連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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26.ロジャー・S・ハクスリー

 城門を抜けて。

 気晴らしに街に下りたネルは道行く人々との挨拶もそこそこに、王都の空気を楽しんでいた。

 

「……クリムゾンセイバー、か……」

 

 思えば、こんな事態になると誰が予想しただろうか。

 アーリグリフに勝つための施術兵器を完成させるために呼び込んだグリーテン人が、まさかシーハーツ軍の統括を図るとは。

 そしてそれを、少なくともネルは、心のどこかで歓迎している。

 

 彼等なら、信用できると。

 

 無謀としか言いようの無かったカルサア修練場の一件以来、何か、自分たちには無い可能性を彼等に期待してしまっているのだ。

 ただの過大評価かもしれないというのに。

 

「……やれやれ……」

 

 自嘲気味に笑ったネルは、そこで一度伸びをして思考を打ち切った。

 アーリグリフとの開戦以来、休みという休みを取っていないネルにとって、休め、と言われるのはなかなか難しい。クレアに散々心配性と言っている自分だが、身体を動かしていないと不安になるあたり、ネルも他人の事は言えないのかもしれない。

 

「……………………」

 

 そんなとりとめのない考えに、僅かに苦笑する。

 ゆるゆると流れるシランドの空気は、ネルにとって馴染み深く、優しい。どれほど疲弊しようと、どれほど任務が辛かろうと、この街の、この国の為なら仕方ないと、いつも思わせてくれる。

 この場所を失うくらいなら、と。

 

 ざっ……

 

 青々と茂る道の敷かれていない草むらを抜けると、墓地に出た。アリアスとは比べものにならないほど美しい花々で彩られた、精緻な墓地。正方形の白亜石を建てた、一際大きい墓石には、十年前の戦争で亡くなった、多くのシーハーツ兵の名前が刻まれている。

 

 ――ネーベル・ゼルファー。

 

 父の名も。

 それを無言のまま、じ、と見つめる。

 遺体はこの墓石の下にない。多くのシーハーツ兵同様、アーリグリフのどこか、名も無い所に放置されているのだろう。

 だが。

 

「……父上、見ていてください。私は必ず、この国を守って見せます」

 

 こうして語りかければ、言葉が父に届くような気がした。

 父のように立派なクリムゾンブレイドに、そう自分に、周りに叱咤される度に強く、父の存在を感じる。それが励みになる時も、重みになる時もあったが。

 彼女は今、真摯な気持ちでこの墓石と向き合っていた。

 クリムゾンブレイドに拝命された時のような高揚感でも、施力がうまく操れず思い悩んだ時のような、憂鬱な気分でもない。

 

 あるのは、使命感と一抹の不安。

 そして――、安堵という名の、ちょっとした確信。

 

「アイツなら……、彼等ならきっと、この戦争に新たな風を吹き込んでくれる……。そう考えている自分を、そんな風に思わせてくれる彼等を、私は信じたいと思っています。父上……」

 

 それが異国の民であるにも関わらず、ここまで真剣にシーハーツのことを考えてくれた彼等に対する感謝の気持ちだ。それがこの先、どういう結果を残すかは分からないが。

 それでも。

 戦う理由は出来ている。彼等を信じる覚悟も。

 アーリグリフには何も奪わせないと、戦争を終わらせると約束した、あのときから。

 

 数勘定を止めた、あの瞬間から。

 

 ネルは墓石に刻まれた父の名を見据えて――、深々と頭を下げた。その体勢のまま、しばらく制止する。そっと目を閉じて、己の言葉を噛み締めるように。

 

「……よし」

 

 つぶやくと同時、彼女は顔を上げた。

 これで、今日の元気をもらった。

もう動ける。

 そう思って、早速仕事にかかろうと踵を返す。と。シランド城に続く表通りで、何やら門番と子どもが、言い争いを繰り広げていた。

 目にしたネルが、ん?と首を傾げて足を止める。

 

「あれは……」

 

 言って首をめぐらせると同時、きょとん、と瞬きを落とした。

 その、言い争っている子どもに見覚えがあったのだ。――カーキ色のヘルメットを被って、丸い尻尾を揺らしている彼に。

 

「だ~か~ら~だなぁ!」

 

