王国/心2某機関NO.2の姿で戦国BASARAにトリップさせられた女子の場合   作:藤 都斗

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じゅう

 

 

 暑い

 痛い

 苦しい。

 

 

 徳川の城で上司思いというか、ただの家康フリークから受けたあの拷問の記憶が蘇る。

 

 痛い

 止めて下さい

 もういやだ

 どうしてこんな

 自分だって解らない

 知らない

 解らない

 やめて

 もうぶたないで

 

 朦朧とした意識でそんな事を言った気がする。心が無くても痛みを感じる。

 

 でも心は無いからそれが気になったりはしない。

 

 ……だけどやっぱり少し理不尽だなと考える自分を思い出した。

 

 

「あっ! ライグのおっちゃん! 目が覚めただか!?」

「……いつき?」

 

 

 目を開ければいつきが心配そうに俺を覗き込んでいた。

 

 いつの間にか外ではなく屋内で、自分は意識を以前の記憶まで飛ばしていたのだと気付く。

 

「良かった……! おっちゃんいっぱい血が出てて……死んじまうかと……!」

 

 いつきは目にいっぱい涙を溜めながら、俺に掛かって居る布団の端を握り締めた。

 

「……大丈夫だ、それにこの怪我はお前のせいじゃねェ。心配かけて悪かったな」

 

 悪いなんてひとつも思えないけど、とりあえずそんな風に言いながらいつきの頭をぽんぽんと撫でる。

 

「オッサン……稚児趣味か?」

「……ハァ?」

 

 不意に聞こえた声にとりあえず理解不能だとばかりに声を発しながら視線を巡らせれば、いつきと向かい合うように伊達政宗がいた。

 

「……いつきはお前にはやらんぞ。お父さんは許しません」

 

 あんまり意味は無いけど棒読みで言ってみたら、それはそれで不審者を見る目を向けられた。あらまぁ。

 

「……何言ってんだお前」

 

 伊達政宗は眉間に皺を寄せて居たが、いつきの方はなんか少し嬉しそうだった

 

 あれ、いつきちゃんツッコミしてくんないの? 

 

「……で、ここどこだよ」

「米沢城。俺の城だ」

 

 そりゃまた、俺が意識飛ばしてる間に随分と移動したな……。

 

 いや、うん……なんかふかふかした布団だし、天井綺麗だしで絶対農家じゃないとは思っていたがまさか城に連れて来られるとは。

 

 別にびっくりはしないけどやっぱ変な気はする。

 

「オッサン、えーと……すまなかった」

 

 突然伊達政宗に謝られたので、とりあえず片眉を上げて怪訝そうな顔を作ってみる。

 

 あ、出来た。

 自分って意外と器用。

 

「……なんでテメーが謝る」

「俺が……勝手な噂を鵜呑みにしちまったから、関係の無いテメーを……」

 

 そこで言葉を詰まらせて俯く伊達政宗。

 

 成る程、罪悪感を感じてんのか。

 

「……何言ってんだお前。あの村に居た時点で俺ァ関係者だ」

「……でもよ……オッサン」

「うるせーな、本人が気にすんなっつってんだから気にすんじゃねーよ、ガキか」

 

 考えた事をそのまま口に出す。

 

「気にするだろ普通。もう少しちゃんと調べてりゃ……」

「調べた所であんな頭に血が上ってたら意味は無ェな」

 

 そう告げると、伊達政宗は言葉に詰まったのか何も言わなくなった。

 

「……で? ……お前は俺をどうする気だ?」

「は? 怪我の治療に決まってんだろ。

 つーかオッサン……背中の傷治りきってねーのに戦ったのか」

「いつきを戦わせたくなかったからな」

「……だからって敵陣に一人で乗り込んで、どうする気だったんだよ」

「相手が何の目的なのかを聞きたいと考えた。それだけだ」

 

 そう言ったら、伊達政宗がずーんと効果音が付きそうな程思い切り落ち込んだ。

 

「……shit……!」

「あー……お前だけが悪いんじゃねェ。紛らわしい俺も悪い。悪人面だしな」

 

