IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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三週間ぶりの更新です。随分と暑くなりましたが、いかがお過ごしですか?
『ただの・A・カカシです』は、何やかんや元気にしております。

それでは一九話をお楽しみ下さい。


第19話 もうすぐ夏休み

 訓練が行われた日の夜、西本と佐々木は飲みに出ていた。

 「うちの若手は大丈夫か?ミリタリーパワーまでしか使ってない戦闘機に手も足も出なかったわけだが。」

 その席では、極力訓練の話題は触れないようにしていたのだが、やはりと言うべきか酒が入ってくると訓練のことへと話しは変わっていく。

 「まだ経験が足りんだけさ。あと四~五年もすれば、俺らでは手も足も出ないレベルに育つ。」

 西本は少し寂しそうに、それでいてどこか嬉しそうに返す。それから、小ぶりな鶏の唐揚げを二つ口に放り込み、軽く咀嚼するとビールで流し込んだ。

 「しかし、トムキャットはアメリカじゃ退役した戦闘機だ。」

 「維持費が高すぎただけで、今でも十分通用する。何度も言うけど、今日だけ見ればあいつらがダメダメに見えることは確かだが、相手は来栖だからな。正直、参考記録にもならん。」

 来栖の名前は、さほど有名ではない。ただ、一度彼のことを認知すると頭から離れなくなるだけ。西本の所属する飛行隊の指令はその典型だ。

 故に、来栖の実績をよく知らない佐々木は西本の言葉を信用しきれないようで、うさんくさそうに彼の顔を見たあとグラスの焼酎をあおる。

 「そんなに腕の立つパイロットには見えなかったけどな。」

 敢えて逆なでするように西本へ言い返す・・・と。

 「ああ、同感だ。」

 言い返されるどころか、拍子抜けするほどにあっさりと西本はそれを認めた。

 「操縦テクニックだけならもっと上が沢山いる。俺が思うに、来栖の真骨頂は相手を自分のリズムに引きずり込むことだ。それも、相手に感づかせることなく、な。だから今日みたいに、自機よりも運動性に優れる機種を手玉に取れるわけだ。」

 持っていたジョッキを机の上に置くと、西本は後ろに置いていたカバンの中からDVDプレイヤーを取り出してセットする。

 道理で今日はカバンが大きいわけだと、佐々木は納得した。

 「いいものを見せてやる。」

 起動が完了し、動画の再生が始まる。そこに映し出されたのは――

 「AV-8(ハリアー)か?」

 「そうだ。」

 画面を指差しながら「後続のF-2には俺が乗っている」と付け加える。

 「これは、・・・いつだ?」

 記憶にないと、佐々木は首をかしげる。

 「俺がF-2に乗って3年目?のときくらいのコープノース・グアム。参加するしない以前に、お前はこのときまだ訓練生だったろ。」

 ほどなくして、F-2とハリアーはドッグファイトを開始した。

 「よく見とけ、二〇秒で俺がやられるから。」

 負けたんかいと思いながらも、佐々木は黙って動画を見る。

 素早い機動で、難なくハリアーを追跡するF-2。そこには、全く負ける要素が見当たらない。

 本当は勝ったことを自慢するつもりなのだろうと、そう思った瞬間。ハリアーがまるで上から引っ張られているかのように上昇していく。

 〈これは・・・あの機動か!〉

 噂には聞いたことがあったが実際にやっている動画を見るのは初めてだったため、佐々木は内心興奮する。

 「ここでロックオンされて訓練終了(ノック・イット・オフ)になった。分かってたんだけど、手の打ちようがなかったなぁ。」

 そう話す西本は少し笑っていたが、それは笑うしかないほど相手が強かった証拠だ。

 「このあとF-15(イーグル)なんだけど・・・これは違う人だな。」

 西本は、早送りで目的の動画を探す。

 「あった、これだ。」

 「・・・あれ?」

 そこにはハリアーとF-15が映っていたのだが、先ほどとは構図が異なっていたため佐々木は首を傾げる。

 「さっきは、ハリアーは追われている場面からだったよな?」

 「おうとも。」

 「なんで、このイーグルだけはハリアーに追われているんだ?」

 チラリと映ったF-2もF-15も、全て敵役を追っていた。だが、このF-15だけはハリアーに追われている。

 「それはハリアーのパイロットにでも聞いてくれ。まあ、見てろ。そんなことはどうでもいいと思えることが飛び出すから。」

 しかし、佐々木は信用していなかった。それは、普段から西本が針小棒大に話しをするからである。

 そうこうしている内に訓練が始まる。

 真っ先にF-15が動く。一瞬機首を上げたかと思うと、直ぐさまスプリットSを打った。ハリアーも反応はしたが、F-15の一瞬の機首上げに釣られた上に、速度に付いていくことができず離脱する。

