連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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45.アーリグリフの決断

「団長!」

 

 バンッ、と荒々しくアーリグリフ城の扉が開くと同時、部屋の椅子に、気だるげに寄りかかっていたアルベルは、視線を上げた。息を切らして、彼の部屋に入ってきたのは黒髪黒目の小柄な少女だ。すでに見覚えのある顔だが、アルフに言われたからか、今は漆黒の鎧を着ていない。

 アルベルには馴染みの無い、異国の服をまとった彼女は、そのあどけない顔立ちに、必死とも取れる悲壮な色を乗せて、アルベルを見据えていた。

 

「なんだ、阿呆」

 

 どうせろくでもない用だろうが、と思いながら聞いてみると、今にも泣きそうな表情(カオ)のナツメが、ぐ、と涙をこらえて叫んだ。

 

「アルフさんが何処にもいないんです! 通信にも出てくれなくて……! うぅ、もしかしてバンデーンにアルフさんまで……っっ!」

 

 言っている途中で、最悪の事態でも想像したのか、少女は絶望的な表情(イロ)を浮かべると、両手で頭を押さえて、ぼたぼたと泣き始めた。

 シーハーツ軍と全面戦争をしたあの日。シーハーツ、アーリグリフ両軍とも、撤退が早かったため、星の船による被害は、それほど深刻にはならなかった。それでも『星の船』に向かって行った疾風は壊滅状態になり、それ以前のシーハーツ軍との戦いによって斃されたアーリグリフ兵の数も鑑みれば、今回の戦はアーリグリフにとって致命的な痛手となった。

 ――それに。

 

(アルフが警告してなけりゃ、漆黒だってタダで済んじゃいねぇ。……空から突然現れやがった奴らは、一体何だ?)

 

 珍しく思案顔を作って、考え込む。そうする一方で、考えても状況が変わらないことを、アルベルは知っていた。こうしてアルベルがアーリグリフ城に来ているのも、あの得体の知れない連中への対抗策を講ずるために、王によって呼び集められたのだ。

 

「おい、阿呆」

 

 一人、騒ぎ立てながら、ぼろぼろと泣いている少女に話しかけると、彼女のマヌケな顔がこちらを向いた。戦っている時は、恐ろしく凛とした少女であるにも関わらず、普段は今のように、こちらがどんなに頑張っても敵意はおろか、警戒する気すら起こらない。

 ――今は唯一、アーリグリフに居る者の中で、あの得体の知れない連中について説明できそうな少女だ。

 少し頼りないが、王が尋ねる前に、尋ねてみた。

 

「テメエが言ってる、『バンデーン』ってのが、あの空にいる連中のことか?」

 

「あ、はい。そうです!」

 

 意外にもあっさりと頷いて――、ナツメは、は、と表情を硬くした。

 

「ちょっとタイムです!」

 

 言うなりアルベルに背を向け、一人考え込むナツメ。

 両腕を胸の前で組んだ彼女は、うぅむ、と唸りながら虚空を見上げた。

 

(いいのか!? 保護条約が……っ、でも! バンデーンが目の前に迫ってるんだし、ちゃんと対策を練ろうにもアルフさんはいないし! バンデーンが攻めてきた時のことを考えると、やはりここは、話しておいた方が……!?)

 

 だが、しかし、と唸りながら頭を捻るナツメに、アルベルはのそり、と近付くと、小さく屈みこんだ彼女の背を、無造作に蹴り倒した。

 

「はぉう!?」

 

 受身も取らずに、顔面から床に突っ込むナツメ、を見下ろして、アルベルは蹴り倒した右足で彼女を足蹴にしたまま、言った。

 異様に殺気で冷えた、その赤い瞳を細めて。

 

「テメエの都合なんざ知ったこっちゃねぇ。洗いざらい、吐け」

 

 これ見よがしに、カシャ、と鉄爪を鳴らすアルベル。そのアルベルを、そぉ、と見上げて――、その容赦ない瞳と目が合った瞬間、ナツメはガタガタと震えながら、絶望に顔を歪めた。

 

(ま、まずい……!)

