連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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phase7 セフィラ
46.真実を語る者


 ディオンの私室を出た後、ネルに連れられてフェイトは白露の庭園に来た。ネルによると、クリフがそこで待つよう指示したらしい。

 謁見の間を抜けて、城下を見下ろせる庭園で、クリフとミラージュを見つけた。

 ――そして、

 誰よりも先に目が行くシーハーツ女王、ロメリア・ジン・エミュリールを見て、彼は息を呑んだ。

 

「へ、陛下!?」

 

 声がひっくり返ったのは、それだけ驚きが大きかった為だ。女王が此処にいるのをネルも聞かされていなかったのか、驚いた顔をしている。

 振り返った女王が、ネルを見据えて頷いた。

 

「大まかな話を彼等から聞きました。……あれは、どうやらグリーテンの兵器ではないようですね」

 

 女王がクリフを見る。クリフは会釈混じりに頷き、視線をフェイトに向けた。

 

「……戻ったか」

 

 庭園に入ってきたフェイトの表情から、ディオンの様子を察したようだ。微妙なニュアンスを含んでつぶやくクリフに、フェイトは言った。

 

「それで、バンデーンは?」

 

「バンデーンはあれから静かなもんだ。連邦の二人が様子を探るっつって出て行ったが……、仮にも特務だしな、心配するだけ野暮ってもんだ。ロジャーの奴も、気合入れて奴らについていきやがった」

 

「連邦の二人って、まさかアレンと……?」

 

 あの銀髪の男か、と言いかけたところで、クリフが、そうだ、と即答した。途端、フェイトの顔が強張る。先のアルフの失言もあるが、何より、アルフの紅い瞳が、フェイトの潜在的な不安を呼び起こす。

 対峙した者に言い知れない威圧をかける、あの紅い瞳。

 フェイトは無意識に、固唾を呑んだ。

 

「フェイト、ついに全てを話すときが来たぜ」

 

 クリフの言葉に、フェイトは顔を上げた。

 白露の庭園、手摺側に立っているクリフの後ろ――その上空に、一隻の小型艇が姿を現した。

 

「なっ!? あれは」

 

 バンデーン。

 機影を見上げて、ネルが臨戦態勢を取る。が、クリフに制されて、ネルは訝しげにクリフを睨んだ。小型艇を見上げて、クリフは笑っている。その傍らにいるミラージュも同じだ。二人を交互に見やって――ネルは警戒したまま、わずかに構えを解いた。

 

「やっと来たか……」

 

 そのネルの判断が間違っていないことを裏付けるように、クリフはわざとつぶやいた。

 瞬間。

 

 庭園の一角に、白い光が集まり始めた。

 

 水が流れるように螺旋を描いて、光は庭園に舞い込むと、まばゆく輝いて人の形と為す。

 

「これは……」

 

 警戒に表情を険しくしながら、ネルが呻く。

 彼等の現れたのは、フェイトと同い年ぐらいの、青い髪の少女だった。

 

「待たせちゃったね」

 

 彼女は肩から胸に流れた髪を、右手で払った。

 年齢はフェイトと同じぐらいで、利発そうな少女だった。瞳も、髪も青く、体型はほっそりとしている。黒を基調にしたプロテクターとミニスカートを着ており、黒のパンストで細い脚を固めている。ミニスカートをしめるベルトから、白いマントが足首に向かって伸びており、凛とした彼女の視線に合わせて、女性の気丈さを際立たせた。

 

 マリア・トレイター。

 

 現クォークのリーダーを務める少女である。

 

 

 

 ……………………

 ………………

 

 

 

 アルフと合流したアレンは、クリフ達にバンデーンの様子を見てくると伝えた後、シランド城から城下に出ていた。

 

「今の機影……。連邦でもバンデーンでもないな。大方、反銀河連邦(クォーク)ってところか」

 

 城下から見えたクォーク艦に、アルフが目を細める。と、連邦製通信機から顔を上げたアレンが、伺うように問いかけた。

 

「お前がここに来ていると言う事は、連邦が来るのはまだ先なのか?」

 

