連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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3.カルサア修練場

(おかしい……)

 

 カルサアの町と修練場とを繋ぐグラナ丘陵を越えて、フェイトは修練場の前で足を止めた。ここにたどり着くまでにプレートメイルで全身を固めたアーリグリフ兵と戦ったが、シーハーツを警戒しているにしては兵士の数が少なすぎる。アーリグリフ城を脱出してカルサアに逃れたときの方がよほど厄介だった。

 太い石柱で造られた修練場の入り口には番兵すら見当たらない。この無防備さが不気味で、フェイトは足音を殺して中に入る。

 白亜の煉瓦のみで造られた修練場。間取りは広く奥まで見渡せるが、天井が低く、支柱が多いので面積の割に狭苦しい。壁に据え付けられた松明が薄暗く部屋を照らしている。火が燃える音以外、物音ひとつ聞こえてこなかった。

 

「誰もいねえぜ。もう終わっちまってるんじゃねえだろうな」

 

「そんなこと言うなよ」

 

 あまりの静けさにクリフが眉をひそめた。フェイトがたしなめて、首をふる。考えたくもないコトだ。心から吐き捨てた。

 背中で、アレンが低く言った。

 

「油断するな」

 

「……どうやら、そのようだな」

 

 クリフもガントレットをこすりあわせながら笑う。視線は手前の支柱。フェイトも剣を握り直す。敵に気付かれないよう足音に気をつけて唇を引き結んだ。構えたクリフが、横目にアレンを見た。

 

「で? 結構な傷を負ってるようだが、戦れるんだろうな?」

 

「問題ない」

 

 そのとき、伏兵が打ち込んできた。気付かれた、と悟って一転、攻勢に出たのだ。名前通り『漆黒』の鎧を着た兵士たち。六人いた。襲いくる長剣が素早い。息をのむフェイトの背中で三つ、怒号が上がった。短い悲鳴。なんだ、とふり返る前に、六人中三人の伏兵が剣を取り落した。――フェイズガン。思い当たると同時にアレンが風のごとく踏み込み、剣を取り落した兵士の脇腹を貫手で刺していた。

 

「がっ!」

 

 鈍い音を立てて、一人目の漆黒兵がくずおれる。隣、二人目の頭が跳ね上がった。掌底だ、と認識したときには三人目の突きが、アレンの死角から放たれている。見事なフォローだ。息を詰めるフェイトを置いて、アレンの腕が別の生き物のようにしなった。

 風切り音。

 漆黒が突進し、剣が落ちていった。

 驚く兵。敵を貫かんと握った長剣がまるで刃物で切り落されたかのように剣先から、すぅ、とずれていく。それが床に当たって音を立てる前に、こめかみを殴りつけられ、横っ跳びに吹っ飛んでいった。

 手応えで倒れる、と確信したのかもしれない。

 三人目の漆黒が壁に叩きつけられた瞬間、アレンが後ろを向いた。剣を拾った漆黒兵と残りの二人が、三方向から同時に打ち込んでくる。

 

「やぁあああっ!」

 

 逃げ場がない。整ったチームワークに、フェイトは目を見開く。兵士の錬度が、丘陵をうろついている一般兵とは比較にならない。

 

「アレンっ!」

 

 叫んだのと、アレンの左腕が閃いたのは同時だった。

 

「流星掌!」

 

 短い呼気、彼の左腕が唸った。まるでマシンガン掃射のような苛烈な怒号が次々に轟く。荒れ狂う空気を閃光が切り裂き、石壁が瞬きするようにチカチカッと照った。

 

 

「……っ!」

 

 クリフが目を瞠った。アレンが繰り出した無数の拳打が、余すことなく相手の急所を打ち抜いている。

 

 静寂。

 

「ぐ、あ……っ」

 

 空気の塊のような息を吐いて、三人の漆黒兵が倒れ伏した。鉄製の鎧がべこりと凹んでいる。少なくとも胸部だけで八箇所。それも皮一枚、相手を殺さない程度に加減されていた。三人が、三人とも。

 

(ケガ人の動きじゃねぇ……!)

