連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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phase8 バール山脈
54.モーゼル会談


 アーリグリフに指定されたモーゼル古代遺跡という所は、砂漠の真ん中にあった。

 照りつける太陽に大量の水分を奪われながら、ようやく会談の場に辿り着いたフェイト達は、休憩もそこそこに会議場へと向かった。

 二千年前からあると言われる伝説の遺跡は、積み重ねた年月の割に美しい姿を残している。白い石畳を踏みながら中に入ると、巨大な円卓が、フェイト達を出迎えた。

 軍事国家、アーリグリフの第十三代目国王は、その円卓の間の、右側の席に座っていた。左右に控えているのは、疾風団長ヴォックスと、風雷団長ウォルターだ。アルベルの姿は、ない。

 

「よく来た、ロメリア。……久しぶりだな」

 

 アーリグリフ十三世は、言って口髭を蓄えた表情をゆるめた。向こうの国王自体と会うのはフェイトにとって初めてのことだが、侵攻国としての印象が濃いだけに、彼の親しみやすい表情には拍子抜けする。

 ロメリアに動揺は無かった。彼女は楚々と笑んで、彼とは向かいの、左側の席に腰をおろした。

 

「ええ、そなたもね、アルゼイ。ご壮健そうで、なによりです」

 

「お互い様だ。お前も相変わらず美しい」

 

「そなたも相変わらずですこと」

 

 それが、社交辞令の終わりだった。

 やんわりと笑んでいたアーリグリフ十三世の表情が、鋭いものに変わる。

 

「それで。今回の談義だが」

 

 ちらりとアレンを見やるアルゼイを、ロメリアが制した。

 

「その前に、確認しておきたい事があります。……アルゼイ、そなたは生き残った疾風、そのすべてを此度の戦に導入する覚悟がありますか?」

 

「疾風……そのすべてだと!?」

 

 思わず目を瞠るアルゼイに、ロメリアはにべもなく頷いた。

 ヴォックスの表情に、険が籠る。

 

「どういうことですかな?」

 

 低く問いかけるヴォックスに、ロメリアは言った。

 

「星の船は、強大で凶悪な力を持つモノ。それを相手に我等が打ち克つには、それ相応の戦力が必要となります。我等、シーハーツも施術士すべてを動員する覚悟です。よって、そなた等もそれに協力して欲しいのです」

 

「フフ、なんと大それたことを」

 

 苦笑気味に、アルゼイが喉を鳴らす。彼は言った。

 

「実は、わが国も今、二つに意見が割れていてな。そなた等に協力すると決めた我等と、『敵に対抗するだけならシーハーツと手を結ぶ必要などない』『シーハーツを制圧し、武力で新兵器を奪えばよいのだ』などとほざく連中とが存在する」

 

「分かりやすい発想ですこと」

 

「全くだ。敵の力を見誤ると、どうなるかということが全く分かっておらぬ。この度の敵は強大だ。今はこちらの戦力を疲弊させるわけにはいかないというのにな」

 

「ということは、こちらの申し出を了承していただけると?」

 

「ああ。この際致し方あるまい。先の大戦で、わが国の戦力にも大きな被害が出た」

 

 言ったアルゼイは、横目でアレンを見据えて、小さく苦笑した。

 

「それにしても、あの敵は一体何者なのだ? 先日その隠密からも説明を聞いたが、にわかには信じがたい」

 

 正確にはナツメにも同じ情報をもらっていたが、アルゼイはそれを伏せておいた。

 ロメリアが頷く。

 

「それは私にしても同じこと。恐らくは彼等が説明をしてくれるでしょう」

 

 ロメリアに視線で促され、フェイトは小さく咳払いすると、女王の隣に立った。

 

 ――……、

 

 説明を聞き終えたアルゼイは、困り顔で俯いた。

 

「ううむ……。やはりなんとも突拍子もない話よな。これを信じると言うのか? ロメリアよ」

 

「ええ、アルゼイ。信じなければ国は……シーハーツ、アーリグリフともに滅ぶでしょう」

 

