ブルォウンッッ!
バイク効果とでも言うべきなのか。
ダグラスの森まで、ほんの十数分で辿り着いたロジャーは、まったく疲れ知らずに走り続けるバイクを見上げて、ほぅ、と感嘆の息を洩らした。
「兄ちゃん、こいつ……ちっとも疲れねぇんだなぁ!」
しげしげとバイクを観察してみる。
ロジャーのこれまでの経験から、どうやらこいつは疲れるどころか息切れすらせず、ずっと走り続けている。
それが機械ゆえに、ということを理解出来ないにしても、ともかくこのバイクは「凄いのだ」と直感的に察したロジャーは、おぉ、と称えるようにバイクの装甲を叩く。
傍らで、きょろきょろと辺りを窺っていたアレンが、不意にぴたりと視線を止めた。
「……居た」
「へ?」
つぶやくアレンに、ロジャーが首を傾げながら顔を上げる。するとアレンは、森の奥をじ、と見据えて――、静かに微笑した。
(んん?)
アレンの視線の後を追ってみると、明るいオレンジ色の髪をなびかせた妖精が、ふわりと飛んできた。
白のフリルがついた紫色のドレスをまとった、ダグラスの森の妖精だ。
「あれ? アイツは……」
その妖精に見覚えがあって、ロジャーがきょとんと瞬いた。木々の間をふんわりと飛んでいた妖精が、こちらに気付くなり、嬉しそうに破顔する。
「あぁ! 会いにきてくれたんだ!」
弾むように言って、妖精はアレンを見つけるなり嬉しそうに飛び込んできた。その彼女を、そ、と左腕に留めて、アレンが問う。
「友達は出来たか?」
「……えっと……、それは、まだ……」
「そうか。焦る事はない……。ゆっくり作ればいいんだ」
「……うんっ!」
妖精はどこまでも嬉しそうだ。目に見えて興奮している彼女は、少し目が潤んでいるようにも見える。
と。
二人の傍らに立ったロジャーは、一向に話がこちらに振られるそぶりがなかったので――、特に、妖精の方がロジャーの存在に気付いていないようだったので、ことさら大きく、こほんげほん、と咳払いをした。
――しかし。
「それでね! 是非あなたにも見て欲しい場所があるの♪」
愛らしく笑う妖精は、やはりロジャーに視線を向けない。
「うぉっほん! おっほんっっ!」
「どうした?」
わざとらしいまでのロジャーの演技を、アレンが不思議そうに見下ろしてくる。その隣で、アレンを見上げていた妖精が、ロジャーに気付いて、げ、と渋面を作った。
「よ! 久しぶり!」
しゅたっ、と右手を上げて挨拶するロジャー。少し前まで幸せそうに笑んでいた妖精が、なし崩しに不機嫌に顔を歪めていった。
「ロジャー!? あなた、また凝りもせずにルシオとの男勝負とか言って、迷子になりにきたの!?」
じろり、と上から下まで、ロジャーを睨み付けて、妖精は、ふん、と小さな背を反らす。
それ自体は構わないのだが――、
「……迷子?」
首を傾げるアレンの声に、ロジャーの顔が凍った。
視界の端では、妖精が腰に手を当てて、叱るような素振りを見せている。すっかり『お姉さん』顔だ。こちらの気も知らずにぱたぱたと飛んでいる。
ロジャーは冷汗が頬を流れるのを感じながら、ぶんぶんと首を横に振った。あたふたと両手足を振って、
「ち、違わぃ! オイラがそんな、格好悪いことするわけねぇだろ!? ……やい! 森の妖精! それはオイラとお前だけの秘密だって、あれほど言ったじゃんかよ! 約束を破る奴は最低なんだぞ!」
「お、お前って! 馴れ馴れしく呼んじゃダメ! 誤解されちゃうでしょロジャーの馬鹿!」
両者が時間差でアレンを窺いながら声を張り上げ合う。その二人を交互に見やって、アレンが小さく頷いた。
「……つまり。二人は知り合いなんだな?」
「う、うん! そう! ただの知り合い! 良く森に迷い込んでくるから、私が面倒見てあげてるの!」
「んだとぉ!? オイラがいなきゃ、いっつもパペットゴーレムの連中にいじめられてるじゃんか! むしろそれを言うなら、オイラがお前の面倒見てやってるんじゃん!」
「なんですってぇ!?」
「んだよぉ!?」
ぱたぱたと羽を羽ばたかせながら、手足をやきもきと動かす妖精に、ロジャーも全身から湯気を出さんばかりにぷんぷんと怒っている。
その二人をなだめて、アレンは話を続けた。
「という事は、自己紹介の必要はないな。……すまないが、今回は君に道案内を頼みたい」
「道案内?」
会いに来てくれたんじゃないの、と首を傾げる妖精に、アレンはすまなさそうに首を振った。
「……すまない。俺達はこの森の先にある遺跡――、サーフェリオの空中庭園という所に用があるんだ」
「おぅよ!」
アレンの傍らで、ロジャーもこくと首を縦に振る。その二人を交互に見やって、妖精は残念そうに、そっか、とだけつぶやいた。
目に見えて落ち込んだ彼女に、アレンはすまなさそうにしながらも、視線をダグラスの最奥――空中庭園があると言われている方角に向ける。大体の方角が分かっているのは、サーフェリオでロジャーから借り受けた、方位磁石のためだ。
とはいえ、今回はロジャーが同伴しているため、道なき道を行くわけにもいかない。
「君は、空中庭園がどれぐらいの規模の遺跡か、知っているか?」
森の妖精が心配そうに、アレンを見据えた。
「規模って、広さの事でしょう? ……私、森から出られないから、詳しいことは分からないけど、仲間の妖精から『あそこには凄い
「
遺跡といえば仕掛けがあるのは当然だが、アレンは別の何かを考え込むように少しだけ目を細めた。
妖精が続けた。
「お宝目当てなら、引き返した方がいいよ。……強欲な人間が、あの遺跡から帰ってこなくなった話なんて五萬とあるの。危ないわよ」
「心配すんなって! オイラ達はただ! えっと、……」
「メトークスだ」
「そう! 『めとーくす』っていう花を求めてここにやって来ただけだぜ! 言わば、アミーナ姉ちゃんのためじゃん!」
ロジャーが胸をドンっと叩く。
妖精はやはり不安そうな表情のまま、押し黙っていた。