 大声を張り上げている子どもが、頭から湯気を立てんばかりの勢いでぴょんぴょんと跳ねた。苛立ちの所為で、顔が歪んでいる。

 

「オイラは麗しのお姉さまに会いにきたんだって! おっちゃん達! ちょっと通らせてくれてもいいじゃん!」

 

「ダメだ! すでに礼拝時間は終わっている! 城仕えのお姉さんに会いたいなら、その人の仕事が終わるまで待ちなさい」

 

「ケチぃいい!」

 

 ぎゃいぎゃいと喚く声はやはり、聞き覚えのあるものだ。

 ネルは一瞬、ぎくりと身体を強張らせた。

 

(……ま、さか……)

 

 胸中でつぶやくと同時、固唾を呑んで門番と少年のやりとりを見据える。

 ――彼がもし、あのときの少年だとしたら。

 ロジャーだったら。

 ネルは逃げようとする足を、どうにか留めた。

 

「お、ネルじゃねえか。何やってんだ? んなトコで?」

 

「!」

 

 びくっと身体を震わせて、ネルは反射的に振り返る。そこにはクリフとアレンがいた。不思議そうにこちらを見ている。肩のコリをほぐすように、腕をぐるぐると回すクリフは、状況を把握していないようで、小首すら傾げていた。

 

「ああ、アンタ達……」

 

 もう戻ったのか、と。いつもの調子で問おうとした瞬間、はっと目を見開いたネルは、慌ててクリフの口を塞いだ。

 ついで、ざ、と門前の少年の様子を窺う。

 と――、

 

「……ん? ネル……?」

 

 案の定、ぴくりと反応を示す少年に、ネルは、さっと血の気が引くのが分かった。

 

「っ、っっ!」

 

 だから、声には出さず、クリフの首をぎりぎりと締め付ける。

 

「ぐぉ、ぉおお……っ!」

 

 パンパンッとクリフが首を絞めるネルの腕を叩いたが、彼女は構わなかった。ぐい、と襟首を掴んだ手で、クリフの顔を引き寄せるなり、目で人を殺さんばかりの剣幕で睨む。

 

「……アンタ、ちょっと黙ってな!」

 

「い、一体……何だってんだ……っ!」

 

 がふ、と空気(いき)の塊を吐いたクリフが、白目を剥く寸前、遺言を残した。

 それを少し離れた所で見ていたアレンは、ああ、とつぶやくなり、門扉を見やって――、

 

「確か……ロジャー、という少年だったか?」

 

「っ、っっ!? アレンっ!」

 

 思いもよらぬ追撃に、ネルは息を呑んだ。声が悲鳴に近くなったのは、彼女の心境を表しているからだろう。

 振り返ったアレンは、不思議そうだった。

 

「どうしたんだ? ネル?」

 

 しかも名前まで呼ばれた。

 ――また。

 

(こ、この……っ!)

 

 短刀に手をかけて、ネルがそれを引き抜こうとした瞬間。

 

「おねいさまだぁああああああああ!」

 

「っ!?」

 

 門扉から、少年の叫び声が響いた。ネルが一挙動で臨戦態勢に入る。が。ロジャーは、すぐ目の前まで迫っていた。 

 

「っ、っっ!」

 

 目を見開いたネルが死を覚悟する。と同時。反射的に目を閉じた。

 両手で頭を庇うように、ぎゅ、と身体を小さくしている。

 

 ………………

 

 予想していたロジャーのすっぽん攻撃は、いつまで経ってもネルに届かなかった。

 

「……?」

 

 それを疑問に思いながら、ネルが、そ、と目を開ける。すると、そこにはロジャーを空中キャッチしたらしいアレンが、ロジャーを抱きとめていた。

 

「大丈夫か? 凄い跳躍力だったが……」

 

 恐らく門扉から続く長い階段を、一挙動で飛び降りたからだろう。瞬時に怪我をする、と判断したアレンが、咄嗟にロジャーを捕まえていた。腕の中に納めた少年を見下ろして、怪我が無いと分かると、彼は安堵の息をついて、ロジャーを地面に下ろした。――というのはアレン視点での話だ。

 ネルとの感動の再会を阻止されたロジャーは、地面に足が着く瞬間、ギラリと瞳を底光らせた。

 

「男がオイラに抱きつくなぁあああああ!」

 

 凄まじい踏み込み音と同時、体当たり(タックル)を放ったロジャーは、ヘルメットの先についた角をドリルのように回転させ、アレンに襲い掛かった。

 通称、『ラスト・ディッチ』。

 ロジャーがパルミラ平原で遊んでいるときに習得した、最強の頭突き攻撃だ。それがアレンの脇腹に決まる瞬間、反射的にアレンは拳を握りこんだ。

 

 ズドンッ!

