「へぇ……」
ざんっ、と力強く着地したアルフは、煙を立てる自分自身の胸元を見下ろしながら、立ち上がった。軽く煙を払うように叩くと、傷一つついていないアルフの特務服が姿を現す。
「ば、かな……っ!」
「あれで、倒せないんですかぁ~!?」
タイネーブとファリンが、思わず絶叫する。座り込んだままクリフを抱えているネルも、立ち上がれないままのロジャーも、顔が引きつった。
化け物だった。
戦いようのない化け物。
先ほどまで善戦していたフェイトですら、唇を噛んでいる。
瞬間、
刀を納め、対峙するアレンの右手が輝いた。青く、白く――眩い光が空に向かってはじける。
「フェアリーライト」
詠唱と同時、全てを包む慈愛の光が、空から降りそそいだ。温かく、眩い光の雨。その雲間から現れた、神々しい金の光に包まれた女性を見て、タイネーブたちは息を呑んだ。
タイネーブとファリン――、否、アペリス教の人間ならば、誰もが知っている女性。
月と雨を司る女神、パルミラだ。
「なっ、っっっ!?」
天から召喚された女神の容貌にタイネーブとファリンが目を見開いている間。
「悪ぃな、アレン……」
ぐぐ、とネルに抱えられたクリフが、身を起こした。そのクリフに小さく微笑んで、アレンはすぐさま鋭い視線をアルフに向けた。
「あ、あの傷を一瞬で……」
施術士として目を剥くファリンが言うまでも無く、タイネーブはアレンを凝視していた。
普通でない事は分かっている。
あの傷が、一瞬で治るなど普通ではない。しかもそれは、クリフに限ったことではない。
「気をつけて。……奴は、本当に強い」
緊張の面持ちでつぶやくネルの声が、力を取り戻している。
ロジャーも、フェイトも。アーリグリフ軍と戦った時に負った、タイネーブ達の傷でさえ完全に。
思わず顔を見合わせるタイネーブとファリン。
カルサア修練場で、今更ながらに自分達が生き残った理由が分かった。
「一つ、確認しておく」
言い置くアレンを、薄笑いとともにアルフが見る。
「フェイト達の傷は、お前がやったな?」
「他に誰かいたか? アレン」
静かなアレンの問いかけに、問いで返すアルフ。瞬間、アレンは朱雀疾風突きの後、納刀した
「そうだな……」
つぶやいて、アレンが、そ、と視線を下げる。
「お前にどんな考えがあるのかは知らない。……だが」
アレンが鯉口を斬る。瞳はただ静かに、深く、蒼く、――今は冷たく、アルフを睨む。
「俺を怒らせたな。アルフ」
いつもより格段に落ちたアレンの声が、タイネーブの耳に届いた。
ざわ……っ、
全身の、毛穴という毛穴が、収縮する。
タイネーブが呼吸しようと息を吸うものの、萎縮してしまった身体が動かない。
気温が急激に低下する――、否、低下した気がした。
直接殺気を向けられているわけではないのに、目の前の青年が放つ
「あ、アレンさ……!」
それでもどうにか、喜色を浮かべたナツメが、アレンに呼びかける。だが。その声は、ただ一瞥、無感動にこちらを見据えるアレンの視線によって制された。
「…………ぅ……っ」
思わずナツメが閉口する。その彼女を置いて、『狂人』は嬉しそうに紅の瞳を細めた。
「いいね。久しぶりに、
アレンの、底光りする蒼瞳を見据えて、アルフもレーザーウェポンを握る。
瞬間、
ひゅっ……
二人が、消えた。フェイズガンの光弾さえ見切れるクリフには、二人が同時に地を蹴ったのが見えている。
が、
……ィンッ!
