IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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第3話~第9話でやった過去回想をこの話の途中に持ってくればよかったと、かなり後悔している『只のかかし・A・です』です。


第31話 秘密を打ち明ける日

 お盆まっただ中のこの日、来栖一家の三人が乗った車は霊園の駐車場に到着した。

 運転席から来栖が、助手席からは長女の優里香、そして助手席後ろの席から次女の沙絵香が降りてくる。

 来栖はハッチバックを開けて、供える花を取り出す。その間に優里香と沙絵香は水汲みに行く。

 霊園備品のバケツに水を汲んでいる二人に、来栖は追いつく。

 「あれ?この辺じゃなかった?」

 「えー?もっと奥じゃないか?」

 しかし、そこそこに広い敷地面積を誇る霊園。一年に、多くても三度しか墓参りができないため、来るたびに墓の捜索から始まる。

 「・・・姉ちゃん、あそこ。」

 そして大体、沙絵香が一番に発見する。

 「いやはや。毎回、ここの平べったいお墓を目印にって言っているのに、全然覚えられないな。」

 苦笑しながら、来栖はタオルを取り出す。柄杓でバケツから水をすくい、タオルにかけて湿らせると墓を拭き始める。

 掃除を終え来栖が離れる。優里香が線香を供え、沙絵香は花立に水を入れて花を入れる。

 三人がそれぞれのタイミングで拝む。

 優里香と沙絵香は五秒ほどで終えたが、来栖は積もる話があるのか拝んだまま動かない。

 毎度のことなので、二人は手持ち無沙汰になり、周囲を見てみる。前後左右、形状に差はあっても基本的には同じ形の墓石が続く。

 その時、沙絵香は来栖家の墓誌が目に入った。

 そういえばじっくりと見たことがなかったな。彼女は故人の名前を見てみようと移動してみる。

 〈これがおばあちゃんで、こっちがおじいちゃん。へー、ひいじいちゃんはそんな名前。・・・ん?私のお母さんって・・・死んだんだよね?〉

 沙絵香には母親の記憶は無い。けれど母親がいつ死んだのかは、父親や姉から聞かされているので知っていた。

 見落としたのかと思い見直してみるも、名前は見当たらない。

 「じゃあ、また来るね。」

 そう語りかけたのち、来栖が立ち上がる。

 沙絵香は慌ててそこから目を離して、どこに視線をやるか迷い空を見る

 「どうした?」

 挙動の不自然さを心配して、来栖は声をかける。

 「別に。何にもない。」

 来栖は、少し声のトーンを落としつつ「そうか」と言ってバケツを持ち上げた。

 「じゃ、行くか。」

 そう言って駐車場の方に歩いていく。

 「・・・どうしたの?」

 優里香は心配して、妹に小さな声で尋ねてみた。

 「お墓に、お母さんの名前がなかった。」

 「・・・え?」

 少し声が大きかったかな。優里香は来栖の方を見る。

 振り返らないところを見るあたり、点在する植木でけたたましく鳴くセミの声にかき消されて聞こえていないようだ。

 「・・・・・お母さんの納骨は記憶がないかも。」

 前を見ると、来栖はスタスタと歩いて行く。

 「そう言えば、お墓の前とかでお母さんの名前を出したことがないね。」

 今日も、彼女たちからみて祖父や祖母の名前は口にしていたが、母親の名前は一切出ていなかった。

 「その話し、帰ってからしよ。」

 「分かった。」

 開いていた来栖との差を、二人は早足で詰める。

 三人は、無言のまま歩き水汲み場まで戻る。

 来栖が残っていた水を捨てて、元あった場所にバケツを戻す。

 「あ、お父さん。ちょっとお手洗い行ってくるね。」

 「はいよー。・・・いや、ついでに行っとくか。」

 結局、三人揃ってお手洗いに行ってから車に乗り込んだ。

 「・・・ちょっと、別の場所に寄ってから帰るぞ。」

 エンジンを掛けていざ帰宅。そのタイミングになってハンドルを握る来栖が娘二人に向けてそう告げた。

 

