IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

37 / 63
第37話 学園祭の裏側で

-*・愛宕・*-

 

 

 『あー、あそこ!うまいですよね!』

 「僕、知らないんですけど?!」

 『え?西本は、新人を一回は連れて行くって言ってたぞ?』

 あと一〇分ほどで、IS学園の指定する飛行制限空域に差し掛かるというところまで僕たちは戻ってきていた。

 「高橋さん!今度連れていってくださいよ!」

 『自分で行け!自分で!つか、西本さんに言え!』

 西本さんの行きつけの店に連れていってもらったかどうかで盛り上がっていると、急に聞きなれない警報音のようなものが聞こえてきた。

 「これ、なんの音ですか?」

 『あ?!何だこれ!』

 僕が言い終わるのとどちらが早かっただろうか。切羽詰まった声が無線越しに聞こえてくる。

 『すいません、ちょっと良くない状況なので、ここで失礼します。』

 『え?あ、お疲れ様でした。』

 F-14が増速して編隊から離れた、次の瞬間だった。

「『・・・は?』」

 アフターバーナーに点火したかと思うと、とんでもない加速力でF-14は飛び去っていった。

何が起きたか理解が追いつかず、しばらくの間呆然となる。 

 『俺たちが減速したわけじゃないよな?』

 「え?・・・あ、はい。速度は変わってないです。」

 あれほどの加速ができる機体を、いや、エンジンを見たことがない。加速を見るに編隊飛行中は、かなり出力を絞っていたに違いない。

 ただ、推力だけを言えば大きなエンジンは他にもある。恐るべきは応答の速さ。無線越しにスロットルレバーを操作したと思われる音が聞こえてたけど、五秒ちょっとしか経っていなかった。

 『お前、あれと模擬戦したんだよな。確かに勝てねえな、あれ。』

 「そうですね・・・。」

 あれだけの推力があれば、普通に加速しただけでも、パイロットには相当な負担がかかる。

 あの模擬戦の後、西本さんが「来栖と同じ飛び方はできない。けど、来栖も俺たちの飛び方はできない」と言っていた意味が、今、分かった気がする。

 『おい、そろそろ旋回するぞ。』

 「わかりました。」

 来栖さんが飛んで行った方角を見ながら、僕たちは百里基地へと進路をとった。

 

 

-*・来栖・*-

 

 

 洋上を飛行中、警告音が鳴った。条件反射でディスプレイに目を落とす。

 表示画面を切り替えて情報を確認すると、無許可にISが展開されていると情報が出る。

 今日、ISを使用するようなことはないはず。ひとまず、何のISが展開されたのか詳細を確認する。

 F-14は、先日の検査に合わせて能力改修も行われ、自動IS識別システムが搭載された。

 このシステムはコアネットワークから得られた情報を元に、データベースに保存されている機体情報を検索してくれる。

 〈白式はいいとして、このアラクネってのは・・・?〉

 ディスプレイに表示された『アラクネ』の情報には、アメリカが開発した第二世代機と書かれていたが、その第二世代機という情報が気になった。

 どの国も第三世代機をロールアウトさせており、量産機でもない第二世代維持する意義はない。アメリカのことならなおさらのこと。

 あの国がISを奪われて大人しくしているとは思えないが、何者かが奪い使用している機体と考えるのが妥当と言える。

 すぐさま帰投しなければ。別れの挨拶もそこそこにスロットルレバーを押し込む。

 推力が一気に上昇する。

 空気を引き裂くような加速は、まるでパイロットのことなど考えていない。

 歯を食いしばり、それに耐える。

 〈これ・・・常用したら機体が痛む。〉

 自分の体よりも機体が心配になるのは、過剰な負荷をかけて空中分解したら怪我では済まないからだ。

 瞬く間に対気速度が音速へと近付いていく。

 直下をどんな船が航行しているのかわからない。スロットルを戻し、音速に達しないギリギリの速度を保って急行する。

 