次ぐ剣戟は、クリフですらいつ繰り出されたのかまったく見えなかった。鈍く、重い金属音。
相手に刀の尺を、太刀筋を測らせない、見事な一振り。両者、抜刀術で挑んでいた。鈍い金属音は、鞘走りの音だ。
と。
珍しく、目を見張ったアルフが、己の得物を見た。
「……!」
剣速、威力、踏み込み……。
どれを取っても、まったく互角だったというのに――、
パキンッ……
アルフのレーザーウェポンが、無造作に切られたのだ。文字通り真っ二つに。
その事実にアルフが動きを止めた、わずかな一瞬。
「バーストナックル!」
轟っ!
アレンの拳が、炎を宿してアルフに奔った。
(……げ)
思わずつぶやいたアルフが後ずさる。わずか数ミリ。アルフの頬をかすめた拳は、後一瞬、アルフの反応が遅れていれば直撃だ。本能的に距離を取ったものの、アルフの頬にはうっすらと、炎の痕が残った。
白い肌に、ただ一線。
紅い線が。
「やってくれる」
ドンッ! と鋭い踏み込み音を立てて、アルフはレーザーウェポンで無造作に突きを放つ。アレンの喉を狙った危険な一撃。『疾風突き』がアレンに迫る。
切っ先の折れたレーザーウェポンで。
が。
パンッ、と軽くアレンに
瞬間、アルフの瞳が鋭く光った。アレンの右手が、兼定の柄に走る。
(アレンさんが、抜く――っ!)
傍観しているナツメが、ぐ、と息を飲む。
同時。
「朧!」
叫ぶアレンが、抜刀する。
コォッ!
およそ刀が立てる音とは思えない異音が迸った。突きを放ったアルフには、回避する手段は無い。
否、
回避など、
アレンの斬撃がアルフの肉を断つ。構わず、半身を切ったアルフが踏み込んでいた。
「砕牙ァッ!」
重い踏み込み音を立てて、およそアルフらしからぬ気合の一閃が、迸る。
「!」
そこで初めて、アレンが目を見開いた。瞬間。アルフの折れたレーザーウェポンから、凄まじい光量の雷が迸った。
ずがぁああああんっっ!
「アレンっ!」
一斉に、フェイト達が叫ぶ。
アルフの抜刀術が、凄まじい雷を孕んでアレンと飛び違いざまに振り抜かれた。横に一閃。アレンの背後、一メートルのところまで剣を薙ぎ払ったアルフは、小さく舌打ちしながら、背後のアレンをふり返った。
そして――……、
「砕牙の雷まで斬るのか?そいつは」
アレンは兼定を、す、と立てただけの態勢で静止している。
「……俺も、驚いている」
言って、アレンもまた静かに振り返る。そのアレンを、じ、と見据えて、アルフはレーザーウェポンを一閃した。
途端。
折れた刀は鉄の棒に姿を変え――、再び刀を模した。刀身が、完全に蘇っている。
「……なるほど。道理でお前がそんな古風なモン持ち歩いてんのか、納得した。未開惑星にまで来て、ちゃっかりしてやがる」
にやりと笑ったアルフは柄を左手で握り、刀身を水平にして右手を添えるなり、か、と目を見開いた。
「あれは――!」
思わず叫んだネルが、ば、とアレンを見る。アレンの方はアルフを睨んだまま、視線を動かさなかった。
――活人剣。
前に一度、ネルに見せた、アレンの技だ。
(傷が――、治る!)
喉を鳴らすネル。だが、活人剣は治癒の気功術。もともと大した傷を負っていないアルフには、意味の無い技の筈だ。
なのに――
ドォオッッッ!
爆発音を立てて、レーザーウェポンの刀身が青白く輝くと同時、アルフの気配が変わった。
どこがどう、というわけではない。
暗色の紅い瞳が、さらに深い闇を宿して微笑んでいた。
「さあ、続行だ」
踏み込み音の、切れが変わる。瞬間、アレンは兼定の刃を立てて――
斬ッ!
『双破斬』の初撃、斬り上げの一閃をアルフの
(肉弾戦――)
アレンは考えるまでも無く、ぐ、と拳を握るアルフに反応する。
「こいつは何も、刀じゃない」
「!」
そのとき、アルフのつぶやきが聞こえて、アレンは目を見開いた。瞬間。レーザーウェポンが黒く光り、鉄棒から、フェイズガンへと姿を変える。
ダダダァアンッッ!
