連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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36.vsアルフ

「しつけぇ野郎だな! 今、とどめをさしてやるぜ!」

 

「クソ虫如きの分際で! ……ぐぅっ!?」

 

 壮絶に笑うクリフに対し、アルベルが立ち上がろうと刀を握りしめる。だが、確かに体は限界なのだろう。意識のあるアルベルは、実際には動けなかった。

 

「終わりだ! カーレントナックル!」

 

 そこを、クリフの拳が襲う。

 瞬間。

 

「空破斬!」

 

「うぉっ!?」

 

 眼前を走った衝撃波に、クリフが止まった。衝撃波の形状は、アルベルが放つ技に良く似ているが、弾速はアルベルのそれより速い。

 何より――。

 

「この、声は……!」

 

 ば、とフェイトが振り仰ぐと、そこにはアリアスの台地で出遭った女兵士が、剣と刀を携えて、こちらに駆けてきていた。

 

「団長! ご無事ですか!?」

 

 言いながら、彼女は即座にクリフとアルベルの間に割り入り、構える。アルベルを背にした女兵士は、フェイト達にまだ、戦う気があるのを察したのだった。

 

「……何をしに来やがった!」

 

 唸りながらも、アルベルは低く問いかける。彼女、ナツメは小さく笑った。

 

「そう言う強がりは、傷が治ってからにしてください。……私は癒しの紋章術(ヒーリング)を使えません。そのまま、ゆっくり下がって頂けると有難いです」

 

「……ちぃ!」

 

 舌打ちするなり、ずるずると身体を引きずり始めるアルベル。それを視界の端に、ナツメはクリフと対峙した。

 

「さて……」

 

 彼女は、クリフ、フェイト、ネル、ロジャーを順に見据えて、ゆっくりと刀と剣を握り締めた。

 前見たときは深夜で、それも少ない明かりの中であったため、少女の容貌は良く掴めなかったが、今、見た彼女は、冷厳とした戦士だった。

 同世代ぐらいのソフィアとは雰囲気がまるで違う。凛々しく形作られた切れ長の双眸に、殺気を宿した意志の強そうな黒の瞳。癖のない黒髪はうなじの辺りで短く切られ、目元にかかるかどうかの前髪が、額に巻かれた赤いバンダナをやや隠している。

 どちらかと言えばネルに近い雰囲気だが、ネルよりも尚、冷たくて硬質的だった。

 今は漆黒の鎧に身を包んでいる彼女。

 その彼女が、確かに言ったのだ。

 

 ――紋章術、と。

 

「やっぱり……」

 

 思わずつぶやきながら、フェイトは戦うべきかを思案する。剣を握る手は緩めない。

 彼女の実力を、身をもって知っているからこそ。

 フェイトと目が合った彼女が、その様子に気付いたのか、微かに目を細めた。

 

「へぇ……。まぁまぁやるじゃん。アレンの奴はいないみたいだけど」

 

 その彼女の後ろから、新たに男が現れた。年齢にすれば二十前後。異常に整った容姿と、華奢そうに見える体格から一瞬女性かとも思ったが、適当に倒れているアーリグリフ兵を見てつぶやく声は、確かに男のものだった。

 だが。

 そんなことはどうでもいい。

 

「なっ!?」

 

 絶句すると同時、一同は目を見開く。

 何故なら、目の前の青年はアレンと同じ、銀河連邦の制服を着ていたのだ。

 

 連邦の中でも精鋭中の精鋭とされる特務部隊の、赤い制服を。

 

 ただし、似せて作ったアレンが着ているものと違って、彼のものは防護力が桁外れに高い。その性能を熟知しているからか、悠然とした足取りで歩み寄ってきた銀髪の青年、アルフ・アトロシャスは、(シャープネス)(シャープエッジ)を構える少女の頭を、ぽん、と叩いた。

 

「ま、そう気張るなよ。ナツメ」

 

「っ!」

 

 途端、凛々しく形作られていた少女の双眸が、丸くなる。そして、叩かれた頭を不思議そうに抱えたナツメは、アルフを見上げた。

 

