IS学園の猫ちゃん 作:只の・A・カカシです
大丈夫です、失踪はしていません!忙しかったんです!(本当に)
「司令、カリアンさんが尋ねてきておられますが、どうされますか?」
それは、ブリーフィングを三分の二ほど終えたときのこと。整備員が一人、来栖たちのいる部屋に入ってきて平林にそう報告を行った。
「え、何かあったっけ?・・・すまん、少し抜けさせてもらうよ。」
どうやら心当たりがなかったようで、平林は少し首を捻ると立ち上がり、小走りで退室していった。
「えぇっと、・・・質量は驚くほどではないから、盾で十分弾ける。」
「了解です。」
平林はただ参加していただけなので、彼が退室した後もブリーフィングは続けられた。
「離陸が
ブリーフィングが終わり、全員が席を立つ。
「すまん、ちょっと待ってくれ。」
と、そこへ平林が戻ってきて全員を呼び止めた。
「アメリカ空軍さんが参加したいって言っているけど、大丈夫かな?」
その場の空気が、一瞬にして凍り付く。アメリカ空軍のパイロットのために、もう一度ブリーフィングをやらなければならないと思ったからだ。
「あ、訓練を視察するだけだから、ブリーフィングはいらないよ。」
その場の空気から、皆が何を考えているのかを敏感に察知した平林は補足を行う。同時に、パイロットたちは安堵の表情をする。
「我々は別に構いません。来栖は?」
「・・・問題ないかな。ただ、安全のために距離を少し遠めに取ってもらえると嬉しいですね。」
来栖は少しばかり不安そうな表情をしたが、変化が小さすぎて誰も気が付かなかった。
「よし、では伝えてくる。」
そういうと、平林は颯爽と去っていった。
「じゃあ・・・解散。」
西本が戸惑いながらもそう告げると、パイロット達は部屋から出て行った。
それから少しして、時刻は一一時半になろうかという頃。来栖と西本は揃って機体へと向かっていた。
エプロンには、F-14をサンドイッチするようにF-2そっくりなグレーの戦闘機、アメリカ空軍の所有するF-16が二機駐機されていた。
「お、算数の勉強ができるな。F-2+F-14でF-16だ。」
西本的の渾身のギャグを来栖はつまらない冗談と軽く聞き流して、彼はF-14へと向かう。
「やっぱりラウラか。」
機体の下に人が二人いることは機体が見えたときから目視していた。ただ、その距離で、かつ7月の昼間の日差しの下から陰にいる人の顔を判別するのは至難の業なので、身長からそのように見当をつけていた。
「先生、アメリカ空軍の司令官がお見えです。」
直後、ラウラがそう耳打ちをしてきた。「えっ?」と思いながら、来栖がふと顔を上げるともう一人と目があった。影の形から、来栖はその人物を整備員の小河原だと思い込んでいた。
「やあ、二時間ぶりだね。」
男の顔を見たとき、来栖は目が点になった。なぜなら、先ほど話しかけてきたアロハシャツの男が大佐の階級章が着いた軍服を着て、F-14の下で少し屈んだ姿勢で立っていたからだ。
随分とフレンドリーに話しかけられたため勝手に整備士あたりだと思い込んでおり、来栖はしばし硬直する。
「先生?」
「え?・・・あ、どうも、来栖翔霧と申します。」
急に畏まった態度をとる来栖。その変貌振りに、男は思わず噴出す。
「おい、そんなに固くなるなって。やりにくいじゃないか。」
そう言うと、男は来栖をリラックスさせようと肩を両側から軽くバシバシッと叩いた。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はマイク・D・カリアン。第35戦闘航空団の司令官だ。」
彼は来栖の手を取ってブンブンと振った。
「く、来栖翔霧と申します。IS学園で教員をやってます。」
すぐに来栖も自己紹介をする。だが、彼はカリアンから少し目を逸らしており、その口調も少し浮き足立っていた。
ラウラは初めて見る弱気な彼を不思議そうに見つめる。
それを見てか、カリアンは更に続ける。
「あ、俺たちがISを監視しに来たと思ってるんだろ。安心してくれ。ここ数年、IS乗りの連中に見せ場を持っていかれて癪だから、勉強したいんだ。」
彼は、軽く笑いながら来栖の肩を再び叩いて、『それじゃ、今日は一つ頼むよ』と言い残して、F-16に向けて歩いて行った。
来栖は視線をカリアンの背中に、厳密にはその先にある戦闘機へと走らせる。
「兵装は無し・・・と。」
「?何か言われましたか?」
彼の呟きは極めて声量が小さく、ラウラでなければ声が発されたことさえも聞き逃していたことだろう。
