王国/心2某機関NO.2の姿で戦国BASARAにトリップさせられた女子の場合   作:藤 都斗

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いち

 

 

 

 不意に森の中で目が醒めた。

 

 何故森だと思ったのかは、空気感だろうか。

 澄んでいて、濃い、緑の匂い。

 

 視界は木漏れ日から垣間見える青空で、とても綺麗だ。

 

 その事で、大の字で草むらに転がっている自分に気付いた。

 

 

 え? 

 

 て事は私今まで寝てたの? 

 

 

 ちょ……待って待って待って。

 

 私は確かバイトして、終わって、原チャリで帰宅しようとして、それで……

 

 

 それで? 

 

 

 確か信号が青だったから普通に進んでた筈だ。

 

 

 ……あれ? 

 それから先の記憶が全く無い。

 

 自分が何故こんな所に転がってるのか、道路に居たはずなのに何故森の中なのか、さっぱり分からない。

 

 何コレどうなってんの? 

 

 もしかして私、考えたくもないけどもしかして、

 

 死んだ? 

 

 そんな焦燥感と恐怖に、心臓がある辺りが潰れそうな程

 、ぎゅうっと縮んだような気がした。

 

 ちょ……やだやだやだ! 

 

 読み掛けの小説とか、未クリアのゲームとか、部屋の掃除とか、私にはまだ色々やる事も、やりたい事も残ってるのに!! 

 

 余りの訳の分からない現状に、泣いてしまいそうになる。

 その時だった。

 

 

『大丈夫じゃ。お主は死んでおらぬ』

 

 

 突然、聞き覚えの無い、だけどどこか安心するような雰囲気の、少し時代錯誤な口調の青年の声が辺りに響いた。

 

「っ!? ……誰!?」

 

 確かめる為に、と半身を起こしながら辺りを見回すが何処にもその姿を確認出来ない。

 

 ちょっと待って、今のって私の声? 

 なんか凄く低い、オッサンみたいな声出たんだけど……? 

 

 いや、でも今はそれより現状把握だ。

 

 浮かんだ疑問は今は放置する事にして、確かめるように辺りを見回した。

 

 

『余は此処じゃ』

 

 

 いつの間にか、私の知らない内に真後ろに人が立っていて、ビックリし過ぎて声も出ず、ついでに言うと一瞬、心臓が止まりそうになった。

 

 それでも私は振り返った。

 

 一体何が起きたのか、知りたかった。

 

 振り向いた先の視界に入った青年の姿を見留めた私は、その異装にただ驚くしか出来ず、何度も瞬きを繰り返す。

 

 ……そこには平安時代くらいの、水色と白を基調にした水干と呼ばれるタイプの着物を着た、全体的に白い、綺麗な青年が立っていた。

 

 水色の髪をポニーテールにしていて、なんていうか、子供時代の源義経、牛若丸を全体的に水色と白の2Pカラーに変えて、額から2本のツノを生やしたみたいな、そんな外見。

 

 人間とは程遠い、血が通ってるなんて全く思えない程の真っ白な肌に、目尻の赤いアイラインが際立って見えた。

 

 ……ていうかなんでこの人ツノ生えてるの? 

 

 私が色々と疑問に思っている中、その人は静かに口を開いた。

 

『そうじゃの……まずは謝っておこう』

 

 一体何に対しての謝罪なのか分からず、首を傾げる。 

 

 すると、衝撃的な言葉がその人の口から飛び出した。

 

『余の手違いでお主は今、異世界にトリップした。

 ついで言うと余にお主を元の世界に返す力は残っておらん。

 だからごめんネ★』

 

 てへぺろ☆ みたいな動作で、物凄く衝撃的な事をサラッと言われてしまった。

 

 いや待って軽い。

 

 内心でビシッと突っ込んで、それから、話を理解しようとした頭が混乱した。

 

 ……は? 

 

 え、いやあのちょっと待って全然意味解んないんですけど、何? 

 

 トリップってどういう事? 