容赦ない三連打。
アレンが、ぐ、と表情を引き締め、刀を振る。
「破ッ!」
兼定を一振り。上段から打ち込んだアレンの剣線が風を呼び、眉間、喉、心臓を狙ったフェイズガンの光弾を、すべて断ち切る。
が。
それすらも読んでいたのか、アルフは嫣然と嗤って、フェイズガンを刀に戻していた。
「食らえ」
アルフの剣が紅く輝く。炎と気、どちらも宿した強力な一閃がくる。
アルフが吼えた。
「鳳吼破!」
「!?」
あまりの異音に、フェイトが、クリフが、アルベルが目を見開く。だがそれは、この場にいる、ナツメを除いた誰もが同じで、誰もが同じ表情で、アルフを見やった。
アルフの剣先から迸った、赤い鳳凰を。
――ォオオオオオオオオッッッ!――
人の等身を、はるかに上回る鳳凰が啼く。
「アレンッッッ!」
反射的にフェイト達の声が重なった。ぐ、とナツメが
同時。
「破ァッッ!」
裂帛の気合を込めて、アレンが兼定を振り切った。振り下ろした刀を、両手で右逆袈裟に舞い上げる。瞬間。アレンの瞳の色に呼応するように、兼定の刀身が青く輝いた。
……キィイインッッ!
その剣線が、ただの一振りが、巨大な鳳凰を両断する。空破斬でも、朧でもない、斬線から風を巻き起こしたそのただの上段からの一振りが。
「……反則だろ、それ」
小さくつぶやいたアルフの身体を、呆気なく吹き飛ばす。
どふぅんッッ!
否。
「さすがだな」
それがわざとであることを一目で見抜いたアレンは、後ずさるアルフを見据えてつぶやいた。吹き飛ばされなければ、アルフは今の、兼定の斬撃で胸に深い刀傷を負ったはずだ。
この男は、そんな致命的な判断ミスを行わない。
知っているからこそ、アレンも兼定を振り切った。
――初めて。
大地を二つに断つ
「おいナツメ。シャープネスを貸せ。……あの刀、意地でも叩き折って――いや、それが出来ないにしてもヒビぐらい入れてやる」
「ほ、ほぇ? 私の、ですか?」
突如名指しされて、ナツメは腰に差した刀、シャープネスを引き抜く――手を止めた。
「……待ってください? あれって、今、鳳吼破を斬った刀、ですよね?」
静かに確認して、彼女は、じ、とアルフとアレンを見やる。その彼女に、こく、とアルフが頷いてくる。
「心配すんな。活人剣を使った今の状態でも、
「……ほ、本気の一撃って、あれ、ですよね?」
遠慮がちにアルフを見る。するとアルフは一分の躊躇もなく、こく、と首を縦に振った。
「で、ですが! アレンさんだって、この刀ではあれの全力は出せないって……!」
「
「絶っっ対、お断りしますぅううう!」
拳を握り締めて叫ぶと同時、ナツメの腰から、シャッと鞘走り音を立てて
「……え?」
ナツメが目を丸くする。一瞬で間合いを詰めたアルフが、シャープネスを手に、言った。
「お前。ホント戦闘の時以外は油断しすぎだな。……じゃ、借りるぜ」
「ぎゃぁあっ!? 待ってくださぁあああああああいぃっっ!」
泣き叫ぶナツメを置いて、アレンに向き直ったアルフが、に、と嗤う。滾るように、紅の瞳が、暗く輝いた。
一方で、対峙したアレンは、少し緊張を解いていた。
「……相変わらずだな。お前達……」
顔をしかめる彼の殺気が、和らいでいるのだ。それに舌打ちしたアルフが続けた。
「だが。……お前の仲間を殺そうとしたのは、俺だぜ」
挑発をかける。微笑ったアレンは乗ってこなかった。
代わりに――
スッと刀を構えて、殺気に変わる鬼気――剣気を走らせる。これが答えだと言わんばかりに。
ドンッ!
