連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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67.FD空間

 フラッドに連れて来られたのは、彼が言った通り、彼の『自宅』だった。

 ドーム状の見慣れない家屋。その中に入ると、リビングと思しき広間のソファに、母親が座っていた。

 

「ただいまぁ」

 

「おかえり……ん?」

 

 ソファでくつろいでいたフラッドの母が、雑誌から顔を上げる。と、彼女はフェイト達を見て眉をひそめた。

 

「フラッド、その人達は? ずいぶんと変わった服装だけど……」

 

 窺うように、フラッドに問う。彼女は心なしか、語調を落とした。

 

「え? あ、友達友達!」

 

 ハハッと笑いながらフラッドは頭を掻く。そうする一方で、フェイト達を自室に連れていくフラッド。

 そんな息子が連れてきた『友達』を、まるで一人一人観察するように見据えて、母は眉間に皺を刻んだまま、首を傾げた。

 

「お友達……そう」

 

 『ただの友達』しては、雰囲気が妙だ。彼女はそう思った。

 現実離れした服装に、彼等は凶器と思しき剣や銃を携えている。年齢も、フラッドより年上ばかりだ。殺伐とした彼等の雰囲気が、どうにも不安で仕方がない。――特に、蒼瞳の青年と、紅瞳の青年が放つ空気は、観察している母親の方が、寒気を覚えるほど禍々しい。

 

 そして、

 

 部屋の扉が閉まるなり、フラッドはフェイトを振り返った。十歳前後の少年に相応しく、彼の笑顔はあどけない。フラッドは、どこか興奮しているようだった。

 

「ねぇ、お兄さんのフルネームを教えてもらえるかな? それと出身地も」

 

 弾むような声で、フラッドはフェイトに問いかけた。

 フェイトは目を細める。

 少年を――FD人を、信じていいものかどうか、一瞬迷う。

 名前を告げて、事態が悪化してしまわないか――。

 と。

 目の合ったアレンが、小さく頷いた。フェイトの脳裡に、自分の言葉が思い出される。

 『多少の危険は、承知で行かないと』。

 つい先ほどの言葉だ。苦笑するように肩をすくめたフェイトは、フラッドを見て、名乗った。

 

「……僕は、フェイト・ラインゴッド。地球という惑星の出身だ」

 

 フラッドは一つ頷くと、がらんとした自室の椅子に腰かけた。途端。彼の前に、半透明のコンソールパネルと、画面が出現する。

 フラッドは慣れた手つきで、パネルを叩いた。

 

「これでよし、と」

 

 入力が終えたパネルが、合図もなしに消える。フラッドは画面を見、嬉しそうに目を輝かせた。

 

「出た! ……やっぱり、お兄さん達はそうだったんだ。なるほどね、納得~! ブレアの言った通りだ」

 

 鼻歌でも歌いだしそうな調子で言い、フラッドは頭の後ろで腕を組む。にんまりと口端を緩めた彼は、好奇心に満ちた眼差しをフェイト達に向けた。

 フェイトは眉をひそめた。

 

「どういうことなんだ? ブレアって?」

 

「お前、奴等の関係者じゃねぇだろうな」

 

 クリフの眼差しにも険が籠る。だが、逆に狂人は笑っていた。

 

「むしろ、その方がこっちの都合はいいけどな」

 

「早まらないで。……私達が失敗したら、もうこの世界に来ることも出来ないのよ」

 

「心配すんな。俺は冷静だぜ。――アイツに比べて、な」

 

 言って、顎でアレンをしゃくる。目を閉じたアレンは、ただ、無言だった。

 フラッドが、困ったように中空を見つめる。

 

「えっと……なんて言えばいいのかな? お兄ちゃん達は、エターナルスフィアの住人なんだよね?」

 

「エターナルスフィア?」

 

 どこかで聞いた言葉だった。フェイトが首を傾げていると、フラッドは頷いて、画面を操作する。

 

「これだよ」

 

 映し出されたのは、よりにもよって執行者と戦い、炎上爆発したアクアエリーだった。

 画面の中で、連邦最強艦が、宇宙の塵となっていく。

 

「――!」

 

 フェイトは息を呑んだ。

 

「これは!?」

 

「連邦と、エクスキューショナーの戦いね」

 

 確認するようにマリアが問うと、フラッドは小さく頷いた。

 

「そう。これはエターナルスフィアで実際に起きていることさ。エターナルスフィアってのはね、シミュレータの中での世界なんだ。で、地球もその世界に存在する惑星の一つってわけ」

 

「――――っ!」

 

 フェイトの表情が凍りつく。――否、この場にいた、誰もがそうだ。

 静寂が、占める。

 

 

 …………………、

 

 

(……シミュレータ?)