 

 殺る気だ、と胸中で叫びながら、しかし、どう話せばいいのか、彼女自身も整理がつかない。敵がバンデーンであること。そして、あの朱雀吼竜破でなければ、恐らく、この星には他に対抗できる威力を持った武器が無いであろうこと。

 

(それから……、あの朱雀吼竜破をも上回る射程と、バンデーンの戦艦を一瞬で消滅させたあの光の柱……)

 

 あの光が、どうやって放たれたのかは分からない。だが、光が撃ち上がった方向を考えれば、恐らくそれが、シーハーツのものであるということ。

 ナツメが分かるのは、せいぜい、それぐらいのものだ。

 

「相変わらず仲が良いのか悪いのか、わかりにくいな? お前たちは。アルベル」

 

 苦笑しているような、明瞭な重低音がナツメの後ろから聞こえた。

 頭上のアルベルが、そちらを向く気配が起こる。

 

「王か」

 

 ぽつ、とつぶやくアルベルは、しかし、主君が目の前にいるというのに、敬う様子もなく、平然とナツメを足蹴にしたままだった。その彼に続いて、遅ればせながら首をめぐらせたナツメは、部屋に入ってきた男――アーリグリフ十三世の姿を見つけるなり、へにゃり、と表情を緩ませた。

 

「あ、どうも」

 

 あまりに緊張感のないアルベルとナツメの様子に、苦笑したアーリグリフ王は、視線でアルベルにナツメを解放するように促す。ふん、とだけつぶやいたアルベルが、右足を退けて、ふと王の後ろに控えていた二人の男を見つけるなり、目を細めた。

 風雷団長ウォルターに、――疾風団長、ヴォックスだ。

 いたたた、と腰を押さえながら立ち上がったナツメに、王が問いかける。

 

「ナツメよ。先ほどアルベルの奴も尋ねていたようだが、お前はあの星の船が、いかな者達なのか、知っているのか?」

 

 ナツメは困ったように眉根を寄せていたが、やがて観念したように、こくりと頷いた。

 途端、ヴォックスの瞳に、警戒の色が走る。それには気づかず、罰を待つ子供のように、しゅん、と小さくなったナツメは、二、三回、考えをまとめるように口を開閉させてから、改めてアーリグリフ王を見上げた。

 

「私も、全てを知っている訳ではありません……。ですが、奴等が何者であるか。そして、私が何処から来たのかは、ご説明出来ます」

 

 それが、彼女の知っている全てであったから。

 その真意を伝えるため、ナツメは表情を引き締めてアーリグリフ王を見る。己の言葉に、嘘偽りが無いことを示すように、真っ直ぐに。穢れを知らない黒瞳を真正面から見返して、アーリグリフ王は深々と、頷いた。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

「ううむ……。なんとも突拍子もない話よな。それを信じろと言うのか? ナツメよ」

 

「はい」

 

 自分がこの星の人間では無い、と言うこと。

 アルゼイ達が『空』と認識していた場所の向こうには、実に様々な文明を持った知的生命体が、数多くいると言うこと。そしてハイダで、ナツメの師がバンデーンという種族の艦隊に襲われ、この星に遭難した彼を救出するために、ナツメはここに現れた、と言うこと。

 それらを順に、ナツメは話した。

 ハイダのことを話す時だけは、少し苦しそうに。

 

「しかし、これでおぬしの言動にも、合点がいったわい」

 

 うつむくナツメに、ウォルターの優しい声がかかる。そのウォルターを見上げて、感銘を受けたナツメは、早くも目に涙を浮かべて、泣かないよう、ぐ、と唇を引き結んだ。

 

「ウォルター様……!」

 

 そのウォルターの隣では、思案顔を作ったヴォックスが、更にナツメに問いかけた。

 

「と、いうことは、我が国に落ちたあの正体不明の船と、シーハーツに落ちた船。そしてあの巨大な星の船は、我らの知る世界とは違う、異界の産物だと言うことか?」

 

 こちらは好意的ではなく、警戒の入ったヴォックスの顔を正面から見返して、ナツメは真剣な表情で、こくりと頷いた。

 

「はい。ですが、船の大きさで分かるように、今回の『星の船』の装備は、他の二つとは格が違います。あの戦場で、彼等(バンデーン)を退却させられたのは、本当に奇跡としか」

 

「……………………」

 

 つぶやくナツメに、ヴォックスも黙す。黙っていたアルベルが口を開いた。

 

「御託は良い。……で? 奴等を倒す策はあるんだろうな?」

 

 声音を落とすアルベルの問いに、ナツメの表情が曇る。静かに俯いた彼女は、ふるふると首を横に振った。

 

「この国には無理です……。あの光の柱が何なのか分かれば、まだ対処のしようもあるかもしれませんが……」

 

 朱雀吼竜破を放てるアレンも、今はシーハーツにいる身だ。

 よりにもよって戦争の只中に、敵国のアレンに助力を要請するのは不可能だろうと、さしものナツメも気付いていた。

 

