IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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お久しぶりです。ゴールデンウィーク、いかがお過ごしですか?
更新間隔が開いてしまいましたが、これからもちゃんと続けていくので応援よろしくお願いします!


第18話 帰投

 『あれってどういう姿勢制御すれば飛べるんですか?』

 訓練が終了し基地へと帰投しようとした矢先、来栖がその飛行を始めた。

 すかさず西本のもとへと、愛宕から質問が飛んでくる。

 「理論的に可能だとは思う・・・・・けどねぇ。」

 来栖の操縦技術を知っている彼ですら、それには驚きを隠せない。

 その飛行とは、低速で飛行するときに揚力を稼ぐために機首を上げるのを、機体が天地逆さまの状態でやっていることだ。

 勿論、来栖はおふざけでやっている訳ではない。ラウラを回収するためにやっている。

 そのような不思議な向きでやるのには理由がある。それは、機体が失速して降下したとしても、ISが上から近づいて来ているのであれば互いの距離は離れるので安全であるからだ。

 重装備のシュヴァルツェア・レーゲンでも追いつけるほどの低速で飛行するF-14。しかも、その挙動が乱れる様子はない。

 彼らが見守る先で、それらは驚くほどあっさりとドッキングを完了させる。

 『西本さん、アレを真似してみてもいいですか?』

 「止めろ。墜落する。」

 愛宕のそれを即座に制止した西本だが、来栖とラウラはいとも簡単に成功したため真似しようかと一瞬考えてはいた。だがすぐにその機動が、来栖とF-14だからこそ成功している飛行であると見抜いていた。

 「いいか、来栖の機動は真似するな。どうしてもしたければ、自分で飛行機を買ってから真似をしろ。」

 『は、はい!わかりました・・・。』

 西本が念を押して言うと、愛宕は素直にそれを聞き入れた。

 それからすぐ、西本は無線を切り換えて来栖を呼び出す。

 「おい、マーベリック!」

 『はい?』

 「若手が真似するから見えないところでやってくれ。」

 そして、来栖に苦情を入れる。

 『何を?』

 しかし、当の本人は無自覚でやっているので何に対しての苦情なのか全く見当がつかないようだ。

 「背面で機首上げ飛行とか、聞いたことないぞ!」

 『あぁ、それか。』

 西本が意図している機動のことを説明すると、来栖はすぐに理解した。

 『F-2なら余裕だろ。』

 なぜだか自分の操縦が下手くそと言われた気がして、西本は「どういうことだ?」と聞き返す。

 『どうって、そりゃCCV技術の入った戦闘機だろ?F-14にできる機動は大方できるだろ。』

 勿論、来栖は純粋にそう考えており、西本が思っているような意図はない。

 「いや、確かにそうだが・・・・・ま、とにかく、お前の飛行は真似すると危険な種目が多いから次やることがあったら気を付けてくれ。頼むぞ。」

 西本は少しバツが悪そうに告げたが、それは最も真似したがっていたのが彼自身であり、彼がそうなりたくないという本音の裏返しでもあった。

 

 

-*・A・*-

 

 

 「では、これで終わります。」

 時刻は15時半。訓練から帰投した来栖達はデブリーフィング*1を終えた。

 「ミスター来栖!」

 するとすぐに、同じくデブリーフィングに参加していた、アメリカ空軍の司令官であるカリアンが来栖のもとへやってきた。

 「私はいつでもOKだが、君のほうはどうだい?」

 若干前のめりの姿勢で、カリアンは来栖へ予定を尋ねる。

 彼は耐Gスーツを着たままにしており、乗る気満々なことは聞くまでもないことだった。

 「ええ、行きましょう。長くても三〇分ぐらいですが・・・いいですか?」

 「いいさ、飛んで貰えるだけで十分だ。」

 そういいながら、彼は親指を立てる。

 「では、行きましょう。」

 来栖が軽く笑う。

 それは、カリアンがF-14へかなりのこだわりを持っていたから出たものだった。

 来栖は当初、カリアンはF-14へ興味がある程度だと思って軽い気持ちで約束をした。

 しかし、彼には並々ならぬ情熱があった。そしてそれは、来栖が心の底へと押し込んだある想いと共感する。

 だから時間がなくとも、来栖はカリアンを乗せて飛ぶつもりでいたのであった。

 

