IS学園の猫ちゃん 作:只の・A・カカシです
f^_^;
続々とウォーターワールドから去って行く来場者。折角の楽しみを台無しにされて不満な人、恐怖で泣く子ども、アドレナリンにより興奮状態の人。
「ビックリしたな。」
そしてこれは、その中の二人組の会話。
彼らは自分達の車へと乗り込み、渋滞する前に駐車場からの脱出を果たしていた。
「あぁ、全くだ。」
運転をしている方の青年の男は、助手席の友達の話に同感する。
「それにしてもISの戦闘を生で見るの初めてだぜ。」
「あぁ、俺もだよ。代表候補生同士の模擬戦ですらチケット取れねえもんなぁ。」
もっと席を用意してくれたら良いのにと、二人は同時にぼやく。
「それより俺、動画撮ったぜ!」
ポケットの中を探りながら、助手席の彼は得意そうに言った。
「マジで?!スクープじゃねえか!ネットにあげろよ!」
「おう、今からやる。」
スマホをポケットより取り出した彼は、ホームボタンを押して画面をつけようとした・・・が、画面はつく気配がない。
「あれ?電池切れか?」
「(充電)ケーブルあるから使えよ。」
運転手は充電器をメータ上のダッシュボードから取り出して手渡す。
「おう、借りるぜ。」
助手席の男はそれを受け取ると、充電できるようにセットして端子をスマホに挿した。
「あれ?充電しないな?」
ところまではよかったが、どういうわけか充電が開始されない。
「えー?ケーブル切れたか?この前、買ったばっかりなんだけど。」
「そんなわけないだろ。俺のでやってみて。」
そう言って運転手は、自身のスマホを渡す。それを受け取った助手席の男は、自分のスマホからケーブルを差し替える。やはり充電は始まらなかった。
しかし、それは彼らだけに限った話しではなかった。
「お父さん、カメラどこ入れた?」
「カバンの中に入ってないか?」
「あぁ、あったあった。・・・何も撮れてないよ?」
「え?
「何にも撮れてないよ!」
-*・A・*-
額ににじんだ汗をハンカチで軽くぬぐう。
「あちい・・・。」
ブルーティアーズと甲龍の戦闘の影響により空調が損傷したため、ウォーターワールドは屋根付きの構造がアダとなってサウナ状態になっていた。
〈しかし、いつになったら来るんだ?〉
避難誘導の手伝いや状態維持のための係員を含めた現場への立ち入りの制限などを交渉したりしている内に、時刻はもう少しで一七時になろうかという頃になっていた。
来栖は現在、現場の見張りを行いながらIS委員会の到着を待っていた。
来るなと言ったのはIS部隊だけで、第三者が状況を検証してくれなければ責任の取りようがない。
スマホを取り出す。何度も電話を掛けてみたのだが、いずれも話し中で応答しない。
ダメ元でもう一度かけてみるが、やはりマシンボイスで『おかけになった電話は通話中です。しばらく待って、おかけ直しください。』と流れるだけ。違う部署の番号にもかけているのだが、結果は同じことだった。
〈・・・プールに飛び込んだら気持ちいいだろうな。〉
油断していると、目の前にあるそれに引き込まれそうになる。ついでに言うと、ずっと海パン一丁の姿でいるのは状況にそぐわないので彼は着替えてしまっていた。
〈今頃大ニュースになってるんだろうな。〉
ISはちょっとしたことでも、その日のトップニュースを飾るほど世界に浸透している。それがプールで、しかも大勢の観衆の前で戦闘をしたとあっては相当な数の動画がテレビやネットに流れていることだろう。
〈・・・ん?ニュース?〉
そう考えると同時に、来栖ははたと気が付いた。
〈静かすぎる。ヘリが来ていない?〉
来栖は長年染みついた癖で、飛行する物体があれば確実に気が付く。
これだけ建物が破損しているなら報道関係のヘリが撮影しに来るはず。仮に飛行制限が掛かってそれらが来られなかったとしても、消防や警察のヘリまで閉め出す真似をIS委員会がするはずがない。一機たりとも来ていないというのはあり得ない話しだ。
〈あれ?あの人はあんな話し方だっけ?その前に、なんでIS部隊の発進の権限を持ってたんだ?〉
確かにあの瞬間『発進は中止』と言った。しかしISの無断使用に対しての緊急発進を中止するには、一人だけの判断ではできないようになっているし、そもそもそんな権力のある役職ではない。
先ほどまでは忙殺されて考えている暇などなかったのだが、いざ余裕ができたので思い返してみると不自然な点が芋づる式に見えて来る。
〈けど、理屈だけじゃ証拠としては信頼に欠ける。・・・それにしても暑・・・・・あれ?〉