 

 余りの訳の分からなさに混乱してしまいながら、それでも必死に考える。

 

 

『まぁ、アレじゃ。この世界で生きるのも何かと大変だろうと思ってな。色々オプションも付けてある。

 死にはせぬだろうから安心するがよい』

 

 それでも無理すれば死ぬがな、と付け足しながらその人はケラケラと笑った。

 

「……オプション?」

 

 反芻するように呟いてみるけど、自分の余りにも低い声にまた困惑してしまった。

 

 私は一体どうしちゃったんだろう。

 

 喉がイカレちゃったのかな? 

 風邪引いてもここまで低い声は出た事が無い。

 

 その時、不意にその人は、いつの間にか手に持っていた金色の扇子みたいな物で何処かを指した。

 

『気になるなら、そこな川に自分の姿を映してみるが良い』

 

 どうやら、その人の示す方向に、川があるらしい。

 意味が解らないけどその人が指した方向へと向かおうと立ち上がって、私はまた固まってしまった。

 

 ……視線が、いつもより大分高い。

 

 友人に話の流れでたまたま厚底ブーツを履かせてもらった時よりも、数段高い視界に戸惑う。

 

 そして、今まで混乱してたから気の所為だと思ってたんだけど、どうやら右目が見えていない。

 

 手で確認しようとしたら、自分が黒い革っぽい手袋をしてて、ついでに同じ素材のロングコートを着ている事にも気付いた。

 

 私個人が、何処かで見たような独特なデザインのフード付きロングコートだ。

 

 多分だけど、このフード、被ったらきっと顎しか見えない。

 フードの紐じゃないといけない部分は、銀色のチェーンで出来ていて、紐が出てる辺り同士がチェーンで繋がっている。

 そこにはなんかよく分からん装飾が付いた銀色の円筒が三つ。

 そして、普通なら紐が括られている辺りに、何だかよく分からない模様の、銀色の楕円柱形の飾りが付いている。

 

 ロングコートは、上から爪先近くまである。

 それから、上から下まで、ジッパー。

 

 上と下両方にジッパーのアレ、なんだっけ、あの、開けるやつ。

 両方が付いてるから両方開けたらもう少し動きやすくなるのかもしれないが、その辺はよく分からない。

 

 あと、ついでに股の間で、今まで感じた事の無い感じの違和感が肌に伝わって来た。

 

 なんか……、かなり嫌な予感がする。

 

 私は急いで青年が示した方向へ向かい、草木を掻き分け、そして見付けた川の水面を勢いよく覗き込んで、また、固まってしまった。

 

 

 ───────そこに映ったのは、驚きに隻眼を見開き口が半開きになった、ワイルドでダンディなオジ様でした。

 

 

 黄色い、金に近い色の瞳

 黒い眼帯

 オールバックで白いメッシュの入った長髪を後頭部で括った髪型

 

 そして頬に走る大きなギザギザした傷痕。

 

 

 え。

 

 エェエ……。

 

 いやいやちょっと待ってコレヤバイんじゃないの? 

 

 

 私この人見た事あるよ。

 

 確か13人いる黒い集団のNo.2にいて、口癖が『~ってハナシだ』って人で、2で出て来るあの人だよねコレ。

 

 シグバールって人じゃないですかコレ。

 

「…………嘘でしょ……?」

 

 思わず苦笑すると水面に映った顔も同じように苦笑を浮かべた。

 

 うわっヤバイ女言葉似合わな過ぎて気持ち悪いコレ。

 

 自分のキモさにショックを受けながら打ちひしがれていたら、いつの間にか隣に居たあの人が楽しそうに笑った。

 

『その姿は余の趣味じゃ。シグってカッコ良くない?』

 

 喧嘩売ってんのかこの人

 

 てゆーかホント意味が解んないんですが

 

「……とりあえず聞かせてよ……、貴方……何?」

 

『ぶふっ、ワイルドなオッサンの女言葉……!!』

 

 シリアスが台無しである。

 

 まあ、私個人も気持ち悪いと思ってたから別に良いけどさ。

 

「……ンンン!! じゃあ言い直す。……お前何なんだ?」

『余は神じゃ』

 

 咳払いで気を取り直し、頑張って男っぽく変えた口調の質問に、当のその人はキッパリと答えてくれたものの、意味不明だった。

 

「意味解んないんですけど」

 

