連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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フェイトくん修行編part5 意地とプライドの問題

 モーゼル砂漠。

 灼熱の太陽に愛されたこの地は、じりじりと焦がすような熱気に溢れている。

 

「勝てるっ! 勝てるぞっ! この暑さの中なら奴だって……! あの悪魔だって、倒れるはずだぁああああ!」

 

「フェイト兄ちゃん……」

 

「なんだ、ロジャー?」

 

「……アルフ兄ちゃんが、オアシスから出て来ねえじゃんよ」

 

「ちょぉ待てぇええええっっ! なんだそのザマはっ!? 連邦の狂人っ!」

 

「お前、そんなノースリでよく居られるな。つーか、暑苦しい」

 

「ばかやろっ! 燃えなくてどうする! このくそ暑い太陽っ! 立っているだけでも痛いっ! もはや殺人的だっ! そんな時に、さあ修行だと訳の分らんことを言い出した、この悪魔に付き合うんだぞ!? それこそ中途半端なテンションで行ってみろ! 死ぬじゃないかぁあっ!」

 

「大変だね、お前も」

 

「ちょっと待てぇええええっっ! お前、この間すごい楽しそうに戦ってたろっっ!? どうした狂人っ!? さてはお前、狂人の皮を被った凡人だなっ!? 狂気をどこへ置いてきた!」

 

「そういうお前も、前ほどビビってねえじゃん」

 

「だからっ! ビビるとかビビらないとか、そんなこと言ってる場合じゃないんだよっ!」

 

「だから。殺るとか殺らないとか言ってる状況じゃねえだろ、この暑さ。無理」

 

「馬鹿ぁあああっっ! 殺らなきゃ殺られる状況なんだよっっ!」

 

「その割にやる気なの、お前だけだけど?」

 

 そう言って、狂人と呼ばれる男は、ネルとロジャーを見た。

 

「なん、だと……?」

 

 フェイトが目を見開いて振り返る。

 するとそこに、オアシスの中で身を休める仲間達がいた。

 

「おい。いつまで待たせる気だ」

 

 苛立ったように、兼定を構えるアレン。アルフが肩をすくめた。

 

「お前も元気だね」

 

「軍人たるもの、いついかなる状況でも気を抜く事はない。――お前は、ちょっとダレ過ぎだな。アルフ」

 

「メンドクサ。……ラインゴッド、構ってやれよ」

 

「ちょっと待て。……どういうことだ? これは」

 

 フェイトは何度も瞬くと、オアシスにいるネル達を穴があくほど見つめた。

 

「まあ、マリアとアルフは仲間になってから日が浅いから仕方がないとして――、……ネルさん。ロジャー……。僕らの熱い絆はどこへ行ったんだいっ!?」

 

 フェイトは言うと、だんっ、とオアシスに生えている木を殴りつけた。

 

「こんな……、こんな太陽なんかに負けるような安っぽい絆だったのか!? 違うだろ!? 僕らの魂はこんな太陽に負けるほど……、ヤワじゃないだろぉおおおお!」

 

「フェイト兄ちゃん」

 

「なんだ、ロジャー!」

 

「暑いじゃんよ……」

 

「馬鹿ぁあああああ!」

 

 フェイトは声を限りに叫んだ。

 ネルが言う。

 

「私もだね。……と言うか、陛下の前で生き恥をさらせってのかい? アンタは。私にもプライドってもんがあるんだよ」

 

「敵前逃亡の方がよっぽど情けないわぃっ! しかもっ! 仲間を見捨てるなんてさ! 最低のすることじゃないかっ!」

 

「言うね、フェイト。じゃあ私からも一言」

 

「なんだいっ!?」

 

「とりあえず、そのオーブよこしな。そしたら戦ってやるよ」

 

「っ!?」

 

 フェイトはバッと自分が羽織っている『アクアヴェイル』を抱きしめた。砂漠の暑さをも緩和する、水の加護を得た神秘の羽衣だ。

 

「フェイト兄ちゃん。魂が熱いなら大丈夫じゃんよね?」

 

 ロジャーがどこか投げやりに聞いてくる。表情は恐ろしいほどない。

 ネルが静かに続けた。

 

「さっきあんだけデカい口叩いたんだ。当然、平気だよね? アンタ」

 

 フェイトはただ黙って、目を見開いた。

 

(――何を……、何を言っているんだ……!? 仲間たちよっ!)

