連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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24.陸士107部隊

 目が覚めたとき、私は白い天井を見つめていた。

 救護施設のベッドの上で私達――陸士107部隊の隊員達は意識を取り戻したのだ。

 けれど、命からがら生き延びた我々に対する本部の評価は冷たいものだった。

 

 私達は部隊施設を襲撃され、ロストロギアを奪われ、壊滅させられた。

 ソレもたった一人の侵入者に。

 これが世に広まれば、間違いなく管理局始まって以来の汚点となると言われ、(なじ)られたのだ。

 

 一体、誰が敵うというのか、あんなバケモノに。

 それでも、私達は戦った。

 命を懸けて仲間を、部隊を守るために勝てないと分かっていても挑んだ。

 その結果、こうして生き残った者がいる。死んだ者がいる。

 上層部に報告しても誰も信じやしない。あのバケモノの力を。

 ――だから、陸士107部隊はその程度だった。役立たずだったといわれなき批判を受け続けた。

 自分が何と言われても構わない。

 だが、命を懸けて、私達を守ってくれた仲間の死を、役立たずと言われて我慢などできない。自分達を育ててくれた教官や共に戦った上司・同僚達を、バカにされたまま終われない。

 そういう思いが、生き残った私達の共通の思いだった。

 ――そんな時だった。

 奴が、

 あの悪魔のような男が、この病室に現れたのは。

 

 

 その男は、一言でいえば野暮ったい男だった。

 鬱陶しく伸びた赤い髪を紐で一つに縛っており、長い前髪がだらしなく顔に垂れている。顎にも無精髭が散っていて、顔が整っていなければ浮浪者と見なす者がいたかもしれない。

 それでも、その男は均整のとれた引き締まった体躯をダークスーツで固め、浮浪者とは一線を画す鋭い切れ長の目をこちらに向けて、薄気味悪く口端をつり上げる。

 男は言った。

「コレが陸士107部隊の生き残り、か。シケたツラじゃねぇか、ああ?」

 男は――私達の姿を見るなり失笑した。その言葉に、私はまたか、と溜息を吐いた。

「また、私達を(なじ)りに来たのか? 他に用がなければ帰っていただきたいのだがな」

 これ以上、亡くなった人々を悪く言われるのは許せないと、ハッキリと拒絶の意を表した。ソレは――ここに居る者全てが、同じ思いだったのだ。

「くく、随分ヒデェ目に遭わされたんだな。あのバケモノに」

 だが、酷薄な笑みと共に放たれたその言葉に、私は息が詰まった。

 今、この男は何と言った?

 あのバケモノ?

 つまり――コイツは映像を見たと言うのか!?

「「「「!?」」」」

 この場に居る全ての者が目を丸くして、男に向き直る。男はソレを満足げに見やった後、告げた。冷酷な光を瞳にたたえて――。

「報告は受けたよ。だが、上層部は動かねえことに決まった」

「何故だ!?」

 声を荒げる私に、男は失笑し肩をすくめた。

「当たり前じゃねぇか。仮にも地上の治安を任された管理局地上部隊。

 その中の陸士107部隊がたった一人の侵入者にやられた。そんな情報を外部に漏らせるかよ。民間より事情を知っているはずの管理局でさえ、お前らを(なじ)るんだぞ? 当然、事情を知らない民間は恐怖に混沌し、監理局そのものを(なじ)る。それこそ、お前らを(なじ)るのと比べものにならないほどに。

