連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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47.禁断の研究

 ネルの先導で会議室にやって来たフェイトは、中に入るなりマリアに向き直った。視界の端で、クリフが部屋の扉を閉めた。

 

「あの、マリアさん」

 

 これから何が話されようとしているのか。

 それを考えると、フェイトは息が詰まるような想いがした。表情を引き締めると、マリアが穏やかに微笑って、首を横に振った。

 

「マリアでいいと言ったでしょ。その代わり、私もフェイトと呼ばせてもらうわ」

 

 気さくな物言いだった。こちらの緊張をほぐすような、優しい声。きびきびとした利発さは少しだけなりをひそめ、いま、目の前にいるのはクォークのリーダーではなく、自分と同年代の少女だと教えられたようだ。

 

「それは構わないけど。じゃあ、マリア」

 

 フェイトの表情から、無駄な緊張が抜ける。

 ――だが、腹に呑み込んだ、その不安だけは払拭できずに。

 拳を握り締めながら、フェイトは重々しく口を開いた。

 

「教えてくれ。一体何が起きているんだ? バンデーンはどうして父さんを攫っていった? 何故僕を狙う? ……僕が一体何だというんだ?」

 

「慌てない、慌てない。とても一言では答えられないわよ。とにかく、心して聞いて」

 

 クスクスと笑う、マリアの表情が更に穏やかになる。とにかく、とつぶやいた時だけは、少しだけ緊張を孕ませて。彼女は、ざ、とクリフ達を振り返ると、その前に、と断ってから口を開いた。

 

「……発現したんでしょ? どうだった?」

 

 つぶやく彼女に、会議室の壁にもたれかかって腕を組んでいたクリフが、ああ、と頷く。その様を、じ、と見据えながら、フェイトは不思議そうに瞬きを落とした。

 

(発現……?)

 

 マリアの声に神妙なものが混じる。会議室の壁にもたれかかって腕を組んでいたクリフが、ああ、と声を落とす。奇妙な緊張感が部屋を覆った。フェイトは眉をひそめる。

 

(発、現……?)

 

 一体何の話をしているのか、皆目検討がつかない。

 壁から背を離したクリフが、一瞥をフェイトに向け、マリアに言った。

 

「デカいのは一度だけだが、な。しかしあれは予想以上だぜ。こと破壊力だけならお前より断然上だな」

 

「記憶はどう?」

 

「これが自覚してる人間の顔に見えるか?」

 

 クリフが長い溜息を吐きながら肩をすくめた。親指でフェイトを指している。するとマリアは、どこか値踏みするような視線をフェイトに向けて、何だよ、とつぶやくフェイトに、ため息をこぼした。

 

「いや、だから何だって……」

 

「なぁ、フェイト。お前、あの戦争でバンデーンが襲ってきたとき、奴等が何で逃げてったか、覚えてるか?」

 

 二人の反応が気に入らず、問いかけようとしたフェイトを、クリフが制した。反射的に振り返ったフェイトが、一瞬、質問の意味が分からずに首を傾げる。

 

(バンデーンが、何で逃げたか……?)

 

 質問の内容を反芻すると、フェイトは顎に手をやって、考え始めた。

 

(そう言えば――そうだ。奴等はハイダを丸ごと焼き尽くした……。なのに、何で今回、奴等は途中で引き返していった?)

 

 引き返す、と自然に頭に浮かんだのは、ネルの話によると、三日三晩寝込んでいた自分が、生きていたためだ。ハイダの時を思えば、砲弾に当たって死んでいてもおかしくない。そしてネルも、クリフも、何よりシーハーツと言う国が、まだ存在できている。

 これはまさに、幸運と言わざるを得ない状況ではないか。

 

「それに……何故、僕はあそこで、気を失った……?」

 

 バンデーンに強い怒りを、憎しみを抱いたことは覚えている。それ以上は思い出せない。自分が気を失う瞬間も、その前後の記憶も、曖昧なものだ。

 

「ま、見ての通りだ」

 