 

 IDカードを思い出しながら、クリフは言葉を飲み込んだ。

 アレンは倒れた兵たちからこちらに視線を上げると、言った。

 

「待ち伏せに遭うということは、まだ間に合うようだな。急ごう」

 

「……あ、ああ!」

 

 気を取り直したフェイトに、アレンは静かに頷き返した。

 

(これが……『特務』ってやつか……!)

 

 頬に伝う冷汗を、クリフは愛想笑いだけで拭った。

 

 

 ◆

 

 

 カルサア修練場、副団長室にて。

 陣中の将として座したシェルビーは、不機嫌そうに顔を歪めた。

 

「まだクリムゾンブレイドの片割れを捕獲できんのか!? この能無しどもめ!」

 

 かしずく兵を怒鳴りつけるなり、シェルビーは手にした酒樽を乱暴に床に置いた。がん、と鈍い音をたった。樽のなかで酒が激しく揺れている。

 シェルビーの眼前にいる兵は、頭をさらに垂れた。

 

「申し訳ございません。だいぶ追い詰めてはいるのですが、さすがに相手もやるもので……」

 

「感心している暇があったら、さっさとひっ捕らえて来い!」

 

「は、はっ!」

 

 短く言って立ち上がる。

 その彼を大仰に見送って、シェルビーは、ふん、と不満そうに鼻を鳴らした。

 

 

「シェルビー様!」

 

 先の兵とすれ違うようにして、別の兵が入ってくる。その慌てた様子から、シェルビーは頬に笑みを刻んだ。

 

「どうした? クリムゾンブレイドを捕らえたか?」

 

「あ、いえ……。報告と……、ヴォックス様より書簡が届きましたゆえ」

 

 前の兵同様、この兵もシェルビーから一メートル離れた位置にかしずいた。その彼を見下ろして、シェルビーは怪訝そうに眉をしかめる。

 

疾風団長(ヤツ)から? なんだ? ……まあいい。まずは報告が先だ」

 

「は。見張りの兵によると、新たに不審な男が三人。場内に侵入した模様です。情報と照らし合わせた結果、その内の二人がターゲットの男たちと推察できます」

 

「三人だと? 護衛でも付けたというのか? ……無駄なことを」

 

 シェルビーは喉を鳴らしながら中空を見据えた。どこか物思いに耽るように。

 

「しかし……、そうか。まさか本当に助けに来るとはな。クリムゾンブレイドの片割れのみが一人で来た時はどうしたものかと思ったが……。まったくアペリスの信者(バカ)どもは情け深くて助かる。その甘さが命取りになるというのに」

 

 くく、と喉を鳴らして、シェルビーは眼前の兵に言い放った。

 

「よし、あの女(クリムゾンブレイド)共々追い詰めて捕らえろ。しくじるなよ」

 

「はっ」

 

 短く答えた兵は軽く頭を下げ、懐から書簡を取り出した。

 

「……それと、これがヴォックス様からの書簡です」

 

 シェルビーは書簡を受け取り、片眉を上げながら目を通す。次第に顔つきが険しくなっていった。その眉間の皺が限界まで深まったとき、シェルビーは目を見開いて書簡を投げ捨てた。

 

「ハハッ!」

 

 沸き立った衝動に任せて高らかに笑う。目の前の兵が不思議そうに見上げていた。

 

「シェルビー様、いかがなされましたか?」

 

「ハッハッハッハ! こいつはいい。アルベルの奴、しばらく戻ってこれないようだぞ」

 

「団長がですか? 何故です?」

 

「どうも疾風団長(ヴォックス)漆黒団長(アルベル)のことが嫌いらしい。しばらくヤツを足止めしておいてくれるそうだ。その間に片付けて手柄を立てておけと言ってきたわ」

 

「なるほど……。つまり、アルベル様がお戻りになる前に、シェルビー様が目的の男たちを捕らえてしまえば、手柄はシェルビー様のもの。そうなればいずれは漆黒団長の地位も……」

 

「そういうことだ」

 

