連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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フェイトくん修行編part2 むしろアリアスが来い!

 シーハーツ軍内で新たな役職を得たフェイトは、クリムゾンセイバーとして最前線のアリアスに向かうことを命じられた。

 

 聖王都・シランドからアリアスに向かうには、二つの広原を越える必要がある。

 一つ目のイリスの野を命からがら乗り越え、一行は『もう一つの難関』に辿り着いたのだ。

 

 パルミラ平原。

 

 シーハーツ国内でも有数の広大さを誇るこの平原を越えねば、安息の時はやって来ない。

 ――そう。

 この悪夢を終わらせるには。

 

 

 

 フェイトくん修行編part2 むしろアリアスが来い!

 

 

 

「人を相手にする為に、己の刃を加減する方法を、俺も修行しなければ……」

 

 悪夢の男が、恥も知らずにそう言った。

 

「その為に、俺達を利用するつもりかぁああああああっっ!」

 

 クリフの絶叫が、平原に響き渡る。

 移動中は――まさに“地獄”の真っ只中だ。

 

 

「ん? どういうコトじゃん、デカブツ? あの兄ちゃんは、何を言ってるじゃんよ?」

 

 ロジャーは、殺気立つ一行を不思議そうに見渡した。

 先ほどまで、和気あいあいとしていたのだ。――少なくとも誰一人、こんな妙に高いテンションでは無かった。

 (ペターニ)に居る時は。

 フェイトが剣を握り、叫ぶ。

 

「ついに……、ついにその剛刀を、僕に向けてくるつもりかぁああああ!」

 

「丘をぶった斬るようなバケモノ刀を、人に向けようってのか!? テメエの脳みそ、腐ってんじゃねえのかぁああああっっ!」

 

 クリフの叫びに、一同が同時に頷く。が。獲物を狩る瞳をした連邦軍人は、最早聞く耳を持たなかった。

 

 ぴしぃ……っ!

 

 空気が、張り詰める。

 フェイトは空に向かって叫んだ。

 

「アミーナァアアア! 僕に力をォおおおお!」

 

「行くぜっ! マイトハンマァアア!」

 

「ブレードリアクタぁあああ!」

 

「タレルマイン!」

 

「黒鷹旋!」

 

 フェイトの声を皮切りに、一同が一斉に技を放つ。

 剛刀・兼定を正眼に据えて――、アレンは大上段から一気に振り下した。

 

 ――斬っ!

 

 一閃。

 高さ三メートルほどの真空刃が、無情にもフェイト達の攻撃を斬り伏せる。『技』だけに飽き足らず、その先にいる――術者達まで。

 アレンは無言で息を呑み、手元の兼定を見下ろした。

 

「……これほどの力を乗せて放っても、ビクともしないとは……! ……兼定っ!」

 

 昔使っていた(シャープネス)でさえ、今程度の気を乗せれば、剣軸がブレてしまった。

 だがこの剛刀は、ブレるどころか気を増長してくる。気負った一閃では無かったにも関わらず、フェイト達の必殺技を全て両断して見せるほどの斬撃と化したのだ。

 

「これが……、兼定……!」

 

「んなことより、早くフェアリーライト撃てよテメエ! こちとらテメエの空破斬で全滅なんだよ!」

 

「……ハハッ」

 

 フェイトは思わず笑った。あまりの理不尽に、乾いた笑みが零れたのだ。

 

「ちょ、ちょっと新入り! しっかりしなよ! ……マズいね。新入りのタヌキ、まともに喰らったみたいだよ……」

 

「お前、いくらなんでもガキ相手に……!」

 

「よせよ、二人とも。アイツがそう言う奴だって事は、最初の最初に分かってたことじゃ、ないかぁああっっ!」

 

 話の終わりは気合いをこめて、フェイトは立ち上がった。

 

「フェイト……!」

 

「逞しくなったじゃないか、フェイト……!」

 

 クリフとネルが、感慨深げにフェイトを見る。

 クリフはフッと微笑い、鼻の下を指でこすった。

 

「まったくだ。初めて会った時は、どうすんだこの青二才と思うほどにヘボい奴だったが、いつの間にかデカくなってやがったな」

 

「フッ……誰が青二才だこの野郎っ!」

 

 ぱしぃっ!

