「双破斬っ!」
アルベルが刀を二閃する。上、下。間髪を置かぬ二連の斬撃を、しかし、目の前の男は苦もなく弾いた。キィンッと甲高い音を立てて、やや突きに似た剣先で、アルベルの刀を絡め取るようにして。
――そして。
「十年早い」
斬っ!
轟音とも取れる、盛大な風切音を立てて、アルフのレーザーウェポンがアルベルの胸から顔めがけて走る。フッと、一つ瞬きでもしようものなら、根こそぎ肉を、骨を断ち切らん勢いで。
「……ちぃっ!」
それに舌打ちし、半身を切る。ざっ、と過ぎる風。アルベルの頬をアルフの剣線が削いでいった音だ。血が飛び散る。傷を検める
「剛魔掌!」
右足で流れる体勢を立て直すなり、アルベルは左腕の鉄爪を開いた。ジャキッという金属音を立て鉄爪は、次の瞬間、アルフに向かって――
「遅い」
ズドンッ!
走る予定が、拳を握りこんだアルフの右ストレートが、アルベルの鳩尾に決まる方が速かった。
「ぐぅっ!」
思わず、胃液の混じった唾液を吐きそうになる。が、そこでにやりと笑ったアルフは、アルベルの腹に決まった拳を、ぐぐ、と更にねじ込んだ。
「――っ、っっ!?」
ズガァアアンンッッ!
瞬後。炎が爆ぜる。思わず身構えたアルベルは、しかし、予想以上の爆炎に思わず悲鳴を上げた。
と。
ガンッ、と腰に衝撃が走る。そちらに見やると、横合いから現れたナツメが、やや体当たり気味にアルベルの身体を左に流していた。
――アルフの炎から、逃すために。
アルフを睨むナツメは、額から流れる血にも構わず、剣と刀を握り締める。瞬間。
「ソードダンス!」
少女の咆哮と同時、
……ズザザザザザァンッ!
ナツメが三つ振ったところで、一つ目の斬線が聞こえる。そんな不思議な
ギキィンッ! という金切り音と同時、ナツメの右薙ぎに
「――ぐぅっ!」
しかし苦しそうな表情を浮かべたのはナツメだ。体重、腕力、そして技の威力。そのすべてが、アルフが上。
故に、同じ一撃がかち合えばナツメの身体ごと持っていかれかねない。ナツメが右薙ぎを当てた瞬間、ぐぅ、と流れる身体を
ギキィンッッ!
二振りの体重の乗った斬撃にアルフの身体が、若干ブレる。同時。か、と目を見開いたナツメは、レーザーウェポンを払い上げんと
が、き……っ!
短い音を立てて、しかし、アルフの手からレーザーウェポンを外しきれない。それは予想のうちだ。即座に、
「お前、俺が受け太刀すると思うか?」
「っっ!」
不意に聞こえた狂人の声に、ぐ、と目を見開く。
ギキィインンッッ!
瞬間。剣を振り上げた状態のナツメを、叩き切らんばかりに、アルフの左袈裟が振り落ちる。
それを、
「破ぁああああッッ!」
咄嗟に
に、と笑う狂人。
即座、ナツメは左から来るアルフの右袈裟に、か、と目を見開いた。
(――さすがに、速いっっ!)
胸中で叫ぶと同時、
「砕っっ!」
ぐ、と膝を曲げ、ナツメは瞬発力を付けて全身で切り上げる。これで三つ。アルフの鏡面刹は全部で五連斬の技だ。あと二つ凌げば――、
「っ!?」
途端、リズムを変えたアルフの剣線に、全身で切り上げを放ったナツメは、即座に剣を振り下ろした。いつの間にか、納刀されたアルフのレーザーウェポンが、キンッとわずかな音を立てて抜刀してくる。技が、いつの間にか鏡面刹から夢幻という連続斬に変わっていたのだ。
キィイインんぅぅ……っっ!
ナツメの振り下ろしと、アルフの抜刀がぶつかり合う。
重力を味方につけたナツメの斬線が、しかし、跳ね除けられた。重力の付加を、アルフの腕力はものともしない。
瞬間。
もう一振り、
アルフの唐竹が落ちる方が、速かった。
ぶしゅ……っ!
肩に突き刺さるレーザーウェポンの感触に、ナツメが、ぎ、と歯を食いしばる。それでも、刀は離さない。勢いは衰えない。
そのまま――、
アルフが、ぐ、とレーザーウェポンを引き寄せて、疾風突きの構えを取っていても。
「この、阿呆が!」
一喝するように響いた、アルベルの声が無ければ。
「っ!」
ナツメは命懸けで渾身の振り下ろしを放っていたところだ。
「剛魔掌!」
アルベルが、わずかながらもアルフの身体をずらさなければ。
「……へぇ?」
に、と口端をつり上げるアルフ。薙ぎから始まるアルベルの鉄爪を、レーザーウェポンをくるりと回して標的に定める。
ズドンッッ!
不発に終わった疾風突きが、そのままの威力でアルベルに向いた。
「上等だっっ!」
それを振り払うように鉄爪。
アルフの突きとアルベルの薙ぎが、ぶつかり合う。
ギキィンッッ!