 

「ふげっ!?」

 

 およそ拳らしからぬ音を立てて、ロジャーのヘルメット――についた『角』が、粉々に砕け散った。アレンの正拳突きで勢いを削がれたロジャーが、奇声を上げて、ぼてっ、と地面に崩れ落ちる。

 我に返ったアレンが、慌ててしゃがみこんだ。

 

「す、すまない! 大丈夫か!?」

 

「……………………」

 

 クリフは無言のまま、視線をネルに向ける。するとネルは頬に冷や汗をかいているものの、ロジャーの動きが気になるのか、固まった表情のまま、じ、と彼等の行く末を見守っていた。

 ちらりとクリフがロジャーに視線を戻す。

 奇跡的にロジャー自身には怪我が無かったのか、ピンピンしていた。

 

「痛てててて……っ」

 

 それでも頭をさすっているあたり、ヘルメットの『角』が無くなったことに違和感を覚えたのかもしれない。屈みこんだアレンが、心配そうにロジャーを窺ったが、少年からすればそんなものはどこ吹く風だ。

 きっとアレンを睨み上げるなり、叫ぶ。

 

「こらぁ! 子どもにはもうちょっと加減するのが礼儀ってもんじゃないのかよ!? 大人気ないにもほどがあるぜ! この非常識っっ!」

 

(良く言ったっっ!)

 

 クリフは思わず親指を立てた。

 相変わらず、小憎たらしい少年の物言いだが、この際どうでもいい。しかし、クリフの思惑など、この連邦軍人には通じないのか、彼は思い当たった素振りも無く、ロジャーに対してぺこりと頭を下げた。

 

「すまない。今のは完全に俺の不注意だ。……本当に、怪我が無くてよかった」

 

 ふぅ、と息を吐く。ロジャーはプンプンと頭から湯気を出さんばかりの勢いで怒鳴った。

 

「怪我が無くても痛かったじゃんよ!」

 

「それはすまない。……少し、じっとしてくれ」

 

 言ったアレンは、そ、とロジャーの頭の上に手をかざして、詠唱を始めた。途端。アレンの掌から青白い光が生まれる。

 それは淡く、ふわりと輝くと、すぐに四方へと散っていった。ヒーリングまではいかない。精神集中しただけの回復術だ。

 

「――どうだ? 痛むか?」

 

 気遣わしげなアレンの声。

 それを適当に聞き流しながら、ロジャーは、お、お、とつぶやきながら自分の身体を見下ろした。

 

「おぉ! すげぇじゃん! ……兄ちゃん、オイラの子分にしてやってもいいぜ♪」

 

「喜んでもらえてなによりだ」

 

 笑顔で見上げるロジャーに、アレンも笑顔で応える。そのアレンが、まさか子分になることを肯定したわけではないだろう、と胸中でつぶやきながら、クリフはアレンを窺ったが、彼の心情は良く分からなかった。

 

「だが」

 

 言い置いたアレンが、少し表情を険しくする。ちらりとネルを一瞥して

 

「ずいぶんと警戒されているようだが、君は彼女に何かしたのか?」

 

 静かに、しかし言い逃れを嘘を許さない厳しい声でアレンが問いかけた。ロジャーが思わず、う、と息を呑む。それも数秒で、彼は、ぶんぶんっ、と首を横に振るなり、目じりを吊り上げた。

 

「オイラがそんなことするわけねぇだろ、このバカチン! オイラはネルお姉さまに会うためにわざわざサーフェリオからやってきたんだぃ!」

 

「……サーフェリオ?」

 

 きょとんと瞬きを落として、アレンは視線を、クリフ、ネルに向ける。すると、げっそりした様子のネルが、重々と、だが答えてくれた。

 