 シェルビーは、にやりと笑う。次の瞬間。彼は表情を入れ替えた。殺気のこもった、鋭い眼差しが兵を向く。

 

「いま、獲物は我が手中にあるのだ。ヤツが来る前にすべて終わらせてやる。男二人は殺すなよ。必ず生け捕りにするのだ!」

 

「はっ!」

 

 短く答えた兵は、深く頭を垂れた。

 

 

 ◇

 

 

「ったく……。迷路か? 此処はよぉ?」

 

 修練場を右へ、左へ。

 入り組んだ構造に悪戦苦闘しながらも、どうにか修練場三階、牢獄錬に辿り着いたフェイトたちは、クリフの文句をラジオ代わりに先を急いだ。

 

「この頑強な構造(つくり)からして、修練場というより砦として作られたんだろう。……外敵対策にはうってつけだな」

 

「やっぱり、罠だったってこと?」

 

「ああ」

 

 アレンの言葉に、フェイトの表情が沈む。

 

「――来る」

 

 そのとき、フェイトの思考を断ち切るように、アーチ状になった通路の向こうから巨大なハンマーを持った鎧が襲いかかってきた。その体長、二メートル強。

 

「散れ!」

 

 アレンの鋭い一喝。

 鎧がハンマーを振り下ろした。

 打ち当たって地面が震える。間一髪、ハンマーを躱した一同は、背中に冷たいものを感じながら鎧を睨んだ。

 ――中身の(・・・)ない鎧を(・・・・)

 

「なっ……!?」

 

「おいおい。処刑場とは聞いてたが……、幽霊か?」

 

 皮肉混じりクリフが笑った。それを横目に、フェイトは引きつった顔で剣を握り直す。

 

「さあね。でも……、道を阻むんなら容赦しない!」

 

 自分を奮い立たせるように叫んで、鎧に斬りかかる。重量武器をふり下ろす鎧の動きは速い。反面、移動速度はミミズが這うほど遅い。

 

(いける――!)

 

 フェイトは確信して接近。腰をきめて薙ぎ払った。だが、刃がびんと返って切れない。とんだ鎧の強度だ。

 

「……くっ!」

 

 舌打ち混じりに呻いて、フェイトは上段から打ち込む。浅い。

 たたらを踏んで体勢を入れ替える。鎧が、ハンマーを持ち上げていた。

 

「!」

 

 振り下ろされたハンマーを寸でのところで躱した。

 と、いうのに。

 床を這った衝撃波が、フェイトの細身を吹き飛ばした。 

 

「ッぐ!」

 

「フェイト!」

 

 クリフの叫び声と同時、肩から地面に叩き落ちる。――紋章術。敵のハンマーが地面に当たった瞬間、突風のようなものが吹いたのだ。腕に、肩に、脳に痺れが走った。咄嗟に両手をついて頭を打つのは回避したものの空中を舞ったせいか、平衡感覚が数秒狂った。

 

「く、そ……っ!」

 

 呻きながら身を起こす。

 フェイトの脇を、クリフが駆った。

 

「叩き潰すぜ! マイト・ハンマー!」

 

 頭上高く跳んだクリフが、両腕を叩きおろす。岩のような空気の塊、巨大な衝撃波を金色の闘気が追って同心円状の輪をつくる。鎧に当たると爆発し、その威力に鎧がたたらを踏む。

 ハンマーの重心がズレた(・・・)。鎧に、すぐの反撃は無理だ。

 

「はぁあああっ!」

 

 咄嗟に判断したフェイトが剣をふり切った。通常の剣では分厚い鎧を貫けない。ならば――

 

「ブレード、リアクタぁあああー!」

 

 下段から弧を描くように切り上げる。剣先に宿った青白い光が、フェイトの闘気に呼応して激しく輝いた。衝突。鎧がつんのめる。胸に、巨大なミミズが這ったような凹みが出来上がった。重心がさらに後ろへ。あと一撃繰り出せば、完全に倒れる――。

 

「はぁああっ!」

 

