王国/心2某機関NO.2の姿で戦国BASARAにトリップさせられた女子の場合 作:藤 都斗
それから十日程経って、たまに襲ってくる山賊を撃退したり、畑仕事を手伝ったりしていたある日の朝、とうとう伊達軍がやって来た。
ホントに来たよ…………別に来なくてよかったのにね。
遠くがよく見える高台から、村へ攻めてくるであろう青い集団を眺める。
青い特攻服やリーゼント、スキンヘッドに角刈りという何処の暴走族か分からん格好のおっさんや兄ちゃん達が、時代錯誤な鎧武者達に混ざるという、訳の分からん集団だ。
なんか、この場合の時代錯誤の定義がよく分からなくなってきた。
色々間違ってる気もするけど、こっちはピンクの法被のオタク集団な農民達なので、もう本当にわけがわからない。
どっちが時代錯誤なのかなコレ。分からんね。分からんな。
「ライグのおっちゃん、どうするだ……!?」
焦った顔をしたいつきが俺の横でぴょんぴょんと跳ねる。
可愛げの塊のような仕草だが、俺はというと心が無いので何も思えない。
多分きっと残念なんだろうけど、まあいいや。
「……あいつらがもし、俺達を殺そうとしているなら打って出ればいいが……そうでないなら殺すべきじゃねェ」
「なんでだべ?」
「もしあいつらが、一揆を止めようとする為に来たのなら、味方に付けられるだろ」
静かに言葉を返しながら、遠くで本陣の組み立てをしているらしい青い集団を眺める。
なんか知らんけどめっちゃ遠くまで見えるので有難く偵察させてもらおうと思います。
流石は某機関No.2の身体だよね。凄いね。
ていうか、なんで本陣はちゃんと戦国なんだろう。
旗とかノボリとかちゃんと家紋だし…………どうせならもうちょい何かしとけよと思った瞬間、“暴走上等!!”とか書かれた旗が掲げられた。
うん、リアクションに困る。
止めに来たかどうか自信なくなるなぁ、あんなん見たら。カチコミにしか見えんわ。
「……味方になんて、そんなお侍居るわけねぇだよ」
「まあ、そんなん見てみないとわかんねーだろ」
「……そう……だけど……」
しょんぼりとするいつきの頭を慰めるようにぽんぽんと撫でる。
「俺に任せて、お前は村を護れ」
「でも……そしたらライグのおっちゃんはどうするだか?」
「……あっちが何を考えてるかはまだ分かんねぇからな……。
とりあえず、なるべく殺さないように、本陣に行ってあっちの大将に直談判してくるわ」
軽く手を振るだけで、光の粒子と共に発生するかの如くあの武器が出て来るのは、もはやいつもの事のようにですらある。
まあでも、武器が銃みたいなもので良かった。
もし刀なら、殺さないようにするなんてきっと無理だ。
峰打ちとかそんなんが出来るほどのコントロール力なんて無いし。
どうしようもない事とはいえ、他に出来る事なんて浮かばないから、俺は俺の出来そうな事をやろうかなと思いました。
「…………オラ……何も出来ねぇだか?」
隣で不意にぽつりと呟かれた小さな言葉に、視線を戻す。
いつきはゲームのキャラだから、確かに戦えるだけの力はあるだろう。なんなら、いつきでゲームを始めたら、そのまま天下統一まで出来てしまうくらいには、可能性の塊な子供だ。
……だけど、農民。
東北の一揆衆の大将、旗頭としてゲームでは登場する。
それは今回同様、荒らされる農地や農民の未来を憂いての行動だった。
まあ、そうやって憂いてた所に神様とやらから馬鹿みてーにでっかい大槌を授けられて、そのまま戦いの中に身を投じてしまう、ジャンヌ・ダルク的なポジションではあるのだが。
とはいえ、農民は農民だ。
戦ったことのない少女をあんなヤンキー達の巣窟に突っ込むようなおっさんになるのはちょっと、なんか、アレだ、……倫理的にダメなんじゃねぇかなと。