「しかし、奴らにその者共を引き渡すと言う選択肢もあるのではないか?」

 

「以前であれば、可能であったかもしれません。しかし、今となってはそれも不可能でしょう」

 

「何故だ?」

 

「聖殿カナンが彼等によって襲撃されたのです」

 

「なんだと!?」

 

 息を呑むアルゼイに、ロメリアは事も無く頷いた。

 

「この者達とは直接関係ない場所が攻撃された時点で、もはや私達が攻撃目標として認識されたと見て間違いないでしょう……。となれば、私達に残された手段はただ一つ」

 

「全面交戦、か」

 

「ええ。その為にわが国の施術士とアーリグリフの疾風。この二つが力を合わせる必要があるのですよ」

 

 アルゼイはそこで、小さく溜息を吐いた。視線をウォルター、ヴォックスにやる。

 だが、それも一瞬だった。彼はロメリアに向きなおると、頷いた。

 

「国の体面を気にしている場合ではないのだな」

 

「その通りです」

 

「……わかった。協力しよう」

 

 二つ返事で頷くアルゼイに、ロメリアは、そそ、と微笑んだ。

 と。

 

「それじゃ。さっそく本題に入りましょうか」

 

 突然のアルフの言葉に、一同は彼を見た。アルフは彼らの質問には答えず、アルゼイとヴォックスを見る。

 

「約束通り、貴方々の持つ飛竜の中で、最高のものを連れて来てもらえたんですよね?」

 

「ああ。無論だ」

 

 にべもなく頷くアルゼイに、アルフは小さく薄ら笑うと、一同を外へと促した。

 

 

 

 

 和平会談を無事に済ませたフェイト達は、アルフの指示の下、アーリグリフから来訪した飛竜、オッドアイとテンペストを見比べた。

 

 疾風の構成員全てを動員するという条件。

 

 それを、アーリグリフ側が承諾した為だ。

 会談の場にはいなかったアルベルは、ナツメと共に飛竜のいる外にいた。

 

「我が飛竜と陛下のオッドアイ。この二匹を是非とも連れて来いと言ったのは、貴公だそうだな?」

 

 会談を終えるなり、モーゼル砂漠の凄まじい熱気にあぶられながら、ヴォックスは静かにアルフを見た。頷いたアルフが、視線をアレンに向ける。すると、兼定を抜き払ったアレンが、オッドアイとテンペストに向き直った。

 

「失礼する」

 

 一言、断って。

 

「どうする気だ? アレン?」

 

 首を傾げるフェイトを始め、アルフを除いた誰もが、不思議そうにアレンを見た。

 瞬間。

 

 ざわ……っ、

 

 大気が身震いした。砂漠に立った、アレンを中心に。

 

(これは……っ!)

 

 覚えのある感触にヴォックスは目を見開く。忘れたくとも忘れ難い、この巨大な『気』の流れ。それがアレンに――兼定の刀身に、吸い込まれるようにとぐろを巻いて、青く、蒼く、光る刃として凝縮されていく。

 アレンの全身が闘気に満たされ、青白く輝く。その中、アレンはゆっくりと兼定の刃を寝かせると、刀身に右手を添えた。刀身に己を映すように。

 

「活人剣……!」

 

 ネルがつぶやくと同時、アレンは、か、と目を見開いた。

 

「覇っ!」

 

 裂帛の気合。同時、青白く輝く兼定の刀身が、更に鋭く輝いた。

 

 ――ゴォッ!