「何も言ってないよ。こっちも準備しよう。」
来栖は、彼女の問いかけをサラリと否定した。そしてラウラに顔を戻したときには、いつもの優しく穏やかな表情がそこにあった。
時刻は一二時半にもう数分でなろうかという頃。七機の戦闘機の姿は、太平洋上の射撃演習場にあった。
内訳は、F-14が一機にF-2が四機、F-16が二機だ。
現在、F-14を除く六機は、デルタ隊形で飛行していた。編隊を率いるのは西本のF-2で、二列目にF-16が入り、最後尾を三機のF-2が固めていた。
ではF-14というと、編隊のやや後方を追いかけるようにして飛行していた。なぜ混じっていないかというと、機体の全幅が倍近くもあるのもさることながら、パイロットの来栖に編隊飛行の経験が久しくないため確実な操縦をこなせるという自信が持てなかったからだ。
『各機に告ぐ。まもなく、予定の空域だ。訓練中は、くれぐれも事故のないように。』
「聞こえたな、ラウラ。」
インターコムを使って、来栖は彼女に確認を取る。F-14のコックピットには来栖だけが座っていて、彼女の姿はない。
勿論、置いてけぼりにしたとかではない。
『ハッ!いつでも行けます!』
「減速始め。」
F-14がスピードブレーキをかけて編隊から距離を取る。
ほどなくF-2とF-16が散開した。
来栖は、更に減速を続けバックサイドでの飛行に入る。
「よし、離れていいぞ。」
それを伝えてから数秒後、F-14の胴体下からシュヴァルツェア・レーゲンが現れ、しばらく平行飛行してから自由落下で離れて行く。
『離れました。』
「了解。」
スピードブレーキを畳み、機体を加速させて離脱。同時にレーダーのスイッチを入れて周囲の状況を確認する。と、そのときだった。
『ん?先生!その機体、F-14ですか!?』
驚いたようなラウラの声が飛んできた。
「え?ずっとF-14、トムキャットだけど?今更?」
『恥ずかしながら。ずっとF-15だとばかり・・・。』
来栖は首を捻る。もう何度となく機体を見て触っているはず。それに今日含めて二回は搭乗している。素人目ではぱっと見でF-14とF-15の判別は難しいといっても、これだけ気が付かないというのは、来栖には形容しがたい話しだった。
「ま、色々あってこうなってる。詳しいことは松戸に聞いて。アイツはこのF-14については誰よりも詳しいから。」
流石にその話題で長々と話すわけにもいかないので、来栖はさっさと話しを切った。
そうやって話している間も、来栖はレーダーを操作して周囲の状況を確認する。現在確認できる機影は低空に三機、同高度に二機、少し高空に二機の八個。
振り分けは、前者から海面監視のF-2、視察に来たF-16、曳航標的とそれを引っ張るF-2だ。
衝突する恐れのある機体がないことが分かると、来栖は機体を八,〇〇〇メートルまで上昇。
上昇を終えると、スロットルを少し戻して燃料を効率よく使用できる速度に調整する。続けて、周辺空域にノータム通知を無視して侵入してきている航空機がいないかトムキャットの強力なレーダーで走査を行う。
「いるわけないか。」
ゆっくりと360°旋回した後、彼はコクピットの中で嬉しそうに小さく呟いた。
『海面に障害なし。』
それからさほど時を置かず、安全確認の連絡が佐々木から入った。
『コメディー、了解。』
今回、標的曳航機は西本が操縦している。この飛行隊の中で、最も経験があるパイロットが彼であるからだ。
『コメディーからレーゲンへ。火器管制レーダー照射します。』
『レーゲン、レーダーを感知した。感度良好だ。』
物騒なレーダーを標的曳航機が使っている気がしなくもないが、これは来栖の発案だ。
どれ程優秀なレーダーであったとしても、限度というものは存在する。例えば、F-14やF-16といった機体が相手ならちょっとやそっとでは見失うことはないだろう。しかし、今回の相手はIS。言い換えるのであれば、長射程のミサイルほどの物体が飛び回るのだ。
来栖のF-14の強力なレーダーを以てしても、必ず見つけられる補償はない。確かにISコア・ネットワークとデータ・リンクを行える装置を搭載してはいるが、そこから予測できるのはおおよその位置だけで正確な距離を掴むにはレーダーが不可欠である。
特に今回は、戦闘機とISが極端に接近するため、万が一にロストすれば空中衝突の危険が高い。ならば、最初から指向性の強いレーダーで捕捉しておくことでそのリスクを小さくするのが目的だ。