 

 皆が沈黙する中で、フェイトは自分の独白を聞いた。すると、ぐぅぅ、と胸を締め付けるような不吉な予感が押し寄せてくる。言葉にもならない、不吉な絶望感が。

 フラッドは変わらぬ調子で、説明を続けた。

 

「エターナルスフィアは個々の端末から鑑賞できるんだ。だから銀河系で起きている事件も、ここで見れるというわけ。つまり、お兄ちゃん達はエターナルスフィアと言うシミュレータの中にいる登場キャラクターなんだよ」

 

 少年の明るい声は、固まった心臓には重くのしかかった。

 場が止まる。

 

 『キャラクター』。

 

 意味は分かる。だがそれが孕む、あまりにも非現実的な設定に、フェイトはとても首を縦には振れなかった。

 ごくりと固唾を呑む。

 ソフィアは少年を見つめ、フェイトを振り返った。

 

「……ねぇ。この子、一体何を言ってるの?」

 

 不安そうに、ソフィアが眉をひそめる。彼女も同じ事を考えたのだろう。顔色が心なしか蒼白で――しかし、それを認めないように、訝しげな表情を浮かべていた。

 フェイトは返答に窮した。

 脳裡を、少年の言葉が反芻する。

 

(僕等が……キャラクター?)

 

 銀河が、世界が、ただのシミュレータで――、

 

 あり得なかった。

 

 納得どころか、理解すらも出来ない。

 自分が生物兵器と言われるよりも。自分の存在そのものが否定されるような、少年の言葉に、ただ絶句するしかない。

 

(キャラクター……?)

 

 ハイダも。エリクールの惨状も。

 すべての人が生死を賭けて、尊厳を賭けて戦ったというのに。

 アクアエリーは、フェイト達を生かす為だけに、たった一隻で執行者と戦った。

 ――そして、轟沈したのというのに。

 それも、すべて――。

 

 シミュレータの中での出来事。

 

 認められない。

 認められる訳がなかった。

 

(そんなの、……じゃあ、僕等は一体――!)

 

 マリアが両親を失うことになったのも、

 ソフィアの両親の安否が、未だ分からないのも――。

 執行者による虐殺に、震える皆の恐怖も。

 すべてが、

 

 『作り物』――……。

 

 アレンが、ぎり、と奥歯を噛んだ。

 

「俺達が、……シミュレータ内の登場キャラクターだというのか」

 

 努めて冷静に、あくまで感情を殺して、アレンは確認するように、フラッドを見る。するとフラッドは、満足げにこくりと頷いた。

 

「そう!」

 

 まるで教え子を諭した先生のように。

 得意げに頷く少年に、クリフは青ざめた顔で問いかけた。

 

「つまり、俺達はプログラムだってのか?」

 

「まあ、端的に言えばそう言うことになるよね」

 

 あっさりと頷く。

 ソフィアはフラッドを見、ごくりと息を呑んだ。

 

「じゃあ、銀河と言う世界は、ただのゲームのステージだというの?」

 

 慎重に問うと、フラッドは気さくに首を振った。

 後頭部で腕を組んで、違うよ、と小さく笑う。フラッドは、ふふん、と得意げに、鼻を鳴らした。

 

「エターナルスフィアは、オンラインで参加者全員が共有しているんだ。勝手にリセット出来ない。だから、ゲームって言うのとは少し違うよ。まあ、一種のパラレルワールドみたいなものかな」

 

 ドンッ!

 

 アレンが拳を壁に叩きつけた。蒼穹にも似た蒼い瞳が、彼の前髪に隠れる。

 

「……ふざけるなっ! 何が、オンラインで参加だ? 何がパラレルワールドだっ!? そんな娯楽のために、提督や皆は――……っ!」

 

 途中で言葉に詰まる。口惜しげに歯を噛むアレンから、皆、目を背けた。

 フェイトとしても、怒っているのは同じだ。すべてを蹂躙するような――執行者の群れが、脳裡を過ぎる。

 フェイトの声が、震えた。

 

「……答えてくれよ、フラッド。僕は……僕達は、君たちFD空間の住人に、踊らされていただけなのか!?」

 