そんならオッサンな俺がやればいいよね、という訳だ。
「……俺は戦う。
それで誰かを殺すかも知れねェ。でもお前は護れ、誰も殺すな。出来る事をやれ」
仕方ない事なんだが、なんの気持ちも込められないままそれだけを告げる。
「知ってっか? 殺すのより、殺さない方が難しいんだぜ」
ニヤリと、口の端を上げて笑った。
*****
とある村で一揆が起きようとしているという情報が入ったのは三日前の事だった。
その村には自分を神の遣いだと名乗る黒ずくめの奇術師が居るらしいとの事。
村人は素直だ。
奇術を見せられそれを奇跡だと思い込み、そんな奴をすぐに信用して、一揆をした方が良いとでも吹き込まれ、それを鵜呑みにしたんだろう。
なんて野郎だ。
きっと村人に様々な物を貢がせ、殿様のように振る舞っているに違いない。
西の方でも怪しい宗教が出たと聞く。
しかし自分の領地にそんなものが作られては困る。
「Ha……! 神の遣いだか何だか知らねェが……ぶっ飛ばしてやるぜ……!」
俺は静かにそう呟いた。
*****
日が高くなった頃。
ほら貝が鳴り響いて、その音と共に伊達軍が進軍して来た。
遠くに土煙ならぬ雪煙が見える。
進軍によって昨晩降った粉雪が舞い上がっているんだろう。
俺は両手にガンアローを構え、村の入口に立ついつきに軽く呼び掛けた。
「んじゃ、ちょっくら出掛けてくらァ」
「うん、オラ、此処で村を護る! だからおっちゃん! 死ぬんじゃねーべよ!」
「大丈夫大丈夫、……俺にはやるべき事(今日の分の畑仕事)が残ってっからなァ」
そんな風に軽く言いながら歩き出す。
暫く歩けば、突然数人の侍に囲まれた。
とりあえず手早く全員の足を撃ち抜く。
死にはしないし、筋肉を狙ったから数週間は歩けないだろうが、完治する傷だ。
「……はい次ー」
そんな風に軽く呟きながらスタスタと歩を進めた。
ワラワラと湧いて出て来る大勢のリーゼント達には、銃なんか使ったら軽く数十人殺しそうなので、とりあえず殴って気絶させた。
力加減頑張ったけど、打ち所が悪かったら死んでると思う。
かなり手を抜いて戦ってるけどまぁ仕方ない。
それから大分進んだなーとか思案した時だった。
「Hell Dragon!!!」
聞き覚えのある流暢な英語の技名と、蒼い雷光が自分目掛けて向かって来るのが見えたので、避ける為に上に跳んだ。
そしてまた無意識に作り出した空間に降り立つ。
相手から見れば必然的に何もない空中に立っているように見えるだろう。
途端ピューウ、と口笛の音と共に雪が踏み締められる独特の音が聞こえた。
「Ha! 奇術が使えるってのァ……マジみたいだな……、そりゃ一体どんな仕掛けだよ、オッサン!」
そんな言葉と共に、ゲームでよく見たあの男が俺を見据えているのが視界に入る。
うん。
……意味が解らん。
「奇術? ……仕掛け? ……意味わかんねーんだが、アンタ達……村に何しに来た? 年貢の取り立てか?」
「Ha!! 自分の胸に手ェ宛てて聞いてみな!! テメーあの村で美味い汁吸ってたんだろ!!?」
……美味い汁? っていうと味噌汁か。
あー、そういやいつきの作る芋の煮っころがし美味かったなぁ
薄味なのに味が染みてて。
……まぁ、普通に考えてそうじゃねーよな。
「……お前ら、一揆を止めに来たんじゃねーのか?」
「解ってんじゃねーかオッサン、……アンタが起こそうとしてる一揆を止めに来たんだよ……。
純粋な村人を騙しやがった上に一揆なんぞを唆しやがって……覚悟しろや……!!!」
……えーと、こりゃもしかしてアレか?
俺が首謀者に見られてる?