 

「どうかしている……、皆どうかしてしまっているんだっ! しっかりしろ! 目を覚ませよ! 今はそんな、細かいことをとかく言ってる場合じゃないだろう!」

 

「そうだね。分かったから、そのオーブよこしな」

 

「細かいことだったらいいじゃんよね? 兄ちゃん」

 

 二人は恐ろしいほどに淡白だった。

 兼定を構えたままのアレンが、言う。

 

「おい。――まだか?」

 

「どうやら僕だけが、お前の相手をしなければならない時がやって来てしまったようだな……」

 

「へぇ。根性あるじゃん、ラインゴッド」

 

 アルフが少し意外そうに眼を丸める。

 瞬間。

 フェイトはカッと目を見開いた。

 

「貴様のような凡人に褒められても、ちっとも嬉しくないわぁあっっ!」

 

「……ほぅ?」

 

 薄く笑った狂人は、ガッとフェイトの顔をつかむと、無造作に釣り上げた。いわゆる――アイアンクローである。

 

「ふっ……図星つかれてムキになってるようじゃ、たかが知れてるな……。狂人」

 

「タフだね」

 

 狂人の握力が増す。

 

「ミッシミシ言ってきたねぇ、僕の頭蓋……って、やってる場合じゃないって、なんで分かんないかなこの馬鹿っ! どうしようもねえな、この馬鹿っ!  僕の可愛い顔がつぶれたらどうすんだ! つーか、アレンっ! お前も見てないで、さっさとなんとかしやがれっ!」

 

「……なるほど。やるじゃん」

 

 必死にタップするフェイトを心底物珍しそうに眺め、アルフは言った。

 アレンが首をかしげる。

 

「もしかして気に入ったのか? アルフ」

 

「そこそこ」

 

「この軍人ども、いつか僕が殺してやるぅぁあああああああ!」

 

 カッと目を見開き、フェイトは声を限りに叫んだ。もちろん、仲間からの救援はない。

 

「ま、なんにせよ。フェイト兄ちゃんの犠牲一つで済んでよかったじゃんね」

 

「アイツが馬鹿で助かったよ」

 

「……複雑な気分だわ。ただの民間人じゃないと思ったけど……、クリフを超える大バカだったなんて……」

 

 マリアの表情は暗かった。

 

 

 

 

「そんなことより。遊んでないで、さっさと構えろ」

 

 アレンが改めて兼定を構えていた。 

 

「ちっとも回避になってねぇえええ!」

 

 ロジャーの顔が濃くなる。

 ネルの頬に冷汗が伝った。

 

「……本気かい、あの悪魔め」

 

「ネ、ネルおねいさま……!」

 

 

 

「だからこの軍人なんとかしろっつってんだろ! そこの軍人っ!」

 

 アイアンクローを喰らってなお、フェイトは叫ぶ。連続Guts百回が――最早Guts発動率百パーセントにまで昇華したフェイトには、この程度の攻撃で気絶するヤワな精神は持ち合わせていない。

 そんなフェイトをじっと観察し、アルフはパッと手を離した。

 

「やっと離しやがった……!」

 

 アルフが首をかしげる。やや不満そうに。

 

「耐久力は申し分ねえが……リアクションがいまいちだな、こいつ」

 

「うすらやかましいわっ! この凡人がぁあっっ!」

 

 声を限りに叫んで、フェイトはアレンを見、構えた。

 

「長らく待たせたなっ! 今日こそ……、フェイト・ラインゴッドの名にかけて――アレン! お前をひざまずかせてやるっ! 覚悟はいいか! 兼定ぁああああっっ! 調子こいてんじゃねぇぞ、鉄片がぁああああ!」

 

「鉄片……だと?」

 

 ぴくり、とアレンの頬が震えた。

 

