連邦軍人とフェイトくんの旅。   作:ばんどう

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74.断罪者

「よかった……無事だったのね」

 

 彼女はフェイト達を見るなり、別れた時と同じ、上品な微笑みを浮かべて安堵の息を吐いた。

 

「ブレアさん……。これは一体、どういうことなんです?」

 

 フェイトはわずかにうつむき、振り返らずに問いかけた。目許に影が落ちている。顔を上げる気には――なれなかった。

 対して、ソフィアは縋るようにブレアを見上げ、首を横に振る。

 

「アンインストーラーを使ったのに、エクスキューショナーが消えないんです!」

 

「それどころか、アイツが……っ!」

 

 言いかけて、ネルは口を噤んだ。クリフが、ぽん、とネルの頭を叩き、ブレアを真顔で見据える。

 

「俺たちの仲間が一人、エクスキューショナー(やつら)の手先になっちまったんだ。しかもその上、代弁者でも執行者でもない、妙な奴まで現れやがった。コレが一体どういう事なのか、説明してくれねえか?」

 

「なんですって!?」

 

 ブレアは息を呑むと、フェイト達全員を見渡して――ハッと目を見開いた。

 

「その一人って、まさか――!」

 

「アレンです」

 

 フェイトが淡白に答えた。抑揚の無い声を発す彼に続き、アルベルが刀の柄に手をかけたまま、問いかける。

 

「――で。これはどういうことだ、女。……事と次第によっちゃあテメエ――!」

 

 ドスの利いた声で睨むアルベルの肩を、意外にもアルフが叩いた。

 

「お前……」

 

 アルベルは目を丸くする。アザゼルへの対応を見る限り、アルフは率先してFD人に刃を振るう人種だ。だが彼はアルベルの視線を意に介さず、無表情のままブレアに問いかけた。

 

「アンタ等、何か不具合を見つけたんだろ? なら、そっちを聞くのが先だ」

 

「…………」

 

 アルベルはアルフの横顔を見据え、舌打つ。刀の柄から手を離した。今、狂人と称された男に迫力は無く、ただどこまでも静かな――抜け殻のような顔がそこにある。

 ブレアは眉を下げた。

 

「そこなのよ。やられたわ……」

 

「どういうことだ?」

 

「何がやられたってんだい?」

 

「説明してくれるわよね」

 

 矢継ぎ早にクリフ、ネル、マリアが問う。内、二人にはわずかな殺気が含まれていた。

 ブレアは深刻な面持ちで表情を曇らせながら、頷く。

 

「ええ。実はオーナーに先手を打たれていたようなの」

 

「先手……ですか?」

 

 ソフィアはオレアスにもらったディスク――アンインストーラーを握りしめた。ブレアはソフィアに視線を向

け、そう、と小さく頷く。彼女は両腕を組んだ。

 

「オーナーは私達がアンインストーラーを作動させるのを見越して、セキュリティプログラムを仕掛けておいたのよ。アンインストーラーを起動した場合にのみ動き出す、特殊なプログラムをね」

 

「それが……、あの新しいエクスキューショナー」

 

「そして、アレンってことか」

 

 フェイトの後を、アルフが続けた。ぐ、と息を呑んで振り返るフェイトをそのままに、アルフはジッとブレアを見据えて瞳を揺らさない。

 ブレアは驚きながらも頷いた。

 

「ええ……そうよ。戦ってみて分かったと思うけど、彼等『断罪者』は今までの『執行者』達とは違うわ。サイズは小型化しているけれど、設定されているパラメータは強大よ。このままでは銀河の消失は避けられないわ」

 

「どうにかならないんですか?」

 

 ソフィアが問う。ここまで来て銀河消失など、冗談では無い。消えるのが嫌でずっと抵抗して来たのだ。なのに、こんな所であっさり――仲間まで敵になった状態で諦めるわけにはいかない。

 怯えながらも抵抗しようと強張ったソフィアの顔を見返しながら、ブレアは力強く頷いてみせた。

 

「そのセキュリティプログラムはそちらの世界で起動された痕跡があるの。つまりオーナーは、エターナルスフィア内にいるということ。オーナーを説得して、セキュリティのアンインストールをさせることができれば、銀河の消失は避けられるかもしれないわ」

 

「……説得すれば、アレンも元に戻るんですか?」

 

