27.始動
シーハーツの兵士として、アリアスの領主の館の門扉をくぐることになった初めての日。も
「――それで。クリムゾンセイバー殿、今後の作戦についてご提示願いたいのですが……」
歓迎のあいさつもそこそこに、会議室に集まった面々を見据えて、クレアが話を切り出した。既に報告を受けているらしく『クリムゾンセイバー』とフェイトを称す彼女に、フェイトはむず痒いものを感じながら、机の上に広げられた、一枚の地図に視線を落とす。
「まず三軍の機能を停止させる為に、アーリグリフ側の流通を止めようと思ってます」
「……カルサアを、襲撃するということですか?」
唐突な難題を切り出されて、クレアが声を落とす。集まった部隊長達も息を呑んだが、フェイトはあっさりと否定した。
「いえ。さすがにカルサアを落とすのは無理です。少なくとも現段階では。だから、先に輸送隊を強襲するんです」
地図上のカルサアを指先で示したフェイトは、そっと指を北上させた。止まった先はベクレル山道。フェイト達がアーリグリフから脱出する際に利用した、険しい山道だ。
クレアが深刻な表情になる。フェイトの意図を推し量っているのか、癖なのか、きめ細かい繊手をそっと顔の前で組んだ。
「クレアさんならもう気付いてると思いますけど、アーリグリフは痩せた土地が多い国です。だからあれだけの軍隊を動かすために、肥沃な土地から食糧を横取りしているはずなんです」
ちょうど、シーハーツ軍から勝ち取ったアイレの丘がいい例である。
クレアは俯いた顔を上げる。合点したらしかった。
「人目に付かない山道から、我々の物資を搾取している――そう、言いたいのですね?」
「ええ」
フェイトは頷き、ネルを一瞥した。
「ネルさんから聞いたんですけど、アーリグリフで農作地として使える見込みがあるのは、カルサア丘陵とグラナ丘陵の二つだけ。ですが知っての通り、グラナ丘陵の面積は狭く、一国を支えるほどの土地じゃありません。となれば、カルサア丘陵で食糧のほとんどを確保している――と言う話になりますが、あそこは肥沃な土地であると同時に、シーハーツとの戦争で最前線となっている場所でもありますから、アーリグリフの食事事情は現在、死活問題なんですよ」
模範解答を続けるフェイトに、アレンが静かに笑む。そして視線を落とし、胸中でつぶやいた。――クレアは『搾取』と言葉を選んだが、その中には『横流し』も含まれている。
会議室を無言で見渡して、アレンは静かに瞼を閉じた。フェイトが言う。
「そこで、クレアさんにはアリアスやほか近隣の村民たちがアイレの丘以外でどこを耕作しているのか、教えてもらいたいんです。ただでさえ押され気味の戦況ですからね。せっかくみんなが作った農作物を、アーリグリフ軍に奪われる――この問題が後回しになったのも、アリアスの防衛にシーハーツ軍が尽力せざるを得ない状況が続いているからでしょう?」
「ええ……」
クレアは僅かに目を伏せた。
そう。
このアリアスは、小さな村でありながらも戦の勝敗を左右しかねないほどの、シーハーツにとって大事な防衛拠点だ。
だが、兵力ではアーリグリフが上。村は長い戦いで傷ついた兵士が増えるばかりで、前線を押し返すことも出来ない。そんな状況で村が占拠されるよりは、耕地を荒らされるほうがマシ――と彼女は判断せねばならなかった。
アリアスの村民は元々、半数以上が農民だ。その彼等の努力を無碍にするのは胸が痛んだが、命には変えられない。家先の庭が荒らされているからと怒って玄関から外に出ていけば――そこに怪物が待ち受けているのは、分かっているのだから。
それ故に、クレアは村の警備を強化した。警備範囲の境界を明確にしたのだ。そこにつけこまれ、アーリグリフ軍が村民の遠目の耕作地を更に荒らすようになった――この現状は、どうしようもないのだ。戦力で劣る現状では。