 

 砂嵐が起こる。天まで届きそうな、少なくとも雲を穿つほどの巨大な竜巻が、アレンの立っていた砂丘を中心に吹き荒れた。小高い丘となっていた砂丘が、風圧でべこりと凹む。

 その上に現れたのは、巨大な朱雀だ。灼熱の砂漠よりなお強烈な、圧倒的な質感と熱風を孕んだ、炎の化身。それはバンデーン艦を襲った時とまったく変わらぬ姿で、テンペストやオッドアイなどまるで比べ物にならないほどの壮絶な大きさでもって、天からフェイト達を見下ろした。

 アレンに付き従うように、彼の背で。

 

「これが、クリフの言っていた赤い鳥……!」

 

 熱に浮かされたように、マリアは無意識下で固唾を呑んだ。朱雀を見上げて、呆然と。そんなマリアを置いて、朱雀を召喚したアレンが、静かにオッドアイとテンペストを見据えた。

 

「この状態の俺を、運ぶことは可能だろうか?」

 

 慎重に、問う。

 だが獣であれば――否、獣などより遥かに高度な知能を持つ二匹の飛竜には、無理な相談だった。彼等は目の前にある炎の化身に瞠目し、後ずさった。これを自分の背に乗せることなど、あまりに恐れ多い。言うなれば、何も知らぬ平民が、国王の前で膝をつかないのと同じ行為だ。

 神獣なのだ。これは。

 

 ぐ、るるる……っ、

 

 普段、人語を解せるオッドアイでさえ、身を小さくして唸る。

 恐怖というより、圧巻。あまりにも神々しい朱雀の炎に、誰もが言葉を失い、動けない。

 アルゼイは呆然と朱雀を見上げて、つぶやいた。

 

「この地アーリグリフ。邪悪なる脅威に民苦しむ時、異国の服を纏いし勇者現れん。彼の者、大いなる光の剣を以って迷える民を救わん……」

 

 エクスの預言書、と呼ばれるアーリグリフ聖書の一説だ。

 アルゼイは信心深いワケではないが、預言書を体現すれば、このような感じだろうと納得していた。

 

「大いなる、光の剣……」

 

 そのアルゼイに続いてロメリアも呆然と、『彼』が持つ兼定を見据えている。今まで見た、どんな施力よりも強烈な光を放つ刀を。

 と。

 

「……少し、驚かせてしまったか?」

 

 ふ、と力を抜いたアレンが、背中の朱雀を消した。空気中にある大気を、何千倍にも凝縮したような質感が、それと同時に消え失せる。

 

「やっぱりダメみたいだな」

 

 兼定を納めるアレンを傍らに、アルフが肩をすくめて言った。いつも通り平坦な声。予測していた事態に、落胆する様子も無い。彼を尻目にアレンは改まった表情で、オッドアイとテンペストに向き直った。

 

「お付き合い、感謝する」

 

 一礼するアレン。

 相手が竜であっても、礼節を重んじる。この自分の、腹にも満たない小さな人間が、あの巨大な朱雀――神の獣を平然と従えて。

 それは長い時を生きたオッドアイにすら稀有と言わしめる存在だった。

 オッドアイはかすかにうつむき、アーリグリフ王に向き直った。

 

「我が主よ」

 

 オッドアイの言葉に、フェイトとロジャー、そしてマリアが目を丸くする。

 竜が人語を解す――。

 その事に驚いたのだ。その彼等を置いて、オッドアイが話の先を促すと、アルゼイも、うむ、と低く首肯した。ロメリアとフェイト達に向き直って、詫びるように首を振る。

 

「残念ながら、この二匹は我が国最高の飛竜だ。この二匹をもって、お前を乗せる事が出来ぬとあれば、もはや今現在のアーリグリフに、お前を乗せて星の船に攻め入る事は難しいと言わざるをえない」

 

「そんな……!」

 

 思わず言葉を失うフェイトの傍らで、アルフが低く失笑した。アルゼイを見据え、彼はその紅瞳をわずかに細める。

 

「前置きはいい。策があるなら、話してください」

 

 率直に言い放つアルフの態度は、どこかアルベルに似ているが、より険がある。アルゼイは紅瞳を見返して、む、と表情を引き締めた。

 

「――うむ。今いるエアードラゴンでダメなら、それより大きなエアードラゴンを手なずけるしかない」

 

「この二匹より、大きなエアードラゴン?」

 