 カメラワークが付いていけなかったのか、映像がF-15からのものへと切り替わった。

 通常ならすぐにでも追尾に入る場面なのだが、F-15はそれを追尾せず明後日の方向へと飛んでいく。

 そしてある点で急激な上昇を行う。数秒後、ハリアーが映り込んだ。

 「ん?これ、違う機体じゃないか?」

 頭の中で機動を再現していた佐々木は、それがあり得ないということに気が付いて一時停止をかけた。

 「ご名答。違う個体だ。」

 「じゃあ、これは誤認か。」

 「いや、二機いたんだ。来栖の時だけ事前の予告無しに、な。」

 そんな訓練があってたまるか。佐々木は眉間に皺を寄せる。

 「一応、敵機数不明の設定でやってたから問題はないんだけど、このハリアー戦闘が始まる寸前にコソッと飛来したんだよ。」

 「なぜそんなことを」と、佐々木は眉間に皺を寄せつつ西本へ尋ねる。

 「仲間内の噂じゃ、敵役のプライドだって話しだ。何せ来栖のやつ、唯一無敗で訓練を消化していたからな。何としてでも勝ちたかったから、格闘戦に限定してハリアーで捻ろうと思っていたらしい。」

 サラッと話したが、佐々木には少し誇張が行われているように感じられてならない。

 「負けなし?それは流石に嘘だろ。」

 「冗談で言うなら全勝って言うよ。こればっかりは事実だ。」

 「・・・分かった、信じよう。」

 柄にもなく西本の表情が真剣その物だったので、佐々木は渋々ではあったがそれを認めることにした。

 ハリアーに接近するところで止まっていた動画が、西本の操作で再生される。

 直後、F-15が反転したため映像内の天地が逆さまになる。その状態で、F-15はハリアーにロックオンを掛けた。

 「これで、撃墜。」

 二秒ほど捉えた後、F-15は降下して離脱してく。

 それからしばらくは、空と海が交互に映る。やがて、映像がカメラ機からのものへと戻ると、ハリアーがまず映った。

 そこから数秒と経たず、高速を維持したF-15がハリアーとすれ違う。

 間髪を入れずハリアーが急旋回する。カメラワークが少し遅れを取った。

 間もなく映ったのは、互いに良い位置を取ろうとシザースにもつれ込んだF-15とハリアーの姿だった。

 三〇秒ほどそれが続いたとき、耐えかねたハリアーがオーバーシュートする。F-15は、何の躊躇いもなく後ろを取った。

 〈これじゃ、あの上昇をされて負けたな。〉

 佐々木の脳裏に、西本を負かしたときにハリアーが取った機動がフラッシュバックのように再生される。こんな単純にやられるようでは、やはり無敗というのは嘘だ。

 だがその考えは、その後のF-15の常軌を逸する機動であっさりと裏切られた。

 「こ、コブラ!?」

 高度を変えないまま機首だけを大きく持ち上げる特異な飛行。佐々木は開いた口がふさがらない。

 「俺の知る限り、唯一コブラを実戦で使う方法だろうな。ま、対ハリアーかつ一対一に限りだけどよ。」

 厳密に言えばコブラに限りなく近い機動であったのだが、空中戦で用いていることを考慮すれば十分にそれと呼べる機動であった。

 来栖のF-15が通常飛行に戻ったところで映像内の時間は少しスキップして、次の戦闘の動画が始まったが、西本はそれを停止してプレイヤーの電源を落としカバンにしまう。

 「おい、佐々木。」

 それから、まだ目をパチクリさせている彼に現実へ戻ってこいと呼びかけた。

 「あ・・・悪い。」

 「分かったろ、来栖の例外さが。」

 「あぁ、嫌ってほどに。確かに、今日のは参考記録にもならん。認めるよ。」

 先ほどまでとは、佐々木の態度は打って変わって非常に真面目なものとなっていた。

 「確か、IS学園を一人で守ってるんだっけ?納得がいったよ。間違いなく、世界で五本の指に入るファイターパイロットだ。」