先ほどまでの凍るような空気ではないものの、張り詰める緊張の度合いは、まったく変わらない。微笑っているが、相当の剣気だった。
ぎゅっ、と。
誰にともなく傍観者は拳を握り、固唾を呑んだ。
「一体、この勝負……どうなるってんだ……!」
誰かが、つぶやく。
瞬間。
「今度は、こちらから行く」
アレンが踏み込んだ。
「――右っ!」
反射的に、ナツメが叫ぶ。同時、アレンの横薙ぎが、アルフの右側面を狙う。瞬間。アルフの持つシャープネスが、眩い光を放った。
ぱぁあああああ……っ!
紅い瞳が、ぎらつく。
きぃいいんっっ!
迫り来る兼定の斬撃を、アルフがついに止めた。活人剣によって高められた、闘気に呼応したシャープネスによって。
「止めたっ!?」
「おぉっっ!」
アーリグリフ軍から、歓声が上がる。
口元に笑みを浮かべたアルフは、しかし、そこで大きく目を見開いた。
ぅいん……っ!
止めた斬線から剣風が走り、アルフの肉を裂いたのだ。――ケイオスソードのように。
「ちっ!」
舌打ちながら、次ぐ上段からの切り下ろしを左に流す。作用点を、兼定が最も良く止まる一点を狙う、神経の磨り減る作業。それを嘲笑うように、アレンの斬線から放たれる剣風が、アルフの肉を斬ってくる。
刃の軌道をずらしても、兼定は容赦なくアルフを襲ってくるのだ。
「破ァっ!」
ギィインッッ!
剣風を、アルフは流星掌の気功で消し飛ばす。が。
(……流すことも不可能か……)
胸中でつぶやく。その時。眼前のアレンが、不敵に笑んだ。
「……良くかわした」
「!」
言葉の意味を察して、アルフが身構える。同時。アレンが、兼定の柄に手をかけた。
「げ……」
「鏡面刹ッッ!」
裂帛の気合が、アレンの喉を割る。と、同時。
「――……え?」
そこにいる誰もが、あまりのことに口を開けた。
ぽかん、と。
――ぴっ、ぴぴぴぴぴぴぴぴっ、
音が、なかったのだ。兼定を振る、アレンの斬撃の音が。
ただ――、
気付けば、縦横無数の斬線が、空に描かれていた。
「ぉおおおおおおっっ!」
紅い瞳を滾らせながら、アルフが吼える。
他の者には、見えぬ斬線であったとしても、実力自体は互角のアルフには、斬線すべてが見えている。
対応は可能だ。
「夢幻鏡面刹ッッ!」
アルフの口腔を、気合が裂く。同時。横薙ぎから始まったアレンの斬線に、アルフの抜刀と唐竹が同時にぶち当たった。瞬間。アレンの刀が左、右袈裟状に振り落ちる。
ヒュンッ!
「チッ!」
(速いっ!)
互角――否、活人剣を使って、身体機能を極限に高めている今のアルフは、
それを、兼定という刀が、圧倒的にカバーするのだ。
アレンの放つ一撃が、アルフの二連撃に相当している。斬撃と――何より、剣風がやっかいだ。
故に、アレンの斬線が速いと感じた。
ギキィインッッ!
アルフは息を殺しながら、左、右に走る兼定の斬撃を、横薙ぎと左右の逆袈裟で対応する。ついでアレンの胴薙ぎ――これに、疾風突きを合わせた。
「かかったな」
そのときのアレンの言葉に、は、と瞬きを落とす。
同時。
カァアアアアアア……っっっ!
兼定の刀身が、白く光る。眩いほどに青く、白く、澄んだ光を。
――アレンの眼光に、呼応するように。
「まずいっ!」
アルフの気持ちを代弁するように、ナツメが叫んだ。瞬間。光の剣と化した兼定が、アルフの胴を下から切り払った。
ズドォオオオオオンンッッ!