 まあ、そうなる前に次元航行部隊(うみ)が動き出すだろうが、ソレも地上部隊(りく)には避けたい状況だ。分かるな?」

 その言葉に、私は唸るしかなかった。

 男の言う事は一々(もっと)もだったし、地上部隊の最高責任者レジアス・ゲイズ中将は、本局である『海』とは険悪な関係だ。

「レジアス中将のお考え、か」

 私の言葉に男は満足そうな笑みを浮かべた。そして、こちらにとって予測の出来ない言葉を告げる。

「だが、奴をこのままにしておくのは論外だ。だから、テメェらにチャンスをやるよ。今から俺が教える場所に、テメェらを襲ったバケモノが現れる」

「なっ……!? 何故、中将に知らせない!」 

 ――私だけではない、この場にいた皆が声を荒げた。

 だが、男はにべもない。

「知らせて何かできるのか? テメェらを壊滅させたバケモノだぞ? 返り討ちがオチだ」

 無駄に犠牲者を増やすだけだ、と言いたげだった。

 そして――この男はやはり、悪魔の使いだった。

 次に続く言葉が、ソレを私に確信させた。

「だが、捨て駒として、使える奴らがいる。しかもバケモノと交戦経験がある」

 つまり。

 事実上、死んだ陸士107部隊の残存部隊、その後始末に来たのだ。管理局員として信頼を損なわせた自分達に――死に場所をやる、と。

「言ってくれるな。要するにデータ収集のための実験体ってコトか」

 皮肉気に笑う私に、男は満足そうに言った。

「お前らの傷は、俺の持つマジックアイテムで治してやる。どうする?」

 私は直ぐには応えず、隊員達を見た。彼等はやはり私と同じ表情で頷いてきた。――その瞳に、私の気持ちも決まった。

「ただでやられはしない。意地を見せてやる!」

 私の言葉に、答えに――男はニヤリと酷薄な笑みを深める。

「いい答えだ、決まりだな。――俺の名は、ラグナ。ラグナ・ハートレットだ。よろしくな、陸士107部隊の勇者達よ」

 芝居がかった台詞を、男は言った。

 

 

 ◆

 

 

「――何だ、ここは? 奴の波動を追ってきてみれば」

 

 うらびれた廃棄都市には、誰も住んでいない。

 立ち入ることすら一部の局員を除いて禁止されているこの区域に、青年は現れた。

 濡羽色の髪に、金と銀の色違いの瞳を持ち、人とも思えないような美貌をたたえた青年――いや、人の形をした『何か』だ。

 私達は、あの悪魔の使いの情報通りに現れた、その青年を取り囲んでいた。

 顔、形、そしてこの威圧感。

 間違いない。

 こいつは、あの時のバケモノだ。

 バケモノは言った。

 

「何だか、不味(まず)そうな奴だけが集まったって感じだな」

 

 不快気に眉間にしわを寄せるバケモノ。

 そいつは私達を襲った時とは違い、よく喋った。顔色が死人のように青ざめていて、唇に黒いルージュを引いている。妙に艶のある動きは、平時ならば見惚れたかもしれない。

 ただ、この時の私には恐ろしいだけだった。

 私は精一杯の虚勢を張って恫喝した。

 

「我が部隊を潰したことを後悔してもらうぞ。バケモノ!」

 

 全員、返り討ちに遭うのは分かっている。

 ――だが、それでも後の管理局員達がこのバケモノに勝利する為に、我々は喜んで礎となろう。

 バケモノの戦闘データを得るために――。

 

「――やめとけよ、どうせ敵いっこないんだ。隅でうずくまっていた方が利口だよ。俺、雑魚に興味無いからさ」

 

 だが、バケモノはまるで私達など眼中に無いかのように振る舞う。

 おのれ、ここまで。

 ここまで、我々を侮るのか。

「――言わせておけば!」

 各々、デバイスを構えて決死の覚悟を決める。

 そんな私達を前にして、バケモノは鬱陶しげに肩をすくめてみせるだけ――、いや表情に変化があった。

「悪いんだけど俺の興味はアンタらの弱さじゃなくて――」

 その瞳に狂気とも呼べる何かを宿してバケモノは眼を見開く。

「いるんだろ、俺と同じ顔をした奴が! 何処にいる? いや、何処にいた?」

 訳のわからないことを言い、最後まで我々を侮るバケモノに、言いしれぬ怒りを私は覚えた。

 

「キサマ……!」

 

 勝てる相手ではないことは、誰よりも我々が知っている。

 だが、終われるものか。

 このまま、侮られてなるモノか。

 足掻いて見せる、最後の最後まで。

 

 我等は、勇敢なる陸士107部隊なのだから――。

 

