連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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フェイトくん修行編part1 ……の始まり

 ――三軍の長とも戦える精鋭を。

 

 その言葉の胸に、フェイトは剣を取った。

 思えば、それが悪夢の始まりだったとこの時知る由もないが。

 時がさかしまに流れる事があれば、彼はきっと、この時の自分に向かって言っただろう。

 

「早まるなッ! 僕! そいつは罠だっ!」

 

 

 

 

 

 フェイトくん修行編part1 ……の、始まり。

 

 

 

 

「では。まず剣術の基礎からだな」

 

 ブロードソードを握ったアレンは、フェイトに言った。日はとっぷりと暮れ、野営の準備を終えた頃だ。

 フェイトはバスタードソードを握り、真剣な面持ちで頷いた。

 

「フェイト、全力で打ち込んできてくれ」

 

「いいのか?」

 

 問うと、アレンは当然の如く頷いた。

 

「大体は把握しているつもりだ。だが、今のお前の実力、見ておきたい」

 

「分かった。なら、手加減はしないよ?」

 

「来い」

 

 アレンはほぼ棒立ちだった。剣を水平に据え、鋭く踏み込んだフェイトの上段切りを、刃の角度を変え、受け流す。

 

 キィ……ッ!

 

 耳障りな金属音。標的を失った剣が空を切る。同時、フェイトはたたらを踏んだ。すぐ剣を握りしめ、下段から斬り上げる。――が。これも空振り。

 

(速い……っ!)

 

 アレンは剣の間合い、一歩外に居た。それをフェイトが認識すると同時。目の前に、軍靴。

 

 ドゴォッ!

 

 アレンの足刀蹴りが、フェイトの顔面を穿つ。

 

「っ、っっ!!」

 

 目の前に火花が散った。視界が滲む。歯を食いしばって耐えようとしたが、身体は重力に任せて尻もちをついた。

 瞬間。

 上段から剣を振り下ろすアレン。躊躇無く落ちる刃は、確実にフェイトを断たんとしていた。

 

(――っ!)

 

 フェイトは目を見開く。

 と。

 

 ギィインッ!

 

 横合いから黒い影が現れた。フェイトが目を凝らすと、それがクリフだった事に気付く。彼は拳で、アレンの刃を見事に止めていた。

 拳と刃越しに、クリフがアレンを睨む。

 

「テメエ、どういうつもりだっ! 殺す気かっ!?」

 

 問うが、アレンはニッと笑むだけで答えない。

 代わりに、

 

 ぴしぃ……っっっ!

 

 アレンから伝わってくる壮絶なプレッシャーが、言葉以上に教えてくれる。

 ――ここは“戦場”と。

 

「こ、こいつ……マジだ!」

 

「く、クリフ……!」

 

「油断するんじゃねえぞ! フェイト!」

 

「え……?」

 

 忌々しげに鋭く言い放つクリフを、フェイトは不思議そうに見上げた。クリフはこちらを見返して来ない。アレンと対峙し拳を構えたまま、眉間に皺を刻んだ。

 

「こいつはテメエを殺る気だっ!」

 

「え? 稽古なんだろ? そうなんだろ? な? アレン……」

 

 引きつった笑みで問うと、アレンは剣気を纏いながら頷いた。――その所作に、一分の隙もない。

 

「むろん稽古だ。だが、稽古だからと言って、加減するとは限らない。――俺は全力で行く。お前も全力で来い」

 

「なっ!?」

 

 フェイトは目を丸めた。

 

「馬鹿か、テメエっ!? 銀河連邦の特務(エリート)が、本気で一般人を相手にするんじゃねえよっ!」

 

「ならフェイトの穴を貴方が補うと良い。クリフ!」

 

「なぁにぃ~!」

 

「この先、アーリグリフに俺より強い奴が現れるかもしれない。その時に、フェイト。自分の身も守れないようでは、お前の意志を通すことなど夢のまた夢! ――それだけの覚悟と意志、お前の剣で見せてみろっ!」

 

