連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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22.襲名

「……へ?」

 

 まだ何かあったか――、

 フェイトが問いかけたところで、アドレーは立ち上がって、凶悪に笑った。

 

「次は、そっちの小僧じゃの!」

 

 言われて、フェイトが、は、と瞬きを落とす。剣を構える前、アドレーに問いかけた。

 

「連戦でかまわないんですか?」

 

「無論じゃ。おぬしのほうが、戦い慣れておらんようじゃからの」

 

「上等!」

 

 アドレーの挑発に、フェイトはホームラン宣言するように、空に向けて剣先を掲げた。その不思議な動作にアドレーが首を傾げた瞬間、

 

「もらったぁっ!」

 

 吼えると同時、フェイトが踏み込む。アドレーの施術はすでに見せてもらった。施力はネル以上。そんな相手と戦うのは、これが初めてだ。

 ならば、接近戦を置いてほかに選択肢はない。

 間合いを詰めるなり、フェイトは剣を上段から一閃した。

 

「うぉっと!」

 

 軽口を叩いて、アドレーがバックステップで回避する。

 同時。

 フェイトは左手を掲げた。

 

「ショットガン・ボルト!」

 

 闘気で固めた炎の炸裂弾が、アドレーに向かって走る。に、と笑ったアドレーが、施力に満ちた左手を振り下ろした。

 

「甘いわぁ! サンダーフレア!」

 

「うわっ!」

 

 生じた施力の、その流れの深さに眼を見張る。瞬間。ショットガン・ボルトの炸裂弾が、網の目状に張り巡らされた雷の中にかき消えた。

 直後、

 雷が縦横無尽にフェイトの足元から湧き上がった。

 

「ぐ、ぁあああああっ、っっ!」

 

 脳髄を焼ききるような凄まじい衝撃に、思わず悲鳴を上げる。棒立ちになったフェイトを嘲笑うように、アドレーが手にした刀を振り下ろした。

 抜いてはいない。

 鞘ごとだ。

 

「ほれっ!」

 

 敵を捕縛するような雷の嵐に、鉄の棒が振り下ろされる。瞬間。無意識に払ったフェイトの剣が、鉄棒をとっさに止めた。

 が。

 攻撃の重さにフェイトの身体がずしりと沈み込む。

 歯を食いしばった。

 そのまま、アドレーの膂力に剣撃ごとなぎ倒された。

 

「か……っ!」

 

 今度は、フェイトが庭園の床に叩きつけられた。呼吸(いき)を吐く。

 

「フェイト!」

 

 一喝のような、クリフの鋭い声。同時。降ってきた刀の鞘を、フェイトは横に転がってかわした。

 およそ鉄の棒を振るっているにしては重すぎる轟音に、フェイトは、ぴくりと眉をしかめる。

 見れば、自分の寝ていた位置の床が、鞘をめりこませていた。

 

(ッ! ……こいつも、殺す気で来てる――!)

 

 目を見開いて、フェイトは景気づけに口元を拭う。別段、血がこびりつくような傷は負っていないが、気分の問題だ。

 

「ったく……軍人って奴はよ……」

 

「ほぅ……。なかなかの反射神経じゃのぅ?」

 

 ぽつりとつぶやくフェイトを置いて、アドレーが邪悪に笑む。

 フェイトは、勝ち誇ったようなアドレーを睨んで、

 

「舐めるな!」

 

 仕返しとばかりに突き込んだ。風を巻く鋭い一線が、アドレーを襲う。アドレーは左足を大きく引くと、フェイトの突きを切り払った。同時。返す刃で、アドレーが抜刀する。

 

「ぬんっ!」

 

 上段からの斬り下ろし、だが、フェイトは構わない。気功を溜めた下半身をバネに、全力にアドレーに体当たる。

 どんっ、と。

 本来なら、相手を吹き飛ばすほどの威力を持つ体当たり(チャージ)は、アドレーの巨体を揺るがせない。

 が。

 

「……ぬっ!?」

 

 アドレーが目を見開く。わずかに打ち込みの軌道を変えられたか。紙一重でフェイトの脇を走る剣尖を見やるアドレーの顔が険しく歪む。

 ついで

 

「ブレードリアクター!」

 

 下からのフェイトの斬り上げに、アドレーは舌打った。ぎりぎり、刀で止めんと半歩下がる。――間に合った。

 だが。

 安堵するのもつかの間。次ぐ振り下ろしを、完全に止められなかった。

 

「!」

 

 アドレーの胸板が割かれる。

 後一歩、深く踏み込まれていれば重傷だった。

 

「……やるのぅ!」

 

 唸るアドレーに、フェイトはニッと笑った。

 

「まだまだ、これからですよ」

 

「小童が!」

 

 アドレーは胸元を見下ろし、口端をつり上げた。

 アドレーに比べれば腕力は足りないが、その剣速と身のこなしは、アドレーを上回っている。このまま肉弾戦を続ければ、フェイトの見立て通り、アドレーの分が悪い。

 ちゃき、と小さな金属音を立てて、フェイトがブロードソードを握り直す。

 

 間合い、二メートル。

 

 フェイトが切りかかるには少し遠すぎて、アドレーが施術を放つには近すぎる距離だ。

 じり、と両者がそれぞれ、己の間合いを求めて足を動かす。

 

 じり……、

 

 両者が相手の隙を突かんと、円を描くように、じり、じりと間合いを制し合う。

 しばらく。

 アドレー・ラーズバードという男は、いつまでも、小競り合いをする男ではなかった。

 

「来ぬなら、ワシから行かせてもらう!」

 

 凄絶な笑みを浮かべると同時、ダンッ、と踏んだアドレーが刀を掲げる。施力集中を示す緑光が、アドレーの腕に溜まっていた。

 

(っ!? もう紋章術を――!?)