「まあな。ヴィスコム提督は、鮫連中相手に六深で足止め食らってる状態だ。長くなりそうだったから俺が先に抜けて来た」

 

「……小型艇(カルナス)は私物じゃないぞ、アルフ」

 

 やれやれとため息を吐くアレンの周りを、最新機器に囲まれたロジャーが、おぉ、と歓声を上げながら走り回っている。そのアレンの相変わらずの人柄に、アルフが肩をすくめていると、ふと、アレンが思い出したようにアルフを見上げた。

 

「そう言えば、ナツメはどうしたんだ?」

 

「ん? 置いてきた」

 

 簡潔に答えるアルフに、アレンが絶句する。アレンの反応が気に入ったのか、にやりと笑ったアルフは、説明を続けた。

 

「お前、俺が惑星軌道(エリクール)に小型衛星を飛ばして、この惑星内なら何処にでもトランスポート出来るって知ってただろ? それで、あのディオンって奴の傷を治すために通信で俺を呼び、その真偽を確かめた。……いや、正確には俺がトランスポート出来る事に賭けた、ってところか」

 

 確認するようなアルフに、頷くアレンの表情が、次第に暗くなっていく。話の終わりに既に気付いてしまったような、そんな表情だ。

 それを満足げに見やって、アルフは続けた。

 

「で。この俺が、連邦の船がまだ来ないって分かってて、アイツを連れてくるわけがないだろ?」

 

 ナツメをトランスポートさせる小型衛星の稼動力(エネルギー)が無駄だ、と言わんばかりのアルフの態度に、アレンは頭を抱える。この様子では恐らく、ナツメに何の説明もなく、やって来たのだろう。

 アレンの考えに気付いたアルフが、まるで失笑するように薄く笑った。

 

「アイツ、全面戦争が始まるって時に、俺の話を聞かずに前線に出たんだぜ? 戦争で俺とはぐれることを承知の上で、漆黒の指揮を取るとか言い出してな。あれだけアーリグリフに入れ込んでるなら、迎えが来るまで、置いてやった方が親切ってもんだろ?」

 

「それにしても、一言ぐらい断ってやれ」

 

 ため息を吐いて、アレンはやれやれと首を振る。

 アルフの言いたい事は分かる。

 つまり、アルフとしてはアーリグリフの今後の行動を把握するために、ナツメをあそこに置いてきたのだ。邪魔にならない限りは放置する、情報源として。

 だが、問題は――、それをナツメには一言も話していないことだ。

 急にアルフが居なくなって、あたふたと慌てる彼女が想像できる分、アレンはナツメが気の毒に思えた。

 

「……何か、最初の印象とちょっと違うな。この兄ちゃん……」

 

 アルフの考えの全てが、アレンのように理解できるわけではないが、アレンの反応から、何となく二人の関係を察したロジャーが、同情的な眼差しをアレンに向けている。  

 ロジャーの言葉を受けたアルフは、無表情のままロジャーを振り返って、それからその貌を愉快そうに歪めた。

 

「へぇ?」

 

 左目を細めて微笑うアルフに、あの独特の色香が混じる。それを見据えて、寒気を覚えたロジャーが、う、と呻くと、無造作にロジャーとアルフの視線にアレンが自分の右手を差し込んだ。

 はた、と瞬きを落としたロジャーが、金縛りから解けたように、目をぱちぱちさせる。

 アレンと話している時のアルフは、視線がこちらを向いていなかったため、無害に見えた。が、直接、彼と話すとなればそうもいかない。あの紅い瞳と対峙して、アレンのように平静に話が出来るのは、他に、ナツメぐらいのものだ。

 ロジャーやアルベルのように、正常な人間ならば、目が合っただけで思わず身構えてしまう危険な瞳。暗く、深い闇のような紅い瞳。それはまさに、目が合っただけで警戒心を解いてしまうアレンの蒼い瞳とは、全く正反対だった。

 

(極端じゃん!)