「ダメですよ、アルフさん。私、今お仕事中なんです! ……邪魔するおつもりでしたら、帰ってもらいますよ?」

 

 キッとアルフを睨むナツメを、じ、と見返して――、アルフは薄く微笑んだ。

 

「……へぇ?」

 

 片眉を上げるなり、ナツメの頬を片手で掴み、持ち上げる。見た目筋肉質ではないのに悠々としている。

 

「ハガッ!?」

 

 奇声を上げてアルフの手を叩きながらナツメは、いだだだっ、と呻く。『ギブアップ』の意思表示だ。が、アルフの指は離れない。

 焦った彼女は、アルフの腕をぱんぱんと叩きながら、頭三つ分上にあるアルフに向かって叫んだ。

 

「ず、ずみまぜん~~! ちょっと、アクアエリーに連絡つけてみたくなったんですぅ! もう言いませんからぁ~! だから、離して……! 痛だだだだだっっ!」

 

「……分かってくれりゃそれでいい」

 

 突如、気が変わったように無造作に、アルフは、ぱ、とナツメから手を離した。音を立てて地面に倒れたナツメは、力尽きたかのようにぐるぐると目を回している。

 その彼女を適当なところに押しやって、アルフは視線を、フェイト達に向けた。

 

「……で? 特務(この)服に見覚えあるみたいだけど、あんた等、アレンの仲間?」

 

「あ、あの、アルフさん? アレンさんは、どうやらこの中にはいないみたい……」

 

「ああ。ナツメ(こいつ)の事は無視してくれて構わない。見たとおり、コツさえ掴めば大した害にならないから」

 

「えっ!? ちょ、ちょっと! 困りますよ! アルフさん!?」

 

 横から口出してくるナツメを完全に無視して、アルフはフェイト達を、否、フェイトを見据えていた。

 

「……っ!」

 

 思わず息を呑む。

 目が合った途端、アルフの放つ強烈な存在感に萎縮したのだ。

 金縛りにあったように、反射的に凍った思考が、それでも己を奮い立たせようと剣を握る手に力を込める。

 それを、どうということもなく見て、アルフはにやりと三日月状に笑った。

 

「へぇ? ……あながち馬鹿、ってわけでもねぇんだ」

 

「っ! フェイト!」

 

 つぶやくアルフが、軍服の下からフェイズガンを取り出すのと、クリフ、ネルが叫ぶのは同時だった。 

 

 ドドンッ!

 

 フェイズガンの轟音が、耳を突く。一、二発とも、フェイトの急所を狙う危険な射撃だ。それを紙一重でかわす。と、

 

「俺相手にそんな真似すると、死ぬぜ」

 

「なっ!?」

 

 ちゃり、と金属がこすれる音を立てて、気付けばフェイトの眉間に、フェイズガンが押し当てられていた。

 フェイトは息を呑む。強張った表情でアルフを見上げると、彼は薄く笑った。

 

「この場で一人ぐらい(バラ)したら、あいつ、どんな顔するだろうな?」

 

「……っ!」

 

 フェイトの背筋を、ぞ、と冷たい恐怖が這った。狂人(アルフ)の紅い瞳が、フェイトを見下ろしている。人の命をいとわない、殺人鬼の瞳が。

 本能的に震え始めるフェイトをまるで嘲笑うように。

 

(……こ、の野郎……は、強い……っ!)

 

 その感覚に、フェイトは震える歯を、ぐ、と噛み締める。己を奮い立たせるために相手を睨む。

 それでも全身の震えは隠しようもないほど大きかった。背後でクリフ達が色めき立つ。

 

「テメェ! ふざけてんじゃねぇ!」

 

「……やってくれるじゃないか!」

 

「メラ許さねぇぞ!」

 

 三人は同時に武器を構えた。その彼等を、紅い瞳が、じ、と見据える。獰猛な狂気を宿した美しいが狂った笑みだった。

 

「そっちは頭悪いのが揃ってるみたいだな……。こりゃ、アレンの奴も苦労しそうだ」

 

 くく、と喉を鳴らす。瞬間。相手の注意がクリフ達に向いた隙に、フェイトが迷わずブレードリアクターを抜き放った。

 アルフの狂気が、己が感じた恐怖が、クリフ達に向く前に――!