 

 対峙すると、アドレーの詠唱力の反則さがよくわかる。フェイトが前傾姿勢になった、遠距離から一気に間合いを詰める、突きの体勢だ。

 

「それは違う」

 

 アレンが、ぽつ、とつぶやいて静かに目を細める。瞬間。ネルは、アドレーの刀に宿った緑色の光を見据えて、フェイトに向かって叫んだ。

 

「フェイト! 罠だ!」

 

「何っ!?」

 

 クリフが、意外そうに目を剥く。無理もない。施術は詠唱して当たり前。そんな常識を崩せる人間など、そうはいない。ネルは、突きを放ったフェイトが、刀に見掛け倒しの施力を宿したアドレーに突っ込んでいくのを息を呑んで見つめていた。

 あれは、施術を放つために溜めた光ではない。

 囮用だ。

 

「かかったな! サザンクロス!」

 

 瞬間。突き入ったフェイトの足元に淡く輝く光が生まれた。――正確には、アドレーを中心に描かれた施術の陣が、彼の足元まで及んだのだ。

 パリッという電撃の音が、軽やかに響く。施術発動を報せる、雷撃の音が。

 同時。

 

「跳べ!」

 

 鋭く響いた声に応じて、フェイトが、だんっ、と地を蹴った。

 

「ヴァーティカル……!」

 

 一瞬で気攻を溜め、剣を振り上げる。アドレーの胸板を斬るまでの、近距離ではない。

 が。

 

「何っ!?」

 

 振り上げの剣圧で上空にたたき上げられたアドレーが、か、と目を見開く。折角作り上げた地面(サザンクロス)の施術陣が、術者をなくして、消失していく。

 ―――そして、

 

「エアレイド!」

 

 二閃目の振り下ろしの剣圧が、容赦なくアドレーに襲いかかった。

 

「ぐぅっ、っっ!」

 

 アドレーは唇をかみしめ、眼を血走らせながら、また一瞬で施術を構成し直していく。

 左腕を一振りし、己の胸の前で中空に施術陣を描く。

 

「ウォーターゲイトォオオオオ!」

 

 腹の底からアドレーが叫ぶと同時。

 

 ざっぱぁああああんっっ!

 

 水しぶきを上げて、地面から、巨大なサメが姿を現した。フェイトに向かって、まるで水面から顔を出し、襲いかかるように。

 

「フェイト!」

 

 クリフとネルが、同時に叫ぶ。

 上空で、巨大ザメに横殴りに引き倒されたフェイトが、かは、と空気の塊を吐く。

 優に、五メートル。

 フェイトは地面に叩きつけられるなり、二、三回、バウンドした。

 

「く、ぉおっ!」

 

 それでも意識は飛ばしていない。

 フェイトは舌打ちすると、ブロードソードを鋭く構え、踏み込んだ。

 対するアドレーは、ヴァーティカル・エアレイドをまともに食らったその後で、傷を広げんばかりに施術を放ったために、すぐには立てない。

 

「……本当に、やるのぅ……っ!」

 

 膝をつき、刀を立ててフェイトを見据えるアドレーが、嬉しそうに口端をゆがめている。

 瞬間。

 

 ――ぴたり、と。

 

 ウォーターゲイトを受けきったフェイトの振り下ろしが、アドレーの首元で寸止めされた。

 

「僕の、勝ちです」

 

 肩で息を切らしながら、フェイがニッと笑う。あの『地獄』を経験していなければ、意識を刈り取られていたのは、間違いなくフェイトだった。

 

「……こんな、ことが……っ!」

 

 ラッセルは息を呑んだ。

 フェイトは顔をゆがめながらラッセルと女王に向き直った。恭しく膝をつき、剣を傍らに置いて、頭を下げる。その傍らに、アレンも膝をついた。

 

「度重なる非礼、お許し下さい」

 

「失礼しました」

 

「……う……」

 

 謝罪するアレンとフェイトに、顔を引きつらせるラッセルを、女王が、そっと制す。そして女王は、そそ、と歩み寄ってくると、白魚のような美しい手で、フェイトの肩に触れた。

 

「……え? あの……」

 

 彼女の手が、淡く青く光る。

 施術(ヒーリング)だ。

 気づいて、フェイトが、ぽかん、と女王を見上げる。すると彼女は、フェイトを労うかのように静かに微笑い、慈愛に満ちた赤い瞳を満足そうに、すぅ、と細めた。

 

「いいでしょう。そなたを、……いえ。そなた達を、仮のクリムゾンブレイド――クリムゾンセイバーに任命致します」

 

「へ……?」

 

 眼前で放たれた、言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

 空っぽになった頭の中で、女王の言った意味を何度も反芻して。

 フェイトは花が咲いたように、ぱぁあ、と表情を明るくした。

 

「あ、ありがとうございますっ、陛下!」

 

「……有難き幸せ」

 

 それぞれ深くかしずくフェイトとアレンに、女王はゆっくりと頷いた。

 

 この男(グリーテンの者)達を『矢』だと。

 そう言った自分を思い出しながら。

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