 ごくり、とフェイトは唾を飲み込んだ。

 アレンの剣気に当てられて、喉が強烈に渇く。

 カルサアで感じた恐怖とは、また種類が違う。まるで野生の虎を前に身がすくむような、そんな恐怖心だ。

 アレンは静かに言った。

 

「必要な力は、お前がこれから学ぶといい。文字通り、お前の命を懸けて」

 

「コイツ……マジで特務仕込みの訓練を民間人にやるつもりかっ!」

 

「え、えっとアレン……前言撤回とか――」

 

「行くぞっ!」

 

「諦めろフェイト。奴はマジだ」

 

 クリフの言葉を聞いた瞬間。

 フェイトの中で、何かが弾けた。

 

「助けてぇえええええ! 誰かぁああ! 誰でもいいっ! 僕を助けてぇええええっ!」

 

「バカヤロッ覚悟決めろっ! ――来るぞ!!」

 

「ほぅ? 誰かに助けを求める余裕が、まだあるとは。やはりクリフ、貴方がいるからか?」

 

「何?」

 

「行くぞ」

 

 猛然と駆けてくるアレンの体が沈み込む。

 

 ぎしぃいっ、っっ!!

 

 気を纏った突きを、クリフは反射的に拳で受け止めた。

 

「この野郎、マジで来やがった!」

 

 百戦錬磨のクリフの頬に、冷や汗が伝う。

 特務部隊――銀河連邦軍のなかでも選りすぐりの精鋭部隊は、四百億人以上いる連邦軍人の中で、たった二百人しかなれない猛者中の猛者で構成されている。

 名実とも銀河連邦最強(クラス)(つわもの)を前に、クリフは口端をつり上げた。

 

「へっ! 上等だ! カーレントナックル!!」

 

 黄金の気をまとったクリフの拳が、鋭く走る。クリフは全体重を込めた。

 

「手がしびれたぜぇっ!」

 

 突きに対するコメント。

 が。

 

 ――ぱしぃ……っ!

 

 アレンはクラウストロ人の拳を止めた。――素手で。

 

「何っ!?」

 

「さすがクロウストロ人。見事な一撃だ」

 

 アレンの掌には青白の光が宿っている。それが“気功”によって強化された掌と、クリフが認めるのと同時、

 

「だが俺も、気の使い方には長けている。連邦軍特務第一小隊、アレン・ガード」

 

 アレンはクリフの拳を離し、

 

反銀河連邦(クォーク)クリフ・フィッター殿に、真剣勝負を申し込む!」

 

 言い放った。

 クリフが瞬く。

 

「はぁ? お前、フェイトを鍛えるんじゃなかったのか?」

 

「フェイトを鍛える上に、貴方と真剣勝負が出来る。この機会を逃す手はない」

 

「テメエも戦闘馬鹿ってことか? 調子こいてんじゃねえぞ! ガキがっ!」

 

 クリフは言い放つと、拳を握り締めた。

 

「フェイトに手を出す前に終わらせてやらぁっ! ――カーレント・ナックル!」

 

 鋭く走った右ストレートを、アレンは闘牛士のように剣で流す。ほぼ拳に触れない、剣先だけで。

 同時。

 アレンの退路を断つように走った左ボディを、アレンはバックステップで回避した。

 三撃目、右のオーバーハングスローに対しては、剣の刃を立て、正面から受ける。

 

 ギィインッッ!

 

 ガントレットと剣が触れた次の瞬間。

 アレンのブロードソードに、青い雷が走った。

 

「砕牙」

 

 交差方向気味にアレンが切りぬける。

 咄嗟に剣を受け流すクリフ。

 が。

 

 ばちぃいいんっっ!

 

「ぐぁっ!」

 

 雷により、一瞬、クリフの身体がマヒする。

 動きの止まったクリフに、アレンの容赦ない上段斬りが迫った。

 

 ――……

 

「エリアルレイド」

 

(消えた?)

 

 アレンが斬ったのは、ただの中空。

 そこにいた筈のクリフは――

 

「上かっ!」

 

 アレンが見上げると同時、黄金の気をまとったクリフの蹴りが落下した。

 

「派手に行くぜぇええっ!」

 

 ……ズドォオオオオオッッ!

