッティは困ったような表情を浮かべ、口端をつり上げる。

 

[済まないね、ディエチ。私としても、急ぎたかったのだが――]

 

「そっか。フェイトが邪魔しちゃったんだね」

 

[……うむ]

 

[それにしても、ディエチ。作業が完了したら私から連絡すると告げたでしょう! 何故、独断で――しかも相手に力を与えるようなデバイスを簡単に――]

 

「まあまあ、ウーノ姉」

 

 新たな声が聞こえ、ディエチが顔を上げて振り返ると、闘技場に続く通路を歩くセインがいた。彼女は水色の後頭部で両手を組んで、ウーノの言葉を制す。

 

「ディエチもさ、二人が心配そうだったから可哀想と思ってやったことだし、それくらいで許してあげたら?」

 

[何を言っているの! セイン!]

 

「――あ」

 

 しまった、という風に表情を凍らせたセインは、ウーノの怒りの矛先が自分に向いて、思わず、あちゃ~と言って額を叩いた。

 それでも話題をディエチに戻すことはせずに、視線でフェイト達の所へ避難しろと言ってくれる。

 そんな姉の気遣いに、ありがとう、と小さくつぶやいたディエチは、栗色の尻まで伸びる長い髪を翻して、闘技場のど真ん中に立っているフェイト、スバル、クワットロに向き直った。

 

 そこで、状況が理解出来ずにパチパチと瞬く。

 

 驚いているのは、ディエチだけではなく――藍色の髪をショートカットにして白いはちまきをしめたスバルもそうであるし、栗色の髪を左右でしばったクワットロもそうである。

 そして何より――誰よりも、この場で騒がしい青年が、地団太を踏んで叫んでいる。それも、よく分からない単語だった。

 

「?? ??? ???? ???? ??? ???? ?? ??? ?? ??????……!?」

 

 ディエチは首を傾げる。

 クワットロはサッと顔色を失って、フェイトが握っている通信機を奪い取った。

 

「そんな……、まさかっ!?」

 

 そう言いながら、手早くフェイトの通信機を操作する。彼女にとっては異文明の利器だが、今はそんなことを言っている時ではない。

 そして――クワットロの不安は、嫌な方向に的中した。

 

「……え?」

 

 フェイトの持っていた通信機――これは、翻訳機能も内蔵された代物だったのだ。

 

「そ、そんな……!?」

 

「どうしたの、クワットロ?」

 

 首を傾げるディエチの言葉など、クワットロには聞こえていない。

 ただ――

 

[……クワットロ]

 

 セインを叱り飛ばしていたはずのウーノのモニタが、クワットロの目の前に貼り付いた。

 クワットロはヒッとつぶやき、青い顔で、開いた掌を左右に勢い良く振る。

 

「お、お待ちくださいウーノ姉様っ! このクワットロ、責任を持って直しますから!」

 

 そう言うとウーノは静かに琥珀の瞳を細め――、肩にかかった淡紫色の髪を背中に払った。額の蒼筋は、見ないことにする。

 

[ぜひそうしてちょうだい……。この三日間、私達の苦労は知っているでしょう?]

 

「は、はいっ!」

 

 二つ返事で頷いたクワットロは、フェイトの通信機を握って上空に飛び立った。

 それを見送るフェイトが、やはり意味の分からない単語で叫ぶが――それは誰の耳にも残らなかった。

 

 

 …………

 

 

「まったく、一体どうしたって言うんだ!? いきなり皆と話が出来なくなっちゃったじゃないか!? しかも、通信は僕が電源切ってないのにいきなり切れるし! ――どうなってんだよ!」

 

 ぷんぷんと頭から湯気を出さんばかりの勢いで一通り怒って、フェイトはふむ、と顎に手を添えた。

 そんなことをやっている間に、クワットロに通信機を奪われ、あまつさえ大空の彼方に逃げられてしまったのだが――。

 

「あぁあああ――っ!!?」

 

 それを見送ってフェイトは大声で叫んだものの、クワットロは一度もこちらを振り返ろうとはしない。

 フェイトはますます思案顔を浮かべた。

 

「あれか? もしかして――ここの磁力場だか電力場だかが働いて、僕の通信機を壊しちゃった感じかな?」

 

 いつもの調子で隣に居るスバルに話しかけるものの、スバルは目を白黒させているだけだ。

 

「Herra orlog, og hvernig i oskopunum get eg tvadur~!」

 

「ハハッ! なんだか、この言葉が通じない感じ――久しぶりだな☆」

 

 スバルに向かってフェイトは爽やかに笑い、彼女が何を言われているのか分からないが、とりあえずグッと親指を突き立てる。

 

「よし! 話が通じなくて暇だし――いっちょ逃亡するか! スバル!」

 