(それにアレンさんと合流できたとしても、朱雀吼竜破の射程にバンデーンは最早いない……)

 

 そう。

 あの光の柱がバンデーン艦を消し去った時から、バンデーンは地上からの攻撃を恐れて艦隊の高度を上げている。全面戦争からこちら、一度も地上からバンデーン艦の姿を見ていないのがいい証拠だ。

 

「光の柱、か……」

 

 つぶやくアルゼイに、ナツメも難しい表情で頷く。

 

「シーハーツに、一度使者を送ってみてはいかがですかな。王」

 

「……ヴォックス!?」

 

 意外な人物の、意外な提案に、誰もが耳を疑った。アーリグリフ三軍の中でも、際立った鷹派のヴォックスから、まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

 一目で一同が何を言いたいのか分かる、そんな視線を受けて、ヴォックスは皮肉げに失笑し、和平を望む者ではあり得ない、いつもの好戦的な表情で、彼等を順に見渡した。

 

「あの騒ぎの中、私は見たのですよ、王。シーハーツの女王が、我が国に対抗するために『クリムゾンセイバー』と名付けたと言う例の、長刀を持った赤い服の男が、星の船を揺るがせたのを」

 

「何!?」

 

 驚きに目を瞠るアルゼイの傍らで、ウォルターとアルベルが、す、と目を細めた。その微妙な空気の流れを感じて、ヴォックスが訝しげに二人を見たが、次の瞬間には、アルベルとウォルター、そのどちらからも微妙な気配は消えていた。

 代わりにナツメが、ぽりぽりと頭を掻いてつぶやく。

 

「あのぉ~……。確かに、この星に来てから『人間兵器』になってるっぽいアレンさんにバンデーンの相手を頼むのは、一番安定した良い判断だと思うんですけど……。いいんですか?」

 

 今回の戦争は、アーリグリフが仕掛けたものであることは、ナツメでも知っている。

 そのニュアンスを含めて尋ねると、ヴォックスはナツメを振り返って、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「シーハーツにあのような化物がいるのでは、おちおち戦争もしておれん。やむを得まい」

 

「……確かに。ヴォックスの話が本当ならば、よくあの戦場で皆無事だったものだ」

 

 つぶやくアルゼイの言葉に、ウォルターが、は、と目を見開いた。何か思いついたように、突然。

 

「?」

 

 ウォルターの異変に、長い付き合いのアルベルだけが気付く。異変、というには、あまりに小さい、老人の変化に。

 

(こういうことか……。あの小僧め!)

 

 しかし、気付いたアルベルには構わず、ウォルターは一人、相手の器量に舌を巻いていた。脳裏を過ぎるのは、カルサアにやってきたあの若い使者だ。

 長刀を持った赤い服の男。その特徴をヴォックスが口にした瞬間から、彼であることは察していた。そして、カルサアで彼が言っていた言葉の意味を、ウォルターは改めて理解したのだ。

 

 ――では。この話を受け入れられるよう、こちらで取り計らって置きます。

 

 そう言っていた、彼の真意を。

 彼はシーハーツ軍を使って、戦でアーリグリフに対抗してきた。疾風を一瞬で壊滅させた星の船をも脅かす力を、その手にしながら。

 

(奴は敢えて、シーハーツ自身の軍事力で我等と戦い、我が軍をあそこまで追い詰めた……!)

 

 信じられないが、圧倒的数の不利を、自らが有利に戦える戦場を作り出すことで勝利をもぎ取ろうとしていた。

 星の船が出現して無事に済んだのは、言わばアーリグリフの方だ。

 

「……うそ寒い話じゃのぅ……」

 

 つぶやくウォルターに、神妙な顔のアルゼイが頷く。鼻で笑ったのは、ヴォックスだ。

 

「何を気弱いことを」

 

 失笑したヴォックスは、今回の戦から考えられる危機を、あまり重要とは感じていなかった。横柄に腕を組んだ彼は、嘆かわしい、とぼやくなり、ウォルターを侮蔑した。

 

「此度の戦は、すべて異界の住人どもが起こしたこと。なれば、奴等さえいなくなり、星の船を追い払ってしまえば、シーハーツを再び陥落させる事など難しくもありますまい」

 

 ヴォックスが喉を鳴らす。その彼を、じ、と見据えて、ウォルターはやれやれとため息を吐いた。

 

「それは油断よ、ヴォックス。もしもあの時、お主の指摘通り小僧(アルベル)を投獄し、ナツメを漆黒の副団長に起用せなんでみよ。……シーハーツの巨大な施術攻撃を食らって、指揮官のおらん漆黒が真っ先に倒れ、我等が圧倒的に勝っていた『数』は削られ、分断された戦況からワシらは一瞬で国を傾けておったわい」