 フラッドに詰め寄った。すると、フラッドは困ったように眉を寄せて、少しだけ反省するように語気を下げた。

 

「そう言ってしまえばそうだけど……。でも、お兄ちゃん達はそれぞれ独自のAIプログラムで動いているわけだから、本質的には僕達と一緒だよ? 別にコントローラで操作してるわけじゃないもんね。少なくとも僕はそう思ってるけど。存在している次元が違うだけさ」

 

「だから、パラレルワールドと評したわけね」

 

「うん!」

 

 頷くフラッドは、子供ゆえか、はしゃいでいるようにも見える。まるでこの状況を楽しんでいるような――。

 マリアは静かに瞼を閉じた。自分の感情を、殺すように。

 アルフが問いかけた。

 

「なら。エクスキューショナーも、シミュレータ内のキャラクターってことだな?」

 

「まあ、有り体に言えばね。この間発表されたブレスリリースによると、エターナルスフィアのプログラムの一部である『銀河系』って区画に異常が認められたらしいんだ。お兄ちゃん達の出身区画だよね? ――それで。その異常をそのまま放置しておくと、プログラム全体に悪影響を及ぼすって判断した会社が、その悪影響を削除する為にプログラムを作ったんだ。それが執行者。つまり、エクスキューショナーってわけ」

 

「……要するに、執行者はバグフィックスプログラムか」

 

「その通り!」

 

 フラッドは頷いた。

 クリフが失笑し、茫然と首を横に振る。

 

「冗談じゃねえ……。神だ何だっていうのも、十分馬鹿みてえな話だと思ってたが、プログラムだと!?」

 

「でも、……私達がプログラムだとしたら、どうしてここに存在出来るんでしょう? この子の言う事が本当だとしたら、私達はここに存在出来ない筈じゃ?」

 

 ソフィアの疑問に、アルフが肩をすくめて答えた。

 

「そいつは違う。ガキとラインゴッド博士の言葉を思い出せば、符号が行くぜ」

 

「え……?」

 

「博士が言ったろ。『FD空間には、今のままでは我々が干渉することが出来ない。だから、人間に紋章遺伝を施した』ってな。俺達が博士の研究無しにFD空間(ここ)に干渉できないのは、俺達がシミュレータ内の存在だからだ。そして、そこのガキが言うように、俺達が独自のAIプログラムを持っていると仮定すると――俺達は紋章研究によって自分達の世界の物理法則を顕現し、空間を繋いで、法則を安定化させることでFD空間(ここ)に存在するようになった。これは、パラレルワールドっていう性質が働いたからだ。――で。その『ブレスリリース』とやらが言ってる『バグ』ってのは、間違いなく紋章遺伝による空間破壊のことだろう。普通に考えて、たかがゲームの存在が、現実世界に干渉して来るなんて誰も思いもしなかっただろうしな。こっちの住人も」

 

 アルフの説明に、ソフィアは息を呑んだ。

 それはつまり――、

 

「僕達が存在出来るのは……マリアの、アルティネイションの力が働いているから。そういうことなのか……」

 

「多分な」

 

 頷くアルフに、マリアが顎に手を添えた。

 

「ラインゴッド博士が与えてくれた力、プログラムが生みだしたプログラム。……考えてみれば、空恐ろしい力だわ」

 

「しかし坊主。なんでお前、そんなに詳しいんだ?」

 

 クリフが問うと、フラッドは得意げに笑った。

 

「僕の友達がエターナルスフィアの開発会社の関係者だからさ。ブレアって言うんだけど。僕にいろいろ教えてくれたんだよ。……あ! でも勘違いしないで!! 僕は敵じゃないからさ」

 

 慌てて首を振るフラッドに、マリアは言及するよう尋ねた。

 

「ではなんで、私達をここに連れて来たの?」

 

「うーん……。やっぱり一番の理由は、お兄ちゃん達に興味があったから、かな? そこのお兄ちゃんも言ってたけど、やっぱり信じられないでしょ? 普通。プログラム生命体が、自分達の力でこっちの世界にやって来るなんて。想像も出来ない話だからさ」

 

「……ま。そりゃそうか」

 

 得心がいったように、クリフが頷く。眉間の皺が取れたクリフに、フラッドは満足そうに頷いて、笑顔のままフェイトを見上げた。

 

「お兄ちゃん達はエクスキューショナーに対抗するために来たんでしょ? で。どう? 勝てそう?」

 

 問うフラッドに、アレンは目を堅くつむって、息を吐いた。肩から力を抜くように。

 アレンは壁から離れると、フラッドを見、問いかけた。

 