 つぶやくクリフの声を聞いて、フェイトは顔を上げた。そこが重要なのだ、という口ぶりである。短く頷いたマリアが、顔に暗い影を落として目をつむった。

 二人を用心深く観察する。こちらに視線を向けたマリアが、重々しく言い放った。

 

「今から説明するわ」

 

「………………」

 

 フェイトは無意識のうちに、表情を硬くした。何となく、明るい話題でないことは分かる。クリフが頑なにリーダーのことを話さなかった。アレンが少しも、穏やかな表情を見せなかった。

 自分が、何者であるか。

 それを聞いてしまったら、引き返せない所へ行ってしまいそうで、それがフェイトに緊張を強いる。

 

(でも……!)

 

 それを知らねば、またハイダと同じことが起こる。多くのモノを失うことになる。

 それが何となく肌を通して分かる。だからフェイトは、意を決して向き合う。

 ――ラインゴッド博士。父と、関係があるというこの少女と。

 

「そうそう、その前に最新情報があるの。もっとも楽しい話じゃないんだけどね」

 

「……え?」

 

 意気込んだ気勢を削ぐように、マリアが別の話題に水を向けた。咄嗟に反応できなかったフェイトを置いて、マリアが続ける。意外に、マイペースな人物のようだ。

 

「君の父親であるラインゴッド博士が、バンデーンに捕らえられている話は聞いているわよね?」

 

「……ああ」

 

 今更な確認をするマリアに、しかし、話題の方向性を考えると、それほど離れた話でもないのか、とフェイトは首を傾げる。対峙したマリアが、す、とフェイトを見据えてきた。

 

「調査の結果、実は君の幼なじみも一緒に捕まっていることが分かったわ。……ヘルアから君と一緒に脱出した時に、拿捕(だほ)されたらしいのよね」

 

「っソフィアが!?」

 

 どくんっ、と心臓が跳ねた。強く、高く。フェイトを締め付けるように。

 体温が冷める。血の気が引いていくように、すぅ、と頭の中が白くなった。

 

「……ぁ、っ!」

 

 思わず呼吸を忘れそうになる。と、同時。今度は、かぁあ、と頭が熱くなる。

 

(バンデーンに! ソフィアが!)

 

 もう一度、復唱する。

 それは気持ちを整理するためか、それとも頭を冷やすためだったハズだが、この時のフェイトには、自分の気持ちを吐き捨てるためだけの、ただの言葉に過ぎなかった。

 

(あの殺戮者に、ソフィアがっっ!) 

 

 拳を握る。

 エリクールに遭難して、随分。父と幼馴染の心配を、何十回としてきたが、新たな事実が、さらにフェイトを困惑させる。

 ――せっかくソフィアが生きていたと言うのに、喜べない。

 むしろ、バンデーンの側に彼女がいるという事実が、より一層、絶望感を広げた。

 

「……くそっ!」

 

 腹の底から吐き捨てて、床を蹴った。

 父がバンデーンに捕まったと聞いた時よりも、動揺が大きい。

 当然だ。

 ソフィアは、父のように軍属の人間ではない。朗らかで、どこか抜けていて、だがしっかりとした面もちゃんと持っている、フェイトの妹のような少女だ。

 

(拷問とか……、まさか受けてないよな!?)

 

 ふとアーリグリフに不時着した時のことを思い出して、フェイトは肝が冷えていった。両手で、自分の身体を抱く。

 ――今まで、どうしようもなかったのは分かっている。

 だが仮に、フェイトがこうしている間に、ソフィアがあの時のフェイトと同じ経験を――もしかしたらそれ以上の拷問を、ずっと今まで受けていたかと思うと、全身から血の気が失せた。

 

「……やっぱり何も知らないのね、君は」

 

 フェイトの様子を見つめていたマリアが、つぶやいた。どこか憐れむような表情だ。そのマリアを見上げると、フェイトは、ぐ、と唇を噛み締めて、自分の内にあるあらゆる考えを、無理矢理頭の端に押し込んだ。

 

(ダメだ! 今は……、今は続きを聞かないと!)

