ふぅ、とフェイトは息を吐いた。
足許で倒れている百五十人近い兵を相手取り、少し疲れただけではない。新たな敵と対峙する、いわば区切りのためだった。
「何やら面白いことをしていると思って来てみれば……、お前達が関係しているとはな。遊びに来て正解だったようだ」
そう言って哂う男は、特徴的だった。哂い声よりも雰囲気が。
フェイトは剣を強く握る。半身を切って睨めば、堂々と、傲岸不遜な笑みを浮かべて、男がそこに立っている。
修練場で出逢った、最強の漆黒兵。
「アルベル!」
フェイトは反射的に構える。後ろで、クリフがゆっくりと息を吐いたのが聞こえた。
緊張。
楽勝だった前線の空気が、一気に重苦しい沈黙を運び込む。神妙に押し黙ったフェイト達を見渡して、アルベルは悠然と、左手の
「残念だったな。お前達の活躍も、どうやらここまでのようだ」
「そいつぁどうかな? ……そういや、テメェには舐められっぱなしだったからな! おい、フェイト! 他の連中を頼むぜ」
「……クリフ!」
ガントレットを叩きつけるクリフを睨む。が。視線だけをこちらにやったクリフは、悪びれた様子なく、続けた。
「言っとくが、こいつだけは譲らねぇぜ。ネル。お前にも、だ」
顎でネルをしゃくりながら牽制するクリフを、しかし、ネルは許さなかった。
いつもより語調を抑えて、慎重に、彼女は相手との間合いを測る。
「悪いけど、それは承諾できない。……相手は、あの漆黒のアルベル・ノックスなんだ。舐めてかかっちゃこちらが痛い目を見る」
「へっ! 言ってろ! ……つぅか、俺を信じろよ」
「信じてないわけじゃ……っ!」
言いかけて、ネルは噤んだ。横目でフェイトを伺うと、フェイトは、しばらく黙ったあと、首を横に振った。
相手があまりにも悪すぎる――と、ネルは思った。多くの仲間を死に追いやったアルベル・ノックスの存在はあまりに危険だ――。
もどかしい思いでアルベルを睨むと、アルベルは悠然と、しかし、一切の隙がない立ち振る舞いで哂った。
「ほぅ? お前が俺の相手を? ……それは楽しみだ。ま、精々がんばってくれ」
「ほざけ!」
クリフが叫ぶと同時、踏み込む。後方支援のファリンが、ぎょっと目を見開いた。
「ね、ネル様ぁ~! あれ、見てください~」
ファリンにしては尋常でない慌てぶりに、ネルはファリンの視線の先を鋭く追う。そこには、アルベルが連れてきたと思われる漆黒兵が、ずらりと並んでいた。崖で狭くなる通路を塞ぐように、こちらに向かって進軍しながら。
「ちぃっ!」
これでは、本格的にクリフの支援をしてやれなくなる。ネルは思わず舌打ちする。
フェイトが言った。
「ネルさん! ロジャー! タイネーブさん、ファリンさん!
「……あんた!」
「僕はクリフの援護を! どうせ、この剣じゃ大したことは出来ませんから」
ニッと微笑うフェイトを、ネルは数瞬だけ見据えて、頷いた。その時、胸中を過ぎった諸々の感情を、ネルはどうにかして押さえ込んだ。
「お姉さま?」
「行くよ、ロジャー」
ネルの微妙な心境に気付いたのか、気遣わしげな視線を送ってくるロジャーに、ネルは静かに微笑った。
「フェイト! アンタ無茶すんじゃないよ!」
「ネルさんも。……それじゃ!」
彼は力強く、笑っていた。ネルも深く頷く。
「ああ! クリフを頼んだよ!」
ネルは短刀を握りこむ。施力を集め――白く奔る光線、雷煌破を敵陣に叩き込む。と、驚いたようにファリンとタイネーブが顔を見合わせた。
(速い――!?)
ネルが施力を溜めてから放つまで、その時間が明らかに短くなっている。二人が知っているタイミングから考えれば、わずか半分ほどだ。さらに威力まで一直線上の漆黒をすべて吹き飛ばす。強大だ。以前の――と言っても精々二週間ほど前の――技と比べて、施力の凝縮量が異常である。
(……馬鹿な! この方は、どれほど強くなられるというんだ……!)
