王国/心2某機関NO.2の姿で戦国BASARAにトリップさせられた女子の場合   作:藤 都斗

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「ここまで来りゃ大丈夫か?」

 

 痛む背中を無視し、徳川の城が見えなくなるまで空中を走って進んだくらいで、私はぽつりと呟いた。

 都合良く作られていた足場を無くすように念じながら、空中から森の中に降り立つ。

 

 なんとか足場から地面へと降りられた事を確認して、ひとつ息を吐いた。

 ふと耳を澄ませば遠くから滝の音が聞こえて、なんだかホッとしたような妙な感覚に陥る。

 

 まあ、でも滝か。

 

「ちょうど良い、マイナスイオン浴びてこ」

 

 のんびりとした口調で自発的な独り言を呟いて、ゆったりと歩を進めた。

 

 

 

 

 草木を掻き分けながら音のする方向へと暫く進めば、少し小さな規模だが岩に囲まれた立派な滝壺があり、なんとも綺麗な景色が広がっていた。

 上から落ちてくる水が木漏れ日の光に反射して、キラキラと輝きながら小さな虹が出来ている。

 

「あー……今、心が無いのは悲しい、ような気がする」

 

 この景色が、綺麗、に分類されるモノだという事は理解出来るんだが、それに対して何の感情も無かった。

 記憶の中の元の自分ならきっと綺麗だとはしゃぐだろうに。

 

 何となくだが、少し、残念なような、そんな気がした。

 

 それは気にしても仕方の無い事なんだろうが、どうやらそれは以前の癖でか、どうしても考えてしまうようだ。

 

 とりあえず水浴びでもしよう。

 背中の傷も冷やしたいし。

 

 多分この世界では、傷が化膿なんてしたら死にかける。

 消毒する事は出来なくても、傷口を洗っておくだけで、結構違うだろう。

 

 そう判断した自分は、まず、滝が正面に見える位置まで歩いて、足を止めた。

 

「……すいません……傷の為にちょっと失礼します」

 

 そう言って、滝に向かって軽く礼をする。

 

 これだけ綺麗だと判断出来る場所なら、何かの神様が居ても可笑しくない。

 

 そう思っての行動だ。

 

 律義だなぁ自分。

 現代でやったらただの痛い人だけど。

 

 そんな思考を重ねながら、コートとブーツを脱いで適当な場所に置いた。

 

 男ってだけで、隠すとこが少ないのは楽だと思う。

 

 

 

 つーか……この姿ってあの神の趣味なんだよね。

 

 コート脱いだら半裸とか、この……ズボン脱いだら黒のブーメランパンツとか。

 

 

「どんな趣味だよホントに……」

 

 特に意味も無く呟きながら衣服を纏めて、その辺の岩場に置いてから、足を水に浸した、ら予想外の冷たさに反射的に身が縮こまった。

 

 めっちゃ冷たい。

 

 ていうか今行動が女の子だった。

 こんなオッサンがオカマとか悲しい気がすると思って気をつけてたのに、今完全に女の子が戻って来てた。

 

「いかんいかん。頑張れ自分、俺は今ライグだ。男! 漢なんだよ」

 

 自分なら言いそうな自己暗示っぽい事を口に出しながら、ザブザブと水に入る。

 

 昼間になったとはいえ、冷たいもんは冷たいようである。

 あとこれは当たり前だろうが、心が無くても冷たいもんは冷たく感じるらしい。

 

 

 水嵩は余り深くないが、座れば背中辺りに届くくらいだろうか。

 傷を冷やすには結構良さげである。

 

 冷たいなー、としか考えられないのでそれだけ考えながら、滝壺の中央付近まで行った時だった。

 

『おぉ……早速着いたか』

 

 頭の中に直接、そんな声が響いた。

 

 

 突然の事に思考が停止して、ついでとばかりに身体の動きも停止した。

 

 

 寝てた筈の神が起きた? 

 

 という訳は、此処がパワースポットとやらなんだろうか

 

 

『うむ、そうじゃ。とりあえず今はそこから動くでないぞ』

 

 自分が喋る前にそんな返事が自分の内から返って来て、ホントに自分の中にあの神が居るのだと、再認識出来た。

 

 言わなくても考えは全て筒抜けのようだが、なかなか便利に出来てるらしい。

 

 私に何か出来る事がある訳でもないので、言われた通り動かず、そこに佇む事にする。

 

 

『……すまぬな』

 

 不意に突然、神に謝られてしまった。

 

 意味が解らず思案していれば、どうやら軽く落ち込んで居るらしい事に、その声音で気付く。

 

『……やはり、人を殺してしまっただろう?』

 