 それから二〇分後。来栖とカリアンを乗せたF-14は、空港から一〇kmほどの洋上を飛行していた。

 「次は、バーティカルクライムロールをしてくれないか?」

 「了解。」

 来栖は、カリアンの望む機動を可能な限り再現していた。

 スロットルはアフターバーナー全開。重力に逆らい、F-14は加速しながら垂直に上昇していく

 「イィーハァ!最高だ!」

 機動の最中に、カリアンが奇声を発する。その姿は、まるで新しい玩具を与えられた子供のようであった。

 「俺は昔から戦闘機が好きで、特に艦載機には強い憧れがあった。F-4(ファントム)も好きだが、トムキャットを航空祭で見たときは感動したよ。あれに乗りたいって、そう思った。」

 垂直上昇が終わると、カリアンが急に過去のことを語り始めた。

 「君のコールサインの元になった映画が公開されたのは、俺が高校生のときだった。スクリーンの向こう側のトムキャットに興奮したのは今でも思い出せる。進路選択が始まると、俺は迷わず海軍を志望したよ。」

 それまでと打って変わってカリアンは声の調子を落とし、ため息をついた。

 「・・・ただ、映画公開のタイミングが悪かった。海軍のパイロットの倍率が、確実に突破できる保証のないそれになってたんだ。けど、戦闘機に乗りたいという夢は捨てられなくて空軍に入った。サイズが似ているF-15(イーグル)があったからだ。」

 「それで、乗れたんですか?」

 恐る恐る来栖が尋ねると、意外な答えが返ってきた。

 「何回か乗ったよ。あれもよかったけど、F-16(ファルコン)の運動性に惚れてな。以来ずっとそっちだな。」

 来栖からカリアンの顔は見えないが、少なくともそれは強がりでないようだった。

 「F-14を操縦してみたいとは?」

 「したくないというと嘘になるが・・・発着艦なしでF-14を操縦したくないんだ。つまらないこだわりだと笑ってくれ。」

 カリアンは自身でつまらないこだわりと言ったが、来栖には妙に理解できる話であった。

 ただ、たとえ操縦したかったとしても、F-14は複座ではあるがRIO席には操縦系統がないので叶わぬ話であるが。

 「そろそろ時間じゃないのか?」

 「ええ・・・そうですね。」

 カリアンの方からそれを切り出したが、来栖は引き返そうとしない。

 不審に思ったカリアンが、来栖に声をかける。

 「戻らないのか?」

 「一つお聞きしたいことがあります。」

 その瞬間、意を決したような声で来栖が切り出した。

 「ジョーイ・マッケンジーをご存知ですか?」

 「ああ、知ってるさ。当時はアメリカで同じ部隊にいた。」

 その男の名前を出した途端、カリアンの機嫌が悪くなった。

 これは聞くべきではない話しだったかと、来栖の手に汗が滲む。ところが

 「あいつのことは思い出したくもない。とにかく自己顕示欲が強かくて、出撃のときにはお守りだとか言って自分の乗る機体には部隊章の上に天使だか妖精だかわからん絵を描いていた。しかもそれがカラフルだから、敵さんからしてみれば挑発されていると思う訳だ。」

 「え・・・そうなんですか?」

 あまりにカリアンの口調がきついため、来栖は少しばかり気圧される。

 「あぁ。でも、機体の塗装なんてまだいい方だ。臨機応変と言いながらの作戦無視、テロリストがいれば非戦闘員のいる地域に爆撃。悪行を上げていけばキリがない。だが、政治家や役人さんらからしてみれば使い勝手のいいヤツだっただろうな。お咎めどころか勲章を幾つも貰っていた。俺たちからしてみれば独断専行ばかりする扱いの難しいヤツでしかないのに、だ。作戦に奴がいたら、みんな距離を置いて飛んでたよ。」

 来栖が噂に聞いていた『ジョーイ・マッケンジー』という男は誇り気高き紳士であった。だが、それはプロパガンダであったようで、後席に座るカリアンはジョーイのことを思い出して腹を立てている様子だ。

