IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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おはようございます。最近、トップガンのサントラを買いました。
DANGER ZONEを聞きながら書くと創作が捗ります。


※誰も早くなるとは言ってない


第17話 ACM訓練

 愛宕と落合のF-2が、F-14の後方三,〇〇〇メートルの位置に陣取る。

 『Fight‘s ON!』

 無線で戦闘訓練開始の合図が送られてきた。

 来栖は、すかさず右に九〇度ロールを打つと、主翼正面に雲が発生するほどの水平旋回を行う。来栖は後方を見てF-2が追従してきていることを確認すると。

 「さて、どうくるかな。」

 コックピットの中で小さく呟いた。

 直後、左にロールを打って水平旋回に入る・・・振りをしてナイフエッジを行う。後方を確認すると、F-2はバンク角に騙されて旋回に入っていた。

 ラダーペダルを絶妙な足裁きで踏む。直後、機体は揚力を失いストンッと降下する。数秒にも満たない間に機体を水平に戻すと、間髪を入れず垂直上昇に入る。

 二,〇〇〇メートルほど上昇する間に機体を四五度ほどロールさせて、背面飛行に移る。

 〈頃合いか。〉

 F-2の位置を視認すると、既に背面なので反転する動作をカットしてスプリットSを打ち高度を下げる。

 それを終えると、予定通り前進方向上方にF-2がいた。

 来栖が機首を上げる。F-2は、それを見て散開する。

 来栖は迷うことなく、左へ行った方に狙いを定め操縦桿を引いた。

 六Gが発生するも構わず上昇。F-2が水平飛行でアフターバーナーを焚いているにもかかわらず、F-14はグングンと彼我の距離を詰める。

 F-2よりも大柄で重いF-14だが、エンジンはF-2のものより推力が高いものを、それも双発で搭載しているために推力には余裕があった。

 火器管制レーダーでF-2を捉える。親指で兵装選択をバルカンにセットした。

 「ガン!」

 無線の電源を入れて、短く告げる。

 『ラブストーン、撃墜だ。』

 直ぐさま西本が撃墜判定を下した。愛宕は、それに従って機体を空域から離脱させる。

 そのときには、来栖は五Gで左旋回に入っていた。

 間もなく、F-2が後方に入って来たので、少しずつGを強めていく。後ろとの距離を確かめながら、来栖はスロットルを段階的に緩める。

 旋回戦はエネルギー効率が悪く、現代において使用するパイロットは少ない。が、来栖には勝算があった。

 〈対気速度450(km/h)まで、二〇・・・一〇、五、今!〉

 機体を水平に戻し機首を上げる。

 刹那、F-2がF-14を追い越して前に飛び出す。

 「ガン!」

 すかさず攻撃を行ったことを伝える。少し間をいて、西本から判断が下された。

 『ガリュー、撃墜だ。』

 自機よりも運動性に優れる機体とのACM訓練で、しかも不利な状況からのスタートだったのにもかかわらず、来栖はものの二分と要さずに二機のF-2から撃墜判定を取ってみせた。

 

 

-*・落合・*-

 

 

 三,〇〇〇メートル先を飛ぶF-14を眺めながら、訓練開始の合図を待つ。

 『ガリュー、どう思う。』

 そのとき、愛宕から無線が入る。

 「どうって?」

 『F-14さ。どうにもオーラが感じられない。西本さんみたいなヤベーって感じがしないよな。』

 決して侮っているわけではないが、彼の言うとおりF-14は動作の一つ一つがトロいし、威圧されるようなオーラも感じられない。

 その飛び方を例えるというのなら、小さい孫を連れて散歩しているおじいちゃんというのが近いだろう。

 『Fight‘s ON!』

 開始の合図に合わせ火器管制レーダーをオンにする、その動作に先んじてF-14が右旋回に入る。我々はそれの追尾に入った。

 『ガリュー、距離キープ。』

 「ラジャー。」

 数秒ほどするとF-14が左へロールし始めたので、先読みして我々も同じ方向へロールを行う。

 F-2のロールレート*1は世界最強の戦闘機、F-15をも凌ぐ。ならば、F-14など朝飯前だ。

 〈もらった!〉

 レーダーに機影を捉えた。この角度なら逃げ道はない。撃墜の絶好のチャンスだと、私も愛宕も同時に左旋回へ入る。刹那、F-14が視界からもレーダーからも消えてなくなる。