 

 くわ、と目を見開くロジャーに、アレンはすまなさそうな視線を向けた後、アルフを見上げた。

 

「いちいち他人にちょっかいをかけるな。お前は」

 

「かけてるつもりはないんだが。……この()は生まれつきでね」

 

 そう言って、飄々と肩をすくめるアルフを、アレンが訝しげに睨む。

 

「それにしては、ずいぶん『やる気』に見えたが?」

 

「……結構、威勢の良い子どもだったと思ってね」

 

 にやりと笑うアルフがロジャーを一瞥すると同時、くわ、と目を見開いたロジャーが、絶望的な影を作って叫んだ。

 

「お、オイラ! 狙われてるっ!?」

 

 途端、がたたたた、とポルターガイストが起こったかのように震え出すロジャーを、ぽん、と叩くアルフ。ロジャーが顔を上げると、人形のように美しく笑ったアルフと、視線が合った。

 ――美しいが、狂った笑みと。

 

「ぎぃやぁあああああ!」

 

 まるで幽霊かモンスターに肩を鷲掴まれたかのように、壮絶な表情で悲鳴を上げるロジャーを、アルフは満足げに見ている。その、いかにもいい性格なアルフの行動に、アレンは半眼で睨みながら

 

「ロジャーで遊ぶな。アルフ……」

 

 そう言って、ロジャーを、ひょい、と持ち上げた。それを名残惜しむわけでもなく、簡単に諦めたアルフは、バンデーンの進路計算が終わったアレンの通信機を、ロジャーの代わりに受け取った。

 目を落とす。

 

「全部で十一隻、か。一隻はあのフェイト・ラインゴッドが沈めてるから、元は十二隻の艦隊だな。……大盤振る舞いじゃねえか」

 

 アルフの言葉に、アレンも頷く。地面に下ろされたロジャーが、ぎょ、と目を見開き、アレンとアルフを交互に見た。

 

「十一隻!? ってぇことは、あと十一個、星の船がいるってことか!」

 

「ああ」

 

 ひぇ~、と大口を開けるロジャーに、アレンも思案顔を隠せない。驚くロジャーの表情には、悲壮感が無かった。むしろ、アレンが何を悩むのか、理解できないといった風だ。首を傾げたロジャーが、訝しげにアレンを見てくる。

 

「なぁ、アレン兄ちゃん。星の船なら、フェイト兄ちゃんの、あの光の柱でやっつけりゃ問題ねぇんじゃねえか?」

 

 質問の答えは、意外にもアルフが返してきた。瞳だけは鋭いが、表情自体は茫洋とした、アルフが。

 

「お前、気付かなかったのか? あれはあの場限りの能力。あいつが自分で制御した訳じゃない。それに、例えあれが制御して放ったものだったとしても、一発ごとに気絶されちゃ、とてもバンデーン艦隊を全滅させられねぇ」

 

「ぜ、全滅!?」

 

 息を呑むロジャーに、アルフが意外そうに瞬きを落とした。それから、ふ、と薄く笑う。瞳の異様に冷えた、狂人の笑いだ。

 

「俺はあそこまで好き勝手にやった奴らを、放って置く気はないんだ。あれだけ派手に虐殺した限りは、自分たちがどんな手で殺されても構わねぇって、そういうことだろ?」

 

 くく、と喉を鳴らすアルフを強張った顔で見据えて、ロジャーはアレンを見る。正確には、彼の左手に握られた刀と、アレンを。

 

「て、ことは……」

 

 つぶやくロジャーの反応を受けて、アルフはこくりと頷いた。

 

「ま、ラインゴッドのように戦艦を沈めこそしなかったものの、掠っただけで航宙艦フィールドを破った兼定(ソレ)を使うのが妥当だろうな」

 

「ああ。……後は、射程だ」

 

 つぶやくアレンに、アルフはやれやれと肩をすくめる。

 兼定が破ったのは航宙艦フィールドだけだ。だが、バンデーンの最新技術を駆使したあの戦闘艦隊でなければ、朱雀吼竜破を回避することは不可能だっただろう、とアルフは考えている。

 その証拠に、朱雀吼竜破の減弱仕切った余波を、最初に食らったバンデーン艦は、驚くべきことに戦闘不能になっていた。

 あの時の、アレンと兼定(カタナ)の考えられない非常識ぶりに、思わずアルフでさえ、寒気を覚えたところだ。

 