 一〇分が経過し、ようやくIS学園の上空に到達した。

 ISの反応は最大で三機まで増えたが、今はすべての反応が消えている。

 とにかく状況を掴もうと、偵察ポッドを使用して地上の様子を伺う。アリーナを使用している風もなければ、これといった騒動があったようにも見えない。

 IS学園上空は快晴。お陰で高高度から見下ろせるので、難しい旋回をすることなく全体を見ることができる。

 〈ISの反応がなくなったけど、どうなって・・・ん?〉

 それに気がついたのは偶然だった。

 建物から一人の女性が飛び出してきて、そして逃げるように走っている。

 こいつが何かしたな。直感のままに追跡を開始する。

 高度八,〇〇〇メートル。エンジン推力を絞って静かに飛んでいるお陰か、向こうがこちらに気がついている様子はない。

 入念に敷地の構造を確認してから来たのだろう。迷いなく人目につかないルートを選んで逃げていく。

 あの広いIS学園の敷地を一気に走り抜けた。手練れであることは疑いようがない。

 緊張が高まる。

 『先生、近くにいるのか?』

 その時、ラウラからの通信が入った。

 「そうだ。」

 この通信が成立するということは、戦闘機に乗って飛んでいるという意味になる。

 『嫁からの情報だが、侵入者に入られた。犯人はISを自爆して逃走中。もし見かけたら情報を頼む。』

 まだ何も言っていないが、彼女は手短に状況報告をしてくれた。

 悪いことに、予測は当たったらしい。

 「前に教えたチャンネルは覚えてるか。」

 『は!勿論です。』

 「不審なやつを追ってる。映像を送るから確認してくれ。」

 逃走者を支援する者が近くにいる可能性がある。そちらを警戒しなければならないので、あまり悠長に話している暇はない。

 手早くデータを送信すると、チャフ・フレアディスペンサーのスイッチがあるスロットルレバーに手を戻した。

 〈このまま気がつかれないといいけど・・・。〉

 余裕がないのか、上どころか周囲を警戒している様子もない。まさに脇目も振らずといった感じだ。

 『そいつで間違いない。追ってくれ。』

 「了解。・・・っと、可能な限りISはステルスモードにしとけ。」

 搭乗機を自爆したというなら、ISはないと考えていい。一人が複数所持できるほどISに余裕があるところなとないのだから。

 それはアメリカからISをくすねることのできる組織でも一緒。

 虎の子のIS。それを単独で送り込むというリスキーなことはしない。

 幸いにも、逃走者に連絡手段は無いのだろう。ならば逃げ切る難易度は高い。

 どこを逃げているか教えないように気をつければ、邪魔をされる確率はずっと低くなる。

 

 数十分後。IS学園から離れた公園で逃走者は足を止め、そして周囲を見回す。

 〈バレては・・・ないようだな。〉

 どうやら周囲を見回したのは、警戒ではなく休む場所を探すためのようで、水飲み場に向けて歩き出す。

 ラウラは既に追いついている。後は彼女がどのタイミングを仕掛けるか。

 白兵戦に関しては彼女の方が詳しいしから、こちらが指示を出しても足を引っ張るだけ。もっとも、こちらの方が詳しかったとしても、傍受のリスクを考えれば指示は出せないけど。