 

 いきなり振ってきたフェイトの上段切りを、クリフが白刃取りで止める。

 

「テメエ……!」

 

 カチカチと鳴るバスタードソード越しに、クリフはフェイトを睨みつけた。

 ネルが叱責してくる。

 

「圧倒的な力の差に絶望したからと言って、現実逃避すんのは止めなっ! 敵は待っちゃくれないんだよ!」

 

「クッソォ~! このクリフ、かつて無いほどのピンチだ!」

 

「フッ……そうか。僕はこんなピンチをしょっちゅう味わってきたような気がするよ。毎日、毎日! あの馬鹿、ちったぁ加減って言葉を覚えろぉおお!」

 

 フェイトが剣を握り締めると、アレンに向かって踏み込んだ。

 対峙したアレンが、ニッ、と笑う。

 

「不屈の闘志だな、フェイト。――来いっ!」

 

「てぁあああああっっ!」

 

 当初から比べれば、数段鋭くなったフェイトの踏み込み。

 切り合いながら両者、すれ違う。

 次の瞬間、フェイトのバスタードソードが、スパッと音を立てて柄から斬り落されていた。

 

 ズババババァッ!

 

 血飛沫が舞う。

 持っていたバスタードソードの刃ごと、膾切りにされたフェイトが、前のめりに倒れていった。

 

「フェイトォオオオオオ!」

 

 クリフが、劇画タッチの渋い顔で叫んだ。

 

「チッ! 大口叩くだけでまったく使えなかったね……!」

 

「テメエは鬼かっ! むしろあの悪魔に、一人で挑んでいった勇敢さを褒めろよっっ!」

 

「それにしたって、あいつに手傷の一つも負わせてくれりゃ、まだ攻め込めたんだ。無傷ってんなら、こっちの戦力が一個減ったに過ぎないんだよ!」

 

「女って奴ぁ、時たま打算で動きやがるからな……」

 

 クリフがどこか冷めた顔で遠くを見つめる。

 と。

 対峙した連邦軍人が、二人に向き直った。

 

「どうした、クリフ。ネル。来ないなら、こちらから行くぞ」

 

「クソが! 来るなら来やがれっ!」

 

「そう何度も何度も、アンタの思い通りにはならないよっ!」

 

「では遠慮なく。――朧・弧月閃っ!」

 

 下段から斬り上げ。

 

 ゴォ――ッッ!

 

 剣先に宿った『気』と剣風、そして『衝撃波』が、パルミラ平原を走った。

 

「フェアリーライト」

 

 構えを解き、連邦軍人は容赦なく唱える。

 回復魔法が、仲間全員に降り注いだ。

 起き上がったクリフが小さく笑う。口端を引きつらせて。

 

「ヘッ……まったく絶妙だぜ。気を失う寸前でかけて来やがる……!」

 

「本当、ありがたくって涙が出るね」

 

「さあ。そろそろあいつから一本取ろう。クリフ、ネルさん。――もう充分だろ? 皆で力を合わせれば、あの悪魔を討伐する事だって出来る筈だ」

 

「やってやろうぜ!」

 

「望むところさ」

 

 ぐっ、と互いを見合い、頷く三人。

 ロジャーは少し離れた所で、大きな瞳をパチパチと瞬せた。

 

「兄ちゃん達……、いっつもこんなことやってんのか?」

 

「さあ、兼定。お前の限界を見せてくれ」

 

 剛刀を握った軍人は、『人に向ける』という肝心のコンセプトを忘れたようだった。

 

「死ねぇええええ! アレェエエンッッ!」

 

 瞳に殺意を滾らせながら、フェイト、ネル、クリフは得物を手に踏み込む。

 

「フェイト兄ちゃんっ! デカブツぅっっ! ネルおねいさまぁああ……!」

 

 ロジャーの絶叫が、どこまでも響いていった。

 

 

 

 ……………………

 ……………

 

 

 

「誰も……誰も、オイラの声に答えてくれなくなったじゃんよぉ……。……皆、燃え尽きたように倒れ込んじまった……」

 

 ロジャーは静かになった周りを見渡して、不安げに、タヌキの尻尾を揺らした。

 死屍累々。

 言葉通り、ロジャーの声に反応する者は、誰一人も残されていない。

 ――剛刀を握る、軍人でさえ。

 

「いかん……。人に向ける為に加減を覚えるつもりが……この刀の可能性を見ようとしてしまった……! これは俺のミス……! 俺もまだまだ修行が足りない……!」

 

 だんっ、と平原の地面を拳で叩き、アレンは奥歯を噛みしめた。

 

「もっと、……もっと訓練しなければ……っ!」

 

 さすがに自責の念に駆られたのか、彼は兼定を握り、しばらくうずくまった体勢から立ち上がって来なかった。

 

 

 こうして、パルミラ平原での彼等の死闘は、アリアスに辿り着くまで続いていった――。

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