 

 拳を握りこむ。

 パニックになって周りが見えなくなる自分を、許してはならない。――これは、ディオンに習った強さだ。

 覚悟を決めて顔を上げるフェイトを、真正面から見返して、マリアは静かに頷いた。

 

「君の父親は、禁じられた研究に手を出したのよ。銀河連邦法で禁じられている遺伝子操作による生物兵器の研究をね。そして、それを完成させたの」

 

「……生物、兵器?」

 

 思いがけぬ単語を茫然とし、フェイトは、はっ、と目を見開いた。

 不意に点と点が、繋がったのだ。

 

 ――なぁ、フェイト。お前、あの全面戦争でバンデーンが襲ってきたとき、

 奴等が何で逃げてったか、覚えてるか?

 

 そう言った、クリフの意図が。

 

 ――それが、お前の本性か。フェイト・ラインゴッド。

 

 そう言った、アルフの意味が。

 先ほどマリアとクリフの、会話の真意が。

 

 ――発現したんでしょ? どうだった?

 ――デカいのは一度だけだが、な。しかしあれは予想以上だぜ。こと破壊力だけなら

 お前より断然上だな。

 ――記憶はどう?

 ――これが自覚してる人間の顔に見えるか?

 

 すべて、フェイトのことだ。

 フェイトの能力が発現したのか。フェイトの記憶があるのか。

 

「……っ!」

 

 気付いた途端。体中を、蟲が這ったような気がした。全身の毛穴が収縮し、ぞわりと粟立つ。

 そして――……、

 

 ――こと破壊力だけなら『お前より』断然上だな。

 

 クリフの言葉に、フェイトは、ざ、とマリアを見た。

 呼吸を忘れて、ただ目を見開く。フェイトは無意識のうちに、口を開いた。

 

「アレンが、言った通りだ……」

 

 クォークのリーダーと、父には関係がある、と。

 そう指摘した、連邦軍人の話と。

 だが、マリアは耳慣れない名前に、不思議そうに眉をひそめるばかりだ。フェイトが、一点を見据えて黙しているのを、訝しげに眺めている。

 不意に、マリアを見やったフェイトが、表情を引き締めて言った。

 少しだけ、言いにくそうに。

 

「……君も、そうだって……言うんだろ?」

 

「!」

 

 そのフェイトの顔を真正面から見据えて、マリアは驚いたように息を呑んだ。向き合った翡翠の、フェイトの瞳が言っている。

 

 君も、僕と同じだと言うんだろ、と。

 

 自分を――生物兵器と。

 言外にだが、言い切ったフェイトに、マリアは少しだけ遠慮がちに、相手を探るように尋ねた。

 

「ずいぶんと、あっさりと受け入れたものね。……もう少し、反論してくるものとばかり思っていたけど?」

 

「……今は、それどころじゃない。それより真実を知りたいんだ。僕の意志を、曲げないために」

 

 つぶやくフェイトの表情に、確かな悲哀の影を見つけて、マリアは息を呑んだ。

 

(ただの民間人、って聞いていたけど……)

 

 そういう風に、育てられていると。

 だが、目の前のフェイトは、ただの民間人と一括りにするには無理があるほど、言葉の重みを知っている。

 突然――それも自分の父親によって、生物兵器にされていたというのに。自分が今まで信じていた、父親に。

 

「………………」

 

 拳を握るフェイトを見詰めながら、マリアは圧倒されて言葉を失った。

 かつて、自分も生物兵器だと知った時、彼女はまだ『ロキシ・ラインゴッド』という憎むべき相手がいたからこそ、自分を保っていられたのだ。 

 ――なのに。

 マリアはフェイトを見詰めて長いため息を吐いた後、小さく笑った。

 

「……そうね。君の言う通り、今はそれどころじゃないわ。そして、君が察した通り、君と私は博士の実験体。私は君が完成された後に作られたらしいから、言わば実験体二号ね」

 

「…………そうなんだ……」

 