この、短期間で。
思わず、息を呑むタイネーブは、自然、棍を強く握りこんだ。気を取り直して漆黒と対峙すると、数人相手ならば引けをとらないタイネーブでも、あまりの数に押されそうになる。
「はぁっ!」
タイネーブは棍棒を薙ぎ払って、一人目を後退させた後、次ぐ、ファリンの詠唱を妨害する兵に、突きを放つ。が、一撃では仕留めきれず、更に上段から棍棒を振り下ろして、相手の肩と、首の付け根に棍棒を打ち当てると、詠唱を終えたファリンが、並み居る漆黒兵に、炎の範囲施術を放った。
「エクスプロージョン!」
タイネーブも、四人までなら何とかさばける。
だが。
「ぉおおおおおおっっ!」
雄叫びを上げて、エクスプロージョンの炎に臆する事無く突っ込んでくる漆黒兵は、四人などという良心的な数ではない。仲間がやられる、という前提の戦い方だ。捨て身の戦法に、タイネーブは顔を歪めた。
「仲間を盾にしてまで……!」
数の上で圧倒的に勝っているアーリグリフならではの戦法だった。
先ほどまで考えずに済んだ状況的、圧倒的不利の現実が、タイネーブにのしかかる。
「このままじゃ~、まずいですよぅ!」
同じことを考えていたのか、ファリンも、いつにも増して投げやりだった。
そこをファリンとタイネーブを囲むように押し寄せる漆黒を、一陣の風が、赤い髪をなびかせた彼女が、颯爽と駆け抜ける。
漆黒の鎧と、銀の刃が視界を埋め尽くす、絶望的な戦場の中で。
唯一、目を引くネルの赤髪が。
「鏡面刹!」
雷煌破と見紛うばかりの、壮絶な雷を纏わせて、ネルの体が嵐のように、アーリグリフ兵を吹き飛ばす。一閃の度に、二、三人。ついで、
「ファリン! 施術を! タイネーブ! 私についてきな!」
ざっと二、三十の兵を払い上げながら、ネルが鋭く、檄を飛ばす。
「は、はい!」
「わかりましたぁ!」
それに叱咤されながら、改めてタイネーブは棍を握る。
泣言を言っている時間は、無いのだ。
――一方。
「衝裂破!」
横薙ぎに走る剣風を、フェイトはブロードソードで受け止め、クリフがバックステップで距離を取る。瞬間。重い衝撃がフェイトの両腕に落ちた。
「っ!」
衝撃に逆らうように踏み込んだフェイトは、衝裂破の威力を無視して、アルベルとの間合いを詰める。
殺しきれなかったアルベルの剣風が、フェイトの肉を切る。
「はぁっ!」
ブロードソードをやや斜に構えて、体当たりに近い突きを放った。衝裂破後、完全に身体が開き切っているアルベルの体勢では躱せない。
――とった!
フェイトは確信する。瞬間、アルベルは流水のように自然な動きで刀を返し、フェイトの突きを弾いた。力も何もいれず、そ、とフェイトの剣先に刀を触れるようにしただけだ。
キン、と金属の擦れる音が響く。と、当時。
「双破斬!」
両手で刀を握ったアルベルが、フェイトの剣を掬い取るように、下段から刀を振り上げる。甲高い音を立ててかち合う刃。体捌きのレベルが違っている。フェイトはあまりの痺れに剣を取り落しかけた。
が。
ヒュンッ!
フェイトが握り直すよりも速く、次ぐ、アルベルが刀を振り下ろしている。
(速――っ!)
フェイトは息を呑む。振り上げよりも、尚、速い。ぎらりと光るアルベルの刃が、獲物を睨んで凄絶に光り、振り落ちる。
フェイトの首を叩き切らんばかりに。
(っ、っっっ!)
絶句しながら、身をひねる。リフレクトストライフ、は打てない。バランスが安定しない所為で、蹴りの体勢ではない。
サイドステップ――、
迫る刃をフェイトが睨みながら直感した瞬間、双破斬の切り下ろす刃が加速したように見えた。ざん、とアルベルの刀が空を切る。フェイトの肩をかすめた刃が、ちっ、と摩擦して落ちる。
フェイトは歯を噛む。
覚悟したおかげで、痛みには耐えられたが。
「剛魔掌!」
飲み込んだ|空気(いき)を、吐く間もない。
「く、そ……っ!」
たまらず、バックステップで距離を取る。アルベルの踏み込みは、フェイトの二歩を一気に詰める。
かわせない――!