 首を傾げるフェイトに、アルゼイは重々しく頷いた。フェイトの傍らでネルが険しい表情でアルゼイを睨む。

 

「そんな奴がどこにいるんだい?」

 

 注意深く、相手を観察するように。

 鋭い視線を向ける隠密を飄々と見返して、彼女の問いに答えたのは例の好々爺だった。

 

「お主たちも行った事のある場所の近くじゃよ。ベクレル鉱山の近くにウルザ溶岩洞と呼ばれる洞窟があるのじゃが……。その中に巨大なエアードラゴンが住んでおる」

 

「だったら、さっさとひっ捕まえに行こうぜ! フェイト兄ちゃん!」

 

 突拍子も無く、ぴょんっ、と高くジャンプするロジャーに、アルゼイも頷いた。

 

「そういうことだ」

 

 恐らく、見込みがあってのことだろう。

 フェイトが力強く頷くと、ヴォックスが、ふん、と不満げに鼻を鳴らした。

 

「彼の者をただのエアードラゴンと侮るな。相手は高度な知能と強大な力を持つ偉大な侯爵(マーカス)級ドラゴン。……この私ですら、従えることのできなかった相手なのだからな!」

 

「それは結構。アンタで相手になるなら、そもそも洞窟に行く意味がない」

 

 淡々と言うアルフに、それまで黙っていたアルベルが、面白くもなさそうに、舌打った。

 

「そう簡単な話か、阿呆。侯爵(マーカス)級の化け物なんぞ、人間が相手にできるレベルじゃねぇ」

 

「へぇ? 詳しそうだな、お前」

 

 喉を鳴らし、アルフが片眉を吊り上げる。切れ長の紅瞳に、探るような気配が含まれる。アルベルは無造作に顔を背けた。相変わらずの仏頂面で、面白くもなさそうに鼻を鳴らす。

 途端。アルフは何か察したように、ひとつまたたいた。何を読み取ったのかは知れないが、アルベルが不快そうにアルフを睨む。が、彼は薄笑いを浮かべているだけで、それ以上は何も言わなかった。

 代わりに傍らからナツメが、悪びれない笑みでアルベルに言った。

 

「まぁまぁ、団長! 仮に、以前失敗した人がいたとしても、今度は大丈夫ですよ! こちらには、アレンさんやアルフさんがついてるんですから!」

 

 瞬間。

 

 すぅ――……っ、!

 

 アルベルから凄まじいまでの殺気を送られて、ナツメは、きょとん、と瞬きを落とした。

 殺気――いつもアルベルが向けてくる剣気ではなかった。純粋に、憎悪を孕んだ黒い殺気だ。

 確実に、ナツメを『敵』と見たアルベルの視線。

 

「団、長……?」

 

 射すくめられたナツメが、強張った表情で問いかける。が、即座にナツメから視線を外したアルベルは、不機嫌に舌打ちするなり、何も言わずに踵を返した。

 合点の行かない顔で、ナツメがアルベルの背を見送る。その間に、ネルが場を仕切り直すようにヴォックスを見た。

 

「で? そのウルザ溶岩洞への道案内は、アンタがやるのかい?」

 

「いや、ヴォックスには来るべき日の為に施術士達と打ち合わせておく必要がある。そこの男が言うには、集団合成魔法とやらには陣形が必要なのだろう?」

 

 ヴォックスに代わり、アルゼイがアレンを指して問いかけると、視線を受けたアレンが、小さく頷いた。

 アルゼイの視界の端では、ウォルターがため息混じりにアルベルの背を見送っている。それにアルゼイも困ったように眉をしかめると、アルフが突拍子も無く、ぽん、とナツメの頭を叩いた。

 

「ま、そんなことだろうと思ったが。意外に的を射たらしいな。ナツメ」

 

「……ほぇ?」

 

 殺気に反応して表情を硬くしたナツメが、アルフを振り返る。それを視界に入れるわけでもなく、

 

 がつ、

 