 フェイトはそう言って、スバルの手を握り、出口を目指して猛ダッシュする。

 と、

 周りの空気が一変し、一気に緊張を孕んだ。

 モニター越しにウーノが何か鋭く叫んでいる。

 

「なんだなんだ?」

 

 出口に向かって猛ダッシュしながら後ろを振り返ると、ディエチがあの――自分の身長以上に大きな砲筒を担いで、銃口をこちらに向けていた。

 

「また狙撃かぁああっ!!?」

 

 言う間に、カノン砲が発射される。青いレーザーが、轟音を立ててフェイトの鼻先をかすめた。

 

「どわぁっ!?」

 

 咄嗟に首を引っ込まなければ、後頭部に直撃コースである。

 フェイトはディエチに向かって叫んだ。

 

「危ないじゃないかっ! 僕は抗議するぞー!」

 

「Ertu i lagi……!」

 

「分かっている、スバル! ――僕は『逃走ミッションT ~終わりなき旅路』を開始するっ!」

 

 親指を立てノリだけで言い放ちはしたものの、相手の言葉が分からないため、今一突っ込んでもらっているのかどうかも掴めない。

 ディエチは闘技場の床に片膝をついて、スナイパーとしてフェイトを狙い、轟音を立ててカノン砲レーザーを放つ。フェイトの左右で、爆発が起きた。

 

「って、――うぉっ!?」

 

 フェイトは脇腹すれすれの射撃をどうにか回避すると、自分の右手方向――スバルと手を繋いでいるのとは逆方向に、黒い影が迫るのを見た。ハッとして鉄パイプを構えた彼は、

 

 ガキィッ!!

 

 ナンバー3、トーレのインパルスブレードを止める。

 トーレはナンバーズ中でも実戦最強の女性だ。ウーノよりも濃い紫色の髪をショートにした、凛々しい顔つきをしている。切れ長の目は、鋭くフェイトを見、トーレは両手首と両足首にピンク色のエネルギー翼を宿す。

 このエネルギー翼が〈インパルスブレード〉と言う名のトーレ特殊装備であり、高速移動と接近戦での刃物の役割を兼用する彼女の相棒だ。

 

「なんのなんのぉっ!」

 

 トーレの左手首に、トンファーのように伸びたエネルギー翼を弾きながら、フェイトは鉄パイプを振り下ろす。と、右のエネルギー翼で防がれ、フェイトはわずかに目を丸くした。

 

(――このお姉さん、強い!!)

 

 右手一本の鉄パイプでの右袈裟がけ、並走しながら放たれた一撃は軽く身をかがめただけで、(かわ)される。返しの一撃は右拳を握りしめた巻き込むような右フック。咄嗟に鉄パイプの柄で右手首の刃を止める。甲高い音と共に、互いに繰り出し合う攻撃を互いに(さば)きあう。

 交差後方ですれ違う両者。――と、何の因果かトーレのライダースーツの胸元がフェイトの一閃で切り裂かれ――白い肌がその隙間から覗いた。

 たわわに実った乳房が、衆目にさらされる。

 間。

 目を点にした両者は、しばしの間――鉄パイプが切り裂いた女性の象徴を見据えていた――、と、ボンッと火の出る勢いでトーレとフェイトの顔が赤面する。同時、

 

「す、すいませんでしたぁあああああっっっ!!」

 

 フェイトは思わず濃い顔で謝るも、トーレの頭には、完全に血が上っていた――。

 

 

 

 

「こ、殺してやるっ!!」

 

 クールな外見に似合わず、トーレは珍しく取り乱し、インパルスブレードの出力を最大にしてフェイトに向かって斬り付ける。

 その直前、

 

 ヒュンッ!

 

 ブレードがフェイトの左耳から右耳を両断する寸前で、トーレの鼻先をナイフがかすめていった。

 後一歩、トーレが気付かず踏み込んでいれば直撃――そんな危険な投擲だ。トーレに当たらず、ナイフは虚しく空を掻いたが、研究所の壁に当たると派手に爆発して火花と石片、煙をばらまく。

 トーレは忌々しげに舌打ちしながら、ナイフが向かって来た方角を睨み据えた。

 

「何の真似だ、チンク!」

 

 彼女が振り返った先には、トーレの腰ほどまでしか身長がない小さな女の子がいる。彼女はちょうど洗浄ポッドにでも入って来たのか、生渇きの銀髪を背中に払って、溜息を吐いていた。昔の戦闘で右目を失った女の子は、そこに黒い眼帯をしている。見た目だけで言うなら、十歳前後だ。

 女の子の名は、ナンバー5チンク。

 トーレの妹分に当たる少女だった。

 