 いつ仕掛けるか。じっと見守る。

 〈行った!〉

 水を飲み始めた瞬間、物陰から人影が静かに忍び寄る。間違いなくラウラの姿だ。

 仕掛けてから一〇秒足らず。存在に気がついてか逃走者が飛び退く。

 〈ISを使ったか?〉

 そいつは着地に失敗して、背中から盛大に倒れた。それに不自然さを感じ、すぐにISの展開状況を確認する。

 やはりラウラはISを展開している。そしてもう一機、『ブルー・ティアーズ』の反応も確認できた。

 このままの盤面なら、ラウラが優位だ。

 ただISを使った以上、コアネットワークに接続できれば場所を感知される。

 単独犯はあり得ない、どこかに逃走者の仲間がいる。

 ありとあらゆるセンサーを起動し、最大限の警戒を行う。

 〈もう来た!〉

 直後、サイレント・ゼフィルスと見知らぬ名前が表示される。識別システムは、即座に『該当なし』と表示する。

 悪い予想が当たった。素早く無線を繋ぐ。

 『離れて!一機来ますわ!』

 ブルー・ティアーズの操縦者が、わずかに早かった。

 『何・・・・・?ぐうぅ?!』

 しかしラウラは、サイレント・ゼフィルスからの攻撃に反応することができず右肩部分に攻撃を受ける。

 それでも、続けて飛んできた二発のレーザーを避けたのは流石だ。

 『ラウラさん、下がって!』

 攻撃態勢に入っているところは狙われやすい。周囲を警戒していると、無線越しに『そんな・・・・・まさか?!』と言う声が聞こえてきた。

 『何をしている!?セシリア、撃て!』

 何かに驚いたセシリアをラウラが叱咤する。

 ブルー・ティアーズがレーザーを放つ。

 〈命中・・・?〉

 それは確かに的に命中した。ところが敵は、一切ひるむことなく接近を続ける。

 させてなるものかと、ブルー・ティアーズはBT兵器を飛ばしたが、それは敵にあっけなく撃ち落とされた。

 あの速度で飛行しながらBT兵器を撃ち落とす。それも動き回っているBT兵器を。

 もしかしなくても、そこらの国の代表より上手い。この敵は強すぎる。

 何とかして二人を援護したいが、この場所では命中する・しないに関わらず、バルカンの一発たりとも撃つことはできない。

 〈せめて洋上におびき出せれば・・・!!こいつ、ブルー・ティアーズの兄弟機か?!〉

 サイレント・ゼフィルスが子機のようなものを射出した。本体から独立して動き攻撃を行うそれは、ブルー・ティアーズのBT兵器と同一のものに見える。

 だとすれば、アメリカからだけではない。様々な国からISが盗まれている。

 噂レベルでは聞いていたが、いざ現実を見ると脳裏をよぎるものがある。

 しかし、その感傷に浸っている暇はない。

 シュヴァルツェア・レーゲンもブルー・ティアーズも、装備を失っている。

 これは撤退すべき盤面。

 それでもセシリアは向かって行く。

 〈状況を良く考え・・・おっ。〉

 意地を張っているのかと思ったが、意外にも彼女は冷静さを保っていた。

 限られた手札の中から彼女の行なった攻撃は、渾身の一発と言えるものだった。

 『なっ・・・・・?!』

 「えっ?!」

 だから、その光景に思わず声が出てしまう。

 〈レーザーが曲がっただと?!〉

 ハッと思い出す。ブルー・ティアーズは、偏光射撃ができることが強みのIS。それが使えると言うことは、サイレント・ゼフィルスは兄弟機か発展型か。

 いずれにせよ敵は、ブルー・ティアーズとの相性がイギリスで一番と言うセシリアでさえ使えないものが使える。

 彼女たちに打てる手はない。

 〈まずい、動きが止まった。〉

 呼びかけたいところだが、この混乱している状況で知らぬ男の声で呼びかけられたら余計に混乱するだろう。セシリアと面識がないことが悔やまれる。

 『何をしている!回避行動をとれ!』

 言うよりも早く動いていたラウラはセシリアを突き飛ばす。身代わりとなって被弾し、シュヴァルツェア・レーゲンの装甲が飛散する。

 それでも、うまい具合に装甲へ当てて身体へのダメージは抑えていたのは流石だ。

 〈っち、取り返されたか。〉

 時間の問題ではあったが、サイレント・ゼフィルスが逃走者の元へと到達。淡く桃色に光るナイフを振るうと、ラウラによって動きを封じられていた逃走者が自由を取り戻した。

 〈・・・AICって大気中に残留すんの?〉

 この際、大したことではなかいが、たまたま気がついた。

 『むかーーぞ、オー#ム。』

 ラウラのマイクがサイレント・ゼフィルスの操縦者の声を拾う。

 『てめぇ・・・私を呼び捨てにするんじゃねぇ!』

 なぜか喧嘩を始めている様子だが、その間も牽制をしっかりと入れてくるため、ラウラもセシリアも接近できない。

 『この程度か、ドイツのアドヴァンスド。』

 〈!・・・こいつ、何者だ。〉

 『貴様・・・・・なぜそれを知っている。』

 本人から身の上話を聞かされたので知っていたが、彼女とて誰彼構わず話すはずはない。

 『言う必要はない。ではな。』

 オータムを掴むと、サイレント・ゼフィルスが撤退を始めた。

 セシリアとラウラは追撃を試みるが、BT兵器による牽制でその場に釘付けにされる。

 『ラウラさん。すぐに学園に連絡を!わたくしは追跡します!』

 『やめろ!もう追っても無駄だ。それに、追いついたところで今の我々では敗北は目に見えている。』

 やがて足止めの攻撃がやむ。すぐに追跡をすべきと息巻くセシリアを、ラウラがいたって冷静になだめる。

 セシリアは荒い呼吸をしていることが無線越しに聞こえた。

 〈あそこでさっさと引き返せば・・・いやいや、どっちにしてもここが引き際になるか。〉

 追跡をしようとしたが、これ以上進出するには燃料が足りない。たとえ追えたとしても、この先は旅客機が飛び交う空域のため、満足のいく結果が得られる確率は低い。最後にズームして写真を一枚撮影して、IS学園に向け引き返した。

