IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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あけましておめでとうございます。今年から忙しくなるので投稿ペースが落ちると思いますが、何卒ごひいきに。

あ、それから地上波でトップガンを放送するらしいです。楽しみですね。


第13話 久しぶりの授業

 月曜日、あと五分ほどで一三時になろうかというころ。格納庫横の駐車スペースから一台の軽自動車が走り出した。

 その運転席には来栖が座っていた。彼はこれから、先日頼まれた二年生の実習の手伝いに行く。

 職員朝礼には徒歩で向かうのになぜという方に補足すると、IS学園の敷地は非常に広く、二つ隣の施設にでもなるとkm単位で離れているのはザラ。職員室からであれば徒歩で向かえるが、格納庫から第三アリーナとなると車で向かわざるを得ないのだ。

 海沿いの道を少しんだところで、ひっそりと山の中へ向けて分岐する道が現れる。来栖はウインカーを出し右折する。

 カリッ・・・カサッ、キューウッ

 〈こりゃ剪定を頼まないと。〉

 狭い道ではないが、あまり車が通らないせいで樹木の枝葉は伸び放題。幾本ものそれが容赦なく車体に当たり、擦れて不快な音を立てる。

 さほど長い距離ではないのだが、気分的にはいつもの倍以上を走った機分になっていた。

 山道を抜けると、外縁に沿ったアスファルトで舗装された道を、学園指定の速度でトロトロと走る。

 目標の建物が見えてきたため、そちらへ進路を取る。が、ここからが問題だった。

 IS学園の建物の間を通る道には、見た目をオシャレにするためにレンガや石畳が敷いてある。施設へ行くには、必ずと言っていいほどそこを通らなければならない。

 そう言った路面の多くは、低速であってもガタガタと車体を振動させる。来栖が普段から乱気流でシャッフルされることに慣れていたとしても、これは話が別だ。

 それは、第三アリーナへ行くのも例外ではない。

 助手席に乗せているカバンの中身が振動で飛び出ぬよう、細心の注意を払い進んで行く。

 少しして第三アリーナの裏手に到着した。車を止め、助手席からカバンを取り車外に出る。

 〈まあまあの時間に着いたな。〉

 時計を見ると、授業開始まで丁度一〇分あった。来栖は、生徒の立ち入りが制限される専用通路のドアを開け中に入る。

 通路の壁や天井には暖かみのあるデザインが施されてはいるが、人気がなくひっそりとしている。来栖はそこを足早に進んでいく。

 来栖が目指しているのはピット。そこは、アリーナのグラウンドを見渡せる場所にあり、またカメラの操作盤やそれを映し出すモニターなどが備えられている。

 三分ほど歩き、Aピットに到着した。

 マスターキーで鍵を開け、中に入る。

 来栖は机の上にカバンを置き、機械の立上げに入る。と言っても、最新鋭の機械が入っているのでそれほど時間を要さずに起動は完了する。

 システムが正常に稼働しているかの軽いチェックを済ませると、カバンからA4サイズのタブレット端末と専用のケーブルを取り出し、おもむろにピットの機械に接続するとそれの画面にグラウンドの様子が映し出された。

 その他諸々の準備をしているとチャイムが鳴る。

 目線を外に移すと、生徒はアリーナのスタンドに集合していた。グラウンドではなくスタンドに集合というのは、実習の戦闘訓練といっても実弾を使用するためグラウンドにいては命の危険があるからと言う理由と、単純に移動の時間を短縮する目的がある。

 先生が生徒達の前に立って話しを始めた。

 因みにだが、この学園では実習前のランニングや準備運動といったものは各自で休憩の間に済ませることが普通なため、別にスタンド集合でも何ら問題ない。

 しばらくして、バラバラに座っていた生徒達が、先生の指示に従ってスタンド内で座る位置を変更、六列に綺麗に並び直した。

 それが終わると、再び先生が話を始める。

 『――の制限時間は5分で行うものとします。質問はありますか?』

 インカムをセットしたので、来栖のもとにもスタンドに居る先生の音声が聞こえるようになる。

 『ないようなので、戦闘訓練に入りたいと思います。試合の組み合わせは、先ほど話したとおりです。ISは打鉄とラファールを準備しているので、自分の順番の二組前になったらISの所へ行って好きな方を選んでください。では、試合を始めたいと思います。最初の人とIS待ちをする二組は付いてきてください。』