 「わー・・・随分と山奥に来たね。」

 建物はおろか電柱の一つも立っていない山道。しかし、そこそこの交通量はあり、既に何台もの車とすれ違っている。

 〈行きたいところって、ドライブのことだったのかぁ。〉

 深緑の山は心が落ち着く。

 不意に外を流れる景色が遅くなった。

 速度が落ち、来栖は待避所に止まる。

 「着いたぞ。」

 「え?着いたって?」

 見渡す限り木々の生い茂る山道。ここが目的地とは、一体何の用事があるのだろう。娘二人は父親の目的が分からず困惑するが、ひとまず車から降りる。

 「こっちだ。」

 車の鍵を掛け歩き始める。待避所から二〇メートルほど進んだところで、来栖が山の中へ入っていく。

 優里香と沙絵香は躊躇ったが、置いて行かれるのも不安なので一歩踏み込んでみる。木々がうっそうと茂っていて一見すると歩きにくそうだが、来栖の後について歩くと不思議なほどに歩きやすい。

 見た目では道に見えないようにしてあるようだ。二人はしっかりと父親に続く。

 おっかなびっくり進んでいくと、不自然に開けた場所に出た。

 その場所は明らかに人の手で整備されており、地面が随分と平らだ。それだけでなく明らかに人が作った、直径が二〇~三〇センチほどの球状の石が各所に点在していた。

 「石は絶対に踏むな。」

 珍しく強い口調でそう言ってから、来栖は奥に進んでいく。そして、ある石の前で歩みを止めた。

 「何これ?文字が書いてあるけど・・・読めない。何これ?」

 そこにはスクラップのような金属板が落ちており、優里香はそこに書いてあった文字の読解に挑戦してみたが掠れていて読み取れない

 「F-15の外板だ。」

 表情を崩さず、横から来栖はそれを伝える。

 「F-15?何で?って言うか、ここ何?何の場所?」

 「ここは墓地だ。世間から見捨てられた人たちの、な。」

 「・・・要するに無縁墓地ってこと?」

 「無縁墓地か・・・。広義には合ってるけど、ちょっと違う。包み隠さずに言うと、裏社会にいて消された人たちの埋葬地だ。」

 意味が分からず一度ポカンとしたが、次の瞬間に優里香と沙絵香は身の毛がよだつ。

 「だ、大丈夫なの?!ここ?!」

 無意識のうちに姉妹は抱き合う。

 「やばい人もいい人もここには来ない。ここに眠る人たちは、どちら側からも手を差し伸べてもらえなかった人たちばかりだからな。」

 来栖は、寂しそうにそう告げる。半信半疑ではあるが、娘二人は幾ばくか緊張を解いた。

 「じゃあ、何でここに来たの?」

 反社会的なことをする知り合いはいない。

 優里香が冗談交じりに「F-15がここに眠っているわけではないよね」と尋ねると、「それはないよ」と軽く笑いながら来栖は返した。

 「ここにはな、英子・・・お前たちのお母さんが葬られている。」

 フーッと息を吐いて、ゆっくりとした声で来栖がそれを伝える。同時に、二人は目を見開き固まった。

 「え・・・さっきお墓にお参りしてきたのは?」

 顔を引きつらせながら、優里香が声を出す。彼女自身は墓誌を見ていないが、妹から「お墓にお母さんの名前がない」という話を聞いていなければ、少なくとも今は落ち着いて振舞えたかもしれない。