轟音を立てて、アルフの身体が吹き飛ぶ。
「か――……っ!」
今度は、計算などではない。完全に血反吐をばらまいて、アルフの身体が吹き飛んだ。
――フェイト達にはあの、音にもならない異音が聞こえた、その後の事象にすぎなかったが――。
「……な、んだとっ!?」
つぶやくアルベルには、事態の、半分ぐらいは見えていた。
「アルフさんっ!」
そのアルベルよりももう少し、動体視力に優れた少女には、事のおおよそが把握できている。
吹き飛んだアルフが、アレンに切り払われる寸前、シャープネスを挟んでいたと――。
誰よりも、アレンが知っていた。
「……さて、次はお前の番だ」
悠然と口端を緩めて、アルフを睨む。そのとき。
コオゥッ!
吹き飛ばされたアルフが、地面に着地するなり、凄まじい闘気を背負った。
青白い、すべてを凍てつかせるような、冷たい殺気を。
――ォオオオオオオオオオオオオッッ!――
蒼竜の、絶大な冷気を。
「蒼竜……」
ギンッとアレンを睨むアルフの瞳が、見開かれる。紅く、血の色に似た暗色の瞳が、ぎらりと底光った。その下で、ぐ、と握り締められたシャープネスの刀身が、どす黒く、紅く、輝く。
「鳳吼破ッッ!」
アルフが唇を割くと同時、紅く染まったシャープネスの刀身から鳳凰が解き放たれる。鳳吼破同様、アルフが刀を振ることによって。
――グォオオオオオオオオオオオオオッッッッ!――
蒼竜と紅い鳳凰が、折り重なるように吼え合いながら、アレンに向かって走る。その二匹は、すさまじい赤と蒼のコントラストをつけながら、猛
しゅぉおおおおん……っ!
約十メートル。
それが鳳凰の
対峙したアレンが兼定を構える。と。彼の瞳も、蒼く輝いた。
――兼定の刀身と、まったく同じ色に。
「朱雀……!」
アルフとは逆に、赤い闘気の朱雀を背負ったアレンが、兼定の刀身から蒼白い光を放つ。
迫り来る青光をまとった鳳凰に、アレンは斬撃を繰り出した。
「吼竜破!」
……っっ、コォオオオオ――ッッ!
激突。
青光をまとう鳳凰と灼熱を宿す蒼竜が、互いを食い合うように大口を開けてぶち当たった。
瞬間。
ばふんっ、という奇妙な音を立てて、フェイトの頬に、凄まじい熱風と冷風が吹き荒れる。
「……わっ!」
思わず目を閉じる。
風が、渦巻く。台風のように。竜巻のように。
同時。
赤い炎をまとった蒼竜が、鳳凰を――十メートル近い巨大な鳳凰を、完全に消し飛ばした。鳳凰の巨大な頭を、更に上回る巨大な竜の牙で。
それが、次いでアルフを襲った。炎をまとった蒼竜にしてみれば、米粒ほどの大きさのアルフに。
ずしゅぃんっ!
鳳凰を食った直後、アルフに向かった蒼竜はアルフのシャープネスによって断ち切られていた。蒼竜鳳吼破が敗北すると、確信しての一撃だった。アルフは蒼竜鳳吼破で、アレンの朱雀吼竜破を減衰させ、ケイオスソードで断ったのだ。
だが――。
「……やめた」
シャープネスの峰で肩を叩きながら、アルフはふとつぶやいた。少し不満げに。否。彼にしてみれば、大いに不満で。
「活人剣使ってこの程度って事は、お前のその刀……、必殺技を強化させる紋章でも刻んでるのか?」
「いいや……」
対峙したアレンが、構えを解く。
アルフはシャープネスの刀身を検めながら、じ、とアレンを睨んだ。
「ってことは、ようやく自分の気に耐えうる
「シャープネスが耐えられる、活人剣を使った奥義の上限は六割……。ならば俺が全力を出せば、いかに活人剣の奥義とて消せないわけはない」
「………………それだけか?」
「違うだろうな」
片眉を上げて問いかけるアルフに、アレンは首を振る。ちらりと手元の、兼定を見下ろせば、己が偉業を自慢するように、兼定がキラリと輝いた。
それに苦笑して、
(ガストに貰ったこの刀……。凄まじい!)