 

 巨大な塊を水槽に投げ込んだ時のような、盛大な土埃が舞う。

 その中心部に着地するクリフ。

 アレンがいた地面は、クリフの蹴りによって深く抉れた。

 

「っ! ……いねえ!」

 

 息を呑むのも束の間。

 

「クリフ! 上だぁっ!」

 

「何っ!?」

 

 上空を見上げると、体を丸め、剣を振りかざし、回転しながら迫るアレンの姿があった。

 

「覇っ!」

 

「ちぃっ!」

 

 アレンの刃を、紙一重で左に避ける。サイドステップ。一瞬後、クリフがいた地面は、アレンのブロードソードによって切り裂かれた。

 

 斬ッ!

 

 距離を取るクリフだが、そのクリフの逃げる先に、アレンは剣先を定めていた。

 

「疾風突き」

 

「野郎ぉおおお!」

 

 右腕のガントレットで、アレンの気功を孕んだ突き――その剣先をかち上げる。

 アレンは上げられたと見るや、すぐに剣を引き、身を翻しての横薙ぎへとつなぐ。

 それに対し、クリフも左拳をリバーブローを打つように放った。

 

 ガキィッ!

 

 ガントレットと剣がぶつかり合う。

 間。

 若干、クラウストロ人のクリフが押し負ける。

 が、クリフの口元に浮かんだのは、笑みだった。

 

「テメエの負けだ。アレン・ガード! 無限に行くぜぇええ!」

 

 同時。

 クリフの両拳が、無限と思える数に量産した。

 

 ドドドドドドドドォ――ッ!

 

 アレンは並み入る拳をブロードソードで受ける。受ける。受ける。さばく。避ける。

 だがそれ以上に、クリフの拳が増えて行く。連打のスピードが上がっていく。徐々に徐々に、アレンの服を、肉をかすめ始める。

 

「やるな、クリフ・フィッター!」

 

 言ったアレンは、どこか涼しげな声だった。

 拳を剣でさばきながら、笑う。

 

「ならば、俺も夢幻の剣線にて貴方に応えよう!」

 

 好戦的に。

 蒼の瞳を光らせて。

 

「――夢幻」

 

 ずしゅいんっ……!

 

 抜刀術。

 その繰り出される刃は、クリフのどの拳よりも速く、拳がアレンに届く前に、クリフの胸を切り裂いた。

 

「……なんだ、今のはっ!?」

 

 フェイトが息を呑む。

 クリフは忌々しげに顔を歪めた。

 

「咄嗟にサイドステップで致命傷を避けるとは、さすがだな。だが、俺の剣はまだ止まってはいない。――クリフ!」

 

 身を翻しての上段から一撃。クリフが両腕でガードするよりも速く、クリフの身体を袈裟掛けに切り捨て、アレンの突きが繰り出される。

 

 っ!

 

「舐めんなぁあああっ!」

 

 左のフックで、その突きだけは自分の右脇へと飛ばす。

 クリフは確信した。

 ――スピード、見切り。共に、向こうが上。

 ならば、

 

(ここだ! ――渾身の右で、コイツの(ドタマ)をかち割る! それしか、俺に勝ち目はねぇっ!)

 

 クリフが右ストレートを放つ。が、それよりも速く。

 アレンは身を翻していた。

 先の袈裟掛けよりもさらに踏み込んだ、逆袈裟掛け。

 

(まだコイツの剣舞は――終わって、)

 

 クリフは息を呑んだ。

 

「ない……だとっ!」

 

 悲鳴に近い叫び。

 

 キィインッ……!