ふと顔に触れたとき、来栖は先ほどまでのような汗をかいていないことに気が付く。そして、それが気温の変化によるものと気が付くのに時間はかからなかった。
〈プール、無風、気温の変化・・・まさか。〉
暗闇で歩くときに、つま先で地面の様子を探るような慎重な足取りで来栖はプールサイドへと近付いた。
-*・A・*-
IS同士の戦闘によりパニックに陥ったウォーターワールド。
その最中において微動だにせずテーブルに着いている一人の少女。彼女がこの状況を作っていた。
彼女の流れるような銀色の髪は、いかなる状況の下でも人目を引く。
けれど逃げ惑う人々は自分のことで手一杯と言うこともあるが、誰もその少女に避難を呼びかけると言ったことをしない。それどころか、この状況にもかかわらず誰一人として彼女の近くを通らないのだ。
さながら
数分と経たずISの戦闘が終わる。
すぐさま避難が始まった。
やはり、そこでも誰一人として彼女には声を掛けず彼女の近くも通らない。
腰が抜けた人の救助や野次馬を排除したりなどの退出に時間がかかったが、屋内から来場者の姿はなくなり残すはプールの監視員だけになった。
ここで彼女の目的は全てにおいて完了された。ここに用はない。
撤退するために立ち上がろうとしたとき、彼女の真横を背後から来た一人の男が通過した。
服装は半そで短パンと、どこからどう見てもプールの関係者ではない。しかし鍛え上げられた肉体は、男が只者でないことを否応なしに主張していた。
今更、一人増えたところで撤退に支障はない。そう思って立ち上がったのだが、急にその男が振り返った。
〈・・・気づかれた?〉
心拍数が僅かだが上がる。彼女は、ゆっくりと椅子に座り直した。
やがて、男は視線を彼女から外した。男は少女の存在に気が付いている様子はない。
少女は今度こそ撤退しようとする。
けれど立ち上がれなかった。彼女には撤退が失敗するビジョンしか見えなかった。
〈・・・恐れている?〉
不意に、男がプールの監視員と話している声が聞こえてくる。彼女はその声を、データとして知っていた。
「来栖・・・・・翔霧。」
ポツリと、横に人がいても聞こえぬほど小さな声で名を呟く。
少女は、彼女が忠誠を誓う者から彼について聞かされていた。曰く「脅威ではないが厄介」と。
どうするべきか。そう考えている間にも一人、また一人とプールの職員が立ち去る。それが焦りとなり、必要以上に来栖への警戒が強まっていく。
ついに最後の一人が退出して、プールには少女と来栖だけになる。
少し経って、不意に来栖が彼の近くにあった椅子の背もたれに手をかけて感触を確かめ始める。まるで、気付いていると見せつけんばかりに。
その動作一つ取っても彼女にはストレスであったというのに、彼は椅子を持ち上げると、距離はあるが少女と向かい合うように陣取った。もっとも、それらはただの偶然に過ぎなかったのだが、警戒を強めていた少女にはそういった判断ができなくなっていた。
-*・A・*-
彼はプールに近づく途中で、落ちていたガラス片を拾った。そしてそれをもってプールに近づき、来栖はそれを水に浸ける。
〈感触はある。〉
不意に、来栖は顔を水に浸けた。
〈そのまさか、か。〉
水中で手元を見ると、ガラスの破片はどこにもなかった。しっかり握っていたのだから落とすような失態は犯さないし、仮に落としても床に転がっているはずだ。
来栖は立ち上がって顔を拭く。と、彼の視界は全方が完全に真っ白な空間になっていた。
何が起こったのか理解が追いつかず頭の中がパニックになる・・・が、それも寸刻のこと。耳に意識を集中させるために目を瞑った。
遠ざかっていく足音が一つ。それは出入り口とは違う方向に向かっていく。
来栖はプールの形や配置は脳内に展開できているが、テーブルや椅子、鉢植えの場所までは頭の中に入っていないので追跡は不可能だった。
〈・・・目を離す隙を待っていたのか。〉
やがてドアが開く音がして足音が聞こえなくなる。
目を開く。四方は真っ白な世界のままだった。
来栖の視界を満たしていた白い世界は、数分かけて蒸発するように消えていき、ウォーターワールドは来栖が朝ここに来たときと同じ状態に戻った。
〈今日の出来事は、全て幻影を見せられていただけなのか・・・。〉
一体誰が、何の目的で。
来栖は足音が去って行った方向を見る。そこにはスタッフ通用口と非常口を兼ねたドアがあった。
満に一つの可能性で、通路で迷っていることもある。一応は追いかけてみようと来栖はドアに近づいていく。
もう少しで到達する・・・その時に、破れるのではないのかと思うほどの勢いでドアが開くと、五人程なだれ込んできた。