「隣国、サンマイト共和国にある村の名前だよ。彼はサンマイト共和国の狸を祖とするメノディクス族なんだ。サンマイト共和国はシーハーツの北西にある亜人の国でね。サーフェリオは、シーハーツに最も近い村でもあるんだ」

 

「……!」

 

 ぐっと表情を引き締めるなり、アレンがクリフを見上げる。ああ、と気の無い声でつぶやいたクリフが、ぽん、と手を叩いて、アレンに頷き返した。

 

「こいつぁ、ちょうどいいんじゃねぇか?」

 

「……ああ!」

 

 顔を見合わせて頷きあうなり、二人の視線がロジャーを向く。

 

「んん?」

 

 彼等の視線に、ロジャーは首を傾げていたが――、不意にネルを振り返ると、輝かんばかりの笑顔で尻尾を揺らした。

 

「おねいさまぁあああああっっ!」

 

「きゃっ!?」

 

 ぴょんっ、と跳躍すると同時、ネルの口から、ネルらしからぬ声がこぼれた。瞬間。は、と口を塞いだ彼女が、顔を赤くする。彼女の足にガッシリとしがみついたロジャーは、嬉しそうにおねいさま~、とつぶやきながら、えへへと笑っている。

 すらりとしたネルの足は、低身長のロジャーでも容易く腕が回る。その彼を振り払うようにぶんぶんと足を動かしながら、ネルがそろりと視線を上げると、クリフとアレンが意外そうにネルを、ぽかん、と眺めていた。

 

「きゃ……?」

 

 思わず、と言った顔でつぶやきながら首を傾げる二人。その彼等に、更に顔を赤くしたネルが、叫んだ。

 

「アンタ達ねっ……! 私だってっ、……て! こら! 離れないか!」

 

「おねいさまぁ~~♪」

 

 反論も、ロジャーによって阻まれる。

 彼はすりすりとネルの足に頬をこすりつけながら、嬉しそうに目を細めた。ロジャーが頬をこすり付ける度に、彼の柔らかい耳がさわさわとネルの足に触れ、思わず、く、とネルが呻く。くすぐったさのあまり身をよじるネルの不意な艶かしさに、口笛を吹くクリフと、困ったように視線を逸らすアレン。

 が。

 こほんと一つ、咳払いすると、アレンは気を取り直してクリフを見上げた。

 

「これは……?」

 

 今一、状況をつかめていないのだろう。

 クリフはやれやれとつぶやきながら肩をすくめると、ネルとロジャーを顎でしゃくった。

 

「これは、も何も。あのチビがネルを気に入っちまったんだよ。……まさか、ここまで追ってくるたぁ思わなかったけどな」

 

 びたり、とまるで蝉かコアラのようにネルにくっついたロジャーが、クリフを振り返って、にやりと笑う。まるで己の偉業を誇るように。

 

「へっへ~んだ! デカブツごときにオイラの愛の深さが分かるもんか! ……オイラ、おねいさまと出会って以来、おねいさまの事が忘れられなくて、毎日やきもきしてたじゃんよ! そしたら、ゲロロのおっちゃんが、おねいさまがシランド(ここ)にいるって噂を教えてくれて……こうして出会えたのは、まさに運命ってやつじゃん♪」

 

 上機嫌に笑うロジャーに、クリフは何か言いたげな眼差しを向けてくる。それに苦笑したアレンは、ロジャーに視線を移して微笑った。

 

「そうか……。それは長旅だったろう。ここまで良く頑張ったな」

 

「おぅよ! 分かってるじゃん! 兄ちゃん!」

 

「おいおい、アレン?」

 

 労うアレンに、思わずクリフの表情が引きつる。そのクリフを振り返って、アレンは首を傾げた。

 

「こんな子どもが、わざわざ国境を越えてシランドまで来たんだぞ? 歩くだけでも大変な距離だ。……まったく、無事だったから良かったものの、あまり無茶をするな」

 

 無茶をするな、でロジャーに向き直ったアレンが、少し表情を強める。その彼に、お? と首を傾げたロジャーは、ドンッと大きく胸を張った。

 

「何言ってるじゃんよ! 危険な冒険にも足を突っ込む! それが、男を磨くための花道ってもんだぜ!」

 