 先生がそう言うと、列の端から三人の生徒、計一八人が立ち上がりグラウンドへと移動を開始する。

 『来栖先生、よろしいでしょうか。』

 少しして、スタンドにいる先生から通信が入る。

 「いつでもどうぞ。」

 『了解しました。』

 直後、来栖の向かい側にあるBピットのカタパルトから、連続して六機のISが射出される。

 それらは二人一組になり均等に散らばった。

 今回の戦闘訓練は第三アリーナをABCの区画に三分割し、それぞれの区画で1対1の試合を同時進行で行う。有効な攻撃が入った場合には制限時間を待たずに終了となる。また、安全のために各自に割り振られた空域を逸脱した場合は危険回避のために訓練中止が言い渡され終了となる。

 来栖が行う評価というのは、この監視と訓練の様子の記録だ。ぶっちゃけて言うと、評価と言うよりも補助と行った方が正しい。

 『ブザーお願いします。』

 「了解です。」

 来栖がボタンを押す。アリーナにビーッという合図が響いた。

 生徒が一斉に戦闘を始める。

 その様子は自動追従のカメラが追っているので、特に操作することはない。

 来栖がタブレット端末を手に取る。

 〈(アルファ)は、ウェルキンとサファイアか。流石は代表候補生だ。いい動きをしている。・・・が、サファイアは右ターン後の立ち上がりに隙があるな。イージスのために調整した動きか、それともただの癖か。いずれにせよ直した方がいいな。(チャーリー)だから鈴木か?スロットルをもっと細かく調整すれば格段に良くなるな。〉

 依頼の中には含まれていない作業ではあったが、来栖は気になったシーンに目にも止まらぬ速さで修正点を書き込んでいく。アリーナという限られた空間でなら、六機をほぼリアルタイムに追うことなど来栖にとっては不可能ではない数だった。

 

 授業も終わりに近付いてきた。上手い生徒から順に戦闘訓練を行っていたため、その頃には戦闘訓練も随分と退屈なものになっていた。

 『えぇえい!』

 『っつ!やられるものか!』

 声だけは威勢の良いものを出して戦闘訓練に励む少女たちの様子を、来栖は呆れたように眺めていた。

 〈Cを今飛んでるのは・・・斎藤と山本か。『1対1でも相手ばかりを見ないで、周りの状況を把握しなさい』、と。〉

 名簿をめくって名前を確認すると、タブレット端末を使って映像にコメントを書き込む。

 〈それにしても、一年生で何学んでいたんだ?整備科に行った方が合ってるだろ。〉

 呆れた表情を浮かべつつも、二人が治すべきところを書き込んでいく。

 〈インベーダーゲームか!もっと高度を有効に使えよ!〉

 あまりに高度が変わらない飛行をしていたため、来栖は映像に横棒を引いて分かりやすくしておく。

 「あぁ!!馬鹿!」

 視線をアリーナに戻した瞬間、熱中するあまり自身の位置の確認がおろそかになったA領域の生徒がBの領域に飛び込んだ。格闘していてもつれている状態であったなら警告を出す余裕があったが、Aの二人は高速で飛び回っていたためその時間がない。それに加えて、Bの領域の生徒はAの領域の近くで格闘戦をしていて衝突の危険が迫っていた。咄嗟の判断で来栖は終了のブザーを鳴らす。