 無造作に、アルフはアルベルの長い髪――触覚のように二つにまとめた髪の一束を、鷲掴んだ。

 

「ぐぁっ!?」

 

 ぐきっ、という妙に嫌な音を立てて、アルベルの首が妙な方向に捻じ曲がる。が、狂人はそんなアルベルに構わず、アルゼイに向かって言った。

 

「じゃ。水先案内人はコイツってことで?」

 

 飄々と確認をするアルフに、アルゼイはぽかんと口を開けていた。

 二、三秒。

 アルフの言葉を理解するのに間を要す。

 あの『歪のアルベル』が――。

 戦場での彼を、少しでも知っている人間が見れば、信じられない光景だ。それに圧倒されて、意味もなく口を開閉させていると、アルゼイは、はっと思い出したように、唇を引き結んだ。

 

「う、うむ」

 

 口頭で頷くと、アルフは得心がいったように、にやりと笑って、フェイトに向き直った。

 

「だったら、さっさと行こうぜ。今は一寸の時も惜しい」

 

 それが出発の合図だったのだろう。

 アルフは片手にアルベルを引きずったまま、事もなげに歩き出した。

 そんなアルフを、じ、と見据えて――、

 

「命知らずってのは、ホントにいるんだね……」

 

 ぽつり、とつぶやくネルに、フェイトが無言のまま、頷いた。

 

 

 

 ………………

 

 

 

 侯爵竜を連れ帰るという前代未聞の難題に、戦力増強を図ったフェイトは、アーリグリフにいるクリフとミラージュを迎えに行った。

 今回はアーリグリフ側の協力があったため、フェイト達は飛竜で一気に王都まで辿り着く事が出来たのだ。

 エリクールについた時墜落したイーグルと、久しぶりの再会を果たしたフェイトは、別れの時より格段に綺麗になったイーグルに、思わず目を丸くした。

 

「凄い……!」

 

 もはや、目につく所に損傷は見受けられない。驚くフェイトを他所に、艦内からクリフが出て来た。

 

「……あれ? ミラージュさんは?」

 

「バンデーンとやり合うために、少しでも勝率を上げるためのシミュレーションだの微調整だのをやるってよ。……で? 話はどんな風にまとまったんだ?」

 

 問うクリフに、フェイトは場所を移しながら現状を説明した。

 

 

 

 …………

 

 

 

「ここが、ドラゴンロードの入り口か……」

 

 バール山脈の麓。

 さすがにドラゴンの住処と呼ばれる山脈は、空を見上げれば、野生の飛竜が多く飛び交っていた。

 アーリグリフから麓まで送ってくれた疾風兵の話によると、飛竜とは一口に言っても、様々な種類があるらしい。空に浮かぶ、野生の竜をドラゴンと称するのに対し、疾風が従える竜をエアードラゴンと称する。

 エアードラゴンは、アーリグリフでは畏敬の念の象徴だ。

 節度ある対応をするのが礼儀と言われている。

 

「にしても、意外だな。お前は誰よりも、部下の信用がない奴だと思ってた」

 

「……ほぅ?」

 

 意外そうに目を丸めて、アルフがまじまじとアルベルを見る。

 視線を鋭くしたアルベルは、悪びれずに見返してくる狂人を見て、不服そうに舌打ちした。

 

「お前には言われたくないんじゃないか?」

 

 アレンが苦笑気味に指摘すると、アルフが、さも当然、と言わんばかりに肩をすくめた。

 

「まあな」

 

「にしても、お前。どうやってイーグルをあそこまで修理させやがった? レプリケーターで合成っつっても限度があるだろうがよ」

 

 アーリグリフから戻ってきてからこちら、何やら疲れた様子で、がしがしと頭をかいているクリフに、アルフは意味深な笑みを落とした。

 

「ま、いろいろあるんだよ」

 

 答えにもなっていない返事だ。

 そんな一行を見据えて、フェイトが得心のいった顔で頷く。

 

(それにしても、増えたなぁ……)

 