「……少し落ち着くといい、トーレ姉さん。殺してしまっては意味がない」

 

 落ち着いた口調で言った女の子、チンクは、一定時間手で触れた金属にエネルギーを付与し、爆発物に変化させる特殊能力を持つ。先程、トーレに投げつけたナイフが、壁に当たるなり爆発したのも、チンクが能力をナイフに与えたためだった。

 チンクは幼い顔に呆れた表情を乗せて、左手に三本残したナイフをカチャカチャと鳴らす。

 それにムッとして、トーレが抗議しようとした所で――まだ無事に残っている妹の左目が、静かにトーレの胸元を見た。青いライダースーツを見事に両断されたトーレは、自分の白い素肌が――女性の膨らみが露わになっているのに気付いて、慌てて両腕で覆う。顔が火を噴いた。――チンクが初めて見る姉の表情だ。

 それにチンクは静かに笑い、視線をフェイトに向ける。スカリエッティがどうしても手に入れようとした――自分たちとは違う過程で生まれた“生体兵器”。

 こうして面と向かって会うのは、初めてだった。

 

「青年。大人しく部屋に戻ってもらいたいものだな」

 

 ディエチ――と言うよりもウーノの苦労話を聞いていたチンクは、フェイトに向けてこう言った。

 が。

 やはり言葉の分からないフェイトは、キリッと表情を引き締めるや、ワケの分からないことを言って、踵を返す。スチャ、と人差指と中指を綺麗に揃え立て、彼は額に据えた。

 そして――、

 

 ドォッ!!

 

 どう見ても今、逃げ出そうとした青年に、チンクは無表情に爆発するナイフを送りつける。フェイトは悲鳴を上げ、左脚を浮かした態勢で、パチパチと瞬きながらチンクを見た。

 ――そう。

 チンクはナンバーズ中、もっとも容赦のない少女なのである。

 

「大人しくする気にはなったかな?」

 

 チンクが問う一方で、フェイトの前にスバルが立ちはだかった。

 

「ここは任せてください! フェイトさん!」

 

 ん? と首を傾げたチンクは、スバルを見るなり目を瞠る。

 

「君は――!」

 

 だが、チンクの驚きは最後まで言葉にならなかった。フェイトに手を引かれるだけだったスバルは、地面に拳を置くと、空色の魔法陣を描き出す。

 

「ウイングロード!」

 

「――チッ!」

 

 スバルの魔法――空色の道が空中に絨毯を敷いたように広がって行く。チンクは舌打ちし、黒いコートの下に何本も差したナイフを握るや投擲した。それはスバルがマッハキャリバーで駆けるより速く、鋭く走ったが――直前で、鉄パイプに阻まれ、さらにスバルの創った道を行くフェイトの脚力に引き離された。

 チンクは続けて、ナイフを放つ。

 ――が、どうやらフェイトの身体能力は本物だ。

 一向に、止められない。

 

「やれやれ……。困ったな」

 

 姉妹(ナンバーズ)の間でも、“薄気味悪くて強い奴”という認定を受けているアウグ。その彼と互角以上に渡り合った青年だ。

 それを思い出して溜息を吐いたチンクは、カノン砲を抱きしめながら悠然と歩いて来るディエチの顔を見るなり、互いに――頷き合った。

 

 

 

 クワットロは、形の良い頭に出来たたんこぶをさすりながら、憮然とモニタを睨み据えた。栗色の髪を左右で短く括ったメガネっ子は、どうにか壊れた通信機を直そうと奮闘したものの――結局、どこをどう弄ってもさっぱり回路が分からずに、ウーノにこっぴどく怒られたのだ。

 

「……まったく、この私がウーノ姉様に、ここまで怒られたのは久しぶりだわ……。――このお礼、たっぷりとさせてもらわなくちゃ」

 

 クワットロはぽつりとつぶやくと、空中に生じさせたキーボードを操作する。それはパイプオルガンやエレクトーンのように何本も並んだ操作キーで、彼女の思う通りに研究所内全ての様子がモニターに映し出される。

 ものの数秒で、チンクとディエチ――それから新しいスーツに着替えたトーレに追われるフェイトが捕捉出来た。

 クワットロは更にキーボードを叩いて、スカリエッティの作業室にあるガジェット四十機を起動させる。

 途端、にやりと――必要以上に幼く見せた外見に、妖艶な笑みを浮かべる。

 

「さぁて、パーティの始まりですわよ♪」

 

 それはクワットロの、完全な逆恨みが発動した瞬間であった。

 

 

 

 ……………………

 ………………

 

 

 この不毛な戦いは――闘技場から見える空が、黄昏色に染まるまで続いた。

 

「ぬぁああああっ!? 何故こんなに皆、本気なんだぁああああ!!」

 