 フェイトは拳を握って、ブレアに問いかけた。

 これは賭けだ。現にブレアは新たなエクスキューショナーについても『かもしれない』と、明言を避けている。オーナーに裏をかかれた彼女が、今回オーナーが発動させたプログラムを推測しているとは言い難い。

 案の定、視線の合ったブレアは、眉を寄せながら小さく頷いた。

 

「保証は出来ないけれど、恐らく戻ると思うわ。元々、『断罪者』を起動させるプログラムに連動して、彼は変異したのでしょう?」

 

「ええ」

 

「なら、可能性はゼロじゃない」

 

「……でも、素直に説得に応じてくれるんでしょうか?」

 

 ソフィアは眉を寄せて、首を傾げた。杖を握る。大好きな猫ストラップは、先程の紋章術で焦げてしまった。

 不安そうな彼女に、マリアは努めて力強く笑う。

 

「その時は、力ずくでもアンインストールさせればいいんでしょ」

 

「だな」

 

 クリフも、にっ、と笑い、ソフィアは視線をさ迷わせながら、小さく頷いた。ブレアは考え込むように顔を俯ける。顎に手を据えた。

 

「オーナーは恐らく自らが創り出した特殊空間にいるはずよ。ただ、そこに行くためには特殊IDが必要になってくるんだけど」

 

「特殊ID?」

 

「貴方達が見ても多分何に使うか分からない謎のアイテムよ。いわゆるオーパーツと言えばイメージは伝わるかしら。私達がエターナルスフィア内で使う為に用意された……まあ、デバックツールのようなものよ。使い方を理解した者が使えば、それはエターナルスフィア内で強大な力となるわ」

 

「それはどんなものなの?」

 

「形状は様々よ。立方体のクリスタルキューブである場合もあれば、謎の機械だったりする場合もあるし。設定した開発者の趣味や配置場所によって変わるものだから……」

 

 ブレアに曖昧な回答を返され、クリフは忌々しげに額を叩いた。

 

「それじゃ、お手上げだぜ。今から形状の分からないものを銀河中探して回るのか? 間に合うわけねえだろうが」

 

「ちょっと待って。今こっちでデータベースに検索をかけるから……、これね」

 

 ブレアはそう言って空中にキーボードとモニタを顕現させると、FD製ツールを駆使して、検索する。モニタに表記されたFD文字にザッと目を通した。

 

「銀河系に配置されている特殊IDは、おおよそ銀色に輝く球体のようだわ。特に特殊な効果はないけれど、保有エネルギーはかなり高く設定されているみたい。データスキャンを行えば確認ができると思う」

 

「銀色の……球体?」

 

 首を傾げるフェイトに、ブレアは頷いた。

 

「ええ……。そうデータにはあるわ。待って……配置してある場所の検索もかけるから」

 

 彼女は手早くキーボードに指を走らせる。空中に浮かんだ画面がくるくると動き、大量の文字が流れて行く。

 ブレアは眉間にしわを寄せた。

 

「ああ、この星も既に消失してしまっているわ。他には……ああ、もう!」

 

「なあ、ブレア。もしかして大きさはこれくらいか?」

 

 クリフはふと、両手の幅で球体の大きさを示した。十センチも無い、五センチ大の小さな球だ。

 ブレアは要を得ず首を傾げる。

 

「丁度それくらいね……。どうして?」

 

 フェイトが代わりに答えた。

 

「ブレアさん、エリクール2号星にそれはありませんか?」

 

「エリクール2号星? ちょっと待って……」

 

 言われた通りの検索をかけて、彼女は目を見開いた。

 

「あった……あるわよ!?」

 

「やっぱりね」

 

 マリアが小さくつぶやき、頷いた。

 ブレアは一同に流れる微妙な空気を感じ取って、頸を捻る。尋ねてみた。

 

「どうして分かったの?」

 

「一度見ているからよ」

 

 明確な答えだった。

 フェイトが、マリアの返答に解説を加える。

 

「僕達がエリクールにいる時に、そのアイテムを守ったことがあるんです。確かセフィラとエリクールでは呼ばれていましたが」

 

「セフィラが、そのオーナーとやらに会いに行く鍵になるってことかい?」

 

 意外そうに目を丸くしているネルに、クリフが頷いた。

 

「ああ、間違いねえ」

 

「……そう」

 

 ブレアは顎と肘にそれぞれ手を据え、つぶやいた。

 