 無意識にそう考えていた。

 

「ぶっ飛ばしてやる!」

 

 青白い闘気を孕んだ斬撃が、アルフの顎めがけて走る。

 

 ぎきぃいっ!

 

 突如、フェイズガンに見えたそれが、刀へと姿を変えていた。

 

「なっ!?」

 

 ――正確には、銃の形から、いかにも硬質な黒い刀に武器が変わったのだ。

 それで止められた。

 フェイトの、ブレードリアクターを。

 

「形状が変わった!?」

 

「何だ!? 野郎の武器は!?」

 

 首を傾げるネルと、思わず叫ぶクリフ。それを完全に無視して、

 

「……なんだ。お前も、実は馬鹿の口か」

 

 ふ、と失笑したアルフは、それ――レーザーウェポンと名付けられた武器を一閃した。刃と刃がかみ合った状態から、フェイトのブロードソードを巻き上げる。どんっ、と重い音を立てて、アルフは鋭く剣尖を舞い上げた。

 

「っ!」

 

 フェイトは予想以上の相手の力強さに、息を呑む。自分(フェイト)の身体が一瞬浮いた。追撃を恐れて身構えたが、予想に反してアルフは動かなかった。

 

「……?」

 

 不審に思って、アルフを睨む。

 と。

 

 どぉおおんっっ!

 

 一拍遅れて、凄まじい衝撃波が、フェイトの身体を弾き飛ばした。

 

「っ!」

 

 息を呑む。フェイトを、二、三メートル後退させたアルフが、レーザーウェポンの柄で肩を叩きながら、フェイト、クリフ、ネル、ロジャーを順に見渡した。

 

「まあいいや。……かかってこいよ、お前等。どうせアイツに鍛えられてんだろ」

 

 にやりと笑うアルフに、タイネーブも、ファリンも臨戦態勢を取った。

 この相手は、本当に強い。

 それが空気を通して伝わってくるのだ。

 

 強烈な重圧(プレッシャー)として。

 

「雑魚は引っ込んでな。……俺は、アイツと違って加減も容赦もしない」

 

「っ!」

 

 タイネーブとファリンの機微を、見もせずアルフは見切る。

 思わず止まった二人は、ふ、とこちらに冷たい笑みを返してくる男を、呆然と見据えて――、

 

「ぶっ潰す!」

 

「オイラもいくぜぃ!」

 

 勢い良く叫んだ、クリフとロジャーの声に、は、と瞬きを落とした。

 

「行くぞ!」

 

 フェイトの掛け声と同時、ネル、クリフ、ロジャーが一斉に地を蹴る。成り行きを見守っていたナツメが、ば、とアルフを仰いだ。

 

「もう! 何やってるんですか! それは私の役目ですよぉ!」

 

「気にすんなって。お前はそこの『団長さん』とやらをさっさと引かせろよ。……どうせお前じゃ、こいつら四人をいっぺんには相手に出来ない」

 

「……!」

 

 は、と瞬きを落として、数瞬、思案顔を作ったナツメは、二、三。フェイト達を見据えて――、不服ながらもアルフに従った。

 踵を返し、アルベルを見る。彼は気絶したのか、ぴくりとも動かなった。その状態をあらためて、ナツメは血で固まり始めているアルベルの服を剣で器用に切り裂いていく。

 

「お、おい! 一体、何をやって……」

 

 思わず問いかけてくる漆黒兵に、ナツメは振り返らず答える。

 

「今から団長に応急処置をした後、カルサアまで運びます。……アルフさんが紋章術(ヒーリング)使ってくれると早いんですが。まあ、そこは気紛れな人ですから仕方ありません。我慢してください」

 