 流石にその音を聞く程度には冷静さを保てていたようで、全員が一斉に動きを止めた。

 「Aの空域逸脱です。」

 『了解です。訓練中止です!生徒は引き上げてください。』

 連帯責任というわけではないが、Cの生徒も訓練を終了しなくてはならない。

 大人しくそれに従い、生徒達はBピットに戻っていった。

 それから二回戦闘訓練が行われ、それで全員の訓練が終わった。授業時間は一〇分ほど残っていた。

 『これで実習を終わります。怪我等はないですね。では、クラスごとにスタン――』

 先生が訓練終了を生徒に伝えた。それを聞いた来栖はインカムを外し、カメラの録画を停止する。

 今日の授業はこれで終了。放課後となる。

 この後は、アリーナにはISの自主トレをしに生徒がやって来る。そして、それを監視するために先生が来るので、システムを起動したままにしておく。

 来栖は、タブレット端末を操作して録画した映像を先生に送信する。

 送信が終わるまでの時間を使って荷物を纏める。

 「送れたな。・・・あ、あっちも終わったか。」

 ふとスタンドを見ると生徒の姿はなくなっていた。ケーブルを外してタブレット端末を机の上に置くと、来栖は椅子に座った。

 「お待たせしました。」

 しばらく待っていると、先ほどまで実習を行っていた先生二人がピットに入ってきた。

 「お疲れ様です。」

 先生二人は、机を挟んで来栖の正面に座った。

 これから実習のブリーフィングを行う。

 「今日はありがとうございました。」

 「どういたしまして。時間があるときでしたらいつでもお手伝いしますから、気軽に呼んで頂いて結構ですよ。」

 「えぇ、分かりました。」

 そう会話をしたあと、来栖はタブレット端末を手にして電源を入れる。

 「あ、タブレット端末ですか?」

 来栖のそれを見た先生が、珍しそうにしていた。

 「ん?これ?・・・そうか、俺を含めて()()()()()人は数人しかいないのか。」

 「え!他にもいるんですか!?」

 「いますよ。初年度と二年目までは、教員全員に配布していましたから。」

 このタブレット端末とも長い付き合いだなと、来栖は思い返して懐かしそうにする。

 でも、なぜタブレット端末が付与されなくなったのか。

 それはひとえに、グラウンドで使うには不向きだったから。

 タブレット端末は精密機械であり、砂埃などに弱いとまでは言わないが相性が悪い。その程度のことは学園も織り込み済みで、現在、来栖がしているような使い方を予定していた。

 ところがいざ開校してみると教員の人数が圧倒的に足りないため、教員はピットに行く余裕などあるわけがなくグラウンドで指導を行わなくてはならなかった。そうなると当然、タブレット端末よりも汚れに強く手荒に扱っても壊れない紙を使用した出席簿の方が重宝され、タブレット端末はほとんどの教員が使用しなかった。以降の年は、希望者のみに配布という形に変更された。