 バケモノは、こちらをゆっくりと舐め上げるかのように見据えてくる。

「……最初の勢いはどうしたんだい、人間?」

 挑発だと分かっていたが、動かなければ事態は進展しないのも事実。

 予め立てておいた作戦を、我らは決行した。

 奴が現れるポイントに網を張り、いつでも仕掛けられるように囲んである。

 

「ならば、いくぞ! ミッド地上部隊魔導師の力を思い知れ!」

 

 私の言葉を合図に、全員が構えていたデバイスの矛先をバケモノに向け、放つ。

 

 

 

 男達の反応に、異形の青年は美貌を微かに歪め、小首を傾げた。

(この反応。カーマインじゃない、アイツが相手なら俺の狂気を見てもっと恐怖したはず……。俺と同等の狂気を纏った同族。居たか?)

 彼は油断なく相手を観察しながら、更に思考を巡らせる。

(デュランがこいつら程度に本気に成るとは考えづらい。アステアは無差別攻撃などという意味の無い行動はしない。となると)

 

 思い至った相手は、一人。

 人形使いに操られる、姿形だけ自分達に似せた人形のコトだ。

 

「あのゲスが造り出した“(まが)い物”か」

 不快感に顔をしかめながら、青年は自分と“誰か”を重ねる目の前の人間の兵士達に――歪んだ――残虐で、冷酷な笑みを浮かべ、言う。

「やっとカーマインを殺せるときが来たと思いきや、あの紛い物か。しかもあんな人形と俺を間違えるとは、ねぇ?」

 静かに虚空に右手をかざすとその掌に青い光の珠が生じ、一振りの刀を具現化させた。隊員達が口をそろえて驚きの声を上げる。

「「「デバイス!?」」」

「よりにもよって、アレと俺を間違えるとは……。――ツイてないね、アンタら。悪いが今日は厄日みたいだ」

 異形の青年は、驚く管理局員を無視して、告げた。

 

「――俺の魔方剣は可能性。どれだけ遊べるか、確かめてみるといい」

 

 妖艶に笑い、静かに現れた刀を構える。陸士107部隊の隊員が決死の覚悟で突撃を仕掛ける姿勢を取る。その様は正に玉砕覚悟の特攻を仕掛けようとしているようだった。

 彼らの覚悟を見た異形は――ただ嗜虐の愉悦に浸り、笑みを浮かべるだけだった。

 

 …………

 ……

 

「ククッ、威勢よくつっかかってきたわりには怖気づくのが早いんじゃないか?」

 バケモノは、構えたまま動きを見せない私達に、挑発のような言葉を投げかけて来た。

「そこまで私達を甘くみるか。いいだろう! ミッド地上部隊、陸士107の誇り。貴様に焼き付けてやろう!」

 私はバケモノに言い返しながら、自分の部隊に素早く目を配る。彼らは各々所定の位置に付いていた。その様を満足げに見やり頷く。私は号令を投げかけた。

「総員、構え!」

「砲撃手、撃て!」

 間髪入れず砲撃部隊の分隊長が合図を送る。

 

 砲撃準備をしていた魔導師が一斉に放つ。

 殺到する光の弾丸。

 しかし、バケモノは予想通り、それを無造作にすり抜け、体を翻しながらこちらに向かって矢のように突進してくる。

 無造作に振り下ろされる右手の刀による斬撃。

 狙われた一人の元に、二人の魔導師が咄嗟にデバイスを横から入れ、刃を三本のデバイスを重ねて三人がかりで止める。

 この時、ようやくバケモノの表情から笑みが消えた。

 

「何? 俺の攻撃を止めただって?」

 

「お前の戦い方は、こちらで研究している!」

 同時に部隊員の一人が声を張り上げた。

「圧倒的な身体能力と反応速度、その場から振り下ろすだけの斬撃はしかし凄まじい威力と鋭さを誇り、一人では到底受けきれん。

 だが、

 お前が攻撃を仕掛けてくるであろう一人に脇の二人が援護することで受け止めることができる!」

 攻撃を受け止めた隊員が叫びながら剣を弾き、バケモノを後方に退がらせる。その場所はすでに我々によって囲まれており、バケモノに周囲から魔力砲が撃たれる。

 