『まぁ、早い話アレじゃ。落ちぶれた神じゃ。ゲームしまくってたからね。神なのに』

 

 聞けば、俗世に染まり切ったから近々神を辞めさせられるらしい。

 それなら自分の好きなゲームの世界に行ってやろうとした所、私を巻き込んでトリップしてしまった。

 

 そのままじゃ気の毒だからこの世界でも大丈夫なようにと、自分の好きなゲームのキャラに姿を変えさせたとの事。

 

 随分とハタ迷惑な神である。

 

 私の意思とか無視してこの姿にする時点で特に。

 

 だがしかし、こんな風に姿が変わってて、しかも現在地は見る限り、そして体感する限り、今まで来た事も無いくらい深い森の中。

 

 ……ここはもう、コイツが神で、本当にトリップしてしまったのだとそう信じるしかなかった。

 

 ……でもさぁ、いや、私だってあのゲームは好きだよ? 

 でも、だからってコレは無い。

 

 ……このキャラクターが嫌いって訳じゃない。

 寧ろダンディでワイルドなオッサンは好きな方だ。

 

 でも……自分がなるのは違うでしょ…………。

 

 

『あぁ、そうそう! 能力とかそのキャラそのままにしといたからね! 余、超頑張った!』

 

 不意に告げられた明るい言葉に思わず眉間に皺が寄った。

 

 何に頑張ってんだこの人。

 

「いや、知りませんよ、ゲームじゃこの人倒すのに必死でどんな攻撃するかなんて見てなかったですから」

 

『ぶぷっ! 敬語のシグ……!! 

 おっと失礼、大丈夫じゃ。両手を広げて軽く振ったら両手にガンアロー出て来るから。しまう時もそれでオッケー』

 

「マジですか」

 

 笑われたけど私も違和感物凄いから気にしない事にして、じっと手を見る。

 

 ガンアローってアレか? 

 銃だか弓だか解んない、あの、武器っていうか、固有能力みたいな、なんか、アレ。

 遠くから狙撃したり、ビーム出したり、銃みたいに連射したり、そんな感じだったのは覚えてるけど、どんなんだっけ? 

 

 てゆーか戦う力とか必要なのか、この世界。

 

 まぁ、そりゃそうだよね、なんせ私の姿、今黒い機関のNo.2だし、そんな姿でないと生き残れないだろうって事で、変えられたんだから。

 

 きっとこれから、黒い影みたいな敵がわんさか出て来るに違いない。

 

 ちょっとげんなりしながら、それでもなんとか決意を固めようとした矢先、白いその人が思い出したように告げた。

 

『あ、そうそう。この世界だけど……あのゲームまったく関係ないから』

 

「は?」

 

 関係ない? 

 

 いや、ちょっと待って、なんですって? 

 

『この世界は今、余がハマってる、戦国BASARA2の外伝じゃ』

 

 思わず、呆然としてしまったが、そんな場合じゃない。

 

 私は必死になって考える。

 

 BASARA2……のしかも外伝? 

 私それ途中までしかやってない。

 

 ていうか

 

 

「戦う相手って必然的に生身の人間?」

 

 

 戦国BASARAってゲームは一人の武将を選んで、各ステージを戦って天下を統一させて行くゲームだ。

 つまり、敵になりうる存在なんて、人間しか居ない。

 

『まぁ……、そうなるのぅ。頑張れ』

 

 あっけらかんと、とてつもなく呑気に、明るく言い放つその人に、腹が立ってしょうがなかった。

 

 何なのこの人。

 神なんでしょ? 

 なのに物凄い軽くない? 

