連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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other phase3 嵐の前 in アーリグリフ

「双破斬っ!」

 

 アルベルが刀を二閃する。上、下。間髪を置かぬ二連の斬撃を、しかし、目の前の男は苦もなく弾いた。キィンッと甲高い音を立てて、やや突きに似た剣先で、アルベルの刀を絡め取るようにして。

 ――そして。

 

「十年早い」

 

 斬っ!

 

 轟音とも取れる、盛大な風切音を立てて、アルフのレーザーウェポンがアルベルの胸から顔めがけて走る。フッと、一つ瞬きでもしようものなら、根こそぎ肉を、骨を断ち切らん勢いで。

 

「……ちぃっ!」

 

 それに舌打ちし、半身を切る。ざっ、と過ぎる風。アルベルの頬をアルフの剣線が削いでいった音だ。血が飛び散る。傷を検める余裕(ヒマ)はない。

 

「剛魔掌!」

 

 右足で流れる体勢を立て直すなり、アルベルは左腕の鉄爪を開いた。ジャキッという金属音を立て鉄爪は、次の瞬間、アルフに向かって――

 

「遅い」

 

 ズドンッ!

 

 走る予定が、拳を握りこんだアルフの右ストレートが、アルベルの鳩尾に決まる方が速かった。

 

「ぐぅっ!」

 

 思わず、胃液の混じった唾液を吐きそうになる。が、そこでにやりと笑ったアルフは、アルベルの腹に決まった拳を、ぐぐ、と更にねじ込んだ。

 

「――っ、っっ!?」

 

 ズガァアアンンッッ!

 

 瞬後。炎が爆ぜる。思わず身構えたアルベルは、しかし、予想以上の爆炎に思わず悲鳴を上げた。

 と。

 ガンッ、と腰に衝撃が走る。そちらに見やると、横合いから現れたナツメが、やや体当たり気味にアルベルの身体を左に流していた。

 ――アルフの炎から、逃すために。

 アルフを睨むナツメは、額から流れる血にも構わず、剣と刀を握り締める。瞬間。

 

「ソードダンス!」

 

 少女の咆哮と同時、(シャープエッジ)(シャープネス)が煌く。まさに『舞』の言葉が相応しいナツメの斬線が、アルフに向かって走る。

 

 ……ズザザザザザァンッ!

 

 ナツメが三つ振ったところで、一つ目の斬線が聞こえる。そんな不思議な時間差(タイムラグ)を生じて、右薙ぎから走った彼女の一撃を、冷たく笑ったアルフが真っ向から対峙する。

 

 ギキィンッ! という金切り音と同時、ナツメの右薙ぎに自分(アルフ)の右薙ぎを当てた両者の間に、火花が散った。

 

「――ぐぅっ!」

 

 しかし苦しそうな表情を浮かべたのはナツメだ。体重、腕力、そして技の威力。そのすべてが、アルフが上。

 故に、同じ一撃がかち合えばナツメの身体ごと持っていかれかねない。ナツメが右薙ぎを当てた瞬間、ぐぅ、と流れる身体を左手の剣(シャープエッジ)で立て直すように、彼女は初撃の右手の刀(シャープネス)の斬線を追って剣を振るう。

 (シャープネス)(シャープエッジ)を合わせるように。

 

 ギキィンッッ!

 

 二振りの体重の乗った斬撃にアルフの身体が、若干ブレる。同時。か、と目を見開いたナツメは、レーザーウェポンを払い上げんと(シャープネス)を振り上げた。

 

 が、き……っ!

 

 短い音を立てて、しかし、アルフの手からレーザーウェポンを外しきれない。それは予想のうちだ。即座に、(シャープネス)で打ち込んだナツメは、相手の握力を完全に奪ったところで(シャープエッジ)を振り上げた。

 

「お前、俺が受け太刀すると思うか?」

 

「っっ!」

 

 不意に聞こえた狂人の声に、ぐ、と目を見開く。

 

 ギキィインンッッ!