確信した瞬間、頭上に、ふ、と影が落ちた。
「!」
慌てて、フェイトは身を伏せる。
同時。
「エリアルレイド!」
凄まじい轟音を上げて、舞い上がった土埃がフェイトの視界を黒く染めた。
アルベルが呻く。口端をニッと吊り上げたクリフは、拳を握って、壮絶に笑った。
「無限に行くぜっ!」
クリフの両腕に凝縮された黄金の闘気が、一瞬、ぱ、と迸った。
アルベルが刀を構える。迎撃――される前に、クリフの両拳が、まるで嵐のように吹き荒れる。
「フラッシュチャリオット!」
一体、何発打っているのか分からないほどの
瞬間。
だんっ、と横跳びに場を離れたアルベルが、側面からクリフを斬りつける。
「遅ぇ!」
「クリフ!」
フェイトの背筋が震えた。
アルベルはクリフの腕が伸びきった所を狙って、側面から切りかかったのだ。
つまり――、
(あの、フラッシュチャリオットの拳が、見えてるのか!?)
クラウストロ人の、それも相当高度な格闘術を体得しているクリフの拳を。
キィ……ンッ!
瞬間。
聞こえた金属音に、フェイトは目を丸めた。
完全に相手の死角をついたアルベルの横薙ぎ。それを、ジャブの一指しで、クリフは弾いている。
体捌きのレベルで、クリフはアルベルに劣っていない。
アルベルの赤い瞳が凄絶な光を放つ。
瞬間。クリフは、ぐ、と上体を後ろに逸らした。
ヒュンッ!
さらに横薙ぎ一閃。クリフの鼻先を掠めるように、アルベルの斬線がクリフの前髪をさらっていく。
「そんな
この俺が、と続くクリフの口を、アルベルの鉄爪が黙らせた。
カウンター気味に、びゅっ、と右拳を振り下ろすクリフの横合いから、禍々しい闘気が、凄絶に輝く。
鉄爪に宿る、赤い闘気の光が。
「!」
気付いたクリフが、距離を――取ろうとして、忌々しげに舌打ちした。
「ちぃ!」
同時。
「剛魔掌!」
ザザザザァンッッ!
鉄爪が赤い闘気を放ち、空に三層の風を起こす。牙のような鋭い剣風だった。
「ぐぉっ!?」
咄嗟に両腕を交叉させ、防御するもクリフが呻いた。――身体が浮く。
クリフの背に嫌な汗が伝う。同時。それは現実となってクリフに襲い掛かった。
ズザザァンッッ!
「ぐぁああああああああっっ!」
クリフの口を、悲鳴が割る。深く、深くクリフの腕を抉る鉄爪が、鮮血を景気良くばら撒いていく。力を込め、鋼のように硬くなった筋肉を、まるで嘲笑うかのように簡単に、残酷に。
肉切り包丁のごとくクリフの両腕を切り刻んだアルベルは、右手の刀を翻し――、
「これで終わりだ! クソ虫!」
凄絶に嗤うアルベルが、止めを刺す、瞬間、
「ヴァーティカル! エアレイド!」
フリーになっていたフェイトが、悪魔的なタイミングで剣を振り下ろした。
「っ!」
突如、フェイトに視線を向けたアルベルは、巻き上げる剣風と、叩き下ろす剣圧の、同時攻撃に目を細めた。視界を覆う凄まじい衝撃波。アルベルはつまらなさそうに、ふん、と鼻を鳴らして、クリフを斬る予定だった愛刀を、ヴァーティカルエアレイドに向かって振る。
「っ、っっっ!?」
瞬間。走った
「……その程度か?」
フェイトを睨む赤瞳が、
「剛魔掌!」
鉄爪を構え、まるで悪魔のように横殴りに左腕を振るうアルベル。瞬間。水平に剣を構えたフェイトが、突きを放とうとして――、
「……くっ!」
爪の振る
そして、
フェイトの握力がアルベルの腕力に屈した瞬間――
鉄爪は容赦なくフェイトの胸を、深く切り裂いた。
「ぐぅうっ!」
フェイトがかすかに呻く。振り回された直後、身体を投げ飛ばされるようにして地面に落ちたフェイトは、強く頬を打ち付けるもすぐに転がって立ち上がった。
アルベルは動きながらも目を細める。