 冷静に判断して軽く告げる。

 

 大体俺心無いから気にしようが無いし。

 

 ……あーもー、なんかマジ背中痛いし足痛いんですけど。

 

「……どうでもいいが……、そういや俺の怪我どうなってんの」

 

 とりあえずいつきに視線を動かして聞いてみる。

 

「お医者さんの話じゃあ足の筋肉が切れちまってるらしいから、数週間は絶対安静だそうだべ」

 

 うわぁマジでか。

 佐助を攻撃したり兵士殴ったりしたからバチが当たったかな。別に良いけど。

 

「数週間……か……うわー……ひま」

「でも、絶対安静だべ!」

 

 暇なのは少し嫌な気がする。

 

「……安心しろ、怪我させた詫びに治るまできっちり世話してやる」

「いや、別にきっちりじゃ無くて良いんだが」

「まぁそんな遠慮すんな」

「遠慮させろ」

「させるか。つかオッサン今先刻どうでもいいっつってたな、どうでもよかねーからな」

「どーでもいいんだって」

「よかねェっつってんだろ」

 

 まぁそんな感じで、怪我が治るまで米沢城とやらに滞在させられる事になった。強制かよ。

 

 

 

 それからどんどこしょー。

 

 あ、コレに深い意味は無い。

 

 とりあえず、いつきは米沢城に一晩滞在した後、畑仕事や事後処理があるとかで俺を伊達政宗に任せ村へ帰還した。

 結局俺はいつきに何か出来たんだろうか。

 よく解らないが足手まといにしかならなかった気がしないでもない。心が無いから何も感じないけどね。

 

 記憶の中の自分なら悩んだりもしただろう。今は軽い思案くらいしか出来ないけど。

 

「Hey! オッサン入るぜ!」

 

 不意に襖の向こうから声が聞こえたと思ったらスパーンと勢い良く襖が開いて、伊達政宗が俺が許可する前にずかずか入って来た。

 

「……なんか用か。伊達政宗」

 

 とりあえずでそう言いながら視線を青年に合わせる。

 

「Ha! 様子見に来てやったってのに随分な物言いだな」

「頼んでねェしそんな事。執務とかあんだろーが、さっさと戻れ」

 

 冷静にそう返しながら視線を外す。

 ちなみに黒コートやらブーツやらズボンやらは怪我に悪いとかで脱がされた。つまり俺は今は着物を着せられている。

 

「まぁそう言うな、俺だって息抜きしてーんだよ」

「……なら別に此処来なくても良くない?」

 

 米沢城に来て数日が経ったけど、なんか毎日伊達政宗が来る。マジなんなのこの子。

 

「…………」

「…………」

 

 いやなんか喋れよ。

 俺は構わんが変な空気だなコレ。

 

 静かになってしまった伊達政宗に、とりあえずで視線を向けてみれば、なんでかじっと見詰められていた。

 

「なんだよ?俺の顔がカッコ良すぎて見惚れたか」

 

 とりあえず、っていうか意味もなく適当言ってみる。

 

「オッサンよォ…」

「だからライグだっつってんだろ」

「…………」

「無視か。無視なのか」

 

 また沈黙が訪れる。

 何なんだよ。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 怪訝そうな表情で俺を見つめる隻眼の男。

 

 改めて見れば、小十郎と同じ箇所にはあるが、微妙に違うギザギザした顔の傷が目立つ。

 

 そして、俺と同じ、機能しない右目。

 

 

 怪我の治療の際に見えた、拷問を受けたと解る幾つもの治り切らない傷。

 

 ……この男に何があったというのだろうか。

 

 

 何より気になるのはその目だ。

 

 今は俺を見て俺の姿を視界に入れては居るが、何の色も映していない。

 

 不安も

 怒りも

 猜疑心も

 動揺も。

 

 何の感情も見えない。

 

 

「……何があった?」

 

 

 気付いた時には、思わずそう尋ねていた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 突然告げられた言葉にとりあえず軽く目を見開く。