「そんな偶然があったなんて……。そのセフィラを使えば特殊空間にアクセスできるはずよ」

 

「分かりました。みんな、エリクールに行くぞ!」

 

「ああ」

 

 慌てて踵を返すフェイトに、クリフを筆頭に、皆、無言で頷いた。

 ブレアが思いだしたように、あ、とつぶやく。

 

「そうそう、ソフィア。セフィラを発見したら、あなたが触れて見て」

 

「私がですか……?」

 

「特殊IDは元々FD人(わたしたち)が使用するために設定されているアイテムなの。だからFD人(わたしたち)以外には本来の使い方で使えないように設定されているわ。つまり、あなたたちではダメということ。だけど、今までのケースから考えて、あなただけは使えるような気がする」

 

「分かりました」

 

「反応したら、思念で私の事を考えて。この地点の事を……。恐らくそれで私とコンタクトが取れるようになるはずだから」

 

「はい。やってみます」

 

「気をつけて」

 

 心配そうに手を振るブレアに、フェイトは力強く頷いた。

 

「……?」

 

 小型艇(シャトル)に向けて駆けだす一行に反し、アルベルは足を止めた。振り返ると、アルフが地面に転がった兼定を握り、ジッと見つめている。

 

「持って行くのか? アルフ」

 

 問うてみた。アルフの傍らに立ったが、彼はアルベルに視線を向ける事も無く――構わず、兼定の柄を左手で握っている。

 と、

 刃を引き抜く――。

 

 が、きっ……!!

 

 鈍い音を立てて、兼定の鯉口が鍔にくっつき、刃が止まった。どこも錆びていないのに、どれほど力を込めても刀が抜けない。鯉口が切れないのだ。それは刀自身が抜刀を拒んでいるようでもあり、アルフは兼定を見据え、頷いた。

 

「……やっぱりな」

 

 確信めいた声でつぶやくと同時、

 

 ……ドッ!

 

 無造作に、彼は兼定を惑星ストリームの大地に突き刺した。アルベルが目を丸くする。

 

「どうするつもりだ?」

 

「欲しけりゃ自分で取りに来るだろ? ――そう言う話」

 

 アルフは茫洋とした眼差しでアルベルを振り返ると、小さく薄笑った。アルフが思いだすのは、アレンがセフィラに触れて倒れた時のことだ。

 

 あの時、兼定は鯉口からわずかに光を発して――まるでアレンに『触れるな』と警告するような、妙な音を出していた。

 

 それが、どんな意味を持つのかは知らない。だが、アルフは、地面に突き刺した兼定を見据える。

 兼定(これ)はオーパーツでは無い。それでも、何らかの力を持っているのだろう。直感に近い何かが、アルフの琴線に触れていた。故に、兼定をこの場所に据えておく事にした。『彼』が元の状態に戻れば、どこに置いたとしても、必ず取りに来るだろうから――。

 アルベルが神妙な面持ちで、アルフと兼定を見る。

 

「そうか……」

 

 相手を気遣うような微妙なニュアンスを含んだアルベルの言葉に、アルフは軽く肩をすくめると、立ち上がった。顎で小型艇(シャトル)に向かったフェイト達の後を追うよう、アルベルを催促する。お前はどうする気だ? と問われる前に、アルフは歩き出した。

 アルベルはマイペースに前を行くアルフを見据え――、小さく舌打った。

 

「相変わらず、分かり辛ぇ野郎だ……」

 

 悠々と歩く男には、いつもの茫洋とした仮面を取り戻していた。

 

 

 ……………………

 ………………

 

 

「なんだ、こりゃぁ……」

 

 クリフは思わず眼の前の惨状に向けて言った。

 ひび割れた大地、切り立った丘、重なり合った巨岩の数々――来る時も決して美しいとは呼べない大地だったストリームは、今、完全にその地形を変えていた。

 

「さっきの地震のせいね。ひどい有様だわ」

 

「シャトルは大丈夫なのかな?」

 

 これからエリクールに向かうに付け、彼等はやって来た時と同じ小型艇(シャトル)での移動を決意したのだ。小型解析機(スキャナー)がある為、現在地が分からず、遭難したりはしないものの、これほどの地殻変動があって小型艇(シャトル)が無事とは言い難い。

 アルフは眼の前の状況と――遠目にも見える執行者、代弁者、そして断罪者の群れを見据えて、目を細めた。

 