フェイトの戦闘力ははっきり言ってまだアルベルの脅威ではない。だが、異常なほどの頑健さだったのだ。
「フェイト!」
クリフが仲間に気をやった隙に、アルベルは、ヴァーティカルエアレイドで削がれた傷に構わず、鉄爪を振るった。剛魔掌でフェイトの胸から腹を引き裂き、その足でクリフの下まで踏み込んだのだ。
「お前の方が楽しめそうだな、クソ虫」
「……ちぃっ!」
眼前に迫るアルベルに、クリフが舌打ちする。同時、びゅっ、と走るクリフの左ジャブが、アルベルの頬を削いだ。眉一つ動かなさないアルベルは、クリフの顔を、に、と睨み据え、ありったけの闘気を放出する。
「魔障壁!」
「ぐぉっ!?」
クリフは何かに引き込まれる感触に、声をひっくり返す。牽制用の左ジャブが闇に引き込まれ、ついで脳髄を穿つ鈍痛に、目を見開く。
「……!」
例えるなら、極度の眠気にさらされている状態で脳に釘を刺されているような、鋭くも、鈍い痛みが、脳を中心に全身を駆け巡ったのだ。クリフは歯を食いしばり、それでも、気だけは失うまいと拳を握る。だが、アルベルが放った紫色の壁はクリフの精神力を削ぎ取り、身体を動かすことさえ出来ない。
そこを、アルベルの斬撃が襲った。
「終わりだ!!」
左右、滅多切りに、アルベルの刀が振るわれる。フラッシュチャリオットの返礼と言わんばかりに、一分の隙なく。
回避も防御も出来ない、無防備なクリフはたまらず悲鳴を上げた。
「ぐぉあああああああ!」
本来なら滅多切りにせずとも、アルベルほどの腕があれば、二、三太刀で相手は絶命するはずだ。
だが。対峙したこの男も、アルベルの予想を遥かに超える、卓越した筋肉の持ち主だった。
(……ちっ!)
その分厚い筋肉が、骨を断とうとするアルベルの斬撃を、紙一重で押しとめる。幾千、幾万と振った刀の感触に比べて、明らかに鈍い感触に、アルベルは忌々しげに胸中で舌打った。刃が通らない。アルベルの斬撃に反応し、クリフは致命傷を避けているのだ。が、滅多切りで腱は絶った。これで、この男は使い物にならない。
「が、……っ!」
アルベルは身体を九十度反転させ、踏み込まんとしているフェイトに抜き打ちをかけた。
「空破斬!」
地を這う衝撃波が、凄まじい勢いでフェイトに迫る。
「っ!」
それをサイドステップでフェイトはぎりぎりにかわした。瞬間、フェイトの懐に飛び込んだアルベルは、双破斬を相手の胸に叩き込んだ。振り上げる一閃と振り下ろす一閃が、続けざまにフェイトの胸に刻んだ剛魔掌の傷を狙う。
が。
「舐めるな!」
双破斬の振り上げを更にサイドステップで回避したフェイトは、アルベルが刀を振り下ろす一瞬前に地を蹴って、アルベルの背後に回る。
「何!?」
思わず、アルベルが目を見開く。その彼に、
「リフレクトストライフ!」
強烈なフェイトの蹴打が、アルベルの背に決まった。青白い闘気を孕んだ、輝くような右の蹴打。
「ぐぉっ!?」
蹴りの一撃目で、アルベルは身体の軸をずらされ、続く、二、三撃の衝撃波で確実に前のめりに倒される。双破斬の振り下ろしを相殺されたアルベルは、歯を噛み締めて、だん、と重々しいたたらを踏んだ。
「これで、どうだ!」
その、完全に体勢が崩れきったアルベルを、フェイトの斬撃ヴァーティカルエアレイドが再び容赦なく襲う。
威力はない。
だが。
――かわせない。
「ちぃっ!」
肉を斬る剣風と剣圧に耐える。が。
ヴァーティカルエアレイドが広げるフラッシュチャリオットの傷が、アルベルの身体を、ぎりぎり抑えていた血を、盛大にぶちまけた。
「がぁあああっ!」
血飛沫を上げて、全身を走る激痛に、アルベルが顔を歪める。瞬間、初めて聞いた彼の悲鳴に、ぎ、とフェイトの瞳が光った。
(――今だっ!)