 何も思わないが、一応そうしておかなければ不自然な気がしたからだ。

 

 

「……どういう意味だ?」

 

 表情を戻してからのんびりと尋ねる。

 

 青年は軽く瞬きをしてから、口を開いた。

 

 

「……アンタの目にゃ……何の感情も見えない。どんな奴でも微かにある筈の感情が、何一つも」

 

 

 そう言われてぼんやりと、コイツ意外と人を見ているんだな、と考えた。

 

 それから俺も口を開く。

 

「あの時言った筈だぜ。俺に心は無い。故に、刀を突き付けられても何も思わないってよ」

「…あれじゃただの強がりにしか思えねーよ…、…真実なのか?」

 

 

 いや、嘘吐いてどうすんだ。

 

 

「……なんで今更聞く?」

「気になったからだ」

 

 その言葉に、ふぅん、とそれだけを呟く。

 

 

 また沈黙。

 

 

 なんだろうなこの空気。

 神の事や何やらを話した方が良いんだろうか。

 でも聞かれてないしな。

 でもなんか知りたそうな顔してんなコイツ。

 

 ……しかし言った所で信じるか?

 

 あー……なんかもう良いやどうでも。放置だ放置。

 

 

「政宗様、此処にいらっしゃいましたか……、まだ執務が残っています、お戻り下さい」

 

 不意に茶色い兄さん、もとい片倉小十郎が現れた。

 

 おー、良かった。保護者が来た保護者が。

 

「兄ちゃん、悪いがコイツさっさと連れてけ。安静に出来やしねー」

「言われなくとも」

「Heyオッサン、折角俺が来てやったってのに随分だなコラ」

「知るか」

「政宗様」

「……チッ」

 

 まぁそんな感じで片倉小十郎に促されて、伊達政宗は渋々執務しに戻って行った。

 

 そして何故か残ったのは片倉小十郎だった。

 

 ……え。なんで?

 もしかして俺なんかした?

 

 

「ライグと言ったか」

「……あぁ」

 

 なんだなんだ?

 

「……すまなかった」

「あ? ……大丈夫だ。どうせいつも暇だしな」

「そうじゃない」

 

 あれ。政宗の相手してた事じゃねーの?

 ……じゃあなんなんだ。

 

 改めて視線を向ければ、真剣な表情で見詰められていた。

 なんか先刻から見られてばっかだな俺。

 

「俺が政宗様をもう少しお止めして……もう少し情報を集めていれば、……アンタを集中的に攻撃したりする策など奨めなかった。……政宗様もあんなに執拗に攻撃しなかった筈だ」

 

 

 あー。なんだよお前もか片倉小十郎。

 

 

「随分と律儀だな」

「いや、遅いくらいだ」

 

 

 だからそういうのはどうでもいいんだよ俺は。

 

 

「怪我が治ったら出ていく奴を、無駄に気にし過ぎじゃねーか?」

「構わねェ。このままじゃ俺の気が済まねェからな」

「そうかい、やっぱ律儀だな。テメーらは」

 

 そんな風に言葉にしながら軽く溜息を吐いた。本当に律儀だ。

 

 こんな奴なんて捨て置きゃ良いモンを、わざわざ抱え込んだ上に治療までするんだもんな。

 

 ただの馬鹿か、それとも、よっぽど自分の腕に自信があるのか。

 

 まぁ、俺はコイツらを傷付けるつもりなんて今の所無いから気にもならないし、寧ろどうでもいい。

 そんな訳で全部放置して丸投げするしか出来そうになかった。

 

 心が無いと人ってモンはこうも投げやりになるンか……。何とも言えんな。

 

 何も感じないというのは表現しづらい状態だと思う。

 

 寂しいとも

 不思議とも

 悲しいとも違う。

 

 完全なる『無』。

 

 

「で、兄ちゃん……あー……片倉、っつったか……。用はそれだけか?」

「いや、あと一つある」

「何だよ」

 

「テメェは……一体何だ?」

 

 あぁ、その質問、俺が一番俺にしてェよ。

 

「……そうだな……。何だろうな」

 