エェェエエー……オイオイオイ……面倒臭いなァ……コレ……えぇー……ちょっ……コレどうしよう。
多分だがコレ……真実言った所で戯言としか取らないだろうなぁ……。
いっそスッパリ斬られるか……? なんかそれが一番楽な方法なんじゃねぇかと思えてきた。
この様子なら俺が首謀者で、村人は巻き込まれただけって事でカタが着くだろう。
……でも出来れば死にたかぁ無ェんだよなァ、いつきが悲しむから。あと、死ぬなって言われちゃったしなァ……。
「Hey! テメーいつまで黙ってやがる!」
不意に何の反応も無い俺に痺れを切らしたのか、伊達政宗が声を荒げた。
「……いや、どうしようかなーと思って」
「Ah? テメーの事情なんぞ知るか、行くぞオッサン!!!」
そんな言葉と共にさっき見たよく分からん技が三連発でとんできた。
さすがにコレはヤバイと更に空中に逃げる俺。
容赦ねェなオイ。
しかし丁度そこへ背後から矢が飛んで来た。
「……ちょ……うわー……マジかよ」
いつの間にか追い込まれて、俺の四方は弓兵に囲まれていた。
避けるのは不可能に近い。
しかしそれでも無理矢理避けようと更に上に逃げた所を、逃げ切れなかった足に矢が幾つか直撃した。
「っぐ……!!」
途端、足場として形成されていた空間が消え、俺の身体は重力によって雪の積もった地面に背中から叩き付けられる。
その衝撃に息が詰まった。
ぅあー足いてェ……!
あと背中も地味に痛い。
でも積もっていた雪のお陰か、目立った外傷は足だけのようだ。
これが不幸中の幸いってやつか。
「the endだ、オッサン」
不意に雪国特有の曇り空が見える視界の中へ、刀と、それを持ちながら不敵な笑みを浮かべる青年が入って来た。
「……満足したか?」
俺はその姿を認識してからのんびりとした口調でそう口を開く。
と、不敵に笑んでいた青年の表情が怪訝そうに歪んだ。
「……なんだそりゃ、それはこっちの台詞だぜ? オッサン」
「いいや、俺の台詞だ。関係ない奴を首謀者だと思い込んで、いたぶって、満足したか?」
小指で耳をほじりながら怠そうに告げる。
「Ah? こんな状況なのに随分とデケー態度だな……」
「生憎、俺ァ刀突き付けられても何とも思わん」
「……Ha! ……強がりは止せよ、みっともねェ。 オッサン……これで終わりだ……Good bye」
そんな言葉と共に、伊達政宗の刀が振り上げられた次の瞬間だった。
「おっちゃんを虐めるなァァァアア!!!」
と、叫びながら、いつきが俺と伊達さんの間に突っ込んで来た。
「ちょっ、いつきお前ダメだろこっち来たら、村護れっつったよね俺!」
吹っ飛んでいく伊達さんをスルーしながらもとりあえずツッコミを入れる。死を意識する間も無かった。
「オラやっぱ我慢できねーだ! オラが悪ぃのに、おっちゃんに全部任すなんて嫌だ……! オラだって戦う!」
いつきは起き上がろうとする伊達政宗に向かって体よりもデカいハンマーを構えながら俺にそう告げる。
そして伊達政宗を見据えながら、彼女は口を開いた。
「さぁ……掛かって来るだお侍さん! 一揆衆総大将……いつきが相手だ!」
その言葉に、伊達政宗がピシリという音が聞こえそうな程固まった。
そしていつきと俺を交互に見ながら、何度も瞬きを繰り返す。
「あー……今更だけど、俺、総大将じゃねェんよ」
「…………………………」
「もっと言えば、俺ァ腹減って死にそうな所をいつきに拾って貰った、恩があるんでな」
「…………………………」
「ちなみに神の遣いって名乗ったのァその場のノリだ」
「…………………………」
「大体、総大将って自分の兵を陣地に匿って単体で向かって来たりすんの?」
つーかさ……お前の中の俺ってもしかしなくても悪徳宗教家? とか付け足しながら青年を見据える。