 うつむくフェイトの声は低く、かすれていた。

 当然だ。

 この事実は、突然には受け止め切れないほど、過酷な現実なのだから。

 それでもまだ、心の内にある様々な感情を押し殺して、ただ事実を受け入れようとするフェイトの姿は、マリアには雄々しく見える。

 意志の強そうな翡翠の瞳が、マリアを見据えてくる。

 

「マリア。……それで君は、僕がバンデーンを追い払ったっていう、力の使い方を知っているのか?」

 

 事実を受け入れ、その上でまだ前を向こうとするフェイトの姿に、マリアは微笑って、上等、と口の中でつぶやいた。踵を返し、会議室の棚にある、三つの壷に視線を止める。

 

「アレがいいわ」

 

 独り言のように言って、彼女は壷の前に歩み寄った。

 瞬間――……。

 マリアは、すぅ、と人差し指で壷の一つを指すなり、くるり、と小さな円を描くように指を旋回させた。

 

 きぃいいいいい……、、

 

 途端。不思議な音が、フェイトの耳に入る。甲高いが、耳障りではない、例えば空気に溶けた光の精霊が、翻訳できない歌を、歌っているような不思議な音が。

 マリアの人差し指に集った小さな光の球が、すぅ、と彼女が指差した壷の一つに飛び立ち、そこで、紋章陣を描いた。

 瞬間。

 

 じゃきっ!

 

 か、と目を見開いたマリアが、腰のホルスターから一瞬で銃を抜き放ち、三つの壷を撃つ。

 

 ドドドンッ!

 

 ほぼ同時に聞こえた銃声が、壷に向かって三発走るなり、マリアは銃を納めた。かしゃんっ、と腰のホルスターに銃が納まる軽快な音と同時。ぱきん、と音を立てて、壷が崩れ落ちる。マリアの愛銃、マイクロブラスターの光弾に穿たれて、呆気なく。

 ――……ただ、

 マリアが最初に指差した、紋章陣に囲まれて、淡く発光したその壷だけは、全く同じ条件でマイクロブラスターの光弾を受けたというのに、傷一つ無く、健在していた。

 実弾よりも遥かに威力の優れた、光弾(レーザー)を受けたと言うのに、だ。

 

「……!」

 

 信じられない光景にフェイトが息を呑むと、こちらを振り返ったマリアが、改まった表情で説明してきた。

 

「これが、私がラインゴッド博士達の紋章遺伝子改造によって与えられた力。私は物質の性質をアレンジする能力を持ってるの」

 

 そう言って、フェイトの顔色を窺う。対峙した彼は、表情を強張らせて、どこか血の気を失っているようだった。 

 

(無理もないわね……。頭で理解することと、実際それを目にすることは、意味が違うんだもの……)

 

 それが気の毒に思えて、マリアは表情を一瞬曇らせたが、すぐに首を横に振るなり話を続けた。

 

「私は博士達をバンデーンから奪い返し、何故こんなことをしたのか、その理由を聞き出すわ。そのためにはフェイト、君の力が必要なの。私だけ、私一人ではできない――」

 

 そう言って、フェイトを見る。彼がどういう風に自分(マリア)を受け取ったのかは知らない。だがマリアには、やらねばならないことがあるのだ。

 自分の、存在意義を確かめるために。

 両親から、生きろ、と託された自分の身を、守るために。

 

「君にしても、父親や幼なじみを助けるのに異論はないでしょ? 大事な肉親だものね」

 

 わざと冷たく振舞うと、我に返ったフェイトが、ああ、と頷いてきた。

 意外にも、その瞳には力強い光が宿っている。この話を聞く前と、そこだけは少しも変わらない、強い意志の光だ。

 ――まるで彼にも、何か果たさねばならない目的があるようだった。

 

(強い、のね……)

 

 絶対口には出さないが、口の中でつぶやくと、マリアは踵を返した。

 

「そうと決まれば……」

 

 と。

 マリアを制したクリフが、やれやれとため息を吐いて、無造作に会議室の扉を開けた。

 バンッ、と。

 会議室の扉で中の様子を探っていた人間が、距離を取った。軽やかに跳躍し、まるで鹿や猫を思わせる、鮮やかな身のこなしで地面に着地する。

 