一撃の威力はアルフが上。だがアルベルの剛魔掌は、一撃では終わらない。
「甘ぇっ!」
突きの威力を流した瞬間、勝ち誇ったようにアルベルの赤い瞳がぎらりと光った。
更に鉄爪で二、三撃。間髪置かずに左、右に振るアルベルに、アルフも狂った笑みで、にやりと笑った。こちらは闇を宿した、紅い瞳で。
「お前が、な」
「団長!」
疾風突きを完全に止めたアルベルの頭上に、アルフの唐竹が走っていた。は、と瞬きを落とすアルベルは、ナツメの声に呼応し、ざ、と距離を取る。
「それでかわせると――」
言いかけたアルフは、ふと、ナツメを一瞥した。悪魔のように嫣然と、含み笑う彼女を。
「双竜破っっ!」
炎と、氷。
まったく異なる、二つの紋章術を宿して。
――グォオオオオオオ……っっ!――
アレンやアルフに比べれば、まだまだ拙い二匹の竜が。――竜、というよりも気砲に近い、二つの異なる刃が。
「へぇ……、ちゃんと竜になってるじゃないか」
狂人の薄笑いを止めんばかりに大口を開けて走った。
ずがぁああんんっっっ!
カルサア修練場、最上階。闘技場を埋め尽くさんばかりの光を放って。
(やったか――!?)
厳しい表情のナツメが、煙ふくアルフのいた場所に向かって身構える。
が、
案の定。
手ごたえはあるが、そこから湧き出る殺気に、ナツメはぴくりと片頬を吊り上げた。
「……まずい」
つぶやく声に悲壮が走る。と。ドンッという鈍い衝撃音とともに、姿を見せたアルフが、赤い鳳凰を背負いながら笑っていた。
「だが、まだまだ練気が甘いぜ。ナツメ」
「は、はは……」
身に染みるアドバイスに、ナツメは泣きそうな顔で、引きつった表情で笑う。
と。
「阿呆が……!」
傍らから聞こえた相棒の声に、ナツメが振り返った。
――赤黒い、禍々しいまでの闘気を孕んだアルベルを。
「団長、それは!?」
初めて見る技に目を見開く。すると意味深な笑みだけを、酷薄に刻んだアルベルが、アルフに向かって叫んだ。
「これで終わりだ! 阿呆!」
「
売り言葉に買い言葉。か、と目を見開いたアルベルは、鉄爪に宿った『魔力』と言うべき闘気を、まるでアルフに叩きつけるように、ざんっ、と翳した。
「吼竜破!」
赤黒い闘気が爆ぜる。思わずアレンの吼竜破を連想したナツメが、しかし、あまりにも禍々しい『吼竜破』に息を呑む。
と。
大地から赤い竜が、まるで水面から顔を出すように大口を開けて現れた。
――グォオオオオオオッッッ!――
アレンやアルフの蒼竜に比べれば、大きさはそれほどでもない。せいぜい、三分の一から四分の一――それが六匹、各々の竜が先を取り合うかのようにアルフに向かって走る。
「複数竜!?」
小ぶりとはいえ、数が増すほど力の制御が難しい。アレンもアルフも、ただ『威力』を取って一匹にしたに過ぎないが、ナツメの記憶では六匹もの闘気の竜を呼び出したのは、このアルベル・ノックスが初めてだった。
「……面白い」
その六匹の竜を見据えて、アルフが笑う。数ではなく、一撃。それにすべてを込める、アルフの『鳳吼破』が――
「俺とお前、どっちが上か。真剣勝負と行こうか」
レーザーウェポンから全力で放たれた。
……………………
………………
完全燃焼、とはこの事だろう。
「……………………」
アルベルとナツメ。二人仲良く沈黙した闘技場で一人、平然と立っているアルフは、レーザーウェポンを軍服の下にしまうなり、冷めた表情で二人を見下ろした。
「ま、これはこれで。それなりに楽しめたか」
特務以外の人間が、アルフとここまでまともに戦えた記憶は、数えるほどもない。
が。
「資質はあるが、まだ敵じゃないな」
発展途上という現実が、アルフには物足りなかった。
もっと死の淵で、ただ生死を賭けて斬り合うほどの強敵でなければ――。
(……足りない。これでは)
アルベルとナツメ。
この二人を同時に相手にし始めてもう三日になるが、最近はコンビネーションを覚えたために、こちらが活人剣を使っても、そこそこ楽しめるようになってきていた。だが、それもアルフにとっては問題で――、中途半端に相手が強くなった所為で、中途半端に燃えてしまう。故に、この身体の疼きを、アルフは抑えなければならないのだ。
全力で、相手を斬り殺そうとする己の本能を。
魂の震えを。
「やっぱ強敵のいない世界なんて興味ねぇな……」
今はその
まだ当たりは引いていない。
――だが。
「……楽しみだ」
くく、と喉を鳴らして。
やはり生きていた同僚に、アルフは満足げに微笑んだ。
アーリグリフとシーハーツの全面戦争、前夜のことだった。