連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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24.施術兵器

 翌日。フェイト達が向かった先は、意外にも、アレンが協力しないと言った施術兵器開発室だった。

 毛並みのいい絨毯を踏みながら、フェイトは真意が分からず、アレンを見る。と、クリフが問いかけた。

 

「お前、兵器開発には協力しないんじゃなかったのか?」

 

 その質問に、ネルの表情がすごみを増す。訝しげな彼女に対し、クリフの方は訝しげと言うよりは、確認に近い様子だった。

 クリフを横目に見て、アレンが頷く。

 

「ああ。だが、アリアスに向かう前に一度見ておこうと思ってな。それに許可なら、ラッセル執政官から貰ってある」

 

「……いつの間に……」

 

 思わずつぶやくフェイトに、ふ、と含み笑って、アレンは開発室の扉を開けた。

 

「失礼します」

 

「ん?」

 

 部屋の椅子に腰かけた施術士の女性が、読みかけの本から顔を上げて、首を傾げた。

 この開発室の最高責任者、エレナ・フライヤだ。

 彼女は前列のアレンと――、いや、ネルを一瞥してから、用件を思い出したのか、ああ、と間延びした声を上げて、手元の本を閉じた。

 

「いらっしゃい。話は聞いてるから入って」

 

 椅子から立ちもせずに言う。

 

「エレナ様!」

 

 その彼女をたしなめるように、部屋の奥から、几帳面そうな青年が現れた。詫びるように、こちらに一礼する青年。やせ細った白い相貌に、眼鏡の似合う彼は、頑強から縁遠く、温和で理知的な雰囲気を孕んでいた。

 

「すみません。どうぞ、こちらへ」

 

 出迎えてくれる彼に従って先導で部屋に入ると、中は意外に広い、奥行きのある部屋だった。右の壁側は、部屋の端から端まで長い机が占めている。その長机を、覆うように施術兵器の設計図が重なっている。お世辞にも整理されていると言い難い状況だが、その机も、エレナが座っている机の上に比べれば可愛らしいものである。

 

「えっと……」

 

 床にまで散らばったエレナの周辺に目をやりながら、フェイトは窺うように、エレナと青年とを見比べる。答えたのは、青年の方だった。

 

「初めまして。私はディオン。こちらの方、施術兵器開発の総責任者を果たされているエレナ・フライヤ様の助手です」

 

「どうも~」

 

 間延びした、やや投げやりな声をかけてくるエレナ。その彼女を、む、と睨んで、ディオンは困ったような微笑をフェイト達に向けてきた。

 

「えっと……。フェイト・ラインゴッドです。よろしくお願いします、ディオンさん」

 

「ディオンでいいですよ。私は所詮、助手の身ですので」

 

「……分かったよ、ディオン」

 

 頷くフェイトに、穏やかに笑んで、ディオンはネルと、後ろの二人を見る。

 

「今日のご案内は、私がさせていただきますね」

 

 言い置く彼に、アレンは頭を下げ、クリフは、おう、と頷いた。ネルは、再び読書に熱中し出したエレナを見て、微かに苦笑する。そんなネルに、何とも言えない表情を返しながら、ディオンは一同を部屋の奥へと進めた。

 

「こちらです」

 

 ディオンが案内した先は、一階の倉庫のような部屋だった。天井を二階と同じ高さにしており、部屋の中央に五メートル程の砲台が置かれている。武骨、というよりは、どこか精緻な像のような、シーハーツらしいデザインの黒い砲台。

 

「……………………」

 

 一同の、視線が固まった。正確にはフェイト、クリフ、アレンの視線が。

 それは明らかに彼等の想像を超えたものだった。見た目に反して、重厚にして頑強なつくりを持つ砲台は、とても十六世紀程度の文明に存在していい兵器ではない。

 ごく、と喉が鳴る。

 フェイトは、尋ねた。

 

「……近くで、見せてもらってもいいかな?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 ディオンに促されたフェイトが、施術兵器の側まで歩いていった。膝を付き、構造を確かめるように施術兵器を検める。それを遠巻きに、アレンは目を細めた。傍らのクリフが、ディオンに思ったことを口にする。

 

「それで。一体、こいつのどこが問題なんだ?」

 

「装置としては、ほぼ完成しているのですが、兵器として使うには威力が少し……。だからといって今以上に出力を上げてしまうと、耐久性の面で問題が発生してしまいまして……」

 

「なるほど。威力を上げると壊れて、威力を下げると兵器としては使えない、か。……痛し痒しだな」

 

 クリフが相槌を打つと、アレンも尋ねた。

 

「それで。現段階で連射性はどれほどのものなんだ?」

 

「正確に測ったわけではありませんが、一発撃つごとに充填時間として十分ほど要します」

 

「十分、か。……フェイト」

 

 今だ、施術兵器を検めているフェイトに呼びかけると、彼は顔も上げずに答えた。

 