 

 瞬間。剣を振り上げた状態のナツメを、叩き切らんばかりに、アルフの左袈裟が振り落ちる。

 それを、

 

「破ぁああああッッ!」

 

 咄嗟に交差(クロス)させた剣と刀で受け止める。

 に、と笑う狂人。

 即座、ナツメは左から来るアルフの右袈裟に、か、と目を見開いた。

 

(――さすがに、速いっっ!)

 

 胸中で叫ぶと同時、

 

「砕っっ!」

 

 ぐ、と膝を曲げ、ナツメは瞬発力を付けて全身で切り上げる。これで三つ。アルフの鏡面刹は全部で五連斬の技だ。あと二つ凌げば――、

 

「っ!?」

 

 途端、リズムを変えたアルフの剣線に、全身で切り上げを放ったナツメは、即座に剣を振り下ろした。いつの間にか、納刀されたアルフのレーザーウェポンが、キンッとわずかな音を立てて抜刀してくる。技が、いつの間にか鏡面刹から夢幻という連続斬に変わっていたのだ。

 

 キィイインんぅぅ……っっ!

 

 ナツメの振り下ろしと、アルフの抜刀がぶつかり合う。

 重力を味方につけたナツメの斬線が、しかし、跳ね除けられた。重力の付加を、アルフの腕力はものともしない。

 瞬間。

 もう一振り、右手の刀(シャープネス)に力を込めたナツメが、やや体当たり気味に刀を振り下ろす。

 アルフの唐竹が落ちる方が、速かった。

 

 ぶしゅ……っ!

 

 肩に突き刺さるレーザーウェポンの感触に、ナツメが、ぎ、と歯を食いしばる。それでも、刀は離さない。勢いは衰えない。

 そのまま――、(シャープネス)を切り下ろす。

 アルフが、ぐ、とレーザーウェポンを引き寄せて、疾風突きの構えを取っていても。

 

「この、阿呆が!」

 

 一喝するように響いた、アルベルの声が無ければ。

 

「っ!」

 

 ナツメは命懸けで渾身の振り下ろしを放っていたところだ。

 

「剛魔掌!」

 

 アルベルが、わずかながらもアルフの身体をずらさなければ。

 

「……へぇ?」

 

 に、と口端をつり上げるアルフ。薙ぎから始まるアルベルの鉄爪を、レーザーウェポンをくるりと回して標的に定める。

 

 ズドンッッ!

 

 不発に終わった疾風突きが、そのままの威力でアルベルに向いた。

 

「上等だっっ!」

 

 それを振り払うように鉄爪。

 アルフの突きとアルベルの薙ぎが、ぶつかり合う。

 

 ギキィンッッ!

 

 一撃の威力はアルフが上。だがアルベルの剛魔掌は、一撃では終わらない。

 

「甘ぇっ!」

 

 突きの威力を流した瞬間、勝ち誇ったようにアルベルの赤い瞳がぎらりと光った。

 更に鉄爪で二、三撃。間髪置かずに左、右に振るアルベルに、アルフも狂った笑みで、にやりと笑った。こちらは闇を宿した、紅い瞳で。

 

「お前が、な」

 

「団長!」

 

 疾風突きを完全に止めたアルベルの頭上に、アルフの唐竹が走っていた。は、と瞬きを落とすアルベルは、ナツメの声に呼応し、ざ、と距離を取る。

 

「それでかわせると――」

 

 言いかけたアルフは、ふと、ナツメを一瞥した。悪魔のように嫣然と、含み笑う彼女を。

 

「双竜破っっ!」

 

 右手の刀(シャープネス)が赤く、左手の剣(シャープエッジ)が青く輝く。

 炎と、氷。

 まったく異なる、二つの紋章術を宿して。

 

――グォオオオオオオ……っっ!――

 

 (シャープネス)から炎竜が、(シャープエッジ)から氷竜が迸る。野太い、咆哮を上げて。

 アレンやアルフに比べれば、まだまだ拙い二匹の竜が。――竜、というよりも気砲に近い、二つの異なる刃が。

 

「へぇ……、ちゃんと竜になってるじゃないか」

 

 狂人の薄笑いを止めんばかりに大口を開けて走った。

 

 ずがぁああんんっっっ!

 

 カルサア修練場、最上階。闘技場を埋め尽くさんばかりの光を放って。

 

(やったか――!?)