その、まだまだ実力の断片を出したにすぎない
「さて」
そう一言、言い置いて。
「サンキュ、ナツメ。……意外に頑張ったな。
「無事で良かったですぅうう! ホントに、無事で良かったですぅうううう!」
グズグズと泣き出すナツメに、アルフがシャープネスを返したのを確認して、アレンは本題を切り出した。
相手の、真意を探るために。
「……何のためにここに来た? アルフ」
「ほへ?」
開口一番の問いかけに、ナツメが首を傾げている。戦いの成り行きを傍観していたクリフが、弾かれたように、ば、と顔を上げた。
「っ!」
クリフの妙な反応に、フェイトが不思議そうな目を向ける。
だが当のクリフは警戒に表情を引き締めたまま、フェイトの無言の問いに答えなかった。
代わりに、
「へぇ……。どこまで聞いてんのか知らないけど、そのクラウストロ人から、ある程度の事情は飲み込んだようだな? アレン」
薄く嗤うアルフに、フェイトが瞬きを落とした。
「え……?」
クリフと、アレンを仰ぐ。
そう言えば――。
アルフが、こちらを見ているのを確認して、フェイトは目を見開いた。
(そう、言えば……)
――……それが、お前の本性か。フェイト・ラインゴッド。
遠い意識の端で、確か、アルフがそんなことを言った気がした。
アルフがフェイトの何を見て、本性、と言ったのかは知れない。
――だが。
「……お前、どうして僕の名をっ!?」
思わず叫ぶフェイトに、アルフは静かに嗤う。
「お前、本当に何も知らないつもりか?」
逆に問われて、フェイトは、え、と言葉を詰まらせた。やや混乱した頭で、しかし努めて冷静に、言葉の意味を考える。
が。
フェイトが結論を出すより先に、アルフは話題を打ち切った。
「まあ、それならそれで構わない。ただ……一つだけ、同僚の馴染で教えてやるよ」
これはアレンに向けての言葉だった。
「俺の計算だと、バンデーンがもうすぐ来る」
そう、一言。
「――何?」
眉をしかめるアレンを見据えて、アルフはそれきり踵を返した。話の流れについていけないアーリグリフ軍に向かって、アルフは言う。
「じゃ。用も終わったところで、とっとと引き上げようぜ」
「待てっ!」
引き止めるフェイトに、アルフは答えない。代わりに――
「詳しい話は仲間に聞けば? 俺より、親切に教えてくれるはずだぜ」
くく、と喉を鳴らしてアルフは去っていった。その背を、やや遠慮がちに見据えて、ナツメはアレンを振り返った。
「……アレンさん……」
迷い猫のような、弱り切った視線を向けてくる少女に、アレンは無言で首を横に振る。
今は何も言うな――。
そう言ってくるアレンは無表情で、厳しい眼差しだった。
「…………うぅ……っ」
アレンの二度目の拒絶を受けて、ナツメはしょんぼりと肩を落とすと、意を決したように踵を返した。とぼとぼと歩き始めるナツメの背が、彼女の苦難を物語るように寂しげだ。
――アレンの無事を信じて、わざわざ捜しに来た彼女にとって、敵対関係のまま、顔を合わせたというのに何の言葉を掛け合わないまま、去っていくのは辛い。
ナツメの心情を、理解しているアレンは静かに瞼を閉じた。
(……すまない、ナツメ)
声には出さず、謝罪する。拳を握ったのは無意識のことだ。
だが、それも一瞬のこと。
周りの誰にも気付かせないように未練を断ったアレンは、瞼を開けて、一同を振り返った。
「俺達も戻ろう。……アリアスで、話がある」
そう。
今後の指針を示すために。
アレンは、フェイトとクリフ、そしてネルに向かって告げた――……。