「……アレン兄ちゃん……?」

 

 ロジャーの表情が固まる。砂漠にいるのに、なぜか壮絶な冷気が、アレンから流れてくる。

 ネルは頭を抱えた。

 

「……あの、馬鹿!」

 

 もちろん、フェイトのことである。

 

「加減を知らない方は、馬鹿とは言わないのかしら?」

 

 涼しい顔でマリアが尋ねた。ネルは首を振る。

 

「甘いよ。馬鹿なんてのは、まだ話が伝わる相手に使うものさ。――だが、あの金髪は違う。あれはもう人の言葉なんか通じない、悪魔なんだ。可哀想だけど、あんたも……この先、知ることになるよ」

 

「フェイト……。鉄片とは、――何を指す?」

 

 静かなアレンの声。

 いつもより、二オクターブ低かった。

 

「フッ」

 

 フェイトは笑って見せる。心の底から、嘲笑してやった。

 

「心地よい殺気だな、アレン! このくそ暑い太陽の中で、僕の全身から冷や汗が出まくってるよ! いや、クーラーいらずだ!」

 

「いい空気だね。ほんと」

 

 狂人は隣で満足そうに笑った。

 

「それほど悔しいか? そのバケモノ刀を鉄片呼ばわりされた事がっ!」

 

「――馬鹿っ!」

 

「フェイト兄ちゃぁああああん!」

 

 斬っ!

 

 踏み込みすら、マリアの目には映らなかった。

 ただ、陽光を浴びて輝いた兼定が――

 

「……がはっ!」

 

 フェイトの胸を袈裟状に切り、叩き落とす。

 それを尻目に、アルフは鼻を鳴らした。

 

「情緒もくそもないな、お前ら。……殺る気あんのか?」

 

「フッ……クッ、……くっくっくっくっくっ……!」

 

 ゆらり、とフェイトが立ち上がる。アルフは目を丸めた。

 

「まだ立てるのか」

 

 感心したように、フェイトを見て頷いている。

 フェイトは、悪魔の軍人に向かって笑った。

 

「そんなものか? その刀を人に向けるべき努力をするんじゃなかったのか? ……今のは、確実に殺る気だったなぁ? アレン」

 

「……ああ、振り切ってやった」

 

 軍人はあっさりと認めた。目は据わったままだ。

 ロジャーが顔色を変えた。

 

「み、みみ、認めたぁああああ!? 認めたじゃんよぉお! フェイトにいちゃぁああんっっ!」

 

「うろたえるな、ロジャーっ! ついに本性を現したな! この薄汚い悪魔がっ!」

 

「心配するな。お前が前言撤回するまで、俺は加減する気はない。――毛頭な」

 

「僕はお前が諦めるまで、立ち上がるのを止めないっ!」

 

「――言ったな?」

 

「勝負だぁああああああっっ! 僕の意地かっ! それとも、お前の兼定かッ! どっちが上か、勝負だぁあああああああっっ!」

 

「分が悪すぎる賭けじゃんよ! 兄ちゃぁあああああんっっ!」

 

「アイツ、アホだろ?」

 

「だから言ったじゃないか。馬鹿だって」

 

「いや、アレンが」

 

「あれは悪魔さ」

 

「あ、そう」

 

「ああ」

 

 淡白に頷くネルに、アルフは深々と溜息を吐いた。

 民間人相手に、目の前で特務軍人がバケモノ刀を振り回して、真剣に斬りかかっている。

 それを見据えて――、

 アルフはもう一度、溜息を吐いた。

 

「俺が殺りたいのは、そういう死闘じゃねえんだが……」

 

「アンタの方が、人間的にはマシみたいだね」

 

 いままで一度も言われたことのないような言葉をネルにかけられ、アルフはあきれた顔でアレンとフェイトを見た。

 

(やっぱアホだ)

 

 それ以外、彼らにかける言葉は無かった。

 

「どうしたっ! 僕の意地を斬ってみろ! 兼定ぁああああ!」

 

「フェイト……もう許さぁああんっっ!」

 

 

 続く――……。

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