 

 両者、すれ違った。

 ――数瞬の、間。

 

「…………、」

 

 フェイトは瞬きを忘れて見入った。

 途端、

 

「ぐ、……っ!」

 

 胸を切り裂かれ、クリフが片膝をついた。

 アレンが振り返る。

 刃を構えて。

 

「さすがにタフだな、クラウストロ人。地球人なら、今ので終わっていたが」

 

「テ、メエ……!」

 

 胸の血を握り締めながら、クリフは呻く。

 

 ――そう言えば、聞いたことがあった。

 

 銀河連邦軍の中核を担うのは、地球人が多い。――種族としては、大した身体能力を持たない彼等が、他惑星人と渡り合う為に開発した格闘術。四百年前の『十二人の英雄』が使ったとされる剣術、体術、気功術、紋章術を体系化し、昇華させた連邦正規のマーシャルアーツのことを。

 

「さあ、次はお前だ。フェイト」

 

 この連邦軍人は、そのマーシャルアーツ――『ガード流』を会得している。

 クリフは、カッとフェイトを振り仰いだ。

 

「逃げろ、フェイト! 戦おうなんて思うんじゃねえっ!」

 

「ぁ、……ぁ……っ!」

 

 ゆっくりと、アレンが歩いてくる。

 壮絶な剣気を宿し、こちらの呼吸を奪うほどの重圧感(プレッシャー)を発しながら。

 

「どうした? お前が俺に語った信念とは、この程度で揺らぐものか? ――クリフはお前の為に傷を負った。それが彼の任務であったとは言え、ただの稽古で、彼がここまでの傷を負う事はない。その彼に、お前は逃げる事で答えるのか? それで、お前の語る信念は貫けるのか?」

 

「……っ!」

 

「敵を恐れてどうするっ! お前が貫こうとする信念は、俺と剣を交える事などより、遙かに難しいっ!」

 

 日頃見せていた穏やかさなど微塵もない。

 一度戦士の顔になった男は、一切の甘えを許さなかった。

 

 フェイトは剣を握る。

 

 ――気圧されたからではない。

 ただ、

 (アレン)の瞳を見据えていると、答えねばならない気になった。

 自分の意志を、示す為に。

 

「そうだ。それでいい」

 

「馬鹿、よせッ!」

 

 クリフが止めに来る。

 さっきは虎を前にしたように身体がすくんだというのに、何故か今は、不思議な高揚感がフェイトを包んでいた。

 

「そうだな……確かに馬鹿だ。けどさ、クリフ。こいつの言ってる事ももっともなんだよ。ここで逃げちゃいけない。……何もかも、難しい事を他人(ヒト)に任せて、自分はただ批判するだけなんて、そんな無責任なこと、言ってられる時じゃないだろ! ――今は!」

 

 言い放ったフェイトは、碧眼に強い光を宿した。

 ――己が意志を。

 

「僕は、強くなるっ! 父さんや、ソフィアを迎えに行くためにっ!」

 

 剣を構える。

 フェイトは腹の底から吼えた。

 

「行くぞ、アレンっ!」

 

「フェイトぉおおおお!」

 

 クリフの制する声。

 それを完全に無視して、

 

「その意気や、――良し」

 

 ニッ、と笑んだ連邦軍人は、壮絶に蒼の瞳を底光らせた。

 

 

 ……………………

 ………………

 

 

「ぐはっ!」

 

 空気の塊を吐いて、フェイトが地面に倒れる。

 ドッ、と。

 同じく身体を地面に伏せたクリフが、忌々しげにアレンを仰ぐ。

 

「……ッ! て、てんめぇえええ!」

 

「フェアリーライト」

 

 クリフの抗議が届く前に、空が白く輝いた。

 頭上に――女神が降る。

 もう幾度となく見た、栗色の髪を腰まで伸ばした癒しの女神。

 

 ぱぁああああ……っ!

 

 彼女が全身から光を発すると同時、クリフとフェイトに刻まれた傷が、あっという間に治っていく。

 無慈悲なまでに、完璧に。

 

「さて、もう動けるな。構えろ」

 

「ちょ、おま……」

 

 こともなく言うアレンに、フェイトが割りこんだのも束の間、アレンは既に、剣を構えていた。

 

「来ないなら、こちらから行くぞっ!」

 

「て、テメ……ちょ、待っ――!」

 

 

 

「うわぁあああああっ!」

「ぎゃぁあああああっ!」

 

 

 彼等の意志が途切れるまで、その悲鳴はやむ事はなかったという。

 

 銀河連邦軍、特殊任務施行部隊の実務訓練。

 通称――『地獄』の、始まりである。

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