『速度、970・・・990・・・1100!ホールド!』
『ターゲット、ロック。砲撃を行う!』
無線越しに聞こえてくる発砲音を数えながら、来栖は機種下部に搭載されているカメラでラウラの訓練の様子を見守った。
―*・ラウラ・*―
「レーゲン、レーダーを感知した。感度良好だ。」
低周波のヴヴヴという不快な音が聞こえ始めた。F-2の火器管制レーダーにロックオンされたからだ。勿論、あの機体に弾丸の一発も詰まっていないことは確認済みだが、それでも決して気分がいいものではない。
〈しかし、こういう使い方があったか・・・。〉
私が感心しているのは、ISでレーダーを感知できるということだ。無線の電波は別にカウントするとしても、レーダーの探知が出来るというのは目から鱗だった。というのも、ISにはレーダー警戒装置やそれに順ずるものはない。ISはISでしか倒せないと言われているのも原因のひとつだろうが、そもそもISに搭載できるサイズかつ見合った出力のそれがないからだ。
では、どうやって感知しているか。それは、ハイパーセンサーを調整してF-2の火器管制レーダーの電磁波を音として聞こえるようにしたからだ。
これの発案者は、当然だが来栖先生だ。いわく、「音も光もレーダーも、言ってしまえば波なんだから、それをハイパーセンサーで感知すれば分かるはずだ。」と言うことらしい。まあ、実際にそうだったわけだが。
『速度、970・・・990・・・1100!ホールド!』
コメディーからの連絡を聞き、気持ちを切り替える。近づいてくる標的にロックオンをかけ砲撃を開始する。
「っ!速い!」
だが、狙いが定まらない。放たれた弾丸は虚しく空を切る。
音速に近いF-2が頭上を駆け抜ける。
「くっ!?」
その刹那、遅れてきた標的が曳航機と同じ速度で私の頭上一五〇メートルほどのところを通過していった。
『レーゲン、大丈夫か?』
コメディーが直ぐに確認の連絡を入れてくる。私の声で驚かせてしまったらしい。
「心配させてすまない。問題ない。」
『よし。・・・今のは二発ヒットだ。』
それまでに一〇秒となかったはずだが命中数の報告を聞いて振り返ったとき、F-2はシュヴァルツェア・レーゲンの通常兵装であるレールカノンの射程外にまで行っており、改めて航空機の高速性を痛感させられる。
『レーゲン、準備いいか?』
再び火器管制レーダーが照射され、不快な低音が聞こえ始める。
「は!整っております!」
『了解。速度1100、ホールド!』
一八〇度ターンして、F-2が戻ってくる。有効射程内に入ると直ぐに射撃を開始する。うっかり標的の計測器に当てたら大変なので慎重に、だ。
再度、曳航機と標的が頭上をかっ飛んでいく。流石に驚くことはなかったが、標的と私との距離は更に近くなり一〇〇メートルと離れていなかった。そう言えば、実際には三〇〇メートル以内に接近してはならない規則があるのだが、ISは航空機ではないからノーカウントということでここまで近づけて貰えたと来栖先生が言っていた。
『おー、五発当たってるぞ。』
〈っち、一一分の五か。〉
想定していた以上に当たらない。普段IS学園でしている訓練、例えば嫁とやったときなどには九割近い確率で当てることができる。
だが、それよりも速度が速いとは言え直線的な動きしかしない標的に思い通り当たらない。私の技術が未熟なのもあるが、明らかに標的を狙いにくい。
『レーゲン、訓練終了。スワロー、上がってきて。』
射撃訓練を終えて空域の移動を開始。来栖先生のいる高度まで上昇する。
『海面に障害なし。』
その間に、海面監視をしていた二機から安全確保の連絡が西本さんへ行われる。
『了解。スワローOK?』
『問題ありません。』
『よーし、散開・・・今!』
問題がないことが確認されると、すぐに次の訓練が開始された。
数キロ離れたところで行われている訓練を、ハイパーセンサーを使って観察する。
『リバース!』
その合図で機首の方向を変え、二機のF-2は正対するように接近していく。
それらはすれ違う寸前、互いに通信を交わす。
『スワロー、射撃準備完了しました。』
『ラジャー、左旋回用意・・・今!』
直後、二機の戦闘機は強烈な機動を開始した。二機の機動には無駄がなく、とても洗練されている。どちらもベテランのパイロットと聞いていたが、見るだけで練度の高さをうかがい知ることができる。
『どうだ、楽しかったか?』
そこへ戦闘機、来栖先生のF-14が飛んできて、ゆっくりと私の周囲を旋回する。