 

「……っ!」

 

 息を呑むヴォックスが完全に押し黙ったのを見て、アルゼイが深刻な表情でウォルターを振り返った。

 

「ではウォルター。星の船を追い払ったその後でも、お前はかの聖王国を攻め落とすのは不可能、と申すのか?」

 

 問うアルゼイに、ウォルターは重々しく、首を横に振った。

 

「不可能、とまでは申しませぬ。しかし、もうじき冬がやってくると言うのに、星の船を追い払った後の我らに、シーハーツを攻め落とすほどの国力は残っていますまい。何せ、我が軍は此度の戦で、向こうよりも甚大な被害を出しておりまする。その上、強化された施術士たちはこれまでとは比べものにならない広大な施術で対抗してきますゆえ、たった数日の間で別人のように成長した敵兵の強さを考えますれば、冬が明くのを待ったとしても、今までの様には」

 

「……星の船が現れたのは、むしろ我らにとってシーハーツから手を引く機になった、と?」

 

 探るようにウォルターを見るアルゼイを筆頭に、ウォルターの話を聞いていたヴォックスとアルベルが不服そうに顔をしかめた。その彼等を見渡して、ウォルターは、に、と好々爺の仮面ではない、不敵な笑みを口元に浮かべてみせた。

 

「我が王よ。シーハーツと手を組むのは、それなりの利点(メリット)がありますぞ」

 

 そう言ってウォルターが取り出したのは、一枚の親書だ。カルサアで極秘に行われた会談で、アレンがウォルターに渡した手紙だった。

 

「何?」

 

 アルゼイが首を傾げながら、ウォルターから手紙を受け取る。差出人は、シーハート27世だった。アルゼイは息を飲むようにして目を瞠るなり、慎重に、書面に目を通した。

 

「これ、は……」

 

 読み進めるアルゼイの表情が、険しくなっていく。

 

 ――……そして。

 

 読み終えたアルゼイは、手紙から顔を上げた。酷く、深刻な表情で。

 アルゼイは、丁寧に手紙を折り直すと、ウォルターと視線を合わせて――途端、やられた、と叫びながら、呵々、と笑った。

 訝しげにヴォックスが見る。アルゼイは手紙を、ヴォックスに渡すと興奮した調子で叫んだ。

 

「まさかこの俺が、ロメリアに出し抜かれるとはな! ……まったく! 確かに俺も、敵を侮っていたか!」

 

 言っている間も、アルゼイはずっと笑っている。ヴォックスは首を捻りながら、手紙に目を落とした。

 書かれている内容は、以下のようなものだった。

 

 ――此度、私がこのような書をしたためたのは、我が国と貴国、アーリグリフとの現状を嘆いてのものです。

 既に聞き及んでいるでしょうが、我が国は今、戦況を我が国の勝利と言う形で打破すべく、施術兵器を改良させた新兵器、サンダーアローを開発中です。ですが、アペリスの聖女と称される私にとって、この兵器を振るうことは本意ではありません。

 そこでウォルター卿。そなたに頼みがあるのです。

 そなた等が求める豊穣の地の、手がかりと成る者を使者として送る代わり、我らが愛すべきアペリスの信者を解放することをここに要求致します。

 ですが、これは今すぐの話ではありません。

 我らが示す来るべき時に、この親書をアーリグリフ王にお渡し下さい。

 色好い返事を期待しております。 

 シーハート二十七世、ロメリア・ジン・エミュリール

 

 

「な、んだ……っ! この書は!?」

 

 掠れる声で、叫ぶヴォックス。声が悲鳴に近くなったのは、不遜極まりない手紙の内容と、まるで未来を予言するような今の事態に、瞠目したためだ。

 横合いから手紙を読んだナツメが、あ、と何か思い立ったように表情を固めている。が、そんな彼女には気付かず、ヴォックスは衝動のままに、その手紙を破り捨てようとした。

 

「フザケおって!」

 

 叫んで、手紙を無造作に丸めるその手を、アルゼイに制された。反射的に、歯噛みせんばかりの勢いで睨み返すヴォックスが、確かに自分のプライドを傷つけられたことを物語っている。

 その彼を真っ向から見据えて、アルゼイは首を横に振った。

 

「器の差を見せ付けられたのだ。口惜しい限りだが、な」

 