 次々と殺到する全方位の魔力に対し、バケモノは人間離れした動きで、次々と魔力弾を無造作に切ったり、首をひねるだけでよけていく。

 

(やはり、身体能力に優れているというのはあのラグナとか言う男の言うとおりだ。

 攻撃を紙一重のところでかわし、急所に当たりそうなきわどい弾はその刀で切り捨てている。

 驚くべきはあの不安定な態勢から、手打ちのような姿勢で、鋭い斬撃が飛んでくることだ。

 ――だが、相手は一人。圧倒的な力を持っていたとしても、攻撃の手を増やし、周囲を囲み、一気に押しつぶせば我らに勝ち目はある!)

 

 そんな私の思考を呼んでいたかのように、バケモノはその整った口許を歪ませた。

「フッ、なるほど。人間と言うのはつくづく、自分の常識で物事を考えようとするなぁ……」

 バケモノは刀を両手で持っていた。これ以上何かをされる前に、撃つ。

 同時に部隊員のデバイスに魔力が殺到していた。

「全方位からの魔力砲撃だ! これを避けられるものなら、避けて見ろ!」

 今度の全方位魔法攻撃は、針の穴ほどの隙間もないほどに、次々と放たれた。

 弾の数が違う。

 全てを同時に切り払うなど――物理的に不可能だ!

 

 しかし、バケモノはまたしても私の想像を凌駕していた。

 

「この程度の砲撃、切り刻んでやるさ!」

 

 バケモノは両手持ちの刀を横薙ぎに一閃した。と同時蒼い光の斬線がバケモノの全周囲を描き、青白い炎と化した。バチィッ 炎はまるでバケモノを守るように、全方位からの魔力弾を防いだ。

「下がれ!」

 嫌な予感が生まれ、即座に部下に指令を飛ばす。その前に、青白い炎は爆発し、宙に無数の斬戟となってバケモノの全周囲に飛び散った。ズババババァッ バケモノの周囲の全ての景色が切り刻まれていく。人も物も何一つとて例外は無い。

 何名かの部下が巻き込まれ、全身を切り刻まれながら前のめりに倒れて行く。

 とんでもない斬撃の結界を張ったバケモノは平然と、無残に切り裂かれた景色の中央に立って言い放った。

「数で圧倒的に有利だからって、周囲を囲めばどうとでもなると思ったか?」

 しかし、こちらはそれどころじゃない。

「ど、どういうことだ……!?」

「あんな技、なかったぞ!」

 部隊の何名かが言う言葉に私も頷いた。――そう、あの時のバケモノはこれほどの大技を使わなかったのだ。

 こんな――圧倒的かつ理不尽な一閃を。

「フッ、今程度の魔力砲撃が、お前達の切り札だというのか? なら、はっきり言ってやるよ。お前達じゃ俺は倒せない。お前達がどんな目的で仕掛けてきているのか知らないけど、正直鬱陶しいんだ。とっとと消えてくれないか」

「……っ!」

 しれっと言い放つ言葉はこのバケモノの力がこの程度では無いということを証明しているように聞こえる。

 ハッタリ――

 そう言いたい所だが。

「隊長、もう一度!」

「わかっている。ここでっ、退けるものかぁ!」

 同志達の言葉に、私は今一度デバイスを構えなおす。

 デバイスの先端にある矛先に魔力の刃を作り、槍となったデバイスを、ヤツに向けて構える。

 バケモノは、肩をすくめて呆れたように鼻を鳴らした。

「フン、相変わらず人間ってのは面倒臭い生き物だな。勝てないとわかっていながら、どうして挑んでくる? 力の差は、もうわかったろ?」

 一旦、言葉を切り――その瞳に、表情に溢れんばかりの殺意を漲らせて告げて来た。

「それとも、何人か死なないとわかんないのかい?」

 その圧倒的な重圧に、思わず呻きそうになるが――、隊員達は負けずと言い返した。私のように手を振るわせながらも凛とした口調で。

「たとえ……たとえ負けたとしても、俺達の意志は!」

「私達の意志は、」

「仲間によって受け継がれる。そして、ミッドの平和を揺るがすお前達を、必ず倒す!」

 そうだ――。

 これこそが、私達の求める管理局員だ。

 私達は、ミッドの平和を守るんだ!