むしろ兵数・気力・戦闘力――すべてにおいて下回っているにかかわらず、アーリグリフをことごとく退けるクレアの手腕が、驚嘆に値している。それが分かっているからこそ、村民もクレア達シーハーツ軍には文句を言わないのである。
それがクレアには心苦しかった。
アリアスが戦争最前線の村として指定され、アーリグリフ軍のせいで困窮に喘がされる。
クレアが今よりさらに知略に優れ、耕作地をも守れる力があったなら――皆に飢えの苦しみを与えず済むのに、とどうしても考えてしまう。
ネルが、ぽん、とクレアの肩を叩いた。
「クレア。私は今後、彼等とともにその耕作地の奪還に行って来るよ。だからアンタはこれまで通り、この村を守ってて」
クレアは浮かない表情で首を振った。
「……行って来るって……、耕作地の奪還を貴方達だけでやろうというの?」
「ああ」
にべもなく頷くネル。その表情は、いつの間に身につけたのか――揺るぎない自信に満ちている。
彼女の任務達成率はクレアも知っている。ネルは慎重な気質で、見通しのつかない内は表立って動かない。それは隠密として不可欠な臆病さであり、自分自身を守るために必要な知恵だ。
彼女が判断を誤ったのは――修練場での一件だけ。
部下の生死が絡まない限り、ネルは冷静かつ慎重なのである。
クレアは、ネルの表情を見て、“クリムゾンセイバー”の名を与えられた青年達が、一体どのような作戦を持っているのか、気になった。
「なら、聞いてちょうだい」
そう言って、彼女はじっとネルと、フェイト達を順に見回して、地図に視線を落とす。一同の視線が集中した。
「皆さんも察せられた通り、元々アリアスの村民が農作物を耕していた場所は、二つあります。一つは現状、戦禍のメインとなっているアイレの丘――彼等からすると『カルサア丘陵』です。そしてもう一つは――村の北方、アリアスの台地と呼ばれる場所です。ここはベクレル山脈を隔てた平地ですから、アーリグリフ軍が陸路で辿りつくのは極めて難しい。――それで、ほんの数年前まではアリアスの村民も安心して、土地を耕していたのですが――」
「最近になってアーリグリフ軍が姿を見せ始めたわけだな?」
クリフの問いに、クレアが頷いた。
「最初は疾風による嫌がらせのような軽いものだったのです。ですが最近、ここにアーリグリフ軍の一般兵までもが姿を見せ始めた。――原因を調査した結果、台地に続く穴倉を、アーリグリフ軍が通したのではないかと言う疑惑が出て来たのです」
「……つまり、アーリグリフ側がカルサア山脈にトンネルを掘って、台地に現れた――ということか」
「とんねる?」
首を傾げるクレアに、アレンは、何でもない、と言った。
フェイトが問う。
「でも、そんなことされたら北側からも村が攻められるんじゃないですか? 山脈の地形を無視して、台地に現れるなんて」
「そこは問題ありません。調査結果によると、穴蔵は開いているとしてもまだ人一人がかろうじで通れるくらいの大きさ、と聞いています。ただ――これを調査し、あわよくば塞ごうとしたシーハーツ兵は、誰一人無事に帰って来ませんでしたが」
沈黙が、会議室に降りた。
クレアは顔を上げて、続ける。
「そして今、穴蔵の入口があると考えられているベクレル山道には、漆黒が配備されています。まだほんのわずかな兵数ですが」
「なら、楽勝じゃねぇか」
にっと口端をつり上げるクリフに、クレアは首を振る。もう一度、地図に視線を落として、アリアスよりも西に外れた場所を指差した。
その地点に、ネルが首を傾げる。
「……ベクレル鉱山だね。ここが、どうかしたのかい?」
「ここに、疾風が最近常駐しているの」
「……………………」
沈黙するネル。その彼女を見据えて、クレアは視線を会議室にめぐらせる。
空気がどんよりとこもる。そんなはずはないのに、皆が皆、同時に息を呑んだような気がした。
直線上でアリアスの台地とベクレル鉱山を繋ぐと――疾風の足なら一刻もかからぬ距離、という目算がシーハーツ軍で立っている。