 フェイトは叫びながら、トーレ、チンク、ディエチ――更にはクワットロの放ったガジェットを相手取る。スバルには危ないから後ろに下がっているよう、言っておいた。――言葉が通じないのは分かっていたが。

 

 と、その時。

 

「クッキー焼けたよ~!」

 

 スカリエッティの作業所にまで来て暴れ回っているフェイト達に、セインが声をかけて来た。水色の髪を肩まで伸ばした少女は、相変わらず人懐っこい笑みを浮かべている。

 

「なに、クッキーが?」

 

 チンクがナイフを投げる手を止めた。

 ディエチもカノン砲を降ろす。

 

「冷めない内に食べなくちゃ」

 

「って、おい!? 私はこの程度で済ます気は――!」

 

「トーレ姉さん、落ち着いて。まずはお茶が先だ」

 

 いきり立つトーレを、チンクがなだめる。

 フェイトはパチパチと瞬いた。――先程まで、これっぽっちも理解出来なかったナンバーズ達の言葉が、すんなりと耳に入ってくる。

 

「ど、どうなってるんだ……これ?」

 

「あ! フェイトさんっ! ――良かったぁ~!」

 

 隣のスバルも、ようやくフェイトの言葉が分かるようになって安心したようだ。ほころんだ笑顔を見せて、胸に手を当てている。

 

「これは……一体?」

 

 クワットロは訝しげに、フェイトを見据えた。と。首を傾げる一同の前に、クッキーが出来たと報告を入れに来たセインの後ろから――ドクター・スカリエッティが現れる。

 白衣のポケットに両手を突っ込んだ彼は、ウェーブがかった紫色の髪を揺らして、言った。

 

「以前頂いたものがこんなところで役に立つとはね」

 

「以前」

「頂いた」

「もの」

「ですって?」

 

 セインを除いたナンバーズ四人組が、それぞれ首を傾げる。と、スカリエッティは軽く肩をすくめて、白衣のポケットから、フェイトが持っていたモノと同型の――連邦製の通信機を取り出して見せた。

 

「これでようやく、不自由の心配が減りますね」

 

 満足そうに微笑んで、スカリエッティやセインの後に続いて部屋に入って来たのは、ウーノだ。なぁンだ、と言って安堵して笑い合った一同は、セインの主導で食堂へと向かう。

 のんびりとしたティータイムを過ごす為に。

 だが――

 ガジェットまで投入して復讐を遂げようとしたクワットロの額には、青筋が浮かんでいた。

 

「つまり、……ドクターは元から持っていたってことかしらん?」

 

 いつもの甘ったるい口調を、更に甘ったるくして――クワットロは訊いてみる。白衣を翻し、振り返ったスカリエッティは、ああ、と至極あっさりとうなづいた。

 

「贈り物は、なんでも貰っておくものだね。惑星間通信など、我々には不要と思っていたが」

 

 そう言って、肩をすくめるスカリエッティに、クワットロは極上の笑みを浮かべる。

 

 

 その後、フェイトやスバルまでもを含んだナンバーズ達によるティータイムで、スカリエッティは思わず紅茶を吹き出したという。

 後にセイン達が味見した所、スカリエッティの紅茶にだけ大量の唐辛子が混入していたのだそうだ。

 

 

 クワットロの逆襲は、こうして幕を閉じたのである――。




【今話のナンバーズ】
・ナンバー1ウーノ
 スカリエッティの秘書。
 戦闘力は皆無だが恐らくスカリエッティ一味で一番の権力を握っている。

・ナンバー3トーレ
 ナンバーズの実働部隊隊長。稼働歴が長いため、実戦経験が豊富。
 両手足首についたエネルギー翼で切りつけたり、高速移動したりする。
 厳しい性格で妹にも辛く当たるが、素肌をさらけだすと照れる。

・ナンバー4クワットロ
 ナンバーズの頭脳担当。電子を操る能力を持っており、ぶりっ子+腹黒い。
 スカリエッティの険が抜けた所為で、ちょっとキャラが崩れ気味だが、その内戻るハズ。

・ナンバーズ5チンク
 ナンバーズのロリっ子。金属に爆発機能を付けることが出来る能力を持つ。
 ナンバーズ中一番落ち着いた性格で、仁徳者なのだとか。しかし、一番容赦ない人物でもある。

・ナンバー6セイン
 スカリエッティ一味の料理担当。
 明るく気さくな女の子。ディープダイバーという物質のなかに潜り込める(たとえば建築物の床や壁などを通り抜けられる)特殊能力をもつ。

・ナンバー10ディエチ
 スカリエッティの研究所で、フェイトの監視要員に抜擢された女の子。
 無表情でどこか天然っぽい。カノン砲を用いるスナイパー。
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