 何からバレたのかサッパリ解らないが、もしかして私の記憶でも見てしまったのだろうか。

 

 そんなに凹まなくても私には傷付く心が無いからどうも思えないのが現状である。

 

 気にするな。

 

 ぼんやりとそう伝えれば、当の神様からは苦笑が返って来た。

 

『お主さえ良ければ、余が、お主の記憶を消す事も出来るぞ?』

 

 いや、良いよ。

 そんな事をする力も勿体ないし、なにより今そんなもんの為に力を使う必要は無い筈だ。

 

 そう考えると、少し驚いたような、なんかそんな感じの何かが伝わって来たような感覚がした。

 

『心が無い筈なのにお主は変わらぬのだな』

 

 とは言っても、記憶が私のままな訳で、考え方や生き方まで急に変わったりしないのが普通なんじゃないだろうか。

 

 そんな思考全てが神に伝わったのか、神はまた苦笑した。

 

『そうか……、恩に着る。余の我が儘に付き合わせてすまぬな』

 

 巻き込んでおいて今更気にするなよ。

 

 脳内で冷静なツッコミを返しながら、眼を閉じる。

 

 大体、こんな状態になったのは結局私がそう決めたからなので、神個人に罪はあっても、多少の責任は私にもあるのだ。

 

『そうか。……有難う。

 ところで……お主は、これから自分がどうなるのか、分かっているのか?』

 

 質問の意図が全く掴めないけど、気にした所で今は何も解らないし思わない訳で、実際問題正直に言うと、どうでもよかった。

 

『……そうか。では聞こう。心は取り戻したいか?』

 

 その問いの答えは、解らなかった。

 

 何せ、心を取り戻したいと思えないような事ばかり起きた現状である。

 

 今、心なんて物は必要無いような気さえする。

 

 この世界に慣れて、多少なりとも落ち着く事が出来たなら、そんな風に思えるだろうか。

 

『そうか……、やはりまだ時間が必要なようじゃな』

 

 よく考えなくてもこの世界には来たばかりだし、どうせならあちこち巡って、それから決めたっていいんじゃないだろうか。

 そうやってれば、いつか取り戻したいと考える日が来るかもしれないし。

 

『……ふむ……、成る程な……。ではそう思う時が来たら返す事にしよう』

 

 その時が来なくても、自分の代わりになる神の依り代は探すつもりだったので、心に関しては別にどっちでもいいのが本音である。

 

 心が帰って来たら神は私から出て行くんだろうけど、そうなったらこの神様はその後どうするつもりなんだろう。

 

『……そうじゃな……お主の身体から出たら、消えようかなとか、考えているよ』

 

 儚げな声で、静かに呟く神。

 

 本当に消えたいと思ってるなら、会ったばかりの私が止める事は難しそうだ。

 

 でも一応元の姿に戻りたいので、その辺はなんとかしてから消えて貰いたいんですが、そこんとこどうなんですか。

 

『……えぇー? ヤダ』

 

 いや、ヤダじゃねぇよ。

 

『だって大分板に付いて来てるよ? かなり似合ってるじゃん』

 

 だとしても今はブーメランパンツ一丁ですけど。

 

『……あ、そろそろ充填出来たようじゃな。

 しかしまだ満タンではない……また着いたら起きるから頑張れ! じゃあの!』

 

 いや、じゃあの! じゃなくて、あっ、ちょ、待てコラ。

 

 私のツッコミ虚しく、神はそんな感じに適当にごまかしながら引っ込んで行った。

 

 無意識に、口から溜息に似た吐息が零れる。

 

 

 仕方がないので、水浴びを再開する事にした私はゆっくりと肩まで水に浸かった。

 そして私を襲って来たのは、背中の傷の痛みだ。

 

 染みる。

 じりじり、じわじわと傷口に水が入って、ついでに水が無駄に冷たくて、自然と眉間に皺が寄って行く。

 

 心は無いのにこういう痛みとかしっかり感じるのは、理不尽なんじゃないだろうか。

 

 何も思わないから別にどうでもいいけど。

 

 傷口が熱を持ってるっぽいから、冷やすのは必要な事だとは思うんだけど、いかんせん寒い。

 

 仕方がないので、別の事を考えよう。

 

 昔の人は、その辺に生えたヨモギをすり潰して傷薬にしてたらしいから、後で周囲を探そうか。

 

 って言っても傷口は背中にある訳だからどの辺にあるか自分じゃ見えない気がする。

 

 作っても意味が無いじゃないですかやだー。

 

 だとするとやっぱり、こうやって水で軽く洗い流すくらいしか方法は無いらしい。

 

 誰か知り合いが居れば別だが、そんな人は存在してない訳で。

 

 色々考えたけど、何の意味も無い事に気付いたので、サラッと流す事にしよう。

 

 まぁ良いや! 

