連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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2.処刑と朗報

「銀河連邦の軍人だと?」

 

 クレアの助言でアリアスの南西門から村を抜け出たフェイトたちは、急ぎ足で鉱山の町カルサアに引き返していた。

 鉱山を北側に抱くこの町は鍛冶場としての隆盛は過ぎたが、騎馬兵隊『風雷』の本拠地を構えているだけあって人に溢れている。シーハーツとの国境沿いにある最前線の町であるのに、町の規模が大きいことと『風雷』の防衛力が高いことからアリアスと違って戦争被害はほぼなかった。

 カルサアの埃っぽい空気を吸い込みながら、クリフは差し出されたIDカードを睨んで顔をしかめた。

 

 ――銀河連邦軍第六深宇宙基地特務第一小隊所属、アレン・ガード。階級は少尉。

 

 つまり、連邦軍の特殊隊員である。

 苦虫を噛み潰したようなクリフの反応に、金髪蒼眼の青年――アレンは表情を変えないまま言った。

 

「俺も、まさか貴方があの、反銀河連邦組織(クォーク)のクリフ・フィッターだとは思わなかった。……奇縁になったな、互いに」

 

 微妙なニュアンスを含んだ台詞に、クリフが皮肉げに肩を揺すっている。だがフェイトにとってはそれどころではない。連邦軍人だ、と名乗るこの青年が、あのとき保養惑星(ハイダ)にいたというのだから。

 

「それでソフィアや、父さん、母さんはどうなったんだ!? 皆の避難状況は……!」

 

 はやる気持ちを抑えようとしたが、無駄だった。考えるより先に唇が動いてしまう。自分でも驚くほど緊張していて、唇がまるで別の生き物のようだ。

 そのとき、

 

「……っ」

 

 アレンの落ち着いた蒼瞳と眼が合って、口をつぐんだ。

 理由は分からない。アレンは平凡な顔立ちの男で、外見だけで言えばどこにでもいそうな特徴のない男だ。一方で、瞳に吸い込まれるような、静かな迫力がある。彼にならなにを任せても大丈夫だ、と思わせるような自信が、切れ長の双眸から発せられているのだ。浮ついた自分を彼は要石のように抑えた。

 

「俺が答えられるのは、リョウコ・ラインゴッド博士の安全だけだ。君の言う二人――ロキシ・ラインゴッド博士とソフィアという少女に関しては、把握していない」

 

「母さんは無事なのか!?」

 

 心臓が高鳴った。すがるような想いでフェイトが尋ねると、アレンははっきりと頷いた。

 

「彼女については第六深宇宙基地に保護されている。――俺が重力波に巻き込まれたのは、それからテロリストの(バンデーン)艦を追撃した際だ」

 

「あの戦闘で、重力波が起こったってのか?」

 

 苦い表情のままにクリフが訝しげに問う。アレンは頷き、そこで早めていた足を止めた。

 

「どうしたんだよ?」

 

 ふり返ると、アレンは答えずに屈んだ。

 フェイトも地面を見る。ぼろぼろに汚れたビラが一枚、落ちていた。

 

 ――シーハーツのスパイ逮捕! 近日、カルサア修練場にて処刑決定!

 

 黒文字で大きく書いたビラだ。

 

「これって……!」

 

 思わず息を呑むフェイトの傍らで、アレンがビラを拾い上げた。コミュニケーターを貸してくれと言われ、渡すと、写真は載っていないが埃を払えば粗悪な印字で逮捕状況やスパイの活動内容などが大雑把に記載されていた。

 

「時間的な猶予は、どうやらねぇみたいだな」

 

 すでに印刷物になったビラの翻訳を横から睨んで、クリフが呻いた。フェイトも眉間に皺を刻みながら頷く。さきほどまで気付かなかったのに、ビラの文字を認識した途端、通行人の半数近くがこれと同じものを持っているのが目につく。

 

「……!」

 

 さらにそれを手にした誰もが、まるでカーニバルでも迎えるかのような明るい表情を浮かべていた。

 

「……こんな……っ、人が殺されるかもしれないっていう時に……!」

 

 フェイトは拳を握り唸った。そのときである。

 

「あら! あなたたちもこれ、読んだの!?」

 

 宿先の道を歩いていた若い女性が、フェイトたちを見て顔を輝かせた。そそくさと駆け寄ってくるとアレンの握るビラとこちらを交互に見てくる。どうやら話題に飢えていたらしい。嬉しそうな彼女にフェイトが思わず顔をしかめたが、彼女は気付かなかった。

 

「ああ」

 

 アレンが淡白に頷く。女性は話し相手が居ればいいのか、過剰な興奮をみせると、夢見るように瞳を輝かせた。

 

「凄いわよね~! 疾風団長であらせられるヴォックス様に捕まって、それから漆黒副団長のシェルビー様に処刑されるなんて! そんな超大物スパイの処刑、せっかくだから見学に行きたかったんだけど、修練場って一般の人間は立ち入り禁止なのよねぇ……」

 

 舌打ちとともに残念そうに顔をしかめ、彼女は長い溜息を吐いた。その様を見ていられなくてフェイトは顔を背けるしかない。

 自分の世界に浸る彼女は空を見上げ、そ、と胸の前で指を組む。

 

「聖王国シーハーツの女スパイ達の最後の瞬間をチョット見てみたい……。この湧き上がる好奇心をいったいどうやって満たせばいいのかしら?」

 

「さあな。おい、行くぜ」

 

 女性から背を向けるクリフに、フェイトは真っ先に続いた。腹に溜まった怒りを何とか押し込めながら、それでもやるせくなって唇を噛む。駆けだすような早足で遠退きながら。

 

「……この国の人は、最悪だ……」

 

 アレンとすれ違う際、フェイトは小さくつぶやいていた。

 肩越しにフェイトを見やったアレンが、改めて女性に向き直る。

 

「見学は諦めろ。わざわざ一般人の立ち入れない場所で行う処刑だ。なにか裏があると考えた方がいい」

 

「え!? それって、どういう意味?」

 

 さらに瞳を輝かせる彼女を、アレンはじっと見据えた。深海にも似た蒼の瞳が、まるで彼女に不吉を言い渡すように迫力を増す。

 

「……!」

 

 その凄みが、肌を通して分かったのか。

 思わず息を呑んだ彼女は、ハッと我に返って乾いた笑みを浮かべた。睨まれたわけでもないのに顔を白くしながら

 

「ん……。まあ、そう……よね……。確かに、何か理由があるのかも……」

 

「ああ」

 

 頷くアレンに会釈して、彼女は逃げるように去っていった。その背を見送り、アレンはカルサアの南門に向き直る。

 カルサア修練場に続く、その門。

 

「――……最悪、か……」

 

 つぶやいた彼は、先行する二人を追って走り出した。

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