 言って、アルベルの服の邪魔な部分を剥がしたナツメは、懐から布の切れ端を取り出し、止血作業に入る。外傷は酷いが、大事な脈管系はほとんど無事だ。さすがと言うべきなのか、これなら、さほど布の量も要らない。

 とはいえ、放っておけば危険な状態に変わりはないが。

 

「……まさか漆黒団長(アルベル)をここまで……!」

 

 その彼女に同調したのか、シェルビーが唸る。てきぱきと止血作業を終えたナツメは、行きますよ、と言い置いた後、アルベルの身体を持ち上げた。

 痩身とはいえ、成人男性の体重を軽々と。

 

「な……っ!」

 

 容姿からはまったく考えられない彼女の膂力に、一同が瞠目する。気を失っていたアルベルが、重い瞼を、ぐぐっ、とこじ開けてきた。

 

「……余計な、ことっ、すんじゃねぇ……。クソ虫が……!」

 

 震える唇で、吐き捨てるアルベル。動かなかったが、意識はずっとあったのだろう。鎧越しのため分かりにくいが、体の冷え切ったアルベルを無表情に振り返って、ナツメはフェイト達を、否、アルフを一瞥した。

 

「……確かに、私は未熟です」

 

 言い置く彼女を、意外そうにシェルビー達が見据える。次ぐアルベルも不審そうにナツメを見上げたが、彼女の視線はそんな彼等に動じず、ただ一点を見据えていた。

 感情を抑えた、戦士の瞳で。

 

「ですが団長。相手の実力を見誤った団長もまた、未熟。他人(ヒト)をクソ虫呼ばわりするのは、相当の修練を、相手との絶対的な実力差を見せ付けてからにしてください」

 

「っ!」

 

 アルベルの赤い瞳がゆらりと燃え滾る。今にも噛み殺さんばかりの獰猛な鬼気だ。だがナツメの表情は変わらない。アルベルの敵意の瞳を真正面から受けて、彼女は首を横に振った。

 

「私は、少なくとも団長相手には絶望しません。貴方ならば、私は勝つための策を考えられる。……でも、あの人達は違う。あの人達とはまだ、私は同じ土俵にすら立てない!」

 

 言ったナツメは何かを押し隠すように、歯を食いしばった。その視線の先にはアルフがいる。

 レーザーウェポンを携えて嫣然と笑う、アルフが。

 

「……っ!」

 

 か、と目を見開いたアルベルは、引き剥がすようにナツメの背からずり落ちた。地面の土を掴んで、食い入るように戦場を見る。

 

「な、んだと……!?」

 

 つぶやく。

 つぶやくより他、なかった。

 

「空破斬」

 

 刀を象ったレーザーウェポンが、抜刀から衝撃波を繰り出す。

 

 斬ッ!

 

「うぉっ!?」

 

 カーレントナックルで接近しようとしたクリフが、ざ、と動きを止める。衝撃波の弾速はナツメのそれより速い。形状はナツメの技より、アルベルの丈に酷似していた。

 つまり、衝撃波が高くて太い。

 正確にはアルベルの空破斬よりも。

 ――まるで大地を裂かんばかりだ。

 紙一重で立ち止まったクリフの下に、アルフが迫っていた。

 ぬ、と。

 まるで蜃気楼のように突如。面を食らったクリフが、ぐ、と拳を握る。

 

 ヒュヒュンッ!

 

 牽制の左ジャブ。アルフは構わなかった。わずかに体位を傾け、二連の左ジャブが見事に避けられる。と、同時、にやりと笑って、最小の所作で突きこんできた。

 それもただの突きではない。

 空破斬同様、衝撃波を生み出すアルフの『疾風突き』が、青白い闘気と風を孕んでクリフに迫る。完全にがら空きになった、クリフの胸元。大きく目を見開く彼の表情を、紅瞳が睨み上げた。

 

 ズドンッッッッ!