 フェイトはふり上げた剣を、最速でふり下ろした。

 だが、これは読まれたのか、鎧に半歩届かない。

 

「……!」

 

 大きく目を見開いたフェイトは、無造作に薙がれたハンマーを見据えた。

 ――当たる。

 

「跳べ!」

 

 言われた指示に、フェイトの身体が反応した。片足で地を蹴り、相手の脇をすり抜けるように、鎧の真横(・・)へ。ハンマーの当たらない、相手と数センチの距離まで詰める。すかさず、右足に体重を込め、遠心力をつけて蹴りを繰り出した。

 

「リフレクトストライフ!」

 

 三連の蹴打が鎧に炸裂する。ちょうど、ブレードリアクターを喰らった胸の部位だ。凹みがさらに深くなり、破れた。完全に胸を穿たれた鎧が、膝をつくようにしてくずおれた。ついで、腕、足のパーツが崩れていくと、抱えていたハンマーと他の全てのパーツまで床に落ちる。

 それ以上、動く気配はなかった。

 フェイトが貫いた胸のあたりに、鎧の動力炉があったようだ。

 

「…………ふぅ……」

 

 息を切らしながら、フェイトは戦いの緊張を解く。

 

「どうやら、一体だけみたいだね」

 

 周囲を見回して確認すると、アレンが静かに頷いてフェイズガンを抜き放った。

 

 パシュッ!

 

 光弾がフェイトの横を過ぎると、衝撃でフェイトの髪がはらりと宙を舞った。

 

「……え……?」

 

 顔を凍らせたフェイトの後ろで、ふぎゃっ、と潰れた声がした。

 一瞬、なにが起きたのか理解できない。

 だが、理解できないながらもぼんやりとアレンを見ていると、アレンはフェイズガンを構えた体勢のまま、ある一点をじっと睨み据えていた。

 

「なんだぁ?」

 

 その彼に呼応するように、傍らでクリフが素っ頓狂な声をあげる。アレンとクリフ、二人の視線の先をフェイトは不思議に思いながら追った。

 ふり返ると、そこに処刑場には相応しくない、丸々と太った男がいた。この質素な場所にはふさわしくない細かい刺繍の入った深緑の外套を羽織っている。男は、ひぃい、と耳障りな声を上げてうずくまった。

 

「え?」

 

 フェイトは目を丸めた。アレンが銃口を小太りの男に向けたまま、近づいた。

 

「貴様の差し金か?」

 

「差し金? どういうことだよ? アレン」

 

 アレンの問いに、フェイトは眉をひそめる。だがアレンはフェイトを手で制しただけで、こちらを一瞥しようともしなかった。

 代わりにアレンは男を睨む。その蒼瞳は、情けの欠片もない。

 

「答えろ」

 

 ささやくアレンの語調(こえ)が、今まで聞いていたものより格段に、低い。

 思わずフェイトが顔を引きつらせると、悪寒が凄まじい勢いで全身を駆けめぐった。

 

「は、はの……、わたくひはっ! そのっ、た、たた、頼まれただけでっっ!」

 

 視線を向けられていないフェイトでさえ感じるプレッシャーだ。気温が低くなった気さえする。男はただ震えて、首をふる。痙攣を始めた男の左手が、半狂乱一歩手前であることを物語る。

 

「な、なななっ! なにも悪いようなことは――!」

 

「捕らわれた二人はどこにいる? 我々より先に侵入してきた女性の居所は?」

 

「し、しし、しりませ……っ!」

 

 男は鼻水と涙が入り混じった顔で、ただただ拝むようにアレンを見上げた。

 そのとき、その額に黒いものが過ぎった。

 

 ごり……っ、

 

 それが銃を押し付けた音であることに気付いたのは、ようやくフェイトが悪寒に慣れてきたころだ。

 銃口を突きつけられた男の顔が、白く染まる。

 空気が凍てついた。

 

「……いま、嘘をついたな?」

 

「ひ、ひぃいいっっ! い、いいいっ、命ばかりはお助けをぉおお!?」

 