 機体を水平に戻し、瞬間的にレーダーを捜索モードに切り換えF-14を探す。

 「げっ!」

 何と下にいた。急ぎ反転して降下に入ったのだが、これが拙かった。

 我々が背面で降下に入ったとき、F-14は機体の角度をほぼ水平に戻して上昇に入ろうとしていた。いくら運動性が優れていても、既に起動を終えている相手に追いつくのは無理だ。

 急いで再度反転行う我々の前で、F-14は悠々と上昇していく。

 『垂直上昇だ!追うぞ!』

 「おう!」

 絶好のポジションを逃すまいと、七.三Gをかけて一気に機体を引き起こす。

 『っち!レーダーロックできない!』

 F-2も人のことは言えないが、F-14は可変翼のせいで重たく推力重量比が悪かったと記憶している。ならば追いつけるはずと踏んでいたが、距離は急速に広まっていった。

 急いで追いつこうとして高Gで旋回したのは失敗だったか。

 「何の真似だ?」

 舐められているのか、F-14は垂直上昇を終えると背面飛行に入る。

 「この向きなら追える!」

 操縦桿を引き、上昇角を緩める。直後、F-14がスプリットSを打った。

 策に()まったことに気が付いたのは、相手の起動が終わった後だった。

 〈失速の手前の速度じゃないか!〉

 追いかけることに必死で、速度コントロールが疎かになっていた。

 「ブレイク!」

 我々は上昇を中断して散開する。

 「ラブストーン!行った!」

 『何!?』

 速い!速度は落ちるどころか、寧ろ加速している。アフターバーナーなしで、アフターバーナー全開のF-2に軽々と追いついてく。

 『ガリュー、サポート!』

 相手を攪乱しようと散開したのは拙かった。

 「今行っている!」

 速度が足らない。ここで無理に旋回を行えば失速の危険がある。

 『ラブストーン、撃墜だ。』

 追跡開始から撃墜までが早すぎる。先ほどまでの動きからは想像できない結果だ。

 だが、やられっぱなしでは終わることができない。F-14は俺の背後に回り込もうと急旋回を行っていた。俺の機体も速度を取り戻していたので、負けじと操縦桿を引く。

 「ッツ!何でこんな高いGを維持できるんだ!」

 八Gもかけているのに、F-14との距離は本当に少しずつしか縮まらない。

 少しして、F-14が旋回を止めた。

 俺の根気勝ちだ!

 目の前でF-14のテールがクッと沈み込む。上昇だと、自信を持って操縦桿を引いた。

 「!?」

 ところが、突如として視界からF-14の姿は掻き消えてしまう。

 「何!?」

 慌てて索敵を開始したが、それは手遅れであった。

 レーダーでロックオンされていることを知らせる警報が鳴る。

 『ガリュー、撃墜だ。』

 ハッとして後ろを見ると、F-14がピッタリと張り付いていた。ずっとトロくさい動きで飛んでいたF-14が、である。 

 「何なんだ、こいつは・・・。」

 得体の知れない恐怖に、俺は鳥肌が立った。

 

 

-*・西本・*-

 

 