 「しかも、なまじ腕が立つばっかりに誰も口出しできなかった。私もな。」

 「・・・。」

 数十秒ほど、コックピットをエンジンと機械の動作音が満たす。

 「だから適切でないのは分かっているが、ヤツが墜とされたって聞いたときは嬉しかった。あの問題児の面倒を見なくて済むって。」

 怒りが混じっていた声が、いつの間にか安堵した声色に変化していた。

 「確か、君がヤツを墜としたんだよな?」

 突如として、話しがジョーイから来栖のことへと切り替わる。

 「えぇ、記録上は・・・。」

 「なら、一つだけ苦情を言わせて貰うぞ。」

 再び、カリアンの口調が厳しいものになった。

 「よくもF-16を海に墜としてくれたな!まだ使う計画の機体だったんだぞ!」

 「え、いや・・・すいませんでした。」

 寧ろ戦闘を吹っ掛けられた側なのだが、あまりにカリアンの剣幕が凄かったため反射的に来栖は謝罪をしてしまう。

 「おぉい、冗談だよ。君は何も悪くない。寧ろ、こっちが謝らないといけないぐらいだ。」

 まさかそこまで真に受けるとは思っていなかったのか、カリアンは慌てた様子でそれがジョークであったことを明かした。

 「それにしても、よく丸腰でヤツと互角以上に渡り合えたな。普通なら瞬殺だぞ。」

 「どうですかね、手を抜いていたのかもしれ――」

 「それはない。」

 来栖が言い終わるのを待たず、カリアンがそれを否定する。

 「回収した記録映像を見たんだが、ヤツはよほど追い込まれたときにしか使わなかった動きをしていた。間違いなく全力だ。」

 来栖を褒め称えるように、彼は力強く言い切った。

 「さ、ヤツの話はこれでお終いにしよう。時間がないんだろ?戻ろう。」

 「そうですね、帰投します。」

 そう返すと、来栖はサービスと言わんばかりにスプリットSを打って基地の方角へと進路を取った。

 

 

 

 「よし、じゃあ帰るぞ。」

 「はい!。」

 一七時、F-14は駐機場から滑走路へとタキシングを開始する。来栖とラウラは、見送りをしてくれているパロットと整備士に手を振った。

 「こちらペルシャ。離陸の許可を求める。」

 『三沢管制。ペルシャ、離陸を許可する。』

 「了解。」

 滑走路へと進入したF-14は、滑走を開始すると瞬く間に飛び上がる。そして、降着装置を収納しながら機体を左右にロールさせて主翼でバイバイをすると、ハイレートクライムで三沢基地を後にした。

 

 

-*・A・*-

 

 

 三沢を飛び立ってから一時間ほど。着陸に向け高度を下げていたときのことだった。

 「あちゃー・・・夕立か。」

 レーダーの反応からそれとなく予測してはいたが、IS学園の周辺には積乱雲が立ち込めている。視界は悪そうだが、幸いにも落雷こそ見受けられないので着陸はできそうだった。

 「森田、いるか?」

 『・・・。』

 無線機で呼びかけてみたものの反応がない。

 『ほい、お待ち。』

 気づいていないのかなと思い、再度呼びかけようとしたとき森田が応答した。

 「滑走路の状態どうなってる。」

 『ん?ノイズで聞こえなかった。もう一回頼む。』

 「滑走路の状態。」

 今度はゆっくりと、一音ずつしっかりと発音する。

 『ああ、滑走路ね。待ってろ・・・水が浮いてるな。下りるか?』

 「降水量は基準値内だろ?」

 『んー・・・余裕だな。準備してくる。終わったら連絡するよ。』

 「了解。待ってる。」

 