直感的に、ブロードソードを握る。と、同時、
「ブレードリアクター!」
力む度、フェイトも剛魔掌にやられた胸の傷が、溢れ出したが構わない。渾身の闘気を孕んだ斬撃を振り上げたフェイトは、悲鳴を上げて仰け反るアルベルに、容赦なく、次ぐ振り下ろしの斬撃を叩き込む。
と。
感触が鈍い。ブロードソードに切れ味が伴っていない。
(倒しきれないっ!)
フェイトは胸中で舌打つ。それでも、三撃目の突きを放とうとしたフェイトに、アルベルの鉄爪が唸った。
「調子に乗るな! クソ虫がぁっ!」
明らかに危険な量の血をばらまきながら、剛魔掌の禍々しい闘気が、アルベルの鉄爪から、三層の紅い線を空に描く。ブレードリアクターで、剣を振り下ろした体勢のフェイトが、突きを放って迎撃するには、タイミングが速い。
――間に合わない。
「く、そっ!!」
フェイトが毒づく。遠くなった時間軸の中、アルベルを睨む。剛魔掌を放つ鉄爪が、獰猛な光を帯びて自分に迫っていた。
「アクロバットローカス!」
「!?」
アルベルの背後に現れたクリフが、腱の切れた両腕を、だらりと垂らしながら笑っていた。
いつもなら拳で突き上げるアクロバットローカスを、蹴りで代用したクリフは、右足で、アルベルの首と腰を蹴り抜いた後、掬い上げるようにして、アルベルの腹を足に乗せて上空に蹴り上げた。
「へっ!」
邪悪に笑うクリフの気配。途端、地を蹴ったクリフは、完全に仰け反った体勢のアルベルに右回し蹴りを叩き込み、遠心力をつけたローリングソバットから、踵落としで相手を沈めた。
上空から落下し始めるアルベルに
「堕ちなっっ!」
アルベルの断末魔が、轟音に混じる。
「ぐぁあああああ……っ!」
凄まじい衝撃波の余波が、戦場に広がった。
ふわっ、と。
離れているフェイトの頬を、静かに撫でるほどに。
「決まったのか!?」
背後で、フェイトの声。
終撃の衝撃波が土煙を起こし、晴れる。そこに、ただ一人立つクリフが、口端を吊り上げた。
フェイトはホッとしながら頷き、アルベルを見る。真っ向勝負では勝てなかった。クリフも、フェイトも。小さなクレーターのど真ん中に倒れているアルベルは、気絶したのか、ぴくりとも動かなくなっていた。
「言ったろ? 俺に任せときゃ万事オッケーだってな」
「クリフ……! 正直、滅多切りにされてた時点でもう終わったと思ってた」
「バッキャロ! だからどこの当社比だってんだ! 腕がダメでも脚があんだろ? 脚が」
「下手な期待は、理不尽相手に禁物って身に染みてるんだ」
「……その無駄にキラキラした純粋な目をやめろ。良心が痛んじまう」
「悪魔には通じ
同時に言ったフェイト達の表情が、明るくなっている。それを視界の端に、短刀を納めたネルは、小さく微笑んだ。
「まさか、ここまでやるとはね……!」
「やるじゃんか! デカブツ! フェイト兄ちゃん!」
そう言う、彼女達の後ろには、百名近いアーリグリフ兵達が、戦闘不能状態で呻いている。
「へっ! ……テメェ等も、な」
「何とか
フェイトはブロードソードを地面に突き立て、少しぎこちなく笑った。その隣で満足そうに笑っているクリフも、アルベルに滅多切りにされた胸の傷が生々しく、注意してみれば、わずかに身体が震えている。
満身創痍。
その二人に、ネルは詠唱を始める。
「ちょっと待ってて。すぐに
「ああ、頼む」
「お願いします」
ネルはこくりと頷いて、詠唱を終え、二人の傷を癒す。
腱を切られていたクリフが、状態を確かめるように、ぐ、ぐ、と拳を握り締めた。
「ネル様!」
は、と息を呑むタイネーブの声と同時、ば、と振り返ったネルは、倒れていた筈のアルベルが、刀を杖代わりに片膝をついているのを見た。
「……なかなかやる……。だが!」
「なっ!?」
「馬鹿な!? まだ!」
慌てるシーハーツ兵を置いて、臨戦態勢に入るフェイト。拳を握ったクリフが、壮絶に笑った。