「ともかく行こうぜ。軽微損傷なら直せる」

 

「そうだな。気をつけて進もう」

 

 フェイトに頷き、一行は祈るような気持ちで小型艇(シャトル)の許に急いだ。視界の端にうつるエクスキューショナー達に向けて、最大限の警戒を払いながら。

 

 

 ………………

 

 

「えっ……」

 

 フェイトは思わず絶句した。嫌な予感が、的中した為だ。

 フェイト達の乗って来た小型艇(シャトル)は地割れに負けず、谷底には落ちていなかった。だが、そのい機体からどうしようもない量の黒煙が上がっている。甲板はへしゃげ、どこから修理すればいいのかすら見当がつかない有様だ。

 

「オイオイ、どうすんだ?」

 

 クリフは頭を掻きながら溜息を吐いた。

 ネルが絶句しながら首を振る。

 

「これは……困ったことになったね」

 

「マジか……ふざけんなよ……」

 

 アルベルは眉間にしわを寄せた。

 フェイトは混乱で頭が白くなるのをどうにか理性で抑えつつ――一つ、深呼吸をすると、マリアに問いかけた。

 

「……通信は?」

 

「ちょっと待って」

 

 マリアがそう言って、耳許にかけた小型通信機にスイッチを入れる。ざーざーと砂嵐の音が聞こえ、周波をいろいろ弄ってみるも、向こうからの応答は無い。

 小型通信機から傍受できる範囲は、せいぜい半星間距離だ。音を拾えないのも無理は無い。

 

「ダメ……」

 

 マリアが首を横に振ると、フェイトは忌々しげに拳を鳴らした。

 

「くそっ! ここまで来て!」

 

「……カルナスは、谷底に落ちたみたいだな。姿形すら見当たらねえ」

 

 アルフは底の見えない地盤の割れ目を見ながら言った。

 クリフが深い溜息を吐く。

 

「どうする? ってことは、修理部品もねえってことだ。レプリケーターでもありゃ、まだ何とかなっただろうが……」

 

「俺達がFD空間に行ってる間、こっちでどれだけの時間が経ったのかもはっきりしねえ。アレンの奴は確か――ゲートの調査から帰って来た時には十二年経ってた、って話だったよな?」

 

「冗談じゃないっ! エクスキューショナーが十二年ものさばってたら銀河は……!!」

 

 息を呑むフェイトを、マリアが制した。

 

「ちょっと待って。……何か……聞こえる!?」

 

「!?」

 

 一同はマリアを振り返った。耳障りな砂嵐の音に混じって――女性の、かすかな声が洩れ聞こえる。

 

[……ダー……マリ……聞こえ……ま……か……]

 

「マリエッタ!?」

 

 マリアは驚愕と嬉しさで声を荒げた。

 

[……あ! ……みん……マリア……つながっ……ね!]

 

「マリエッタ! ディプロ、聞こえる?」

 

 はやる気持ちを抑え、マリアは鋭く通信機に問いかける。相手が聞き取りやすいよう、なるべく声を張り上げた。

 

[聞こえ……す! ……リーダー!! ミラージュさん!!]

 

 徐々に砂嵐が減って行き――受信周波が整合されて行く。やがて、ミラージュの声が鮮明に届いた。

 

[皆さん、無事だったんですね。心配しましたよ]

 

[そうですよ! アクアエリーの反応が消えたので、どうしたのかと……]

 

「ええ。そっちも無事のようね」

 

 マリアは安堵の息を吐く。マリエッタとは、反銀河連邦(クォーク)でオペレータを勤めるマリアと同い年の少女だ。彼女は声を弾ませながら言った。

 

[はい! でも大変だったんですよ!!]

 

「細かい話は後で聞くわ。急いで迎えに来てくれる?」

 

[了解]

 

 ミラージュが一も二も無く頷く。すると、マリエッタが不思議そうに声の調子(トーン)を上げた。

 

[え? ですが、そちらに向かった時のシャトルはどうしたんですか?]

 

「こっちも色々あったのよ。悪いけど、あまり時間がないの」

 

 マリエッタはハッと息を呑むと、気迫のこもった声で言った。

 

[すみません! 最高速度で向かいます!!]

 

[では、後ほど……]

 

「頼むわね」

 

 回線が切れる音がして、マリアは皆を順に見据えると――少し安堵したような面持ちで、頷いた。

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