 「Fight‘s ON!」

 ACM訓練開始の合図を送ると、西本は無線の送信のみを切る。

 「うわ、えげつな・・・。」

 開始直後、彼は感嘆の息を吐く。

 『あいつら、何してんだよ。』

 そこへ佐々木のぼやきが入って来たので、彼は無線を切り換えて応答する。

 「誘導されたんだろ、来栖に。」

 『どういう風にです?』

 「振り切るために右に急旋回、そこから左にロールを打つだろ?普通に考えればシザースだ。開始数秒でナイフエッジをしてくるなんて思わないだろ?」

 そんな簡単に引っ掛かるだろうかと、佐々木は『うーん』と唸る。

 「こっから見る分には分からないけど、後ろに付けば左旋回するように見えたはずだ。」

 垂直上昇を行う三機を見ながら、「不思議なことにな」と感慨深そうに西本は付け足した。

 『では、見失わせた後の降下は?』

 「あれは、反転ロールさせるためだろ?無駄に一回転したしな。待っときゃ、速度ロスを少なく上昇できたのに。」

 三機は一気に高高度へと戦場を移したので、西本も上昇を行う。

 安全に留意しながら上がると、F-2は散開していて、その片方がF-14に追い回されていた。

 明らかにスピード不足なF-2と、余裕綽々のF-14。

 『ガン!』

 間もなく、来栖が模擬攻撃を行ったことを無線で伝えてきた。

 「ラブストーン、撃墜だ。」

 少し辛めの判定を下そうとも思ったが、あれだけ機首を正確に向けられていては、西本はそう判断を下さざるを得ない。

 来栖は余韻に浸ることなく、もう一機の対処に向かって行く。

 二機は互いに後ろを取ろうと・・・いや、来栖にはその気がないように見えるが、グルグルと同じ場所を旋回し続けていた。

 『旋回戦・・F-14では太刀打ちできないと思うが・・・。』

 その様を、佐々木はつまらなそうにそう評価した。

 「いや、そいつはどうかな?」

 そして、それを意味ありげに西本が否定する。

 『そうでしょうか?』

 「そうだ。」

 自信を持って西本は肯定した。

 するとどうだろう。F-2はいつまで経ってもF-14の後ろを取ることができない。

 「見てろ、来栖が飛び出す。」

 膠着状態が続くと思われた刹那、彼の予言の通りF-14は先んじて旋回から抜け出す。

 後を追って優位な位置に付いたF-2。だが、それは謎の上昇を行って来栖に撃墜判定を取られた。

 『何やってんだ?』

 「失速したんだろ、来栖が。」

 さも当たり前のように、とんでもないことを西本は言った。

 『失速?戦闘中に?』

 「あぁ、失速だ。他に何がある?」

 見慣れてないから分からないだろうけどと、彼は外を見る。

 「旋回で速度を殺して飛び出す。で、機首を上げると揚力が足りないから上昇はせずに速度だけが落ちる。でもF-2はF-14より軽くて翼面荷重が低いから同じ速度でも上昇できる。オーバーシュートしたらエンジンパワーにものを言わせて加速。撃墜さ。」

 デタラメみたいな戦闘スタイルだ。佐々木は、何と言えば良いのか分からず絶句する。

 「敵機の数が明確な訓練用の戦法さ。もっとも、実戦形式なら四〇秒かそれ以下で始末してただろう。」

 しかし、佐々木は訓練用という言葉に引っかかりを覚えた。

 『手を抜いた、と言うことはないですよね?』

 「ないない。」

 西本が、それをすぐに否定する。

 「来栖は、戦闘に関しちゃ一切手を抜くことはないよ。というか、時間を掛けて勉強させてやってくれって、俺が頼んだんだ。」

 そう言って外に目を遣ると、右舷から愛宕と落合のF-2が、左舷からF-16が編隊を組んで向かって来ていた。

 「ラブストーン、ガリュー、燃料は?」

 『残り四割です。』

 『同じく。』

 西本は自分の燃料計に目を移す。

 「俺が一番少ないな。よし、ジョインアップ。間隔は・・・取り敢えず五メートル。」

 編隊が完成すると、西本は無線を飛ばした。

 「来栖!頼む。」

 

 

-*・A・*-

 

 

 西本の無線から五分後、

 F-2とF-16の六機編隊は、来栖のF-14を追うように飛行していた。。

 彼らはこれから、ISとの戦闘方法を教えて貰う。

 「相対距離一八km。」

 レーダーに表示される距離を来栖は無線で伝える。

 『駄目だ、映ってない。』

 嘆くように、西本が無線で答える。

 しかし、F-14のレーダーが超の付くハイスペックなだけなので、当然と言えば当然であった。

 「ま、ISは、三世代目とかは能力を近接格闘に振ってるから、五km以上の攻撃能力を有する機種は少ない。そこまでに見つけられれば何とかなる。」

 『なるほど。ところで、潜伏モードだっけ?それに入ってたらどうするんだ?』

 「ケースバイケースだな。動けるまでに時間が掛かるモードだと映りにくいけど、コアネットワークから切断しただけの状態なら簡単に見つかる。」

 つまり、攻撃をしようとしなければ遭遇すること自体はさしたる脅威ではないと言うことだ。

 そう会話をしている間にも距離は詰まっていき、一〇kmまでには全機がシュヴァルツェア・レーゲンの捕捉に成功する。

 「全機捕捉したから始めるぞ。まずは、管制に飛行中の航空機がいるか確認を取る。このとき、旋回をして時間を稼ぐ。離れすぎると、見つけるのに苦労するから注意して。」

 その手順は省略して、来栖はその後の話しに入る。

 「該当がないと分かったら、取り敢えず緊急周波数で呼びかける。例えば、【貴機に告ぐ。進路を妨害している、退避しろ】とか。」

 そう話している内に、距離は五kmにまで接近した。

 「返事がなかったら、全力でターン。ISの運動性は高いから、できるだけ早く進路を変えること。低空での背面飛行でもない限り、とにかく操縦桿を引く。そこから速度と相談しながら旋回方向を変えていく。レーゲン、ミサイル撃ってもいいか?炸薬は抜いてある。」