「……ネルさん!?」

 

 それが、よく知ったシーハーツの隠密であることに気づいて、フェイトは目をしばたかせた。傍らのマリアがため息を吐く。

 

「まあ、聞かれたからといってどうってことはないからいいけどね」

 

 マリアは肩にかかった髪を払う。フェイトは二、三度、瞬きをしてから、自分が想像以上に話に熱中していたのだと、この時初めて気が付いた。

 

「この星を出る艦はどうする?」

 

 クリフの声で、視線を上げるフェイト。傍らのマリアが、利発そうな外見に違わず、はっきりと答えた。

 

「大丈夫……。ディプロ本艦は後から来る手筈になっているわ。後はマリエッタが上手くやってくれるでしょ」

 

「用意周到だな。予想通りってわけか」

 

 肩をすくめるクリフに、マリアは不敵に笑って、ため息も吐いた。

 

「だけど、そうも言ってられないわよ。問題も山積みなんだから」

 

「問題だ?」

 

 眉をひそめるクリフに、マリアはため息を吐いた。ふと。フェイトが瞬く。

 

「そうだよ。大体、クォーク本艦が来るのはいいけど、バンデーン艦に妨害されるんじゃないのか?」

 

「そうなのよね……。軌道に乗る時間、転送に要する時間、ワープアウトが完了するまでの時間……。トータル5分はかかるでしょうね」

 

 言って、顎に手をやるマリアに、フェイトも思案顔を浮かべる。同じく、簡単なシミュレーションを描いたミラージュが、ふるふると首を横に振った。

 

「いくら本艦でも5分間もの時間、バンデーン艦の攻撃に耐えるのはキツイと思いますけど?」

 

「そうね……」

 

 つぶやく、マリアの声も低い。

 考えても見れば当然だ。ハイダは保養惑星であったため、防備は手薄と言われていたが、それでも銀河連邦軍の宇宙基地が傍にあった惑星だった。

 クォークがいくら社会的地位を銀河内で確立していると言っても、こと、武装に関せば、数的にも、技術的にも“軍隊”である銀河連邦に並ぶとはお世辞にも言えない。

 

(そしてバンデーンは、その銀河連邦をも上回る技術を持った連中なんだ……)

 

 ミラージュが、即座に不可能と告げるのも無理はない。

 

「理想を言えば、地上からも何か牽制できるといいんだけど。まあ、この惑星の文明レベルじゃどうしようもないことは分かってる。それでも何か手を考えないといけないわ」

 

 顎に手をやったまま考え込むマリアが、唸るようにつぶやいた。その彼女に、肩をすくめたクリフが、どこか困ったように、ちらりとフェイトを見やる。

 

「コイツは力の制御方法がわからねえしな」

 

「私自身も完全に力の制御が出来るわけではないし……。どちらにせよ不確定な要素をアテにすることはできないわね」

 

 言いながらも、マリアは視線をミラージュにやっている。すでに自分たちの力ではどうしようもないと判断し、他の妙案を探るために、エリクールと言う惑星に条件範囲を広げたのだ。

 

「ミラージュ、この惑星の兵器でもっとも強力かつ有効な物は何? バンデーンのシールドを破れなど、無茶は言わないわ。こちらの兵力を誤解させられる程度の時間が稼げればいいの」

 

「このシーハーツにある施術兵器が唯一の可能性を持っていたと思いますが……。残念ながら、今回の戦争であれは兵器としてではなく捕獲用に作り変えられています」

 

「兵器として威力の底上げは出来ないの?」

 

「可能です。ですが……、恐らく時間がかかるかと」

 

 答えるミラージュに、マリアが、そう、と声音を落す。

 八方塞がりだ。

 

(でも、何か策を考えないと……)

 

 更に思案し始めるマリアに、クリフが、あぁ、とどこか芝居がかった声を上げた。

 

「……どうかした?」

 

 ぽりぽりと頭を掻くクリフに、視線をやる。すると、クリフにしては珍しい、躊躇らしきものが見えて、マリアは不審そうに、眉をひそめた。

 