台地が完全に占領されるのも、時間の問題である。
そして、ここが完全にアーリグリフの手に落ちた暁には――北側からも、アリアスが攻められる危険が高まる。いまは『穴倉』に過ぎないトンネルを、本格的に整備させるわけにはいかないのだ。
とはいえ、現状で一つ言えることは、仮に台地が完全占領されたとしても、まだ時間的な猶予は残っているということ。代わりに猶予を使い切ってしまったら、今までのような防衛線は絶対不可能になるであろうことだ。
二方向からアーリグリフ軍に攻められるなど、地獄以外の何物でもない。
それでも正面からアリアスを潰されるわけにも行かず――がんじがらめのシーハーツ軍は、不気味な未来を予想して、顔を白くした。
居並ぶシーハーツ兵にならって、フェイトも表情を改める。
兵器開発が急がれる理由がここにあった。
「それは、ちょうどいいな」
「だな」
その彼等を置いて、後ろでアレンとクリフが互いを見合わせた。固まった空気が、動き出す。一同、驚いたように二人を振り返った。
「何がちょうどいいんだ? 兄ちゃん達?」
周りの大人の反応に、ロジャーがまったくついていけない様子で首を傾げている。するとアレンが微笑して、クリフがやれやれと腕を組んで見せた。
「まあ、考えてもみろよ」
言い置いて、クリフはロジャーと、それから意外そうにこちらを見詰めているシーハーツ軍を面白がるように見返して、腰に手を置いた。自信たっぷりに笑む彼はまさに不敵だ。
クリフは話を続けた。
「つまりは
「?」
「……どうするつもりだい?」
さっぱり事情の飲み込めないロジャーが、さらに首を傾げる。ネルが慎重に、クリフを見た。
「夜襲するんだ」
「夜襲?」
言葉の意味を反芻して、合点のいかないフェイトを始め、会議室のシーハーツ兵達も首を傾げる。その中で、クレアとネルが、はっとしたように目を見開いた。
「でも、失敗したらどうするんだい!? 相手は……、漆黒に疾風だよ!?」
「問題ない。
微妙な空気の中、きっぱりとアレンが答える。見れば、彼はガストから譲り受けた太刀を掲げた。途端にクリフが不服そうに眉をしかめる。
「おいおい、んな役をガキんちょ連れで引き受ける気かよ?」
「……付いて来るか?」
挑戦的に笑むアレンに、クリフの瞳が底光りした。
「上等だ! ちゃんと倒した敵の数、数えとけよ。勝負と行こうぜ」
ガントレットを弾く彼に、静かに微笑うアレン。その二人を見据えて、ロジャーはやはり戸惑ったように視線をさ迷わせていた。
「兄ちゃん達、一体どんな話に……」
「……二人とも。誰か忘れてないか?」
ロジャーの少し抑えた声を、フェイトが制した。
一同の視線が集まる中、フェイトがこほん、とわざとらしく咳払いする。適任者はここにもいる。
そう主張するようにチラチラと視線を二人に投げるフェイトに、クリフとアレンは同時に首を振った。
「お前は駄目だ」
口調も、ついでにタイミングまで合わせて言い放ってくる。途端、フェイトの顔が、ムッと歪んだ。
「なぁ、兄ちゃん達……」
「おい! 僕が足手まといとでも……!」
「んなに
「ロジャーはまだ気配の消し方に長けていない。まさか、ネル一人に任せる気じゃないだろう?」
クリフに言葉を切られて、表情を引きつらせるフェイトに、アレンも追い討ちをかけてくる。
「ち……っ!」
盛大に舌打ちして――数瞬後、フェイトはがくりと肩を落とした。ついでにため息まで吐く。
「にい……」
「……せっかく、修行のチャンスだと思ったのに……」
彼の言葉に、アレンが眉をひそめた。
「修行なら、いつも俺達でやっているはずだが?」
「久しぶりに
力いっぱいに、どこか自棄気味に叫ぶフェイトは、傍目には情けない姿だったが、その理由を理解しているクリフとネルは、無条件に頷いている。
その彼等を見渡して、アレンは苦笑した。
と。
「こ、の……ばかちぃいいいんっ!」