 震えていた手は、いつのまにか治まっていた。

 

「フ、フフフフフ……フフフフフ。弱い犬ほどよく吠える。いいだろう、やってみろよ。あいつの居場所が判明するまでは、こっちも退屈なんね。遊んでやるよ」

 

 おかしくて、おかして仕方がない。そういう笑い方をするバケモノを私は睨みつける。

「部隊長!」

「わかっている。コンビネーションで決めるぞ!」

「はっ!」

 部下達の言葉に、私は最後の作戦を決行する言葉を――合図を送るのだった。

 

「……ん?」

 高速移動でバケモノの周りを取り囲み、その周囲を時計回りに移動する陸戦魔導師(わたし)達。ソレに彼は、呆れたような表情で告げた。

「また一斉攻撃か。何度やっても無駄なんだけど、ね」

 しかし、我々は今度は足を止めずに高速移動しながら、バケモノの周りを旋回、奴を中心に円を描く。次の瞬間、バケモノの正面、左右の三方向から同時に魔導師達が高速移動しながら一直線にバケモノに斬りかかって行く。

 これほどまでに鋭く迅い斬撃に対処できるわけがない、しかしバケモノはその不可能を可能にして見せた。咄嗟に左手の甲で正面からきた魔導師の刃を手の甲で弾く、右サイドから首を狙ってくる相手には右手の刀を振って後方へ弾き飛ばした。

「もらったぁ」

 そのとき、ちょうどバケモノの背後から切りかかる部隊員。しかし、彼が叫んだ時にはバケモノはすでに向き直っていた。

「なっ!? 体勢の立て直しが速いっ! くっ!」

 咄嗟に突きの姿勢から受ける体勢に変える隊士。同時、刀を袈裟がけに振り切るバケモノ。デバイスで受けるも、隊員は矢のように後方へ弾き飛ばされ、地面に背中から叩きつけられる。ドゴォッ 悲鳴を上げる間もなく、彼はそのまま気を失った。

「どうした、それで終わりか?」

 笑いかけるバケモノに対し、次々に攻撃を仕掛ける隊士達。しかし、奴は切りかかる者達を刃を合わせて後方へ弾き飛ばしたり、交差後方気味に切り捨てていく。

「……一斉攻撃の次は波状攻撃、芸のない戦法だ」

 失笑気味なバケモノに対し、私は全力で斬りかかった。キィンッ 刀と魔力の刃がぶつかり火花を散らす。

「これ以上は、やらせん!」

「へえ……?」

 余裕の笑みを浮かべるバケモノに対し、私は全力で刃を交える。私の槍(さば)きでも、奴は鼻歌交じりに(さば)いて行く。更にスピードを上げて槍の斬撃を放つ。もはや、ガードを考えている場合ではない。

「隊長!」

 弾き飛ばされた何名かの者が私の身を案じ、叫んでくれる。同時――バケモノが刀の柄を両手持ちに変えた。

 ギィンッ 地上スレスレの位置から足を払うように刃を横に薙ぐ。その一撃は刀を下段に構えて、あっさりと止められてしまった。同時、踏み込んでの唐竹で切りかかってくるバケモノに対し、咄嗟にサイドステップで距離を開けて避ける。

 私の動きに、バケモノはかすかに瞳を細め、笑った。

「なるほど。他の奴らとは少し違うようだな」

 刀を両手で持って切っ先を私の右の肺辺りに狙いを付け、刀身を水平に寝かせて腰のあたりに握りを置く。初めて、バケモノがまともに構えた瞬間だった。

「だが――俺の前では変わらない。」

 ドォンッ 素早い踏み込みからの斬撃。咄嗟に右からの薙ぎを柄で受け、返す刃は逆袈裟に切り上げる。捕えたと思ったが、奴は超人的な身のこなしと反応速度で、脇に翻って避け、同時に斬りかかってきた。ギィンギィンッ 四、五回ほど刃を交えた後、ドゴォウッ ズザァッ バケモノの強烈な両手持ちでの右袈裟がけを、私は受けきれず態勢を崩してしまった。

「もう終わりか?」

 そう告げながら更に斬りかかろうとするバケモノ。しかし、私は嗤っていた。計画通りだ――!