 

 踏み込み音さえ、重い。

 反射的にクリフが後ろに跳んだのは、半分以上運だ。わずかにクリフは半身を切る。

 

「ぐぁあああああっっ!」

 

 咄嗟に直撃を避けたクリフの胸板が剃られた。

 ドリルで抉られたように、ざっくりと。

 

「なっ!?」

 

 思わずフェイト達が目を見開く。クリフがやられたからではない。あの『疾風突き』という技が、突きの衝撃波だけで、クリフの身体を竜巻のように吸い込んで切り刻んだからだ。

 

「クリフ!」

 

 叫ぶフェイトに、アルフがひっそりと笑う。

 

「言ったろ? 俺相手に紙一重で回避(そんなマネ)すると、死ぬってな」

 

 弾かれたように、ネルが目を見開く。瞬間、アルフの刀が、下方から凄まじい速度で振り上げられていた。

 

「くぅっっ!」

 

 上下に繰り出される斬撃『双破斬』を、ネルは何とか凌ぐ。あまりの剛剣に腕が痺れた。

 瞬間。

 よろめいたネルに追い討ちをかけるように、更にもう二撃、上下に刀が二閃された。

 

 ざざんっっ!

 

 アルベルの双破斬と違い、上下に振る斬撃が二つ、つまり四連斬で『双破斬』だ。青白い闘気を宿した斬線が、空中に美しい山を描いた。

 

「かっ!」

 

 ネルの胸元から鮮やかな血が散る。袈裟状に、二本の紅い血が。

 

「お姉さまっ!?」

 

 レーザーウェポンの刃が三分の一、食い込んでいた。直接見えたわけではないが、後に続く残光が、深々とネルの身体を突き抜ける。

 

「ネルさんっ!」

 

「さて」

 

 息を呑むフェイトを置いて、アルフがロジャーに迫る。たった一歩、それでロジャーの目の前まで詰めるアルフ。瞬間、ロジャーは斧を握った。

 

「ヒート・アッ……!」

 

 斧を振りかぶったロジャーを、振り上げの抜刀で迎え撃ったアルフの斬撃『朧』が吹き飛ばした。

 

 ドォオオオンッ!

 

 半ば空破斬のように、抜刀の斬撃で空中に巻き上げられたロジャーの身体が、続く三層の剣風に切り裂かれ、吹き飛ばされる。

 

「うわぁっっ!」

 

「ロジャー!」

 

 血をばら撒きながら、ロジャーの小さな身体が上空を三、四メートル飛んだ。どっ、と鈍い音と共に、ロジャーが落ちる。フェイトは胸の奥から滾る怒りを、アルフに向けた。

 一人、一撃。

 それで完全に相手を沈黙させた、この化け物。

 

「……これで、邪魔は無くなったな」

 

 作り笑いだったのか、レーザーウェポンについた血を払ったアルフは、フェイトを見るなり表情を消した。ブロードソードを握る、フェイトの手に力がこもる。無意識下で、彼は吼えた。

 

「――ぉおおおっ!」

 

 だんっ、と地面を踏みしめて、平突きに近い、剣を斜めに寝かせた突きを放つ。が、苦もなくレーザーウェポンに弾かれた。キィッと金属がこすれる、嫌な音が鳴る。構わず横薙ぎを放つフェイト。アルフは読んでいたのか、左手で弾いた。

 

 パンッッ!

 

 まったく刃を恐れず、刃に視線を向けず。最小の動きでフェイトの顔を見据えながら、

 

「アンタのご大層な力とやら……。俺が見てやるよ」

 

「何っ!?」

 

 言葉の意味を理解する前に、フェイトの腹に拳が叩き込まれた。ぐぅ、とフェイトがえづく。フェイトの身体が浮いた。

 

「っ!」

 

 そのとき、フェイトの腹に埋まった拳が炎を孕み、ゆっくりと旋回した。

 同時。

 

 ドゴォオオオンッッッ!