 西本はそれを聞いていて、なぜか自分のことのように嬉しくなった。

 「よっしゃ、今日は飲むぞ!佐々木、奢ってやる。」

 「おい、太っ腹だな。よし、じゃ頼むぞ。」

 翌日は二人ともデスクワークだったため深夜まで話し続けたが、寝不足で睡魔と格闘しながら仕事をする羽目になったのは自業自得だろう。

 

 

-*・A・*-

 

 

 「イェーイ!夏休み!」

 七月末の、ある日の昼下がり。詰所のドアをバーンっと開いて現れた優里香が中に向けてそう言った。

 ただ、それはある程度の頻度であることなので、中にいた三人で反応を示すものはいない。

 勿論、来栖も同様で、机に置いたパソコンに向かい黙々と作業を続けている。

 「ねえ、お父さん!今年はどれくらい休めるの?」

 「んー?」

 それでようやく作業の手を止めると、後ろのカレンダーを見る。

 「少し長いから・・・えっとー、合計で一五日くらいかな。」

 「了解!・・・長くない!?」

 威勢のよい声を出したのは、よく考えず反射で返事をしたため。少しして、例年になく長い休みの予定を理解したとき優里香は目を丸くして驚いた。

 「何で!何かあったの!?」

 「IRAN。オーバーホールだ。四年に一度受けている。」

 そんな娘の姿を見て、来栖は少し呆れた表情をした。

 「そうなんだ。よかった〜。」

 ホッとした様子で、彼女は胸をなでおろす。

 厳密にいうと、来栖たちが自衛隊の規則を流用して戦闘機の運用を行なっているだけで、四年に一度受ける必要があるわけではない。というか、F-14は実質来栖の専用機と化しているので、軍などで運用されているそれと比べると飛行時間が少ない。そういう側面からいうと、八年スパンでの整備でも十分すぎるほどだ。

 「今年は八機か・・・。多いな。」

 送られてきたメールを見るため、再度パソコンの画面へと目を落とした来栖は少し口を尖らせる。

 「相当使ったんだろ。あれだけ事件があったんだから。」

 油圧シリンダーの検品作業をしながら、柳原が一学期を振り返った。

 「確かにそれは大きいですね。」

 来栖は、机の上に広げていた書類を集めると、トントンと(ふち)を軽く机に当てて整えパンチで穴を開けてファイルに挟み込んだ。

 「さて、パレット付けてくるか。」

 来栖は、机にドンッと手をついて立ち上がると、椅子にかけていた作業着を着て格納庫へと向かう。優里香は、その後についていく。

 「――右・・・もう一回、右・・・OK。」

 格納庫では、エンジンの換装作業が行われているところだった。

 「松戸!下で作業してもいいか?」

 エンジン取り付けの指揮を執っている松戸に、来栖が許可を求める。

 「あ、いっすよ!どうぞ!」

 来栖は右手を挙げて了解の合図をすると、機体の前を横切って格納庫の一角に設けている物置き場に進む。

 ホコリ除けにかけていたブルーシートを剥がして畳み、そのそばに止めてある電動フォークリフトの電源を入れた。

 「優里香、危ないから離れとけ。」

 「ほーい!」

 銀の福音事件の時とは違い、誰も乗っていないISを運ぶため固定用のパレットは大きい。来栖はスムーズな動作でIS固定用のパレットが乗せられている水色のプラスチックパレットを持ち上げ、事前にF-14の右舷に置いておいた移動式ジャッキの上へそれを置く。今回は検査に出す機数が多く二機同時に輸送するので、もう一度それを行う。

 運び終えると元あった場所にフォークリフトを止め、今度は手押しの移動式ジャッキを押してエアインテークの前を横切り機体の下に潜る。

 先に後部へパレットの取り付けに入る。大まかな位置を決めるとタイヤをロック。徐々にジャッキアップしながら、位置をネジで微調整していく。数分かけて位置をピッタリと合わせると、電動ドライバーを改造した工具で機体にパレットを固定する。