 『?構いません。』

 「OK。」

 距離を取った後、F-14はスプリットSを打ってISに接近する。

 「最初、進路正面の右もしく左のどちらかにISが来るようにする。ま、そこは(このみ)と状況によってかえること。ズレを決めたら、ラダーを踏んで機首だけをISの方に振る。進行方向はずらしたままだ。CCVの入った機体なら朝飯前の機動だろ?レーゲン、俺に向かって一発撃ってくれ。」

 『・・・よろしいのですか?』

 シュヴァルツェア・レーゲンの装備は砲戦パッケージのパンツァー・カノニーア。曳航標的の何倍もある目標なら、一〇〇%当てる自信がラウラにはあった。最も恐れているのは、コックピットに当たること。彼女はそれが不安材料だった。

 「いい、当たらないから。」

 『分かりました。撃ちます。』

 直後、F-14から一〇メートルも離れたところを一筋の光が駆け抜けた。

 『なにっ!?』

 あまりに盛大に外したため、ラウラは大仰に驚く。

 「ISのハイパーセンサーは画像センサーの高性能版みたいなものだから、何kmも離れたところで横遷移飛行されると機首の方向へ進んでいると判断してしまう。CCVを取り入れた機体なら、さらに攪乱できるはずだ。もっとも、駆け引きも重要だけどな。」

 直後、アフターバーナーを焚いてF-14が突っ込んでいく。

 「ISとやるときは必ず運動性を上げること。速度は一〇〇〇km/hぐらいがオススメだ。旋回性能よりよりロールレート。機動性は高速を維持できれば爆装でもしていない限り大丈夫だ。」

 速度は十分ではないように見えたが主翼が後退していき、トムキャットはほぼデルタ翼機のような見た目になる。ロールレートを上げるための策だ。

 「レーゲン、落とす気で撃ってこい。」

 『ですが!』

 「下手に撃たれるとかえって当たる。全力で撃て。」

 『・・・分かりました。』

 少しして複数の弾丸が飛来する。だが、どれもF-14を捉えることはない。

 「レーゲン、ミサイル撃つぞ!AIC用意しとけ!」

 F-14の機首が、誤差と見紛うほど僅かに振れる。

 「今、右のラダーを踏んで左方向に滑らしてるのを少しだけ緩めた。誘導無しの場合、ミサイルの射線はレーゲンの左にある。」

 そう言うと、F-14が右にロールして水平旋回に入った。

 「ここで右旋回に入ると、斜線が取れる!フォックス・ワン!」

 主翼を前進させながらF-14が旋回をする・・・その寸前に来栖の右手人差し指は操縦桿のトリガーを引いていた。

 その距離一km。その瞬間、ラウラの砲撃がピタリと止んだ。

 拙い。来栖は叫んだ。

 「ラウラ!AIC!」

 『え・・・わっ!?』

 随分と可愛らしい声も出るんだなと、一瞬前とは打って変わって来栖は呑気に考える。

 「ISといえども、見ていないものは避けられない。今のは、旋回で自機の腹を見せることでミサイルから視線を切らせる方法だ。ま、こちらも視線を切ることになるので、あまりオススメはしない。」

 そこでふと、ラウラの無線が沈黙していることに気が付く。

 「おーい、大丈夫か?」

 『・・・・・。』

 しばらく待っていたが返答がない。来栖がラウラを見ると、彼女はミサイルをAICで止めたまま、なぜかそこから動かない。

 「レーゲン?・・・ラウラ!」

 再度呼びかける、と。

 『え?・・・あぁ。大丈夫だ。』

 恐らく考え事をしていたのか、ラウラはいつも通りの口調で応答した。来栖は安心して、指示を出す。

 「それは廃棄してくれ。」

 『了解した。』

 そう言うと、ラウラはAICを解除。燃料の尽きたミサイルを落下させ、十分に離れるとレールカノンで粉砕した。

 