「……いや、あいつはどうかと思ってよ……」

 

 つぶやくクリフの視線の先には――、意外にも、マリアにとっては一番馴染みの無い、ネルがいた。

 ネルは突如、話題を振られて表情を引き締めると、数瞬、考えるような間を置いて、一同を見渡した。

 

「バンデーンって、この間の敵のこと?」

 

 確認するように、そう尋ねる。

 フェイトが頷いた。すると、ふむ、とつぶやいたネルが、確認するようにマリアに問いかけた。

 

「あれがまた現れると言うんだね?」

 

「まず間違いなく来るでしょうね」

 

 簡潔に答えるマリアに、こく、と頷いて――、ネルは視線を、クリフに向ける。

 

「それで、奴等に対抗するために……彼を?」

 

「……正直、俺もそんな非常識は信じたくねぇんだが。どう見ても、あの鳥は……なぁ?」

 

 言葉を濁すクリフに、神妙な面持ちながらも、ネルが頷く。その二人のやりとりが理解できず、ミラージュ、マリアに混じってフェイトが、クリフとネルを見やった。

 

「アイツとか、彼とか……。鳥って?」

 

「一人しかいねぇだろ?」

 

 問うフェイトに、肩をすくめて答えるクリフ。その彼を、フェイトは固まったように、見据えて――……、

 

「……………え?」

 

 とりあえず、聞き返してみた。

 途端に、気持ちは分かる、とクリフに言い返される。クリフはマリアに向き直るなり、少し言いづらそうに言った。

 

「実はよ。今、この星には銀河連邦の軍人もいるんだ。……そいつの力を借りるのが一番手っ取り早いと俺は思うんだが、構わねぇか?」

 

「連邦軍が!?」

 

 驚いたように目を見開くマリアに、クリフは、ああ、と頷いた。

 

「何か、アイツの方も救援が来たらしいから、出来れば他人同士で別れた方がお互いの為と思ったんだが、な」

 

 言って、肩をすくめるクリフに、フェイトが、あ、とつぶやいた。

 

(だから、か……)

 

 バンデーンが来てからこちら、元々、人とはあっさりとした付き合いをするクリフが、アレンの話をするとき、いつも以上に余所余所しく感じられたのは。

 忘れていたが、クリフは反銀河連邦(クォーク)なのだ。そしてアレンは連邦軍人。

 今までのように、クリフとアレン。どちらとも気さくに話が出来るのは、この星にいる間だけなのだ。考えてみれば、何とも物寂しい話だった。

 

「?」

 

 そのフェイトとクリフの間に流れる、微妙に重い空気に、ネルはよく理解出来ないながらも、二人を励ますように言った。

 

「……ともかく。奴等が再び攻めてくると言うのなら、私も力を貸すよ」

 

「え……、いいんですか?」

 

 顔を上げるフェイトが、やや意外そうに目を丸くする。その彼が、何をそんなに驚くのか分からないネルは、首を横に振って肩をすくめた。

 

「正直、事情は良く分からないけど。また、あの星の船がこの地にやってくるのなら、恐ろしい事態になることは間違いないわけだろ。……それにね。アンタ達には、返し切れない借りが、私にはあるんだよ」

 

 そう言って、ネルは笑う。初めて会った時よりも、ずっと柔らかく。ずっと、温かい表情で。

 

「……ありがとう」

 

 礼を返すフェイトも、つられて笑んでしまうほど、優しい笑みだった。

 肩をすくめるクリフが、まるで照れ隠しのように、ぶっきらぼうに言った。

 

「どっちにしても、ここで一悶着起こすってことは、お前等に迷惑をかけることになっちまうしな。……そう言ってもらえると助かるぜ。ネル」

 

「ただ事情を話すにしても、簡単に信じてもらえないとは思うけどね」

 

 苦笑するフェイトに、クリフは、まったくだ、と肩をすくめた。

 対峙したネルの、その朗らかな微笑を視界の端に収めながら――……。

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