 この作業は、春休みと夏休みにやって来る。どちらも学生が学園にいない長期休暇で、かつメーカーが休んでいない時期だ。

 一つ目を付け終えると、休むことなく二つ目の取り付け作業に入る。

 「ねえ、ISの整備って学園でもできるよね?」

 そのとき、作業を見守っていた優里香が唐突にそう口にする。

 「出す必要ってあるの?」

 IS学園には整備課があり、操縦者課程の彼女は日常的にその生徒たちにISの整備・調整をしてもらっているので、そう考えるのはごく自然なこと。

 来栖が作業の手を止め、工具を置いた。

 「昔、それをやろうとしたことはあった。」

 意外な答えに優里香が「えっ?」と目を丸くするが、来栖はそれを気にしない。

 「結論から言うと失敗だった。なんでだと思う?」

 「え?えっと・・・。」

 唐突に質問されて、優里香は目を泳がせる。

 「出張費が高かったから・・・とか?」

 「戦闘機(こいつ)の燃料代に比べれば微々たるものだな。」

 その答えに来栖は鼻で笑う。

 一方で『そんなにお金がかかるのか』と、彼女の関心は少しだけトムキャットの方へ流れた。

 「ここの設備じゃできない。」

 「整備課の生徒(ひと)は扱いに苦労しているのに?」

 この時、優里香は「使う側の技術がないからだ」と勘違いしていた。来栖はそんなことを言っていないのだが。

 「使い辛いだろうよ。プロでもまともに使いこなせなかったんだから。」

 この意味が分かるかと来栖が尋ねると、優里香は首を横に振ったので彼は話を続ける。

 「IS学園はいろんな国から専用機、要は試作機が集まってくるだろ?その中には、下手をすればネジの規格すら異なる機体もいて、それぞれに合わせた道具が必要になる。わかるよな?IS、特に専用機なんかは調整の装置だけで教室を一つ占領するくらいのスペースをとる。現状、日常メンテナンスでも手一杯だから、整備室にオーバーホールする場所まで割けないんだ。それに、メーカーも機密情報は触られたくないだろうしな。」

 そうなんだと、優里香は何も言わず数度頷く。それを見て、来栖は再び工具を手にして作業を再開するのだった。

 

 

 

 月曜日の一〇時。来栖はパイロットスーツに身を包み、離陸前の点検作業を行っていた。

 「そう言えば、この姿は初めて見たかも。」

 その後ろを着いて歩く優里香は、IS輸送のために前脚の辺りからアレスティングフックの辺りまでを覆う大型のカバーを装着したトムキャットを珍しそうに眺める。

 「IMIみたいでしょ。」

 そこへ突如として、エアインテークの中から声が聞こえてきた。

 「アイ・・・エムアイ?」

 優里香はエアインテークを覗き込み、タービンブレードのチェックをしている松戸に聞き返した。

 「アメリカ空軍向けの邀撃(ようげき)型のF-14だよ。」

 「そんなのあるのか?」

 松戸の説明に、今度は来栖が尋ねる。

 「計画だけッすね。ただ、モックアップまでは作ったみたいです。」

 資金力が違うなといった感じで、来栖が感慨深そうに首を縦に振った。

 「ブレードよし、工具置き忘れなし。チェック完了です。」

 「了解。じゃあ、始めようか。」

 「はーい!」

 来栖と優里香はコックピットへと上がる。

 「ん~、久しぶり!」

 しばらくの間、父親の操縦する飛行機に乗っていなかったので、まだエンジンも掛かっていないのに優里香のテンションは随分と高かった。

 「右回すよ。」

来栖は、地対空ミサイルなどから狙われるリスクをなるたけ小さくするべく最短距離で飛ぶ必要がある。

 だが多くの学校が夏休みに入っていて旅行客が多くなるこの時期、空も旅客機の増発で賑わっているため、間を縫うように飛行しなければならない。無論、空中衝突の危険があるほど接近することはないが、旅客機のパイロットを驚かせてはいけないので通常時の何倍も気を遣う。

 忙しいだけではない作業が、この夏もまたやってきた。




2019/7/21
作品中の日付を一部修正しました

2022/10/5
作中の曜日を修正しました
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