 

 厳しい表情のナツメが、煙ふくアルフのいた場所に向かって身構える。

 が、

 案の定。

 手ごたえはあるが、そこから湧き出る殺気に、ナツメはぴくりと片頬を吊り上げた。

 

「……まずい」

 

 つぶやく声に悲壮が走る。と。ドンッという鈍い衝撃音とともに、姿を見せたアルフが、赤い鳳凰を背負いながら笑っていた。

 

「だが、まだまだ練気が甘いぜ。ナツメ」

 

「は、はは……」

 

 身に染みるアドバイスに、ナツメは泣きそうな顔で、引きつった表情で笑う。

 と。

 

「阿呆が……!」

 

 傍らから聞こえた相棒の声に、ナツメが振り返った。

 

 ――赤黒い、禍々しいまでの闘気を孕んだアルベルを。

 

 

「団長、それは!?」

 

 初めて見る技に目を見開く。すると意味深な笑みだけを、酷薄に刻んだアルベルが、アルフに向かって叫んだ。

 

「これで終わりだ! 阿呆!」

 

()ってみせろよ。大馬鹿が」

 

 売り言葉に買い言葉。か、と目を見開いたアルベルは、鉄爪に宿った『魔力』と言うべき闘気を、まるでアルフに叩きつけるように、ざんっ、と翳した。

 

「吼竜破!」

 

 赤黒い闘気が爆ぜる。思わずアレンの吼竜破を連想したナツメが、しかし、あまりにも禍々しい『吼竜破』に息を呑む。

 と。

 大地から赤い竜が、まるで水面から顔を出すように大口を開けて現れた。

 

――グォオオオオオオッッッ!――

 

 アレンやアルフの蒼竜に比べれば、大きさはそれほどでもない。せいぜい、三分の一から四分の一――それが六匹、各々の竜が先を取り合うかのようにアルフに向かって走る。

 

「複数竜!?」

 

 小ぶりとはいえ、数が増すほど力の制御が難しい。アレンもアルフも、ただ『威力』を取って一匹にしたに過ぎないが、ナツメの記憶では六匹もの闘気の竜を呼び出したのは、このアルベル・ノックスが初めてだった。

 

「……面白い」

 

 その六匹の竜を見据えて、アルフが笑う。数ではなく、一撃。それにすべてを込める、アルフの『鳳吼破』が――

 

「俺とお前、どっちが上か。真剣勝負と行こうか」

 

 レーザーウェポンから全力で放たれた。

 

 

 ……………………

 ………………

 

 

 完全燃焼、とはこの事だろう。

 

「……………………」

 

 アルベルとナツメ。二人仲良く沈黙した闘技場で一人、平然と立っているアルフは、レーザーウェポンを軍服の下にしまうなり、冷めた表情で二人を見下ろした。

 

「ま、これはこれで。それなりに楽しめたか」

 

 特務以外の人間が、アルフとここまでまともに戦えた記憶は、数えるほどもない。

 が。

 

「資質はあるが、まだ敵じゃないな」

 

 発展途上という現実が、アルフには物足りなかった。

 もっと死の淵で、ただ生死を賭けて斬り合うほどの強敵でなければ――。

 

(……足りない。これでは)

 

 アルベルとナツメ。

 この二人を同時に相手にし始めてもう三日になるが、最近はコンビネーションを覚えたために、こちらが活人剣を使っても、そこそこ楽しめるようになってきていた。だが、それもアルフにとっては問題で――、中途半端に相手が強くなった所為で、中途半端に燃えてしまう。故に、この身体の疼きを、アルフは抑えなければならないのだ。

 全力で、相手を斬り殺そうとする己の本能を。

 魂の震えを。

 

「やっぱ強敵のいない世界なんて興味ねぇな……」

 

 今はその強敵(アレン)と再び同等に戦い合うため、アルフもアルベルの特権を使ってアーリグリフ中の鍛冶屋を当たっている。

 まだ当たりは引いていない。

 ――だが。

 

「……楽しみだ」

 

 くく、と喉を鳴らして。

 やはり生きていた同僚に、アルフは満足げに微笑んだ。

 

 

 アーリグリフとシーハーツの全面戦争、前夜のことだった。

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