 最近よく解らない。何も。

 

「……解らないのか?」

 

「とりあえず、……俺が異質だって事は解るなァ」

 

 てゆーか最近自分が元々女だったという事も大分朧げになってて、以前の記憶で自分がどんな人間でどんな性格だったか、どういう生き方をしていたかすら、解らなくなって来た。

 

 ……それ以前に俺はどうしたいんだろうか。

 

 何を、したいんだろう。

 

 このままの姿でも何も思わないし、特に支障無いし、心が無くても周りの反応が変なだけで俺自身には変化が無い。

 

 なんだか最近、別にこのままでも良い気がして来ている。

 

 ……神はそんな俺を見たらどう思うだろうか。

 

 あぁ、でもあの神の事だ。別に良いんじゃね? とか軽く言いそうだ。

 

 

 ……時々考える。

 適当に神が消えない程度に力を戻してから、心を返して貰わずに神を外に出すとどうなるんだろうか、と。

 

 ……解らない。

 

 それこそ神のみぞ知る、ってやつか。

 

「異質……か」

 

 不意に片倉小十郎が呟く。

 その言葉に俺は思考を中断させて彼を見た。

 

 

「先刻、政宗様と話しているのを聞いた。

……心が無いと」

 

「そうか」

 

 聞いてたならわざわざ説明しなくて良いから楽だ。

 

「しかし、その前にアンタは、空を飛べると聞いた」

「飛べる訳じゃねぇ。何も無い所に足場を造れるだけだ」

「足場?」

「俺の属性は『空間』だからな。自分に都合の良い空間を造れるんだよ」

 

 自分でもあんまり把握出来てないが多分そんな感じの能力な気がする。

 

 てゆーか、いい加減自分の能力とか把握するべきなんだろうけども、ここ暫く色々有りすぎてなんかもう面倒臭くなってきた。

 

 

「空間……だと?」

 

 片倉…もう面倒だ小十郎で良いや。

 

 とにかく小十郎がそう呟いた事で俺は再度意識を現実へ向けた。

 

「あぁ。…炎でも雷でも光でも無い、この世界にゃ無ェ属性だ」

 

 告げた途端小十郎の表情が変わる。先刻までも真剣な表情ではあったが今はそこに険しさが増えていた。

 

 わーお、男前だねェ。

 

「だから、俺は異質なんだよ」

 

 そうやって軽く告げながら小十郎から視線を外した。

 

 小十郎は黙ったまま、何かを思案しているような表情で未だに俺を見詰めている気配がする。

 

「…………だから、俺にはあんまり関わらん方が良い」

 

 天井を見詰めながら、俺は呟くように言った。

 

「……何故、逃げる」

 

 不意に呟かれた小十郎の言葉。

 俺は一瞬何を言われたのか解らず思考が停止した。

 

 ようやくそれが理解出来た時、何の考えも纏まらなくて自分が戸惑っている事に気付く。その状態のまま小十郎に視線を送った。

 

「どういう意味だ?」

 

 何も考えず、ただ尋ねる。

 

「……俺には、アンタが逃げているように見える」

 

 ……意味が解らない。

 

「何から逃げるってんだ?」

「人との関わりからだ。……何をそんなに畏れている?」

 

 畏れる? 

 

「……ハッ、何言ってんだお前。

 俺に心があったなら腹を抱えて笑ってる事だろうよ」

「……俺には、アンタが自分の存在を畏れ、誰かを傷付けないようにと、一人で殻に閉じ篭っているように見える」

「……生憎、誰かを心配したりするような感情は無ェよ」

 

「……ならば、何故泣く」

 

「は?」

 

 

 自分の頬を伝う雫に、今になって気付いた。

 

 

「……え……あれ、……な、んで?」

 

 思わず隻眼にも手を添える。

 手に伝わる感触で再度自分が涙を流している事を認識した。

 

 意味が解らない。

 

 今、自分に心は無い筈だ。

 

 悲しみも

 怒りも

 畏れも

 なにもかも全て、神が抱いて寝ている筈。

 

 

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