「はいはい。……ん~、そうだな。図面を見てないから何とも言えないけど、五分が限界ってとこじゃないか?」

 

「了解」

 

 アレンが頷く。

 それからしばらくしてフェイトが腰を上げた。

 

「あの、ディオン」

 

「はい?」

 

 丸眼鏡を押し上げて、ディオンが振り返る。その彼に、フェイトは続けた。

 

「この兵器の設計図を見せて欲しいんだ」

 

「あ、はい。それでしたら、開発室へ来てください」

 

「分かった」

 

 こく、と頷いて、施術兵器から離れる。

 促された次の部屋は、エレナと会った部屋の、すぐ隣だった。造りとしてはアリアスの会議室に良く似ている。緑を基調とした床と天井にクリーム色の壁。そこに、施術兵器の概要が何枚も貼られている。

 ディオンが差し出してきた設計図は、壁に貼られたものよりも小ぶりな、ほぼA4サイズのものだった。

 

「これです」

 

「ありがとう」

 

 受け取って、目を落とす。

 しばしの間。

 す、とフェイトは顔を上げた。

 

「……ごめん。あと、紙と書くものをもらえるかな?」

 

「はい、それを使ってください」

 

 言って、ディオンは設計図が貼られた壁の近くにある机を指す。そこに視線を向けると、羊皮紙と、シックな万年筆に似たペンが転がっていた。頷いて、フェイトは机に向き直る。

 

「……どうだ?」

 

 傍らから、アレン。構わず、設計図に書き込みを入れるフェイトは、しばらくしてから顔を上げた。

 

「二分、かな……。これで無抵抗アルミニウムでもあれば、充填時間を置かずに連射可能になると思うんだけど……」

 

「無抵抗アルミニウムって何です?」

 

 首を傾げるディオンに、フェイトは曖昧な笑みを浮かべた。

 

「いや、こっちの話だよ」

 

 再び図面に向き直る。アレンが問う。

 

「飛距離は?」

 

「……ディオン、施術によって発生する力を送り込むのに使っている導線は何かな?」

 

 フェイトはディオンを一瞥する。唐突の質問に、ディオンは慌てて答えた。

 

「鉄、ですが……」

 

「鉄か……」

 

 呻いて、しばらく沈黙するフェイト。

 

 と。

 

「あの、飛距離でしたら――」

 

「だいたい五十メートルが限界、でいいかな?」

 

 今までの実務経験を踏まえて、答えようとしたディオンを制して、フェイトが尋ねる。

 瞬間。

 ディオンが目を瞠った。

 

「……図面だけで、良く分かりましたね……!」

 

「いや、大したことじゃないよ……」

 

 感心したため息を吐くディオンを置いて、フェイトは設計図を机に置くなり、アレンに向き直った。

 

「……それで? どうするつもりなんだ?」

 

「施力は我々で言うところ、電気に似ているんだったな」

 

「え? あ、うん」

 

 首を傾げながらもフェイトが頷くと、アレンはポケットから小さな円板を取り出した。

 ――ペターニでメリルに貰った、電磁スタンボムだ。

 

「!」

 

 それを目にした瞬間、フェイトにも得心がいった。アレンを見上げる。

 この施術兵器を、巨大なスタンボムにしよう、という提案だ。

 

(そうだな。確かにこの導線をこう繋げば、電磁スタンボムの力場が完成する。けど……)

 

 これだけ砲台が大きいと電撃のさじ加減が難しい。不可能ではないが、考察が必要だ。うぅん、とフェイトが唸っていると、アレンが確認するように尋ねた。

 

「出来るか?」

 

「……まあ、やってみるよ。ただし、ちょっとだけ時間をもらえるかな? ディオンと、話を詰めたいんだ」

 

「了解」

 

 頷いて、踵を返すアレン。

 ただし、得心がいったのは彼等二人の間だけで、だ。クリフを初め、ディオン、ネルは不思議そうに二人を見比べている。

 

「おいおい。どんな感じに話がまとまったんだよ?」

 

「それについては追々話す。――それよりもクリフ。暇なら、フェイトが(ここ)を詰めている間、付き合ってくれないか?」

 

「あん?」

 

「ちょ、ちょっと……! アンタ達!?」

 

 首を傾げるクリフを連れて、アレンが部屋を出る。それを見送って、所在が無くなったのはネルだ。このまま開発室に留まるべきなのか、それとも彼等の後を追うべきなのか。

 行き場を失ったように、視線を漂わせている彼女に、フェイトは声をかけた。

 

「ネルさんも、しばらく休んで下さいよ。……多分、今日中には終わる筈ですから」

 

「フェイト……」

 

 どういう決定に決まったのか。せめてそれだけでも知りたそうに顔をしかめるネルに、くす、と微笑って、フェイトは改めてディオンに向き直った。

 