「…………oh……」
頭を抱え始める伊達政宗。
………………まさかとは思うが感情の赴くままに進軍して来たのかなコイツ。
一方いつきは不思議そうに首を傾げていた。
「ライグのおっちゃん、こりゃ一体どういう事だべ?」
「そこの侍はどうやら勝手に早合点して、俺が村人をそそのかして一揆を起こそうとしてるとか思ったんだとよ」
簡潔に告げると途端にいつきがぷんすこと憤慨した。
「おっちゃんが来るより前に一揆を起こそうとしてたってのに、なんでおっちゃんを疑うだか……!」
いやでもさ、噂とかもあるし、コレは仕方ないと思うよ俺……。
「侍は、やっぱり侍だ……! 関係ないモンまで虐めて……!」
「悪かった」
いつきが何か言葉を続けようとした所に、伊達政宗が何の前触れも無く突然、謝罪の言葉を告げた。
思わずいつきの時が止まる。
「……お前ら農民が一揆起こそうとする程辛い思いしてんのに気付けなくて、悪かった」
構わず続けられたその言葉に、いつきは目をパチクリさせながら、ただただ驚く。
「な……なして謝るだか……お侍は、みんなオラ達農民を馬鹿にして、虫ケラみたいに思ってるだ、偽善はやめてけれ!!!」
いつきは叫んだ。
目に涙を溜めながら、伊達政宗を見据えて。
だが、その後の伊達政宗の行動には、心が無い俺と当の本人以外の全員が驚いた。
いつきの前に座り、深々と頭を下げたのだ。
完全な土下座である。
一国の主が一人の農民の娘に土下座したのだ。
どうやら今駆け付けたらしい小十郎と思しき茶色っぽい兄さんが背後で固まっている。
よく見れば凄い決定的瞬間を目撃してしまった、って顔をしていた。
そんな中、伊達政宗の声が再度辺りに響く。
「……悪かった」
いつきは戸惑うしか無いようで、所在無さげに視線をあちこちにさ迷わせた後、俺を見た。
「……決めるのァお前だ。総大将」
俺はなるべく穏やかに聞こえるように、そう告げた。
いつきは俺の言葉によって決心がついたのか、ようやく口を開く。
「……もう良いだ。オラ達ん事解って貰えたから。
ありがとうな、お侍さん」
そう言って戸惑いがちに微笑んだ。
伊達政宗はと言うと、少しやる瀬ないような顔をして起き上がったかと思えば、その場に胡座を掻いた。
「……いつき、つったか。……俺はいつか天下を取る。
それまで辛い思いをさせるかもしれねぇが……もう少し待っててくれるか?」
青年は子供に言い聞かせるようにいつきへ語りかけながら、真剣な眼差しを向けた。
うん。
何とかなったみたいだ。
コレで俺が心を取り戻した時も安心だな。
自己嫌悪くらいはするだろうがそれはもう仕方ない。
いつきと伊達政宗はまだ何か話して居るようだがなんかもうどうでも良かった。
あれ、なんか段々声が遠くなってないかコレ。
あー……多分この足に刺さった矢のせいだな。
怪我してばっかだなー俺。
……そういえば背中の傷もまだ治ってないっけ。
……思い出したら痛いな?
うん。痛い。ついでに寒いし暑い。
ん? 寒いのに暑い? なんだそれ。
あ、そういえば雪国だ此処。寒くて当たり前だな……。暑いのは怪我が熱を持ってるからだろう。
ついでに背中から落ちたせいで多分背中の傷が開いた気がする。
なんかずっと足と背中が暑くて寒いんだけどどうしようかなコレ。その代わりに手は冷え切って動かす事も難しかった。
武器はいつの間にか手から離れていて、どこにも見当たらない事から多分身体に戻ったんだと気付く。
「おっちゃん!? どうしただおっちゃん! しっかりするだ!!」
「Heyオッサン! 大丈夫か!? チッ! おい小十郎! 医者だ! すぐに手配しろ!」
なんかそんな声が聞こえるけど、でも途中から意識が遠くなり、何を言われているのか解らなくなった。