 言い切るロジャーに、アレンは感銘を受けたのか、ほぅ、とため息を吐いていた。

 

「……意外に、しっかりしているな」

 

「おいおい! マジで言ってんのか?!」

 

 途端。問い質すクリフに、アレンは首を傾げながら頷いた。

 

「何故だ? この少年は、サーフェリオという所からシランドまでの旅が危険だと分かった上で、やって来たんだぞ? ……この歳で、物の分別がきちんとついている」

 

「『危険』の意味が分かってねぇだけだろが!」

 

「んだとぉ! このデカブツぅ!」

 

 プンプンと頭から湯気を発さんばかりの勢いで、ロジャーがクリフを睨む。そのロジャーをじろりと見下ろして、クリフは、あんだよ、と声音を落としながら膝を付いた。

 じっと。

 両者がにらみ合う。

 

 ――ネルの、足元で。

 

「アンタ達……」

 

 ゆらり、とアレンやクリフの援護を期待していた、ネルの体が揺れた。途端。はっと瞬きを落としたアレンが、慌ててネルを見る。

 

 ネルの体に、施力が集っているのだ。

 

 彼女の腕の、足の施紋が輝くのを見て、アレンはバッと彼女を振り返った。

 

「待……っ!」

 

 が。

 時、既に遅かった――……。

 

「吼えろ、我が雷! ……雷煌破ぁあ!」

 

 

 バリリリリィイイイイイイッッッ!

 

 ネルの右手から、盛大な雷が迸った。

 

 ズドォオオオンンッッ!

 

 途端。

 クリフ、ロジャー、アレンの居た場所が、雷光によって爆散した。直径二メートルの粉塵が、ズドンッと音を立ててシランド王都の景観を一瞬汚す。

 まるで暗幕を張ったように。

 粉塵が晴れると同時、けほけほ、と咳き込むアレンが現れた。

 

「無茶をしてくれるな……。ネル……」

 

 埃を少し吸い込んだのだろう。それ以外、特に目立った外傷のないアレンを睨んで、ネルは忌々しげに、ちっと舌打ちした。

 

「…………お前な……」

 

 彼女の不遜な態度に一言もらして、アレンは視線を、クリフ、ロジャーに向けた。

 

「怪我は無かったか? 二人とも?」

 

 左、右。視線を振ったが、見当たらない。

 

「?」

 

 首を傾げたアレンは、ふと、雷煌破が抉った地面の先を見据えて――、二人が、仲良く黒焦げになっているのを見つけた。

 だが幸いなことに、寸でのところでその先にある民家に被害は無い。

 それに目を丸くしながら、アレンは嬉しそうにネルを振り返った。

 

「大分、制御が巧くなったな。ネル」

 

「……まあ、ね」

 

 頷きながらも、微笑うアレンから、そっぽ向くネル。その彼女に、すまない、と声をかけて、アレンはクリフ、ロジャーに向き直った。

 

「二人とも、動けるか?」

 

 言いながら、手を貸してやる。ぐったりと道に横たわっていたクリフとロジャーが、のそりと身体を起こし始めた。

 

「死ぬかと思ったぜ……」

 

「……お、ねいさま~……」

 

 相変わらず、クリフの紋章に対する耐久力には問題があるな、と胸中でつぶやきながら、アレンは同時に、ネルの雷煌破をまともにくらって、黒焦げにこそなっているものの大した傷にはなっていないロジャーの頑強さに目を丸くした。

 途端。

 アレンの口元から、ふっと微笑が零れる。

 

(……なるほど)

 

 国境を越えて、わざわざシランドまで来るだけのことはあるらしい。

 アレンは改めて、クリフ、ネル、ロジャーに視線を送ると、城を一瞥して言った。

 

「ではそろそろ、フェイトの所に戻ろう」

 

「っ!?」

 

 アレンの発言がロジャーにも向いていることを悟ったネルが、ざ、と抗議の眼差しを向けてきた。それを制して、アレンは続けた。

 

「行きが無事だったからと言って、帰りまで無事とは限らないだろう? ……心配するな、彼の面倒は俺が見る」

 

 そうネルに耳打ちして。

 抗議の視線を送ってくるネルに、アレンは少しだけ苦笑した。

 

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