 土下座を始めた男は、だらだらと涙を振り乱しながら、何度も何度も頭を下げる。その様を淡々と見下ろして、アレンは続けた。

 

「二人は何処だ?」

 

「そ、そそ、それだけは言えま――っっ!」

 

「そうか」

 

 アレンは引き金(トリガー)を絞った。

 

「……は、……はひ……?」

 

 男の頬に、フェイズガンが血の線を刻む。男の後ろでは頑強なはずの修練場の壁が、直径一センチほど穿たれていた。

 

「ひ、っ!」

 

 それを横目で確認してしまった男が、頬を引きつらせた。目じりに溜まる涙。その男を見下ろして、アレンは改めて、ゆっくりと銃口を男の眉間に当てた。

 ちゃり、と軽い金属音が立つ。

 

「……五秒待つ。その間に答えろ」

 

「ひ、ひぃいいいいっっっ!」

 

 

 

(お、オイ……。クリフ……?)

 

 そのあまりに容赦ないアレンを見かねて、フェイトは助けを求めるようにクリフを見た。

 

(……んだよ?)

 

 視線だけをこちらにやって、クリフがぎこちなく唇を動かす。クリフの顔色も、どこか青白くフェイトには映った。その枯れた声音を聞きながら、フェイトはそっと語調を落とした。

 

(あれって、一体どういうことなんだ……?)

 

(俺も気付かなかったが、どうやらあの鎧。あの男の指示で動いてやがったらしい)

 

(あの男の指示って……)

 

 フェイトはなにやら銅像のようなものを懐から取り出す男を見た。だが、嘆願は空しく無視され、男はいよいよ命の危機を悟ったのか、言葉を失い、じりじりと後退り始めていた――。

 

(あれ、ホントに漆黒の一員なのか?)

 

(さあな。少なくともアレンの奴はそう見てんだろ。見ろ、あの容赦ない脅迫振りを)

 

 気の毒そうに男を見ながら、クリフがつぶやく。その言を受けて、フェイトはアレンに見やり、思わず口をへの字に引き結んだ。

 

(……………………)

 

(……………………)

 

 クリフすら、何も言わない。

 そのとき、乾いた銃声を上げて、アレンが立ち上がった。

 

「行こう。二人とも」

 

 ふり返った彼は、出合ったときと同じだ。殺気もなく、無表情で落ち着いた声。すでにフェイズガンをしまっている。

 クリフが眉をひそめた。

 

「なにか分かったのか?」

 

 アレンが短く頷いた。歩き出しながら、来た道を戻る。

 

「目的の二人を救出するには、四階に行くための鍵が必要ならしい。それを持っているのは、漆黒の中でも団長と副団長。それに――」

 

 言葉を切ったアレンに、フェイトは首を傾げた。

 

「それに?」

 

「配膳係の母娘、だそうだ」

 

「アイツはほっといてもいいのか?」

 

 クリフがやや放心状態になっている男を顎でしゃくる。短く頷いたアレンは、ちらりと男を一瞥してから、前に向いた。

 

「ああ。見たところ、知っていることはそれぐらいのようだ」

 

 すでに興味の対象ですらないのか、アレンは足を止めない。聞きついでに行き方まで教わったのだろう、彼の足取りに迷いはなかった。

 

「どうして分かるんだよ? そんなこと?」

 

「相手の真偽を見極められずして尋問を行うのは、ただの時間の無駄だ」

 

 アレンの無表情が、なぜか凶悪に見えた。フェイトは、はは、と乾いた笑みを返して

 

(……ってことは、アーリグリフの尋問もコイツからすると……。――いや、やめよう。どの道、アレンを敵に回しちゃいけないってことは良く分かったんだし……)

 

(あと、怒らせんのもどうかと思うぜ。俺はよ)

 

(……そうだね)

 

 小さく耳打ちしてくるクリフに、フェイトは呆れ半分に頷いた。

 

「どうした? 急ぐぞ」

 

 きょとんとこちらを窺う青年。

 フェイトとクリフは深いため息を零した。

 

 

 この三人が修練場の鍵を手に入れたのは、これから少ししてのことである。

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