「終わるのは――貴様だ! 今だぁ!」

 予め、奴が現れる前に高台の方に移動し、待機させていた狙撃部隊。私の合図に、彼らは限界まで溜めた魔力を放つ。四方八方からの正確な砲撃魔力がバケモノを襲う。

 ズドドドォウ 強烈な爆発音と煙を上げて、魔力砲は直撃した。

 

「やった!」

「やりましたよ、隊長!」

 隊員達が私に労いの言葉をかけてくれた。私はソレに微笑みを浮かべながら――煙の向こうに居るバケモノに告げてやる。

「ああ! お前がさっきまで喰らっていた砲撃手は、あくまで陸戦魔導師の砲撃だ。砲撃型魔導師の砲撃は、さらにそれを上回る」

 皆が歓声を上げた。当然だ、これで――ようやく、汚名を返上できるのだから……!!

 ここまでやれば、これまでの誹謗も中傷も、消えることだろう。ホッとしながら、先輩達の仇を取れたことに安堵しながら、私ははしゃぎ立てる同僚や部下達を見ていた。コツコツ 靴音が辺りに響き渡るまでは――。

 間違いなく、煙の向こうから音はする。更に――人影が煙の向こうからゆっくりと現れた。黒い髪に金と銀の瞳の――異形の青年が。

「な、なんだと!? バカな……!」

 余りの絶望に、私はそんな言葉しか出なかった。バケモノは首をひねりながら、告げてくる。その口元に嗜虐的な笑みを浮かべて――。

「なるほど……。この俺に一撃入れるとは大したものだ。だが、痛くもかゆくもない」

「ば、バカな! いくら非殺傷設定とは言え、砲撃型魔導師の砲撃を受けて、無傷だと!?」

 部下の言葉に、奴は首をかしげて見せた。

「非殺傷設定? とどのつまり、格下の人間風情が、この俺に手を抜いたというのか」

 その言葉に、私は思わず告げた。

「われわれ管理局の目的は、相手を殺すことではない!」

 そう――。力のある魔導師は、人を殺してはならない。

 そんなことをすれば、社会の秩序が崩壊してしまう。

 感情に身を任せ、殺してしまえば、それはもはや管理局の魔導師では無い。ただの殺人者だ。そう、信念を持って告げてやる。

 ――しかし。

「わからないな。お前は一度、殺されるような目にあったんだろ? その時の恐怖を。屈辱を、憎しみを、何故お前は否定する?」

 首をかしげるバケモノは、悪鬼のようにその美貌を歪めた。

「殺しに来るなら、殺せばいい! それが闘いと言うものだろう!」

 その余りの迫力に、我々は何も言えない。そうしていると、バケモノは静かに、不快気に告げた。

「お前達はアイツと同じことを言う」

 

 その言葉に、恐慌状態に陥っていた者達が、我を取り戻し力強い言葉を放つ。

「たとえ何を言われようと、俺達は最後の最後まで、」

「陸士107部隊として闘うだけだ」

 まるで――自分自身を奮い立たせるかのように。バケモノは、彼らの言葉に静かに嘲りの笑みを口許に浮かべて、炎のような怒気を瞳に漲らせて告げた。

「そうか……。お前らのママゴトに、これ以上俺を付き合わせるな! 一瞬で終わらせてやる!」

 奴の体に纏わるように白銀の炎のようなモノが現れ、その背後に――見た事もない巨大な角を持つ白銀のバケモノの影が、一瞬私達の目に映った。ソレが消えると同時、圧倒的なまでの力がバケモノから放たれていた。

 隊舎を襲った時の得体の知れない力じゃない……。

 圧倒的な殺意と――憎悪と、狂気。

「な、なんだ!? この力は!」

 そんな反則じみた力の顕現に、思わず私は声を荒げた。次の瞬間、私の意識は闇に囚われていた。

 

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