「……フラッド。そのことで君に一つ聞きたい。君の言う事が本当だとすれば、執行者のプログラムを開発した、総元を教えてくれ」

 

「エクスキューショナーの?」

 

「ああ。俺達の世界、エターナルスフィアを作った者が、ここにはいるんだろ?」

 

「それはそうだけど。でも、『スフィア社』は、アクセス権を持ってない僕みたいな一般人じゃ行けない所だよ? ……そこはブレアに聞いてみるしか――」

 

 フラッドがつぶやいた、その時。

 

「動くな! 両手を上げろ!」

 

 黒い防護服を着た男達が、入って来た。手には機関銃らしき大型のハンドガン。銃口をフェイト達に向けている。フェイトは鋭く、フラッドを仰いだ。

 

「フラッド、君やっぱり……!」

 

 緊張が走る。

 『バグフィックスプログラム』。自分達を『キャラクター』と称する少年は、敵意が無くとも、あまりに不気味だ。

 フラッドが首を横に振る。

 

「ち、違うよ! 僕は何もしてない!」

 

 フラッドは防護服の男達の後ろに、母親を見つけた。

 

「母さん!? 母さんがセキュリティサービスに連絡したの!?」

 

「だって、フラッド……。母さん、あなたが心配で……」

 

「まったく! 余計なことして!」

 

 頬を膨らませるフラッドを置いて、クリフが鋭くフェイトに問いかける。

 

「どうする?」

 

「正直、僕にもどうすればいいのか分からないけど……」

 

「ここで捕まっちゃ終わりだろ」

 

 さらりと言うアルフに、フェイトは頷いた。マリアが問う。

 

「行く?」

 

「ああ! 皆、外へ!」

 

 鋭くフェイトが指示を出す。と、

 瞬きの間に、アレンとアルフが動いていた。防護服の男達が全員ハンドガンを取り落とす。

 

「なっ!?」

 

「強い……っ!」

 

 セキュリティサービスが息を呑むと、延髄や腹に、手刀と拳が叩きこまれた。鈍い呻き声を上げて、セキュリティサービスがくず折れる。

 クリフは溜息を吐いた。

 

「さすが特務……」

 

「荒事はお手の物ね」

 

 マリアもつぶやいて、マイクロブラスターを腰のホルスターに仕舞った。普段からアールディオンや裏組織(マフィア)を相手しているだけあって、アレン達の動きはあまりに自然だ。

 クリフ達の後ろで、フラッドが目を輝かせた。

 

「わぁ! すっげぇ……!」

 

 アルフは気絶したセキュリティサービスの面々を見下ろした。

 

「こいつら。連邦警察より弱ぇ」

 

「俺達の物理法則は、この世界を元にしたんだろう。……胸の悪い話だが」

 

「ああ、それで」

 

 いかにも平和そうなFD空間の街並みを思い出して、アルフは肩をすくめた。

 本物の荒事など、経験したことも無いのだろう。セキュリティサービスの動きは、素人に毛が生えた程度だった。

 ――ただし、防具は一級品だ。

 顔を見合わせたアレンとアルフは、家の外に視線を向けた。

 

「ともかく、ここを出よう。フェイト」

 

「長居無用ってやつ」

 

「あ、ああ!」

 

 頷いたフェイトが、部屋を出ようとした時、後ろからフラッドが言った。

 

「お兄ちゃん達!」

 

 振り返ると、フラッドが何かを放り投げる。それをクリフが受け取ると、彼は首を傾げた。

 

「何だこりゃ?」

 

 ディスクのようだ。

 フラッドは笑顔で言った。

 

「認証ディスクだよ。レコダの時空ステーションからジェミティ市に行けば、少なくとも僕の言った事が本当だって分かる筈だから」

 

「こらっ! フラッド!」

 

「ぁ痛っ!」

 

 コンッと軽快な音を立てて、頭を小突かれたフラッドは、家の中から出てきた母親に、強制的に連れ戻されていった。その彼を見据えて、クリフは忌々しげに顔をしかめる。

 

「あのガキ、味な真似を……」

 

 言いながら、ディスクをフェイトに渡す。受け取ったフェイトは、ディスクを見据えた。

 

「ともかく、行ってみよう! ……ジェミティ市へ!」

 