 「へー、知りませんでした。」

 「今も希望すれば付与されますよ。ただし、何年か前にタブレット端末から空中投影式の端末に変更されましたが。」

 「じゃあ、来栖先生含めてタブレット端末を持っているというのは、言い方が悪いですけど教員の中でも古株ってことなんですね。」

 「まあ、そうなりますね。」

 古株と言われ、来栖は軽く苦笑いを浮かべた。

 「んん。そろそろ始めましょう。」

 「あ、そうですね。」

 もう一人の先生にそう言われ、来栖はスリープに入ったタブレットの電源を入れ直す。

 「記録した動画の方はお二方のサーバーに送ったので確認お願いします。送れていなかったら、連絡ください。送り直します。先生方は、お気づきになったことはありますか?」

 来栖がそう訪ねると、先生二人は軽く顔を見合わせる。

 「いえ、特にはありません。」

 来栖から見て右に座っていた先生がそう答えた。

 「分かりました。ところで、訓練を見ていて直した方がいいなと思う点を書き込んだ映像があるのですが、これも送りましょうか?」

 再び先生は顔を見合わせ、軽く打ち合わせをする。

 「見せて頂いてもよろしいですか?」

 「どうぞ。」

 そう言って、動画を再生できるようにしてタブレット端末を先生に手渡した。

 しばらくそれを見ていた先生の表情が、険しいものになっていく。

 「必要なければ不要ですと遠慮なく言ってください。」

 「あ、いえ!ぜひ送って下さい!」

 まるで切羽詰まっているような声で片方の先生がそう返した。

 「分かりました。」

 タブレット端末を返してもらい、来栖はコメントを付けた動画も二人の先生に送った。

 「私の方からは以上です。先生方はよろしいですか?」

 「はい。今日はありがとうございました。」

 「いえ、こちらこそありがとうございました。」

 「「では、失礼します。」」

 「お疲れ様でした。」

 そそくさと、先生二人はAピットから出て行った。

 「はー疲れた。」

 来栖は椅子に背中を預けるようにもたれかかる。

 その状態で数分ボーッとしていると、足音が近付いてきたため体を起こした。

 そして、先ほどとは別の先生が入って来た。

 「あら?先生がどうしてこちらに?」

 「実習の評価に助っ人として呼ばれたんです。システムを起動しているので、引き継ぎが必要かと思いまして。」

 「あぁ、それはご丁寧にありがとうございます。」

 軽く連絡事項を伝えると、来栖はカバンを持ってAピットを後にする。

 車に乗り込むと、来栖は来た道とは違う方向に進む。

 放課後と言うこともあり、学園内には生徒が多数歩いている。

 それらをうっかり引いてしまわぬよう細心の注意を払いながら来栖が向かった先は、一年生の寮だった。

 来栖は車から降り、寮に入っていく。そして、階段を上がりとある部屋の前に着いた。

 〈えーっと、ここだな。〉

 来栖は迷わずノックをする。――が、反応がない。

 〈あれ、何処か行っているのか?〉

 来栖は辺りを見回す。すると、後ろのドアが開いて生徒が一人出てきた。

 「あ、ちょっと聞きたいんだけど、ラウラ・ボーデヴィッヒって人はどこにいるか知らない?」

 「え?」

 目が合った瞬間、その生徒は固まった。まあ、見慣れない男の人がいれば無理もない話しだ。

 「え、えっと・・・そこにいなかったら織斑君の部屋か、茶道部だと思います。」

 「ありがとう。行ってみる。」

 あまり時間がなかったので、来栖はラウラから聞いた織斑君の部屋を目指し、更に上の階へ上がる。

 〈一〇二五・・・ここか。〉

 来栖がドアをノックしようと手を上げた瞬間だった。

 「来栖先生?ここで何を?」

 その声に右を向くと、そこにラウラがいた。

 「丁度良かった。ちょっときてくれ。」

 そう言って、来栖は人気の少ない非常階段の方に移動する。

 「今日の夜は時間ある?明日でもいいけど。」

 「何かあったのですか?」

 どうやらピンとこないようなので、来栖はスマートフォンを取り出してメールを開きラウラに見せた。

 「これは・・・聞いて下さったのですか!!」

 「シッ。声が大きい。詳細の打ち合わせをしたいから、時間があるかだけ教えて。」

 「今日も明日も大丈夫です。」

 最敬礼を行いながらラウラはそう答えた。

 「じゃあ、一八〇〇にゲートにて待機していてくれ。外出許可は俺の方でやっておくから心配しなくていい。」

 「はっ!一八〇〇了解しました。」

 「じゃあ・・・っと、服装は私服かドイツの軍服で頼む。生徒を他国の軍に引き合わせたって誤解されたら困るからね。」

 「了解です!」

 「じゃあ、また後で。」

 「失礼します。」

 来栖はラウラと別れ、格納庫の詰め所へと戻っていくのだった。

 

 

-*・A・*-

 

 

 夕方。職員室で先ほど実習を行っていた先生二人は、来栖から送られた動画を見ていた。

 「凄いですね。え?今の何が駄目でした?・・・あ、本当だ!こんな細かいところまあで!」

 「待って下さい!これ、同じタイミングの戦闘ですよ!?」

 コメントの的確さもさることながら、全ての戦闘に対してそれが行われている。一体どんな視野を持てばこの様な芸当が出来るのか。彼女らは驚きを隠せないでいた。

 「これって、リアルタイムで書き込んだってことですよね?」

 「それしか考えられません。だって、見返す時間なんかないでしょ。」

 交代する間の時間や、実習終了後からブリーフィングの間を使ったとしても、自分達では到底処理しきれない量が書き込まれている。

 下手をすれば自分達が一つの戦闘を見るよりも、来栖が三つの戦闘を見る方が的確に分析されているのではないか。

 先生二人は、ただただ来栖のコメントに見入っていた。

 「まだまだ勉強が足りませんね。」

 「もっと頑張りましょう。」

 来栖の知らぬところで、彼の思ってもいない形で誰かが励まされていた。




2021/7/18 一部修正しました


追記

第3話 分岐点(上)にて、F-15Jに装備されていないドッラッグシュートでスピン回復を行っていた描写がありました。このたび訂正が完了しましたので差し替えました。ストーリーに変化はありませんが、報告しておきます。
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