 言いながら、アルゼイの瞳はしかし、敗北を認めた言葉であるにも関わらず、夢から醒めたような、毅然とした光を宿していた。

 何か気付いたように、す、と。

 アルゼイの表情に言葉を失したヴォックスが、ぐ、と息を詰まらせた。

 理由は、分からない。

 だが、目の前にいるこの男の顔は紛れも無く、アーリグリフを強力な軍事国家に仕立て上げた、あの時の野心に溢れる王の顔だ。

 

「ウォルター、正式に使者を送るぞ」

 

「はっ」

 

 かしずくウォルターを余所に、負けた、と豪言する割に明るいアルゼイを、ナツメが不思議そうに見上げた。

 

「あの? 使者を送る、とおっしゃいますと?」

 

 アルゼイの中で、何かが変わった。

 それを肌で感じながらも、何が変わったのか分からないナツメは、アルゼイの考えが理解できずに首を傾げる。すると、ナツメを振り返ったアルゼイが、その野心に燃える瞳を輝かせて、に、と笑った。

 

「まずは星の船をどうにかせねば始まらん。ならば奴らに対抗するため、シーハーツの手を借りるより他はあるまい。必要であれば親書も用意する。……それで、あちらの様子をうかがうのだ」

 

「王よ!? それでは国の体面が!」

 

 秘密裏にアレンにだけ接触せよ、とヴォックスが言外に告げてくる、血の気を失したヴォックスに、アルゼイは最後まで発言させなかった。

 

「ヴォックス。星の船を陥落させるには、かの国の力がどうしても必要なのだ。ならば、俺はそれを利用するまで。……国の体面など! お前は俺にまた、あの船に我が国が焼き払われるのを黙って見ていろと言うのか?」

 

 航宙艦フィールドの凄まじさをナツメが語るまでも無く、アーリグリフの人間は――少なくとも、ここにいる三軍の長は、星の船がどれほど危険なものであるか、ある程度、肌で認識しているようだった。

 

(さすがは武人、ということか……)

 

 言葉を呑み込むヴォックスを尻目に、ナツメは心中でつぶやく。と。それにな、と続けたアルゼイが、城の窓から空を――シーハーツの方向を、じ、と見据えて、言った。

 

「件の異界の住人は、なかなか狡猾なようだ。我らが国を挙げて相手をせねばならぬよう、『クリムゾンセイバー』という称号をシーハーツで手に入れた。この短期間にだ。……いちグリーテンの技術者として追っていた頃とは違う。奴等を捕らえるならば、シーハーツと事を構えよと言外に威圧している」

 

 二人を狙えば、シーハーツ軍そのものが動き出す。

 アルゼイの言葉は、戦争を続行させるには分が悪いと言うウォルターの見解を受けていた。これ以上の戦は起こすべきではない、という決意の表れである。

 それに今は、星の船のこともあった。

 シーハーツと再び戦えば、両国ともども星の船に滅ぼされることもあり得るのだ。

 と。

 それまで、会話に参加しようとしなかったアルベルが、口を開いた。

 

「王よ。使者なら俺が行ってやる」

 

「お前が!?」

 

 またも意外な人物の意外な台詞に、アルゼイが目を丸めると、アルベルは鉄爪をカシャリと鳴らして、口端を吊り上げた。

 

シーハーツ(あそこ)にいるアレンと言う奴には、俺も興味がある」

 

 ナツメが、そしてアルフが、何度も会話に出す相手。その実力の断片をアルベルは見たに過ぎないが、敵が強者であるならば、避けて通るわけには絶対に行かない。更なる高みへ、辿り着くためには。

 その、アルベルの酷薄な笑みを見据えて、ふ、と失笑したアルゼイは、視線をナツメにやった。

 

「ならば、お前にも行ってもらおう。あそこにいるアレンと言う異界の者と、面識のある人間が行った方が話もはかどるだろう」

 

「え!? いいんですか!」

 

 ぱぁ、と表情を輝かせる少女にアルゼイが頷く。ナツメは心底嬉しそうに、はいっ、と答えた。その彼女をほのぼのと見て、アルゼイは、視線をアルベルに戻すなり、続けた。す、と表情を改めて。

 

「だが。どうもお前達だけで行かせると言うのは心許無い。……よって、今から親書を書く。少し待ってろ」

 

「ほぇ?」

 

「……ふん」

 

 今すぐにでも部屋を出て行こうとした二人を、押しとめる。すると、それぞれ別の反応をアルゼイに返した二人は、肩をすくめて失笑するアルゼイを見据えて、まったく同じタイミングで瞬きを落とした――……。

 

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