 

 頑張れって何さ。

 頑張れる訳無いじゃん

 

 だって私は一般市民だ。

 人なんて殺した事無いし、寧ろ殺せる訳が無い。

 

 そんな度胸無いし、何より人殺しを頑張ってしなきゃならない状況になった事なんて皆無なんだから。

 

 何考えてんのこの人馬鹿なんじゃないの、馬鹿だよね、そうだよね。

 

 一応、確認の為に聞いてみる事にする。

 

「この姿ってホントに貴方の趣味?」

 

『余はカッコイイオッサンが好きじゃからのぅ』

 

 物凄くどうでもいい報告ですありがとうございました嬉しくない。

 腹立つ。

 

「一回殴らせてくれない?」

『ハッハッハ! 無理無理。今の余には実体が無いから擦り抜けるだけぞ』

 

 ぱらりと開いた金の扇子で口元を隠しながら、明るく笑うそいつの顔面を今すぐぶん殴りたかった。

 だがしかし、よく見ればその人は向こう側が透けていて、確かに殴っても意味は無さそうだった。

 

「……………………チッ」

 

 ガラにもなく小さく舌打ちが出てしまうくらいには腹立たしい。

 

 だけど、次に言われた言葉に、私はまた衝撃を受ける事になった。

 

『なんせこの世界に来るのと、お主をその姿にする為に、持ってた力をほぼ使い切ってしもうた。

 余はあと数日で消滅するじゃろう』

 

 しみじみと、そしてすまなさそうに、儚く笑うその人の言葉に耳を疑った。

 

「し……っ消滅……!? どういう事!?」

 

『そのままの意味じゃ。お主は余の我が儘に巻き込まれただけじゃから、なんとか元の世界に帰してやりたかったが……申し訳無い事にそんな力は残っておらなんだ』

 

 真剣な顔で、そんな事を言うその人を、別の意味で殴りたくなった。

 

「だから残った力で、この世界でも生きて行けるよう、この姿にしたの?」

『……そうじゃ』

 

 ……何してんのこの人? 

 

 どうせなら私アクセルかロクサスが良かっt……

 

 あ、違う、話ズレた。

 

 そんな事を考えてしまうくらい、私は混乱してしまったらしい。

 

 だって、それって、そんな事って。

 

 

「……自己犠牲する神なんて聞いた事無いよ……」

 

 

 消える事が解ってて、私なんかを助ける為に余計に力を消費するなんて、本当に何考えてんだ。

 

 そんなんで消えられたら、物凄く後味が悪いじゃないか。

 そんなんで、誰かを犠牲にして生き残るなんて、私に強要されても困る。

 

 

『どうせ余は落ちぶれておる。近々神という称号を剥奪され、消える運命じゃ。

 そんなんなら派手な事してから消えたかったんです』

 

 

 キッパリと、真剣な眼差しで意思表明されても、困る、困るんだよ、そんなの。

 

 ていうか……その結果がBASARAにトリップ&一般人をオッサンにしてるとか意味が分からん。

 

 どんだけ自分勝手なんだよ。

 

「消えるんなら、私を元の姿に戻して、元の世界に帰してからにしろよ」

 

『いや、だから無理なんだってば。そんな神通力残って無いもん』

 

 

 もん、じゃないよ、そこはなんとか頑張れよ。

 

 ああもう、何でこいつこんなに、人間っぽいの? 

 

 無理だよ、これだけやり取りして、消えていくのをほっとくなんて私に出来る訳無いじゃん……! 

 

 拳に力が入って、手袋が擦れ合う、ギュリ、という音が聞こえた。

 

「……なんか方法無いんですか」

 

 ただでさえ低い声が更に低くなったけど、気にせずに言い切った。

 すると、予想外だったのか、その人は驚いたように目を見開く。

 

『え、いや、無い事は無いけど……めんどいよ?』

「今の状況が既にめんどいよ」

 

 こてりと頭を傾けるその人に、冷静なツッコミを瞬時に入れた。

 

『それもそうか……、じゃあ言うけど。本当にめんどいよ?』

 

「良いから言えよこのボケ」

 

 言った瞬間、そいつはなんだか嬉しそうに破顔した。

 

『シグバールにボケって言われた……!』

「何喜んでる、中身は普通の女の子だぞ」

『あ、そうか』

 

 私の一挙一動に、キラキラした視線を向けて来るそいつは、見た目よりも何倍も人間っぽくて、それでもこいつが私の所為で消えてしまうというのは、耐えられそうに無かった。

 

 もしこれが全部演技で、私を嵌めようとしてるとしても、もう、ダメだった。

 私は、こいつを助けたいって思ってしまったから。

 

 死なせたくないと、思ってしまったんだ。

 

 

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