 

 それよりもこの黒コートのままじゃどこ行っても目立つだろうから、何処かの村で着物でも譲って貰えないだろうか。

 着物、浴衣でも良いんだけど、服ってBASARA世界ではどのくらいの価値なんだろう。

 なんか持ってたら良いけど、私物なんて何もないから物々交換も無理だし、どうしたもんかな。

 

 ぼんやりと考えながら髪を結んでいた紐を解く。

 そのまま、髪に付いた砂埃を軽く洗い流して、それから上がった。

 

 とりあえず寒い。

 歯がカチカチ鳴るくらい寒い。

 きっと唇は紫色になってるに違いない。

 

 だがしかし、体の汚れや埃も落ちて綺麗さっぱりというのは、現代日本人としての感覚で考えるとデカかった。

 やっぱりお風呂入れなくても、身体の汚れは落としたいよねー。

 

 一息ついてから、身体を乾かさなきゃと考えて、不意に気付いた。

 

 拭く物が無い。

 

 完全にすっきりさっぱり忘れていたらしい。

 

 めっちゃ身体洗いたかったから仕方ないよね。

 いや、実際そういう願望がある訳じゃないんだけど、綺麗好きな日本人だしね。

 いやーね、習慣ってこわいわぁ。

 

 という訳で開き直る事にしよう。

 

 漢は黙って自然乾燥! なんせ女の子と違ってヤワじゃないし! 

 現在ワイルドダンディなオッサンだし! 

 

 男ってパンツ一丁でも平気ってめっちゃ便利だな! 

 心が無いから羞恥心無いだけな気がするけど! 

 

 テキトーにそんな事考えつつも、服は着ないと風邪は引くかもしれない訳で。

 仕方がないのでズボンだけでも履こうと、生乾きの身体のままズボンに足を通そうとした

 

 ら。

 

「ちょっ! 何してんのオッサン! 髪とか乾かさないの!? そのままその着物着る気!?」

「……は?」

 

 突然誰かに大声で制止の声を掛けられた。

 

 よく解らずその場に固まる私を他所に、声の主が姿を見せる。

 

「あぁもう! 身体まだ濡れてんじゃん! 手ぬぐい持ってないの!?」

 

 そんな風に言いながら、迷彩な男が子安ボイスで目の前にやって来たかと思ったら、おもむろに手ぬぐいを渡された。

 

「えーと……? すんません?」

 

 全く意味が解らないけど軽く会釈してから、一応それで身体を拭く。

 

 しかし頭を拭こうとした時、眼帯が邪魔でうまく拭けず、仕方がないので途中で諦めた。

 手ぬぐいを肩に掛けたまま、とりあえずさっきよりはマシになった体でズボンを履く。

 

「…………で、アンタ何? いつから居た?」

 

 尋ねながらブーツに手を伸ばし適当な岩に腰掛けながらそれを履いた。

 

「あ、オッサン髪まだ全然拭けてないじゃん」

 

 無視である。

 

 え、酷くない? なんてJKみたいな感覚で思っていたら一瞬で背後に回られて、肩に掛けてた手ぬぐいを奪われた。

 

 そして現在、なんかよく解んないけど丁寧に頭を拭かれています。

 

 こんな事初対面の人間によくしようと思うな、だから武田のオカンとか界隈で言われてるんだろうか。

 世話焼きなのか、策略なのか、サッパリ解らない。

 

 てゆーか何がしたいのかもサッパリ解らない。

 このままでもなんかアカン気がしたので、とりあえずで呟いてみる事にした。

 

「……無視かよ……」

 

 すると、余りにも予想外な言葉が返ってきた。

 

「まぁまぁ、そう気にしなさんなってライグの旦那。アンタ心無いからホントは気にしてないんだろ?」

 

 思わず思考がフリーズした。

 

 え、待って、それってもしかして、

 

「……まさかとは思うが……お前ずっと居たのか?」

 

 フリーズのせいでされるがままに髪を拭かれてしまいながら、尋ねる。

 

「うん。最初から居たよ~。突然現れてなんか白いのと喋ってて、それから川行ってビックリしてたり突然倒れたり……」

「おま……ソレホントに最初からずっとじゃねーかよ……」

 

「遠くから見てただけだから何言ってるか聞こえなかったけどね」

 

 

 ぽんぽんと髪の水気を手拭いで吸い取られているのを感覚で感じつつ、どうやら女言葉を喋ってたのは聞かれてないらしいという事に、ほっとしたような気がした。

 

 なんか若干的外れな部分にほっとしてる気がするけど、まあ良いよね。

 

 ……良いよね? 

 

 

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