「おわっ?!」
「ヤバッ?!」
「キャッ!」
驚き方に差こそあれ、その全員が開かないと思って敢行した様子であった。
「大丈夫ですか?」
「痛たたた・・・。まさか開くなんて。」
肩のあたりをさすっていた、なだれ込んできたグループの最先頭だった男に声をかける。
そこへ駆け寄ってくる影が一つあった。
「お父さん!」
来栖が声のする方を見れば、優里香がドアの向こうから駆け寄ってきていた。
「あれ、戻ってきたのか。」
「電話しても出ないし、お店の営業時間もきてたし。」
「ありゃ、それは悪いことをした。ごめん。」
また幻影を見せられているのではないかと言う考えが脳裏によぎったが、それならこんな中途半端な足止めは意味がない。
「えぇ!!どうなってるんだ!?」
その時、プールの係員らしき男が天井を指差しながら驚きの声を上げる。
その指先の光景を見た瞬間、来栖以外の全員が口をポカーンっと開けた。あれだけ壊されていた天井が元の状態になっているのだから、当然と言えば当然の反応だ。
「どういう方法を使われたのかはわかりませんが、幻影を見せられていたようです。」
来栖は簡潔に、どうしてこの状態なのかの推測を言う。
「え?ど、どういうことですか?」
「目的は分かりません。目眩ましを受けたので姿は見てないですが、何者かがこのプール内に潜んでいたのは確かです。少し前に、このドアから逃げて――」
そこまで言ったところで、来栖は自分が重要な証拠を消してしまうところだったと気が付く。
「このドアノブに誰も触れないでください!」
そう言って来栖は、全開のドアの前に立ち電話を掛ける。
『もし?お久しぶり。』
どことなく緊張を和らげるような話し方。先ほどの声とは全く別物の声だ。気がつけなかったことが不思議でならず、来栖は軽く首を傾げた。
「お久しぶりです。いきなりで申し訳ないんですが、採取してほしいサンプルがあるので大至急ウォーターワールドという施設まで対テロ部の人を連れて来て下さい。」
『対テロ部?・・・分かった、可能な限り早く行く。』
何年にもわたりIS学園の護衛に就いていた来栖は、IS委員会にも幾つかのパイプを持っている。不思議そうにはしていたが、理由を聞かれることもなく要求は通った。
「お待たせー。」
連絡をしてから四〇分ほどして、警備員に先導されて彼らは到着した。
「どこ?」
来栖は、誰かが証拠を消してしまわぬように立ち塞がっていたドアを指差す。
「このプール側のドアノブです。」
「はいよ。皆さん、お願いします。」
彼は、連れてきた者達に作業の指示を出す。その作業か始まる前に、二人は邪魔にならぬ場所へと移動する。
「いやー、今日は疲れた。」
移動するなり、来栖に向けて呟く。
「何かあったんですか?」
「おー、あったよ。銀行強盗が人質を取るために喫茶店へ押し入って、解決後に調査へ行ってたんだよ。知らないか?」
「!!・・・いや、聞いてないですね。」
「そう、知らんか。・・・ほーれ、これよ。」
彼はタブレット端末を取り出して、ニュースを来栖に見せた。
「これは・・・今時珍しい。」
「ほーよ。幸いにも人質が怪我をしてないから良かった。目撃者の証言によると、ウエイターに格闘技の凄い使い手が倒したらしいわ。」
「そんなことが・・・・。ところでもう一つ、大きな事件がありませんでしたか?」
「んー?・・・何かあったか?」
「ISの戦闘です。」
「?!」
先ほどまでの三割増しで開かれた瞳が来栖を見つめる。
「はは、冗談か。まあ、ISの無断展開があれば問答無用でIS部隊が出るよ。」
ステルスモードで展開すれば、あるいはIS委員会の監視を欺けるだろう。ただしその状態では、今日のように暴れることはできない。軍事用の銀の福音ですらそうであったように。
「だけど君に限って、冗談を言うとも思えん。こんな所まで呼び出しておいて、なぁ。」
舌の根も乾かぬうちに、彼は口調をそのままにして目つきだけを仕事人のそれに変える。
「詳しく聞こう。」
あまりにもすんなりと信じてもらえたため、来栖は肩すかしを食らう。が、少しでも時間が惜しかったためすぐに話を始める。
「最初は、昼過ぎのことです。」
ブルーティアーズと甲龍の戦闘、それによる建物の損傷などなど。来栖はその目でみた出来事を、時間の経過通りに伝える。
「にわかには信じがたい・・・。」
「そうでしょう。」
立場が逆ならばそう思うだろうと、来栖は数度頷いた。
「まあ、調べてみる価値は十分にあるの。・・・ところで、あの
「え?」
突然に、彼が指差す。その先を来栖は見た。