 

 

-*・A・*-

 

 

 「遅かったなって、あら?ラウラちゃん。」

 夕方。森田がフライト後の検査記録をパソコンに入力していると、学園に映像を届けに行った来栖がラウラを連れて帰ってきた。

 「久しぶりだな。どうした?」

 新聞を読んでいた柳原が尋ねる。

 「俺が呼んだ。ま、そこに座ってくれ。」

 そう言って、来栖は自身の席の隣にラウラを座らせる。

 「で、聞きたいのはこれなんだけど・・・よっと。」

 来栖はパソコンのモニターに、先ほどの戦闘の様子を撮影した動画を流す。

 「ここ。どうしてISを使った?」

 それはラウラがISを展開したシーンのものだった。

 「ISにはISを、だ。」

 「うん、分かるよ。分かるけど・・・誰に対して?」

 「オータムと呼ばれていた逃走者だ。」

 来栖が目を瞑り首をかしげる。

 「だから、そこなんだよ。ISを使う必要、あった?」

 自分の言動に辻褄が合わないところがあっただろうか。ラウラはしばし考える。

 すると来栖が別のファイルを開いた。

 『映像を送るかーー』

 「もうちょっと前か・・・。」

 『嫁からの情報だが、侵入者に入られた。犯人はISを自爆して逃走中。もし見かけたら情報を頼む。』

 オータムが逃走している動画。そこに記録されていた通信の内容を聞いて、ラウラはハッとした。

 「そうか、ISはなかったのか。・・・・・だが、待ってくれ。あの時、近くには私とセシリア以外のISの反応はなかったぞ。」

 コアネットワークでお互いの位置を知ることができることは、ラウラも当然知っている。

 「近くって何キロ圏内?」

 しかし、その具体的なところまで尋ねられると、ラウラは言葉に詰まる。

 元々ISは、宇宙空間で使用することを想定して作られたもの。例え北極と南極の距離ほど離れていても、大体の位置に当たりをつけること自体、難しいことではない。

 「恐らくだけど、敵はオータムを除いてあと二機はISを所持している。一機はこの近くに潜伏していて、もう一機は離れた場所から偵察をしていたんじゃないかな。」

 「ISを使うなと言ったのは、そのためか?」

 「あぁ。オータムの逃げ方は合流を考えている風がなかったからな。」

 そこで一旦、来栖は画面の整理を行う。

 「ここまで言っといてなんだけど、ISを使うことに問題はなかったんだよ。ただ、使い方が悪かったな。」

 「そうか?私が近接を担当して、セシリアが遠距離で待機する。定石じゃないのか?」

 「定石だ。だからこそ、この場面における解としては間違いだ。」

 定石と言っておきながら否定する。来栖の言葉に、ラウラはキョトンとする。

 「逆の立場で考えてみろ。狙撃タイプのISと、近接向きのIS。どっちが仲間の近くにいると思う。」

 確かかに言われた通りだ。盲点だったとラウラは反省する。

 「そうか。セシリアと逆にすればよかったのか。」

 「うん、それでもだいぶ違うけど、個人的には専用機持ちを広域に散開させての同時展開が望ましかった。そうすれば確率的に、どのISが追っているのかを敵に悟らせにくくできたからさ。」

 「そうか。そこまでは考えが回らなかった。」

 「そこまで自分で判断できるようになれば一流だ。本当は無線で言いたかったんだけど、なんせ戦闘機の無線じゃね。傍受が怖くて指示が出せなかったんだよ。」

 「何だ?盗み聞ぎしてたら面白そうな話をしてるな。ワシも混ぜろ。」

 「いいですよ。」

 「おい、諏訪!お前も入れ!」

 その後、柳原と諏訪を交え、二時間に渡り戦術について話し合った。




2021/05/25 一部改訂しました
2022/10/05 一部文章を改良しました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。