 「あそこにお母さんは入ってない。色々あって、あそこにお母さんを入れてやることができなかった。」

 「ど、ど、どういうこと?」

 優里香は制御不能なほどの動揺に陥っている。対して沙絵香は、母親の記憶がないためか優里香ほどの動揺はしていない。

 「お母さんのことについては、墓まで持っていくつもりだった。けど、事情が変わった。沙絵香。」

 「・・・何よ。」

 名前を呼ばれるとは思っていなかった沙絵香は、どう返していいものか迷い小さな声で返事をした。

 「この間、部活帰りに知らない女性に声をかけられただろ。」

 「かけられたら何?」

 「そいつ、塾の勧誘だっただろ。」

 「断ったよ。・・・っていうか、なんで知ってんの?気持ち悪いんだけど。」

 「まあ最後まで聞け。そいつな、ファントムテールってテロ組織の一員だ。」

 炎天下の中、沙絵香の背筋に寒気が走り全身に鳥肌が立つ。いつもなら間髪を入れずに言い返すところだが、今までに感じたことの無い来栖のオーラに気圧される。

 「・・・テロ組織って。私には何の接点もないじゃん。そんな人達が私に声を掛けてくるのって、おかしくない?」

 彼女の考えは至極まっとうなものだ。自身の母の経歴を知らなければ、と言う条件付きで。

 「お前の・・・お前達のお母さんはな、ファントムテールの一員だった。」

 「「!?」」

 そんな突拍子もない事実を受け入れろというのは無理な話。

 「え?冗談でしょ?」

 「本当のことだ。」

 再び、二人は硬直するが来栖は構わず続ける。

 「お母さんがあのお墓に入っているなら、一度も母方のお墓に行ったことがないってことを不思議に思わないか?」

 「それは離婚したからって・・・あれ?それじゃますますおかしい・・・・・。」

 声に出さなければ思考が纏められない程に、脳内はパニックだ。

 「お母さんは生まれてすぐに捨てられて、児童養護施設で育ったらしい。ところがその児童養護施設は、ファントムテールが手駒を育てるために作ったものだった。とは言っても、そんなに沢山養成していた訳じゃない。カムフラージュするために、大半の子は普通に育てられていた。その中で出来の良い子を選抜して養成して・・・お母さんはその選ばれた中の一人だったわけだ。」

 自分たちとは無縁だと思っていた世界は、一寸先にはあるという事実。

 「お、お父さんは・・・お母さんの素性を知っていたの?」

 震える声で、優里香は問いかける。その答えがどんなものであれ、気休めにさえならないと分かっていながら。

 「その時は、自衛隊にいたんだ。国益を損なうような真似はしない。」

 「じゃあ、知ったから分かれたんだ。引き止めもせずに。」

 沙絵香が悪態をつく。

 「・・・突然だったよ。買い物に行ってくるって出ていって、その出先から電話で『私がいると、あなたの夢を阻んでしまう』って。行方は掴めなかった。捜索願も出したのに。」

 思い出せば思い出すほど、彼女はどこかでSOSを出していたんじゃないかと、自分がそれを見逃したのではと自責の念が積もる。

 「分かったのは死んだ後だ。生きているときに分かっていたら、助けられた。・・・絶対にな。心は染まっていなかった。お前たちを連れていかなかったのが、何よりの証拠だ。」

 沈黙が、三人の会話をかき消すかのようなセミたちの声を一段とやかましく感じさせる。

 「・・・尻尾を名前に入れているってことは、都合が悪ければ切り捨てるってことだよね?・・・お母さんは、自分から尻尾を切らせたの?それとも切られたの?」

 「そもそも尻尾が何を意味しているのか分からないから、何とも言えないな。ただ、ここに葬られているということは見捨てられたと言えるな。」

 「・・・お母さんの最後は、どんなものだったの。」

 記憶の中のお母さんは、いつも一緒に遊んでくれる優しいお母さんだった。今まで病気で亡くなったと聞かされていたお母さんが、本当はどんな死を迎えたのか。優里香は知りたかった。

 「どんな死・・・ね。」

 話し始める前に、目を瞑り大きく息を吐く。

 「お母さんは戦闘機と()()()()して、その怪我が原因で死んだ。」

 「空中衝突?」

 あり得ない。何をすれば、空中で戦闘機なんかとぶつかることができるのか。

 「どうやって?」

 「輸送中のISを奪取した。」

 「!!」

 ISを奪う。IS学園で勉学に励んでいる優里香には、それがどれほどの重罪かわかる。

 「何?どういうこと?ISって既存の兵器より強いんでしょ?その話本当なの?」

 言葉を失った優里香に対し、その方面の事情については世間の一般常識程度の知識しかない沙絵香。彼女は来栖が、自分たちが何も知らないことにかこつけて嘘を言っているのではと疑念を持つ。

 「全部、本当だ。その戦闘機に乗っていたのは俺だったからな。」

 「「!?」」

 優里香と沙絵香は、世界がシンッと静まり返ったように錯覚を起こす。

 「あれは、年末のことだった。」

 来栖が、ゆっくりと語る。あの日、何があったのかを、余すことなく。

 「そんな・・・。」

 全てを聞き終えたとき、優里香は肩を抱えて震えていた。

 「なんで・・・なんでそんな思いをして、まだ戦闘機に乗ってるの!」

 突然、沙絵香が叫ぶ。しかし、そこに先ほどまでの軽蔑するような感情は籠っていない。

 「なんで、か。あそこにいれば、お前たちを守れるからだ。」

 斜め上の答えに沙絵香はキョトンとする。

 「これも話すつもりはなかったんだけど・・・こうなった以上説明しておく。俺たちにはIS委員会直属の護衛部隊が付いている。この間、お前を勧誘した奴を捕まえたのもその人たちだ。」