「あー、私の娘です。」
「娘と来てたのか!」
急に口調が強くなる。
「我々に付き合っていたら、下手をすれば日付を超える。早く帰ンなさい!」
「大丈夫です。娘もIS学園の生徒ですし、本人も――」
「だとしてもだよ。君の子どもと言うことは、パイロット志願なんだろう?規則正しい生活ができないヤツはいいパイロットになれない。それに君に倒れられたら
ズイッと、彼は来栖を優里香の方に押した。
「君が優秀なのは知っているが、この手のことに関しては素人だ。いるだけ邪魔だ。さあ、帰った帰った。・・・それにしても何年振りかな。こんなに血が騒ぐのは。」
彼はポケットから手袋を取り出して手にはめた。
「何か分かったら連絡するから、早う帰れー。」
再び緊張感のない声に切り替わり、彼は作業者の方へと向かって行った。
残された来栖は少し迷っていたが、彼の言ったことに従うことにした。
「何か分かった?」
目をランランと輝かせ、歩み寄ってきた来栖に優里香は話し掛けた。
「いや、これからだ。遅くなるらしいから、帰らせて貰おう。」
「えー、待とうよ!」
来栖より優里香の方が結果に興味を持っている。しかし、どうやれば引き下がるかもある程度は分かっていた。
「待ってもいいけど、結果を知ったら夏休みもうどこにも出歩けないかも知れないぞ?それでもいいのか?」
「ウッ」とした表情を優里香はする。両者を天秤にかけて、どちらを選ぶべきか彼女は迷うに迷う。
数分もかけて、彼女が出した答えは。
「・・・分かった、帰る。」
紡ぐように結論を告げる。テンションは途轍もなく低い。
そんな娘を慰めるように、来栖は軽くポンポンッと頭に触れた。
「結果は教えられる範囲で教える。それでいいな?」
「・・・はぁい。」
優里香のトボトボとした足取りに合わせて、ゆっくりと来栖親子はウォーターワールドを後にしたのだった。
-*・A・*-
何に使うのか、そもそも本当に動くのか。まるで廃墟に蔓延る蔓植物のように、無数のケーブルが接続された用途不明な機械の数々。
全容を把握できているのは、それらを照らす唯一の光源であるディスプレイの前に座る、この部屋の主『
「おー、おー・・・・ふーん、なあーるほどー。」
意味がありそうでない言葉を呟きながら、空中投影のキーボードを高速で叩き続ける。
不意に彼女の足下に転がっていた白のウサ耳のカチューシャがピョコリと立ち上がる。キーボードを叩く指がピタリと止まった。
「束さま。」
少しして、部屋に一人の少女が入ってきた。
「やあ、クーちゃん!お帰り。遅かったね?」
何時間も連続でディスプレイの前に座り続けていたとは思えない軽快な足取りで、束は少女のもとへと駆け寄り抱きしめた。
「痛いです。」
「うへへへ、ごめーんごめーん。」
そう言いながら少女を腕の中から解放する。
「これがデータです。」
解放されるや、少女はポケットの中から時計の様な物を取り出して束に手渡す。
「うんうん、ありがとうね!ところで、どうだった?初めてのお使いは。」
満面の笑みで問われ、少女は少しだけ返答に詰まる。
「・・・楽しかったです。」
顔色を見るために、束は少女に目線を合わせる。もっとも、少女の目は閉じられているが。
「んー?あんまり楽しくなかったみたいだね?」
「!!」
少女は自分を拾い、そして育ててくれている束に対して忠誠を誓っている。故に、彼女に心配させることがあってはならないと、少女は自身に暗示をかけていた。
「楽しかったです。大丈夫です。」
だから何があったかは話さずに押し通した。
「まあクーちゃんがそう言うなら、ね。」
そう言って一歩だけ離れると、クルクルと回転してした。勿論、その動きに何の意味もない。
「何かあったら、いつでも相談していいんだよ~!」
「はい、肝に銘じます。」
「んも~、クーちゃんは堅いよ。クーちゃんは束さんの娘なんだから、ママって呼んでよ。」
「・・・努力します。それでは、部屋に戻らせて貰います。」
「はいは~い!しっかり休んで、今日の疲れを癒すんだよ!」
満面の笑みで少女を送り出すと、束は先ほどまでの作業には目もくれず、少女の持ってきた時計のようなものを機械にセットして作業に取りかかるのだった。
前回投稿した時点で、この話を二千文字弱書いていたんで九月末までには行けると思っていたんですが、この体たらく。
次回は十一月中に・・・と言いたいところですが、年内にすら書けるかな・・・。
これからも頑張りますので、応援お願いします!
2022/10/05 誤字修正、並びに一部文章を改良しました