 

 凄絶な轟音を立てて、フェイトの身体が吹き飛んだ。

 

「ぐぁああああっっ!」

 

 激痛が腹から全身を駆ける。拳をねじこまれた彼の腹は、クリフ同様、ドリルで抉られたような傷を作り、炎に焼かれて煙を吐き出す。

 事実、喰らったフェイトは、腹に穴が開いたような気がした。その穴から体内に、『炎』という名の熱湯を叩き込まれたような。

 

「フェイトさんっ!」

 

「フェイトさん!」

 

 遠目で見たファリンやタイネーブには、良く分かった。アルフが鈎突きでフェイトの体を持ち上げ、フェイトの腹にめり込ませた腕に炎を纏わせて、フェイトの全身を焼いたのだ。

 

「か……、っ!」

 

 フェイトの身体が二、三メートル後退していた。まるで人形(おもちゃ)のように不自然な体勢で中空をバウンドしながら。フェイトは溝を地面に作ってようやく停止した。

 

「くっ!」

 

 加勢しようと棍を握るタイネーブ。が。アルフはすでに、フェイトの目の前にいた。

 見下すように、そ、と無感動な目でフェイトを見据えている。

 

「さあ、立てよ。……俺が見たいのは実力(そっち)じゃない。能力の方だ」

 

 一切の手加減なしに放たれた『バーストナックル』は、正真正銘フェイトの意識を断っていた。

 アルフの呼びかけに、フェイトが応えることは無い。

 

 しばしの、間。

 

 フェイトを観察していたアルフが、す、とレーザーウェポンを振り上げた。そして――、無造作に振り下ろす。

 風切音を立てて落ちる刃を、

 

「させるかよぉっ!」

 

「喰らいなっ!」

 

「ラストディッチ!」

 

 クリフのカーレントナックルとネルの凍牙、ロジャーの体当たりが遮った。

 カーレントナックルがアルフの心臓を、凍牙が振り下ろす腕を、ラストディッチがアルフ自身を狙う。

 

 キィンッ!

 

 苦も無く払われた。振り下ろしから自然、横薙ぎに変更したアルフのレーザーウェポンが、半ば横殴りに――

 

「邪魔だ」

 

 一動作でクリフの身体を、剣風『衝裂破』で弾き飛ばす。

 

 ズドンッ!

 

 クリフの巨体を軽々と。

 

「……ぁっ!」

 

 無論、衝裂破の威力に耐えるほどの体力は、最早クリフに残っていない。立つことすらやっとだった彼の身体は、悲鳴を上げることすらままならず地面に崩れ落ちた。

 力尽きたように、頭からやや不自然に。

 瞬間。

 

「デカブツーーッッ!」

 

 目を見開いたロジャーが、走った。斧を手に、アルフに向かって。

 目に涙が溜まっているのは苦痛か、それとも――。

 

「ヒート・アックスッッ!」

 

 渾身の力を込めてロジャーの振るう斧が、炎をまとって、赤く、赤く輝いた。

 アルフが、に、と笑う。

 

「威勢がいいな。……斬り応えがある」

 

 ダンッ! と踏み込んだロジャーが、アルフの頭蓋を割る勢いで迫る。一切の躊躇も、疑問も無く。

 ――少年は、ただただ無心だった。

 それを、

 さらに高く跳び上がったアルフが、無情にも叩き落した。空中で二閃。左、右袈裟状に斬撃は、あまりに速過ぎてロジャーの眼に映っていない。

 ――気付けば、斬られていたのだ。

 

「ぐぁあああああああっっ!」

 

 鮮血が少年の身体から四方に散った。ロジャーの胸の辺りで十字を描いた斬線が、深々と少年を切り刻んだのだった。

 

「ロジャ、ぁっっ! クリ、フっ……っ!」

 

 胸の傷に耐えながら、ネルが叫ぶ。だが、言葉の途中で血反吐を吐いた。声にもならない自分の喉の唸りを聞きながら、ネルはそれでも、痛みを誤魔化すように、裂かれた胸を手で押さえる。ぼたぼたと零れる血の大粒が掌に染みたが、ネルは、ぐ、と歯を噛んで、敵を睨み据えた。

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