 フェイトの言葉に一同は頷き、レコダからジェミティ市へと向かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 色とりどりの照明が街を照らし、明るい音楽が心地よく流れる。星と思って見上げた『空』が、紫色のヴェールがかかっているだけで、それが本当に『空』と言うべき空間なのか、フェイトには分からない。

 巨大な、ドームのようにも見える街。それがジェミティ市だ。

 行き交う人は、奇抜な衣装に身を包み、食べ物を片手に談笑していた。ここでは、フェイト達に注目する者は誰もいない。それだけ多くの珍妙な服が行き来しているのだ。

 街頭から、放送が流れた。

 

[ただいまの時間より、マッタリン伯爵を主人(あるじ)としたバトルチェス大会を開催いたします。皆さん、ふるってご参加ください]

 

 着ぐるみバーニィが、愛らしいジェスチャーで子供達に風船を配る。

 一言で言えば、『遊園地』のような場所だった。自分と同じ文化の服を、慣れないながらも着る人々に暗い影は無い。皆、談笑しながら、次のアトラクションを何にするか相談している。

 フェイトは息を呑んだ。

 

 空気が、軽い(・・)

 

 レコダよりも更に。

 銀河を襲う執行者など、まるで『夢』のように――。

 フェイトは喉が渇くのを感じながらつ、ぶやいた。

 

「ここが、フラッドの言っていたジェミティ市か……」

 

「うわぁ……」

 

 傍らでソフィアも、呆気に取られていた。あんぐりと口を開けた彼女は、お祭り気分に看過されてか、頬の緊張をやや解いている。単純に、壮大な遊園地に驚いているようだ。緊張感の無いソフィアの横顔を見つめて、フェイトは少し目を伏せた。

 無理もない。

 バンデーンに捕まってからこちら、ずっと緊張の連続だったのだ。むしろこの平和な空気こそが、彼女には慣れ親しんだモノ。――自分も、含めて。

 だがフェイトはどうしても、この街を認める気になれなかった。腰に差した剣の重みが、『現実』を思い出させる。『エターナルスフィア』の現実を。

 クリフが忌々しげに――否、もう諦めたように、肩をすくめた。

 

「こういうのを見せられると、本当に俺達の世界をこいつらが作ったんだと思い知らされるぜ」

 

 ぽりぽりと頭を掻くクリフ。フェイトが頷くと、マリアがぴしゃりと言った。

 

「呆けてる場合じゃないでしょ。フラッドの話していた、エターナルスフィアの端末を探さないと」

 

 フェイトはもう一度頷き、ジェミティ市に繰り出した。

 

 

 

 ………………

 

 

 

「いらっしゃいませ。ココは我が社が誇る多時空体感プログラム、エターナルスフィアのマスター端末です。この端末では、お客様がご家庭でご使用のキャラクターデータを、他の時間、他の銀河系へと転送することが可能となっています。もちろん、通常の端末と同じようにご使用いただく事も出来ますよ」

 

 極上のスマイルで『異世界への案内人』こと、ジェミティ市の職員は頭を垂れた。レコダでは『妙な格好』のフェイト達も、ここでは立派な『FD人』と遜色ない。

 眼球だけを動かして、フェイトは一同を見やる。返ってくる視線が皆、覚悟を決めたように落ち着いているのを見て、フェイトは一つ頷いた。口許に笑みを浮かべ、受付嬢に笑い返す。

 

「じゃあ、お願いします」

 

 受付嬢はにこやかに頷くと、フラッドがやってみせたようにパネルを出現させた。それを操作しながら、彼女は笑顔で言う。

 

「現在、銀河系へのアクセスは全ての時代において完全に禁止されております。もしお客様が銀河系世界でプレイなさっていたのならば、他の銀河へと移動なさった方がよろしいでしょうね」

 

 ぽん、と軽い音を立てて入力が終了した。パネルが消える。

 

「それでは皆様、ワタクシの正面に立って、目をお瞑りになって下さい。異世界への案内人であるこのワタクシが、責任を持って皆様をエターナルスフィアの世界にお送りいたします」

 

 言われた通りに、フェイト達は彼女の前に立ち、目を閉じた。地面に埋め込んだ特殊画面が輝き、それが『紋章陣』を映し出す。

 ――哀しいほどに紋章力の無い、陣だった。

 

「リーユ ルオカ ナーセ キーユ。開け時空の扉よ!」

 

 言葉だけの詠唱がつむがれると、フェイト達は『紋章陣』の中心に浮かんだ、転送装置(トランスポート)によって別室へと転送された。

 

 

 ………………

 

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