 沙絵香は反射的にあたりを見回してみる。

 「姿は見せてくれない。俺も見たことがない。」

 苦笑いしながら来栖は続けた。

 「一度戦闘機を下りた後、普通のお父さんでいてやりたいと思って退官して違う仕事に就いた。でも、すぐに邪魔が入った。優秀だったお母さんの血を引く二人を取り込もうとして、いろんな奴があらゆる手を使って近寄ってきた。最初は凌げていたけど、耐えきれなくなるのは時間の問題だったよ。」

 この前の一件は偶然狙われたわけではない。常に狙われているうちの一つなのだ。どれだけ守られているのか想像はできないが、少なくとも父親が手を打ってくれているおかげで自分が平穏に暮らせていると理解する。

 「そのころだったな。『IS学園がパイロットを探している』って話を西本が寄越してきた。最初は戦闘機乗りに戻るつもりなんてなかった。母さんの一件のように、ISってものは常に狙われている。それを運ぶということは、何かあれば相手を撃つ必要が出てくる。撃てば相手から逆恨みをされる。結果として、自分や家族に危険を呼び寄せる事になるからな。それでも乗っているのは、危険に見合うだけの・・・いや、十分すぎる護衛が付くって条件が合ったからだ。」

 家族サービスはおろか、家にいる時間もほとんどない父親。家族よりも仕事が優先の人なのだとは思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。

 ふと、自分が父親と同じ境地に立たされたならと思うが、自分の想像できる世界と乖離していて想像がつかない。

 「優里香・・・優里香。」

 しゃがみ込んで震える優里香の肩を、来栖は優しく叩く。

 「怖いか。」

 顔を上げた彼女に、来栖は短く尋ねる。

 彼女は涙をにじませ、ゆっくりと頷く。

 「それでいい。背負い込むな。」

 優里香はいつも明るく振る舞っているが、それが自己暗示で安心感を得るためにしていることと来栖は見抜いていた。

 「お父さん。」

 立ち上がると同時に、沙絵香の口から何年かぶりに出て来たその言葉。来栖の耳はピクッと動く。

 「あの、その・・・。」

 何か言いたげにしている次女。

 「気にするな。」

 来栖は、彼女が言葉にできずとも言おうとしていることが分かったので、それを遮った。

 「いや、気にさせたのは俺だったな。すまなかった。」

 来栖が深々と頭を下げる。こんなことで解決できる簡単な問題でないことは分かっている。しかし、来栖はこれ以上のことができる器用な性格ではなかった。

 一〇秒弱して、来栖は顔を上げてみる。

 沙絵香は、何を言えば良いのか分からないといった顔をしている。長らく面と向かって話をすることがなかったため、どう話し掛ければ良いのか分からないのだ。

 彼女は来栖のことが分からないが、来栖は彼女のことをしっかりと見ているので心情が手に取るように分かる。

 彼は、次女の頭に優しく手を乗せた。

 「これからも迷惑を掛けることになるけど、我慢してくれるか?」

 とても心苦しそうな口調で、来栖は問いかける。

 父親が自分達のために頑張ってくれていることは分かった。それでも、心情的に快諾できる話しではない。

 「絶対に死なないって、約束して。」

 しばらく考え込んだ後、沙絵香は渋い顔をしながらそう言った。

 「絶対かー・・・。」

 即答はできない。死ぬつもりなど毛頭無くても、それは相手がどう出るかに掛かっている。もどかしさを感じつつも、来栖はゆっくりと口を開いた。

 「分かった。指切りしよう。」

 今一度、自分に気合いを入れるように、静かに小指を差し出す。

 「「指切拳万、嘘ついたら針千本呑ます。」」

 小指が離れる。不意に、来栖は左側に荷重を感じた。

 視線をそちらに落としてみると、優里香が服の裾を右手で引っ張っていた。

 「・・・どうした?」

 来栖が声を掛けると、彼女はその手を離す。そして、無言のまま小指を差し出してきた。

 彼は、そんな長女を見てゆっくりと息を吐いて、自身の小指を優しく彼女の小指に絡ませる。

 彼女の揺らすリズムに合わせて来栖は手を動かす。一〇往復ほどして、一際大きく振って指が離れる。

 次の瞬間、彼女は勢いよく立ち上がった。

 「よい!お母さんにお参りして、家に帰ろう!」

 少しまぶたが赤くなっていたが、表情は今までに無く明るいものだった。

 来栖一家は名の刻まれていない母のお墓に向け手を合わせ、その場を後にした。

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