(しかもそれを、俺に向けても撃ちやがった……)

 

 正確にはフェイトも、だが、そちらは織り込み済みだ。

 能力値に幅が無く、いつでも自在に使える分、――バンデーン艦に向けて撃った本気の朱雀吼竜破を間近で見た補正もあってーーアレンの方が、アルフにとっては脅威に感じられた。その上、自分の倒すべき相手が、自分の手の届かない所に行ってしまったことも、気に入らない。

 と。

 そこで、はた、と思考を停止したアルフは、アレンをゆっくりと見据えて、それから真剣な表情で、口を開いた。確かな重みを、含ませて。

 

「アレン」

 

 改まった表情のアルフに、アレンが不思議そうに、しかし、真剣な表情で振り返る。その彼の反応に、こくりと頷いたアルフは、重々しく続けた。

 

「お前に刀を渡した相手に会わせな」

 

「何か、策があるのか?」

 

 尋ねてくるアレンに、アルフはにやりと笑って、答えた。

 

「俺の今の最優先事項は、バンデーンじゃなくてその刀をへし折る事なんだ。実際、奴等(バンデーン)の相手はその後でもいい」

 

「……………………」

 

 半分予想していたのか、黙ったアレンが、こめかみを押さえる。が、兼定の出生にはロジャーも興味を持ったのか、おぉ、と声を上げてアレンを見上げてきた。

 その二人を交互に見て、アレンは仕方が無いな、と苦笑した後、言った。

 

「ペターニでガストという鍛冶師に会ったんだ。シーハーツの人に頼んで、探してもらった鍛冶師の情報を頼りに、な」

 

「……シーハーツって、漆黒より断然使えるな」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

 深く、深く頷くアルフに苦笑しながら、アルフから手渡された――と言うより、アルフが予備に持っていた通信機を受け取って、アレンはそれに視線を落とした。

 それには一つ、光点(グリッド)が点いている。

 Out-of-Place Artifacts――通称、オーパーツと呼ばれる解析不能な波長を発する、強大な信号を示す光点(グリッド)だ。今立っている位置より、東の方にある。そして、そこに近付くバンデーン艦の熱源反応。

 これが、アレンが予測した、次のバンデーン降下地点だった。

 

「なら、お前(アルフ)はペターニに向かうのか?」

 

 確認のために問いかける。が。既にアルフは踵を返して、歩き始めていた。予想通り、ペターニに向けて。

 アレンがため息を吐くと、背を向けたアルフが、ひらひらと手を振りながら言った。

 

「バンデーンは任せたぜ。アレン」

 

「了解、はしてないが?」

 

 つぶやきながら、しかし、言ってもムダだと分かっているので、それ以上は言わず、アレンも踵を返す。シランドの東方――オーパーツのある、その場所へ。

 その彼に続こうとしたロジャーを、アレンは制して言った。

 

「ロジャー。お前はネルか、陛下に『星の船が、次の目標をシランドの東方に定めた』と伝えてくれ。そこに、奴等は何か嗅ぎつけたようだ」

 

「ほ、星の船が!?」

 

 聞いた瞬間、戦場に現れたバンデーン艦を連想して、ロジャーは目を見開いた。が、それも一瞬だ。

 アレンは即座に首を横に振ると、ロジャーの考えを改めるように、説明を続けた。

 

「星の船と言っても、俺が今から相手をするのは、船の乗組員の方だ。奴等は星の船から地上に降りて、行動するらしい。だから、俺の心配はいらない」

 

「そっか……。じゃあ、オイラはお姉さま達に伝えればいいんだな?」

 

 首を傾げるロジャーに、そうだ、と頷いて、アレンはシランド城を一瞥した。

 

「場所が城に近い。俺も対処に向かうが、出来るだけ早く、シーハーツの兵にも警戒してもらいたい」

 

「分かったじゃん!」

 

 どん、と胸を叩くロジャーに、こくりと頷いて、アレンは今度こそ、オーパーツのある、その場所へと向かった――……。

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