黙っていたロジャーが、怒りの咆哮を上げた。
ゴンッ! と。
ロジャーの体当たりがフェイトの腰に突き刺さる。
背後から襲われる形になったフェイトが悲鳴をあげながら無造作に倒れた。手足を投げ出すようにして、少しも正しい姿勢とは言えない状態で着地する。
その彼よりも一足早く着地したロジャーは、腰に手を当てて憤然とフェイト、そしてクリフとアレンを代わる代わる睨み据えた。
「オイラを無視して話を進めんなって、さっきから言ってんだろ! このバカチンども!」
ぷんぷんと頭から蒸気を吐かんばかりの勢いで、仁王立ちするロジャー。その彼を恨めしげに見返して、フェイトは打ちつけた腰を押さえたまま口を開いた。
少し涙ぐんでいた。
「……っ! なんだよ?」
フェイトの語調がいささか落ちる。その彼を制して、アレンがロジャーに向き直った。
「すまない。……どの辺りが解らなかったんだ?」
殊勝に問いかけると、ロジャーは腕を組んで、えへんと胸を張った。
「全部じゃん!」
「あん?」
きっぱりと答えるロジャーに、クリフが顔をしかめる。が、クリフが口出しする前にアレンが答えた。
「つまりは敵の不意をついて、アリアス村民の畑を奪還しようという作戦なんだ。それでロジャーには、俺と同じ、敵を驚かせる役を担ってもらいたい」
「ネルお姉さまも一緒か?」
「いいや」
期待に目をきらきらさせているロジャーに、アレンは端的に答えた。瞬間。カッとロジャーの目が見開かれる。同時、
「バカチィイインっ!」
裂帛の気合と共に、ロジャーの体当たりが再度炸裂した。だがそれは、パンッとあっさりアレンに払われた。
……………………
間。
じっとアレンを見上げていたロジャーが、がくりと膝を付いた。
「くっっそぉ……! オイラとネルお姉さまを引き離すなんて……! それも、よりにもよってアレン兄ちゃんが! ……くそぉ! こんなの横暴すぎるじゃん! 訴えてやるぜ!?」
ガンガンと床を叩きながら、口惜しそうに唸るロジャー。だがそれは、誰であろうネルによって阻まれた。
「やめておきな。今のあんたじゃ、返り討ちにあうのが関の山だよ」
「ネルお姉さま……!」
「今は堪えるんだ」
きゅぅん、と今にも鳴きそうな勢いでネルに擦り寄るロジャー。その肩を、ネルが心なしか優しく叩く。その様はさながら、苛められた子犬をネルが助けたような構図だ。
事の成り行きを見守るアレンが、少しやりづらそうに言った。
「……えっと、一応加減したんだが……」
ロジャーの体当たりを、払ったときの力加減を気にするアレン。その彼の肩をぽんと叩いて、クリフは無言のまま首を横に振った。
「プライドの問題だ。アレン」
クリフの隣で、フェイトもこくりと重々しく頷く。その二人をじっと見比べて、アレンはやれやれとため息をついた。
そして改めて、視線をロジャーに寄越す。
「ロジャー。陽動作戦は、ネル達が負う任務よりも遥かに危険だ。……だが俺は、お前の実力を過小評価しない」
「アレン兄ちゃん……!」
危険、という言葉にぴくりと反応したロジャーが、アレンを見上げる。その彼の、どこか期待に満ちた眼差しを受けて、アレンは、ふ、と微笑った。
「頼む。力を貸してくれ」
「!」
――力を貸してくれ。
その言葉がロジャーの心を打った。
「任せとけ!」
反射的に、力強くロジャーが頷く。頼まれる、ということは、アレンが自分を一人前の男として見てくれたということだ。
それが素直に嬉しい。
使命感が、ロジャーの心を熱く燃え上がらせた。
「やってやるじゃん!」
硬く拳を握るロジャーを横目で一瞥して、クリフが苦笑混じりにアレンを振り返った。
「お子様はお手軽だな、おい?」
「世辞を言ったつもりは無い」
冷やかし混じりに問うクリフに、率直に答える。どうやらあながち嘘を言っているわけではないらしい。アレンの表情が動かないのを見て、クリフは思わず、マジかよ、とつぶやいた。