 しみじみと胸中でつぶやくと、更に感慨が深まる気がした。

 全員で十人。

 ミラージュが作業を終えるのを待って、ついて来てもらったのだ。

 

「しかも今回はアレンと互角って噂のアルフまで居るし。コレは、今後の行動が楽になると言っても過言じゃないよな」

 

 小声で言っているつもりなのだろうが、丸聞こえの声量で、こくこくと頷くフェイト。その彼に、失笑したのはアルフだった。

 

「ま、この惑星(エリクール)に居る間はな」

 

 途端。フェイトが困ったように眉をひそめる。

 会話を聞いていたマリアが、至極当然な問いを口にした。

 

「それなんだけど」

 

「?」

 

 片眉を上げて振り返るアルフに、マリアは慎重に問いかけた。

 

「不思議に思ってたの。連邦でも極秘とされている私やフェイト――、いえ、クォークに所属している私を拿捕するのは難しいとしても、フェイトを連邦軍(あなたたち)が見逃す理由は、何?」

 

「連れて行っても構わないのか?」

 

 問いに問いで返すアレン。マリアは眉を寄せた。

 アレンを見据える。彼の、意図が読めない。

 肩をすくめたアルフが、面倒くさそうにため息を吐いた。

 

「アンタの言いたい事は分かるぜ。俺ももともと、この星にはアレンを迎えに来たわけじゃない。『フェイト・ラインゴッドを確保しろ』と言われて来たんだ。が、誰とは言わねぇけど、偶然この星でばったり出くわした横暴かつお人よしの金髪が、フェイト・ラインゴッドをアンタに任せるべきだって言って聞かなくてね」

 

「言ってくれる」

 

「俺の十日間。埋め合わせてくれるんだろ?」

 

「…………」

 

 肩をすくめるアルフに、アレンは二の句が告げない。片頬を震わせるなり、黙りこんだ。

 アルフは満足そうに笑むと、改めてマリアに向き直った。

 

「ま、一番悪いのは、バンデーンが来る前に本陣を寄越さなかった提督だ。派手に暴れて事をうやむやにしちまえば、アンタ等がラインゴッドを連れて行ったって問題はない」

 

「そんなんでいいのか?」

 

 思わず首をかしげるフェイトに、ああ、と即答するアルフ。何だかんだ言って否定しないアレン。その二人を見比べて、マリアは、ふぅ、とため息を吐いた。

 肩の荷を下ろすように、そ、と。

 

(マリアも苦手なんだ。……アルフのこと)

 

 マリアを横目で観察しながら、合点したようにフェイトが頷くと、前を歩いていたアルフが、後ろを振り返って不思議そうに首をかしげた。

 正確には、アレンの後ろを付き従うようにとぼとぼと歩いている、ナツメを振り返って。

 

「どうかしたのか、ナツメ。珍しく静かじゃん」

 

「……? そんな事はありません! いつも通りですよ、アルフさん」

 

 言って、にこりと笑う彼女には確かに覇気が無い。フェイトも気付くと、ナツメの前を歩いていたアレンが、ぽんぽん、と彼女の頭を撫でた。不思議そうにアレンを見上げるナツメと、しかし視線は合わせずに。

 

「今は急ごう」

 

 何事も無く言い放つアレンに、いいのかな、とフェイトは首をかしげながらも頷く。

 そう言えば、こんな風にアレンと行動を同じくするのは、カルサア修練場以来だと思い出しながら。

 

 故に――、

 

「……こんな、楽だったのか……」

 

 道中、鉢合う竜を無造作に退けるアレンを尻目に、フェイトは感慨深げに頷いた。

 さすがは『鬼教官』。

 竜と対峙する物腰が、クラウストロ人のクリフよりも素早く、堂に入っている。

 そのアレンと引けを取らない動きをするアルフも、フェイト達が竜の迎撃をする前に次々と敵を斬っていく。

 まさに一刀両断だ。

 この二人の活躍で、一行は難なくバール山脈を登り、山奥にある遺跡へと辿り着いた。

 

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