「はっ!楽しいというのかは分かりませんが、収穫はありました。」
先生はそれを聞くと『それは良かった』と言った。
『ラウラ、少し気になったんだが上半身だけで追っかけてないか?ISに乗ったことはないから明言はできないけど、射撃姿勢の取り方が随分と強引すぎる気がしてな。』
その指摘を受けて記憶を振り返ってみる。確かに、標的を追いかけることにだけ集中しすぎていて、その他が疎かになっていた気がする。
『そうだ、映像あるから送るぞ。』
ほとんど時間を置かず、ISコア・ネットワーク経由で映像が送信されて来る。私はすぐにそれを再生した。
「む、これでは安定性が悪いな・・・。」
映像で確認すると、確かに上体だけで目標を追いかけている。これでは反動の吸収が上手くいかず、当たるものも当たらなくなってしまう。
思い返してみればドイツのIS部隊から織斑教官が離任してからと言うもの、私は教官の圧倒的な強さだけを追い求め無理な姿勢から如何に相手の意表を突くかということに傾倒していた。最近は、また教官に指導して頂けているから矯正はできていたつもりだったが、まだまだ鍛錬が足りないことを痛感させられる。
「先生、これはオリジナルの画質ですか?」
『画質?いや、落としてる。えっとね、今、衛星を中継してIS学園の装置とデータの送受信をしてるから、あまり大きいのは送れない。』
この訓練のために離陸してからと言うもの、訓練に参加している戦闘機とは
曰く、来栖先生のF-14には特殊な装置があり、それを使用してある場所へアクセスすることでISコア・ネットワークに接続できる。それを使用して、無線をISコア・ネットワークに流すことで解放回線を擬似的に作っている、と言うことらしい。
もっとも、戦闘機の無線周波数に対応していればこんな面倒なことをしなくてもいいのだが、機体サイズの制約からレーゲン含め大半のISはそうはいかないので仕方が無い。
『帰ったら元の画質で渡すよ。』
「はっ!了解しました。」
ざっと見ただけでも見つかる粗があるのなら、間違いなく小さな修正点が多く存在しても不思議ではない。帰ったら復習だなと思って、訓練が行われている空域に視線を戻そうとしたときだった。
『あぁ!バカヤロウ!』
西本さんがハウリングを起こすほどの大きな声で叫んだ。
『どうした!?』
直ぐさま先生が無線で呼びかける。
『あ、いや、驚かせて悪い。ラブストーンの撃った弾が標的の本体部分にヒットして壊れちまった。』
『回収できそうか?』
『いやー、ちょっと危ないな・・・投棄する。』
直後、オレンジ色の物体が海面に向けて落下していく。
「先生、回収してきましょうか?」
戦闘機にとっては危険でも、ISにはどうってことない。私はこの優位性を使おうとしたのだが。
『待て。回収したとして、どうやって持ち帰る。量子変換するのか?』
またも言われて気が付く。持ち帰る手段がない。
そうだ、私はF-14の腹にくっついてここまで来た。流石にアレを抱えて戦闘機の腹にしがみつくのは無理だ。
ほどなく、オレンジ色のそれは海へと飲み込まれていった。
-*・A・*-
「参ったなぁ・・・。」
F-2のコックピットで、西本は頭を抱えていた。まだ、落合の訓練が終わっていないのだ。
今日、連れてきた愛宕と落合はまだまだ飛行時間が短く初心者といって差し支えない。そんな彼らを連れてきたのは、他でもない来栖にお手本を見せて貰うつもりでいたからだ。
〈まだ六割残ってぞ。〉
燃料は十二分にある。曳航機であり、最もアフターバーナーを多用した彼ですらそれだけ残っているのだから、他の機体はもっと余裕だろう。
しばし彼は考えた後、来栖に無線を飛ばす。
「スワロー、マーベリック、ACM訓練に切り換えても問題ない?」
『俺は良いけど、マーベリックは?』
『状況設定にもよる。』
特に否定される様子はなさそうだったので、西本は続ける。
「取り敢えず、うちの若手二人相手に二対一をして貰えたら。後は、ISの対処方法とか実践してくれたら嬉しいかな。」
『だ、そうだ。ラウラ、お前が決めろ。』
来栖は、敢えて自分では決めずラウラに尋ねる。それは、この訓練がラウラの要望で実行されたものであったからだ。
十数秒ほど沈黙が続いた後、ラウラが答えを出す。
『先生の戦闘スタイルは私も見てみたい。先生、やりましょう。』
「協力、感謝する。」
こうして、F-2対F-14の異機種間空戦訓練の実行が決定されたのだった。
2021/3/12 一部修正しました
2021/7/8 人名の誤植を修正しました