そのクリフに、ふ、と微笑って、アレンは改めてフェイトに向き直った。自然フェイトも表情を改めた。
「フェイト、確かに危険度は俺達の方が高いと思う。だが、内容は陽動よりも重要だ。……ぬかるな?」
「……分かってるよ。ていうか、奪還役ならクリフがやればいいんじゃないか?」
ぶつぶつと不平を言い始めるフェイトに、クリフは知らぬ存ぜぬと口笛を吹いている。それを恨めしげに睨むフェイト。
その二人を戸惑ったように見比べて、クレアは表情を厳しくした。
「あなた方は……! 事の重大さが分かってるんですか!? 漆黒も、疾風も! そんな簡単に倒せる相手ではありません!」
睨まれて、互いを見合わせたクリフとフェイトが、慌てたように口を噤んだ。
代わりに、アレンが応える。
「ラーズバード指揮官。そちらについては自分に任せて欲しい。結果は出す」
「……っ!」
クレアもカルサア修練場の一件から、彼らの実力を知らないわけではない。それでも、こんな軽い気持ちで行かせるわけにはいかない。
きっと顔を上げて警告を発そうとした彼女は、ふと、そこで制された。何故、と鋭い眼を向けると、意外にも相手はネルだった。
「あなたまで……!」
ネルは苦笑気味に、断固首を横に振る。ぶつかった視線は何故か、いつもよりも真っ直ぐにクレアを向いていた。
(そうさ……。疾風相手だからって、私は何を臆してたんだ……)
そのネルの心中を、クレアは初めて察することが出来なかった。ついで、ネルの口元に、にっと不敵な笑みが刻まれる。
「心配ないよ。私達は、必ず成功して帰るからさ」
力強い笑み。
それはクレアを励ますためでも、己を奮い立たせるためでもない。この戦時中、ネルが一度も浮かべたことの無い種類の笑みだ。どこか楽しげな、子供のように純粋な、挑むような瞳。その彼女の視界の端にアレンがいるのを知らないクレアは、不思議そうに首を傾げる。
何故、こんな晴れやかな表情をしているのだろうと。
ネルは続けた。
「だから、留守は任せたよ」
言ってクレアと、居並ぶタイネーブ、ファリンを始めとした会議室の面々を見渡すネル。その堂々とした、今までの彼女とは違う悠然とした佇まいに、兵達は自然、拳を握りしめた。
心から、勇気が湧いてくる。
「はい! お任せ下さい」
「がんばりま~すっ!」
敬礼する二人を皮切りに、ざ、と兵達が姿勢を正す。その彼等にこくりと頷いて、ネルは視線を、クレアに向けた。
「……………………」
今だ、よしとは言わない彼女の表情。それを無言で見返すネル。
それも少しの間だった。
観念したようにため息をついたネルは、やれやれと少しだけ苦笑した。
「事は一刻を争う。早ければ早いほど、
言い聞かせるようにささやくと、クレアはようやく顔を上げた。こちらも観念したように、ふ、とため息を吐きながら。
「……分かったわ。なら私達も出来るだけ、フォローするよう気を配ってみる」
「ああ」
頷くネルに、クレアは小さく苦笑した。
――何やら無茶な性格が、酷くなっている気がする。
そう、胸中でつぶやきながら。
「では、作戦決行は今夜でいいか?」
「OK」
二人の会話が一段落着いたのを見て、アレンが一同を窺った。一切のためらいなく頷いたのは、フェイトとクリフだ。周りの兵達が固まった。
「え!? そんな、急がれるにしても明日でいいのでは……」
兵達を代表して、タイネーブが問いかける。当然だ。彼等は今日アリアスに着いて、その足で夜襲しようというのだから。
無謀すぎるというもっともな指摘に、フェイトは不敵に笑った。
「|いつもの修行に比べれば、何てこと無いよ。ね、皆?」
「ああ」
「そうだね」
「当ったり前じゃん!」
にべもなく頷く三人。どこか遠い視線を送っている彼らに、アレンも異は唱えない。
そしてフェイトは、今だぱくぱくと口を開閉させているタイネーブたちに向かって、言った。
「まあ、見ててください。……僕達、結構強くなったんですから」