「じゃあ、ディオン。これからコイツを――生まれ変わらせようか」

 

 言ったフェイトは、少しだけ悪びれた表情を浮かべた。

 

 

 

 ……………………

 ………………

 

 

 

 アレン達が向かったのは、聖王国シーハーツで最大の規模を誇る、王立図書館だった。

 城より少し離れた場所にあるそこは施術士を初め、多くの国民に愛用されている。

 ただし、それは一部の本好きな国民にとっての話であり、根っからの体育系であるクリフには居並ぶ本棚を見るだけで、ある種、眩暈を覚えた。

 

「……んな所に俺を連れ出すたぁ、いい度胸じゃねぇか……」

 

 白い石造りの建物。それをぼんやりと眺めながら、唸るようにクリフが呻く。

 城と同時期に作られた建物らしかった。図書館という名義上、景観こそ違うものの、内装や庭の造りが城と酷似している。古き良き時代の集大成とも言える外観は、クリフでなければため息ものの芸術品だった。

 

「そう言うな。……さすがに、俺一人で見つける自信が無いんだ」

 

 こちらを振り返り、悪態をずっとつき続けているクリフにアレンが苦笑している。クリフは眉をひそめた。

 

「探し物か?」

 

「ああ。――アミーナの、彼女の病気を治すための薬草を探している」

 

「アミーナ? ……おいおい、あの子の病気は、この惑星レベルの技術じゃ治らねぇ……」

 

「フェイトがもらった、イリスの巫女花。そしてアミーナが栽培していた花や薬草は、色や外観に差異があるものの、エクスペルのリンガ地方と植物の生態系が似ているんだ。……なら、アレがある筈だ」

 

「……あれ?」

 

「メトークス……。副作用の強い花だが、即効性の高い多年草の薬草だ。あれと同じような植物が、この国か、近隣の国に生えている筈なんだ。アレさえあれば、彼女の病気は完治する」

 

「おいおい、マジかよ……!」

 

 断言するアレンに、思わずクリフが息を呑む。頷いたアレンは、それでもどこか浮かない表情だった。

 

「じつは……。ペターニで医師に聞いてみたんだが、この国は薬草学に明るくないらしい。だから、この図書館にある植物図鑑から割当てるつもりだ」

 

 アレンは、じ、とクリフを見据えた。

 

「……フェイトが、ディオンと話を詰めている間だけでいい。手伝ってくれないか?」

 

 神妙な面持ちになったのは、本当にメトークスと同種の花があるか分からない、ということと、あったとしても、それを見つける手がかりがほんの僅かだ、という二重の点を踏まえてだ。

 クリフがやれやれと頭を掻いた。

 

「お前……。前から思ってたが、相当にお節介な性格だな」

 

「……よく言われる」

 

 答えるアレンは、自覚が無いのか、合点の行かない表情を浮かべている。クリフは苦笑して、肩をすくめた。

 

「ったく、しょうがねぇな。……どうせ暇だし、やってやるよ」

 

「すまない」

 

 安堵したように表情を和らげるアレンに、クリフはわざとらしくため息を吐いた。

 

「にしても、何でネルも呼ばなかったんだ? アイツも暇だろ?」

 

「彼女には今のうちに片付けて置きたい仕事があるだろう。……それに、休めるなら休んだ方がいい。どうも無理をしすぎる嫌いがあるようだしな」

 

「アレン。お前のそれ、なんて言うか知ってるか?」

 

「?」

 

 アレンは首を傾げる。と、対峙したクリフが、神妙に声をひそめて言った。

 

依怙贔屓(えこひいき)って言うんだぜ」

 

「……!」

 

 意外そうに、きょとん、と目を丸めるアレンに、クリフが重々しく頷く。その、クリフのしたり顔をしばらく見詰めて、アレンはこみ上げてくる笑いの衝動を何とか抑えて、すまない、と謝った。

 

「確かに。そうかもな」

 

「だろ?」

 

「ああ、確かに。俺は、フェイトや貴方に遠慮していない節がある」

 

「知ってるつーの!」

 

 顔を歪めるクリフに、ふ、と微笑って、アレンは図書館に向き直った。

 

「では、早速探そう。クリフ」

 

「へいへい」

 

 ぽりぽりと頭を掻くクリフが、図書館に入って己の決断を誤りだと確信したのは、――それから間もなくのことだ。

 

「んだ、この本の数はァああああああ!」

 

 とりあえず見てくれ、と手渡された本の山。

 絶叫するクリフに、アレンはただ冷ややかな視線を送ってくるだけだった。

 

「図書館では静かに。常識だ、クリフ」

 

 すぅ――……っ

 

 恐ろしく、底冷えする蒼の瞳に睨まれて、クリフは口許を引きつらせて、そういえばこの男はこういう男だった、と痛感したのだった。

 

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