 それから待つこと一〇分。

 『準備できたぞ。』

 「ありがとう。」

 報告を受けると、無線を切りインターホンのスイッチを入れる。

 「ラウラ、起きてくれ。ラウラ!」

 そして、後席で寝息を立てていたラウラを来栖は起こそうとした。だが、熟睡していて目覚める気配がない。

 そこで来栖は機体を一瞬だけ急降下させて〇Gにし、操縦桿を軽く引いて衝撃を発生させる。

 強いGを掛けないのは、ラウラが首などを捻挫することを危惧したから。

 「ん・・・。」

 朝、お日様の光で目覚めるよりも自然な目覚め。ラウラは軽く伸びをする。彼女の身長なら、その状態でもキャノピーまでの高さには十分な余裕があった。

 「どの辺りですか?」

 外を見たラウラが、来栖にそれを尋ねる。

 「もうすぐ着陸だ。身体の固定を確認しろ。」

 「了解です。先生の操縦ですから、大船に乗ったつもりでいます。」

 信頼を寄せてくれているのは嬉しいことだったが、ラウラをわざわざ起こしたのには理由があった。

 「そいつはどうかな?外を見てくれ。」

 疑問に思いながらも、彼女は言われた通りに外を見る。

 「雨・・・ですか。」

 「これだけ降ってるとスリップが怖いからワイヤーで減速する。衝撃がかかるから、準備しておいてくれ。」

 高度が下がり、そして雨の中へと突入する。

 「先生!何も見えないのですが、大丈夫ですか!?」

 「大船に乗ったつもりでいるんだろ?」

 前言を撤回するわけにもいかず、ラウラは「うっ」と声を漏らす。

 エンジンの音と機体が切り裂く空気の音は、雨粒の叩きつける音によりほとんど聞こえなくなる。

 来栖はちゃんとIS学園に向けて飛んでいるのか。まさか迷子になってはいないだろうか。そんな不安がラウラの脳裏に浮かび始めたとき。

 「わーーツ!?」

 進行方向右側に、突如として現れた崖に驚いてラウラが驚愕して大声を出した。

 もっとも、来栖はそれを見越してインターホンのスイッチを切っていたので、その声でビックリすることはない。

 ゆっくりと、まるで水温を足で計るかのようにF-14の主脚が接地する。

 それから五秒ほどかけて前脚が接地する。

 少しだけスピードブレーキが開かれ、二人の体に少しだけ前方方向への力が働く。

 その時、ラウラは滑走路の格納庫から三〇〇メートル付近に立てられている標識を通過したことが見えた。しかし、来栖がそれに気がついている様子はない。

 このままでは格納庫に突っ込むと、そう思った刹那。体が投げ出されるのではないかと言うほどの衝撃がかかる。

 ラウラは訳が分からず外を見る。機体は何事もなく滑走路の上に停止していた。

 その衝撃の正体は、トムキャットのアレスティングフックが滑走路に張られたアレスティングワイヤーを捉えた衝撃だ。

 速度がゼロになると、機体はワイヤーに引っ張られて僅かにバックする。

 バックが止まると来栖はフックを上げてワイヤーを外し、スロットルを少し開け格納庫に向けて前進する。

 「ラウラ、大丈夫だったか?」

 「今の衝撃はなんだ?機体は大丈夫なのか!?」

 今ひとつ状況が飲み込めず、ラウラは少しばかり興奮状態になっていた。

 「だから言っただろ?ワイヤーで減速するって。」

 「ワイヤー?・・・ああ、そういうことか。」

 ようやくワイヤーの意味が分かったラウラは、今度はなぜそれが理解できないのか首を傾げる。

 その間にもF-14は格納庫へと進み、主翼を目一杯畳んだ状態でも左右に余裕のない格納庫の入口扉を通り抜け、垂直尾翼を外へ出した状態で停止。エンジンもストップした。

 「全部入れないのか?」

 「冬なら入れるけど、夏は室内がサウナになるから基本は外に置くな。まあ、今日は雨だから頭だけ入れた。それに、頭の向きが逆だから、全部入れると出すのが面倒になる。」

 そう話をしているとキャノピーが開き、森田が上がってきた。

 「お疲れ。」

 「ただ今。」

 それを交わした直後、森田はF-14のシステムが起動していることに気が付く。

 「ん?電源繋ごうか?」

 「いや、いい。すぐ終わるから。」

 来栖は右のコンソールパネルを操作する。少しして、メモリーカードをセンターモニター下から取り出した。

 「ラウラ、今日の動画だ。」

 そして、それを彼女に手渡した。

 「は!ありがとうございます!」

 「よっしゃ。明日も学校だから、早く帰って休め。」

 「お気遣いありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます。」

 コックピットから降りると、ラウラは大事そうにメモリーカードをポケットにしまい格納庫から出て行った。

 「おーおー、元気だこと。・・・さて、マーベリック。何か気になるところはあるか?」

 「主翼の閉じる動作が気持ち遅い気がしたから見といてくれ。」

 「主翼の閉じる動作ね。了解。」

 メモを取りながら「他には?」と森田は尋ねる。

 「今のところないな。」

 「はいよ。諏訪(すわ)!セーフティー刺すから手伝って!」

 「今行きます!」

 その様子を尻目に、来栖は着替えをするために更衣室へと向かって行った。

*1
飛行後に行う報告会

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