 

-*・ラウラ・*-

 

 

 『――に向かって一発撃ってくれ。』

 「・・・よろしいのですか?」

 来栖が正気でなくなったのかと疑って、彼女は一度確認を行う。

 『いい、当たらないから。』

 「分かりました。撃ちます。」

 しかし、そこまで言いきられては、ラウラも黙ってはいられなかった。

 ()()()()()迫ってくるトムキャットに狙いを定める。

 〈ただの的だ。なぜ、これにISが負ける?〉

 ラウラは、訓練により染み付いた動作でレールガンのロックオンシステムを入れる。

 システムがF-14をロックオンする。ラウラはすぐさま引き金を引いた。

 けれども弾丸は、F-14から一〇メートルも離れたところを駆け抜けた。

 「なにっ!?」

 指示されたのは一発。彼女はすぐにモードを模擬戦闘モードに切り替え、数回にわたり空撃ちを行う。当然というべきか、システムは当たり判定を出した。

 『ISのハイパーセンサーは――』

 〈そんなだまし方が!?〉

 来栖の話を聞いたラウラは、すぐにハイパーセンサーでF-14の機体をズームして見る。確かに方向舵を見ることができない。

 〈横滑り・・・。〉

 もっとも、来栖は左右のエンジン推力をずらしていたので、それを見ることができたとしても補正をかけるのは至難の技であった。

 『レーゲン、落とす気で撃ってこい。』

 「ですが!」

 『下手に撃たれるとかえって当たる。全力で撃て。』

 「・・・分かりました。」

 当たっても知らないと、腹を括ってレールカノンを撃つ。

 だが、いくら撃っても無残に海へと吸い込まれていくだけ。

 〈何故だ!何故当たらん!〉

 来栖の回避行動が余裕のないものであったなら、あるいは冷静を保てていたかもしれない。まるで不可視の壁が展開しているかのように、ラウラの攻撃はF-14から逸れる。

 〈これで!〉

 続けて放った弾も、また海へと吸い込まれた。

 無線は繋がっているので、来栖が戦闘機乗り達に説明している話は聞くことができる。

 だが今のラウラに、それを聞くほど心の余裕がない。

 『レーゲン、ミサイル撃つぞ!AIC用意しとけ!』

 重要な連絡だったが、彼女は照準の補正に手一杯で聞き逃していた。

 『――向に滑らしてるのを少しだ――射線はレーゲンの――クス・ワン!』

 〈っく、近い!〉

 この距離は、取り回しの悪いレールカノンは不得手だ。そう思った直後、F-14はラウラに腹を見せて旋回する。

 来栖は視線を切っている。それに、攻撃もこの向きならない。

 確実に仕留める。ラウラは、ターゲットロックを絞る。

 『ラウラ!AIC!』

 トリガーに指を掛ける、まさにその寸前。来栖から怒号に近い無線が飛んでくる。

 「え・・・わっ!?」

 そこで初めて、ラウラはアラームが鳴り何かが接近してきていることを知らせていることに気が付く。

 ISはハイパーセンサーのお陰で全方向を見ることができる。彼女がそちらに意識を向けると、円筒状の何かが飛んできていた。一瞬で、それがミサイルであることは分かった。

 避けることはできない。ラウラは反射でAICを展開。

 〈ま、間に合った・・・。〉

 すんでのところで、それを止めることに成功した。

 しばらくの間、彼女はこのミサイルがいつの間に撃たれたものなのか理解できず、ただ呆然とミサイルを見つめる。

 もし来栖の無線に反応が間に合わず直撃していたなら。考えただけでも、彼女は身の毛がよだつ思いだった。。

 『――ン?・・・ラウラ!』

 無線の声に、彼女の意識は現実へと引き戻される。聞こえてきたのは、補正がなければうるさくて仕方がないほどのジェットエンジンの轟音。

 「え?・・・あぁ。大丈夫だ。」

 来栖からの無線ということはすぐに分かったので、ラウラはそう返事をした。

 『それは廃棄してくれ。』

 「了解した。」

 炸薬抜きのミサイルということは事前に知らされていたので、ラウラはそれを放すと、最も撃ちやすい距離まで離れるのを待ってレールカノンで粉砕した。

*1
どのくらい速くロールできるか




2021/3/12 誤字を修正しました
2021/5/28 一部、状況描写を差し替えました
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